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決算資料とは何?決算資料の種類、作成のポイントや活用方法を紹介!「利益」がいい会社の見分け方も

1事業年度が終了すれば決算説明会や株主総会などが開催され、決算内容の説明が行われます。その際の説明に利用されるものが決算資料ですが、会社員の方でも具体的な種類や内容を知らない方も多いのではないでしょうか。

 

ここでは決算資料と呼ばれるものの種類、有効な作成方法や活用方法を説明します。各決算資料をどのように利用すればビジネス等に役立つのかという点を提出側・公表される側の両方から説明し、その作成のポイントなども紹介しましょう。

 

 

1 決算資料が有効活用されない場合の不利益や問題

決算資料の作成・公開は投資家や債権者の保護などが目的とされていますが、利用の仕方によっては提出企業・公開される側の両者に不利益や問題が生じることがあります。

 

ルール通りに決算資料が提出・公開され基本的な目的は果たされたとしてもビジネス上の不利益が生じたり、ビジネスチャンスを逃したりという間接的な損失を被ることもあるのです。

 

ここではそうした有効活用されない、適切に利用されない場合にどんな問題や不利益に繋がるのかを説明します。

 

 

 

1-1 提出側における決算資料の目的以外の効果や問題

提出する側では、決算資料を有効活用すれば本来の目的以上の効果が得られる一方、利用の仕方次第ではデメリットが生じることもあるのです。

 

①目的以外の活用効果とは

決算短信や財務諸表などの決算資料は所定の書式や記述内容が定められていますが、決算説明資料などでは報告内容の情報量を多くして丁寧な説明を行うことさまざまな効果を得ることができます。

 

また、法的に作成・提出が義務付けられていない決算説明資料などは書式や記述内容が自由であるため、さまざまな情報や解説を加えることで投資家を含むステークホルダーに有益な情報提供ができるのです。

 

たとえば、近い将来有望な成長事業に進出する、新たな技術開発に成功し新製品の開発に乗り出す、新規開拓した市場での売上が好調で業績の大幅増が期待できる、といった企業の業績の良さを詳しくアピールできます。

 

こうした情報を提供することで既存株主からの評価を得て長期に渡る株主との良好な関係が維持しやすくなるだけでなく、新しい株主の獲得および拡大に繋がるでしょう。また、新規顧客や仕入先の拡大のほか借入先の金融機関との関係の強化も期待できるのです。

 

もちろん業績の低迷や不祥事の発生といった企業のマイナス面の情報提供も丁寧に行う必要があります。上場企業などにおいて業績の悪化やトラブルが発生すれば、株価とビジネス上の取引にその影響がでることが予想されますが、丁寧な説明を実施することでその影響を最小限に抑えられることもあるのです。

 

このように提出企業が決算資料を適切に利用できれば、自社に対する投資や取引を有利な状況に持っていくことができます。

 

②有効活用されない場合の不利益や問題

①で確認したように積極的で丁寧な情報提供を行うとさまざまなメリットが得られますが、逆にそれを行わないとそうしたメリットを得るチャンスを失うわけです。

 

新開発した製品・サービスの優れた性能・品質のほか、ユーザー視点の有益な利用方法を説明すれば、その製品・サービスに対するユーザーや市場からの評価は高まるでしょう。しかし、十分な説明がないと従来品などと大して変わらない評価を受け、株価やビジネス上の取引にプラス効果が出ないこともあるのです。

 

また、業績の悪化、不祥事などのトラブルについても情報量が足りなかったり、発表が遅れたりすると、影響が想定以上に大きくなることもあります。株式市場などでは悪い材料に敏感で過剰反応することも少なくないので、大した問題でなくても説明不足の情報提供は株主、取引先や金融機関等との関係を悪くさせかねません。

 

早めにしっかり説明しなければ、大したことのない問題でも大きな問題になり得るのです。そんため、決算資料の提出・公開においても迅速かつ過不足ない説明内容で提供しなければなりません。

 

 

 

1-2 公開される側における決算資料の有効活用する場合としない場合

決算資料を公開される側とはある企業の株式を取得する株主・投資家、取引している企業、融資している金融機関などですが、その企業の決算資料を有効活用する場合としない場合とではビジネス上での差が生じます。

 

①公開される側の決算資料を有効活用する場合の効果

決算資料は、投資先、販売先・取引先や融資先の分析・選定に利用できるものも多く、活用次第で利用者は大きなメリットが得られるのです。

 

たとえば、投資家は決算短信などの決算資料の発表・説明に即して投資行動を迅速に行います。金融機関などは有価証券報告書といった決算資料の内容をじっくり分析して今後の融資の継続・拡大などを検討することもあります。販売先を見つけたい企業も有価証券報告書の内容を調査して取引の可能性を検討するのに役立てることもあるのです。

 

したがって決算資料を有効活用すればするほど、適切な投資機会を得たり、有望な取引先や融資先を探し出せたりする可能性が高まります。

 

②公開される側の決算資料が有効活用されない場合の不利益や問題

決算資料を有効活用しない場合、上記①でのメリットが得られない可能性が高まります。

 

決算短信の情報に即応したり、有価証券報告書の内容を分析したりしないで投資活動を行うと、株価の上昇前の購入機会を逃し大きなリターンを得るチャンス失うこともあるでしょう。

 

また、有価証券報告書や決算説明資料で事業のリスクについての情報があったにもかかわらず、分析を怠れば株価の下落というリスクを被ることもあるのです。

 

ビジネス上の取引においても決算資料の事業状況などに関する分析を怠れば、成長の鈍化や事業の衰退化などに気付くのが遅れ、その企業に対する売上・利益の低下に繋がることもあるでしょう。

 

決算資料を上手く活用して、投資先や取引先等のリスクを早く掴みその大きさを適切に計ることができれば、自社への影響を回避したり最小限にとどめたりすることも可能です。つまり、相手の決算資料を有効活用することでリスク対応力の強化も期待できます。

 

 

2 決算資料とは

ここでは決算資料にはどのような種類があり、どのような目的でどういった内容が記載されているのか、という点を説明します。

 

 

