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決算書で本当は赤字か黒字か見分ける方法

決算書からは様々な情報を得ることができますが、多くの方がまず知りたいと思うことは次のようなことではないでしょうか。自社であれば「わが社は赤字なのか黒字なのか」「この決算内容でわが社は大丈夫なのだろうか」といったこと、取引先であれば「この取引先は赤字なのか黒字なのか」「この決算内容の会社と取引して大丈夫だろうか」ということです。今回は決算書から赤字か黒字かを見分ける基本的なポイントやさらに一歩踏み込んだ見方を、起業して間もないなど決算にあまり強くない経営者の方や経理・会計業務初心者の方向けに解説していきます。

 

 

1 決算書についての概要

決算書と一口にいいますが、正式には財務諸表という一連の書類のことをいいます。一定期間の経営成績や財務状況を明らかにするために作成されます。
財務諸表は貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュフロー計算書などで構成されます。

 

財務諸表は基本的には出資者(株主等)に対して経営陣(役員等)がその会計期間(通常1年間です)において資金がどのように運用され、その結果どのような財務状況にあるのかを報告する書類です。
また出資者や融資を受ける際の金融機関だけでなく、各種利害関係者(ステークホルダー※)が企業を分析する報告書としても機能します。

※ステークホルダー:取引先、従業員、株主、債権者等その企業に何らかの利害関係がある関係者のことをいいます。

 

この財務諸表のもっとも中心的な計算書類である損益計算書、貸借対照表について、以下で解説します。

 

 

 

1-1 損益計算書

損益計算書は、企業の一定期間(通常1年間)における経営成績を明らかにしている財務諸表の一つです。
経営成績とは、利益もしくは損失の大きさ(金額)とその利益がどのように生み出されたか(発生過程)のことをいいます。
英訳すると「profit and loss statement」となるため、日本では略して「P/L」(ピー・エル)と呼ぶこともあります(別の訳し方もあります)。
簡単にいうと一定期間の中での「収入(会計用語では収益)」、「支出(会計用語では費用)」、収入から支出を差し引いた「純利益ないし純損失」を示しています。

 

式で表すと以下の通りです。
「収入」-「支出」=「純利益」(マイナスであれば純損失)
会計用語で表すと次の通りとなります。
「収益」-「費用」=「純利益」(マイナスであれば純損失)

 

最終的にはこの「純利益」がプラスであれば利益が上がっていることになるので、「黒字」といえるわけです。

 

この「収入」は「営業活動による収入(売上高)」、「営業外活動による収入(営業外収益)」、「特別な活動による収入(特別利益)」に分けられます。
同様に「支出」も「営業活動による支出(売上原価と販売費及び一般管理費)※」、「営業外活動による支出(営業外費用)」、「特別な活動による支出(特別損失)」に分けられます。
※営業活動による支出は、「売上原価」と「販売費及び一般管理費」に分けられます。

 

損益計算書は、段階的に分けられたそれらの収入、支出ごとに利益や損失の発生を計算し明らかにしています。
段階ごとの利益計算については後の営業利益、経常利益、当期純利益の項目で解説します。

 

 

 

1-2 貸借対照表

貸借対照表は、企業のある一定時点の財政状態を明らかにしている財務諸表の一つです。
「財産などの利用価値があるもの」(会計用語では資産)、「借入などの経済的負担」(会計用語では負債)、そしてそれらの「差額」(会計用語では純資産)を示しているので、その企業の財務内容(資産、負債の状況)が好ましい状況かそうでないかが分かります。
英訳すると「Balance sheet」となるため、日本では略して「B/S」(ビー・エス)と呼ぶことが多いです。

 

式で表すと以下の通りです。
「財産などの利用価値があるもの」―「借入などの経済的負担」=「差額」
会計用語で表すと次の通りです。
「資産」-「負債」=「純資産(自己資本ともいいます)」

 

「差額」がプラスであれば財産の方が借入より大きいことになるので、一般的に財務内容は健全といえます(この状況を自己資本がプラスであるといいます)。
「差額」がマイナスであれば財産より借入の方が大きいことになるので、一般的に財務内容はよくないとされます(このことを債務超過の状態といいます)。

 

