企業にはそれぞれが独自に定めた決算月が存在します。決算月は、企業の業績などを集計する会計期間の最終月を指しますが、企業にとっては1年間の企業業績の集大成となる月であるため、とても重要な意味を持ちます。今回は決算月にフォーカスをあてて、決算月の基本的な決め方や12月決算にするメリット、決算書の読み方まで詳しく説明します。
1 決算月の決め方
決算月は企業の経営成績を集計する期間の最終月で、それぞれの企業が独自に決算月を決めることができます。まずは具体的な決算月の決め方について詳しく確認してみましょう。
1-1 決算月は任意で決定できる
決算月は企業ごとに独自に定めることが可能です。また、決算日は月末に限らず15日や20日のような日付で決定することもできます。例えば、1月15日や3月20日などを決算日として定めることももちろん可能です。ただし、月末以外を決算日として定めた場合には税法などの法律の適用時期がややこしくなることも多いため、月末以外を決算日として定める企業はほとんどありません。よって、ここから説明する決算月についても月末を決算日とする前提で話を進めていきます。
会社設立の際はまず決算月を決める必要があります。そして、決算月を決めたら定款に記載することが一般的です。また、この決算月は法人税などを集計する会計期間の最終月になるので、開業の際には所轄の税務署へこの決算月などを事業年度として記載した「法人設立届出書」を設立から2か月以内に提出しなければなりません。この事業年度について捕捉となりますが、法人税法では12か月の範囲内であれば任意で事業年度を定めることが可能です。つまり、6か月を事業年度として、毎年3月と9月を決算月とすることも理論上は可能ですが、決算の処理が煩雑なことなどを理由に多くの企業が最長の12か月(1年間)を事業年度として定めています。
1-2 決算月は変更も可能
企業が任意で決めた決算月は後から変更することも可能です。3月が決算月の企業が12月へ決算月を変更することもできますが、この際には法人税法の12か月を超えない範囲で変更するタイミングを決定しなければなりません。例えば、1月の時点で決算月を3月から12月に変更する場合は、一度3月でその前年の4月からの決算を行い、その年の4月から12月までの9か月でもう一度決算を行う必要があります。3月で決算を行わない変更は、前年の4月からその年の12月までの21か月が事業年度となってしまうため不可能です。
決算月を変更するためにはいくつかの手続きが必要となります。まずは、定款に記載された事業年度を変更するために株主総会を開催し、特別決議で定款変更を決議することが必要です。株主総会の手続きが終わると定款を変更しますが、事業年度は定款に必ず記載しなければならない登記事項ではないため法務局への届け出等の手続きは不要です。あとは、所轄の税務署や県税事務所、市町村などに事業年度を変更した異動届けを提出すると決算月変更に必要な手続きは完了します。もちろん、従業員や取引銀行などの関係者には決算月変更を知らせなければ実務上の処理に多大な影響が出るため、こちらも忘れないように行ってください。
1-3 日本で最も多い決算月は3月
ここからは、何月を決算月と定めている企業が多いかを確認してみましょう。平成28年度版の国税庁統計年報では以下のような統計結果が報告されています。
(出典:国税庁WEBサイト)
この平成28年度の統計調査では3月決算の企業の割合が最も多く、税務申告を行っている企業全体の約19.1%です。3月決算の次に申告が多い決算月は9月と12月で、それぞれの割合は10.9%と10.1%になっています。それでは、なぜ3月決算の企業が全体の5分の1を占めるほど多くなっているのでしょうか。主な理由は以下のものが挙げられます。
・国や地方自治体などの官公庁の事業年度に合わせるため
日本では国や地方自治体をはじめとする官公庁のほとんどが4月から翌年3月までの1年間を事業年度として定めています。公共事業を受注している企業やその下請けとなる企業が決算年度を合わせているため3月決算の企業が多くなっています。
・日本の教育年度に合わせるため