2-1 決算資料の概要

「決算資料」という言葉には法的な定義はなく、各企業において認識にズレが生じることもあり得ます。そのため、ここでの決算資料の種類や内容を便宜的に定義するとともに具体的な資料を紹介しておきましょう。

 

まず、ここでの決算資料について定義しておくと、決算資料とは「決算書」を含む決算内容や企業の状況を説明する資料のことを指します。これに該当する決算資料としては、決算書自体、決算書を含む報告書類、決算内容や事業の状況を説明する決算説明(会)資料に分けられます。

 

決算書とは、企業が1事業年度に活動した業績結果や財産状態を示す資料で財務諸表のことです。この財務諸表には貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュフロー計算書などが含まれます。

 

そして、決算書を含む報告書類には、有価証券報告書、決算短信、株主総会通知書や法人税申告書があります。有価証券報告書は金融商品取引法、決算短信は証券取引所の開示規則、株主総会通知書は会社法、法人税申告書は法人税法によって作成・提出が要求されているものです。

 

このように報告書類は複数あり、要求している法律等も異なるため、その利用目的なども多少異なります。有価証券報告書と決算短信は主に投資家保護、株主総会通知書は株主・債権者の保護等、法人税申告書は納税のために利用されるものです。このように利用される目的が異なることもあり、含まれる決算書の種類や記述内容も多少異なっています。

 

決算内容や事業の状況等を説明する決算説明資料とは、決算説明資料・決算説明補足資料や決算説明会プレゼンテーション資料、決算説明会質疑応答内容、決算説明会動画、などです。これらは決算説明会等でその期の決算内容などを投資家等に説明するために作成され利用されています。

 

また、決算説明会質疑応答内容は決算説明会での質疑応答の内容がまとめられた資料で、決算説明会動画はその説明会時の様子を撮影した動画が後日その企業のWEBサイトで公開されるものです。

 

 

 

2-2 各種決算資料の具体的な内容

ここで決算資料の具体的な内容を確認していきましょう。

 

①決算書

決算書である財務諸表には、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュフロー計算書、製造原価報告書(製造業)、個別注記表、附属明細書、事業報告書などがあります。また、その構成や各種名称なども報告書類等によって多少異なります。

 

たとえば、会社法と金融商品取引法に基づく報告書類の決算書の構成は以下のような内容になっているのです。

 

会社法

  • 貸借対照表
  • 損益計算書
  • 株主資本等変動計算書
  • 製造原価報告書(製造業)
  • 計算書類の附属明細書
  • 個別注記表
  • 事業報告の附属明細書

 

金融商品取引法

  • 貸借対照表
  • 損益計算書
  • 株主資本等変動計算書
  • 当期製品製造原価の内訳を記載した明細表
  • 附属明細書
  • キャッシュフロー計算書

 

②決算の報告書

決算書を含む報告書として、有価証券報告書と決算短信の内容を簡単に紹介しておきます。

 

・有価証券報告書

有価証券報告書とは決算情報を含む業績や事業内容等に関する資料のことで、有価証券を発行している上場企業や一定の要件に当てはまる企業が金融商品取引法に基づいてその提出・開示義務を負っています。主に投資家保護が目的とされ各事業年度の決算期日後3カ月以内の提出が必要です。

 

有価証券報告書の提出義務がある企業は、半期報告書または四半期報告書の提出義務のある企業に分かれます。証券取引所に上場している企業は後者に該当し、年3回(第1四半期から第3四半期)の四半期報告書と年度末の有価証券報告書を提出しなければなりません。なお、四半期報告書の提出期限は原則各四半期終了後45日以内です。

 

前者に該当する企業は、半期報告書と有価証券報告書を各々1回ずつ提出する必要があり、半期報告書は上半期の期末日後3カ月以内となっています。

 

有価証券報告書の主な内容は、企業の概況、事業の状況、設備の状況、提出会社の状況(役員や大株主の状況、自己株式の取得等の状況など)、経理の状況(連結財務諸表等)です。決算情報を含め企業に関する幅広い種類の情報が100ページ以上といった分量で掲載されています。

 

そのため投資家や株主だけでなくビジネス上の取引の可能性のある企業や個人にとって有益な情報が多く、活用することで多様なメリットが得られる可能性があるのです。

 

・決算短信

決算短信も投資家保護の目的で上場企業に提出が要請されている決算情報を含む開示書類です。こちらは法的に強制されるものではないですが、証券取引所からの要請なので大部分の上場企業が提出しています。

 

決算短信の提出は四半期ごとで、第1四半期から第3四半期と通年の年4回になります。なお、決算短信の提出期限は遅くとも決算期日後45日以内が適当とされ、30日以内が望ましいとされているのです。

 

決算短信の四半期ごとの提出は四半期報告書と同程度の期日ですが、年度末の決算短信の提出期限は有価証券報告書の半分以下となるため決算情報の速報版的な役割を担っているといえます。

 

決算短信の内容は、連結業績などの決算情報のサマリー的情報、経営に関わる定性情報や財務諸表などで分量的には有価証券報告書よりも少ないです。また、決算情報は確定値ではなく速報値なので、後日修正が入る可能性はあります。

 

なお、投資や株価等への影響面では、提出期限の早い決算短信のほうが重視されており、決算短信の公表で株価が大きく動くことがあるなど投資家等の注目度は有価証券報告書よりもはるかに大きいといえるでしょう。

 

③決算説明(会)資料(決算説明会プレゼンテーション資料)

上場企業は決算後に株主、機関投資家や個人投資家等に対して決算説明会やミーティングなどを開催し、決算内容、事業の状況や今後の方針などを説明しますが、その際の説明に使用するのが決算説明資料です。

 

有価証券報告書や決算短信は書式や構成内容が決まっていますが、決算説明資料はその企業独自の判断で自由に作成できます。有価証券報告書の場合、情報量を多くして詳しい説明をすることも可能ですが、グラフや図形を用いた分かりやすいかつインパクトの強い手法による説明は一般的に使用されません。

 

