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決算業務や納税申告での税理士の必要性と活用

小規模の事業からスタートしようと考えている起業家の中には決算や税務申告の際にコストを理由に税理士抜きで自力によりそれらの業務を完了させようと考えている方もいるのではないでしょうか。実際に経営者が自ら決算業務等を担当して納税までの業務や手続を行う方もいます。

 

しかし、事業規模が大きくなり自社の業務も増え複雑化していくと経営者が担当することが困難になるとともに、不適切な処理をしてしまいその結果不利益を被ることもあるのです。

 

今回は決算業務や納税申告での税理士の必要性や活用方法などを取り上げます。どんな場合なら税理士抜きで決算業務等を自社で完結させられるのか、どのような場合なら税理士に手伝ってもらうべきなのか、といった点に着目し、税理士等の有効な活用方法を紹介していきます。

 

 

1 決算業務等を税理士抜きで実施した場合の問題

税理士に頼ることなく決算業務を経営者や担当者だけで行うことは不可能ではないですが、決算業務等自体だけでなくその他の経営上の問題を誘発することもあります。

 

 

 

1-1 決算や税務申告での業務時間や精度の問題

決算業務等を税理士抜きで進める場合、税理士を活用して行う場合に比べて費やする時間は大幅に増え、正確さが低下する恐れがあります。

 

①起業後間もない会社の経営者が自分で行う場合

小規模の組織で狭い範囲の事業で起業する方などの場合、起業後間もない期間において経営者自身で決算や税務に関する業務を行うことがありますが、多くの時間が割かれる可能性が小さくありません。

 

特に会計や税務の知識がほとんどない方の場合には簿記の基本的な内容を理解しながら進めるため、年間の会計業務での仕訳数がかなり少ない場合でも決算業務等を完了させるには多くの時間が必要となるのです。

 

簿記の知識が全くない方の場合はまず日商簿記3級程度以上の知識がないと、一般的な会計ソフトを利用しても正確な会計処理ができず、誤った決算書を作成してしまう恐れがあります。そのため簿記の基本的なルールを学習することから始め、実際にソフトを使った正しい経理業務ができなければなりません。

 

その上で決算処理や納税手続を確認しながら進めることになるため、経営者が考える以上の時間がかかってしまうのです。

 

②自社の経理部門だけで行う場合

一定の会計知識を有する経理担当者がいる会社では税理士に頼らず自社だけで決算業務を完結させることは可能ですが、税理士に頼る場合と比べ時間と正確さで劣る可能性が低くありません。

 

事業規模が大きくなっていくと経理業務を専任とする者を1人以上設置する会社は多いです。そして、その中で経理担当者が一定の会計知識や経験を有する会社では自社の力で決算業務等を完結させることは可能でしょう。

 

しかし、事業が拡大してその内容が高度化・複雑化していけばそれに伴う経理処理の判断が難しくなっていきます。たとえば、事業が大きくなっていくと必要な資産も増えますが、その資産の減価償却費の扱い方で判断に迷うケースも多くなるはずです。

 

また、中古資産を修理・修繕した際の費用の扱いなども判断が難しくなり、処理に時間がかかったり誤って処理したりするケースが増えることもあるでしょう。

 

 

 

1-2 税務調査で追徴課税を受ける可能性

税理士を活用しない決算業務や税務申告をした場合、もし税務調査を受ければ追徴課税を課せられる可能性の拡大が危惧されます。

 

法人も個人も税務申告をすれば税務調査を受ける可能性が生じ、その調査で不適切な申告内容が確認されれば追徴課税が課せられるのです。税務申告では税法に基づいた税務会計が必要ですが、それは企業会計と異なる点もあり専門家である税理士の判断が必要なケースも少なくありません。

 

売上や仕入の計上のズレ、在庫に関する誤った計上や漏れ、交際費の扱いや役員への貸付・仮払いなどで損金扱いとしていたものが損金不算入とされ、追徴課税の対象にされることも多いです。

 

こうした税務調査で確認・指摘されやすい項目の経理処理を税法の考えに沿って処理すれば、ペナルティーを支払うことも回避できます。しかし、税理士を活用しない場合はその回避は簡単には行えないのです。

 

 

 

1-3 不十分な節税対策

決算後の資金繰りや次期の事業活動の強化の観点から必要以上の税金支払いを抑えるための節税対策も重要になりますが、税理士を活用しない場合は節税対策が不十分になる恐れがあります。

 

