会計参与は、主に会計監査人が置かれていない中小企業を対象として、会計の専門家である公認会計士や税理士と言う国家資格者が、取締役や執行役と共同して、会社会計の正確性を実現するために導入された制度です。
近年は、以前にもまして、起業コンプライアンスの遵守が会社経営の重要事項に取り上げられ、また、コーポレートガバナンスの担い手の問題も脚光を浴びる事項になっていおり、会社の監査システムは社会の注目を集めています。
そこで、計算書類等の虚偽記載等を防止し、株主並びに社会一般に、会社の計算書類作成の透明性と正確性への信頼を目的とする会計参与制度が認められることになりました。
このページでは、会社法により、比較的新しく設けられた制度である会計参与とはどのような制度で、どんな権能や義務があるのかを説明します。
目次
会計参与設置の趣旨
会計参与の設置を会社法が認める背景には、施行当時多発した、企業の不祥事に対する対策や不祥事を未然に防止する観点があったと考えられます。会社の情報公開の正確性や透明性を担保する必要が重要な会社の問題として、にわかにクローズアップされた時代でもありました。
この問題を考えるにあたっては、マスコミで取り上げられる大企業ばかりに目が向くかもしれませんが、中小企業にとっても会計書類作成等の正確性を堅守することは、十分考慮すべき、今後の会社経営の中核理念となるべき重要な指針と言えます。
会計参与の選任資格は、公認会計士または税理士という会計の専門家に与えられています(法333条1項)。この会計参与選任資格要件は、会計に関する専門的な知識と経験を有する者を会社の内部機関として計算書類の作成に深く関与させることで、「主に中小企業等の計算の透明性や正確性を高める」と言う会計参与設置趣旨を、実務上も有効に実現するめに設けられた選任要件と言えます。
会計参与の意義
会計参与とは、取締役(委員会設置会社では執行役)と共同して、計算書類及びその付属明細書、臨時書類並びに連結書類を作成する会社の機関(会社法374条1項)です。会計参与の設置は、その設置を法的に強制されるものではなく、会社法の規定では、「株式会社は、公開・非公開の区別あるいは会社の規模等にかかわらず、任意に会計参与を設置する旨の定款の定めを置くことができる」(法326条2項)と規定するに留めています。
会計参与設置は、2006年に施行された会社法により新しく設置が認められた機関です。それ以前からの会社の計算(会計)の正確さを高める制度として、「会計監査人制度」が会社法上認められていますが、「会計監査人制度」は、あくまで、会社の内部機関が作成した計算書類の監査が職務です。これに対して、会計参与は、より直接的に、取締役や執行役と共同して、計算書類の作成にあたります。
会計参与の資格
会計参与の資格については、既に記載しましたが、会計参与の資格要件は、会計参与制度の趣旨に直接基づいているので、ここでもう一度詳しい要件も加味して整理してみます。
会計参与の資格は、会社法で、公認会計士もしくは監査法人または税理士もしくは税理士法人でなければならないと規定しています。この趣旨は、会計・税務の専門知識を有する国家資格者に会社の計算書類の作成に深く関与させ、もって、計算書類の正確性を高めることです。
また、監査法人または税理士法人を会計参与として選任した場合は、その法人の社員の中から会計参与の職務を行うべき者を選定し、これを会社に通知する必要があります(法332条2項)。
更に、株式会社またはその子会社の取締役、監査役もしくは執行役または支配人その他の使用人である者は会計参与になることはできないとする、「兼任禁止の規定」の条項もあります。これは、会計監査人は、会社の計算(計算書類の作成)について正確性を高める趣旨で設置されるため、その独立性が十分確保され、信頼性が担保される必要があるからです。
会計参与は、言わば会社の社外取締役のような立場で、会社の計算書類作成に深く関与するので、当該会社の従業員・役員はもちろん、子会社の取締役、執行役、更に、それらの者の指揮命令下にある者の使用人の兼任は禁止されています(法331条3項1号)。当該会社の監査役および当該会社の会計監査人との兼任も禁止です。
これは、会計参与の監査が、自己監査にならないように設けられた要件です。
会計参与の選任・解任
会計参与の選任・解任の要件は、取締役の場合と同様(法329、339条)なので、株主総会の普通決議によって選任・解任を行う事ができます。監査役のような特別決議によらなければ解任できないとする規定(法309条2項7号)は、会計参与には存在しません。また、監査役の選任・解任規定では、監査役の同意が必要とされていますが、会計参与にこのような規定はありません。
会計参与の任期・員数
会計参与に任期は、取締役の任期に関する会社法上の規定(法334条1項)が準用され、正確に言えば、原則として、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までで、例外として、非公開会社においては、定款の定めにより任期を10年まで伸長することが可能です。
なお、非公開会社の会計参与の任期は、取締役の任期と連動させる必要はなく、最長10年の範囲内まで伸長できるとする考えが通説です。
員数については、会社法上に規定はなく、定款に特別の定めがない場合は、1人以上であれば良く、会社法上や定款の定める会計参与の員数が欠けた場合の措置は、取締役と同様(法346条)です。
会計参与の職務・権限
会計参与は、以下に掲げる5つの職務・権限を有しています。
1.会社法は、会計参与の職務について、「取締役(委員会設置会社においては執行役)と共同して計算書類及びその付属明細書、臨時計算書類ならびに連結計算書を作成する」と規定しています(法374条1項、6項)。また、会計参与は、法務省令(会社則102条)の定めるところにより、会計参与報告を作成する義務があります(法374条1項)。
2.会計参与は、いつでも、取締役、支配人その他の使用人に対して、会計に関する報告を求めることができます。また、これに関する資料の閲覧・謄写ができます(法374条2項)。更に、その職務を行うために必要がある時は、子会社に対し会計報告を求め、財産調査を行う権限もあります(374条3項)。
3.会計参与は、その職務を行うに際して取締役の職務執行に関し不正の行為又は法令・定款に違反する重大な事実を発見した時は、遅滞なく株主、監査役会等に報告しなければなりません(375条)。
4.会計参与は、計算書類及びその付属明細書、臨時計算書類ならびに連結計算書の承認をなす取締役会に出席し、必要があると認める時は、意見を述べなければなりません(367条1項)。上記に掲げた書類に関して会計参与と取締役・執行役の意見が異なった場合は、計算書類作成ができないので、会計参与は、株主総会で意見を述べる権限を持っています(377条)。
5.会計参与は、各事業年度に係る計算書類及びその附属明細書並びにその作成に関する会計参与報告について、定時株主総会の日の1週間(取締役会設置会社では2週間)前の日から5年間、臨時計算書類およびその会計参与報告については、その書類を作成した日から5年間、会計参与が定めた場所(登記事項)に据え置く必要があります。
この制度趣旨は、計算書類を会社の本店・支店意外にも据え置き開示することで、株主の便宜を図り、取締役等の改ざんを防止することにあります。
会計参与と会社の関係について
会計参与と会社の関係は、委任に関する規定(法330条)に従います。会計参与は、会社に対し、善良な管理者の注意をもって、その職務にあたる必要(善管注意義務)があります。
会計参与の報酬は、定款に定めのない時は、株主総会の決議で、取締役、監査役、等の報酬と別個に定め、また、会計参与は、報酬について株主総会において意見を述べることも認められています(法387条)。この理由は、会計参与が、会社の計算書類等の作成等に関する権限につき、取締役等から独立性を有し、報酬を確保する必要があるからです。