そのため有価証券報告書は、十分な情報量を確保していても文章の書き方次第では読み手にとってわかりにくいものとなってしまう可能性があるのです。その結果、読み手である株主や投資家等において事業の内容・結果に対する理解不足・認識不足が生じ、投資判断を誤る可能性もでてきます。

 

決算短信は財務諸表を含みますが、情報量が少なくどのような活動を行ってきたかというような定性的な情報は多いとはいえません。

 

このように法律等で要求されている報告書等だけでは決算内容や事業の状況を詳しくかつ容易に理解しにくいため、それらを補完するものとして決算説明資料が利用されています。

 

決算説明資料は決算説明会等において企業側がその際の報告内容をまとめたプレゼンテーション資料として作成されるケースが多いです。記述される情報の内容や分量などは決まっていないですが、その説明会等の時間などに合わせて作成されています。

 

決算説明資料に含まれる主な内容は当該事業年度の業績結果や各事業の状況ですが、それらを現在の戦略・計画と照らし合わせながら説明されるケースが多いです。業績については一定期間の過去の業績と比較した説明が一般的に実施されています。もちろん今後の戦略・計画の概要や重要ポイントの情報も記載されるケースが多いです。

 

決算説明資料は書式が決まっておらず、グラフや図形を効果的に用いて経営環境、事業活動の結果や今後の事業方針などを分かりやすく印象に残るように作成できる自由があります。

 

企業の事業活動の内容や結果が正しく伝えられれば、説明される側は適正な投資判断やビジネス上の取引に関する意識決定も実現しやすくなるため、決算説明資料の役割は極めて重要です。

 

なお、決算説明会質疑応答内容や決算説明会動画は企業のWEBサイトのIR(インベスターリレーションズ)ページ(「IR資料室」などのメニュー項目で表示)で公開されているケースも多いです。決算説明会等に出席できなかった方などがそれらを利用しています。

 

 

3 決算資料の活用方法

ここでは各種の決算資料を効果的に利用できる方法を紹介します。各々の決算資料の特徴を踏まえ、どのように利用すれば最も高い効果が得られるのか、という点に着目して説明していきましょう。

 

 

 

3-1 各種決算資料の特徴のまとめ

今まで見てきた各種決算資料の特徴をまとめると、下表のような内容になります。

 

特徴 決算書 決算説明資料 有価証券報告書 決算短信 決算説明会動画
情報形式 主に数値 数値+文章+図形・表等 数値+文章 数値+文章 動画
情報量 少ない 適量もしくはやや少ない 多い やや少ない 適量もしくはやや少ない
分かりやすさ ×
公表される速さ 各報告書による 早い(決算短信と同時期) 遅い 早い やや遅い

 

 

3-2 各種決算資料の有効活用法

ここでは前節の決算資料の特徴のまとめなどをもとに各々の資料の有効活用法を紹介します。

 

①決算書

連結の貸借対照表や損益計算書などの決算情報は有価証券報告書や決算短信などの報告書に含まれています。

 

決算書自体は事業活動の結果としての主に数値の集合であるため、数値の大きさ、過去からの趨勢、他社や業界平均値との比較などによる数値の分析が重要となるのです。たとえば、前年度と比べた売上高や利益額の大きさや伸び率、現金預金や負債などの財産の大きさや増加・減少などを比較・分析すると事業や企業全体の経営状態についての善し悪しが把握できます。

 

ただし、企業の経営状況を詳しく把握するには経営分析手法を用いた評価が必要になってきます。一定の分析知識と練習が要求されますが、活用できれば提出企業の経営状態をより正確に把握でき、投資や取引での判断に役立つでしょう。

 

また、決算書を作成した企業自身も決算書を経営分析することで、自社の経営状態が把握でき事業および業務の改善や強化などの方策も立案しやすくなるというメリットも得られるのです。

 

なお、分析方法としては以下のような方法が一般的に利用されています。

 

・収益性分析、安全性分析

収益性分析は、売上高と各種利益(売上総利益、営業利益、経常利益)との割合、すなわち売上高総利益率、売上高営業利益率、売上高経常利益率などの指標で事業の状態を評価します。分析では、指標の値の趨勢、業界平均値との比較などが行われ事業の収益性が評価されるのです。

 

安全性の分析では、短期・長期の安全性、資本調達構造の観点からの安全性の評価が一般的に行われます。短期の安全性の指標は「流動比率」(流動資産÷流動負債×100%)と「当座比率」(当座資産÷流動負債×100%)です。長期の安全性では「固定比率」(固定資産÷自己資本×100%)や「固定長期適合率」〔固定資産÷(自己資本+固定負債)×100%〕などが利用されます。

 

流動比率や当座比率では値が100%以上あることが良好とされ、100%を下回るほどリスクが高いと判断されます。当座比率は商品を除く流動資産が主な対象となることからより現金化しやすい財産でのリスク評価ができるため重視されるケースが多いです。

 

固定比率や固定長期適合率は、長期で運用する機械・設備・建物などの固定資産を返済義務のない自己資本や長期で返済できる固定負債でどの程度賄っているかを示す指標です。そのため数値としては100%を下回るほど、長期で調達できる資金で賄っていることになり安全性は高いと評価できます。

 

逆に100%を上回るほど短期の返済義務を有する流動負債に依存する割合が高くなるため安全性は低く評価されるのです。

 

資本調達構造の観点での安全性分析は「自己資本比率」(自己資本÷総資本×100%)や「負債比率」(負債÷自己資本×100%)などの指標が利用されています。

 

これらの指標は総資本、自己資本、負債の額の関係から安全性をみるものですが、負債の部分が小さいほど安全性は高いといえるでしょう。しかし、収益性の面では、借入金利以上に経常利益率の値が高くなるなどの場合は、負債を多くして事業を強化・拡大したほうがより多くの利益が得られることになるのです。

 

そのため事業の収益性と安全性の両方を考慮して負債の金額の範囲を検討するほうが良い業績を生み出すこともあります。

 

ほかにもキャッシュフロー計算書分析による資金状態の評価も経営の安全性を計る上で重要です。

 

・効率性分析、生産性分析

以上の分析のほかにも、資産の売上高に対する効率性、債権債務の速度、棚卸資産の消化速度などを計る効率性分析や、投入量に対する産出量の割合を見る生産性分析(労働生産性や設備生産性等)などがあります。

