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起業時はムダな業務があってもいい?会社設立時からの生産性向上の必要性と取り組み方

菅義偉政権の中小企業政策で「生産性向上」が課題の1つとして挙げられましたが、新設会社においても生産性向上は開業後の生き残りや成長に大きく影響する重要な経営課題です。そこで今回の記事では、新設会社を含む企業にとっての生産性向上の内容や意義を説明するとともに企業の生産性の現状、生産性向上に向けた取組方法、事例、生産性向上の進め方や進める際の注意点などを紹介します。

 

創業した事業の業務を安定させたい方、新設会社の生産性を改善して強みにしたい方、業務の効率化の方法を知りたい方などは、ぜひ参考にしてください。

 

 

1 企業にとっての生産性とは

企業にとっての生産性とは

 

企業にとっての生産性の意味や、日本の企業、特に中小企業の生産性がどのような状態になっているのかを説明します。

 

 

1-1 生産性の意味

日本工業規格のJIS Z 8141(2001)-1238では、「生産性」は「投入量に対する産出量との比」と定義されています。式で表すと以下の通りです。

 

生産性=産出量(output)/投入量(input)

 

一般的に分子には生産量、生産金額または付加価値(value added)が使用され、分母には労働量のほか投入資本、設備、原材料などの諸量が使用されることもあります。

 

投入する生産要素によって生産性の内容が異なり、以下のような生産性を示す指標が利用されているのです。

 

  • ・労働生産性=生産量(例 生産金額)÷労働量(例 従業員数)
  • ・設備生産性=生産量(例 生産金額)÷設備量(例 機械の台数)
  • ・原材料生産性=生産量(例 生産金額)÷原材料使用量(例 金額)
  • ・エネルギー生産性=生産量(例 生産金額)÷エネルギー使用量(例 金額)

 

以上のような製造における生産性は生産諸要素がどれほど効率的に生産に貢献したかを示す概念であることが分かります。この概念は製造において使用されるだけでなく企業活動全般に使用されているのです。

 

生産性指標が異なってくることもありますが、小売などの流通業、サービス業のほかすべての業種・業態で各々にあった指標が、業務の効率性を測るために役立てられています。

 

 

1-2 各種の生産性と業務効率

ここでは生産性の様々なタイプとそれに関わる業務の効率性について解説しましょう。

 

①経営分析における生産性指標

経営で使用される生産性は、経営状況全般を分析(つまり経営分析)する際に利用する指標と各業務の効率性を分析する指標とに大きく分けられます。どちらも企業活動の結果であるデータを使用して分析しますが、前者の場合は主に業績や資産等の財務データが利用され、後者はそれらのほか各業務の作業データなども利用されるのです。

 

1)経営分析での効率性分析と生産性分析
経営分析は、企業の経営状態を把握するために経営者が行わねばならない財務データを使った分析で、生産性に関わる分析では「効率性分析」と「生産性分析」に分けられます。

 

経営分析での効率性分析と生産性分析

 

●効率性分析
効率性分析は資本(資産)の使用効率を分析するものです。その指標としては各種の「回転率」が中心として使用され、一般的には事業に使われている資産の金額と、その資産を使用することで得た成果(売上等)の金額で示されます。

 

たとえば、{売上高÷総資産(総資本)(単位:回)}は総資本回転率と呼ばれ、他社や業界平均値などと比べて自社の効率性の評価に利用するのです。この総資本回転率が他社と比べ悪い場合は、その原因を個別資産の回転率に求めていくという流れになります。

 

個別資産の回転率には以下のような指標があります。
・売上債権回転率=売上高÷売上債権(回)
⇒売上債権回転率は売上債権の回収状況を表すもので、回転数が大きいほど効率性が高く経営上有利で安全性も高いです。

 

・棚卸資産回転率=売上高÷棚卸資産(回)
⇒棚卸資産回転率は棚卸資産の販売などの消化速度を示し、回転数が大きいほど速く効率的で経営上有利になります。

 

