従来の紙媒体による定款認証には、紙の定款に署名(記名)、押印して公証人の定款認証を受ける必要がありました。この点、電子定款認証では、電子文書で定款を作成し、これに電子署名を付与して法務省の登記・供託オンライン申請しステムの申請総合ソフトをダウンロードしてPDF化した定款を送信して定款認証を行います。
電子定款は、紙による定款では必要だった印紙税が必要なく、経費が抑えられることが最大の利点と言えますが、電子定款認証には様々な注意点があることもまた事実です。
ここでは、電子定款認証の手続きを追って、注意点を記述してみました。
目次
- 電子定款認証とは
- 電子定款認証の従来の紙媒体の定款認証にはない注意点
- 利用環境の確認
- 電子定款認証に必要な機器と電子署名の取得
- 定款の作成
- 電子定款認証には、公証人と事前に相談
- マイクロソフトのWORD等のソフトで作成した定款をPDF化する
- PDF化した定款にソフト利用して電子署名を行う
- 電子定款認証の申請用ソフトのダウンロード
- 公証人役場に電子定款を送付し、受け取りに行く
- 電子定款認証の際の委任状の記載に注意
- 電子定款の認証は印紙代4万浮くが
電子定款認証とは
近年まで、株式会社等の根本規則を定めた定款は、紙媒体で作成し、その紙の定款を公証人役場に持って行き、公証人の定款認証を受ける方法が採用されていました。
しかし、定款作成に関する法律改正により、紙の定款ではなく、フロッピーディスク、CD-R、USBメモリといった電磁媒体に記録した定款を公証人が認証する定款認証が可能となりました。これを電子定款認証と言います。
電子定款認証の従来の紙媒体の定款認証にはない注意点
電子定款認証には、従来からの紙媒体の定款認証と異なる注意点が存在します。ここでは、電子定款認証手続きを追いながら電子定款認証における注意点を記載します。
利用環境の確認
電子定款の認証は、オンライン申請を行うので、PCが必要で、また使用するPCが法務省が推奨する環境に適応しているかを確認する必要があります。この際、法務省の登記・供託オンライン申請システムに必要なソウトウエアやツールの確認、その他の注意事項も合わせて参考にしてください。
電子定款認証に必要な機器と電子署名の取得
電子定款認証には、これを行うための機器と電子証明書の取得が不可欠です。
電子定款認証に必要な機器は、①ICカードリーダライタ②PDF変換ソフトが必要です。①のICカードリーダライタは、ICカードに記録された電子情報を読み込む機器で、PCショップや家電量販店で販売されています。ただ、電子署名の認証機関は、セコムやNTTネオメイト等の民間機関や地方公共団体による「公的個人認証サービス」に係わる認証局等があり、これら認証機関に対応するICカードリーダライタは異なるので、十分確認して購入する必要があります。ここ機器の価格は、2000円位から各種あります。
また、電子定款の認証には、紙媒体定款における署名(記名)押印に代えて、「電子署名」が必要です。電子定款は紙媒体ではないので、これに署名し印鑑を押すことはできません。
そこで、電子証明書を施し、その電子署名を本人が行ったことの証明として「電子証明書を送付する必要があります。電子証明書の認証機関は、上記のように様々な機関がありますが、個人の場合は、地方公共団体の公的認証機関がお薦めです。
公的認証機関における電子署名に関する手続きには、まず、住民基本台帳カード(住基カード)を取得する必要があります。この取得には500円位の費用が必要です。住基カードを発行取得するためには、免許書等の本人確認書類が必要なので、忘れないようにして下さい。その後、居住地の行政窓口で、「電子証明書新規発行申込書」に必要事項を記入して申請します。
尚、公的個人認証サービスの利用による電子証明書取得には、「利用者クライアントソフト」が必要ですが、このソフトは、公的個人認証サービスのサイトからダウンロードできます。
定款の作成
電子定款でも紙媒体における定款同様の作成作業が必要です。会社の将来の事業や現在の状況を考慮した機関設計をよく吟味して、会社設立後すぐに不都合が生じて定款することがないよう専門家等の意見も取り入れて十分検討して作成して下さい。
電子定款認証には、公証人と事前に相談
電子定款認証を申請する際前には、まず、事前に公証人役場に連絡して作成した定款や定款認証の委任状、印鑑証明、様々な定款認証に必要な書類一式をファックス等で送付し、その定款をお互いに見ながら、定款の内容や認証を行う期日について公証人と十分相談することが必要です。電子定款の場合は、紙媒体の定款と異なり、訂正印による修正が効かないので、公証人役場での事前チェックを必ず行う必要があります。
