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不動産投資事業を法人化する場合の決算期

これから不動産投資事業を始めるかすでに個人で行われている場合に、法人化を検討される方は多いと思います。
事業を法人化すると、個人で行う場合と比べ税制上有利になる、社会的な信用度が増すなどのメリットが考えられます。
しかし、実際の法人化にあたっては、事業年度や決算期を決めなければならず、なにを基準に設定すべきか悩んでしまいます。
さらに、決算書の読み方やポイントも理解しておく必要があり、法人化のハードルは意外に高いようにも思えます。
ここでは、不動産投資事業を法人化する場合の決算期の決め方、また、決算書の見方などについて説明します。

 

 

1 不動産投資の法人化における決算期の決め方

企業活動において、事業年度や決算期の設定は重要ですが、その決め方に悩むところでもあります。
ここでは、不動産投資事業を法人化する場合のメリットや決算時期の決め方について考えてみたいと思います。

 

 

 

1-1 法人化のメリット・デメリット

不動産投資事業を法人化すると、様々なメリットがある反面、デメリットもあります。
代表的なものをまとめると、次のようになります。

 




〇個人の総所得(不動産所得・給与所得・その他の所得の合計)が高い場合は、税率を抑えることができる。
個人に課税される所得税は累進課税となっており、最高税率は年間所得4000万円超で45%ですが、法人税の最高税率は年間所得800万円超で33.5%です。 一般的に、個人の総所得が高くなると、法人化する方が税率を抑えることができます。

 

〇所得を分散できる
配偶者や家族を役員や社員とし、報酬や給与を支払うことで所得を分散し、節税効果があります。

 

〇給与所得控除が適用される
社長、役員、社員の報酬・給与に、それぞれ給与所得控除が適用されるため、節税効果があります。

 

〇退職金の面で有利な扱い
退職金の支払いを経費として計上できるため、節税効果があります。
また、退職金への課税の際は、退職所得控除が適用されます。

 

〇損益通算期間が長い
不動産事業の損失を翌年度以降に繰り越し損益通算できるのは、個人の3年間に対して、法人は9年間と長くなっています。

 

〇社会的な信用度が高くなる
一般的に、個人事業に比べ、法人化した場合は社会的な信用度が高くなります。





〇設立・運営費用がかかる
設立時には登記費用、運営開始後は顧問税理士の報酬等の経費がかかります。
また、事業が赤字でも、法人住民税の均等割額が課税されます。

 

〇資産移転が必要
投資用物件を取得後に事業を法人化する場合は、個人から法人に資産を移転しなければなりません。
移転経費として、登記費用・不動産取得税などがかかります。

 

 

1-2 法人設立の時期からみた決算期の決め方

法人の決算は、設立の時から1年以内に行うことが決まっています。
そして、決算を行うためには税理士の報酬をはじめ費用や決算事務手続きなどの手数がかかります。そのため、事業年度の期間はできるだけ長くとる方がよいということから、法人設立時から1年後に決算期を設定する例が多くみられます。

 

(例)法人設立7月1日
   決算期 6月30日

 

なお、新しく始める不動産投資事業に合わせて法人を設立する時期は、投資用物件の取得が確実になり、不動産投資事業を開始できる目途が立った時点になると考えられます。投資用物件の取得前に法人化しても、費用がかかるだけでメリットがないからです。
したがって、不動産投資事業を始めるために法人を設立する場合は、不動産投資事業を開始できる目途が立った時期のおよそ1年後が決算期の候補となります。

 

 

 

1-3 税務繁忙期からみた決算期の決め方

例年、12月は年末調整、2~3月は確定申告の時期で、税理士さんは多忙を極めます。
また、多くの企業は3月、または9月の末日を決算期としており、その後の2月間で決算書・申告書を作成するため、この時期も税理士さんは忙しくなります。
自分の法人が依頼する税理士さんが、他に数多くの案件を抱えて多忙過ぎると、審査や申告書のチェックが甘くなってしまう可能性もあります。
したがって、これら世間一般の税務繁忙期(税理士さんの繁忙期)とこちらの決算書・申告書作成時期は、できればずらす方が都合がよいと考えられます。
この視点からは、1・2・3・9・10月決算は避ける方が望ましいことになります。

 

なお、多くの企業が事業年度を国や自治体に合わせていることから、決算時期が3月に集中していますが、公共事業の受注などにあまり関係がない不動産投資事業では、事業年度を役所に合わせる必要はないと思われます。