・有形固定資産回転率=売上高÷有形固定資産(回)
⇒有形固定資産回転率は設備・機械等の有形固定資産の効率性を示す指標で、数値が高いほど有形固定資産の稼働率が高く(効率的に使用している)売上に貢献していると言えます。

 

また、回転率のほかに「回転期間」という効率性を示す指標もあります。回転期間は各資産(借入債務は負債)の回収期間を日や月などの時間単位で測る指標です。具体的には、売上債権回転期間や棚卸資産回転期間などがあります。

 

・売上債権回転期間=売上債権÷1日当たり平均売上高(日)
⇒売上債権回転期間は、売上債権を回収するのに必要な日数(或は月数等)を示す指標です。期間が短い方が回収は早く経営上安全または有利ということになります。

 

・棚卸資産回転期間=棚卸資産÷1カ月当たりの平均売上高(月)
⇒棚卸資産回転期間は棚卸資産が企業内に滞留している日数や月数などを示す指標です。具体的には在庫が販売されるのにかかる期間を示すことになり、短い方が効率的に在庫できていることを意味し経営上安全で有利になります。

 

●生産性分析
生産性分析は生産に関わる諸要素で生産の効率性を分析することで、内容的には冒頭で説明した{産出量÷投入量}の考え方と同じです。生産の諸要素の対象は資本、労働力や原材料などの経営資源になります。

 

生産要素を2つに分けると労働力と資本(機械等)となり、前者の生産性指標の代表は労働生産性(産出量÷労働力)、後者は資本生産性(産出量÷資本)です。

 

労働生産性の代表的な構成要素は以下の式の内容になります。
・労働生産性(円/人)=付加価値額*÷従業員数
*付加価値額の考え方はいくつかあり、ややアバウトな考え方では「売上総利益(=売上高-売上原価)」を付加価値額とするケースが多い

 

資本生産性は資本投資効率とも呼ばれ、「設備生産性」として示されることもよくあります。式は以下の通りです。
・資本生産性(設備生産性)=付加価値額÷(有形固定資産-建設仮勘定*)
*建設仮勘定は未完成の建物などの手付等で支払った金額のこと

 

②業務の効率性で使用する生産性指標

ここでは企業全体の成果に影響する各業務の効率性を測る生産性について確認していきましょう。指標としては上記で説明した指標に加えて、各業務の状態を適切に確認できる指標ならすべてOKで、どんなタイプを使っても構いません。

 

効率か否かを判断できる方法は多様で、収益、費用、効率などの面から生産性を評価できればよいです。たとえば、資本利益率は利益額を投資資本で割った値で資本の収益性を示す指標でもあり、効率性を示す指標でもあります。そして、資本利益率は{売上高利益率×資本回転率}に分解できるのです。

 

資本回転率は効率性指標そのものですが、売上高利益率は収益性指標でありながら使い方によっては効率性を測ることも可能です。たとえば、A製品とB製品の2種類を販売していて、Aの売上高利益率が30%、Bが20%だとすると、当然Aを多く売った方が儲かります。

 

つまり、Aの方が利益を効率的に稼ぐことが可能であるため、Aを多く売る方策を立てることでより多くの利益が効率的に得られるようになるわけです。また、費用面からも同じような考え方ができます。

 

たとえば、売上高人件費比率は人件費を売上高で割った指標ですが、この指標を事業別で比較することで各事業の効率性が把握できるのです。X事業とY事業があり両者の売上高がほぼ同じである場合、各々の売上高人件費比率が10%と8%であれば、当然8%の方が少ないコストで効率的に販売していると評価できます。

 

生産現場では、各製品や各作業工程の生産量と、使用した労働量や機械量などによる指標が利用されることになります。また、スーパーマーケットなどの小売業のレジ業務ではレジ回転率(1分当たりのレジ取引回数)が使用されることが多いです。

 