決算業務が進みその期の利益額が予想外に多い場合、そのまま申告してしまえば多額の税金を支払うことになります。支払う行為は適正であってもキャッシュで支払う納税額が多くなると会社の資金繰りに悪影響を及ぼすこともあるはずです。

 

また、決算期日を迎えるまでに次期の事業に有効な資産を調達したり、販売促進などの活動を実行したりすれば、次期以降の事業の拡大や企業の成長に繋がり納税額も減少できます。

 

こうした行為を節税対策として実施されるケースは多いですが、税理士等の力を借りることで効果的な節税を進めることが可能です。しかし、節税の知識が少ない自社の経理部門だけで行うと節税対策が不十分となるケースが少なくありません。

 

 

1-4 経営上の問題点の見過ごし

決算業務やその結果から経営上の問題点を発見できることが少なくないですが、税理士等を活用しない場合はそれらを見逃すことになりかねません。

 

決算業務は会社の1年間の事業活動の結果を業績と財政状態としてまとめる行為とも言えますが、その行為の過程や結果から経営上の問題点を発見できることも多いです。しかし、問題点を発見しようという意志と問題発見の知識が少ない場合は見逃す可能性は高くなるでしょう。

 

つまり、自社に決算業務や決算書の内容から問題点を発見できるような社員がいなければ問題点を見過ごすことになりかねないのです。たとえば、在庫管理が悪く長期在庫が増加傾向にある、売上債権の回収が遅く仕入債務の決済が早い、といった点は放置しておけば企業リスクを高めることになるでしょう。

 

税理士など会社経営や事業運営について助言できる第三者が決算業務や決算書をチェックしていない場合、経営上の問題は見過ごされてしまう可能性が高くなるのです。

 

 

1-5 税務調査での対応で不利

税務調査があった場合に税理士に立ち会ってもらわないと、税務署の修正要求や指摘事項を全面的に受け入れ、多大な追徴課税が課せられかねません。

 

税務会計においては損金と損金不算入の判断がつきにくいケースも多いため、税務署と納税者の意見が分かれることも多いです。しかし、税務の専門家である税理士に税務調査で立ち会ってもらわないと納税者ではその判断や反論ができず税務署の主張通りに修正申告を受けることになるでしょう。

 

そうした事態になれば、誤った税額の不足分を納めるだけに止まらず、その分を納付するまでの延滞税のほか悪質的な行為と認定された部分には罰則的な重加算税などが課さる恐れがあるのです。

 

重加算税では未納にあたる税金部分に35%といった割合の税金がかかるため企業の財政状況を悪化させることもあるでしょう。

 

 

1-6 その他の業務への影響

税理士等が提供しているサービスには、決算業務・税務申告のほかに記帳、給与計算(勤怠管理)、年末調整業務などがあります。経理業務に割く人手が不足していたり、担当者の会計業務の知識・経験が浅かったりする場合、経理業務で請求漏れ・支払漏れなどのトラブルが発生する可能性が高くなるでしょう。

 

また、そうしたトラブルを解決するための時間が多くなったり、経理業務そのものに多大な時間がかかったりするケースも多くなります。結果として上記に関連する業務の作業効率が悪くなり無駄な時間の浪費が増加することになりかねません。

 

このような状況の中、決算期に入り決算業務や税務申告の業務が加わると経理部門の社員は疲弊し休職・離職といった人事上の問題に発展することもあるのです。

 

 

2 税理士抜きで決算業務を進める可能性とメリット

税理士を活用しないで決算業務等を行うと問題も起こりやすいですが、メリットもあります。ここではそのメリットを紹介するとともに、実際に税理士抜きで決算業務ができるかという点やその方法などを紹介しましょう。

 

 

 

2-1 税理士抜きで決算業務を進める可能性

決算業務等での業務の正確さや効率性を無視すれば、税理士抜きで決算業務を自社だけで完結させことは可能です。

 

ただし、上記の通りさまざまな問題の起こる可能性が高まるとともに決算業務自体の効率性が悪くなり、他の業務に悪影響を及ぼすこともあるといった点を考慮する必要があります。消費税が多い事業、会計の仕訳数が多い事業などの場合は税務会計での幅広い知識が要求されたり、経理処理が多くなったりすることから決算業務での負担が重くなる傾向があり注意が必要です。

 

しかし、消費税が簡易課税で済む場合や仕訳数が少ないなどの状況にある会社なら税理士抜きで決算を済ませるのにそれほど大きな負担はかからないでしょう。

 