一個人の状況で例えると、持っている現金や預金といった財産の方が銀行などからの借入より大きければいつでも借入を整理でき、その後でもまだ財産が残すことができます。
財産の方がまだ大きいので、追加で借入を受ける余地もあり健全といえる状態です。
一方財産より借入の方が大きければ、いざ借入をなくそうとしても財産の方が少ないので借入をゼロにすることはできません。
現時点でも借入の方が大きいわけですから、急に資金が必要となっても借り入れできるかわかりません。好ましくない状態といえます。

 

貸借対照表はこのように、ある時点の企業の財政状態を示しています。

 

 

2 赤字か黒字化をまず判断するポイント

決算書から企業が赤字か黒字かを見分けるには、どこをみればいいのでしょうか。
そのために主に利用する財務諸表は、先ほど解説した一定期間の経営成績を示した「損益計算書」となります。
以下、損益計算書において注目するポイントを解説します。

 

 

 

2-1 売上総利益

売上など「営業活動による収入」から、「営業活動による支出」のうち仕入れなどの売上に直接対応する支出だけ(売上原価といいます)を差し引いたものを「売上総利益」といいます。一般的には「粗利(あらり)」と呼ばれています。

 

式で表すと以下の通りです。
「営業活動による収入(売上高)」-「売上原価」=「売上総利益(粗利)」

 

なお、販売業における「売上原価」は「仕入原価」ともいい、「期首棚卸高※1」+「当期仕入額」-「期末棚卸高※2」で求められます。つまり当期で販売した商品に対応する仕入額のことです。

※1期首棚卸高:前決算期末の商品在庫を繰り越したものです。
※2期末棚卸高:今決算期末の商品在庫のことです。

 

製造業においては「売上原価」は「製造原価」ともいい上記とは違う計算で求めますが、ここでは省略します。

 

サービス業では通常、売上原価は存在しません(一部で商品の販売を行う場合を除きます)。

 

仕入額より高い値段で売るのが商売の鉄則ですから、売上総利益は当然ながら黒字であるべきです。この段階で赤字であれば、ビジネスモデルに根本的な問題があると考えざるを得なくなります。

 

<コラム 売上総利益は競争力の源(みなもと)>
企業は通常外部から仕入れた商品や原材料に何らかの付加価値を上乗せして外部に販売することによって利益を上げます。サービス業であれば実際の直接経費以上の料金を受け取って利益を上げます。
この付加価値こそが利益となるわけですが、ただ当たり前に上乗せしても市場では通用しません。他社とは違う何かに対して意味を感じないと購入してもらえないでしょう。
他社とは違う何かとは、必ずしも価格だけではないでしょう。配送までのスピードだったり、注文のシステムが簡単で24時間いつでもできることだったり、アフターサービスが万全だったりすることだったり様々なものがあるでしょう。
まさにこの「他社とは違う何かに」意味を感じて、上乗せを承知の上で購入するわけです。他社ではなく、該当する企業から購入するわけです。
その「上乗せ」の総額が「売上総利益」ですから、この売上総利益は他社に対する競争力の大きさといえます。この額が大きければ大きいほど競争力があると考えられるわけです。
また大きければそれだけ「販売費及び一般管理費」などの支出があっても最終的に黒字となる可能性が高くなります。
また、小売業か卸売業か、製造業かサービス業かで売上に対する売上総利益の比率(売上総利益率といいます)にある程度の傾向がみられます。
対象となる企業の売上総利益率を同業他社と比べてみると競争力が業界平均より低いのか高いのかが分かるので、一度確認してみるのもいいでしょう。

 

 

 

2-2 営業利益

「売上総利益」から、役員報酬、人件費や旅費交通費、地代家賃といった「売上原価以外の営業活動による支出(販売費及び一般管理費)」を差し引いたものを「営業利益」といいます。

 

式で表すと以下の通りです。
「売上総利益」-「売上原価以外の営業活動による支出」=「営業利益」
「営業活動による収入」-「営業活動による支出」=「営業利益」と表すこともできます。

 

このことより、「営業利益」とは本業の利益ということができます。この項目がマイナスであれば本業が赤字、プラスであれば本業が黒字ということができるでしょう。
対象企業の本業が赤字か黒字かは、この項目を見て判断します。
本業が赤字か黒字かは、企業をみる上で非常に大きなチェックポイントです。

 

 

 

2-3 経常利益

「営業利益」から、「営業外活動による収入」を加え「営業外活動による支出」を差し引いたものを「経常利益」といいます。

 

