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防災ビジネスでの起業・会社設立は有望?防災・減災の仕事と成功のポイント

近年、日本では地震・台風などの自然災害により大きな被害を受けるケースが多くなり、国民の防災・減災に対する意識も高まってきました。国や自治体が防災・減災に備える政策を推進するとともに国民や企業においても災害対策を強化する動きが活発になってきています。

 

今回のテーマは防災・減災にかかわる「防災ビジネスでの起業・会社設立や事業展開」です。災害の発生や被害の状況を確認し、防災ビジネスのニーズや市場規模を概観します。また、防災ビジネスのタイプや事例から会社設立や事業展開での重要ポイントを探り、注意点も考察していきます。

 

防災ビジネスに興味のある方、同分野で起業や会社設立したい方、防災ビジネスで社会貢献したい方は、ぜひ参考にしてください。

 

 

1 災害の発生と被害の状況

災害の発生と被害の状況

 

防災ビジネスに直接的に影響を及ぼす自然災害の発生や被害の状況を確認していきましょう。

 

 

1-1 近年の日本における災害の発生状況

国内で発生している自然災害などの状況を紹介します。

 

①自然災害の発生

2011年の東日本大震災以降も様々な自然災害が発生していますが、2016年以降だけでも下表にある災害が発生しました。

 

●2016年以降の自然災害

熊本地震 2016年4月14日 最大震度7の地震が発生。熊本・大分で震度6強~6弱が観測され、死者数が273人、住宅の全壊が8,667棟、半壊が34,719棟に及ぶ
2016年台風第7号、第11号、第9号、第10号 2016年8月16日~8月31日 台風および大雨により死者数25名、住宅の倒壊や浸水などの被害のほか、農作物への被害も甚大
2017年九州北部豪雨 2017年7月5日~6日 福岡と大分で集中豪雨が発生し、死者・行方不明者は42人に及ぶ
2018年西日本豪雨 2018年7月上旬 豪雨により広島、岡山、愛媛などに甚大な被害が発生し、死者数250人超となる
大阪北部地震 2018年6月18日 大阪北部を震源とするM6.1の地震で、死者数が6人、全壊21、半壊62の被害が発生
2018年台風21号 9月4日に日本に上陸(徳島県) 「非常に強い」勢力で上陸した台風で、大阪湾では3mを超す高潮が発生。関西国際空港では滑走路が浸水し、連絡橋はタンカーによる衝突で不通となり、空港が孤立状態に陥る
北海道胆振東部地震 2018年9月6日 最大震度7の地震。苫東厚真火力発電所の緊急停止により全道で295万戸が停電
九州北部豪雨 2019年8月28日頃 長崎、佐賀、福岡の広範囲の地域で長時間の線状降水帯により集中豪雨が発生。死者数4人、住宅の全壊87棟、半壊110棟などの被害が発生
2019年台風15号、19号 2019年9月に15号、10月に19号 15号は9月に上陸した台風で、千葉県などで甚大な被害が発生。19号は「令和元年東日本台風」と呼ばれ、激甚災害、特定非常災害の適用を受けるなど大きな被害をもたらす
令和2年7月豪雨 2020年7月3日以降 熊本県を中心とした九州や中部地方など広範囲の地域で発生した集中豪雨。死者数84人、住宅の全壊1620棟、半壊4509棟の被害が発生

 

●2018年の全国自然災害被害状況のまとめ

り災世帯数 り災者数 人的被害(人) 建物(住家)被害(棟) その他
死者、行方不明者 負傷者 全壊 半壊 床上浸水 床下浸水 河川(箇所) 崖くずれ(箇所)
全国 29,926 62,548 452 4,573 7,441 14,852 8,566 26,462 13,031 4,652

 

上表の通り、1年間の自然災害では、死者数4百人以上、建物の全壊74百棟、半壊14千棟以上の被害が発生しています。

 

下表の2019年度版中小企業白書の第3-2-4図は、国内の自然災害の発生件数と被害額の推移を示す資料です。この図によると、自然災害の発生件数には多少の変動が見られるものの全体としては増加傾向にあることが確認できます。

 

また、近年の大きな特徴としては、阪神・淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)などの大規模な災害による被害が発生している点が挙げられるでしょう。

 

2019年度版中小企業白書の第3-2-4図

 

以下に参考として、最近までの豪雨災害の状況と今後の大規模地震の発生の可能性などを紹介しておきます。

 

●豪雨災害(1時間降水量50mm以上の年間発生回数)

 

期間 平均回数(回/年)
1976年~1985年 174回
2008年~2017年 238回

 

●大規模地震の発生確率と想定される被害

 

地震名(30年以内発生確率) 被害想定(人的/経済被害)
首都直下地震(M7:70%程度) 約2万人/約95兆円
南海トラフ地震
(M8~M9 70%~80%)
約32万人/約220兆円

 

②その他災害

今日、全世界が悩まされている新型コロナウイルス感染症による被害の状況を簡単に説明します。(2021年7月12日時点)

 

・累計の死亡者数:14,954人
・累計の陽性者数:814,440人

 

・経済的損失:
飲食・宿泊・サービス業などでの営業自粛、個人等への外出抑制、労働者への在宅勤務、などが要請され日本の経済活動が大きく制限されるとともに、海外のサプライチェーンの一時的な活動停止などにより日本の経済は大きな打撃を受けました。

 

2019年10-12月期の実質GDPの値を基準として2020年1-3月期から7-9月期までの実質GDPとの差を見ると、約マイナス3.3%の水準となっています。
*ニッセイ基礎研究所HP「新型コロナによる日本の経済損失は中国よりも小さい?~平常時の成長率の違いがコロナ禍の経済動向を左右~」より引用

 

 

1-2 世界の自然災害の被害状況

下図は2019年度版中小企業白書の第3-2-2図で、1985年から2018年までの世界における自然災害に伴う累積被害額構成を示す資料です。この図によると、国内の自然災害による被害額の割合は世界全体の14.3%を占め、他国と比較して高い水準にあることが確認できます。

 

このことから日本での防災・減災への取組の必要性が高いことが理解できるはずです。また、米国やその他アジア地域等での被害額も大きいため、日本の防災ビジネスが海外で貢献することも期待されます。

 

2019年度版中小企業白書の第3-2-2図

 

