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融資の基準、融資担当者から高評価を受ける決算書のポイント

企業は必ず年1回決算を行い、決算書を作成します。この決算書は融資の申し込みをするとき金融機関が一番重要視する書類です。今回はビジネスマンにとって決算書の基本的なこと、要注意のシグナルが表れやすい点、金融機関に評価されるポイントを紹介しますので、是非参考にしてみて下さい。

 

 

1 決算書の基本事項の読み方

1-1 決算書とは何か

お金を貸すときに一番気になることは「ちゃんと返してもらえるか」ということです。金融機関で融資を受けるときに最初から返すつもりの無い人はいません。お金を借りる人は返済する目処があるからお金を借りる決断ができます。金融機関は融資のプロですので、お金を貸すとき口約束だけでは絶対融資をしません。どのように返済をしてもらえるか、しっかりした計画をみてその計画に納得性がある場合に融資をします。

 

もちろん計画は絵に描いた餅ではいけません。「会社がこれまでどのように営業してきた、そしてこれからの予想はどうなるか」ということを明示しなければなりません。この計画を作る上で一番大切な書類が決算書です。

 

決算書は1年間のその会社の経営内容を集計したものです。会社は年1回決算をして利益等から税金を払う決まりになっています。当然内容に嘘偽りがあってはなりません。会社が儲けて利益がでた場合、きちんと利益を申告して英金を納めます。赤字であれば赤字決算をしなければいけません。良くも悪くも会社の生の内容が記載されます。そのため金融機関は融資の申し込みがあったとき、社長からいくら立派な返済計画の説明があっても、決算書の提出を依頼します。

 

1-2 貸借対照表と損益計算書

決算書は分厚い1冊の本のようなものになっています。金融機関は主に以下のページをみて企業分析を行います。

 

  • 貸借対照表
  • 損益計算書(製造減価報告書・付属明細)

 

 

1-3 貸借対照表とは

貸借対照表(バランスシート)とは、どの会社にも必ず儲けられている決算日時点の会社の財産状況を一覧表にしたものです。この一覧表をみると、左右で2つに分かれていることがわかります。左側は「資産の部」といい、一方右側は「負債の部(借入)」と「純資産の部」といいます。

 

①資産の部

資産とは会社の財産のことです。広い意味での財産であり、お金や土地などの所謂財産の他、商品を販売してお金が入ってくる予定額なども入ります。

 

  • 現金・預金
  • 売掛金・・・ 得意先に掛販売して未入金の状態である立て替え分です。言い換えるとお金をもらう権利です
  • 在庫・・・販売するまで自社で蓄えている商品です
  • 固定資産・・・設備や土地建物
  • 投資等・・・ 保険積立金や投資有価証券が書かれています。この書き方にもルールがあって、上から換金性の高いものから並んでいるわけです。

 

後述しますが、決算を実際よりも良く見せようと誤魔化す決算、いわゆる粉飾決算はこの資産の部で行われます。
また誤魔化すつもりがなくても、会社決算内容と実際の財務内容が大きく異なっている会社が数多くあります。精査や内容チェックが不十分になりがちなのが資産の部なのです。

 

②負債の部

負債とは「借金」の事です。ここ言う借金とは広い意味での借金です。別にお金を借りているわけではなくても、誰かに立て替えてもらっているものも負債となります。いずれ払わなくてはならないもの、つまり支払う義務のある金額です。

 

  • 買掛金・・・材料を仕入するとき、支払は月末にまとめて支払うケースがあります。月末まで相手に支払を待ってもらっているわけで、お金を借りていることと同じ意味になります。よって買掛金として負債に計上します。
  • 短期借入金・・・ 金融期間から借入したお金で1年以内に返済しなければならない金額です。会計の世界では1年までを短期、それ以上を長期といいます。

 

ではなぜ折角借りたお金を1年以内に返済しなければいけないのでしょうか。先ほどの売掛金・在庫を思い出すと、売掛金・在庫がお金になるまで資金繰が苦しい時に金融機関から借入するときは1年以内の短期借入金にしてなければならないというセオリーがあります。売掛金・在庫がお金になるまで通常2~3ヶ月です。商品が売れたら即返済しなければなりませんので1年以内としなければいけないのです。

 