会計ソフトの中には決算書、法人税申告書、地方税申告書、消費税申告書や法人事業概況説明書まで作成できるものも多く納税者の決算業務や申告業務をアシストしてくれます。

 

ただし、これらのソフトを利用するにしてもの納税者が企業会計や税務会計に関する一定の知識がある方が望ましいです。会計の知識としては日商簿記3級程度以上のレベルであるなら一般的な会計ソフトなら利用できるでしょう。

 

なお、自治体の経営支援担当、商工会・商工会議所等では税務相談や経理指導などが開催されていることも多いため、利用すれば自力で決算業務等を完結させやすくなるはずです。また、税務署でも税務申告に関する手続は比較的丁寧に教えてくれるため、早めに相談して作業を進めれば税理士抜きで決算及び税務申告も可能になるでしょう。

 

しかし、事業規模が大きくなり業務内容が複雑化し経理処理が膨大となる場合は処理の判断で悩むケースも多くなり、業務効率が低下しやすくなるため注意が必要です。

 

 

 

2-2 税理士抜きで決算業務を進めるメリット

税理士抜きで決算業務や税務申告を行うメリットは、税理士を利用した場合に発生するコストの削減になります。

 

税理士の活用の仕方は会社により様々ですが、利用状況により中小規模の会社でも年間で20万円から100万円といった費用がかかるケースが少なくありません。起業後間もない会社で売上が伸びていない場合、こうしたコストの負担は決して軽いとは言えないため、税理士抜きで決算業務等を行う意義はあると言えるでしょう。

 

参考までに税理士にかかる費用としては以下のようなケースが考えられます。

 

・年商が1億円規模の会社

年間の顧問料:36万円、決算申告料:15万円

 

・年商が1億円~3億円未満規模の会社

年間の顧問料:60万円、決算申告料:25万円

 

・年商が3億円~5億円未満規模の会社

年間の顧問料:72万円、決算申告料:36万円

 

他のサービスとしては、記帳代行、年末調整や給与計算などがあり、税理士に依頼すると上記の内容に加えて各々のコストが必要になります。しかし、税理士に頼らずに行えばこうしたコストをかけなく済むわけです。

 

 

2-3 法人決算で必要な書類と利用できるソフト

税理士等に頼らず会社側で決算を行うためには必要書類等を把握して会計ソフトを使いこなす必要があります。

 

①決算で必要な書類

決算に必要な書類等としては、以下のものが挙げられます。

  • 賃借対照表、損益計算書(上場業の場合はキャッシュフロー計算書)
  • 仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売上帳、仕入帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳など

*会社法では10年間の保存、法人税法では原則7年間、最大10年間(欠損金の生ずる事業年度等)の保存が必要です。

 

  • 領収書、金融機関の通帳、請求書、契約書、棚卸表 など

*法人税法では原則7年、最大10年の保存が必要です。

 

なお、法人の場合は上記に加え以下のものも必要になります。

 

  • 領収書綴>
  • 決算報告書(貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書・株主資本変動計算書等)>
  • 法人税申告書>
  • 法人事情概況説明書>
  • 消費税申告書>
  • 税務代理権限証書>
  • 地方税申告書>
  • 勘定科目内訳明細書>

 

②法人決算が可能な会計ソフト

法人決算が可能な会計ソフトは数多く存在します。たとえば、会計ソフトで有名な弥生会計では「弥生会計18スタンダード」のようなデスクトップ型があるほか、クラウド型の「弥生会計オンライン」があります。

 

単に決算書を作成することだけを考えれば、クラウド型の低コストで利用できるソフトの利用も有効です。たとえば、freeeの法人向けプランでは月額2,380円の「ミニマム」と月額4,780円の「ベーシック」が提供されています。サポートもメール、チャット、電話などで対応されており、困った場合でも安心できるでしょう。

 

なお、法人税の申告書作成用ソフトについては実務レベルで対応できるものは多いとは言えない状況です。法人税の計算は複雑で難しいため、税理士等の手を借りるのが無難ですが、比較的規模の小さい法人などでは下記のような利用可能なソフトもあります。なお、実務で利用できるかの事前の確認が必須です。

 

・楽々法人税( ミコシ・ドット・コム 有限会社)

「楽々法人税」は弥生会計を使っている資本金1億円以下の小規模法人を対象とした法人税確定申告書等を作成するソフトです。

 