 

2 防災ビジネスの状況と市場ニーズ

防災ビジネスの状況と市場ニーズ

 

ここでは防災ビジネス市場の特性や規模などの状況を確認していきましょう。

 

 

2-1 防災ビジネスの分野と市場規模

まず、防災ビジネスの主な分野とその規模を簡単に説明します。

 

①国の防災・減災、国土強靭化の分野

国では自然災害の被害に備えるため、防災・減災および国土強靭化に向けた政策を強化していまいます。特に国土交通省がこの分野での施策を多く担当していますが、「国土交通省予算概算要求」などからその内容が把握できるでしょう。

 

令和3年度の予算概算要求を見ると以下のような主な重点項目が確認できます。

 

1)東日本大震災や相次ぐ大規模自然災害からの復旧・復興 402億円
2)災害に屈しない強靱な国土づくりのための防災・減災、国土強靱化等の取組の加速化・深化
(a)あらゆる関係者により流域全体で行う「流域治水」への転換 5,027億円
(b)集中豪雨や火山噴火等に対応した総合的な土砂災害対策の推進1,155億円
(c)南海トラフ巨大地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策等の推進 1,646億円
(d)密集市街地対策や住宅・建築物の耐震化の促進 548億円
(e)災害対応能力の強化に向けた防災情報等の高度化の推進 40億円
(f)災害時における人流・物流の確保 2,992億円
3)地域における総合的な防災・減災対策等に対する集中的支援(防災・安全交付金) 7,847億円

 

以上の防災関連事業だけでも何兆円という規模になり、周辺のビジネスも含めると10兆円以上の規模になっているという試算もあります。

 

新型コロナの感染拡大の影響により民間設備投資や住宅投資の減少が危惧されるところですが、国の公共事業は防災・減災関連の工事を含め前年度水準以上で計画されています。そのため建設市場およびその分野に資材・設備機械等を提供する市場はコロナ禍に伴う影響も緩和されるはずです。

 

②防災食品市場

株式会社矢野経済研究所は、2020年5月1日に国内の防災食品市場を調査した結果をWEBサイトで公表し、製品セグメント別の動向、参入企業動向、将来展望を紹介しています。
*防災食品とは非常食など災害時に備える食品

 

同調査結果によると、国内の防災食品市場規模は、2018年度は前年度比112.1%の178億6,400万円です。2019年度は新型コロナの感染拡大で一般消費者のまとめ買いが発生したため、前年度比134.8%の240億8,100万円と推定されています。

 

このように防災食品市場は拡大傾向にありますが、防災食品の賞味期限(3~5年)に由来する3~5年周期の買い換え需要による一時的な急増も期待できるでしょう。なお、2024年度の国内防災食品市場規模は278億3,900万円と見込まれています。

 

2019年度の防災食品のユーザー別構成は、行政機関40.2%、民間企業22.1%、一般消費者20.1%、病院・介護施設8.0%、学校6.4%、その他3.2%という内容です。なお、業務用需要が全体の8割を占めると推定されています。

 

③防災情報システム・サービス市場

行政や企業が防災・減災を効果的に進めて行くには、被害状況の把握・集約と対策の指示等を適切に行い、土木・建築、設備機械、各種資材・商品などを災害に備えて整備していく必要があります。そして、その防災・減災等の推進や運用にはITの活用が不可欠です。

 

たとえば、防災・減災のための工事、建設、製造やサービスの実施などにおいてITを活用した効果的な運用が必要であり、防災等に役立つ情報システムやその運用サービスなどが求められます。

 

防災情報市場を見ると、今までは主に大手ベンダーによる官需対応の事業が中心でしたが、今後は企業の事業継続に有効なBCP(事業継続計画)やサプライチェーン管理などに対する民需の増加も期待されているのです。

 

株式会社シード・プランニングの調査(2020年5月~11月)では、「防災情報システム・サービス市場は、2025年に約1,160億円に発展する」と予測されています。

 

この市場規模予測では2019年度の718億円から2025年の1,160億円まで一貫した右肩上がりになっており、防災情報市場の有望さが認識できるはずです。情報システムの構築・運用サービス会社は様々な市場に進出していますが、これから会社設立する方などは、防災にかかわる市場をターゲットにするのも悪くないでしょう。

 

④防災設備・防犯設備の市場

災害・減災等に関係の深い防災設備と防犯設備の各市場の概要は以下の通りです。

 

防災設備の市場規模は正確に把握できていないですが、2021年3月期の売上高のトップ10の合計額は約3,600億円(1位の能美防災の1,078億円から10位の明星電気の71億円までの合計)になります。トップ10で全体の8割の売上を占めると考えた場合、市場規模は4,500億円程度です。

 

(公社)日本防犯設備協会)によると、防犯設備の市場規模は2014年が11,965億円、2019年が12,809億円となっており、緩やかな増加傾向が見込まれています。

 

⑤インフラメンテナンスの市場

災害対策以外も含まれますが、国土交通省によると、国内のインフラメンテナンスの市場規模は約5兆円で、世界では約200兆円と推定されています。災害対策に関連する事業も多いことからインフラメンテナンス市場での需要の増加が期待できるはずです。

 

⑥防災用品市場

防災用品は種類の幅が広く、防災用品そのものの定義も定まっているわけではないため、当該市場の規模を正確に測るのは困難です。なお、個人の防災関連の商品やサービスの需要を探るには、人々の防災意識から確認するとよいでしょう。

 

マイボイスコム株式会社では「防災用品に関するアンケート調査」(2018年09月01日~09月05日)を実施しており、WEBサイトでその結果の一部を公表しています。その内容は以下の通りです。

 

・備え・対策の内容は「食料品・飲用水や生活用水などの備蓄」が全体の5割弱、「防災グッズ・非常用持ち出し袋など」が3割強、「家具などの転倒・落下防止対策」「地震保険への加入」「避難場所や経路の確認」が各20%台

 

・災害時のために備蓄している人は全体の7割強。「レトルト食品・インスタント食品」「缶詰」「飲料水」「懐中電灯、LEDライト」などが各40%台。東北では「カセットコンロ・IHコンロ、ガスボンベ、固形燃料」「ラジオ」などが他の地域より高い

 