  • 長期借入金・・・資産の部で固定資産というものがありました。土地建物・機械設備などです。長期借入金はこのような固定資産に投資をするときに借り入れするお金です。固定資産に投資してもすぐに回収できるものではありません。投資効果は長い時間をかけて少しずつ利益にでてきます。よって返済期間も数年間の長期で返済しなければならないのです。

 

③純資産の部

一覧表の右下部分です。
この中の「資本金」とは会社を立ち上げるとき、株主から集めた出資金分です。利益剰余金過去から積み重ねた利益の合計となります。後述する損益計算書で算出された利益分がのっています。利益が毎年黒字であれば問題ありませんが、赤字が続くと純資産(自己資本)が少なく、いつまでも強い会社になることができません。

 

 

1-4 損益計算書とは

貸借対照表が決算日時点であったことに対して損益計算書は1年記載したものです。売上・仕入・経費を差し引いた後黒字か赤字だったのかは、損益計算書をみれば一目瞭然です。
収入ー支出=利益で成りなっているので、小遣い帳に近いイメージです。

 

①収入(売上)

企業の会計年度は1年間です。どの会社も原則1年に1回決算を行い、税金を支払います。よって、決算書の売上というのはその企業が1年間で売り上げた合計です。当たり前のようですが、会計期間が1年間と決められているからこそ、その会社の売上が安定しているかどうかは数年分の決算書を見比べてみればすぐわかります。例えばコンビニなどが一番売上があがるのは夏と言われます。冬場に売上が落ちたとしても決算月は毎年かわりません。年間の売上合計が減少している場合、何か原因が考えられるため要注意です。

 

②支出

損益計算書では主に2つの支出項目があります。

 

・売上原価

材料の仕入分を売上原価といいます。前年に繰り越した在庫分と、その年の仕入額の合計から決算時に残った在庫を差し引いた金額です。
その年の売上が多いと、当然仕入れも増えていますから毎年金額は変動します。もし売上に変化がないにもかかわらず売上原価が増えている場合、原因を突き止める必要があります。最近は材料・原油など値上がりが続いています。一方販売競争が厳しく、特に中小企業はなかなか値上げができない状況です。このような場合、売上があがらないけど仕入負担が増えることになり、後述する売上総利益率(粗利率)が悪化し、経費が払えにくくなるのです。

 

売上原価=期首棚卸高+当期仕入高ー期末棚卸高

 

最後に期末棚卸高を差し引くのは、売れ残った分は今期の売上に関係ないので、仕入とはみなされません。つまり今期の経費ではないということです。

 

逆に言うと、期末在庫が多ければ多いほど損益計算書上の経費は少なく済みます。つまり利益が多くなり、利益調整につながりやすい科目となります。

 

・販売管理費

支出項目2つ目の販売管理費ですが、これは売上に関係なく固定的に支出する経費が中心です。給料・社会保険料・電気代・燃料・修繕費・在庫保管料などです。あと建物・機械設備などの固定資産の減価償却費を含みます。

 

土地を除く固定資産は最初に買うとき大きな出費を伴いますが、買った年の経費に全額計上してしまうと赤字になってしまします。設備というとは年々古くなっていくのと引き換えに会社に利益をもたらしてくれます。

 

そこで会計上は数年間かけて設備の金額を形式的に少しづつ費用として計上し続けなければならない決まりがあります。これを減価償却といいます。形式的な費用ですから実際にお金を出金するわけではありません。決算書上で経費を支出したように計上するのです。融資の申し込みをするときも金融機関は減価償却費を費用とみなさず審査をしてくれます。

 

③利益

損益計算書では4つの利益が出てきます。先ほどの支出項目ごとに利益が計算されます。

 

・売上総利益=売上ー売上原価 ・営業利益=売上総利益ー販売管理費 ・経常利益=営業利益+営業外収入ー営業外費用(受取配当金  支払利息など) ・当期利益

 

決算書は一般的に利益があがっていればいいと言われます。企業は生き物です。単純に営業だけ専念できればいいのですなかなか思うように行きません。得意先が倒産で貸倒が発生したり、従業員が退職し退職金を支払うこともあります。会社が保有していた株式が大きく値下がりし売却しなければならないこともあります。また保険が満期になり思わぬお金が入ってくることもあります。