日本では公立私立を問わずにほとんどの学校が4月から翌年3月を教育年度として定めています。そのため、新卒採用を行う企業などは新入社員の入社などの人事政策的観点から3月を決算月と定めることもあります。
・法律の改正に対応するため
税法を含めた法律の改正が行われる場合、改正法の施行時期が4月1日となるケースが多くなっています。そのため、同一事業年度で複数の法律解釈により発生する実務上の煩雑さを避けるために3月を決算月と定める企業もあります。
・総会屋対策のため
最近はあまり総会屋という言葉も聞かなくなりましたが、昔は総会屋対策のために3月決算とする上場企業なども少なくはありませんでした。総会屋はその企業の株式を保有している株主ではありますが、株主総会に出席して株主総会を妨害するなどして不当に利益などを要求するものです。その総会屋の出席を分散させるために、株主総会集中日といわれる多数の企業が同じ日に株主総会を開催する日に自社の株主総会を開催するため、決算月を3月と定める企業もありました。
1-4 決算月を決めるポイント
決算月は企業が任意に決めることができますが、適当に決めてしまっては実務上の障害が発生することもあるので注意が必要です。その企業の事業内容や形態によって適した決算月がありますので、ここからは決算月を決めるポイントについて細かく見ていきましょう。
①利益計画を立ててそれを実行できる時期
決算月を決める上で最も重要なことはその企業の利益計画を立てて、それを無理なく実行できる時期に決算月を定めることです。例えば、事業年度の終りである決算月に多くの利益が発生すると、その利益に見合った設備投資や費用の支出などを計画・実行できる時間がないため、無用に多くの税金を支払うことになります。これが、事業年度の始めの時期であれば、その後の売上などに合わせて適切な設備投資や経費使用をすることで合法的に節税しながら納税を減らすことが可能です。つまり、季節要因などで毎月の利益が大きく変動する企業は、大きく利益が計上される時期を事業年度の始まりとして決算月を決めると利益計画をコントロールしやすくなります。
②納税資金など資金繰りとの兼ね合い
企業は事業年度が終わるとその2か月後に法人税や都道府県民税、市町村民税などの税金を計算した申告書を提出しなければなりません。そして、それらの税金の納付期限は申告書の提出期限と同じ事業年度の最終日から2か月後です。この税金の納付期限に資金が不足していると、銀行などから借入して余分なコストが発生します。また、どうしても納税資金を調達できない場合には税金を滞納することとなり、延滞税といわれる支払いの遅れた期間に応じてかかる利息も支払う必要があるのです。最悪のケースでは納税ができないことによって差し押さえなどが行われ、企業としての事業を継続できなくなることもあります。このような事態に陥らないためにも、決算月は納税資金の準備できる月で決定しなければなりません。
③事業の繁忙期を避ける
企業が決算を迎えると、事業年度が終了してからその2か月以内に税金関係の申告書を作成して申告しなければなりません。また、納税についても申告書の提出期限と同じで決算日から2か月以内に行わなければなりません。これら決算書の作成や納税の資金準備・手配には手間も時間もかかるものです。事業の繁忙期と重なると企業運営に支障が出ることもありますので、なるべく繁忙期は避けて決算月を決める必要があります。
④開業時には消費税の免除期間など税法上の特典を利用できる
新たに資本金が1,000万円未満の法人を設立した場合は、最初の2期について消費税の納税義務が免除される特典があります。この特典を利用できる新設法人は、最初の事業年度が長ければ消費税の免除期間(最長2年間)も長くなるので、それを踏まえて決算月を決める必要があります。例えば1月に開業した場合、決算月を3月にすると免除期間の1期目が3か月間になりますが、決算月を12月にすると免除期間が12か月間となり2期目と合わせると最長で2年間免除期間の特典を受けることが可能です。
2 決算とは?
これまで決算月の決め方について説明してきましたが、決算とは具体的にどのようなことを行うのでしょうか。ここからは決算について、決算時に行う処理や決算の目的についても確認してみましょう。
2-1 決算とは?