このような情報やデータを確認すれば、ニーズの大きい防災用品の実態を掴むことができ、対象分野の選定などに役立つはずです。

 

 

2-2 防災意識

個人と企業の防災に対する考えについて確認します。

 

①個人の防災意識

先の防災用品に関するアンケート調査では、「災害に対する備えの程度」に関する質問がありましたが、過去の調査結果を比較することなどにより人々の防災に対する意識が確認できます。そうした調査の結果の一部を紹介しましょう。

 

・災害に対して備えている人(「十分備えている」「ある程度は備えている」の合計)は全体の3割強、備えていない人(「あまり備えていない」「ほとんど備えていない」の合計)は5割強

 

・10~30代では、備えていない人が各6~7割と高い

 

・備えている人の比率は、関東が、他の地域よりやや高く、北海道、北陸、九州などでは備えていない人が各6~7割と高い

 

なお、災害に対して備えている人の2012年、15年、18年の値を比較すると、27.0%、30.5%、30.6%とやや増加傾向であることが確認できます。災害への備えは直近の災害による被害の大きさや頻度などに影響されやすいものの、直近の傾向として防災に対する関心度が高くなっていると言えるでしょう。

 

つまり、今後も個人や企業などにおいても防災意識は少しずつ強まり、防災に関連した商品・サービスなどの利用が逓増するものと推察されます。

 

②企業の防災意識

企業においては国や関係団体等から災害に備えるための防災計画の策定が要請されてきましたが、昨今ではBCP(事業継続計画)の策定と運用が防災計画に置き換わって利用が求められるようになりました。

 

BCPは、被災に際して重要な事業を存続するための取組が実行できるように策定するものです。具体的には、経営全体の観点から重要業務を抽出し、復旧を図る事業所や設備について優先順位をつけて選択し、被災後の限られた資源を有効に活用して復旧を進めるための計画になります。

 

たとえば、顧客等から許容される重要業務の停止期間を目安に、目標復旧時間の設定、業務や設備機械の代替、などを事前に想定しておくといった計画です。また、サプライチェーンでの被害に伴う影響と対策なども盛り込んでおく必要があります。

 

国はBCPの策定とそれに基づいた管理(BCM=事業継続マネジメント)を企業に求めており、大企業の運用では平成19年度の35%から令和元年度が83%へ、中堅企業では平成19年度の16%から令和元年度が53%へと堅調な増加が見られました。

 

このように災害発生による被害の増大などに伴い企業のBCP・BCMの導入・運用が増加している点を考えると、企業の防災意識は高まってきていると言えます。そのためBtoBでの防災ビジネスの需要増が今後はより一層期待できるでしょう。

 

 

3 防災ビジネスのタイプとその内容

防災ビジネスのタイプとその内容

 

ここでは防災ビジネスへの進出・事業展開を検討する上で参考となる事業の特徴や種類などを紹介します。

 

 

3-1 防災ビジネスの概要

防災ビジネス市場は、国の施策に関連した土木・建築工事、構造物の補強工事や耐震工事などのメイン市場のほか、以下のような市場があります。

 

防災ビジネスの概要

 

・防災関連工業製品(フロード車輌、建設機械、仮設住宅資材、火災報知設備・機器・器具、発電機、耐震機材・器具、家具固定品 等)

 

・防災食品(非常食・飲料)

 

・防災用品およびサービス(安全グッズ、懐中電灯、テント、マスク、ヘルメット、毛布、簡易トイレ、工具、災害保険 等)

 

・防災情報システム・機器(安否確認システム、位置情報確認システム、衛星通信サービス、気象・災害監視および観測、緊急時通信 等)

 

・防災技術サービス(防災機器・設備の導入およびメンテナンス、耐震・免震工事診断、BCP策定支援 等)

 

ほかにも、避難対策、水害・津波対策、家庭防災、停電対策、帰宅困難対策、感染症対策、雷害対策、などに関連する事業も多いです。

 

 

3-2 東京都が推進する危機管理分野

東京都が推進する危機管理分野

 

東京都は、「次世代イノベーション創出プロジェクト2020」事業を展開して、都の課題解決や中小企業等による市場拡大を進めようと取組んでいますが、その対象の1つとして「危機管理」を選定しています。

 

以下の4つ開発支援テーマが設定されており、その内容から大都市での防災ビジネスの方向性が垣間見えるはずです。

 

①防災・減災に関する技術・製品の開発

 

1)開発の背景

 

・首都直下地震等が発生した場合、約517万人の帰宅困難者が予想され、そのうち行き場のない約92万人の受入施設の確保は官民合わせて19万人程度しか見込めない

 

2)都の課題

 

・自助/共助の取組を通じた災害時の対応力向上

 

・木造住宅密集地域における不燃化の実現

 

3)代表的な技術・製品開発の例示

 

・構造物の耐震化技術
耐震化技術には「耐震技術」「免震技術」「制震技術」などがあり、各工法に使われる部品・素材(ゴムやダンパー等)の改良が求められています

 

・落下・転倒防止技術
⇒天井の落下防止には、天井材の耐震化やワイヤー・ネット等を利用した技術・製品が役立ちますが、更なる耐久性や低コスト化が必要です。

 

・水害等防止対策技術
⇒止水板、土のう、水のう等の軽量化、耐久性の向上、コンパクト化等に役立つ技術が重要になります。

 

・火災/防火対策技術
⇒防災性能を有する繊維製品など、不燃化を実現する製品等の開発が期待されています。また、電気火災を防止する各種感震ブレーカーの低コスト化、設置の簡易性、信頼性向上も必要です。

 

・その他技術(避難生活に関する技術・製品)等
⇒避難生活の負担軽減に役立つ、衛生面(簡易トイレ等)や食生活(非常食、浄水器等)等に関する技術・製品が求められています。

 

②災害時の情報提供・収集に関する技術・製品の開発

1)開発の背景

 

・近年、50ミリ/時間を超える局地的な集中豪雨が頻繁に発生しているため、更なる対応が必要である

 

2)都の課題

 

・住民の警戒/避難体制を支援するソフト対策の推進

 

・東京の外国人が安心・快適に生活するための多言語化等のサポート

 

3)代表的な技術・製品開発の例示

 

・コミュニティ無線
⇒SNSや双方向テレビ通信など、多様な通信ニーズに対応させて情報を双方向で通信でき、かつ低コストのシステムの開発が期待されています。

 