 

金融機関が審査にあたり注意することは、売上総利益と営業利益がプラスかということです。この2つの利益は本業による利益です。万一この2つの利益がマイナスであれば、本業でマイナスになっているということになります。

 

先ほどの貸倒・退職金・株式売却損・保険満期金などはいわば突発的なもので営業とは直接関係がなく、毎年発生するものではありません。よって営業外損益または特別損益で計上するので、計上利益または当期利益に影響します。やや乱暴な考えかもしれませんが、仮に経常利益や当期利益がマイナスであっても、その原因が明確で、売上総利益と営業利益に問題がなければ審査でも大勢に影響はありません。

 

仮に当期利益が黒字であっても、他3つの利益がマイナスでは要注意です。なぜ利益だけで4つもあるのかと言うと、その会社がきちんと本業で利益を出しているか確認するためなのです。

 

 

1-5 貸借対照表と損益計算書はつながっている

ここまで貸借対照表と損益計算書を説明しました。会社決算でなぜ2つの書類が必要なのでしょうか。実はこの2つの書類は別々であっても密接につながっていてそれぞれの機能があるので2つにわかれています。

 

貸借対照表では資産の部から説明しましたが、会社というものは一番初め株主の出資からスタートします。株主から集めたお金で営業をはじめられる商品や備品・機械などを購入します。もし出資金で足りなければどこからか借りなくてはなりません。つまり貸借対照表の右側である「負債の部」と「純資産の部(資本金と利益)」の合計で右側の資産を買い揃えるわけです。そして1年間頑張って営業し、損益計算書で売上から仕入・経費を差引き利益を計算します。利益は貸借対照表の利益剰余金に加算されます。

 

そして2年目はまた1年目で得た利益と純資産と負債で資産に投資しながら営業活動を行ないます。このように貸借対照表と損益計算書は密接につながっているのです。
会社経営で一番重要なのは、株主から集めた出資金と借入したお金、営業活動で得た利益が資産の部でちゃんと利益を生むものに投資されているかということです。もしお金を生まない事業と関係のないものに投資していたり、投資しても全く価値が無くなっていたとすれば経営破綻が近いことを意味します。

 

 

2 良い決算とは

「良い決算」「悪い決算」と言われますが、具体的に何をもって判断されるのでしょうか。

 

 

2-1 決算書には統一のルールがある

決算書は1年の営業活動をそのまま集計したものです。集計の仕方は会計基準で統一されています。会社の大小・いろいろな業種であっっても基本的にルールは同じです。会社が大きくなると場合によっては世間に決算書を公開公表しなければならないケースもあります。

 

つまり業種や規模に関係なく、どのような会社であっても決算良し悪しの判断基準は同じであり、理論的には損益計算書を見て、次のような決算であれば良い決算と言うことができます。

 

 

2-2 売上があがっている

売上があがるというのは商品が前の年よりもたくさん販売できているということです。以前のデフレ時期とまでは行かなくでも最近では品質・値段ともに競争力が求められるようになってきました。少子高齢化の波が押し寄せ、今まで売れていた個数が徐々に少なくなっていくでしょう。

 

現代は競争社会で、同業者でパイの奪い合いになっています。優れた会社が生き残っていく傾向は今後も続き、売上が上がる会社と、下がる会社で二極化することでしょう。そのような意味から、年々売上が上がっているということは、何かしらの工夫があって、新しい販売先を上手に見つけていると考えられます。ただし、売上が上がっていてもそれだけでは安心できない難しさがあります。無理をして売上を上げているかどうかは、次の利益を見ればわかります。

 

 

2-3 利益が計上されている

利益は、「売上ー仕入ー経費」で求めることができます。

 

売上が上がれば当然利益も増えます。また、経費が少なければ少ないほど利益が増えます。
バブル崩壊、リーマンショックを経てかなりの企業が倒産、淘汰されました。今生き残っている企業はリストラ等で経費を切り詰めるところまで切り詰め、企業努力があったからこそ生き残っっています。経費の無駄を削ぎ落とした筋肉質な経営になっています。このように決算書の損益計算書が万一赤字となっている場合、売上が少ないのか、経費が多すぎるのか、まず2つの側面で分析する必要があります。

 

 

