日本郵便の配達用バイクが全て電動化されようとしています。
3月23日、日本郵便とホンダは、電動バイクによる郵便配達の整備に向けて協力関係を構築する方針で一致しました。配達に使用されている全国8万5000台のバイクが生まれ変わります。
排ガス規制や電気自動車の普及など地球環境に対する配慮が求められるなか、2輪最大手のホンダは電動型スーパーカブの開発に着手。今後は郵便局に電動ステーションを設置するなど実証実験に取り組む方針です。
依然としてガソリン燃料が主流のバイク業界。このたびの両社の協業をきっかけに、電動バイクの普及は進むのでしょうか?
目次
- 1 目指すのは電動バイクによるインフラ整備
- 1-1 より安全に、より正確に
- 1-2 EVカブは2018年に投入予定
- 2 イマイチ普及しないのはなぜか
- 2-1 そもそも電動バイクって?
- 2-1 普及が進まない原因
- 3 普及に向けた地方自治体と企業の取り組み
- 3-1 神奈川県の取り組み
- 3-1 埼玉県の取り組み
1 目指すのは電動バイクによるインフラ整備
日本郵便とホンダは約半世紀にわたり2輪車の開発・運用で協力関係を築いてきました。このたびの協力締結では、郵便配達業務において地球環境に配慮した電動バイクに切り替え、郵便局で充電ステーションの実証実験を行い、継続的な地球環境への貢献を行う社会インフラの整備に向けた協議を進める方針です。
1-1 より安全に、より正確に
効率的な車両運行・永続的なユニバーサルサービスの実現に向けた取り組みとして、次の2点が検討内容となります。
・おもな検討項目
郵便配達業務へのテレマティクス·サービス「Honda Biz LINC※」の活用 | ホンダが開発した「Honda Biz LINC」(スマートフォンやタブレット端末のGPS機能を活用し、バイクや軽自動車での近距離移動における業務効率向上を支援するクラウド型ソリューションサービス)を郵便配達業務に活用して実証実験を行う予定。配達車両の位置情報を把握できる機能等を活用することで、配達車両をより効率的で安全に運用することを目指す |
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日本郵便の郵便配達用バイクに関する保守体制の構築 | 現在、ホンダから納入されている郵便配達用バイクを、安心して業務に使用できることを目的とした保守体制を全国で強化する予定。保守による郵便配達用二輪車の最適なコンディション維持を通じて、安定、正確、安全な配達業務を支えることを目指す |
(参照:ホンダ、日本郵便プレスリリース)
1-2 EVカブは2018年に投入予定
1958年の発売以来、半世紀で累計6千万台売れた「スーパーカブ」はホンダを代表する2輪車となっています。
ホンダは2013年と2015年の東京モーターショウでEVカブ(電動型カブ)のコンセプトバージョンを発表。リチウムイオン電池を着脱式にしたり、家庭用コンセントで充電可能にするなど、保守・管理の利便性を重視。走行燃費は1回の充電で50kmを目指すとしています。
(▲自宅でも充電可能なコンセントを内蔵 / 出典:HONDA)
(▲着脱可能なリチウム電池 / 出典:HONDA)
EVカブのデザイン担当の渡邉徳丸氏は電動バイクのメリットについて
「静かで排気ガスも出ませんから、室内で乗ることも可能になるかも知れませんし、ガソリンタンクがないので横倒しで保管しても大丈夫。郊外へツーリングに出かけても、自然と共存するように、鳥のさえずりや葉擦れの音を聞きながら走るのも気持ちいいでしょう」
と語ります。さらにEVカブが目指す方向性については
「電動になることで、これまでの“スーパーカブ”同様、もしかするとそれ以上に世界中で人々の暮らしを楽しく豊かにする道具、社会に貢献するプロダクトとして愛されていくものになることを目指していきます」
としました。
※ Honda Biz LINCはスマートフォンやタブレット向けのアプリで、人や乗り物の位置情報をリアルタイムに管理できる「動態管理機能」、狭い路地や入り組んだ街並みでも実用的なルートの検索ができる「ルート探索機能」、運転状況の“見える化”で安全運転意識の向上を図る「安全運転支援機能」を備える。
2 イマイチ普及しないのはなぜか
日本の環境意識に対する芽生えは、ハイブリッド※自動車「プリウス」がきっかけといっても過言ではありません。特に2003年に販売開始となった2代目プリウスは爆発的に売れ、販売台数で長年首位を維持してきたカローラに取って代わりました。
ガソリンと電動モーターの両駆動で動くハイブリッドシステムは二酸化炭素の排出も少なく、さらに低燃費。これまで高級車に乗っていた米ハリウッド俳優も次々にプリウスに乗り換えるなど、エコカーブームが始まり、今日の人気定着に至ります。
2-1 そもそも電動バイクって?