「営業外活動による収入」とは本業以外の活動で得られる収入のことで、具体的には受取利息や配当金、株券などの売買目的有価証券売却益※や不動産賃貸収入などがあります。

 

「営業外活動による支出」とは本業以外の活動で得られる収入のことで、具体的には支払利息や手形割引料、売買目的有価証券売却損※や創業費償却などがあります。

※売買目的有価証券売却益、売却損:売買により利益を上げるために取得した有価証券の売却利益ないし損失のことです。長期的に所有する目的(投資目的)で取得した有価証券の売却益・売却損は投資有価証券売却益・売却損として特別利益・特別損失として処理することに注意して下さい。

 

式で表すと以下の通りです。
「営業利益」+「営業外活動による収入」-「営業外活動による支出」=「経常利益」

 

「経常利益」は、本業の収益力に本業以外の収益力も加えた指標であるため、企業の正常な利益を上げる力をみる最も代表的なポイントといわれています。
数年前までは「ケイツネ」と呼びこの項目が一番大事とする見方もありましたが、株主の立場を重視する米国などの影響を受け現在では「当期純利益」を重視するようになってきています。
投資家にとって重要なROE(自己資本利益率:当期純利益を自己資本※で割ったもの)やROA(総資産利益率:当期純利益を総資産で割ったもの)は当期純利益を基に計算しているからです。

※自己資本:資産-負債=純資産のことです。

 

とはいえ利益力を見る指標として重要なことには変わりありません。
一般にこの項目がプラスであれば「黒字企業」といい、マイナスであれば「赤字企業」と判断します。

 

 

 

2-4 税引前当期純利益

「経常利益」から、「特別利益」を加え「特別損失」を差し引いたものを「税引前当期純利益」といいます。

 

式で表すと以下の通りです。
「経常利益」+「特別利益」-「特別損失」=「税引前当期純利益」

 

「特別利益」とは通常の経営活動とは直接関係ない特別な事情で「臨時的」に「重要な金額」で発生した利益のことで、具体的には固定資産売却益※1や投資有価証券売却益※2、関係会社株式売却益※3や貸倒引当金戻入益※4、債務免除益※5などがあります。

※1固定資産売却益:土地建物や車両運搬具といった固定資産を売却した際に発生した利益。損失が生じた場合は固定資産売却損。
※2投資有価証券売却益:転売以外の目的で取得した有価証券を売却した際に発生した利益。損失が生じた場合は投資有価証券売却損。
※3関係会社株式売却益:親会社や子会社、関連会社の株式を売却した際に発生した利益。損失が生じた場合は関係会社株式売却損。
※4貸倒引当金戻入益:難解なので解説略。このような科目があるということだけ知っておいて下さい。
※5債務免除益:金融機関からの借入金や取引先からの仕入代金などの債務の免除を受けた場合の利益。

 

「特別損失」とは「特別利益」と同様の事情で「臨時的」に「重要な金額」で発生した損失のことで、具体的には固定資産売却損、投資有価証券売却損や災害損失※などがあります。

※災害損失:地震や火災、風水害などの災害で固定資産に生じた損失。

 

しかしその企業にとって「臨時的」でなく「重要な金額」でないと判断されれば、上記のような利益や損失であっても特別利益、特別損失とせず「営業外活動による収入」や「営業外活動による支出」とする場合もあります。
どれくらいの金額が重要か重要でないかはその企業ごとによって違いますので、一律いくら以上が特別利益、特別損失とはならないので注意が必要です。

 

「税引前当期純利益」はプラスである(黒字である)に越したことはありません。
しかし文字通り「特別に発生した利益や損失」を考慮したものであるため、指標としてはさほどあてになりません。

 

 

 

2-5 当期純利益

「税引前当期純利益」から法人税・住民税及び事業税を差し引いたものを「当期純利益」といいます。
税金の額という企業の活動とは違うものの影響を受けることから、赤字か黒字かを判断する指標としては適当とはいえないとしていました。しかし先に解説した通り、米国の影響を受け近年はこの指標を重視する流れになっています。
この項目もプラスであるに越したことはありません。

 

 