決算とは一定期間の経営成績や決算日における財政状態を数字で表す作業になります。この一定期間は会計期間とも呼ばれ、期首から決算日までの期間を指すものです。一般的な年1回決算の企業では、決算日の翌日から次の決算日までの1年間がこの会計期間に該当します。
通常、企業では会計という手法で1年間の活動を帳簿などに記載して記録します。これらの活動の記録をもとに決算の時に作成される書類は複数ありますが、その書類の中でも代表的なものは以下の2つです。
損益計算書(P/L)…会計期間における経営成績を表した書類
貸借対照表(B/S)…決算日である会計期末時点の財政状態を表し書類
これらの書類の作成から、納税などに必要な確定申告書などを作成する一連の処理を決算処理といいます。
2-2 決算時に必要な処理(決算整理)
企業の活動は日常的に帳簿などに記録されていますが、その記録を集計するだけでは会計期間における適正な期間損益を把握することができません。そこで必要になるのが決算整理と呼ばれる決算処理です。決算整理は、会計期間に応じた適正な期間損益を計算するために以下の2つの処理を主に行います。
- 帳簿に記載された取引のうちその会計期間に対応しないものを省く
- 帳簿に記載されていないがその会計期間に含まれるべきものを加える
ここからは具体的な決算整理について例を挙げて確認してみましょう。
・減価償却費の計上
企業が購入した建物や機械などの固定資産は帳簿上その購入のみが記録されています。つまり、購入に要した現金が減って購入した資産が増えたことだけが記録されているのです。しかし、固定資産は減価償却という方法で税法に定められた範囲内でその償却費を費用化することができるので、その処理を行わないかぎり減価償却費が期間損益に反映されることはありません。そこで、決算整理として減価償却費を帳簿上に記録することで、はじめて建物や機械の償却費が費用化されて期間損益に反映されるのです。
・費用と収益の見越しや繰り延べ
費用と収益はその会計期間内に発生したもののみを記録しなければなりませんが、実務上はその記録にずれが生じることもあります。例えば、12月決算の企業が7月から1年分の事務所家賃を前払いした場合は、その支払いをした時点で1年分の家賃を全て計上することが一般的です。しかし、1年分の家賃のうち翌年の1月から6月分については来期に費用計上されるべきものであって、その年に費用を計上することは期間損益の観点から不適切です。そこで、来期に費用化すべき家賃を当期の帳簿から省く決算整理を行うことで、当期の期間損益は適正に反映されます。
2-3 決算の目的
決算の目的は大きく分けて二つあります。まず一つ目が、損益計算書や貸借対照表などの財務諸表と呼ばれる計算書類を作成して、利害関係者にその企業の経営成績や財政状態を報告することです。ここでいう利害関係者は株主や債権者、投資家や徴税を行う国などを指しますが、それぞれの利害関係者はそれぞれ異なる以下のような目的で経営成績や財政状態の報告を必要とします。
株主…株主として出資している企業の経営成績を把握し、配当などが適正に行われているかを確認するため。財務状況等も含めた経営成績によっては、配当性向の高い企業に追加で出資することも検討できます。
債権者…既に融資した貸付金などが契約通り返済されるかどうかを判断するため。
投資家…これから新規に投資を行う企業がその投資に見合った価値があるかどうかを判断するため。
国など…国や地方公共団体などの徴税当局は適正な税額計算が行われていることを確認するために報告を必要としています。一般の利害関係者に報告する財務諸表以外に決算申告書などの決められた書類を提出する必要があります。
決算のもう一つの目的は、経営者や経営管理に携わる従業員などの企業内部の人が経営に活かせる情報を集約することです。これは管理会計とも呼ばれますが、企業の経営管理に必要な以下のような情報を得るために決算が行われます。
・原価計算
標準原価計算などの手法を用いてより正確な原価の管理を行います。目的によって、原価低減ができるような報告資料なども作成し、適正な原価管理に役立てます。
・予算実績管理
計画していた売上や経費などが、計画通り実行できているかを検証するために予算実績管理を行います。予算実績管理の範囲は、売上代金のようにお金の単位で集計するものだけでなく、販売数量や生産実績のように個数や時間で集計するものも含まれていて、幅広く企業の運営状態を把握するために活用することができます。
・各種経営分析
経営指標などをもとに収益性や効率性、生産性、成長性などを数値化して経営判断に活かす分析手法です。売上の採算のように細かな観点から、資本が有効活用できているかなどの大局的な情報まで、様々な観点から適正な経営判断ができるように経営分析表などを作成します。