3 融資判断における要注意ポイント

決算が黒字であれば問題なく、赤字であれば要注意で原因を突き止める必要があると述べましたが、世間一般では決算が黒字であれば大丈夫と考えられています。

 

 

3-1 決算書にはリスクが潜んでいる

しかしお金を貸す金融機関の判断基準はシビアです。実は黒字か赤字かで判断できるほど簡単ではないのです。損益計算書では1年間の収支によりリスクが判断できます。そしてもう一つの貸借対照表では目に見えないリスクが沢山隠れています。

 

 

3-2 決算書の良し悪しと融資判断は別

決算書は会社が年間の収支をまとめて税金を払うために作成されます。ここの年間の収支というのは、前述の売掛金・買掛金などの実際商取引はあったが、未だお金が動いていないものも含まれます。また販売に至っていない在庫は売上原価原価から控除され、会社の資産として残ったままです。

 

一方お金を貸す金融機関にとっては毎月現金で返済してもらわなければなりません。つまり融資をするにあたっては、売掛金・買掛金が全部精算されるのか、なおかつ残っている在庫が問題なく販売できるのかなど、主に貸借対照表の左側部分、すなわち資産の部の信憑性について詳細にチェックするわけです。

 

企業は株主から集めた出資金と第三者から借入した負債で貸借対照表の左側である資産に投資し営業をスタート、1年間で得た利益を純資産に組み入れてまた資産の部に投資する繰り返しで発展するものでした。経営判断のミスで万一投資判断を誤ると、折角得た利益が金を産むどころか死んでしまいます。そしてその判断ミスは会社の資金繰りに大きく影響を与えます。

 

 

3-3 売掛金が増えすぎている

損益計算書上で売上が増えていると安心です。ただ採算度外視で安売りばかりで利益が伴っていなければ利益が出ません。

 

さらに懸念事項はきちんと売上したお金が回収できているかということです。過去から商売の世界では、掛販売という慣例があります。お互いの信頼関係でモノを売り買いする時、支払は月1回など特定日に限定して支払事務を効率化するやり方です。「毎月◯日締め、翌月◯日払い」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。売掛金が多いということは、この掛取引のために、商品が沢山売れてもお金が入って来ない状態ということです。企業は絶えず営業をしています。入金を待つ間でも仕入をしなくてはいけませんし、給与も支払わなければなりません。一見売掛金が増えているのは良いことに見えますが、企業にとっては資金繰りが大変なことなのです。売掛金が増える要因は次の通りです。

 

①売上が増えた

売掛金とは、販売が完了し、決算書の売上計上されたもの入金になっていない分です。売上が上がると普通は売掛金も増えます。その分資金繰は大変ですが、状況としては健全と言えます。金融機関に相談すれば売上が入ってくるまでの短期資金としてお金を貸してもらえやすいです。増加運転資金ともいいます。

 

②立替期間が長期

「◯日締め、◯日払い」といった掛取引の世界では、相手が大手になればなるほど長期化する傾向にあります。売上したものでも数ヶ月待って漸く入金になるものもあります。このように締めが遅い取引先が多いと売上の多い時期の売掛金が多くなります。ただこれも要因が明確なものですから入金時期がはっきりしている場合は金融機関に相談すると融資をしてくれます。「入金になるまでつないでもらう」という意味から「つなぎ資金」あるいは「季節資金」ともいいます。

 

注意したいのは、販売先に変更がないのに立て替え期間が長期になることです。つまり取引先が「支払を待ってくれ」という場合です。当然入金が先送りになるので消し込みができません。売掛金が残ったままとなります。支払が先延ばしになる要因に妥当性があればいいのですが、そうでない場合焦げ付きの可能性が出てきており要注意です。

 

 

3-3 受取手形が多い

会計の世界では現金で払うものを売掛金・手形で受け取るものを受取手形といいます。手形とは支払をするものが「今お金がないが、◯月◯日に支払いをする」と約束するものです。お金をもらう側からすると支払が先送りされてしまいますが、手形を金融機関に持ち込むと割引といって、手形を担保に融資をしてもらえるメリットもあります。

 