3 黒字であっても注意すべきこと

通常赤字か黒字化を判断するうえで最も重要なポイントである「経常利益」が黒字であれば、その企業は黒字であると考えて間違いないのでしょうか。
いえ、そうではありません。様々な要因により本当は赤字なのに決算書では黒字になったり、本当は黒字なのに決算書では赤字になったりすることがあります。
そういったケースを見分ける方法を、ポイントごとに解説していきます。

 

 

 

3-1 原価が正しく計算されているか

(解説)

企業が赤字か黒字かとなるかは、まず売上から売上原価を差し引いた「売上総利益」を計算するところから始まります。なかでもその「売上原価」は、その後の重要とされる指標「経常利益」に大きく影響を及ぼす大切なものです。
その売上原価は「期首棚卸高」+「当期仕入額」-「期末棚卸高」との計算式で求めます。
決算期の初めに存在する在庫に期間中に仕入れたものを加算し、決算期の最後に残っている在庫を差し引いて、販売にまわった商品の原価を算定して利益を計算する方法です。
ここで期末の在庫が正しく計測されていなければ、売上原価が実態とかけ離れることになります。
前期並みと推測して実際に棚卸をおこなわず(おこなったにもかかわらずその数値を利用しない場合も含みます)期末在庫を算定したものの実際は在庫が推測より少ない場合、差し引く在庫は実際より大きくなってその結果売上原価は低くなります。そうなると利益額が実際より大きくなり、利益を正しく表さないことになるわけです。

 

より分かりやすいように、具体例で解説します。
期中売上が120万円、期首棚卸高が30万円、当期仕入高が70万円であったとします。
実際に期末棚卸をせず前期並みに期末棚卸高を30万円とした場合の売上総利益は次の通りです。
120万円-(30万円+70万円-30万円=70万円:売上原価)=50万円(売上総利益)
実際に棚卸をした結果、期末棚卸高が10万円しかない場合の売上総利益は次の通りです。
120万円-(30万円+70万円-10万円=90万円:売上原価)=30万円(売上総利益)
棚卸高次第で売上原価が変わり、それに従い売上総利益も変わることがわかりました。

 

期末棚卸高の意図的な操作による利益の過大計上は、粉飾決算で最もポピュラーな方法の一つです。粉飾しようとする場合、最初にこの部分に手を付けるといっても過言ではないでしょう。
仕入額の計上漏れや不良在庫の減損処理漏れでも同様のことが起こり、売上総利益が正しく決算書において表されなくなります。
原価が正しく計算されているかをチェックすることは非常に大事です。

 

(見分ける方法)

ではどういったポイントに着目すれば原価が正しく計算されているかどうかを見分けることができるのでしょうか。
第一に原価率(売上に対する売上原価の比率)に着目します。「原価率を同業他社と比較してみる」方法です。
競争の激しい市場では特別の理由がない限り、原価率はそう大きく違いがないと考えられます(特別の理由があれば別です)。
業界・業態による違いはあるでしょうが、その違いを踏まえてネットで調べればある程度の数字はすぐ出てきます。
その数字と比較すれば原価計算が正しいか正しくないかの「おおよその見当」はつきます。

 

もう一つは、棚卸状況に着目します。「棚卸状況を確認する」方法です。
月ごとで棚卸をおこなっていれば、棚卸を重視していると判断できるので正しく棚卸高を計上している可能性が高いでしょう。
決算書の付属明細にある棚卸計上書類を見ることで、棚卸資産の個別の明細が分かると共に現物を確認しているかどうかも分かることがあります。

 

こういった方法により原価が正しく計算されているかを見分けることができる場合があります。

 

 

 

3-2 経費は漏れなく計上されているか、適正な金額か

(解説)

「売上総利益」から「売上原価以外の営業活動による支出」を差し引いたものが「営業利益」となるわけですが、この「売上原価以外の営業活動による支出」を会計用語では「販売費及び一般管理費(販管費)」といいます。
販管費が正しく計上されていれば問題はありませんが、何らかの意図があったりミスがあって計上が漏れたりすると営業利益が実際と違ってきます。実際は赤字経営なのに黒字に見せたいときに、経費を過少に計上する手法が非常に多く見られます。
経費が正しく計上されているかもチェックしたいポイントです。

 

(見分ける方法)

全ての販売管理費が漏れなく計上されているかチェックするのは非常に困難ですので、金額が大きい勘定科目や計上が漏れやすい勘定科目に着目してチェックします。
以下着目する勘定科目ごとに解説します。