 

 

 

1-4 本業の繁忙期からみた決算期の決め方

会社員の方が副業で不動産投資を行っている場合は、本業である会社業務の繁忙期に決算書・確定申告書の作成が重なるのは好ましくありません。
一般的に企業の業務繁忙期は、年度末の3月や年度初めの4月だとみられますが、例えば、2月末を決算期にすると、3~4月の2月間が決算書・申告書の作成時期になってしまいます。

 

会社員でなくても、商売や農業などを本業としている方は、それぞれ本業の繁忙期を念頭に置き決算期を決めるのが望ましいといえます。

 

 

 

1-5 業績見通しからみた決算期の決め方

不動産投資において、節税は重要な項目です。
例えば、退去者が発生せず満室状態が続いた事業年度などは、まとまった収益が見込まれるはずです。
そのような場合には、節税のために、次年度に予定していた修繕工事を前倒しで実施し、経費を計上することで節税を図ることが考えられます。
しかし、不動産事業における1事業年度の収益見通しは、一般的に最も入退去が多い「人の移動シーズン」である2~4月の結果をみてからでないと正確には把握することができません。
このことから、最も入退去が多いと予想される2~4月の時期を、事業年度の終わりに持ってきてしまうと、効果的な節税対策を講じる期間的な余裕がなくなってしまいます。

 

また、法人化した後は、配偶者や家族を役員につけ報酬を支払うケースが多いと思われますが、この役員報酬額の改定は事業年度の開始後3月間以内に行うことになっています。この役員報酬により収益を分散して節税を図ろうとする場合、その年度の収益状況を早めに掴むため、2~4月の時期は事業年度の最初に持ってくる方が都合がよいと考えられます。

 

 

 

1-6 税制改正からみた決算期の決め方

不動産投資事業に関わる税制改正は、しばしば起こり得ます。
そして、税制が改正される場合、新たなルールは通常4月当初から適用される例が多いといえます。
仮に、事業年度を4月1日~3月末に設定していた場合は、事業年度開始後直ちに新税制の対象となり、その準備を行っている期間がとれません。
この点からみると、3月末の決算期はあまり好ましいとはいえません。

 

 

 

1-7 不動産投資の法人化における決算期はいつにするか

これまで、いくつかの面からみて、決算期(事業年度)の設定について避ける方が得策と考えられるものを中心に取り上げてきました。

 

これまでの説明をみると、世間の税務繁忙期と自社の決算書・申告書の作成が重なるタイミングで、新設法人の決算期を設定するのは避けた方がよさそうです。
このことと、不動産投資の業績見通しを早めに掴めるメリットを考慮に入れると、消去法ではありますが、決算期の候補として7~8月の末日が考えられます。

 

しかし、法人の代表者である物件オーナーそれぞれの方が有する条件や目的が異なるため、いつの時期が決算期(事業年度)として最も適切かについては、一概に結論づけるのは難しいといえます。
不動産投資が専業か副業か、副業の場合は本業の繁忙期の時期によって、好ましい決算時期は違ってきます。
また、決算の目的が節税にあり、できるだけ利益を抑えて経費を膨らませたいのか、あるいは、新たな融資を受けるために、金融機関の審査が通りやすく黒字幅を伸ばした決算書を作りたいのか、などによっても妥当な時期は異なってくるでしょう。

 

基本的に、不動産投資の法人化における決算期の設定は、こうでなければいけないという決まりはありません。
それぞれの法人や代表者が置かれた状況や環境に応じて、時期を設定するのがよいのではないでしょうか。

 

 

2 不動産投資における決算書の読み方

不動産投資事業を法人化し、事業年度や決算期を決めた後は、事業が安定して回るよう財務状況や資金繰りに気を配ることが求められます。
それと同時に、節税を行うことで支出を抑え、収入はできるだけ借入金の返済などに充てたいものです。
そのためには、決算書の読み方を理解し、法人の財務状況に応じた対応を柔軟に講じていくことが重要です。
ここでは、決算書の中から代表的な「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」の財務3表を取り上げ、その読み方を説明します。

 

 

 

2-1 貸借対照表の読み方

まず、貸借対照表についてみてみましょう。
貸借対照表は、記載時点における法人が保有する全資産を洗い出し、それがどのように成り立っているかの内訳(借金と自己資産の内訳)を表したものです。

 

