スーパーで1袋15円などで売られているもやし。さまざまな料理に使え、しかも安くて栄養満点のため、重宝している家庭も少ないのではないでしょうか。
ところが、全国のもやし生産者にとってあまりに安く売られている現状に対し、我慢の限界を迎えています。
今年3月、全国のもやし生産者からなるもやし生産者協会は、近年の原料種子高騰と人件費上昇により、経営困難に陥っているとの窮状を明かしました。協会によれば、もやしの原料となる緑豆の価格が2005年と比べると約3倍に上昇するなど、経費削減では到底まかなえないような状況が続いていました。
協会はホームページ上にて「もやし生産者の窮状にご理解を!」との異例のコメントを掲載し、今後値上げする可能性が高いことについて一般消費者に理解を求めました。
果たしてもやしを取り巻く環境はどうなってしまうのでしょうか。
目次
- 1 限界ギリギリの経営状態だった生産者たち
- 1-1 1袋40円での販売を要求
- 1-2 もやし生産者も人材不足
- 2 適正価格での販売はなぜ難しいのか
- 3 消費者はおおむね値上げ支持?
1 限界ギリギリの経営状態だった生産者たち
もやし生産者協会によれば、生産者たちの消耗しきった経営状態をうかがい知ることができます。
もやしの小売価格は2005年で約10%下落したにも関わらず、もやしの原料の一種である緑豆※価格は約3倍に上昇、加えて最低賃金も2005年比で約20%上昇していました。
もやし生産者は原料高騰などに対して、経費削減などの企業努力により対応してきましたが、収穫期に重なった降雨の影響で種子の発芽率か悪く、品質が悪化したため、高品質な原料種子の収穫量が激減していました。
それにも関わらず、労働者団体による最低賃金の引上げ要求に応えるかのように政府も賃上げしたため、生産者たちの経営状態はついに破綻寸前にまで追い込まれることとなってしまいました。
※ 緑豆は中国原産で青小豆とも呼ばれ、もやしの他、春雨の原料としても知られている。緑豆を原料とする緑豆もやしは、近年ではもっとも生産量が多く、市場に出回っている。軸は太めで食べごたえがあり、みずみずしい食感が特徴。対して納豆などにも使われている小粒の大豆で作ったものは大豆もやしと呼ばれる。甘みが強く、煮崩れしにくいといった特徴がある。(参照:富士ナチュラルフーズ)
1-1 1袋40円での販売を要求
もやし生産者協会は今年3月、「もやし生産者の窮状について」と題する資料を関係各所に配布するという異例の措置に躍り出ました。資料では次のような内容が訴えられました。
「もやしは食卓になくてはならない野菜です。私共もやし生産者は、安全・安心な商品を消費者の皆様にお届けすることが使命であります。今後も全国の消費者様への安定供給を維持するために、別紙のとおりの非常に深刻なもやし生産者の現実・経営環境等にご理解とご高配を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます」(参照:平成29年3月9日付文書「もやし生産者の窮状について」)
とし、もやし生産の現状に理解を求め、小売店に対し「適正価格」での取り引きを求めました。具体的には1袋あたり40円での販売を求めていることがわかっています。
(▲窮状を訴える生産者協会の資料)
東京都中央卸売市場日報によれば大田市場における豆もやしの平均卸価格は1キロ当たりで117円。スーパーでは1袋200グラムあたり平均約30円(総務省家計調査)程度で売られていますが、デフレの影響で20円を切ることも珍しくありません。40円への値上げを消費者が安いととるのか、それとも高いととるのでしょうか。
1-2 もやし生産者も人材不足
また、資料によると2009年時点で230社あったもやし生産業者が、現在、130社をきったことを明らかにしています。8年で100社以上が廃業したことを受け、生産者協会は「このままでは日本の食卓からもやしが消えてしまうかもしれない」と警鐘を鳴らします。
2 適正価格での販売はなぜ難しいのか
もやしは、客寄せの広告として使われることも多いため、スーパーによって相当安い値段をつけることも少なくありません。
また、天候に左右されず安定的に生産できるので、天候不順によって他の野菜の供給量が減ってしまう際には野菜不足を補うためにもやしの供給量が増えるのも一因となります。
・ もやしの国内生産量
年度 | 生産量 (千トン) |
---|---|
2005 | 394 |
2006 | 369 |
2007 | 358 |
2008 | 383 |
2009 | 446 |
2010 | 408 |
2011 | 451 |
2012 | 466 |
2013 | 409 |
2014 | 437 |
(参照:農林水産省「食料需給票」)
(▲平成19年以降、もやしの生産量は増加傾向にある)
3 消費者はおおむね値上げ支持?
生産者の窮状が各メディアを通して一般消費者に知れ渡ると、値上げを支持する声が相次ぎました。
これに対してSNS上では、「40円くらい問題ない」「生産者がかわいそう」「スーパーは適正価格で販売してあげてほしい」など生産者に同情する声が多く見受けられました。
日本農業新聞(2017年4月21日付け)によれば、協会が受けた取材はテレビ、雑誌、新聞、ネットなど40件以上で、安売りの裏側にある生産者の窮状が報じられると、応援の電話やメールが多数届いたといいます。さらに、九州、関西の生産者は「地元スーパーから『大丈夫?』と聞かれた」などの声を紹介しました。
生産者協会は、最大手を除けばおおむね値上げ交渉に応じてくれるだろうと話します。
後継者不足や人手不足が深刻化している農業業界。買い叩きや不正な安売りが横行しないよう、農業生産者を保護するためのガイドラインづくりが求められています。