 

②決算短信

事業年度末の決算内容を最も早く公表する決算短信は投資家にとって極めて影響力の強い情報となるため、提出企業は速報値といえども可能な限り正確な決算情報の提出が求められます。

 

・決算短信の情報の内容と構成

まず、最初に決算短信の情報の内容を確認してみましょう。決算短信の情報は、業績、財政状態、キャッシュフローの状況、配当の状況や業績予想をコンパクトにまとめた本体(表紙ともいえる)と下記の情報を含んでいる添付資料とで一般的に構成されています。

 

つまり、業績や財政状態等を簡潔にまとめた情報と、それらを説明するための資料で作成されているのです

 

A 経営成績等の概況

  1. 当期の経営成績の概況
  2. 当期の財政状態の概況
  3. 当期のキャッシュフローの概況
  4. 今後の見通し
  5. 利益配分に関する基本方針および当期・次期の配当

B 会計基準の選択に関する基本的な考え方

C 連結財務諸表および主な注記

  1. 連結財政状態計算書
  2. 連結損益計算書および連結包括利益計算書
  3. 連結持分変動計算書
  4. 連結キャッシュフロー計算書
  5. 継続企業の前提に関する注記
  6. 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項の変更
  7. 連結財務諸表に関する注記事項
    ①セグメント情報、②1株当たり情報 、③重要な後発事象

D その他

役員の異動

E 決算補足資料

 

・決算短信の概要と活用方法

決算短信は速報性が優先されるため業績等の確報値ではないという位置づけで提出・公表されますが、後日大きな修正が発生すれば市場に大きな影響を及ぼすことになりかねません。そのため、決算短信は速報値であっても可能な限り精度の高い数値であることが必要です。

 

また、提供できる情報量にも限りがあるので、重要な点をまとめる形態で記載されますが、それでも読み手に誤解や認識の誤り生じないだけの情報の提供が欠かせません。情報量の制約から説明内容が不足したり、抽象的になり過ぎたりすれば、投資家等の判断を誤らせることにもなり得るので、その点を考慮した情報提供が求められます。

 

業績が向上しても低下しても、その事実を端的に示すとともに原因とこれからの対応策を丁寧に説明しておくことが重要です。【経営成績に関する分析】の箇所でどういう理由でその成績に至ったかを具体的に説明し、次の一手をどう打つかを示すことが読み手にとっての有益な情報になると認識しておきましょう。

 

特に業績の低下の場合、低下が一過性であることを客観的に示したり、一定期間後には具体的な物件の獲得などによりV字回復できることを伝えたりすることは重要です。そうすれば、株価の急落といった市場での過剰反応を緩和できることもあるでしょう。

 

読み手側、特に投資家等にとって、決算短信は決算情報の速報ニュースであるため、その内容に基づく迅速な対応が必要となるケースも多いはずです。

 

回復に長期間かかりそうな業績の低下が決算短信で明らかになれば、株価は下降トレンドに入りしばらく反転上昇することが難しくなるので、早期に売却するなどの対応に迫られることになります。

 

業績が大きく上昇した場合では、その傾向が続きそうなら投資のチャンスとなり、一過性と判断されるなら様子見といった投資スタンスを取ることにもなるでしょう。

 

決算短信の公表は市場での影響が大きいので、一刻も早い内容確認と迅速な対応が大きなリターンの確保とリスク回避に貢献するはずです。

 

③有価証券報告書

有価証券報告書は決算情報の確定値として3カ月以内という期間で提出が義務付けられており、決算短信と比較して情報量が多いのが特徴です。企業によっては100ページ以上になるケースも見られます(決算短信の場合は30ページ程度)。

 

つまり、決算や企業の経営状態について幅広い情報が多く掲載されているので、読み手にとっては利用できる分野が少なくないのです。また、提出企業は伝えられる情報量が決算短信よりも多いので、活用次第では自社を有利な状況へと導くことができます。

 

・有価証券報告書の主な内容

有価証券報告書の主な内容は、以下のような構成で各種の情報が含まれます。

 

A 企業の概況:

主な経営指標の推移、沿革、事業内容、関係会社、従業員などの状況

 

B 事業の状況:

業績の状況、生産・受注および販売の状況、対処すべき課題、事業等のリスク、経営上の重要な契約等、研究開発活動、財政状態、経営成績およびキャッシュフローの状況の分析

 

C 設備の状況:

設備投資等の概要、主要な設備の状況、設備の新設・除去等の計画

 

D 提出会社の状況:

役員や大株主の状況、株式等・自己株式の取得等の状況、配当政策、株価の推移、コーポレートガバナンスの状況等

 

E 経理の状況:

連結財務諸表(連結貸借対照表・連結損益計算書・連結剰余金計算書・連結キャッシュフロー計算書)、財務諸表

 

以上のように幅広い情報が有価証券報告書には記載されているため、株主・投資家のほか、取引先、金融機関、就活・転職者などにとっても有益な情報源であり、さまざまな活用が期待されます。

 

・提出企業の活用法

有価証券報告書は決算短信の後に提出するものなので、決算短信で生じた株主・投資家・取引相手等への好ましくない影響を緩和することも不可能ではありません。

 

決算短信はスピードが求められ、情報量も限られるので、不十分な説明によって市場等へ好ましくない影響を及ぼすこともあります。そうした現象を有価証券報告書で丁寧に説明し誤解を解いたり、評価を改善させたりすることも可能なのです。

 

また、決算短信の時に高評価になると予想していた点が説明不足により大した反応がないケースもあります。そうしたケースでも有価証券報告書でアピールできれば、再評価され株価が上昇トレンドへと変化することもあるのです。つまり、業績内容や事業の取り組みに対する正当な評価による合理的な株価形成が実現できます。

 

ビジネス面での有効利用を考えた場合、新規顧客の開拓や取引先の拡大、金融機関からの融資の拡大や信頼度の向上などに有価証券報告書は役立つでしょう。

 

