昨年話題となったロート製薬による社員の副業(兼業)容認制度。9割以上の企業が副業を嫌う傾向にあるなか、大手のロート製薬が採用した新制度は大きな反響を呼びました。
これを機に副業を認めようとする動きが加速。専業禁止を掲げる企業まで登場しました。政府与党が進める働き方改革の一環として、経産省は「雇用関係によらない働き方」に関する研究会を発足。フリーランスなどの多様な就業形態に関する報告書を作成しています。
目まぐるしく変化する社会構造。副業解禁は果たして日本の働き方にどのような影響をあたえるのでしょうか
目次
- 1 話題となったロート製薬の新制度とは
- 1-1 社外チャレンジワーク制度
- 1-2 社内ダブルジョブ制度
- 2 副業を認める企業増えている!?
- 2-1 容認している企業は2割
- 2-2 副業禁止は8割弱
- 3 政府、雇用関係によらない働き方を推進
- 3-1 「日本型雇用システム」の見直し
- 3-2 問題点は?
1 話題となったロート製薬の新制度とは
昨年2月、製薬会社大手のロート製薬は新しい企業スローガンとして「NEVER SAY NEVER」(不可能は絶対にない)を制定。これを実現させるため、制約を超えた働き方として「社外チャレンジワーク」「社内ダブルジョブ」の2つの新制度を掲げました。
・ ロート製薬が掲げる新スローガン
1-1 社内チャレンジワーク制度
副業・兼業を容認する2つの新制度は、社員のアイデアから生まれ、社員からの自発的な立候補により審査されます。
本業に支障をきたさないものを条件として、土日・祝日・終業後に収入を伴った仕事(=副業)を認めるのが「社外チャレンジワーク制度」です。入社3年目以上の社員に限られ、昨年2月に制定後、およそ1ヶ月間で60名から立候補があったようです。
同社では年に一度、従業員全員に「自分が熱心に取り組めると思う仕事」を「マイビジョンシート」に書き入れるという制度を取り入れており、社員の成長意欲を刺激し、自発的な行動を促します。
人事総務部の蔵方佑介氏は
「社会に貢献できる知識や技術を身につけ、自分の新しい可能性を見出すきっかけにし、その経験を社内でも活かしてほしいと思っています。」
(参照:ロート製薬「ロートな記事」)
と語ります。
1-2 社内ダブルジョブ制度
一つの部署にとどまらず、複数の部門・部署を担当できる制度が「社内ダブルジョブ制度」です。就業時間の一部を、部門の枠を超えて、他部署でも従事することができ、申請後、該当部門と協議のうえ適用されます。他の業務に取り組むことで個人の「多様性」に関する可能性を広げることができるとしています。
もともと、副業・兼業を認める2つの新制度の発表は、企業スローガン「NEVER SAY NEVER」の脇役に過ぎず、ロート製薬としても想定外の反響だったとのこと。しかし、それほど世間の働き方改革に関する関心が強いことを印象付けました。
同氏は
「異動の希望も可能ですが、すべてが通るわけではありません。しかし、思いを持って仕事をしていれば、周囲には伝わります。会社は社員がつくっていくものですし、その社員の成長は「仕事」によるところが大きい」
(参照:ロート製薬「ロートな記事」)
と語ります
2 副業を認める企業が増えている!?