飲食業では労働分配率や労働生産性などが使用されるケースが多く見られます。労働分配率は「人件費÷粗利高」として示される指標ですが、粗利高や給与の水準が同程度の他店と比較することで労働における生産性の善し悪しを評価することも可能です。

 

 

1-3 国内企業の生産性の状況

ここでは日本の生産性がどうなっているのかを国際的な比較などから確認してみましょう。

 

①生産性の国際比較

公益財団法人の日本生産性本部では1981年から、OECDや世界銀行などのデータを活用して世界各国の国民1人当たりGDP、労働生産性(就業者1人当たり国内総生産、就業1時間当たり国内総生産)、主要先進7カ国の産業別生産性トレンド・産業別労働生産性水準などを比べ、「労働生産性の国際比較」を公表しています。

 

その内容によると、OECDデータを根拠とする2018年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は46.8ドル(4,744円/購買力平価(PPP)換算)です。

 

この値は米国(74.7ドル/7,571円)の6割強程度の数値で、順位はOECD加盟36カ国中21位でした。また、主要先進7カ国で比較すると、日本は1970年依頼最下位の状況を継続しているのです。つまり、G7ではGDPは2位ですが、労働生産性は長年の間ずっと最下位を続けている状況にあります。

 

なお、日本の製造業の労働生産性水準(就業者1人当たり付加価値)は、98,157ドル(1,104万円/為替レート換算)です。この水準は米国の7割程度ですが、先の国内全体の値よりも良く、OECDで比較した順位では主要31カ国の中で14位となっています。

 

また、「労働生産性の国際比較」にはG7の産業別労働生産性のトレンドも記されており、各産業の労働生産性平均上昇率(1995年~2017年)の内容も確認できます。それによると、以下の産業の傾向は次の通りです。

 

・製造業
⇒トップが米国の3.6%、2位がフランス3.0%、3位が日本2.7%

 

・建設業
⇒トップが英国の0.6%、2位が日本0.1%、3位がドイツ0.0%

 

・卸小売業、飲食・宿泊業
⇒トップがカナダとドイツの1.1%、2位が米国と英国1.0%、日本7位0.2%

 

・情報通信業
⇒トップが米国の6.6%、2位がドイツ3.8%、5位が日本2.2%

 

・教育・社会福祉サービス業
⇒トップが米国の0.5%、2位がドイツ0.3%、7位が日本-0.82%

 

・娯楽・対個人サービス業
⇒トップが米国の0.4%、2位がフランス0.2%、7位が日本-1.9%

 

以上の通りG7で比較した各産業の労働生産性のトレンドでは、日本は相対的に低く特に飲食・サービス系の産業の値の低さが確認できます。国際競争を意識する事業においては特にこれらの産業の生産性の向上が重要な経営課題になるはずです。

 

②生産性の国内の状況

生産性について国内企業を大企業と中小企業に分けたデータが2017年度版小規模企業白書第1部第2章に記載されています。

 

下図の第1-2-20図は、企業規模別での従業員1人当たり付加価値額(労働生産性)の推移を示した資料です。大企業では2003年度から2007年度にかけて緩やかな上昇傾向が見られ、リーマンショック後の2008年度、2009年度は落ち込みましたが、それ以降は上昇傾向となりました。

 

一方、中小企業の労働生産性の推移は、2003年~2015年の間でほぼ横ばいで、大企業と中小企業の労働生産性の水準において大きな差があることが確認できます。

 

第1-2-20図

 

第1-2-21図は、近年で最も労働生産性の落ち込んだ2009年度と2015年度を比較し、どの業種が労働生産性の上昇に寄与したのかを確認するために製造業と非製造業に分けた資料です。

 

これによると、大企業は製造業、非製造業ともに同程度の上昇率ですが、中小企業ではどちらの上昇幅も小さく、特に製造業ではほとんど上昇していません

 