マイクロソフトのWORD等のソフトで作成した定款をPDF化する
電子定款認証には、当然ながらまず、定款そのものを作成する必要がありますが、この定款作成は、マイクロソフトの文章作成ソフトのワード等で作成します。その後、この定款文書をPDF化してこれに電子署名を施します。更に、これに電子証明書を付加して、法務省のオンライン申請システムを通じて公証人役場に送信します。
電子定款の作成では、紙の定款では必要とされた印紙代4万円が不要になるメリットがあります。印紙税はとは、紙の重要書類に添付しなければならないものなので、電子定款は電磁的記録であり、紙媒体ではない(フロッピーディスク、CD-R、USBメモリ等の電磁媒体)ので、印紙税を観念することができません。
ただ、ワード等で制作した定款をPDF化するには、一般的でフリーソフトであるAdobeでは足らず、有償のソフトの購入が必要です。この金額は3万円位するので、印紙代が不要と言ってもその大半は、このソフト購入で使い果たしてしまいます。
PDF化した定款にソフト利用して電子署名を行う
PDF化した定款には、「PDF署名プラグインソフト」を使い、定款に電子署名を行う必要があります。PDF署名プラグインソフトは、先述した法務省登記・供託オンライン申請システムサイトからダウンロードして下さい。このサイトには、各操作説明書も組み込まれているので、これも取得して円滑な申請を行えるようよく理解して下さい。
PDF化した定款に以上のような手続きと電子署名を付与すれば、電子定款そのものは完成します。
電子定款認証の申請用ソフトのダウンロード
法務省の登記・供託オンラインシステムのサイトから申請用総合ソフトをダウンロードします。このサイトは、文字通り商業登記や不動産登記、供託のオンライン申請登記システムなので、登記識別情報等の情報表示ツールも取得可能ですが、電子定款の認証手続きには関係ないので、これらのソフトの入手は必要ありません。
公証人役場に電子定款を送付し、受け取りに行く
電子定款は、その電子と言う言葉から、インターネットを通じて認証された電子定款をインタネットを介して受け取ることができるとお考えの方もいるかもしれませんが、電子定款であっても、認証申請のために送信した電子定款認証には、その定款を公証人役場に取りに行く必要があります。
また、現在では、全国のほとんどの公証役場でも電子定款認証が可能となっていますが、全ての公証人役場で電子定款認証ができるとは限りません。都市圏ではほぼ完全に電子定款に対応していますが、地方に行くと対応していない公証人役場もあるかもしれないので、電子定款認証を申請しようとする方は、公証人役場に電子定款認証について問い合わせてください。
更に、電子定款の認証は、指定公証人でないと出来ません。法務大臣から指定を受けた公証人である「指定公証人」が電子定款認証を申請する公証人役場にいるか否かを事前に確認して下さい。
電子定款認証の際の委任状の記載に注意
電子定款の認証手続きでも、電子定款に電子署名を付与して送信する作業は、必ずしも発起人全員で行う必要はありません。ただ、委任状の文言が紙媒体の定款認証申請の場合と異なるので注意して下さい。
委任状には、電子署名し、電子申請した発起人の住所と氏名を記載し、これを申請代理人とし、「○○会社の設立に際し、別紙の通り電磁気的記録である原始定款を作成し、申請に関する一切の権限」、「電磁的記録の保存、情報提供の請求及び受領の一切に関する権限」を委任するとの文言を付し、他の電子署名・電子申請していない発起人の住所を記載します。
因みに、電子証明書は、実印や印鑑証明書と同様の効力があるので、電子証明書を作成したPCは他人に使わせてはいけません。また、PCそのもののやフロッピーディスク、CD-Rの管理にも十分注意して下さい。盗難にも気をつけてください。
電子定款の認証は印紙代4万浮くが
電子定款の認証手続きは、かなり面倒で、費用や機器の購入を考えると、自分で行うことは得策とは言えません。自分で作成認証を受けるためには、まず十分電子定款認証について理解して自信を持って進める必要があります。電子定款認証に必要な機器やソフトウエアの購入費だけでも3万円以上かかるので、電子定款認証の精通した行政書士等の専門家に依頼する方が、結果的には楽で正確、コストも割安で済むのではないでしょうか。