以上のような二つの大きな目的のために決算は行われます。
3 12月決算にするメリットとデメリット
日本の企業では3月決算が最も多いということは先述の通りです。そのような中で12月決算にするメリットとはどのようなことがあるのでしょうか。ここからは本題である12月決算にするメリットやデメリット、12月決算にするかどうかの判断について詳しく説明していきます。
3-1 12月決算のメリット
12月決算にするメリットは大きく次の2点が挙げられます。
①国際会計基準に合わせた会計期間
12月決算にする一番のメリットは最も国際会計基準に合った会計期間になることです。国際会計基準とは、ロンドンを拠点とする国際会計基準委員会(IASB)が認定する会計基準のことで、ヨーロッパをはじめとする世界各国で採用されています。世界各地の大きな資本市場ではアメリカと日本だけがこの会計基準を採用せず、独自の会計基準を用いている状況です。
そのような状況の下、国際会計基準を採用している国の企業はほとんどが12月決算になりますが、国際会計基準では連結する親子会社の決算期が異なることを基本的に認めていないため、日本の3月決算の企業との連結財務諸表を国際会計基準で作成することは非常に困難です。12月決算に変更することで国際会計基準に基づいた連結財務諸表作成などの処理も可能となり、海外での資金調達なども円滑に行うことができるようになります。
②個人事業主が法人化する場合の事務の煩雑化防止
企業の決算月は任意で決定できますが、個人事業主が納める所得税は暦年課税となっており、その会計期間が1月1日から12月31日までと定められています。そのため、個人事業主の決算月は常に12月です。その個人事業主が法人化する場合に同じ12月を決算月とすると、これまでと変わらない時期に決算月を迎えることとなるので、例年のペースで決算処理を行うことができます。
もちろん、法人化することで決算処理自体は大きく変わりますが、決算月自体が変わると事務処理のペースが変わり、最初の数年間は事務処理が煩雑になることが容易に想像できます。このようにならないよう、法人の開設時には個人事業主と同じ12月を決算月として選択することもメリットの一つです。
③4月からの新規事業に向けて銀行融資などの準備がしやすい
官公庁などの事業年度は4月から翌年3月です。また、多くの企業が3月を決算月としているため4月から新事業年度が始まります。これらの官公庁や企業に対して新規事業を行うためには4月からまとまった資金が必要となることも少なくありません。このような場合、融資してもらえる状況であることが前提となりますが、12月を決算月にすると4月からの資金調達を円滑に行うことが可能です。スケジュール的には、12月決算の企業は2月末には決算申告書が完成するので、翌3月中に金融機関との折衝が終われば4月からの資金調達は余裕を持って準備することができます。
3-2 12月決算のデメリット
12月決算にするデメリットは以下の2点が挙げられます。
①年末要因で稼働日数が少ないこと
12月決算にするデメリットの一つに年末要因で稼働日数が少なくなることが挙げられます。飲食店や小売業などを除く一般の企業では年末を休業日とすることが多く、決算期末も休日にあたることがほとんどです。稼働日数が少なくなることで決算月の処理を行う時間が少なくなり煩雑になることはデメリットになります。
また、決算月後の2か月間は確定申告書の作成などで事務処理が煩雑になることは想像できますが、決算月もその月内で完了させなければならない節税対策などもあるため稼働日数が少なくなることは事務処理の面から大きなデメリットの一つです。
②繁忙期に該当することが多い
12月は取引先なども繁忙期に該当することが多く、月内に完了させたい取引がなかなか進まないというデメリットがあります。また、決算書の作成を会計事務所などに依頼する場合でも、個人の確定申告期間(例年2月16日から3月15日)と重なっており会計事務所やその担当者が忙しいために連絡がとり難い状況になるものです。また、企業の内部でも給与所得の年末調整や1月の償却資産税の申告などで事務処理が煩雑になる時期なので、思ったように決算月の社内処理が進められないというデメリットもあります。
3-3 12月決算にするかどうかの判断
12月決算にするかどうかは、上述のメリットやデメリットも考慮して判断する必要があります。海外との取引がある企業や今後の海外進出を計画している企業は、国際会計基準も視野に入れた12月決算とすることで今後の海外との取引や資金調達が円滑になり、幅広い事業展開を行うことも可能です。