ロート製薬のほかにも副業を認めている大企業はいくつかあり、なかでもヤフーが代表的といえます。事前申請が必要ですが、ITエンジニアを中心に他企業のコンサルティングを請け負うケースが多いようです。
また、ITベンチャーのエンファクトリーは、“専業禁止”を企業スローガンに掲げています。強制ではないですが、自己が主体となるようなパラレルワーク=複業をすることで、生きる力を身につけることができるとしています。
・ 専業禁止を掲げるエンファクトリー
(参照:株式会社エンファクトリー)
・ その他副業を容認している企業の意見
企業名 | 意見 |
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有限会社 ピジョン アシガル屋 | 副業で得た知識を活かして、本業に貢献してくれる。 |
株式会社オー ティーエス | 副業容認が定着率向上に寄与すると期待している。 |
株式会社オルトリズム | ビジネスチャンスをスピーディーにキャッチできる。 |
トレンダーズ株式会社 | 経験豊富なスペシャリストの採用に繋がる |
有限会社山地林業 | 業を続けながら、長く働いてもらうことが出来る。 |
株式会社リクルートキャリア | 自立してキャリアを切り拓く人財の育成に繋がる。 |
株式会社ループス·コミュニ ケーションズ | 個人活動が企業ブランドを高め、企業ブランドが個人に誇りを持たせる |
(参照:中小企業庁「平成26年度兼業・副業に係る取組み実態調査事業)
2-1 容認している企業は2割
リクルートキャリアによる全国の大企業・中堅・中小の1147社を対象とした調査では、「副業を容認している」と答えた企業は22.6%、「推進している」が0.3%であること分かりました。
容認・推進している企業では、「建設業」(26.0%)が最も多く、次いで「サービス業」(24.4%)となります。エリア別では「北海道・沖縄」(30.7%)がトップ、次いで「首都圏」(26.0%)でした。
副業・兼業を認めた理由としては「特に禁止する理由がない」が68.7%で最も多く、ついで「社員の収入増につながる」が26.7%でした。社員が副業する際に会社が要求する条件は「本業に支障が出ない」(60.3%)、次いで「特に条件はない」(35.5%)となりました。
・ 副業を容認している理由
2-2 副業禁止は8割弱
一方、副業を禁止している企業の割合は全体のうち77.2%で、その理由として「社員の過重労働の抑制」が55.7%と最も多くなりました。そのほか、情報漏洩のリスクや労働時間の管理・把握が困難といった理由が挙がりました。
・ 副業を禁止している理由
(参照:リクルートキャリア プレスリリース)
また、兼業・副業に関する就業規則については、「就業規則で禁止している」が48%で最も多くなりましたが、「兼業・副業に関する規定自体ない」とする企業も39.6%ありました。
3 政府、雇用関係によらない働き方を推進
安倍内閣が掲げる一億総活躍プランでは、「ライフステージに合った柔軟な働き方を選択できる社会」を提唱しており、そのための手段として、フリーランスやテレワーク、副業・兼業など働き方の選択肢を増やすことが重要だとしています。
3-1 「日本型雇用システム」の見直し
経済産業相は「雇用関係によらない働き方」に関する研究会報告書のなかで、これまで日本の労働環境の常識だった“終身雇用”“1社就業”に対して、ネット上におけるマッチングなど雇用契約によらない(企業の指揮命令を受けない)働き方が普及すると予測します。
・ 雇用関係によらない働き方
(参照:経済産業省「雇用関係によらない働き方に関する研究報告書」)
3-2 問題点は?
経産省は、「雇用関係によらない働き方」は、労働法の対象としての「労働者」と異なり、自律的・非従属的ですが、働くための環境整備が不十分だと指摘します。
たとえば、個人のフリーランスは法人とくらべて社会的信用力に劣ることもあり報酬が低くなりがちで、報酬改善に向けた交渉も容易ではないといった問題があります。
また病気や怪我で仕事を休むとその分だけ収入を失うなど安定した労働形態とはいえない側面もあります。
・ 「雇用関係によらない働き方」の課題
働き手のセーフティネット | ・ 病気や出産·育児での休業や、受注の悪化や廃業等により収入を失う ・ 公的支援が不十分 |
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働き手の報酬 | ・ 交渉上の立場が弱い ・ 労働法の適用がない ・ 報酬(受注単価)が低額 ・ 報酬支払い遅延のトラブル |
働き手の社会的信用 | ・ 社会的信用が低い ・ 事業資金あるいは住宅資金の融資を得にくい |
働き手の税制 | ・ 給与所得と事業所得で異なる分類がなされている |
このような課題に対し、経産省は新たな⺠間保険の創設の検討・周知・活用による、休業時の補償制度の充実や、働き方に中立的な税制に向けた検討が必要だとします。
働き方の大きな転換点を迎えている日本の労働形態。副業、ダブルワーク、フリーランスなどが当たり前になる日はくるのか。今後の副業を認める企業の動きに注目です。