電動バイクは電気自動車のようにモーターとバッテリーで走行するため、ガソリンは一切使用しません。また、駆動する部分が少ないためメンテナンスする必要もなく、維持費も抑えることが可能な仕組みとなっています。
その他は次のようなメリットがあります。
・走行音が静か | 深夜・早朝での外出、閑静な住宅街での利用がしやすくなる |
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・環境にやさしい | ガソリンを使用しないため、二酸化炭素を排出しない |
・屋内での充電が可能 | バッテリーを取り外して、屋内で充電することができる |
2-2 普及が進まない原因
自動車による環境配慮が進む一方で、バイクの電動化は遅れています。
その原因について環境省は「電動バイク(EVバイク)は、航続距離が限られているうえ、電気自動車と異なり外部で充電する環境がないため、利用環境が十分でない」としています。
一度の充電で走れる距離はガソリンバイクよりも短く、10〜15km程度とされています。そのため遠出することができず、購買層のメインである中高年男性の間でも需要が高くないようです。
このほか、バイク自体の人気低迷も普及が進まない要因です。
最盛期には全国で年間320万台が売れていましたが、2015年度の販売台数は8分の1以下に落ち込みました。
・バイク販売台数
年 | 原付一種(50cc以下) | 原付二種以上(51cc以上) | 合計 |
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1980 | 1,978,426台 | 391,610台 | 2,370,036台 |
1990 | 1,213,512台 | 405,421台 | 1,618,933台 |
2000 | 558,459台 | 221,418台 | 779,877台 |
2005 | 470,922台 | 235,591台 | 706,513台 |
2010 | 231,247台 | 148,995台 | 380,242台 |
2015 | 193,842台 | 178,854台 | 372,696台 |
(参照:日本自動車工業会「二輪車販売台数」を元に作成)
※ハイブリッドとは、たとえばトヨタのプリウスであれば、モーターとガソリンエンジンをエネルギー効率が最大になるようなプログラムで制御することで自動車としての性能を高めながらも低燃費を実現している。(参照:HYBRID UCAR)
3 普及に向けた地方自治体と企業の取り組み
電動バイクの普及に向けては、企業と自治体が協力して取り組んでいます。
3-1 神奈川県の取り組み
神奈川県は2006年から電気自動車の普及に取り組んでいます。電気自動車を公用車へ率先して導入したり、保有者には駐車場や高速道路料金を割り引くなどの優遇措置を講じてきました。
また2014年までに県内に急速充電器や電気車両用コンセントを設置を進め、「EV充電ネットワーク」の環境整備を整えました。
さらに2010年からはヤマハやマツダレンタカーと協同して、電動バイクを体験できるなどの「かながわEVバイク普及推進プロジェクト」に取り組んでいます。
(▲充電ステーションを備えたバイク専用の駐車エリア /出典:GET BIKE)
3-2 埼玉県の取り組み
ホンダは埼玉県と協力し、2009年に「環境分野における協力に関する協定」を締結し、2010年に「次世代パーソナルモビリティ実証実験」に着手。四輪のEVおよびPHV、電動バイク、電動カートなど多様なパーソナルモビリティが、地域社会のなかでどのような実用性や利便性を発揮するかを調査しています。
また、車両の技術研究だけでなく、太陽光発電によるソーラー充電ステーションを試験運用し、さらに、スマートフォンを使ってバッテリーの残量や航続可能なエリアを確認し、充電スタンドを検索できるサービスを構築するなど、総合的なシステムを導入しています。電動バイクも充電できるこの実証実験を行う地域は、「さいたま市」、「熊谷市」、「秩父市」の3つとなっており、電動バイクについては、さいたま市において四輪EVとの共同利用による都市型移動スタイルの実現を目指します。
さらに、ホンダは熊本県とも協定を結び、埼玉県の同様の検証を実施。「熊本市」、「水俣市」、「阿蘇エリア」、「天草エリア」の4つの地域で行われ、電動バイクに関しては、市民や観光客にレンタルサービスを提供するほか、熊本市ではバイク通学の高校生に電動バイクを利用体験してもらうなどの普及活動に取り組みます。(参照:GETBIKE)
(出典:GET BIKE)
こういった地方自治体の地道な啓発活動や充電ステーションの増加により電動バイクの利用環境は確実に改善してきました。この度のホンダと日本郵便の協業締結では、より一層の普及効果が期待されます。