株式会社の原則は、株式会社の実質的所有者である株主と経営方針の決定を株主から委ねられた取締役全員で構成する取締役会が分離された、いわゆる「所有と経営の分離」です。株式会社では、株主が頻繁に入れ替わることが想定されており、株主は基本的に経営に無関心と言え、経営への直接参加は望んではいないとも考えられます。
そこで、株式会社は、経営について高い見識と手腕を持つ経営の専門家の合議体である取締役会に会社経営をゆだねる必要があります。そこで、会社法では取締役会について詳細な規定を置いています。起業家にとって、株式会社の重要な機関である取締役会の基本的な知識を習得することは非常に重要です。
目次
- 取締役会とは
- 取締役会の招集手続き
- 取締役会の開催と決議
- 取締役会における書面決議
- 取締役会の権限・権能
- 取締役会の業務執行の意思表示に関する制限
- 取締役会設置のメリットとは
- 取締役会設置のデメリット・注意点
取締役会とは
取締役会とは、株主総会で任命された取締役全員で構成する取締役会設置会社(3名以上の取締役で構成)の業務執行の決定並びに監督を行う会議体の会社の意思決定機関です。
取締役会は、2006年に施行された会社法により、会社の取締役会設置義務はなくなりましが、会社の組織を構築する機関設計等の関連で取締役会の設置が必要とされる場合もあります。また、上場企業の場合は、取締役会の設置が必要になります。取締役会を設けた場合は、取締役のうち1名が代表取締役に選任され、委託を受けた代表取締役または業務執行の委任を受けた業務執行取締役が会社の実務執行を行います。
取締役会の招集手続き
取締役会は、その構成員である取締役の全員が取締役会の招集決定権を有しており、原則として各取締役自身が自ら取締役会の招集を行います(会社法366条1項)。定款等で招集権者が定められている場合(同条但し書き)でも、その他の取締役は取締役会の招集権を有しています。
取締役会を招集するには、取締役会開催期日から1週間(定款で短縮することも可能)前までに各取締役および監査役会設置会社では各取締役及び各監査役に対して、招集通知を発する必要があります(法368条1項)。また、取締役や監査役全員の同意がある時は、招集手続きを経ることなく開催することができます。
取締役会招集の例外として、株主も、取締役が定款に違反する行為をしたり、会社の目的の範囲外、さらに法令に反する行為を行うか、または、その恐れがある場合は、取締役会を招集することが会社法上可能です(法367条)。
株式会社では、「所有と経営」の分離が原則で、取締役会社重要な企業機密等の経営判断を行う合議体なので、実質的な所有者の株主すら出席・招集する権利は原則としてありませんが、取締役の監督のために必要と考えられるときの限り、株主の取締役会招集を認めています。
尚、取締役は、会社から経営手腕を求められ、経営の専門家として経営方針決定の依頼を受けたものである以上、取締役会の議題が如何なるものでも、かからず出席する必要があります。
取締役会の開催と決議
取締役会の開催は、少なくとも3か月に1回開催する必要があります。何故なら、代表取締役、その他業務執行権のある取締役は、最低3か月に1度職務執行に関する報告を行う義務があるからです(法363条2項)。
取締役会の決議方法は、取締役の過半数が出席し、その出席取締役の過半数の決議で決議されます。ただこの決議要件は、定款によって加重することが可能です(法369条1項)。
また、取締役の中には、取締役会の決議事項に特別の利害関係がある取締役がいる場合があります。このような特別利害関係人の取締役は、当該取締役会に参加できません(法369条2項)。例えば、取締役の競業避止義務違反や利益相反行為等の事項に関する取締役の承認判断議決については、当事者である取締役の取締役会参加は認められません。また、代表取締役の決議を議題とする取締役会における、被解任者である代表取締役の議決権行使は認められません。
取締役会の議事内容は、議事録を作成することが必要で、出席した取締役並びに監査役は、これに署名・押印する必要があります。
尚、取締役会に参加して、議事の議決に異議をと止めない取締役は、その議決を容認したものとの推定を受けます。
取締役会における書面決議
取締役会は、原則として他の合議体同様に、一か所に集合して決議を行う必要がありますが、その例外として、電話やインターネットテレビ等の取締役会参加と議決権の行使が認められています。