新規顧客や取引先を拡大させるには、自社が行っている事業や商品・サービスの内容を説明するとともに、その品質・コスト・納期に関わる特徴や優れた点をアピールするツールが必要です。そして、それに有価証券報告書が利用できるのです。

 

自社の商品等のどの部分に他社との違いがあり、ユーザーの満足を捉え市場で勝ち残れるのか、という点を有価証券報告書なら適切に説明できます。また、業績がダウンしていてもそれを挽回できる具体的で実現可能と判断される方策を示せば、金融機関からの信頼度も低下しにくいはずです。

 

また、事業や業績等のほかに、組織マネジメント、社員の育成やコーポレートガバナンスなどの情報を提供しておけば、就活者や転職者の企業選定の参考となり人材確保も容易になっていくこともあるでしょう。

 

・読み手側の活用法

有価証券報告書は投資家・株主を保護する目的で作成・提出が要求されているものであり、彼らが適正な投資判断ができるための情報が盛り込まれています。つまり、投資判断をするにあたって不可欠な情報が満載されているため、銘柄選定や投資ポジションの変更などの検討に利用されています。

 

具体的には、有価証券報告書の内容を分析・評価して、投資すべき銘柄を決定したり、保有銘柄に再投資したり売却するのを検討するわけです。

 

株式投資での分析は、その銘柄、つまりその企業の業績が今後も成長するのか、鈍化するのか、経営リスクが大きいのか、小さいのか、といった成長性や安全性を評価することになります。また、PER、PBR、ROEなどの株価に関する指標で評価することが多いです。

 

A 株価の動向

株式の評価では株価の推移を確認することが重要ですが、それには有価証券報告書の【株価の推移】の「最近5年間の事業年度別最高・最低株価」や「最近6月間の月別最高・最低株価」が役立ちます。過去の株価の推移と現状の業績などを合わせて考えれば、現在の株価のトレンドや今後の上昇・下落の範囲を予想できることもあるのです。

 

B 成長性分析

企業の業績が成長していけば、株価でもそれに応じた成長が期待しやすくなるので、業績の推移の確認は欠かせません。

 

有価証券報告書の財務データから売上高、売上総利益、営業利益、経常利益などの推移や、売上高総利益率、売上高営業利益率、売上高経常利益率などの推移を確認するとよいでしょう。

 

売上高、売上総利益、営業利益、経常利益などは有価証券報告書の【経理の状況】の【連結財務諸表】などで確認でき、売上高営業利益率等の値は、財務データを抽出し計算することで得られます。

 

これらのデータを3カ年程度で比較して、「5%⇒10%⇒26%」などのように年々増加するなどの傾向があれば成長していると判断できるでしょう。

 

C 株価の指標による分析

株式投資では株式の割安感、割高感、収益性を示すPER、PBR、ROEなどの指標による分析がよく行われています。これらの指標は株価分析では重要とされていますが、その値は有価証券報告書のデータで容易に計算して得られます。

 

PER(株価収益率)の計算式は「株価÷一株当たり利益(EPS)」、または「時価総額÷純利益」ですが、期末のPERの値は有価証券報告書(【主要な経営指標等の推移】の箇所)に記載されているので、それを参考にしてもよいでしょう。

 

PERは株価が一株当たり利益の何倍であるかを表す指標で、値が高いほど株価は割高だと評価されますが、業界平均などのデータと比較して判断することが重要です。

 

PBR(株価純資産倍率)の計算式は「株価÷BPS(1株当たりの純資産額)」で、計算して求めることになります。BPSは【主要な経営指標等の推移】にデータがあるので、それを活用すれば計算も容易です。

 

PBRは株価が1株当たり純資産額の何倍になっているかを示す指標で、値が1未満である場合、株価は割安と判断されます。逆にPBRが1を超える場合は割高とみられるのです。

 

ROE(自己資本利益率)の計算式は「当期純利益÷自己資本×100%」ですが、【主要な経営指標等の推移】に掲載されています。ROEは、自己資本に対する当期純利益の割合を示す指標で、自己資本で純利益をどの程度稼げたか表す収益性・効率性の指標です。また、純利益の大小は配当の大小に影響するため配当能力を計る指標として利用されるケースも少なくありません。

 

ROEの単年度の値と業界平均値と比較することで収益性等の高さを客観的に評価でき、過去数年の趨勢を見れば成長性も判断できることもあります。ROEが「△2%⇒3%⇒6%」と改善・成長しているなら株価の成長だけでなく、増配の可能性があると判断できるのです。

 

D 安全性分析

株式投資においては企業の倒産リスクを分析することも重要ですが、これは決算短信のところで紹介した安全性分析などを活用すればよいでしょう。

 

なお、新規顧客や取引先を選定する際に株式投資の分析手法により企業の収益性、成長性や安全性なども評価できます。取引相手として適切か、どの程度の需要が期待できるかなどは有価証券報告書の【企業の概況】の【事業の内容】や【設備の状況】などで掴めるはずです。

 

④決算説明資料

決算説明会などで使用される決算説明資料は各企業が独自の判断で作成できる資料なので、使用する目的に合わせて最も効果が得られるように作成し活用すべきです。また、決算説明資料の読み手も各々立場やその目的に応じて最も利益が得られるように有効利用することが望まれます。

 

・提出企業の活用法

決算説明資料は決算説明会などで決算短信や有価証券報告書などを補完するものとして、最大限効果が発揮できるように活用すべきです。

 

決算説明会の目的は、株主、投資家や債権者などに当該事業年度の決算内容を説明し評価を得て、彼らとの良い関係を維持・向上させることにあります。そのため、彼らが決算説明会などの後で「今後もこの企業との関係を維持したい、拡大させたい」と感じさせることが必要であり、決算説明資料はそうなるように作成・活用させねばなりません。

 

たとえば、既存の株主や投資家等には継続して株式を保有する、再投資したいと思える判断材料として決算説明資料は活用されるべきです。また、債権者には今後も融資や取引を継続・拡大させたいと感じさせないといけません。

 

営業成績がよければその結果を過去や業界・他社と比較して、どのように内容がよかったのか、何が原因で売上・利益が伸びたのか、などを分かりやすく伝えることが求められます。