貸借対照表

資産の部 負債の部
科目 金額 科目 金額

【流動資産】
現金
有価証券
受取手形
売掛金
棚卸資産

【固定資産】
有形固定資産
無形固定資産
投資その他資産

****
****
****
****
****

****
****
****

【流動負債】
支払手形
買掛金
短期借入金

【固定負債】
長期借入金


****
****
****

****

負債の部合計 ****
純資産の部  
【株主資本】
資本金
利益剰余金
****
純資産の部合計 ****
資産の部合計   負債および純資産
合計
****

 

上表は、貸借対照表を表したものですが、左欄が「資産」、右欄上段が「負債」、右欄下段が「純資産」を記入する場所です。

 

まず、左欄の「資産」ですが、法人が所有する資産をすべて記入します。
この中の「流動資産」は、1年以内に換金できる資産です。また、「固定資産」は、短期間に換金できない資産、または、販売したりせずに長期的な使用目的で保有している資産を意味します。
また、本業として不動産賃貸を行う場合は、短期的には保有物件の売却を前提としないため、賃貸用の土地・建物は「有形固定資産」に計上します。

 

次に、右欄上段の「流動負債」は、1年以内に返済しなければならない負債です。また、「固定負債」は、支払期限が1年以内に到来せず、それまでは支払いや費用化されない負債を意味します。

 

右欄下段の「純資産」は、法人が所有する資産のうち、借入や負債に頼らない純財産で、資産から負債を差し引いた部分です。

 

〇貸借対照表を読むポイント

【当座の借金を返せるか】
まず、当面の借金が返せる状態かどうかですが、これは、流動資産と流動負債の比率をみます。
流動資産は1年以内に換金できる資産で、流動負債は1年以内に返済しなければならない負債です。

 

流動比率=流動資産 / 流動負債 × 100    

 

流動資産の流動負債に対する比率は「流動比率」といい、これが100以上あるということは、短期的な支払い能力が支払い義務を上回っている、すなわち支払余力があるとみることができます。

 

貸借対照表     (単位 万円)

資産の部 負債の部
科目 金額 科目 金額

【流動資産】
現金
有価証券
受取手形
売掛金
棚卸資産

【固定資産】
有形固定資産
無形固定資産
投資その他資産

700
  0
  0
  0
  0

1300
  0
  0

【流動負債】
支払手形
買掛金
短期借入金

【固定負債】
長期借入金


100
100
200

1100

負債の部合計 1500
純資産の部  
【株主資本】
資本金
利益剰余金
500
純資産の部合計 500
資産の部合計 2000 負債および純資産
合計
2000

 

上表の例では、流動資産の合計は700万円で、流動負債の合計は400万円です。
流動比率を求めると、

 

流動比率=流動資産合計700万円 / 流動負債合計400万円 × 100=175%

 

となり、100%以上で支払余力があることがわかります。

 

【自己資本の比率を維持できているか】
法人の総資産のうち、負債部分は返済義務がありますが、自己資本部分は返済の必要がありません。
したがって、総資産に占める自己資本部分が大きいほど、安定した経営ができるといえます。

 

自己資本比率=純資産 / 総資産 × 100

 

総資産に占める自己資本の比率は「自己資本比率」といい、この数値は大きい程よいといわれています。

 

貸借対照表     (単位 万円)

資産の部 負債の部
科目 金額 科目 金額

【流動資産】
現金
有価証券
受取手形
売掛金
棚卸資産

【固定資産】
有形固定資産
無形固定資産
投資その他資産

1000
500
 0
 0
 0

4500
 0
 0

【流動負債】
支払手形
買掛金
短期借入金

【固定負債】
長期借入金


200
300
500

3000

負債の部合計 4000
純資産の部  
【株主資本】
資本金
利益剰余金
2000
純資産の部合計 2000
資産の部合計 6000 負債および純資産
合計
6000

 

上表の例では、左側の資産の合計は6000万円で、純資産が2000万円ですので、
自己資本比率を求めると、約33%となります。
自己資本比率=純資産合計2000 万円 / 資産合計6000万円 × 100 ≒ 33%

 

不動産投資で、フルローンを組み物件を購入していけば負債が大きくなり、この自己資本比率が下がっていきます。実際に相当量の物件を購入しているオーナーの方では、自己資本比率が1桁の例もあるようです。
金融機関からの借り入れを主体に投資用物件を増やしていくのが、不動産投資の方法であるため、この自己資本比率を維持しながら事業を拡大していくことは、非常に難しいと考えられます。
しかし、物件を新しく購入すると、入ってくるキャッシュフローも増えるため、できるだけその一部を蓄積して自己資本比率を維持するよう努めることが重要と考えられます。
不動産投資においては、自己資本比率20%の維持を一応の目安とすればよいでしょう。

