株主総会議事録は、商業登記の添付書類とし必要だけでなく、裁判や税務調査等においても重要な記録です。
また、株式会社の経営において、定款や会社法等の様々な法令を遵守しているか否かを確認し、その根拠を示す記録としても非常に重要な資料と言えます。
株式会社設立における大きな趣旨は、[営利性]にあるとも言えますが、株式会社は法律を根拠として認められた法人であり、私たちの社会を構成する重要な構成員としての側面も持つので、出来るだけ透明性のある会社運営が求められ、それに伴い、株式会社の最高意思決定機関である株主総会の議事録を適切に記録・保存する必要が生じると言えるのです。
目次
- 株主総会議事録の意味
- 株主総会議事録は会社法上の作成義務書類
- 株主総会議事録の実務上の存在意義
- 株主総会議事録の作成義務者とは
- 株主総会議事録の署名者とは
- 株主総会議事録の形式と記載事項について
- 株主総会議事録の保存について
- 株主総会議事録の電子化について
株主総会議事録の意味
会社や一般財団法人等の組織体の運営には、意識統一のために多くの種類の合議が必要です。このうち、株主総会とは、株式会社の実質的所有者である株主が集まって意見や要望を主張し、最終的な株式会社の意思決定を行う、株式会社に欠くことのできない、最高意思決定機関(会社法295条1項)です。
この株式会社の最高意思決定機関である株主総会でどのような事が議題となり、どんな事項がどのような過程を経て決定(株主総会に付議された各議案の決議結果等)したかを記録するものが株式総会議事録です。
株主総会議事録は会社法上の作成義務書類
株式会社も会社法を根拠に生じた社会を構成する法人なので、株式会社が如何なる経過を辿って、現在の経営方針が決定されたのか、また、どのような事項がどのように議論されたか、更に、取締役には誰がどれ位の期間就任していたかといった事柄が確認できる記録を残すことが必要です。そこで、会社法では株式会社の株主総会での議事の進行や議決内容を明確に記録する株主総会議事録の作成義務を規定しています(会社法318条1項)。
万一、議事録への記載・記録事項が義務付けられている事柄を記載しなかったり、虚偽の記録を行えば、その作成者に対して多額の科料が科される場合も生じます。
ただ、株主総会議事録は、議事の経過や議題の決議に対する結果が記録によって分かれば良いので、一字一句正確に記録する必要はなく、結論さえ違わなければ、議論等の概要の記録で構いません。この点はあまり神経質になることはありません。
株主総会議事録の実務上の存在意義
株主総会議事録は、社会の一員として事業活動を行う法人の意思決定や議決の内容を記録する重要な書類ですが、その他、株主総会議事録には、会社経営の実務上・法令上の存在意義があります。
①株主総会議事録
まず、株主総会議事録は、商業登記申請時の添付書類になります。例えば、株主総会において、取締役または監査役が選任されたり、任期満了によって退任した場合や定款変更が必要な商号変更や本店移転等の登記事項変更を要するときは、本店所在地において2週間以内、支店所在地においては3週間以内に変更の登記をしなければなりませんが、この時添付書類として株主総会議事録を登記変更申請書に添付することが必要です。
また、会社がある登記事項を登記する場合、株主総会や種類株主総会(特定の種類株式を所有する株主で構成する総会)等の議決書として株主総会議事録の添付が求められることがあります。
商業登記法では、このような場合に株主総会議事録を登記申請書に添付しなければならない規定があります(商業登記法46条2項)。
ただ、総会を開くことなく、株主全員が書面で決議案に同意することで総会決議と同様の効力を持つ「書面決議」で法律上の要件が認められる場合には、株主総会議事録に代えて書面決議に関する書面やその議事録を添付すれば事足りる場合もあります(会社法319条1項等)。
②株主総会議事録
次に、株主総会議事録は、裁判上の証拠書類として重要な機能が認められ記録です。株主総会が何の問題も無く進行するいわゆる「シャンシャン総会」では問題はありませんが、株主総会では時に議事を巡り紛争が生じる場合があります。
この場合株主総会の議決や株主総会不存在の訴え等に関して訴訟を提起されることもあり、議事の内容や進行実態、議案決議の成否等を明確に議事録として残しておく必要があります。
特に、株主総会議事録には、閲覧請求が可能な項目も含まれ、これは裁判所への提出を拒めないので、訴訟になった場合、有力な推定証拠となります。
ただ、株主総会議事録には常に真実が記録されているとは限らないので、新事実が証明されれば、議事録の記録が認められない場合が生じることがあります。
③株主総会議事録
更に、株主総会議事録は、会社債権者や株主等の利益関係人に対する情報公開資料としての機能を持っています。株主総会議事録の閲覧請求権や謄写請求権が一定の要件のもとに認められています。
このように株主総会議事録は、会社経営の沿革を記録することの他、会社業務に対する事実の証明機能や会社経営の透明性を担保するためにも重要な記録と言えます。
株主総会議事録の作成義務者とは
会社法上、株主総会議事録の作成義務者の規定はなく、株主総会の議長とする説と代表取締役とする説が存在します。ただ、株主総会の場合の議長は、代表取締役が務めることが殆どです。
また、株主総会議事録を備え置くことは代表取締役の責務であり、株主総会議事録の不実記載については、取締役の責任とされているので、代表取締役が株主総会議事録の作成義務者とする説が通説となっています。
株主総会議事録の署名者とは
意外なことに、会社法に、株主総会に出席した取締役が株主総会議事録に署名・押印しなければならないとの規定はありません(取締役会議事録、委員会議事録、監査委員会議事録には出席監査役や取締役の署名・押印が必要と規定されています)。ただ、一般的には、議長と出席した取締役が署名しています。
株主総会議事録の形式と記載事項について
株主総会議事録の形式は法律上の規定はなく、インターネット上のひな型や書籍のサンプルに沿って記載すれば足ります。ただ、他の記録書類や契約書等と同様に、差し替え・改ざん防止のため、各ページの綴り目に契印した方がよいでしょう。
また、株主総会の議事録には、議事の経過や要領及びその結果を記載する必要がりますが、その具体的な書き方や内容についての法的規定はありません。
一般的な記載項目は、
①総会の名称、開催の日時、場所、終結時刻、
②取締役、監査役の出欠状況、
③株主の議決建の数と出席株主の株、
④議事の開催から終結までの経過、
⑤総会に付議された各議案の決議結果の以上5項目は必要記載事項と言えます。
株主総会議事録の保存について
株主総会の議事録は、株主総会が開催された日から本店に10年間、またその写しを支店に5年間備え置くことが義務付けられています。この備え付け義務を怠った場合、義務の責任者である代表取締役は、100万円以下の過料に処せられます。
このように、株主総会議事録は最大10年間の保存が法律上は必要ですが、この期間を超えても保存しておくことがお薦めです。
何故なら、株主総会議事録は、株主総会の審議内容や過程を記録し、商業登記関連の添付書類、株主総会の議決の有効性が争われた際には、有効な証拠としても重要な記録だからです。
株主総会議事録の電子化について
近年、株主総会議事録は、書面媒体でだけでなく、電磁気的記録をもって作成できるようになりました。作成のみならず、電磁気的記録による保存も可能です。電磁気的記録の保存には、書面で作成された株主総会議事録をイメージスキャナーで読み取って、電子化保存の他、フロッピーディスクやCD‐ROM等に記録しておくこともできます。