 

決算短信などでは数字と文章により業績の上昇・下降などが客観的な事実として理解はできますが、過去と比較してどれほどの上昇・下降なのかはイメージしにくいです。国内および海外市場でのポジションや競争優位性なども短い文章や数値だけの説明ではインパクトに欠ける恐れがあります。

 

しかし、決算説明資料の場合は、記載する形式や記述量も決まっていないため、説明側の裁量で重要な箇所に画像、図形・図表などを投入してわかりやすくかつインパクトのある方法で説明できます。

 

たとえば、過去8年間連続で増収増益を継続させている企業でも、前年度と比べた場合の微増のデータ表示だけでは増収増益のアピールは弱いでしょう。しかし、増収増益が8年間継続しているグラフを示しアピールすれば受け取る側の印象は異なるはずです。

 

また、それに加えて今後も増収増益が継続できる要因や方策を明示しておけば、株主等の出席者からよい評価が受けられるのではないでしょうか。

 

前年度と比べ減収減益になるなどの業績が悪かった場合も、その原因を分析して業績を回復できる具体策と実施のスケジュールなどを示しておけば、投資家や債権者からの評価の低下も抑制できるはずです。

 

・公開される側の活用法

決算短信や有価証券報告書は数字と文字・表で構成されるためわかりやすいとはいえず、特に有価証券報告書は情報量が多いので、どの箇所を読めば必要な情報が得られるのかと感じることも少なくないでしょう。

 

しかし、決算説明資料はわかりやすさが重視されていることも多く、欲しい情報を見つけやすく内容も一目瞭然といった形式での情報提供が期待されます。そのため、対象の企業に関する情報は、まず決算説明資料で確認し詳しい内容や不足する情報は有価証券報告書やアニュアルレポートなどで得るとよいでしょう。

 

決算説明資料は投資家や債権者などに対して作成されるものですが、分かりやすい内容・構成であるため就活中の学生等にとっても、利用価値の高い企業研究の資料となるはずです。

 

 

4 決算説明資料の作成ポイント

ここでは決算説明会などのプレゼンテーション資料として、その基本的かつわかりやすく印象に残るための作成ポイントを紹介します。

 

 

4-1 文章のスタート位置の揃え

文章の書きだしの配置の位置が異なると、見る側は視線をさまざまに変えながら見る・読むことになり、内容の確認に抵抗感を持ちやすくなるので、それらのスタート位置を揃えるべきです。

 

下表の左側はタイトル、各説明項目とその内容文のスタート位置が異なっています。説明する内容が少なければこれでも十分わかりやすいといえますが、説明項目が多くなる場合では各項目について目線を変えながら読み進めるため抵抗を感じやすくなるのです。

 

そうした抵抗感が持たれないように、内容を認識しやすいように文章の書きだしや図表・画像の配置は左端などの決まった位置に統一しておくほうがよいでしょう。

 

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4-2 関連内容のグループ化・近接化

関連する内容の文章や図表などはグループ化したり、接近させたりして関係がわかりやすいようにします。

 

下表の左側は3つの項目と各々の説明内容が各2つ記載されている資料ですが、各項目・説明文が同じ間隔で配置されているため、各々の項目や説明文を判別しにくいです。

 

しかし、A、B、Cの各項目と説明文をグループ化すると各々の項目が異なるということが認識しやすくなります。

 

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また、グラフとその説明文がある資料では、説明文はできるだけ関係するグラフの部分に接近させる工夫をすれば、グラフの内容がより理解しやすくなるでしょう。

 

 

4-3 コントラストによる明確化や印象付け

文章やグラフ等の特定の部分で、フォント(書体、太文字や斜体等)、色付きや背景色をとるなどのコントラストは、他の部分との違いを示したり、区別したりする効果を発揮します。コントラストを取ることで資料の内容は判別されやすく、印象に残りやすくなるのです。

 

たとえば、下表の左側の資料は文字の大きさは異なるものの、白色の下地に黒色の文字だけなので、印象がやや残りにくい表現といえるでしょう。一方、右側の資料ではタイトルの箇所を太文字に変え、領域の背景色を薄い青色となっており、「業績見通し」というタイトルのインパクトが強くなっています。

 

このように企業が伝えたい部分で上手くコントラストをとれば、見る側の認識が促進されるはずです。

 

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4-4 適切な行間や余白の確保

行間が狭すぎると見にくく読むのに抵抗を感じやすくなります。また、タイトル、サブタイトル、各種項目説明などの情報が資料の一定の箇所に偏ると、残りの余白のスペースが広くなり過ぎて調和にかけた妙な違和感がもたれやすくなるのです。

 

そのため資料における文字の一群やグラフ等の図表などの配置では適切な余白が確保され、文字の行間も見やすいスペースとなるように設定しなければなりません。

 

下表の資料は情報が左上部に偏り過ぎ、残りの余白スペースが広くボヤっとした感じがします。また、文字量も少ないため行間が狭く感じられ見にくく圧迫感がもたれやすいでしょう。

 

こうした感じにならないためには、行間を文字量に合わせた適度な間隔をとり余白スペースの均衡を確保することが重要です。

 

なお、プレゼンテーション資料における行間は行(文字)の高さの0.5~1.0倍程度が適当であると一般的にみられています。また、資料用の書体としては、ゴシック体が可視性の点で優れているので最適です。また、Windowsに搭載されている「メイリオ」も可視性が高く資料で使うには適しているといえるでしょう。

 

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4-5 配色の工夫

文字や図表で色付けすることにより見やすくインパクトの強いメッセージを出すことができます。しかし、配色の使い方を誤ると逆に見にくく、読むのに抵抗が感じられやすくなるので注意が必要です。

 

第一に注意すべきは使用する色の種類で、4種類程度に抑えるのが望ましいでしょう。それ以上多くなると何が重要で何がポイントになるのかがわかりにくくなってしまいます。

 

第二は資料で使用される色は下地色(背景・余白)、文字色、メイン色(企業が重視する色など)、強調色に分けられますが、文字の黒色を除きその他の色の比率の最適化を図るべきです。下地色が60~70%、メイン色が25%~30%、強調色が5%~10%程度にするとバランスがよくなるでしょう。