 

【債務が超過していないか】
借入金などの負債が増え、総資産の額を超過してしまうと、いわゆる「債務超過」になってしまいます。

 

債務超過=資産<負債

 

貸借対照表     (単位 万円)

資産の部 負債の部
科目 金額 科目 金額

【流動資産】
現金
有価証券
受取手形
売掛金
棚卸資産

【固定資産】
有形固定資産
無形固定資産
投資その他資産

700
0
 0
 0
 0

1300
 0
 0

【流動負債】
支払手形
買掛金
短期借入金

【固定負債】
長期借入金


100
100
200

2100

負債の部合計 2500
純資産の部  
【株主資本】
資本金
利益剰余金
▲500
純資産の部合計 ▲500
資産の部合計 2000 負債および純資産
合計
2000

 

上の表では、長期借入金などが増えた結果、負債の合計額が2500万円となり、資産の合計2000万円を超えてしまっています。
この状態は、貸借対照表では、純資産がマイナスで表されます。

 

債務超過になると、金融機関からの融資を受けられなくなるため、運転資金の調達が困難となってしまいます。
また、株式の上場企業では上場廃止となるため、株主からの資金調達もできなくなり、倒産の危険があります。

 

 

 

2-2 損益計算書の読み方

損益計算書は、法人の会計期間における収益、費用、利益の面から経営成績の内容を表したものです。

 

損益計算書       (単位:万円)

科目 金額
①売上高
②売上原価
③売上総利益(①-②)
④販売費および一般管理費
⑤営業利益(③-④)
1008
    0
1008
460
548
営業外収益
 受取利息
 受取配当金
⑥営業外収益合計
営業外費用
 支払利息
 為替差損
⑦営業外費用合計
⑧経常利益(⑤+⑥-⑦)

3
0
3

250
0
250
301

特別利益
 固定資産売却益
⑨特別利益合計
特別損失
 投資有価証券売却損
⑩特別損失合計
⑪税引前当期純利益(⑧+⑨-⑩)
⑫法人税・住民税・事業税
⑬当期純利益(⑪-⑫)

0
0

0
0
301
95
206

 

  • ①「売上高」は、本業で稼いだ収益で、不動産投資では家賃収入・駐車増収入・自販機収入などが該当します。
  • ③「売上総利益」は売上高から売上原価を差し引いたものですが、不動産投資の場合は売上原価がないため売上高がそのまま移行します。
  • ④「販売費および一般管理費」は、企業収益を上げるために必要な経費で、不動産投資の場合は、以下のものが該当します。

 

建物・賃貸管理費、修繕費、広告費、通信費、役員報酬、人件費、減価償却費など

 

そして、売上総利益から販売費および一般管理費を差し引いたものが、⑤「営業利益」になります。

 

売上高 - 売上原価 - 販売費および一般管理費 = 営業利益

 

この営業利益は、本業での利益を指しますが、ここから⑥「営業外収益」と⑦「営業外費用」を加減したものが⑧「経常利益」になります。
この営業外収益、営業外費用は、本業以外で稼いだ収益とかかった費用を意味します。
なお、「営業外費用」のうちの「支払利息」には、不動産投資ローンの支払利息が該当します。
なお、ローン返済の元本部分は、経費として計上はできません。

 

営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用 = 経常利益

 

次に、⑨「特別利益」、および、⑩「特別損失」ですが、物件の売買時以外はあまり数字が入ることはありません。
土地・建物の売買がなければ、通常は経常利益がそのまま税引前当期純利益となります。

 

〇損益計算書を読むポイント

 

【利益が上がっているか】
損益計算書では、本業の「営業利益」、および、事業活動全体の状況を表している「経常利益」が重要です。
不動産経営では、開始初年度は家賃収入に比べ諸経費が膨らむことから、赤字になることが考えられますが、この赤字が2年目以降も続く場合は賃貸経営の存続が危ぶまれます。
2年目以降は、必ず利益をプラスに転換することが必要です。

 

また、次の物件取得に向けて金融機関の融資を考えている場合は、「営業利益」、「経常利益」は、毎年黒字状態にしておく必要があります。

 

一方、経費を膨らませて節税したい場合は、「販売費および一般管理費」に計上できるものをできるだけ入れることになります。

 