このソフトは弥生会計の決算結果から申告書作成に必要な決算データをボタン操作で取り込み、ソフトのプログラムが各種の税額を計算します。その結果から法人税確定申告書等の提出書類の印刷が可能となり、アウトプット(A4紙40枚程度)して税務署等へ提出すれば申告が完了するわけです。

 

実際に実務で利用できるかどうかを「お試し版」で確認し、利用可能と判断した場合に「正規版」を購入することになります。正規版はお試し版からの切り替えとなるため、そのライセンスキーの代金として10,800円/年が必要です。弥生会計のソフトは先に紹介した「弥生会計18スタンダード」などでよいでしょう。

 

・全力法人税(ジャパンネクス株式会社)

全力法人税は元国税調査官と税理士が完全監修してリリースされている法人税申告ソフトです。このソフトは、法人税の知識が少なくても法人税の申告書類一式が容易に作成できるクラウド型の「自分でできる法人税申告書作成ソフト」として提供されています。

 

全力法人税では小規模法人(資本金1億円以下、事業者1カ所等)などが対象とされ、それらの会社に必要と考えられる機能のみが絞り込まれ、自動計算する項目が多数用意されています。そのため操作もわかりやすく簡単に申告書が作成できるようになっているのです。

 

機能はある程度限られますが、税務署のチェックの入りやすい点が考慮されているなど元国税調査官の経験に基づいて作られている点がこのソフトの魅力の1つとなっています。なお、本ソフトは法人税申告書を作成するソフトであるため決算書が必要です。弥生会計、freee、マネーフォワード、弥生会計オンラインとの連携が可能でそれらの会計データを読み込むことができます。

 

利用料は初年度 19,800 円(税抜)/年となっており、割引価格もあります。なお、翌年度以降は10,000円(税抜)/年です。

 

 

3 決算業務等で税理士を利用するメリットと活用方法

税理士抜きで決算業務等を行えば税理士を利用する場合のコストはなくなりますが、リスクとなる問題の発生や業務の非効率化を招きかねないため、税理士を有効利用することは重要です。ここではその利用するメリットや有効となる利用方法を紹介しましょう。

 

 

3-1 決算業務の正確さと効率化の実現

税理士を活用することで決算業務での経理処理における正確さを向上させ、作業時間の短縮などの効率化を実現させられます。

 

税理士を活用していない場合、売上・仕入の計上、在庫の評価や資産の減価償却に関する経理処理の判断に迷うことがあり、社内で検討すると時間が予想外に多くなるケースも少なくありません。また、時間を長くかけて処理した案件でも税法上適切でない部分が多ければ、税務署から修正を要求されるケースも増加する恐れがあります。

 

しかし、税理士を上手く活用して決算業務等を進めていれば、そうした判断に迷う処理などについて相談でき、また依頼して処理してもらえば誤ることなく適正な決算が実現でき、時間も少なく済むでしょう。結果的に税務申告での修正も少なくなることが期待できます。

 

なお、経理処理で注意した点として以下のような内容が挙げられます。

 

・修繕費の一括計上

事業に欠かせない資産を修理する機会は多いですが、内容により損金としての修繕費で計上できない部分もあり判断に迷うケースは少なくありません。損金不算入となることを回避するためには税理士に確認・相談して修繕の内容を検討しなければなりません。

 

修理や改良などを行い対象の固定資産の使用可能期間が延長したり、価値が増大したりした場合、その延長や増大となる部分についての修繕費の支出は損金扱いにはなりません。それらの部分については税法上資本的支出として扱われ減価償却することになるのです。

 

しかし、1つの修理や改良などに要した支出が20万円未満の場合や、約3年以内の期間を周期として行われる修理・改良等の場合などでは、それらは修繕費として損金算入が認められることもあります。こうした判断は税務会計の専門家である税理士でないと適切な判断がしにくいため相談する必要があるのです。

 

・在庫の評価や計上

法人を設立した場合、在庫の評価方法に関して税務署に「棚卸資産の評価方法」を提出しなければならないですが、評価方法にはいくつかあり適さない方法を選ぶと経理処理に余分な手間がかかることになるのです。

 

簿記の一定の知識はあるが実際の経理業務は未経験という方が担当する場合などでは、在庫の評価方法について自社に最も適切な方法を選ぶのは簡単ではないでしょう。そのため実務経験が浅い方が知識だけで評価方法を選定すると自社の業務に合わない方法を選ぶ可能性が高くなるのです。

 