・安否確認システム
⇒これは、災害発生時に家族や従業員等の安否を確認するシステムのことです。訪日外国人の増加を背景に、多言語でも利用可能な安否確認システムや、アクセス性が向上するような技術・製品が求められています。

 

・災害情報収集/自動処理/配信システム 等
⇒これらは、国や地方自治体が整備する災害情報基盤(「J-ALERT」「L-ALERT」)や地理空間情報(GIS)を利用して、携帯電話・スマホ、サイネージ、カーナビ等幅広いメディアに災害情報を効果的に配信するシステムのことです。

 

また、これらのほかに、被災地域等においては情報収集手段としてロボット・ラジコンヘリ等の活用が必要とされています。

 

③インフラメンテナンスに関する技術・製品の開発

1)開発の背景

 

・少子高齢化などに伴う行政サービスの需要が増大すると予測される中、維持管理・更新を適切に実施するためには、効率的・計画的な取組が必要である

 

2)都の課題

 

・都市インフラの更新需要に対応するための、ライフサイクルコストの低減と更新時期の標準化

 

・災害に強い都市インフラ整備や環境負荷の少ない都市づくり

 

3)代表的な技術・製品開発の例示

 

・非破壊検査技術
⇒これはCCDカメラ、センサー、赤外線、音波・電磁波等が使用される技術です。今後は検査の高速化・高精度化に加え、ロボットやラジコンヘリの活用による作業負荷の軽減が期待されています。

 

・モニタリング技術
⇒これは各種センサーやレーザーにより構造物の振動・伸縮・傾き等を分析・評価する技術です。センサーの長寿命化や導入・維持コストの低減に加え、計測されたデータの精度向上や解析・処理技術が必要とされています。今後は、マルチコプターやドローンの利用促進も予想されています。

 

・破壊検査技術
⇒これはサンプルを採取し、劣化状況を把握する技術などです。今後はハードウェア等による高精度化、操作性の向上、低コスト化に役立つ技術・製品の開発が求められています。

 

・自己修復材料等の新素材
⇒これは自己修復の機能が組み込まれた鉄鋼やコンクリート等の材料のことです。既に自己修復機能を持つ分子を含んだ塗料やフィルムが開発されていますが、今後は自己修復機能を有する素材の技術開発・製品化が期待されています。

 

・その他補修技術 等
⇒これは構造物の補修・修復によって対象の劣化進行を抑え、構造物の長寿命化、ライフサイクルコストの低減に役立つ技術です。鋼材の錆対策やコンクリートのひび割れ防止策等が必要とされています。

 

④生活の安全・安心に関する技術・製品の開発

1)開発の背景

 

・高齢者を目当てとする特殊詐欺や女性へのストーカー犯罪の発生などにより、体感治安の改善が十分ではない

 

・サイバー犯罪の手口は、悪質・巧妙化し被害も拡大している

 

2)都の課題

 

・都民/来訪者などの全ての人々が治安の良さや生活の安心を実感できる都市の実現

 

・サイバーやテロ等への対策強化

 

3)代表的な技術・製品開発の例示

 

・防犯カメラ・画像解析システム
⇒詳細な画像認識ができるメガピクセル以上の高画素化・大容量化が期待されています。今後は、人工知能(AI)やロボットとの組み合わせにより、不審者の表情や行動等から異常を予測する高度な解析技術・製品や、高画素数の画像を送受信できるネットワークなどが必要です。

 

・侵入検知/出入管理システム
⇒生体認証技術やセンサーの精度向上のほか、災害時のバックアップに役立つ技術・製品の開発が求められています。

 

・情報セキュリティ
⇒サイバー犯罪の手口の悪質・巧妙化が進むにつれ、ファイアウォール、SSL、暗号化に役立つ製品等の開発が必要です。

 

・異物検出/混入防止システム
⇒磁気検出式、エックス線式、光学カメラ式などが対象で、金属異物の検出ができる高機能化や安全機能の強化が必要とされ、センサーやカメラ等の精度向上等に向けた技術・製品の開発が求められています。

 

・流通支援システム 等
⇒交通での渋滞緩和や事故の防止、物流の最適化・効率化等によって、災害の非常時等における「人・モノの移動」について安心・安全を実現する技術が必要とされています。

 

 

3-3 今後注目される防災ビジネス

これから期待される防災ビジネスについて簡単に紹介しましょう。

 

今後注目される防災ビジネス

 

①防災関連イベント事業

自然災害の発生防止は困難ですが、災害の被害を抑制することは可能であるため、そのための防災を呼びかける運動が以前より行われてきました。たとえば、防災の日(9月1日)や防災週間(8月30日~9月5日)に防災を啓発するためのイベントなどが自治体、学校や企業などにより行われています。

 

大規模災害が発生すると、その後のしばらくの間は国民の防災意識は高まりますが、時の経過とともにその意識が薄れ災害に備える行為も低調になりやすいです。防災意識が低くなれば、災害の備えが疎かになり被害を拡大させかねません。

 

そのため国や自治体等では国民の防災意識を一定以上に高める必要があり、防災イベントの実施が必要となっているのです。具体的なイベントとしては、消火訓練の見学や消化訓練への参加、避難訓練の実施や避難マップの作成などがあります。

 

こうしたイベントを開催したり、防災教育を提供したりするといった防災ビジネスが行われており、より活発な企画や運営が求められているのです。

 

②防災食品(非常食)事業

災害に直面した場合、飲料水と食品の確保が第一に優先されるため、行政のみならず個人や企業等でも防災食品や非常食と呼ばれる食品・飲料を事前に保管することが求められています。

 

行政などの場合、災害時に備えて一定の飲料水や食品を備蓄しておかねばなりませんが、国等は国民にも防災食品の備蓄を呼びかけており、国民の間でも備蓄の意識が高まってきているのです。

 

たとえば、農林水産省は「緊急時に備えた家庭用食料品備蓄ガイド」を策定し、普段使いの食料品を多めに買って、使用した分を常に買い足す備蓄術などを推奨しています。自宅での避難生活の場合、最低でも3日分、できれば1週間分の備蓄が望まれ、必要な食品例などが紹介されているのです。

 