一旦手形を振出した側は期日に支払をしないと不渡となるのでほぼ間違いなく入金になると考えて良いのですが、心配な点があります。手形というものはクレジットカードと同じようなものです。今お金がなくても無限に振り出せることが出来ます。クレジットカードの場合が利用限度額で制限がかかりますが、手形はただの紙なのでチェックがかかりません。販売先が普段現金で支払ってくれているのにある日突然手形で支払うと申し出があれば注意して下さい。

 

 

3-4 在庫水増し・不良在庫がある

商品を仕入れして販売になるまで自社で保管しているものを在庫といいます。店頭に並んでいるものや、倉庫に保管しているものです。また製造業では工場で製造中のもの(仕掛品といいます)も含まれます。在庫であるので当然近いうちに売れる見込みのあるものですが、最近の様に流行り廃りが早いと、売れ筋の商品であっても直ぐに流行遅れとなり計画通りに販売できず、いつまでも店頭や倉庫に残ったままとなる恐れがあります。在庫が多いというのは、次のような悪影響があります。

 

 

3-5 所要運転資金が増えすぎている

社長さんが「資金繰りが苦しい」と言っていることを聞いたことがあるかもしれません。これは儲かっていないということと少し意味合いが異なります。まあまあ売上があっても、手元に現金がない為資金繰りが苦しいのです。運転資金とは本来在庫を持たず現金取引であれば問題ないものが、掛取引と在庫負担があるために余計に必要となる支払に備えた準備資金のことです。次の計算で算出されます。

 

所要運転資金=売掛債権(売掛金と受取手形)+在庫ー買掛債務(買掛金と支払手形)

 

キャッシュフローという言葉があります。運転資金とはこのキャッシュフローの考え方で計算されるものであり、「売掛債権と在庫が多ければ多いほど不利、買掛債務が多いほど有利」となります。在庫が増えているということは、仕入した商品が売れないということです。売掛債権と在庫は資産ですので一見増えると問題ないと思われるかもしれませんが、運転資金・キャッシュフローでは違います。ただお金をもらう権利だけが増えているだけで、銀行の通帳にはお金がないままなのです。同じように買掛債務という負債が増えると心配かもしれませんが、相手に支払を待ってもらっている、立て替えてもらっていることにあるので、その間他の支払に回すことができることから、運転資金では有利なのです。

 

このように決算書の世界とキャッシュフローの世界とでは考え方が真逆になってしまうため、在庫が多いと次のような影響が発生します。

 

①保管費用がかかる

在庫は商品であり、売れるまで大切に保管しなければなりません。自前の倉庫があればいいのですが、場所に困る場合は倉庫を借りる必要があります。商品の保管場所が別になると倉庫代など保管費用が余計に発生するだけでなく、営業活動に充てられる時間を犠牲にして商品を取りに行く手間も発生します。このような損失は決算書に出てくるものではありませんが、機会損失といって、本来であれば得られたであろう利益が無くなったという意味で損失と見なされます。

 

②利益がかさ上げされる

在庫が増えることで見えない影響があります。それは在庫が増えると計算上利益が増えるということです。「売れ残りが増えたのに、何故利益が増えるのか」と疑問に思われるかもしれません。これも決算書とキャッシュフローの考え方が異なる事に起因します。更に在庫で利益が増えると決算書では良いかもしれませんが、本当にその在庫が売れるのかという疑念も出てきます。そして在庫調整により恣意的に利益を増やしている恐れすらあるのです。

 

損益計算書の売上総利益と売上原価の計算式を思い出してみましょう。

 

売上−売上原価=売上総利益 売上原価=期首棚卸在庫+仕入−期末在庫棚卸高

 

期末というのは決算日のことです。売上原価の計算で最後に期末棚卸高を引くので、在庫が多ければ多いほど売上から差し引かれる売上原価は少なくなる、すなわち売上総利益が増えます。貸借対照表でも棚卸資産の金額が多くなり、資産が増える形になります。

 

ごく一部の話ですが、実際よりも在庫を水増しして利益を嵩上げする悪質な経営者もいます。またそこまで悪質なケースでなくても、将来の売れる見込みのない不良在庫を倉庫に保管したまま何年も計上して、結果として在庫が増えて、実際よりも利益が出たように見える場合があります。

 