一般的に中小企業では最終仕入原価法の採用が多いですが、業種によっては個別原価法、移動平均法や売価還元法のほうが適して、より適切な在庫高の計上ができることもあります。また、最終仕入原価法なら簡単に在庫の評価ができるところ個別原価法を採用したために在庫高の確定に多大な時間をかけてしまうこともあるのです。

 

商品販売や製品製造の場合ではその在庫高が利益額に影響するため適切な評価や計上が求められるとともに、評価の効率化のために適した方法を選ぶ必要があります。そのため税理士等への相談や確認が重要になるのです。

 

 

3-2 適正な税務申告の実現

税理士等に決算業務へ関与してもらうことで適正な税務申告を行えば、税務調査で追徴課税を受けることが回避しやすくなります。また、仮に追徴課税を受ける事態となっても税理士が税務署と交渉して追徴課税の負担を軽減してくれるでしょう。

 

①追徴課税の防止に繋がる

税理士に決算書の作成と税務申告を任せている会社は、自社単独でそれらを行っている会社よりも税法に沿った処理が期待できることから税務調査を受けても追徴課税が課せられる可能性は低くなるでしょう。

 

法人設立後、一定期間が過ぎて利益が増加してくると税務調査の対象になりやすくなります。そして、税務調査の際に申告内容において適切でない処理等が確認される修正申告等が求められるのです。その修正に応じれば該当する追徴課税が課せられ、不足の税額のほか罰則的な税金を支払うことになりかねません。

 

売上や仕入の計上のズレなどであれば、不足の税金と延滞税などで済みますが、故意に仕入を水増ししたり、架空の費用を計上したりするなどの悪質行為と認定されれば重加算税のような重い税が課されるのです。

 

故意や悪気がなくても誤った処理をすれば、そのような重い追徴課税が課せられる恐れがあります。そのため税理士に決算業務を任さたり、関与してもらったりして、税法に沿った適切な内容で申告する必要があるのです。

 

②税務調査への対応で追徴課税を低減する

税理士に税務調査で立ち会ってもらい税務署からの質問や修正要求へ対応するなど税務署と交渉してもらえば、結果として追徴課税額を低減してもらうことが期待できます。

 

税務調査では税務会計のスペシャリストである税務署の調査官から税務申告内容について、それが適正に処理されているかが会社の帳簿、請求書、領収書や各種社内規定などに基づきチェックされます。

 

税務会計の処理では損金と損金不算入の判断が難しいケースも多いため、考え方により特定の処理が損金不算入と調査官から指摘されることが少なくありません。その指摘に対して税務会計の知識が少ない自社の経理担当者が反論するのは困難であり、結果的に税務署の主張を丸呑みすることになりやすいのです。

 

しかし、税理士が税務調査に立ち会ってくれれば、税務署の指摘や修正要求に対する反論も期待できます。仮に税務署の修正要求に応じざるを得ない部分があるにしても納税者が納得できる妥協点を税理士は探してくれるのです。その結果、税理士に立ち会ってもらわない場合よりも追徴税額の低減が実現されやすくなるでしょう。

 

 

3-3 効果的な節税対策の実現

決算業務で節税対策を行いたい場合、自社単独で節税対策を進めるよりも税理士に相談して対策案を提案してもらったほうがより効果的な節税が期待できます。

 

決算業務を漠然と進める会社も少なくないですが、会社の状況によっては決算に臨み明確な目標を掲げて従事することも重要です。決算業務での目標として、金融機関から融資を得やすくなるような決算内容にする、節税対策をする、などがありますが、両者ともに税理士に助言や指導を受けると効果的に実施できるでしょう。

 

節税対策には多種多様な手段があり、会社の担当者では気づきにくいものも多数あるため、節税を得意としている税理士等に指導してもらうほうがその会社に適した節税が実現できるはずです。

 

企業経営のサポートに長けた税理士なら節税対策を、会社の財政状態はもちろん経営戦略や経営計画を踏まえ今後の会社の成長・発展に繋がる方策として提案してくれるでしょう。そのため会社としては単に節税を進めるだけでなく、今後の事業の運営や成長に繋げる観点から節税対策の利用を検討するべきです。

 

なお、一般的な節税対策には以下のような項目があります。

 

  • 期末在庫の削減、期末仕入の回避
  • 不良在庫、売れ残りなどの処分や評価損の計上
  • 不良債権の貸倒化
  • 開業費や創業費の任意償却
  • 価値が低下したゴルフ会員権などの処分
  • 固定資産の修理、修繕
  • 事業に必要な資産の購入
  • 中古資産の購入
  • 次期に向けた広告宣伝の実施
  • 決算セールの実施
  • 決算賞与の支給
  • 社員旅行 の実施
  • 会議費の活用による交際費の削減
  • 会社名義でのレジャークラブへの入会
  • 業務に必要な資格取得への費用計上
  • 生命保険への加入