 

第三は赤色・青色・緑色・黄色などの彩度の高い色や蛍光色の使用を控えることです。彩度が高い色は読みづらくなるので、資料での使用はあまり適していません。また、背景を白色にする場合、白色は明度が高いため文字との適当な明度差がないと文字が読みにくくなります。そのため、背景は明度が白より劣る薄い灰色が使用されるケースも多いです。逆に明度差が広がり過ぎると堅苦しい感じになることもあります。

 

 

5 株初心者も安心! 決算書から読む「利益」がいい会社の見分け方

株式投資を始めようと考えている人、あるいは始めたばかりの人は、何を基準にして株式を買うのがいいでしょうか? いちばんわかりやすい指標が、その会社の「利益」です。それも、その年だけではなく、数年にわたって利益が伸びている会社の株価は、一つの狙い目です。ただし、利益にもいろいろ種類がありますので、それぞれの利益の特徴を見ながら、どうやって株式購入の判断にするかという方法を解説していきます。

 

 

6 3つの利益に注目しよう

まず、「利益」とは何でしょうか? これは、収入から支出を引いた残りです。たとえば、1000円で材料を買って製品を作り、1500円で売ったら、500円の利益が出ます。1000円で仕入れたものを1500円で売っても、利益は同じく500円です。

 

ここで言う500円の利益は、「粗利益」と言います。よく「粗利(あらり)」という言い方をしますが、会社の経理の用語では「売上総利益」と言います。また、材料を買ったり品物を仕入れたりした1000円は、「売上原価」と言います。

 

ただし、この「売上総利益(粗利)」は、あまり株式投資の際の指標にはなりません。では、指標となる利益とは何でしょうか。

 

株式投資の指標としてよく用いられるのは、「営業利益」「経常利益」「当期純利益」の3つです。これらの利益は、会社の決算書の中の「損益計算書」で見ることができます。なぜこの3つの利益が重要なのか、それぞれの利益について説明しましょう。

 

・営業利益

営業利益は、よく「本業で得た利益」などと言われます。営業利益とは、上で説明した売上総利益(粗利)から、社員の給料などの人件費、オフィスの賃貸料、通信費など、いわゆる事業経費を引いたものです。これらの経費を「販売費および一般管理費」と言います。

 

例えば、その年に会社が1000万円の売上を上げたとしましょう。そのとき、原材料や仕入れにかかったお金(売上原価)が300万円、社員の給料など事業経費に400万円かかったとしたら、1000万円-300万円-400万円=300万円で、営業利益は300万円ということになります。

 

営業利益=売上総利益(粗利)-販売費および一般管理費 (売上総利益=売上高-売上原価)

 

本業で得た利益とは、例えば自動車メーカーであれば、原材料を買って自動車を作り、販売して売上を上げ、その中から従業員の給料や必要な事業経費を払って、残った利益です。会社はほかに、株式などを売って利益を得たりすることもありますが、利益を稼ぐ柱はやはり「本業」です。

 

営業利益が多いということは、その「本業」が儲かっているということです。さらに毎年続けて営業利益が伸びているということは、その会社の事業が順調に伸びているということでもあります。したがって、営業利益はその会社の業績を見る端的な指標であり、株式投資の銘柄選びにも役立つ指標と言えるでしょう。

 

・経常利益

経常利益は、本業以外の儲けや費用を加えたり引いたりして残った利益です。本業以外の儲けとは、たとえば株式の運用益や、受取利息などで、これを営業外収益と言います。また、本業以外の費用とは、借入金や社債の利息、手形の割引料(期日前に手形を現金化した時の割引料)などで、これらを営業外費用と言います。

 

したがって、経常利益の計算式は、以下のようになります。

 

経常利益=営業利益+営業外収益—営業外費用

 

経常利益は、その会社の「財務力」による利益とも言われます。営業利益は本業が好調なら増え、不調なら減るという具合に、本業の業績に左右されますが、経常利益は会社の資産運用や借金なども含めた、会社の収益の全体像を反映しています。

 

そのため、株式投資の際にも、「本業が好調かどうかを見るのが大事だ」という人は営業利益を重視しますし、「いやいや、借金なども含めて、会社全体の財務状況を見るべきだ」という人は、経常利益を重視します。金融機関や取引先などは、どちらかというと財務状況も含めた経常利益を重視します。

 

ところで、経常利益について注意しなければいけないのは、米国会計基準や国際財務報告基準(IFRS)を採用している会社の損益計算書には、「経常利益」という項目がないことです。トヨタ自動車、ソフトバンクグループ、NTTなどの会社が、これらの会計基準を採用しています。

 

・当期純利益

当期純利益は、会社がその年に稼いだ最終的な利益です。まず、その計算式を見てみましょう。

 

当期純利益=経常利益+特別利益-特別損失-法人税等

 

このように、経常利益に特別利益を加え、特別損失を差し引いたうえで、法人税等の税金も差し引いて、最終的に残った利益が、当期純利益です。

 

税金など、すべてを差し引いて残った利益なので、営業利益や経常利益よりも、この当期純利益が、最も会社の経営状況を正確に反映しているのではないか、と考える人も多いでしょう。

 

もちろん、当期純利益は、その会社の収益性を見るうえで重要な指標ですが、実はそれほど単純ではありません。その理由は、計算式の中にある「特別損失」「特別利益」にあります。

 

例えば、本業とは関係のない遊休不動産を売却して得た利益を特別利益と言いますが、不動産を売却して得た利益を加えたために、「その年だけ当期純利益が多くなってしまった」ということがよく起こります。

 

あるいは、経常利益が赤字なのに、当期純利益が黒字になってしまったというケースも出てきます。それでは、会社の業績と利益の関係を正確に把握することはできません。

 

ただし、この当期純利益は、実際にその会社の株式を持っている株主にとっては、非常に重要な利益になります。なぜなら、当期純利益は、株主への配当金の原資となるからです。一般的には、当期純利益が多ければ配当金が増えます。そうなると、配当目的で株式を買う投資家が、その会社の株式を買うようになります。「買い手が多ければ株価も上がって行くという好循環が生まれる」というわけです。