近年では特に集中豪雨や台風などの風水害、土砂災害などが頻発する傾向にあり、自宅での避難生活を余儀なくされる可能性も増大しているため、非常食の備蓄は増加していくものと見込まれます。

 

令和3年3月4日に独立行政法人国民生活センターが公表している「災害に備えた食品の備蓄に関する実態調査」の結果によると、備蓄されることの多い食品の種類は以下の通りです(飲料水除く)。

 

  • 乾麺、カップ麺
  • 缶詰
  • レトルト食品
  • ごはん(パックごはん等)
  • 菓子
  • 乾パン、パンの缶詰
  • フリーズドライ食品
  • 乾物(鰹節、煮干し等)
  • 栄養補助食品
  • サプリメント
  • 非常食セット
  • 乳児用の飲み物、食べ物
  • 高齢者用の飲み物、食べ物

 

こうした非常食の備蓄は行政や個人のほか、学校、病院、福祉施設など多人数が集まる機関などでも進んでおり、さらに進展していくものと推察されます。

 

③事業継続計画(BCP)の策定・運用の支援事業

災害により企業が事業運営に支障をきたし事業継続が困難に陥るケースも多いため、国等では企業のBCPの策定を促しており、徐々に導入・運用する企業も増えてきました。

 

帝国データバンク社の「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2020年)」によると、BCPを「策定している」割合は、大企業が30.8%、中小企業が13.6%、小規模企業が7.9%となっており、企業規模の違いによる差が見られます。

 

なお、「現在、策定中」(9.7%)、「策定を検討している」(26.6%)については各々増加しており調査開始以降で最高の値になっていることから、BCPの策定への意識は高い状態だと言えるでしょう。

 

企業の「事業継続が困難になると想定するリスク」については、「取引先の倒産」よりも「自然災害」や「感染症」が多く認識されるようになっており、在宅勤務などの「多様な働き方の計画」なども重視されています。

 

以上の状況から企業のBCPの策定に対するニーズは今後とも緩やかながらも増加するものと見込まれ、BCPの策定や運用を支援するサービスへのニーズも拡大していくでしょう(リスクマネジメントの構築・運用支援なども含む)。

 

④防災テック事業

防災テックは、防災とテクノロジーを組み合わせた造語で、AI、Iot、モバイル、クラウド、ドローンなどの技術を活用して、災害の予測、被害状況の確認、救助側との連携等を行い、迅速に被害者等の安全の確保を図る取組と言えます。

 

防災テックの分野は主にITを活用して防災・減災や被害対応などを図る事業領域で、その主要な対象は「災害の予測」と「災害後の被害状況の確認」です。予測分野の事業内容は、主に被害地域・被害の程度を予測することになります。

 

災害の被害を最小限に押さえるには、事前に災害シミュレーションを行いその被害範囲を把握してからの対策が有効です。そのため精度の高い被害地域・被害程度の予測が求められます。

 

今日ではAIを活用した災害予測や災害発生後の分析などが行われており、精度の高い被害予測シミュレーションも可能です。こうした分析結果を利用することで行政や企業などは的確な対策が準備でき被害を最小限に抑制できるため、これらのサービス需要は増えるものと推察されます。

 

状況確認分野の事業内容はドローンやSNS等を活用したサービスなどです。たとえば、災害状況に関するSNS上での投稿情報をAIで分析して、各地域での被災状況を把握し、適切な情報をSNSで発信するといったサービスが該当します。

 

また、SNS等の情報だけでなくより正確な情報を得るためにロボットやドローンなどの利用が今後さらに進展していくでしょう。

 

なお、防災テックというカテゴリーではなく「災害時の情報発信サービス」として捉えると情報やサービスの内容は以下のようになります。

 

・台風や集中豪雨などの風水害の場合
一定時間当たりの雨量、土砂災害の可能性、避難指示、河川の氾濫の可能性、被害状況、などの情報の収集・集約・配信

 

・地震の場合
地震の発生個所、地震の規模や震度の大きさ、津波の可能性、余震の可能性や規模等、被害状況、などの情報の収集・集約・配信

 

また、災害後では避難状況、避難者情報、危険地域、物資の支給情報、などの収集・集約・配信が対象になります。

 

こうした情報の発信等は行政が担うケースが一般的ですが、民間企業が情報提供するケースも見られます。災害発生前後の混乱の中で行政による情報発信が不十分になる可能性もあるため、被災地域外の民間企業による正確で迅速な情報発信サービスの提供が期待されているのです。

 

⑤避難所関連事業

規模の大きな自然災害等が発生すると近隣住民等が身の安全を確保するための避難所が必要となりますが、その避難所の構築や運用などに関連したビジネスがあります。

 

多くのケースでは自治体等の行政側が避難所を設置して運用しますが、一部ではその事業を民間に委託するケースもあり、昨今では民間委託を求める声が強まっているのです。

 

国が主導する防災訓練の項目の中には避難所の開設や運営が含まれ、行政と地域住民が協力して避難所の運営体制を構築するという試みも進められています。たとえば、行政側職員が避難所を開設し、地域の自治会等がその運営の任に当たるといったケースです。

 

しかし、大規模災害の場合、被災した地域の自治体の職員は幅広い被災対応の業務に追われ、被災住民も自身の身の安全を確保することに気を取られるため、被災した自治体と地域住民が協力して避難所の運営体制を取ることは容易ではありません。

 

そのため被災地域外の民間企業などによる避難所の運営が期待されています。被災地外の拠点を持つ民間企業がその社員を被災地に派遣し、当地の行政・住民と協力して避難所の設置と運営をサポートするのです。具体的には、避難所のレイアウトの提案、被災者の確認や支援物資の分配などで協力します。

 

避難者の個人情報の管理、避難者の安全の確保などが避難所の構築・運用に求められるため、民間企業だけで業務を負うのには問題もあります。しかし、行政・住民・民間企業などが協力すれば、より迅速で適切な避難所の開設・運用が実現できるはずです。

 

そのため民間企業には避難所のレイアウト、避難所の利用上のルールの設定・運用、支援物資の供給・分配、などをアドバイスするサービスや、それらの運用をサポートするサービスなどが求められるケースも増えるものと推察されます。

 

 

4 防災ビジネスの事例

防災ビジネスの事例

 