お金を貸す金融機関は、在庫の金額が適正なのか必ずチェックをします。場合によっては倉庫まで出向いて調査をする金融機関もあります。万一全く値打ちのない在庫と判断した場合は、その分を差し引いて利益を再計算し、審査を行います。不良在庫を差し引いて再計算すると、売上原価は高くなり、売上総利益は少なくなります。また貸借対照表では棚卸資産が控除された分資産が減り、資本の部の利益剰余金が少なく算出され、会社の真の姿が明らかになります。

 

 

3-6 貸付金が多い

会社は本来、出資者からお金を集めて事業を行い、得た利益のうちから税金を支払うという公器の役割があります。尤も個人で事業を始められ、軌道に乗った後に法人成りするケースが殆どかもしれません。時折、法人になってからも個人で営業していた時の癖からか、会社のお金と個人のお金が丼勘定なっている会社があります。つまり会社のお金を個人で流用している状態です。実態はともかく、会社と社長は法人・個人の別人格です。仮に社長が会社のお金を使えば、社長からお金を返してもらわなければなりません。

 

そこで貸付金という資産項目を使い、社長から返してもらうまで計上されます。会社にとっては社長から返済してもらう権利であるから資産なのです。決算書の資産に貸付金計上がある場合、その中身をチェックしなければなりません。貸付先は社長なのか第三者なのか、間違いなく返済してもらえるお金なのか調査を行います。普通の会社は本業に専念しています。たとえそれが社長であっても、誰かにお金を貸すということは通常ありえません。不明瞭な貸付金は会社の財産と見なされないため、融資の審査では資産から控除する場合がほとんどです。

 

 

3-7 買掛金が多い

売掛金は販売した商品代が入金になるまで計上するものでした。買掛金はその反対、仕入した代金の未払分です。言い換えると支払を待ってもらっていることからキャッシュフローの世界では買掛金が多ければ多いほど有利に働きます。
しかし決算書では、負債が増えることなります。買掛金が不自然に増えている場合、もしかすると支払が滞っている可能性があります。売上が増えると言う事は仕入も増えているので、売掛金・買掛金とも同じように増えるのが正常です。

 

運転資金=売掛債権+在庫ー買入債務の計算式の通り、売掛債権・買入債務が同じだけ変化すすれば運転資金の額は同じです。
しかし売上債権が増えていないにもかかわらず買掛金ばかりが増えている場合は、理由を突き止める必要があります。買掛金が増えているということは未払が増えているということです。

 

 

3-8 支払手形が多い

受取手形と反対で、支払手形が多いということは、買掛金と同様、支払の先延ばしが増えているということです。クレジットカードの使いすぎに近いイメージです。手形は降り出した人が決められた日に必ず支払わなければならない決まりがあります。万一決済できなければ不渡りといって、事実上の倒産を意味します。よって支払手形が多い場合、間違いなく返済できるのか調査を行います

 

 

3-9 長期借入金が多い

長期借入金とは本来、機会設備や土地建物など、長期借入金で行った設備投資で得た利益の中から少しずつ返済をするものでした。
ところが設備投資がないのに長期借入金が異常に増えている場合があります。考えられるケースは損失補填の為の借入です。損益計算書の販売管理費は、たとえ販売不振であっても必ず発生する固定費を計上するものでした。

 

売上が下がる、在庫が売れ残る場合でも必ず発生する支払があります。売上不振が一時期ならまだいいのですが、回復の見込みが無い場合、少しずつ挽回していくしかありません。この場合に長期借入金で凌ぐケースが多いです。本来借入というのは利益の中から返済します。売上が入る度にマメに返済しないと、どんどん借入が膨らみます。

 

このような長期借入金は利益で返済すると言うよりも、問題の先送り的な穴埋め資金です。毎月少しずつ返済しながら時間を掛けて挽回する意味から、少し位の借入なら問題無いですが、何本も積み重なると毎月の返済そのものが厳しくなります。
返済する為にまた借入を重ねて、最悪の場合資金が行き詰まって破綻してしまいます。短期資金と長期資金の使い分けは非常に重要です。時々返済が楽だからと何でも長期資金で借入する経営者がいますが、借方を間違えると非常に怖いリスクにつながります。

 

 