 

①役員報酬

計上されている役員報酬が妥当な金額かをチェックします。多いことより足らないことが問題です。
本当は役員報酬を計上したいのだけれども、計上すると赤字になるので無理やり小さい金額で計上するケースが多いためです。
役員の収入が役員報酬だけの場合、その役員報酬で生活できそうかを推測します。別収入があれば役員報酬が少なくても問題ないと考えてもよさそうですが、別収入があるかはなかなか推測しづらいのも事実です。
しかし企業に役員として参加しているのに、わずかしか報酬をとらないのも不自然です。
あまりにも役員報酬が少額な場合、黒字に見せるために過少計上している可能性が高いといえるでしょう。

 

②給料手当

会社の規模の割に少なくないかをチェックします。
パートやアルバイト、派遣社員や事務のアウトソーシングなどの活用で人件費が抑えられているのであれば問題ありませんが、実際より利益が多く見せるために本来支払うべき給与を過度に抑えるケースがあります。
また、役員の親族を雇っているものの利益が出せないので給与を抑えるケースも多々あります。
従業員数に比べて給料手当が少なすぎると感じる場合、黒字に見せるために過度に給与を抑制していたり過少計上していたりする可能性があります。

 

③法定福利費

従業員の健康保険料や厚生年金保険料につき、会社で負担する部分等を法定福利費といいます。よほどの短期雇用でない限り、従業員を雇用する場合に発生する費用です。
従業員数のわりにこの勘定科目の金額が小さくないかをチェックします。
時には社会保険加入義務があるのに加入させていない悪質なケース(いわゆる社保逃れ)もあり、その場合は赤字か黒字かの問題どころではなく法令順守の問題にも発展しますので注意が必要です。

 

④外注費

先に解説した②給料手当、③法定福利費と関連するケースです。
それらの金額が低くてもこの外注費が多ければ、事務のアウトソーシングを図っている結果と見ることもできるので、②給料手当や③法定福利費の過少計上ではないと考えられます。

 

一方それらの金額が低く、この外注費の金額も低ければ②給料手当や③法定福利費の過剰な抑制や計上漏れの確率が高くなります。
本業の一部を外注に回している場合とは区別する必要があります。決算書の付属書類の勘定科目内訳明細書に未払外注費の相手方が記載されているときは、本業についての外注費かどうかを読み取れることがあります。

 

⑤減価償却費

まずに減価償却について解説します。
減価償却とは、長期間にわたり収益を上げることに役立つ固定資産の取得費用をその役立つ期間に費用として割り当てる会計上の手続きです。
大雑把に解説すると10年使える機械を100万円で購入した時、均等償却であれば1年あたり10万円を販売費及び一般管理費の中に費用として計上することになります。つまり1年あたり10万円を利益から差し引くことになります。

 

もう一つ、減価償却には固定資産の適正な評価をおこなっている側面もあります。
先程の例でいくと100万円で購入した機械は、通常使用期間に応じて価値は減少すると考えられます。厳密にいくらずつ減少するかはモノによったり市場の動きによって違いますが、同じようなものであれば同じくらい使えると国税庁が決めた耐用年数に従って価値を減らし実態に合わせていきます。耐用年数は国税庁のホームページにて固定資産ごとに設定したものを公表しています。
この減価償却費に着目します。

 

ある企業において所有する固定資産の内容に見合った減価償却がされていない場合(減価償却不足といいます)、その理由は損益計算書を黒字に見せるためであることがほとんどです。
固定資産の取得費用を各決算期に費用として経費に計上するわけですが、その計上をしなければ経費が削減できるのでその分だけ見かけ上の利益が増えることになります。
一方固定資産の資産価値は減少していくところを決算書上では減少しないものとして扱っているため、貸借対照表における資産価値を正しく記載していないことになります。
税理士や金融機関などの専門家は減価償却の意味を知っているので、計上しないで黒字より計上して赤字の方がデメリットは少ないと考えます。
しかし黒字であることは官公庁が発注する公共工事の入札の条件となることもあるので、無理やり黒字にするケースがありますので注意が必要です。

 