ここでは、防災ビジネス分野で起業・会社設立しようと考えている方の参考となるような事例を取り上げ、その特徴などを紹介しましょう。

 

 

4-1 (株)IKUSAの防災運動会

●企業概要

 

・所在地:東京都豊島区東池袋
・事業内容:WEB制作およびコンサルティング、コンテンツマーケティング、ECサイト運営、ブランディング、地域活性化、イベントコンサルティング 等

 

●防災ビジネスの概要・きっかけ等

 

IKUSA社はブランディングやイベント関連の事業で「遊び」を加えた企画を得意としており、防災イベントでも同社は「遊び」を交えた「防災運動」を提案しています。

 

防災イベントは各地の自治体や企業などで開催されていますが、「堅そう」「楽しくなさそう」などのイメージがあり、人々は参加に積極的とは言えません。そうした防災イベントのイメージを同社の「遊び」の提案でもっと参加しやすい魅力的なものにしたいという思いから防災運動会が誕生したのです。

 

●防災ビジネスの主な特徴

 

防災運動会は防災の視点を交えた種目・内容で構成される運動会と言えます。参会者が各種目で体を動かしながら防災の知識を得たり関心を持ったりできるのが防災運動会の特徴です。

 

防災運動会の内容は、災害を5つのフェーズに分割した、「事前」「災害発生」「発災直後」「避難生活」「生活再建」で構成され、各フェーズに応じた競技が体験できます。つまり、災害に関する事前から事後までの幅広い知識を得ながら運動が楽しめるわけです。

 

また、災害には地域特有の被災内容も伴うため、防災運動会ではそうした地域の特性に着目した競技がカスタマイズされており、より地域の実情に合った防災体験ができます。

 

●ビジネス上のポイント

 

・自社の強みの活用とニーズの充足
⇒同社はイベント企画において、「遊び」を取り入れた内容の企画が得意で、防災運動会にも「遊び」を上手く組込んで提案しています。つまり、自社の強みのイベント企画と「遊び」という特徴を活かして独創的な防災イベントへと昇華させたのです。

 

⇒同社はイベントや研修などで自治体や企業等との取引があり、防災イベントを行う多くの主体との接点が豊富です。つまり、防災イベントのニーズを有する顧客を以前から保有しており、防災運動会でそのニーズを取り込もうとしています。

 

⇒リアルな運動会以外にも同社は「おうち防災運動会」という「オフィスや家に居ながら防災を楽しく学べるオンラインイベント」のサービスも提供しています。コロナ禍の中で通常サービスの提供が困難な状況になっているのに対して、オンラインイベントという強みを活かし、その克服に努めています。

 

 

4-2 (株)レスキューナウの防災情報・危機管理サービス

●企業概要

 

・所在地:東京都品川区西五反田
・事業内容:コンテンツ事業(情報配信サービス)、危機管理サービス事業

 

●防災ビジネスの概要・きっかけ等

 

レスキューナウ社は、「最新の情報技術を駆使して、危機に対する迅速な救援と復旧、復興と予防に貢献する」ことを企業理念に掲げ、危機管理分野でのイノベーションに取組む企業です。

 

同社の危機管理情報センター(RIC24)の運用およびそこから得られる情報を基に具体的な対策支援を危機管理サービスとして提供しています。これまで経験した災害でのサポート実績から、顧客の緊急時初動体制の計画策定、運用・訓練、備蓄品のコンサルティング・納品まで、要望に即した柔軟な提案が可能です。

 

●防災ビジネスの主な特徴

 

・危機管理情報総合サイトの運営
同社は大規模災害の速報、鉄道・交通情報、過去に発生した災害情報などを提供しています。

 

・危機管理情報コンテンツの提供
危機管理情報センターは収集した各種情報をデータベース化し、エンドユーザーのニーズに合わせ、各種の顧客・利用者に提供します。

 

・法人向け危機管理初動支援サービス
このサービスは、危機管理情報センターが企業や自治体に災害や危機の発生状況を通知する、スタッフが状況に基づき対応レベルの判断を行い、状況報告から社員・職員の安否確認および緊急招集までの必要な初動を支援するというものです。

 

・その他
同社はほかにも防災備蓄用品の販売のほか、BCP策定支援サービスなどの企業に対する総合的な危機管理コンサルティングも提供しています。

 

●ビジネス上のポイント

 

・災害発生に対応する行政や企業への支援ビジネスの展開
⇒同社は災害の発生により事業上の大きな影響を受ける企業や発生時の対応で陣頭指揮を執る行政などを顧客とし、彼らのニーズを的確の捉え各種支援サービスを提供しています。特に今後も利用の増加が見込まれる企業のBCP関連の支援サービスは有望です。

 

・今後の災害予防・対応に不可欠な「情報」を活用したビジネス展開
災害時対応で最も重要視される被害情報(状況)をITの活用により迅速かつ的確に提供し顧客の支持を得ています。災害の発生状況や被災状況に関する情報の収集・集約・分析・配信に関するサービスの提供では、今後益々高度なITの活用が求められるでしょう。

 

 

4-3 (株)ワンテーブルの備蓄用食品

●企業概要

 

・所在地:宮城県多賀城市八幡
・事業内容:食文化創造事業(都市型農業の開発・コンサルティング、地域風土の再生・プロデュース)
備蓄・防災事業(備蓄用食品の開発、非常用発電対応ソリューション)

 

●防災ビジネスの概要・きっかけ等

 

東日本大震災の被災地・宮城県に所在するワンテーブル社は、被災での経験から電気・水・ガスがなくても食べられる備蓄食品の必要性を痛感し、そのニーズを満足できる「LIFE STOCK」(ゼリー)を開発しました。

 

●防災ビジネスの主な特徴

 

・防災ゼリーの提供
LIFE STOCKは5年間の保存が可能である上に、食物繊維と7種類のビタミンが含まれる栄養バランスの整った防災食品です。

 

・BOSAI SPACE FOODの開発
宇宙環境と被災地の生活環境には、閉鎖的な空間、限られる水や食料、電気やガス等の使用制限、ストレスの増大、などの共通の問題があり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協力してBOSAI SPACE FOODの開発に取組んでいます。

 

・その他
備蓄技術を活かして、安全な離乳食や介護食、アレルゲンフリーの食品開発、美容・ダイエット、健康食品・スポーツ食品といった分野への展開を進めています。

 