これについての説明はないですが、リーマンショック後の厳しい状況の中で資金力に劣る中小企業は設備・機械や業務改善等への投資が十分に行えず大きな差が生じたと推察されます。

 

非製造業に着目すると、大企業では特にサービス業の労働生産性の上昇が非製造業全体の労働生産性を押し上げている一方、中小企業のサービス業の労働生産性の伸び率は大きくありません。

 

サービス経済化が進む日本においてサービス業で起業する場合、大企業との生産性の差が大きな経営課題になると推察されます。

 

第1-2-21図

 

 

2 生産性が低いことによる問題や影響

生産性が低いことによる問題や影響

 

ここでは生産性の低さがどのような問題に結び付き、経営にどのような影響をあたえるかについて説明しましょう。

 

 

2-1 生産性と競争力の関係

生産性を高めることが競争優位を作り出す一方、生産性が低くなると競争力の低下に繋がります。

 

生産性が高ければ、より小さい資源量で大きな産出量を得られるようになるため、少ない費用で大きな収益を生み出すことが可能となるのです。同じ製品やサービスでもその産出にかかったコストを少なくできれば、その分販売価格を他社よりも低くできるため競争力が高まります。

 

その結果、価格的に有利となり他社よりも自社製品等を選ぶ顧客が増え収益の増大が期待できるようになるのです。

 

また、生産性を金額ではなく時間で見た場合、一定時間により多く産出できれば速さの点で他社より有利になります。たとえば、顧客1人に対する同じサービスを他社よりも20分早く提供できれば、一定時間により多くの顧客にサービスを提供できるだけでなく、サービスの時間短縮を望む顧客のニーズを充足できるのです。

 

つまり、コストを優先する顧客以外に速さを優先する顧客を捉えることも可能となるため事業上有利になります。

 

 

2-2 生産性と品質の関係

生産現場における生産性を悪くする要因の1つとして、不良品の発生・修正作業などが挙げられます。具体的には、生産において原料や素材の投入量に対して実際に生産され数量の割合である「歩留まり」が悪い状況などです。

 

完全な不良品は使用した原材料等が無駄になるだけでなく、生産に費やしたエネルギーや加工費なども回収できなくなります。一部修正作業を行って製品化できた完成品もその修正のための諸々の費用が生じてしまうのです。

 

こしたコストは、完成した製品のコストに反映されることとなり競争や収益に影響することになります。その結果、競争力が低くなり収益を伸ばすのが困難になることも珍しくありません。

 

逆に歩留まりを改善するという生産性の向上を図れば、完成品コストは小さくなり結果的に競争力と収益の増大に繋がります。

 

 

2-3 生産性と人手不足・労働負担・働き方の関係

企業の生産性が悪い場合、業務が非効率になっていて従業員の労働負担が重くなるほか人手不足がより顕著となって業務が滞ることになりかねません。

 

業務の効率性を労働面から測る場合、指標としては労働生産性などが使用されますが、もちろん{付加価値額÷従業員数}で評価することにこだわる必要はありません

 

たとえば、売上高人件費比率などでもよいです。製品別、事業別や店舗別の売上高人件費比率を算出して自社内、他社や業界平均値と比較すれば、各々の状況が分析できます。

 

A店舗の値が11%、B店舗の値が9%、C店舗が7%であれば、C店舗が最も人件費の面で効率的に販売できている店舗です。逆にA店舗が最も非効率な店舗ということになり、その差異が何によって生じるかという原因の追求と原因解消のための対策の検討に取り組むという流れになります。

 

A店舗の従業員数、労働時間や残業時間などをC店舗などと比較して把握しA店舗の業務状況を分析していくのです。その結果、特定の作業で時間がかかり過ぎ残業代が他店舗より多くなっているといった原因を掴めることもあるでしょう。

 

労働に関する生産性が低い場合、残業や休日出勤が多い、休みが取りにくい、作業時間が長い、重労働で体への負担が重いとった問題に繋がり、離職率の高止まりといった問題を引き起こす恐れもあります。そのような状況になれば益々生産性の悪化をもたらしかねないため注意が必要です。