 

節税に利用できる公的な制度としては以下のようなものが挙げられます。

 

  • 中小企業退職金共済制度への加入
  • 中小企業倒産防止共済制度への加入(法人は損金)
  • 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
  • 中小企業投資促進税制を活用した機械等の購入(機械装置等の導入で特別償却又は税額控除)
  • 中小企業経営強化税制(対象の資産が即時償却又は税額控除)
  • 中小企業の投資を後押しする大胆な固定資産税の特例の創設(対象資産の固定資産税を3年間0以上1/2以下)
  • 新たに取得する機械装置や器具備品、建物附属設備等にかかる固定資産税の特例(対象資産の固定資産税が3年間1/2に軽減)
  • 中小企業向け所得拡大促進税制(従業員の給与を増加させた場合に受けられる税額控除)

 

 

3-4 経営品質の向上

経営診断や経営マネジメントのサポートが可能な税理士等に決算業務などを依頼していると、経営に関する様々な助言や指導が得られ、経営品質の向上が期待できます。

 

節税対策や適正な税務申告を実現していくことは経営にとって重要ですが、それだけでは企業が成長・発展していけるとは限りません。企業の成長等には事業を拡大・創造していくための企業経営が求められ、経営者には様々な経営マネジメントの知識と能力の確保と向上が必要となります。

 

しかし、そうした知識等を経営者自らが習得していくには多くの時間が必要であり、多忙な経営者としては現実的ではありません。そのため経営者が不足する知識や能力を第三者に補ってもらう必要があり、経営のサポートができる税理士等がその役割を果たしてくれるのです。

 

特に税理士が日々の記帳から決算業務を引き受けている場合、企業会計の内容からその会社の状態が正確に把握されているでしょう。毎月の訪問、財務諸表の作成過程及びその後の経営診断などにより、収益性や安全性などが把握され様々な業務上の問題のほか経営課題の提示も期待されます。

 

税理士等を上手く活用すれば、資金繰りの悪化を防止して倒産リスクを低減するといった短期的な課題から事業の強化・拡大に向けた中長期的な課題の提言などが得られるでしょう。

 

なお、税理士等からは以下のような項目の支援が期待できます。

 

①経営診断

財務諸表などの資料、ヒアリング調査や現場確認などを通じて会社の現状を分析・評価する経営診断が良く実施されています。

 

財務諸表等の分析から会社の収益性や安全性などが診断され、現状の結果と簡単な改善案の提示といった簡易な診断から、何日もかけて会社の状態を徹底的に解明するような診断もあります。

 

後者の場合では財務諸表などによる分析はもとより、経営者や従業員等へのヒアリング調査、各業務現場での作業の確認など実施され、様々な問題点が明らかにされるでしょう。

 

まず、企業全体の収益性、安全性、効率性など分析されます。収益性については記帳などを委託している場合などでは、各事業や各店舗の損益分析も可能となるはずです。その場合、どの事業や店舗の儲けが良いか悪いか、どのような要因が悪影響を及ぼしているといった点の把握も容易になります。

 

安全性については、短期と長期の視点からの安全性、資本調達構造からの安全性のほかキャッシュフロー計算書から見た安全性などが分析され、短期的及び中長期的な改善策の提示が期待できるでしょう。

 

効率性については、投入した資本でどれだけ収益を効率的に獲得しているかという点のほか、事業ごとの効率性、設備生産性や労働生産性の分析が行われます。どの事業、部門、設備・機械などに無駄が多いのか、儲けに貢献していないのか、などが明らかになり、事業の強化・拡大を検討するための情報が得られるはずです。

 

上記の財務諸表による分析を含む総合的な分析により、経営トップ、営業部、製造部、経理部、設計部、調達部、人事部などの各部門の診断結果が提示されるでしょう。

 

各部門の現状の問題、戦略や計画に対する課題などが提示されるとともに改善の方向も示されるはずです。

 

②経営戦略及び経営計画の策定支援

会社の決算書を作成する税理士等ならその会社の現状を把握できるため、適切な経営戦略や経営計画の策定支援が期待できます。

 