また、1月から3月頃に決まって大きな利益が上がる企業も12月決算とすることで余裕を持った節税対策や資金繰りができます。これらのメリットに対して稼働日数が少ないことや繁忙期といったデメリットの方が少ないようであれば12月決算にすることがその企業にとって良い判断です。ただし、他の月を決算月にする方が最良となるケースもあるため、決算月を決めるためには全ての月を選択肢から排除せずに検討することをお勧めします。
3-4 12月決算企業の例
12月決算の企業は大変多くなっていますが、その中には国際会計基準に合わせるために最近12月決算に変更した企業も含まれています。東証一部に上場している12月決算の主な企業以下の通りです。
- アサヒグループホールディングス
- JT
- LINE
- 電通
- 花王
- 資生堂
- 東洋ゴム工業
- 旭硝子
- クボタ
- キャノン
主要な10社の社名を挙げましたがご紹介したのは12月決算の企業のほんの一部です。現在、東証一部だけでも230社を超える企業が12月決算となっています。その中でも、花王と東洋ゴム工業は国際会計基準に規定されている連結会社の決算期統一のために最近決算期を12月へと変更しました。
ここからは、花王の決算期変更について詳しく確認してみましょう。花王は従来3月が決算月の企業でした。それを12月決算に変更するために平成24年4月1日から開始した会計期間を平成24年12月31日までの9か月間に短縮しました。そして、平成25年以降は1月1日から12月31日までの1年を会計期間としたのです。これにより花王は12月決算に移行しましたが、その後、花王の連結子会社も12月以外が決算月の企業は同様の変更を行っています。このように、上場企業では国際会計基準との関係で今後12月決算にする企業が増えていくのではないかと予想されていますが、日本での国際会計基準の強制適用はまだ見送りとなったままで、先行きについては不透明なままです。
4 基本的な決算書の読み方
ここまでは決算月や決算について確認してきました。ここからは、決算処理で作成される決算報告書の基本的な読み方について分かりやすく説明していきます。
4-1 代表的な決算書である損益計算書と貸借対照表
決算処理では様々な決算書を作成しますが、会計期間の経営成績を表す損益計算書と期末時点での財政状態を表す貸借対照表は代表的な決算書です。損益計算書と貸借対照表はそれぞれ企業分析の上で最も重要な書類の一つとなっていて、これらを読み解くことで企業業績などの情報をある程度把握することもできるようになります。まずは、損益計算書と貸借対照表のひな型を確認しながらそれぞれの決算書がどのようなことを表しているのか確認してみましょう。
A.損益計算書(P/L)
損益計算書は会計期間における経営成績を表す財務諸表で、英語のProfit and Loss StatementからP/Lと略して表示されることもあります。この損益計算書の重要な役割は、その会計期間でどれだけ利益または損失が発生したかを報告することです。それでは、下記の損益計算書のひな型を確認しながらそれぞれの記載項目を説明します。
・売上高
商品や製品の販売、サービスの提供により得た代金の総額を売上高として表示します。この売上高には本業として行っている事業の売上のみが計上されます。
・売上原価
売上高に直接対応する仕入にかかった費用や製造原価、サービスの提供のための人件費などが売上原価として計上されます。
・売上総利益
売上高から売上原価を引いたものを売上総利益として表示しています。この売上総利益は「粗利」とも呼ばれ、本業の売上に対する原価の割合などを示す利益です。
・販売費及び一般管理費
商品や製品の販売、サービスの提供に要した費用を販売費及び一般管理費として表示します。具体的には、商品や製品を販売するために要した営業マンの給与や交通費、本社の管理部門の費用などのように、売上原価に含まれない売上に要した費用を集計した項目です。
・営業利益
営業利益は売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた利益で、企業の営業活動などの主たる活動から発生する儲けを表しています。
・営業外収益
営業外収益は企業の主たる営業活動以外から経常的に発生する収益です。例えば、預金利息や保有している不動産の賃料収入等が営業外収益に該当します。ただし、不動産の賃貸などを本業にしている場合は賃料収入が本業の売上となるので売上高に含まれます。
・営業外費用
営業外費用は企業の主たる営業活動以外から経常的に発生する費用です。金融機関からの借入に伴う支払利息や売上割引などが営業外費用に該当します。
・経常利益