⑥地代家賃

中小企業では、代表者などの個人が所有する土地建物を法人が借りるということが多く見られます。
その際法人は代表者等の個人に対して家賃を支払うことになります。その家賃の額が急に変動していないかどうかもチェックしたいポイントです。
企業の業績が好調の時は適正な家賃で借りていたのが、業績が悪化すると家賃を下げて黒字にしようとするケースがあります。
第三者から借りている場合はそのように柔軟な対応ができないので、代表者等宛ての家賃で調整すること自体は問題があることではありません。むしろいい対策といえます。
しかしずっと同じ家賃でいたところに急に家賃を減額するようなことがあった場合、何らかの理由で業績が急速に悪化していることが予想できます。
その業績悪化に対する対策がしっかりとられているかは単年度で赤字か黒字かより大切なポイントですが、外部からはなかなか把握できないでしょう。
結局のところ代表者家賃の抑制により単年度で黒字となっていても、将来の展望に油断はできないと判断することになります。

 

 

 

3-3 営業外収入は一過性でないか

(解説)

受取利息及び配当金といった本業以外の収入(営業外収入)があっても、その収入が一過性であれば来年はその収入が見込めないことになります。
営業利益がすでに黒字であればそれほど問題ありませんが、営業利益が赤字の場合で営業外収入により黒字に転換しているようなケースではこのポイントは重要になります。
営業外収入が一過性でない、継続して見込めるかは大事なポイントです。

 

(見分ける方法)

営業外収入にある勘定科目で判断するか、決算書の後にある勘定科目明細の内容で判断します。具体的に主だった勘定科目ごとに解説します。

 

①受取利息

預金に対する利息収入ですから、預金残高が大きく変動しない限り継続して見込めると判断します。
業績の波が大きいなど預金残高が毎年大きく上下している場合は、利息収入が継続して見込めるとはいえなくなりますので注意が必要です。
預金残高の上下が大きいかは、貸借対照表の現金預金勘定を数年見比べるとすぐにわかります。
また、定期預金がどれくらいあるかは決算書の付属書類である勘定科目内訳明細書に記載してあります。定期預金からの利息収入は安定していると考えます。

 

②受取配当金

所有する株式によって他の会社から受けられる配当金や、投資信託の利益配当などのことです。
利益配当のもととなる株式を所有する限り継続して見込めると考えますが、その企業の業績に波がある場合配当がいつもあるとは限りません。銘柄も継続性を判断する上で重要なポイントです。
利益ねん出のために株式を処分すればそれ以降の配当が得られなくなりますから、株式が処分された場合の影響も見逃せないポイントです。
今期で株式が売却され資産に株式等の有価証券がなくなった場合、今後の継続的な配当収入もなくなることを見込む必要があります。
今期が営業外収入により黒字転換しているようなケースでは、来期以降の転換は難しくなると推測せざるをえません。

 

③為替差益

米ドルなどの外貨建て債権・債務(外貨建て預金・売掛債権・仕入債務等)について、決算期末における為替レート変動により発生した利益のことです。
具体例で説明すると、1ドル120円の時に仕入れた債務100ドル(12,000円)が決算期末において1ドル100円となっていた場合(10,000円)、その評価差額2,000円が為替差益として認識されます。
損益計算書に記載される段階では為替によって得られた利益と損失をすべて通算し、最終的に利益額の方が大きければ為替差益として表示します。

 

為替差益が発生するもととなった取引や資産・負債(輸出や輸入、外貨建て預金など)を確認し、継続性を判断します。
しかし為替の変動による利益や損失は予測が難しいので、この場合営業外収入が継続して見込めるかという判断までは難しいでしょう。この企業には為替変動によるリスクがあると認識する程度にとどめるしかありません。

 

 

 

3-4 特別利益で黒字化していないか

特別利益は、通常の経営活動とは直接関係ない特別な事情で「臨時的」に「重要な金額」で発生した利益のことです。
「特別な事情」で発生しているわけですから、基本的には一過性のものです。
従って最も重要な指標「経常利益」が赤字であるにもかかわらず特別利益で「税引前当期純利益」が黒字となっている場合、来年が同じように最終的に黒字となるかは非常に危ういといえます。
経常利益が赤字だった企業が特別利益で黒字となっている場合、本業がうまくいっていないケースが考えられますので注意が必要です。

 

 

4 赤字であっても安心できる場合

一方「経常利益」が赤字であっても、それほど心配しなくていい場合もあります。
ケースごとに解説します。

 

 

 

4-1 原価率の悪化が一時的

(解説)