会社が成長していくためにはその会社のあるべき姿を明確にして目標を定め、それを効率的に実現するための方針となる経営戦略の策定と実行が欠かせません。そして、その経営戦略を遂行するための短期と中長期の計画策定も必要になります。

 

これらの戦略や計画の策定方法を熟知していない会社がそれらを策定するのは容易でなく、経営の専門家の支援が必要になります。特に日頃から会計面で会社の状況を把握している税理士等がその策定支援を行うと効果的です。

 

経営戦略や経営計画の策定支援は税理士本来の仕事ではないですが、税理士の中にはこの方面での知見に優れた者も多く得意としている税理士も少なくありません。自社で戦略等の策定が難しい場合は知り合いの税理士等に相談するとよいでしょう。

 

なお、注意しておきたい点は戦略や計画を策定した後の実際の行動、結果の確認、そして目標が達成できていない場合の改善策の立案と実行を行うことです。経営環境の変化のスピードは速く、ライバルや顧客が予想を超える動きをすることも少なくありません。

 

しかし、そうした変化があるにもかかわらず計画に対する結果や周囲の状況を確認しないまま業務を進めても目標値と現実とは大きく乖離していくでしょう。そのため、現実は計画の前提条件通りに動かいなと考えた上で状況を認識・学習しながらの対応を取ることが求められます。

 

戦略や計画は作りっぱなしにしないで状況に合わせて見直し柔軟な行動をとれるように心がけましょう。

 

 

3-5 税理士の利用の仕方、業務の依頼の内容

税理士等を活用する方法や具体的な業務を紹介します。

 

①経理業務の委託による効率化

税理士が提供するサービスは様々ですが、記帳、給与計算、決算業務・税務申告、年末調整などあり、利用することで経理業務の正確さが担保され人件費の抑制が可能になります。

 

税理士が提供するサービスには税理士資格が必要でないサービスもありますが、経理代行サービスなどとコスト的に差が少なければ利用する価値があるはずです。

 

特に記帳などを依頼しておくと決算から税務申告のまでの業務の迅速化が期待できます。決算書の作成と税務申告だけを依頼する場合、帳簿や領収書等の資料について税理士からそれらの内容について問われるケースが少なくありません。

 

問われた内容ついて確認したり、領収書などを探したりすると時間がかかり決算業務の進行が遅くなってしまいます。しかし、毎月記帳を依頼しておけば決算期でそうした質問を受けることなく、決算業務がスムーズに完了しやすくなるのです。

 

なお、税理士等の資格保有者だけが可能な税務申告等以外の業務では経理代行サービスなどを利用するのも有効です。税理士との契約の仕方にもよりますが、コストや業務の重要性などを考慮し税理士と経理代行サービスとを使い分けるといった方法も検討するとよいでしょう。

 

経理代行サービスでも記帳、給与計算を含む勤怠管理、売掛金及び買掛金管理(請求書の作成・発送等)、決算書の作成、税務申告(税理士がいる事業者等)、年末調整業務などが提供されています。

 

税理士事務所や税理士法人よりも幅広いサービスが提供されているケースも多く、上手く利用すれば経理部門の業務負担を減らしその人件費の削減も実現できるでしょう。

 

②税理士等の活用例

税理士等の一般的な活用法には以下のような業務・サービスがあります。

 

・記帳

企業で毎月発生する会計上の取引を帳簿に記録する作業を税理士や経理代行サービスに委託すれば、経理部門の業務の負担は大幅に低減され、経理担当者の削減も容易となるでしょう。

 

記帳サービスでは、取引における納品書、請求書、領収書や通帳の写しなどを税理士等に提供すれば、会計ソフトにそれらの情報が入力されることになり必要な帳簿類が得られます。

 

・勤怠管理及び給与計算

給与計算サービスでは、タイムカードなどの情報を税理士や経理代行サービスなどに提供すれば、社員の給与明細書・賞与明細書や源泉所得税納付作成書などが作成してもらえます。

 

また、社会保険・労働保険の手続、年末調整事務や社員の有給管理などにも対応する事業者もあり、利用すれば経理部門だけでなく人事・総務部門の業務負担の軽減にも繋がるでしょう。

 

社員の給与の振込サービスを提供する事業者もあります。利用すると、社員に給与が知られない、保険料率の改定などに伴う間違いを回避できる、といったメリットが得られます。

 

・売上債権及び仕入債務の管理

経理代行サービスには、企業の売上債権及び仕入債務の管理を行ってくれるサービスがあり、利用すると経理業務の負担が大きく軽減されます。

 