経常利益は、営業利益に営業外収益を足して、そこから営業外費用を差し引いて計算される利益です。この営業外収益や営業外費用は、企業の売上をあげるために行う営業活動と直接関わるものではありませんが、企業活動を続ける中で経常的に発生する収益や費用のことを指します。
・特別利益
通常の企業活動の範囲外で特別な要因によって偶発的に発生した利益を特別利益といいます。固定資産を売却した際に発生する固定資産売却益や、保険金給付を受けることにより帳簿上利益が発生する保険差益などがこの特別利益に該当するものです。
・特別損失
特別利益と同様に、通常の企業活動の範囲外で特別な要因によって偶発的に発生する損失を特別損失といいます。災害により損失が発生した場合の災害損失や固定資産の売却により帳簿上損失が発生する固定資産売却損などがこの特別損失に該当します。
・税引前当期純利益
税引前当期純利益は、経常利益に特別利益を加えて、その後特別損失を差し引いて計算される利益です。この特別利益や特別損失は、偶発的に発生した経営成績に大きな影響を与える利益や損失を必ず計上することとなっています。つまり、税引前当期純利益は偶発的に発生した一時的な事象も含めた企業の経営成績を表した利益です。
・法人税、住民税及び事業税
法人税、住民税及び事業税は損益計算書の会計期間で会社が負担すべき法人税などの税金の総額を表示するもので、法人税等と略されることもあります。この法人税、住民税及び事業税は、国税である法人税と地方税である法人住民税(都道府県や市区町村に納付)、法人事業税の合計額です。
・当期純利益
当期純利益は税引前当期純利益から法人税、住民税及び事業税を差し引いた利益です。税金の支払いを考慮した最終的な利益額が記載されています。
B.貸借対照表(B/S)
貸借対照表は決算日時点での資産や負債、純資産などの財政状態を表している財務諸表です。英語のBalance Sheetという言葉からB/Sと呼ぶこともあります。この貸借対照表は決算日時点での投下資本の運用状況(資産)と資金の調達源泉(負債と純資産)を表す財務諸表です。それでは、以下の貸借対照表の簡単なひな型を参考にしながら貸借対照表について確認してみましょう。
・資産の部
資産の部では、その企業が保有している資産が漏れなく記載されています。この資産の部は大きく流動資産と固定資産とに区分されていますが、その区分を行う基準が「正常営業循環基準」と「1年基準」です。「正常営業循環基準」とは通常の営業活動に伴う商品や資材などの代金回収のサイクルのことを指し、その循環に当てはまる売掛金などは流動資産として計上します。もう一方の「1年基準」は、1年以内に入金や支払いが見込まれるものを流動資産として扱うルールです。これらの二つの基準に従って流動資産の分類を行い、どちらにも当てはまらない資産は最終的に固定資産に分類されます。
a.流動資産
流動資産には現金預金や受取手形、商品などのように実際に形がある資産だけでなく、売掛金のような近い将来売掛代金を回収できる権利も含まれます。また、流動資産は、当座資産と棚卸資産、その他流動資産の3つに細分化することができ、流動資産の記載順もこの順番で行われるのです。この例では、現金預金と売掛金、受取手形が当座資産に分類され、商品は棚卸資産に分類されます。今回の例ではその他流動資産は記載されていませんが、当座資産と棚卸資産に該当しない短期貸付金などがその他流動資産に分類されます。
b.固定資産
固定資産は流動資産と異なり簡単に現金化できない資産であることが特徴です。この固定資産も有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産の3つに細分化されます。なお、例の建物、土地、機械装置は全て有形固定資産に分類されますが、特許権や商標権、ソフトウェアのような形のない資産は無形固定資産です。投資その他の資産には長期で保有する関連会社の株式などが該当します。
・負債の部
負債の部は他人資本とも呼ばれ、主に株主以外の他人から調達した資金を表しています。負債の部では資産と同様に「正常営業循環基準」と「1年基準」に基づいて流動負債と固定負債の区分が行われるのです。
a.流動負債
流動負債に記載されている勘定科目では、買掛金が「正常営業循環基準」により流動負債に区分され、支払手形と短期借入金は1年以内に支払の期限が到来するものとして「1年基準」に基づいて流動負債に区分されています。
b.固定負債
「正常営業循環基準」と「1年基準」に該当しないものは固定負債に分類されます。例に出ている長期借入金の他に償還期間が1年を超える社債や退職給付引当金などが固定負債に分類される負債です。
・純資産の部