売上総利益を算定する上で重要である売上に対する売上原価の割合(原価率)が高いものの、理由がはっきりしていてその理由も一時的な場合は安心できます。
原価率が高いということは、言いかえれば利益率が低いということです。

 

利益率は高ければ高いほうがいいのは当然ですが、様々な理由で上下することもあります。
例えば扱う商品が自動車のようにある一定の期間ごとに改良されるものである場合、改良直前では値引かなければ売上が上がらないでしょう(利益率が低くなります)。
しかしこの場合の利益率の悪化は、原因がはっきりしていて一時的でもあるためそれほど心配する必要はありません。新しいモデルが発売されれば利益率を好転させる可能性があるからです(新しいモデルが売れるかどうかの心配は残りますが)。
利益率の悪化がはっきりしていて一時的であれば、今期の損益計算書に示された経営成績が好転する可能性が認められますので、大きく心配しなくてもいいでしょう。

 

一方利益率の悪化がはっきりせず、一時的かどうかもわからないときは注意が必要です。
外部の人間がそれを見分けることは困難ですが、次の方法によりある程度推測することはできます。

 

(見分ける方法)

過去数年間の損益計算書を見比べて、原価率がどう変動しているかをチェックします。
その変動と業種から原価率の悪化が一時的かを推測します。
例えば原価率が5年程度のスパンで定期的に変動している販売業の場合、当期の原価率が悪化していたとしても数年内にでも好転することがある程度見込めることになります(必ずとは言い切れませんが)。
しかし原価率が数年にわたりずっと悪化している場合、今後の好転を推測することはできません。
数年の損益計算書を見比べることで原価率の変動を把握し、当期がどのような状態かを判断します。

 

 

 

4-2 計上された減価償却費が大きい

(解説)

所有する資産が大きく、適正に減価償却した結果により減価償却費が多額となり赤字となるケースです。
先ほど解説しましたが、減価償却費を費用に計上することは具体的に費用となる何かのためにお金を払うことではありません。
ひとつの見方では、あくまで資産価値が目減りしていくことを会計上の費用として表現しているに過ぎません(資産の費用化といいます)。
よって費用として減価償却した金額は、具体的に資金が支出されるわけでなく手元に残ります(自己金融効果といいます)。
減価償却を行った結果赤字となっても、減価償却した分だけ資金が手元に残っているので金融機関などの専門家はそれほど問題視としません。

 

(見分ける方法)

決算書に添付されている固定資産台帳を見れば、償却の対象となっている資産や償却金額の算出方法が記載されています。それを見れば適正に減価償却されているかが分かります。
そして数年見比べれば、償却すべき資産にもかかわらず償却していないものがあるかが分かります。
また、貸借対照表にも償却の対象となっている有形無形の固定資産の額は記載されています。
適正に減価償却されている限り、減価償却により赤字となってもさほど心配する必要はありません。

 

 

 

4-3 営業外支出が一過性のもの

(解説)

本業以外の支出「営業外支出」により赤字となっているものの、その支出が一時的であるケースです。
本業以外の支出とは金融機関への支払利息、手形売却損などの利息とみなされるもの、売買目的有価証券の売買損失、開業費などの繰延資産の償却などがあります。
このうち利息とみなされるものは一過性なものではないため、ある程度の金額が毎期発生すると考えます。
一方売買目的有価証券の売買損失などは通常一過性のものと考えられますので、あまり心配する必要はありません。

 

(見分ける方法)

通常決算書の付属書類、勘定科目明細に営業外支出の明細が記載されています。その記載から一時的なものかを読み取ります(損益計算書の勘定科目だけで分かる場合もあります)。
一過性のものが大半を占めていれば、営業外支出によって赤字となっていても安心していいでしょう。

 

 

 

4-4 特別損失で赤字となっている場合

(解説)

先にも解説した通り、特別損失は通常の経営活動とは直接関係ない特別な事情で「臨時的」に「重要な金額」で発生した損失のことです。
従って基本的に特別の事情により発生した損失ですので、一過性であるのが当然となります。
経常利益まで黒字だった企業が一過性の特別損失で赤字になってもそれほど心配する必要はありませんが、当期の特別損失が一応「特別な事情」であることは確認しておいた方が安心です。

 

(見分ける方法)