 

 

2-4 生産性と財務状況の関係

生産性が低い場合コストの増大で企業の財政状況を悪化させるほか、コスト増と納期の長期化などに繋がり競争力の低下をもたらします。その結果、収益と更なる財政状況の悪化が進むことになりかねません。

 

製造における歩留まりが悪くなれば、製造原価が高くなるだけでなく不良品の廃棄コストや再生産のための重複コストなどがかかり一層コスト負担が増します。

 

たとえば、家庭での夕食時の調理で失敗すれば、材料代や光熱費などが余分にかかり家計費の増大に繋がることは容易に想像できるでしょう。毎食の調理にそのような失敗が続けば調理費用は膨れ上がり家計を大きく圧迫するはずです。その結果、その月の家計は赤字となり預金から不足分を取り崩すことになってしまいます。

 

逆に毎日の調理を無駄なく効率的に行うことができれば、材料代や光熱費などは予算よりも少なく済み食事代の予算があまり、預金に回すことも可能になるでしょう。

 

企業も同様で事業活動の生産性が低いと企業財務を圧迫することになり倒産リスクを高めかねないですが、逆に生産性が高いと競争力と収益性が良くなり財務では健全な状況が維持できます。

 

 

3 起業時・会社設立時における生産性向上の意義

起業時・会社設立時における生産性向上の意義

 

ここでは事業開始時において生産性を高めることが何故重要になるのかについて説明しましょう。

 

 

3-1 起業前後の企業の経営課題

ここでは会社設立時等における生産性向上の必要性をその時の課題から確認します。

 

2011年度版中小企業白書第3部第1章「第3-1-11図」の内容によると、起業後6年で2割の企業が事業から撤退しています。起業後の生存率は6年で80%、10年で70%、20年で52%という厳しい状況です。

 

また、株式会社日本政策金融公庫が公表している「2019年度新規開業実態調査」には起業時の企業の課題(P13)が示されておりその内容が確認できます。

 

・開業時に苦労した点は、「顧客・販路の開拓」(47.0%)、「資金繰り・資金調達」(46.9%)を挙げる企業の割合が高く、3番目に「財務・税務・法務に関する知識不足」、「従業員の確保」、「仕入先・外注先の確保」と続く

 

・起業後に苦労している点は「顧客・販路の開拓」、次いで「資金繰り・資金調達」、「従業員の確保」、「財務・税務・法務に関する知識不足」、「従業員教育、人材教育」と続く

 

以上の内容から起業時において企業は、お金をはじめとした経営資源を十分に確保できておらず、余裕のない状態で事業を始めていることが分かります。経営資源が十分に確保できないままだと当然事業に支障が生じたり競争力が低下したりする可能性が高まるため、経営危機に陥りやすくなるはずです。

 

そして、そのまま適切な対応が取れない場合には事業から撤退、廃業・倒産に追い込まれることになってしまいます。しかし、起業後の企業において生産性を高めれば不足がちな経営資源を補い経営危機を乗り越えることも可能となるのです。

 

 

3-2 生産性向上は経営資源を補完

生産性向上は企業の経営資源の補完に役立ちます。特に経営資源が脆弱になりがちな起業時において生産性を高めることは企業の生存確率の向上に貢献するでしょう。

 

業務の効率化を図り生産性を高めると少ない人出で業務を回すことができるようになるため、労働力不足の緩和が期待できます。生産性を高め品質・納期・価格を改善していけば競争力は高まり販売先や仕入先を増やすのも容易になっていくでしょう。

 

そして、これらの活動の結果、コストが低下していけば商品・サービス等はより多く販売でき資金にも余裕がでてきて資金繰りに苦しむケースも少なくなっていくのです。

 

つまり、生産性を高めれば経営資源の増大や競争力を増すことに繋がるため、不安定な経営になりがちな起業後の時期を乗り越え事業を持続しやすくさせていきます。

 