純資産の部は、株主から調達した資本金と過去の利益の積み立てにあたる利益剰余金などから構成されています。負債の部に記載されている借入金などと違い、返済する必要のない自己資本であることが大きな特徴です。この貸借対照表では、資産の部の合計から負債の部の合計を差し引くと純資産の部の合計と一致することが大原則となっています。この純資産の部の合計がマイナスになると債務超過の状態と判断されます。
4-2 基本的な決算書の読み方
ここからは損益計算書と貸借対照表の基本的な読み方について確認します。まずは、上記4-1と同じ損益計算書と貸借対照表のひな型を確認しながら、それぞれの決算書が何を表しているのかを確認してみましょう。
A.損益計算書(P/L)
損益計算書では黄色塗りで表示されている5つの利益に注目してください。それぞれの利益は発生源泉(どのような取引からその利益が発生しているのか)を表しているため、その企業の収益力を細かく読み解くことが可能です。
・売上総利益
売上総利益は企業の本業である製品や商品の売上、サービスの提供などで稼いだ利益です。この売上総利益からは粗利率や原価率をもとに企業の本業における競争力や収益力を読み取ることができます。
a.粗利率
売上総利益を売上高で割った数値を粗利率と言い、この例では2,000万円÷5,000万円×100=40%です。この粗利率は売上に占める利益の割合を示す数値で、高ければ高いほど製品や商品などの競争力が高いと判断することができます。また、この粗利率は業種ごとに大幅に数値が異なるため、同業同士で比較すると競争力の高さが顕著に表れる数値となっているのです。
b.原価率
原価率は売上に対する原価の比率を表す数字で、この例では3,000万円÷5,000万円×100=60%です。この原価率も業種によって大きく数値が異なり、製造業や小売業などは原価率が高い傾向にあり、インターネット事業などのサービス業は原価率が低くなるのが一般的です。製造業などでは同業種を比較することで同じような製品を製造している企業の本業における収益力も比較することができます。
・営業利益
営業利益は本業である営業活動の状況を表す利益で、高ければ高いほど営業活動が順調で企業の収益力が高いことを意味します。この営業利益は企業の状況の判断を行う上で最も重要な利益の一つであり、営業利益がマイナス(営業損失)の企業は本業で稼ぐことができない企業というレッテルを貼られることとなるのです。この営業利益を用いた売上高営業利益率という指標からは本業でどれだけ稼いでいるかを読み取ることができます。上記の例における売上高営業利益率は以下の通りです。
売上高営業利益率=営業利益÷売上高×100=1,000万円÷5,000万円×100=20%
この数字が高ければ高いほど本業で効率よく稼いでいることを表しています。
・経常利益
経常利益は通常の企業活動を行っていく上で発揮される収益力を表す利益で、本業以外の財務活動なども含めた資金面に関する状況も表している利益です。この経常利益は毎期反復して行われる企業活動から発生する利益なので、その企業自体の稼ぐ力を表す利益になります。ただし、毎年の経常利益は黒字でも営業利益が赤字の企業には注意が必要です。これは、本業で利益をあげられていないことを表しているので、経常利益が常に黒字でも今後事業を継続していく上で肝心な本業での業績が見込めない企業という判断を行うことができます。
・税引前当期純利益
税引前当期純利益は偶発的に発生する一時的な利益の増減要因である特別損益が考慮された利益です。そのため、経常利益が大幅な黒字の場合でも特別損失によって税引前当期純利益がマイナス(純損失)となることもあります。このように大幅に企業の利益が変動する要因は特別利益や特別損失の項目に記載されているので、その内容で今後の見通しも含めた判断を行うことが必要です。例えば、業績が堅調な企業でも災害等により大きな損失が一時的に計上されることもあります。このような場合は、災害による損失が今後の事業に影響を及ぼすかどうかを決算書以外の情報も含めて総合的に判断することが必要です。
・当期純利益
当期純利益は会計期間における収益から法人税等も含めた全ての費用を差し引いた最終利益です。営業利益や経常利益ほど重要視されることはありませんが、その企業の会計期間における最終的な経営成績を表した利益になります。
B.貸借対照表(B/S)
貸借対照表からも多くの情報を読み取ることができますが、それぞれの項目だけを見るのでは得られる情報も限られてきます。そこで、今回は貸借対照表に関係の深い主な分析指標から貸借対照表の読み方を確認してみましょう。
・流動比率
流動比率=流動資産÷流動負債×100=2,200万円÷2,000万円×100=110%