やはり通常決算書の付属書類、勘定科目明細に特別損失の明細が記載されていますので、その記載から一時的なものかを判断します(損益計算書の勘定科目だけで分かる場合もあります)。
内容が不動産などの固定資産の売却や除却による損失、子会社等の関係会社株式の売買による損失、火災などの災害損失で一時的なものと判断できれば問題ないでしょう。
しかし固定資産の売却や除却が続くことが様々な情報源により判明している場合は、一時的と安心するには早いケースもありますので注意が必要です。

 

 

5 貸借対照表から読み取れるポイント

これまでは単年度の経営成績が記載された損益計算書から赤字か黒字かを見分けるポイントを解説してきました。
一方ある時点での財務状態を記載している貸借対照表からも、その企業を判断する上で大切なことが読み取れます。

 

 

 

5-1 繰越利益剰余金

貸借対照表の一番右下の資産から負債を差し引いた差額部分「純資産(自己資本)」の中に「繰越利益剰余金」という項目があります。
任意積立金の取り崩しや配当がないものとして簡単に解説すると以下の式となります。
「繰越利益剰余金」=「当期純利益」+「繰越利益」
つまり今期の最終結果「当期純利益」に前期まで繰り越されてきた「繰越利益」を加えたものが「繰越利益剰余金」となっているわけです。

 

この繰越利益に着目すると、過去の経営成績の見当がつけられます。
繰越利益とは文字通り過去の利益が繰り越された結果ですので、この項目がプラスであれば設立からこれまでトータルでは黒字だということになります。
一方この項目がマイナスであれば、設立からこれまでトータルでは赤字だということになります。
損益計算書で読み取れる「今期が赤字か黒字か」の情報に加え、貸借対照表で読み取れる「設立からこれまでトータルで赤字か黒字か」の情報も踏まえた上で対象企業の状況を判断すると万全でしょう。
具体的に解説すると、次の4つのパターンが考えられます。そのパターンごとに解説します。

 

①今期が黒字でこれまでトータルでも黒字の場合

一番無難なケースです。
これまで解説してきた方法で損益計算書の売上総利益、営業利益、経常利益と当期純利益を見分けて問題なければ安心できる企業と考えていいでしょう。

 

②今期は黒字だがこれまでトータルでは赤字の場合

ちょっと微妙なケースです。
これまでの苦境を克服しつつあるともいえますが、今期を見かけ上黒字としていることも考えられます。
今期の損益計算書を丹念にチェックしたほうがいいでしょう。
これまでトータルでの赤字額と今期の黒字額の関係も大事です。トータルでの赤字額が大きければ、今期が多少黒字でも気の抜けない状況といえます。

 

③今期は赤字だがこれまでトータルでは黒字の場合

微妙ですが、②よりは安心できます。
今期の赤字原因について損益計算書を丁寧に読み取って把握し、特別損失が主な原因であるなど赤字が今期限りと判断できれば心配はしなくていいでしょう。
仮に今期限りと判断できなくてもこれまでトータルでの黒字額が大きければ、しばらくは大丈夫と判断できます。しかしずっと大丈夫とは判断できませんので、今後を注意深く見守る必要はあるでしょう。

 

④今期が赤字でこれまでトータルでも赤字の場合

一番良くないケースであることは誰でもわかると思いますが、このケースでもあまり深刻ではないケースもあります。
第一に今期の赤字額もこれまでトータルでの赤字額も小さい場合です。問題ないと判断する額は月商などから推測します。ともに月商の1か月分以内であれば急変することはないと判断していいでしょう。
次はこれまでトータルでは赤字でも、今期の赤字額が縮小してきている場合です。どこまでトータルでの赤字に耐えられるかという不安は残りますが、少なくとも好転している兆候があるのとないのとでは大違いです。今期と同じように来期の赤字幅が縮小すれば、来期は黒字が達成できるようなケースだとかなり期待が持てるといえます。

 

 

6 まとめ

いかがでしたでしょうか。財務諸表は複式簿記に基づいて公正妥当と認められた会計基準により作成されていますが、必ずしも実態をすべて正確に表していないこともありうります。作成経緯を外部のものがすべて把握することは不可能ですが、ポイントを絞って注意深く見ることで本当は赤字か黒字かを推測することは不可能ではありません。今記事を参考にぜひ対象企業の決算書を読み解き、本当は赤字か黒字化を見分けてください。

 

 


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