●ビジネス上のポイント

 

・経営者の行動力
⇒社長の島田昌幸氏は、大学在学中に教育ベンチャーで創業し、地域おこしイベント事業など多様な事業を手掛けてきた高い行動力を有する経営者です。創業者・経営者には、有望なニーズを発見してそれを捉えるための事業(モノ・コト)を創造しそれを適切に具現化(事業として展開)させるという能力が必要ですが、島田社長は保有されておられます。

 

・更なる発展のための事業展開
⇒水や火がなくても手軽に食せる、長期間保存できる、といった防災ゼリーの特徴から非常食・備蓄食以外の他の用途・分野にも着目して事業展開が進められています。1つの製品や事業からその周辺分野への進出の可能性を探り挑戦する姿勢が事業の拡大には不可欠です。

 

 

4-4 (株)木村技研の災害用トイレ

●企業概要

 

・所在地:東京都世田谷区上用賀
・事業内容:災害用組立トイレ・公衆用トイレシステム等、空気調和・冷暖房設備、給排水衛生設備、水処理システムの製造・販売・施工、設備工事の施工

 

●防災ビジネスの概要・きっかけ等

 

木村技研社は、給排水工事がコア事業でしたが、その業務だけでは成長に限界があると考えこれを打破するためにオリジナル製品の開発に取組みました。節水型自動洗浄装置「アクアエース」を皮切りにトイレの開発にも取組み、静岡県庁からの相談をきっかけに災害用トイレが開発されています。

 

●防災ビジネスの主な特徴

 

・災害用組立トイレ(ベンクイック)の製造、販売
ベンクイックは万が一の災害時の安心に備える簡易組立てトイレです。独自の処理技術によりその処理能力は最大で約8,000人~10,000人にもおよびます。
*一般的な貯込式では3 0 0~4 0 0人/台程度

 

・簡単な組立構造
組立は初めての方でも簡単に行えます。

 

・汚物処理に応じた3タイプのラインアップ
汚物処理の方法には、下水道放流、浄化槽放流、バキューム車の汲取り、の3つがあり、ベンクイックの種類はその汚物処理の方法に応じた3タイプが用意されています。

 

●ビジネス上のポイント

 

・被災者の声を反映した製品開発
同社は災害が発生した時に被災地に従業員をボランティアとして派遣し、トイレに関する被災者(利用者)の声に耳を傾け、それらの要望・意見を製品開発・改良に活かしました。

 

たとえば、従来の簡易トイレでは、処理量が小さい、組立が難しい・たいへん、使用中の遮光が問題、バリアフリー対応が欲しい、といった声があり、それらを改善点として開発・改良が進められたのです。

 

・販促の工夫
販促活動としてCMでのPRも試されましたが、あまり効果が得られなかったため、自治体や企業などに出向き実際に製品を見てもらうという販促活動が取られました。また、展示会などへも出展して組立の実演を見てもらい製品の有効性を確認してもらっています。

 

製品によっては実際に目にする・手にするといった行為を介さないとそのものの良さが伝わらないことも多いため、顧客の目・手に触れられる販促は有効です。

 

・購入の障壁の除去
同社の製品は20万円・30万円といった価格であり、購入を躊躇する顧客も少なくないことから利用を促すために低価格でのレンタルサービスが導入されました。

 

また、このサービスでの価格には使用後のし尿処理費用や復旧後の新品への交換費用も含まれています。こうした利用する側にとって、購入しやすい、利用しやすい形態を提供することで災害時にしか利用しない備蓄品の購入を促すことに成功されたのです。

 

利用者・購入者の購買決定要因を掴みそれに働きかける行動(購入の障害要因を取り除く、購入を動機づける手段を取る)が販促活動には求められます。

 

 

4-5 (株)ResilireのSaaS型リスクマネジメントプラットフォーム

●企業概要

 

・所在地:東京都目黒区大橋
・事業内容:ITビジネス企画・開発・運営

 

●防災ビジネスの概要・きっかけ等

 

社長の津田裕大氏は学生の時から知人とWEBコンサルの会社を経営していましたが、大阪北部地震・西日本豪雨での被災を経験しITで災害を防止できるような取組がしたいと思い、防災テックベンチャーとして現、Resilireを創業されました。

 

災害が世界的に増大し被害額も莫大な金額になっており、さらに今後も増えると推測されるほか社会貢献の観点からも取組む価値が高いと判断されたのです。そして、事業として取組んだのが「サプライチェーンリスク管理」になります。

 

「サプライチェーン途絶による供給停止リスク」の課題を解決するサービスやBCPを遂行するツールとして、製薬、製造、商社、卸など幅広い業界への導入が進められているのです。

 

●防災ビジネスの主な特徴

 

・サプライチェーンの管理から被害状況の把握
災害時に被災したサプライヤーが可視化され、復旧対応の優先順位付を容易に判断できるなど、Resilireならサプライチェーン管理が簡単です。

 

・拠点等の被災状況の確認が簡単
同システムは災害情報を瞬時に取得し自動でマップ上に可視化できます。重要な拠点やサプライヤーをマップ上でピン挿しができ、被災サプライヤーのリスト化やメール通知も可能です。

 

・拠点やサプライヤーへの迅速な連絡・集約が可能
拠点等へのメールの一斉送信が可能で、被災情報の回答をResilireで集約できます。回答される被災情報がSCMツリーに反映されるため、迅速にサプライチェーンの被災についての全体像を把握することが可能です。

 

●ビジネス上のポイント

 

・実現したいこととニーズのマッチング
創業の成功には、自分の実現したいこととニーズをマッチングさせることも重要になります。社長の津田氏は、社会的に意義のあることに貢献したいという思いを、災害の増加に伴うリスク予防の増大というニーズにマッチングさせました。

 

事業としてやり遂げたいことは困難に直面しても長続きできます。そのやり遂げたいことに一定の需要があれば事業として成立します。そのため実現したいこと(事業)とニーズ(需要の内容や量)をマッチングさせることが成功のキーとなります。

 

・災害時に求められる企業ニーズの充足
⇒被災した企業が早期に事業を復旧させるには、サプライチェーン全体の被災状況をできるだけ早く把握して復旧の手段を迅速に講じていくことが求められます。同社はそうした災害時の企業ニーズを的確に捉え、充足できるサプライチェーンリスク管理システムを提供できました。