3-10 減価償却をしていない

減価償却とは損益計算書で見た通り、設備投資額を一定期間かけて少しずつ費用計上するものです。機械設備や工場などの建物(土地は除きます)など多額の出費であり、一度に計上することはせず、数年間掛けて償却していきます。損益計算書で機械・建物を減価償却費計上した分が貸借対照表で年々減っていく(減価する)わけです。

 

時々、この本来行うべき減価償却を意図的に実施していない会社があります。償却を計上すると赤字になってしまうからです。貸借対照表を2年分並べても固定資産が減っていない状態です。一応、会社決算的に償却を実施しなくても問題無いようですが、融資審査からすると計上すべき費用が計上されておらず実際よりも利益が嵩上げされていると見なします。また在庫水増しと同様、固定資産が減価されていないですから、決算書と実態で資産の額が異なると判断されてしまします。

 

 

3-11 投資が回収できていない

会社は株主から集めたお金と、第三者から借入したお金で、その会社で使う資産に投資し営業を開始します。そして得た利益を純資産に組み入れてまた資産に投資を行い利益を得る、その繰り返しで成り立っています。ところが残念ながらせっかく得た利益が無駄なものに投資されてすまうケースがあります。かつてのバブル期はブームに乗っかり、土地やゴルフ会員権の投資が相次ぎました。事業に役立つ利益を生むものなら良いのですが、大部分が投機目的で結果価値が大きく値下がりすることになりました。

 

最近でも暴落した株式や、新事業として始めるにあたり購入した不稼働の機械設備、貸付金、得体の知れない投資ファンドなど本業とは関係のない資産に投資している企業が結構存在します。また先ほどの売れると思って仕入したものの、流行が過ぎ去って売れる見込みが無くなった在庫も含まれます。これらの資産で利益をもたらさないものは、資産であって資産ではありません。金融機関はこれらの不良資産を総て控除して実態の貸借対照表に引き直しをしています。

 

 

3-12 債務超過である、もしくは純資産が少ない

これまで主に貸借対照表の左側である資産の部について述べてきました。

 

  • 貸倒れを含む恐れがある膨れ上がった売掛金
  • 売れない商品を含む在庫
  • 不明瞭な貸付金
  • 償却をしていない機械設備
  • 回収見込みの立たない投資

 

仮にこれらを総てゼロとみなせばどうなるのでしょうか。

 

今一度貸借対照表を参照下さい。資産=負債+純資産となっています。仮に今日、会社を解散するなら、普通の会社であれば資産ー負債=純資産となるように、純資産分が残ることになります。

 

一方、資産の部が決算書と実際でかけ離れている場合を考えます。
資産−負債=△純資産となる可能性があります。この状態を債務超過といい、仮に今日、会社が解散しても借金しか残らない状態です。業は生きものなので、明日どうなるか誰にもわかりません。そのため会社は純資産というバッファを持ち多少の出来事でも揺るがない強い会社を目指しています。

 

しかし債務超過であれば明日企業が解散すれば借金しか残りません。このような会社はリスクに耐えられないと判断され、融資の相談があっても非常に厳しいものとなります。もちろん債務超過まで行かなくても純資産が少ない場合は体力の無い会社ということになり、やはり融資の対象としては難しいです。

 

 

4 融資担当者から高評価を受けるポイント

決算書は税金を払う為に作成されます。決算書は掛取引で入金や支払が未だでも売上仕入で計上しなければならないことから、決算書で利益が出ていても実際の資金が不足することがあり得ました。

 

 

4-1 金融機関はどのように決算書をみているか

一方金融機関の返済は掛というわけにはいかず、現金で返済してもらいますので、キャッシュフローつまり現金基準に引き直して精査します。融資担当者は、まず決算書を一通り見てから、キャッシュフローベースで精査します。概ね次のようなアプローチとなります。

 

 

4-2 数年分を並べてみている

損益計算書を見れば黒字か赤字かはわかりますが、それだけの情報では不足です。会社決算は1年だけ見てもリスクが判断できません。手元に2年分または3年分の決算書を用意して、貸借対照表ごと、損益計算書ごと、並べて比較しながら残高の変化を調査しますポイントはこれまで説明した通りです

 