【借入金の金利負担が大きすぎないか】
不動産投資事業は、金融機関からのまとまった融資を受け、投資用物件を取得していく事業です。
そのため、借入金の返済において、金利の負担が財務状況を圧迫することもあり得ます。
損益計算書で以下の場合には、金利負担が過大である可能性があります。

 

  1. 営業利益が黒字であるにもかかわらず、経常利益が赤字になっている。
  2. 営業利益、経常利益ともに黒字であるが、営業利益 > 経常利益となっている

 

金利返済が過大である場合は、返済計画の見直しや、より金利が低い融資への借り換えなどを検討すべきでしょう。

 

 

 

2-3 キャッシュフロー計算書の読み方

キャッシュフロー計算書は、法人の会計期間中の現金の増減を数値で表したものです。
会計期間中の収益や費用については、前で説明した損益計算書で記載され、最終的な利益も算出されていますが、この会計上の利益は手元に残る現金の額とは異なります。

 

損益計算書では、実際に現金が出ていかない項目を支出として計上し、反対に現金の支出を伴うものを支出としていないため、そこで算出された利益が手元に残る現金と違ってくるのです。
損益計算書上の利益と手元に残る現金が違ってくる原因は、次のものです。

 

①減価償却費

実際に現金が出ていかないが、会計上は支出として計上される。

②借入金の元本返済分

実際に現金が出ていくが、会計上は支出として計上されない。

 

このことから、次の関係が成り立ちます。

 

損益計算書上の利益(税引後)+減価償却費-借入金の元本返済分=手元に残る現金

 

不動産投資事業では、この「手元に残る現金」をプラスにしておく必要があります。
そして、この現金の流れ(増減)に着目して記帳し、期末に手元に残る現金残高を算出しているのが、キャッシュフロー計算書です。

 

企業活動では、常に資金繰りに気を配る必要があります。
特に不動産投資は、金融機関からまとまった額の融資を受けて取得した物件を基に利益を上げていく事業のため、常に投資用物件の維持管理のための支出や借入金の返済を伴います。
会計帳簿上は利益があるようにみえて実は手元に現金がない、という事態に陥らないよう事前に適切な対策を講じなければなりません。
このためにも、法人の資金状態を把握できるキャッシュフロー計算書は、非常に重要なものといえます。

 

それでは、キャッシュフロー計算書の読み方を説明します。

 

キャッシュフロー計算書   (単位:万円)

営業キャッシュフロー
 税引前当期純利益 505
 減価償却費 315
 売上債権の増減額               0
 仕入債務の増減額 0
 その他資産の増減 0
 その他負債の増減 0
 法人税等の支払 ▲175
①営業キャッシュフロー合計 645
投資キャッシュフロー
 固定資産の取得による支出 ▲150
②投資キャッシュフロー合計         ▲150
③フリーキャッシュフロー(①+②) 495
財務キャッシュフロー
 借入金収入 0
 借入金の返済支出 ▲455
④財務キャッシュフロー合計         ▲455
④キャッシュ増減(①+②+④) 40
⑤キャッシュ期首残高 487
⑥キャッシュ期末残高(④+⑤) 527

 

①「営業キャッシュフロー」は、法人が日常の営業活動から得たキャッシュフローを表しています。

不動産投資事業では、家賃収入から管理費や修繕費を引いて残った利益となります。
「税引前当期純利益」には、損益計算書上の税引前当期純利益を計上します。そして、そこに「減価償却費」を加え、減価償却費控除前の数値に戻します。(損益計算書上、現金支出がないにもかかわらず、経費として差し引かれているため。)
不動産投資事業では、開始初年度を除き、営業キャッシュフローをプラスにすることが大前提となります。

 

②「投資キャッシュフロー」は、事業活動を継続するための固定資産などに投資した金額を表しています。

企業活動では、将来に向けての投資は必要であるため、数値自体がマイナスであるのは投資活動があるということで好ましいとされています。
不動産投資では、新規物件の取得や資産の増加にあたる工事などが該当します。

 

そして、この営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを合計したものが、③「フリーキャッシュフロー」で、これは法人が自由に使える現金となります。

 

④「財務キャッシュフロー」は、法人の資金調達や返済状況が表されています。

「借入金の返済支出」には、借入金返済額のうち、当期中の元本返済額のみを計上します。(利息返済分は、損益計算書上、すでに差し引かれているため。)

 