 

3-3 起業時の生産性向上はその後の成長基盤を確立

開業時から生産性向上に取り組み、その行動が企業文化へと昇華すれば、それがその後の企業の成長基盤となるでしょう。

 

最初から業務の効率性を高めるのは容易ではありません。起業時では限られた経営資源の中で何とか事業を進めるのに手がいっぱいで、効率的に運営できるケースは多くないのです。

 

そのため起業時の業務のやり方にはムダ・ムラ・ムリの3M(ダラリ)が存在するケースが多く、その後の成長の足かせになることも珍しくありません。逆に起業時からこうした3Mをなくす業務の効率化や改善活動をしていくとその取り組みの習慣が企業文化になることが期待できます。

 

子供の躾は小さい時から始めていけば大人になってからもその習慣が維持されるケースは多いですが、企業においても同様です。創業時から効率化の習慣をつけておけば経営者から指図されなくても組織の各部門は改善活動に自然と取り組むようになっていきます。

 

常に改善、いつも効率性を追求する業務意識が従業員に浸透すれば企業活動から無駄がなくなり競争力の高い組織運営が期待できるでしょう。

 

 

4 生産性向上に取り組んだ企業の事例

生産性向上に取り組んだ企業の事例

 

生産性向上に挑戦した企業の事例を紹介し、その取り組み方などを確認していきましょう。

 

なお、事例は平成30年2月21日に公表されている財務省関東財務局の「生産性向上・人材投資事例集」から紹介します。

 

 

4-1 効率性向上を目的とした事例

①「異業種の視点で『やめる仕事』を発見し、効率性向上」

●企業概要
企業名:株式会社一の湯
所在地:神奈川県足柄下郡箱根町
従業員数:114名

 

●事業内容
業種:宿泊業(旅館)

 

●背景・取組内容
・借金もあり経営が厳しい状況の中、全経費の中で最多となっている人件費を低減する「マネジメント」が必要だった

 

・そのために「人時生産性{(売上高-仕入高)/労働時間数}改善」を目標として、海外の異業種の視点を取り入れ「やめる仕事の発見」と「省力化できる取り組み」を行った

 

・具体的には、各部屋での食事や布団敷サービス、冷蔵庫での飲み物販売等を廃止する、下足番をなくす、案内表示を増やす等の取り組みを始める

 

●取組効果
・やめる仕事の発見等により総労働時間を削減できた

 

・その結果、人時生産性は当初の1,400円程度が5,000円程度に改善

 

・やめる仕事の発見等で削減された時間を接客サービスに活用し、客室稼働率80%以上という高水準が維持できた

 

●成功のポイント
・「やめる仕事の発見」を実施する際に業界の固定観念等を打破できた
⇒顧客にとってあまり価値のないことでも業界の当たり前・習慣となっている業務が継続されているケースは少なくないです。それらについて顧客視線で業務の必要性を考え無駄な業務を思い切って取り除くことが生産性を高めるのに欠かせません。

 

・業界の固定観念・習慣を捨てることに抵抗もあったが、トップから強いメッセージの発信があり、従業員等の理解が得られ取り組みが進んだ
⇒以前から慣れ親しんだ業務方法を変更することに抵抗する従業員は少なくないです。その抵抗を乗り越えて定着させるには納得できる説明を経営者が真剣に訴えることは重要になります。

 

改善活動は従業員の協力があって進むため、その協力を引き出す経営者の強いメッセージや関与などは不可欠です。

 

②「IEに基づく取り組みで業務改善」

●企業概要
企業名:株式会社サイゼリヤ
所在地:埼玉県吉川市
従業員数:11,174名(正・準社員)

 

●事業内容
業種:飲食サービス業(イタリア料理店展開)

 

●背景・取組内容
・外食産業の生産性が低いと認識されているが、同社は国際競争力のあるメーカー並みの生産性水準を達成したいと考えた

 