貸借対照表

  • 売掛金、受取手形の増減
  • 棚卸資産の増減
  • 貸付金の増減・・・貸付金が前期と同額、またが増えている場合は返済の見込みが無いものと判断します。
  • 固定資産の償却確認
  • 投資資産の時価評価  会社で上場株式などに投資している場合、多くは簿価といって株を買った時の値段のまま計上されています。株式の価格は日々変動するため、万一決算時点で大きく値下がりしていれば時価に引き直しします。
  • 買掛金・支払手形の増減
  • 借入金の内訳
  • 短期借入金は運転資金の範囲内か 長期借入金に見合う機械設備があるか

 

 

4-3 スリムな貸借対照表であること

決算書とキャッシュフローの考えが微妙に異なることはやむを得ないことです。しかし両方の垣根が低ければ、帳面とキャッシュに生じる矛盾が少なくなります。つまり担当者に一番高評価を受けるポイントはスリムであるということです。

 

・ 売掛金/買掛金ともに早期に決済されて残高が少ない

一般的に営業担当者が優秀な場合、集金をしっかりしているので不必要な運転資金は発生しません。

 

・不良在庫がない

売れない在庫は安売りなどで処分し、早々に手仕舞いをしている  経営者のきめ細かい見極めができている企業に共通します

 

・貸付金など不明瞭な勘定科目がない

公私の区別がしっかりしている証左です。

 

このようにスリムな決算書の企業は経営判断が迅速でフットワーク軽く筋肉質です。実態不明な勘定科目が残る企業はほぼ例外なく問題先送りとしています。

 

 

4-4 返済額<キャッシュフローであること

金融機関は長期資金の審査では「償還能力検討」といって、年間の返済額がキャッシュフロー内に収まっているかを検証します。ここでいうキャッシュフローは「営業利益+減価償却」で計算します。つまり、毎年の利益と減価償却費以上に返済があると、必ずどこかで行き詰ると予想されることから、借入額を減額したり、期間を延ばせないか検討します。

 

一昔前と違って、どの金融機関も最近では担保や保証人をとって融資をすることは少なくなりました。企業に万一の事があっても担保を処分したり、保証人に請求しても全額返済してもらえるケースは少ないためです。どの金融機関もあくまで企業の本業で得たキャッシュフロー内で返済できるかどうかを一番重要視しています。

 

 

4-5 経費に無駄がないこと

会社は株主のものであり、配当という形で株主に還元します。ところが株主を差し置いて経営者が役員報酬という形で多額の報酬を得ているケースがあります。もちろん仕事に見合った報酬は必要ですが、株主の還元や、将来の投資をなおざりにして役員の懐が増えるというのは問題です。信頼のある会社は利益を出した中から配当と納税をしっかり行ない、社会に還元しています。

 

 

4-6 純資産が潤沢なこと

会社が利益をあげる目的は強い会社にすることです。堅実に営業されてきたかどうかは、単年度の収支よりも、利益準備金を見ればわかります。最近の市況は激変しており、好調の時もあれば不調の時もあります。一般的に金融機関は長期的な取引を望んでいるので、単年度の収支よりもどれだけリスクに耐えられるかを見極めます。その目安が自己資本比率です。自己資本/総資本 この数値が概ね40%程度であれば健全な企業と判断します。

 

4-7 決算書以外の情報開示が迅速

決算書は融資の審査で重要なことは間違いないですが、企業は結局「人」の問題です。結局金融機関は帳面に表れない経営者の事業と返済に対する熱意に対し融資をします。詰まるところ人間関係です。決算書ではお金の動きはわかりますが、その会社の利益の源泉である強みやオリジナリティはわかりません。
金融機関からすると、決算書以外に試算表等で主要販売先の納品状況の説明があったり、今後の事業展開などの情報開示が積極的なほど稟議も作成しやすいなどの面があります。金融期間との担当者とは連絡を密にするに越したことはありません。

 

 

4-8 そもそも決算書を100%信用していない

矛盾するようですが金融機関は決算書を100%信用していません。決算書とは決算日から2ヶ月経って漸く出来上がります。金融機関からすると、決算書とは過去の資料です。もちろん決算書は融資判断の最重要書類で必要不可欠ですが、キャッシュフローの考え方と異なる税務諸表としての性格もあります。実務で良く使われるのは、預金取引の状況です。もし会社で普通預金があれば、公共料金など延滞がないか調査します。

 

 


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