⑥の「キャッシュ期末残高」は、貸借対照表の「現金」と一致します。

 

〇キャッシュフロー計算を読むポイント

 

【自由に使える現金が不足していないか】
「フリーキャッシュフロー」は、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを合計したもので、法人が自由に使える現金を意味します。
したがって、本業で稼いだ営業キャッシュフローが、投資に回る投資キャッシュフローよりも大きい、すなわち、フリーキャッシュフローが多ければ、資金的に余裕があり非常時に対応できるといえます。
逆に、フリーキャッシュフローがほとんどないか、マイナスの状態では、資金不足に陥っており、何らかの方法で資金を調達する必要があるということです。

 

不動産投資は、巨額のローンを組み物件を取得していく事業のため、単年度でみると、本業で稼いだ額よりも投資額の方が大きい場合が想定されますが、できるだけ手元に自由に使える現金を残すよう工夫すべきです。

 

【借入金は圧縮できているか】
借入状況や返済状況は、財務キャッシュフローを見ます。
財務キャッシュフローがマイナスであれば、返済が進んで順調とみることができます。
逆にプラスであれば、返済より新たな借入れが上回っていることになり、資金不足が疑われます。

 

 

 

2-4 なぜ財務3表が必要なのか

財務諸表の中で、最も馴染みやすいのは損益計算書やキャッシュフロー計算書かもしれません。
事業年度の収益および費用を抽出し、その差し引きで利益を求める損益計算書の考え方は、日頃から金銭出納帳や家計簿を付け慣れている方にとって、それほど難しいものではありません。
また、物件購入費、購入にかかる諸経費、家賃収入、維持管理費、ローン返済金など、現金の収支に着眼して経営を進める不動産投資事業では、キャッシュフロー計算書はより身近なものに感じるといえそうです。

 

しかし、前に述べたように、損益計算書とキャッシュフロー計算書では、その性格が異なります。損益計算書では、商品を売って売上げが生じた時点で記帳されますが、その代金がまだ入金されなければキャッシュフロー計算書には載ってきません。
両者の帳簿は貴重のタイミングが違います。損益計算書は、収益や費用の発生時点で記載されますが、キャッシュフロー計算書では、現金の受取りや支払いの時点で記帳されるのです。
また、前にも述べたように、減価償却費や借入金の元本返済分など、現実的な現金の支払いと会計上の経費となるものは完全に一致するわけではありません。

 

損益計算書は、事業年度における営業活動の成績を、また、キャッシュフロー計算書は実際の支払余力をみるための帳票といってよく、安定した企業活動を行うためにはどちらも不可欠なものです。

 

一方、一般には馴染みがあまりないと思われる貸借対照表は、決算時点での資産の状況とその内訳を表すものです。
銀行から借りた1億円でマンションを購入すると資産は増えますが、同時に同額の負債を負ったことになります。ローンを返済すると、現金である資産はその分減少しますが、同時に負債も減ることになります。
損益計算書やキャッシュフロー計算書からでは、特定時点での資産の状況は見えてきません。貸借対照表では、決算時点における資産の全体像やその構成内容が断面図のように把握でき、さらに新旧の表を比較することにより、資産状況がどのように変化しているかについて理解することができます。

 

この財務3表は、三位一体となって、事業年度における企業の金と物の移動状況、そして決算時点での資産の全貌を把握できるものなのです。

 

 

3 まとめ

不動産投資事業を法人化すると、税務面をはじめとする様々なメリットがあります。
また、法人化した後は、安定した賃貸経営を行うことと併せ、新しい投資用物件の取得を通じ事業を拡大させていくことも効果的な事業運営方法と考えられます。

 

そして、この安定した賃貸経営や新しい投資用物件の取得のためには、常に財務状況に気を配るとともに、各年度の節税や金融機関の融資対策が非常に重要となってきます。
このため、各事業年度の企業業績をいち早く把握することが、節税をはじめ効果的な対策を講じていくことや金融機関の融資を受けるための業績向上に繋がると考えられます。

 

したがって、法人化するにあたり、将来的な事業の進めやすさを見越して事業年度や決算期を設定することは、大変大きな意味を持つといえます。
また、決算内容をよく把握して効果的な対策を講じ、次の年度に繋げていくためにも、決算書の内容を十分に理解していくことは非常に重要と考えられます。

 

不動産投資事業で法人化を検討されている方は、より間口を広げ一層の情報収集に努められるとよいのではないでしょうか。

 

 


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