 

・クラウドサービスで安心
⇒Resilireはクラウドサービスであるため、被災によるシステムの利用停止を心配する必要がありません。防災ビジネスでは、災害時の利用上の安全性が感じらる・認識できる機能やサービスが利用者の安心を呼び導入を促します。

 

 

5 防災ビジネスでの経営のポイントと注意点

防災ビジネスでの経営のポイントと注意点

 

防災ビジネスで会社設立したり、新規事業を立ち上げたりする場合に、経営上特にどのような点を重視し、注意しておくべきかを最後にまとめとして説明しましょう。

 

 

5-1 防災ビジネスの対象事業の選定

国内外を問わず災害発生が増加傾向にあるため、防災ビジネスは事業的には有望な分野と言えますが、対象が広いためその選定が重要になります。

 

どの分野でも起業や新規事業の進出において同じことが言えますが、対象分野が広いとその絞り込みが事業の成否を分けることも少なくありません。そのため防災分野だったらどんな事業でもよい、災害に関する社会貢献ならどんなことでもよいという考えで事業に乗り出さないよう注意が必要です。

 

まず、自分が実現したいことが防災ビジネスとして成り立つのか、事業として継続できるのか、という経営判断が不可欠です。そのためには実現したいこと・したい分野、自分が有する強み(業務経験等、能力・知識・技術、人脈など)と市場ニーズ(必要性とその量)をマッチチングさせる必要があります。

 

また、競合状況を踏まえ、市場で勝ち残れるかという点の確認も必要です。そして、これらを明確にして対象分野を定め事業コンセプトをまとめていくのです。たとえば、以下のような例が挙げられます。

 

・災害直後の被災者の避難生活での健康の維持に貢献したいという思いがある

 

・自分には食品製造の開発・製造の知識・経験がある

 

・避難生活では水・ガス・電気が使えず、食事のための調理が困難である(=調理なしに簡単に食せる食品のニーズがある)

 

・長期保存が可能で栄養バランスが取れていて調理なし(水や加熱なし等)で食せる備蓄品が少ない(非常食の課題)

 

こうした情報で事業コンセプトを以下のようにまとめることが可能です。

 

⇒「5年の長期保存が可能で、水無し・加熱なしで直に食せる非常食を開発・製造し行政・企業・病院・学校などのほか一般家庭、海外にも普及させる」

 

防災ビジネスでは、災害発生前、災害発生時、災害発生後、の各々のタイミングで多様なニーズが存在するため、上記の点などを考慮して対象事業を選定し事業コンセプトをまとめるようにしましょう。

 

 

5-2 被災現場の声を反映した事業化

ビジネスの成功には、ターゲットのニーズを正確に把握することが不可欠ですが、防災ビジネスでは被災者や災害対応に関わる者の声を汲み取って事業化することが求められます。

 

先のトイレの事例では、従来の簡易トイレには汚物処理の処理能力が低い、汚物の処理がたいへんである、導入コストが高い、などの問題から購入側の行政等では導入に慎重になるケースが多いです。

 

また、防災ゼリーの例では、一般的な非常食である乾麺・カップ麺等が食するまでに水や熱が必要で直ぐに食せない、栄養バランスが悪いといった問題がありました。

 

こうした内容は被災者や災害復旧に関わる者が抱える問題であり、ニーズでもあります。こうした当事者の問題を解決するビジネスでないと彼らからの支持を得るのは困難です。彼らの立場に立ち、彼らが本当に欲するモノやサービスを提供する防災ビジネスを目指しましょう。

 

 

5-3 国や自治体等の動きに対応したビジネス展開

国は防災・減災および国土強靭化に向けた施策の展開に注力しており、各自治体においてもその傾向が見られるため、その分野に関係する企業としてはその流れに対応した防災ビジネスの推進も必要です。

 

国ではここ直近において毎年何兆円という規模の予算を上記分野の事業に投入してきました。また、地方自治体においても国の政策を受けた施策を推進しています。

 

たとえば、国の国土強靭化計画では2021年~2025年の5年間に以下の123の対策を実行し約15兆円の予算を投じる予定です。

 

1)激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策(78対策)(12.3兆円程度)
2)予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策(21対策)(2.7兆円程度)
3)国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進(24対策)(0.2兆円程度)

 

また、東京都では「次世代イノベーション創出プロジェクト2020」という新たな技術イノベーションの創出を図る事業の対象分野として「危機管理」分野を指定し助成対象としています。

 

このように防災ビジネスに関わる分野では、行政が進める政策に伴い大きな需要が期待されるため、その動向に対応したビジネス展開を考慮の上、起業や新事業開発を進めるべきです。

 

 

5-4 防災ビジネスでのITの活用

日本の行政や企業等でのIT活用が他の先進諸国よりも遅れているとの指摘も多いですが、防災ビジネス分野でのIT活用も同様であり、その活用の推進が求められます。

 

台風・地震のほか集中豪雨により甚大な被害が頻繁に発生する今日において、災害発生時に市町村等からの被害情報を的確に収集できなかった結果、被害状況を住民等へ周知できない、公表が遅れる、などの問題が生じたこともありました。

 

また、河川、道路、砂防指定地等の監視が不十分で被害をもたらす、防災行政無線が市町村等での電源供給の不備により使用できない、といったケースも発生しています。このように防災関連分野で情報技術が適切に利用できていない、活用が遅れている、などのケースが多いのです。

 

一方、行政等での防災対策では、構造物の耐震補強工事や河川改修工事などのハード面でのリスク予防措置とともに、災害情報システムの構築や住民等での避難訓練などのソフト面のリスク予防等が重視されるようになってきました。

 

上記のハード面やソフト面を含め、防災や被害・避難等の対策の推進にはITの活用が欠かせません。また、企業等においても事業活動を災害から守る、復旧を進める、などの点でITを活用すれば状況の把握、収集および集約、分析・評価、対策立案、対策の実行および結果の確認と改善、などが迅速かつ効率的に進められます。

 

防災ビジネスのどの分野においてもIT活用は有効であり、他社との差別化を図り顧客やユーザーにより大きなメリットを提供できる可能性を高めるために、積極的なITの導入・活用を検討しましょう。


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