このサービスでは売掛金に対する確実な請求や入金の確認、買掛金については取引先の請求書に基づく振込などによる確実な支払いが期待できます。そのため売上債権及び仕入債務でのトラブルが回避しやすくなるでしょう。

 

特に売上債権の管理は重要で、自社のミスで多額の売上債権の回収が遅れるようなことがあれば資金ショートに結び付くこともあるため適切な管理が求められます。

 

しかし、経理部門や営業部門の業務が忙しく経理処理のルールが曖昧でルーズに運用されている場合、請求漏れなどのミスも多くなり回収遅れとなるケースも増えてしまいます。本来自社内でしっかり管理すべきことですが、経理代行サービスなどを利用することで迅速な処理とトラブルの回避を図ることも有効でしょう。

 

・決算書の作成及び税務申告

毎月の記帳や給与計算などは自社の経理部門が行い、決算書の作成や税務申告だけを依頼するという方法もあります。

 

税理士等に帳簿のほか必要な納品書、領収書、請求書、通帳の写しなどを渡せば、決算書や税務申告書を作成し、法人税等の申告を行ってくれるのです。毎月の記帳等を依頼している場合よりも決算業務等での時間がかかる可能性がありますが、それらの業務については自社の経理部門で行う以上に正確で迅速な作業が期待できます。

 

ほかにも年末調整業務を単体で依頼できる事業者も少なくないため、自社で行うのが困難な場合などでは利用するとよいでしょう。

 

 

4  税理士等を活用する場合の注意点

税理士を日々の記帳、決算業務や経営指導などで利用することで様々なメリットが得られますが、そのために注意すべき点として以下の内容が挙げられます。

 

 

 

4-1 税理士等の得意な領域に合わせて依頼する

税理士等に業務を依頼する場合、その業務が得意な税理士等へ依頼することが重要です。

 

先に確認した通り、税務申告など税務会計に関わる業務が税理士の本業ですが、記帳、給与計算、決算書の作成、年末調整など企業会計に関わる業務全般を提供する税理士事務所も少なくありません。

 

しかし、経営診断、経営戦略・経営計画の策定、経営マネジメントの指導に対応できる税理士はすべてではないため、得意でない税理士にこれらを依頼するとよい結果は得られないでしょう。

 

そのため依頼を検討する税理士には事前に何が得意で、何が対応できないかを確認しておく必要あり、不安のある場合は各業務の実績などを教えてもらうべきです。

 

また、節税対策も得意としている税理士とそうでない税理士とでは提案内容に差が出ることもあります。得意とする税理士の場合は、幅広い節税方法を熟知しているだけでなく緊急の節税方法から会社の将来を見据えた節税対策が期待できるのです。

 

 

4-2 依頼業務はサービスの質やコストなどを考慮して判断する

税理士に依頼する業務は多様ですが、必ずしも税理士に依頼する必要のない業務もあり、サービスの質、コストや速さに加えて対応の柔軟さなどを考慮して選定しましょう。

 

パソコンが普及するまでの時代では記帳サービスも税理士の主要な業務で高額の費用がかかるケースも少なくありませんでした。しかし、現代ではパソコンがあれば税理士でなくても簡単に入力できるようになり、経理代行サービスの登場によりその費用は大幅に下がっています。

 

ほかにも給与計算、年末調整や決算書の作成なども低価格でサービスを提供する事業者が少なくありません。もちろん決算書などは税理士本人が作成に携わっている場合とそうでない場合とでは内容に大きな差が生じることもあります。しかし、計算が正確であれば問題がないようなサービスではコストと速さを考慮して事業者を選ぶのは悪い選択ではないはずです。

 

なお、決算書の作成を依頼する場合は、目的に合わせて作成できるかどうかも確認した方がよいでしょう。たとえば、節税対策を十分に行った上での決算書にする、金融機関が融資を前向きに検討してくれそうな決算書にする、といった決算での目的に対応できるかの確認です。

 

金融機関が融資を検討する場合、その会社の業績や財政状態が審査されますが、その対象は主に過去3年以上の決算書になります。特に直近の決算書の内容は重要であり適正な利益と安全性の確保が求められるため、それを考慮した決算書の作成や対応が必要となるのです。

 

節税対策で利益を大幅に減少させる、将来への投資として高額な資産を購入して財政状況を悪くさせる、というような決算書になれば融資が難しくなる恐れも生じてしまいます。

 

こうした会社の希望に対応できる税理士等を選ぶようにしましょう。

 

 


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