また、定款に定めがあれば、取締役会の開催を実行することなく取締役全員の合意により、決議することも可能です。この決議方法を「書面決議」と呼んでいます。書面と称していますが、現在では、書面に加え、電子メール等の電磁的記録による取締役の全員の同意があれば、取締役会は有効に成立します。
ただ、業務監督権を有する監査役が提案に対して異議を述べた時は、書面による決議を行う事ができません(法370条)。
取締役会の権限・権能
取締役会は、その決議により、業務執行に関する会社の意思決定とその意思を執行する代表取締役等の執行機関を選定し、かつその執行機関を監督する権能があります(法362条)。
特に、取締役会の重要な権能は、効率的で適正な経営を実現するため、取締役間の相互監督機能や業務執行に対する意思決定権を有すること言えます。
取締役会の最大の権能は、会社の業務執行の意思決定を行うことですが、実際にその業務を執行し、会社を代表する権能をもつ者は、取締役会から権限を委託された代表取締役であるため、取締役会は、代表取締役の業務執行の監督を行うことも取締役会の重要な権限・権能と言えます(法362条2項2号)。
取締役会の業務執行の意思表示に関する制限
取締役会は、所有と経営の分離原則を踏まえ、業務執行の意思表示について広範な権限・権能を法律上認められていますが、取締役会をしても決定できなくぃ会社の決定事項も存在します。
特に、会社の実質的所有者の合議体である株主総会の決議事項の一部は、取締役会の決議のみでは認められない事項があります。
例えば、①会社の根本規定である定款の変更、②資本金を減少する減資、③会社の解散、④吸収合併、⑤事業の重要な一部または全部の譲渡、⑥他社の事業の全部の譲り受け、⑦取締役、監査役の報酬決定等は、株主に直接大きく関連する事項であるため、取締役の意思決定権を制限しています。
これに対し、例えば、①重要な財産の処分、譲り受け、②多額の借財、③支配人その他の重要な使用人の選任、解任、④支店その他重要な組織の設置・変更、及び廃止、⑤社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項の決定、⑥定款の定めに基づく取締役会決議による役員及び会計監査人の会社に対する責任免除の決定等が取締役の主な決議事項として挙げられます(法362条4項)。
取締役会設置のメリットとは
取締役会設置には、いかに掲げるメリットが考えられます。
1.取締役会を設置すれば、株主総会に諮ることなく、取締役会の決議で会社経営に関する重要方具体的な意思決定を行う事は可能です。会社経営は、迅速な対応が迫られる事態に遭遇する場合も多いので、取締役会の迅速な決定は重要です。
2.中小企業では、会社の発起人等の実質上の会社オーナー等で構成する同族会社とのイメージがありますが、取締役会の設置により、対外的に会社の意思決定がより客観的でバランスよく進められているとの印象を与えます。取締役会の存在は、一部取締役の独断を防止することが可能になります。
3.会社は生き物なので、業態や企業規模の変化、また変動する社会的な状況下で、会社の組織系統である機関設計を変更する事態も考えられます。この点、将来における株式譲渡制限を設けない公開会社に移行する場合や一層の会社の監査機能、コンプライアンス重視に信用力を持たせる監査役会の設置会社に機関設計の変更を行うに際しては、取締役家の設置が前提となり、このような場合に、取締役会を未然に設置しておけば、機関設計変更を迅速でスムーズに行う事ができます。
取締役会設置のデメリット・注意点
取締役会には大きなメリットが多数ありますが、取締役会を設置することに対する以下のようなデメリットも考慮しておく必要もあります。
1.取締役会の員数は、最低3人なので、役員の総数は監査役を含めて最低4人以上となり、役員報酬の額が増大します。
2.業務意思決定に関する具体的な事項は取締役会で決定されるので、会社の実質的な所有者である株主からすれば、株主総会の議事決議事項が制限され、物言う株主としては不満が残ります。
3.株主総会の招集について、取締役会を設置していない会社では、口頭による株主総会の招集通知でも容認されていますが、取締役会設置会社では、原則として、株主総会通知を書面で通知する必要があります。
4.定時株主総会の招集に関して、取締役会を設置していなければ添付義務のない計算書類や監査報告書を添付する義務が生じ、会社業務が増すことになります。