 

もっとも、実際には、当期純利益は、内部留保という形で会社に留められ、新規事業の投資などに使われることもあります。株価を上げるために配当ばかり増やして、次の成長のための投資を少なくしている会社は、先々成長が止まってしまいますので、当期純利益を最終的にどのような形で使っているかということを見極める必要もあるでしょう。

 

 

7 営業利益の伸びを見て銘柄を選ぶ

さて、実際の株式投資、それも配当狙いではなく、株価の値上がり益を狙う場合には、どの利益を見たらいいのでしょうか。

 

多くの投資家が参考にしているのが、営業利益です。それはいくつかの理由がありますが、一つには、多くの投資家が銘柄探しの資料として活用している東洋経済新報社の『会社四季報』が、営業利益を基準にして銘柄の評価をしているからです。

 

例えば、『会社四季報』の会社ページの欄外を見ると、「↑↑大幅増額」「↑増額」などの記述があります。「↑↑大幅増額」は営業利益の予想が前号と比べて30%以上上がったことを意味します。

 

『会社四季報』は四半期(3カ月)に1回発売されますので、前の四半期で予想した利益予想を、3カ月の間に30%以上も上方修正したということです。

 

株式を購入する投資家の心理として、利益が当初の予想よりもかなり大きくなりそうだと考えれば、その会社の株式を買いたくなるものです。なぜなら、今はまだ「予想」の段階ですから、まだ株価はそんなに上がっていません。

 

そこで、今のうちにその会社の株式を買っておけば、実際に利益が上ったときに、その会社の株式は人気が出て、多くの人が買って、株価も上がります。その段階でその株を売れば、値上がり益を得られるという構造です。

 

実際、『会社四季報』が発売された時、予想以上の上方修正で株価が跳ね上がる「四季報サプライズ」という現象も起きているくらいです。

 

ただし、最近は、こうした「予想」も投資家の間では織り込み済みで、上方修正の予想が出た頃には、すでに株価が上がっている、というのが現状です。いずれにしても、投資家が営業利益に注目していることは間違いありません。

 

例として、最近、営業増益率ランキングで上位にランクされるパナソニック(6752)の営業利益と株価の関係を見てみましょう。

 

  • 2016年3月 230,229百万円 株価1,034円
  • 2017年3月 276,784百万円 株価1,258円
  • 2018年3月 380,539百万円 株価1,521円

 

営業利益の増加に伴い、株価も上昇していることがわかります。もちろん、すべての会社についてこういう結果が出るわけではありませんが、営業利益が株価に大きな影響を与えることは、おわかりいただけるでしょう。

 

ちなみに、『会社四季報』には、オンライン版の「四季報オンライン」というものがあります。そこには有料プランなどもあるのですが、一番手頃な月々1000円程度のプランでも、「スクリーニング」という機能が使えます。

 

この「スクリーニング」機能を使って、例えば「営業利益増加率30%以上」という指標でスクリーニングをかけると、上場企業3600社の中から該当企業だけがピックアップできますので、銘柄の絞り込みには大変役に立ちます。

 

 

8 当期純利益には株式投資に役立つ要素が隠されている

最後に、もう一度「当期純利益」について触れておきます。当期純利益は、配当金狙いの株主には役に立つ指標と説明しましたが、実は株価の値上がり益を狙う投資家にとっても、役に立つ指標となりうるのです。それはどういうことでしょうか。

 

当期純利益を発行済株式数で割ると、「1株当たり当期純利益」が出ます。『会社四季報』などには「1株益」と書かれていますが、EPS(Earnings Per Share)とも言われます。実は、この「1株益」が、株式投資を行う際、銘柄選びの重要な指標になるのです。

 

少し専門的になりますが、投資の手法にはいくつかあって、たとえば成長する(している)会社の株式を買って、将来の株価が上昇した時に売って利益を得る方法を「グロース投資」と言います。「グロース」とは、「成長」の意味です。

 

もう1つは、「バリュー投資」と言われる手法です。これは、もともと実力があって今後成長しそうなのに、市場での評価が低く、株価が実力よりも低くなっている会社の株式を買う手法です。もともと実力があるわけですから、株価の評価が低い今のうちに買っておけば、将来値上がりする可能性も高いというわけです。

 

このバリュー投資の対象となる、現評価の低い株式のことを「割安株」と言いますが、その割安株を探すのに有効な指標が、PER(株価収益率)です。そしてPERは、次の式で求めます。

 

PER=株価÷1株益(EPS)

 

この計算式は、「現在の株価が1株益の何倍なのか」を割り出しています。例えば、現在の株価が1000円で1株益が100円ならPERは10倍、株価が同じ1000円で1株益が50円なら、PERは20倍です。

 

利益の10倍の値段で株を買うのと、20倍の値段で買うのはでは、どちらが割安かといえば、10倍のほうが割安です。したがって、PERが低いほど、その株式は割安であるということが言えます。これは業種などによっても異なりますが、だいたいPER15倍以下が割安の目安と言われています。

 

ここで、ワンランク上の銘柄選びをしたい人は、前述したスクリーニング機能を使って、「営業利益増益率30%以上」「PER15倍以下」という2つの指標でスクリーニングをかけると、より有望な銘柄が絞り込めることになります。

 

会社の利益と株価の関係について、簡単に説明してきましたが、注意点としては、これらの利益を元に株価を買ったとしても、確実にその株価が上がるとは言いきれないということです。株式投資に「絶対」はありません。もし「絶対」があれば、投資家はみな儲かっています。

 

例えば、PERが20倍以上でも、さらにこれから成長していく会社もあります。したがって、これらの指標は、あくまでも「目安」として考えるべきでしょう。

 

しかし、これらの「目安」を元に、いろいろ投資の勉強をし、自分なりに工夫していくことで、投資で成功する確率も高まりますし、知らず知らずのうちに会社の財務を深く知ることもできるようになります。そうなると、投資は実際に得た以上の価値をあなたにもたらすことになるでしょう。

 

 


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