この流動比率は企業の支払い能力を測る指標としてよく用いられています。流動比率が高ければ支払い能力のある企業、流動比率が低ければ支払い能力のない企業という判断です。一般的に、この流動比率は150%を越えていると優良とされる水準で、100%を下回っていると実際の資金繰りにも影響が出るレベルとなり危険水域と考えられます。例の企業は110%なので優良な水準ではありませんが、資金繰りに改善の余地がある企業だと読み取ることが可能です。
・当座比率
当座比率=当座資産÷流動負債×100
=(500万円+600万円+800万円)÷2,000万円×100=95%
この当座比率も流動比率と同様に企業の短期的な支払い能力を図る指標として用いられます。流動比率と異なり、現金化しにくい棚卸資産などを除くことで、その企業の手元資金による支払い能力をより詳細に把握できる分析指標です。一般的には90%から100%が合格ラインだと考えられているので、この企業は流動比率と同様に水準レベルの支払い能力を有する企業だと判断することができます。
・固定比率
固定比率=固定資産÷自己資本×100=9,700万円÷7,900万円×100=122.8%
この固定比率は長期的な企業の安全性や健全性を判断する指標です。設備投資を返済のない自己資本で賄えていれば借入金などの必要が無くなることから、この数値は小さければ小さいほど長期的に安全であると考えられます。一般的に100%以下であれば株主からの資金調達とこれまでの利益積立金の範囲内で設備投資を行っているので優良だと考えられる水準です。今回の例の企業は100%を大きく上回っているので、要改善のレベルだと判断することができます。
・自己資本比率
自己資本比率=純資産÷総資本(流動負債、固定負債、純資産の合計額)×100=7,900万円÷(2,000万円+2,000万円+7,900万円)×100=66.4%
自己資本比率は、全ての資本(総資本)に対して返済の義務のない自己資本がどの程度あるかを表す指標です。この数値が高いほど自己資本の割合が多いため、借入金などの他人資本の返済負担が少ないことや、それらに掛かる利息などの費用が少ないと判断できます。主に財務基盤の安定性を判断する指標です。一般的に自己資本比率が40%以上であれば財務基盤の安定した倒産しにくい企業だと考えられるので、この企業は66.4%なので財務基盤の健全な企業だと判断することができます。
4-3 目的によって異なる決算書の見方
決算の目的の一つである決算書は、様々な利害関係者に対してその企業の経営成績や財政状態を報告するための書類です。しかし、その決算書は特定のものを除いて一定の書式で提供されます。そのような中で、それぞれの利害関係者は自身に必要な情報を読み解く必要性があるのです。ここからは、それぞれの利害関係者の目的に合わせた決算書の見方を確認してみましょう。
・株主や投資家
株主や投資家にとっては既に出資している企業やこれから出資しようとする企業の経営成績が一番の関心ごとです。まず、確認しなければならないのが営業利益や経常利益といった企業の稼ぐ力です。営業利益や経常利益が黒字であることはもちろんですが、昨年や一昨年の損益計算書も手に入れてその成長度合いを正確に把握しなければなりません。株主や投資家は株価が上がることや配当が出ることではじめて利益が生まれるので、今後の成長力も加味して業績の判断を行うことが必要不可欠です。また、配当を実行できるだけの財務的健全性を備えているか、当座資産があるのかどうかも確認しておく必要があります。
・債権者や金融機関
債権者や金融機関の最大の関心は、既に実行している融資が回収可能かどうかということです。もちろん、これから新規で実行する融資についても回収可能性を考慮しながら貸出利率の決定などを行わなければなりません。そこで、見なければならないポイントは大きく2つあります。まずは1つ目のポイントは、融資を実行しているまたは新規で実行する企業が収益力のある企業かどうかです。
そのためには、損益計算書の営業利益や経常利益が融資水準に達しているかどうかを確認する必要があります。また、利益が出ている企業でも、キャッシュフロー計算書などを併用して融資の返済余力があるかどうかも併せて確認しなければなりません。2つめのポイントは、融資を返済できるだけの財務的健全性が保たれているかどうかを確認することです。これは、上述の当座比率や固定比率などを把握することである程度の確認を行うこともできますが、資産や負債の内訳も詳しく分析してその時々に応じた判断を行う必要があります。
ここまで、決算月や12月決算にするメリット、決算書の読み方について確認しましたが、いかがでしょうか。特に、企業は決算月を任意で決められること、12月決算にするにはメリットもデメリットも存在することは重要なポイントになるので十分留意してください。