・そのため、接客・調理等の全工程の「動作」を撮影し、秒刻みで作業を分解し、過去の事例や固定観念に左右されずにムダを発見・改善する取り組み=IE(インダストリアル・エンジニアリング)を実施した

 

⇒業務の全工程を動画などで捉え各作業を細かく分解することで3Mの存在が明らかになるケースは多いです。顧客ニーズと業務の効率化の視点を合わせて評価することでムダ等のほか新たな業務の必要性も見えてきます。

 

●取組効果
・この改善活動により厨房面積が半減、作業が効率化した

 

・その結果、客席の増加や土地狭小な都心部での小規模店舗設置が可能になった

 

●成功のポイント
・社長直轄の業務改善推進部門を設置して改善活動を推進した
⇒従来からの業務方法を改善する場合それに抵抗する従業員もいるため、改善運動を進めるには経営者が陣頭指揮を執ることが重要です。その担当の経営者のもとに推進グループを作り、経営者が関与しながら取り組むことが成功の近道になります。

 

・また、改善活動において、専門コンサルタントによるムダ発見・改善の具体的実施方法等に係る研修を実施し、「取り組みの成果」を社員と共有して士気を高めた
⇒自社の業務方法を客観的に評価するためには外部の専門家の力を借りることは有効です。自社の従業員では気付きにくいムダの発見・改善方法などをコンサルタントから教えてもらえるでしょう。

 

改善活動での成功はその後の取り組みの励みとなるため、成功体験の共有は重要です。小さな成功を重ねながら結果的に大きな成果を得られるケースは少なくありません。

 

 

4-2 付加価値向上に役立つ事例

①「ITの活用と質の高い情報の共有で生産性向上」

●企業概要
企業名:株式会社やさしい手
所在地:東京都目黒区
従業員数:5,388名(非常勤を含む)

 

●事業内容
業種:福祉(介護)

 

●背景・取組内容
・居宅介護サービス事業は生産性や賃金水準が低いため、ITを活用した業務管理システムを導入し、以下の点について改善を試みた

 

1)働ける時間や派遣場所への移動時間等を考慮し、システムが自動で派遣場所を割り振り、直行直帰の訪問介護員に連絡したり、ユーザーの要望や要介護の状態に最適な人材を迅速かつ臨機応変に手配したりできるようにする

 

2)モバイル端末で訪問介護記録の入力を可能にし、介護記録をリアルタイムで情報を共有する。また、ペーパーレス化を徹底し事務的作業の効率化を図る

 

3)介護記録入力に関し、a:報告実績に応じた教育・指示等を行うことで記載情報量を増加、b:責任者がこまめに指示を出すことで情報の質を向上、c:報告判断基準表の作成を通じてケアマネージャーに優先して報告すべき事項を明確化して質の高い情報の共有を実現する

 

●取組効果
・システム導入によって人材配置の自動化やリアルタイムでの情報共有、入力情報の質の向上等を実現し、3カ月労働生産性(全体売上/総労働時間)を15%改善(モデル事業所での調査結果)した

 

・次の訪問先までの移動時間や待ち時間が短縮されて効率的な業務遂行が可能となり、訪問介護員(非常勤)自身の収入アップに貢献している

 

●成功のポイント
・「システムの導入だけでなく、質の高い情報が集約するようソフト面の対応も実施した」
⇒単にシステムを導入するだけでは業務改善ができるとは限りません。業務の手順・内容を分解・分析して3Mの排除や省力化を実現できるようにシステム(ソフトを含む)を導入・利用することが重要です。

 

⇒もちろんそのためには業務の見直しや追加などを適宜行う必要があり、業務に関連する情報の整理や共有の仕組み作りなども行わねばなりません。

 

・生産性向上などの改善活動に対するインセティブも必要
改善活動に取り組むことで組織の業績が良くなり、結果として報酬がアップするような形で推進すれば、全従業員が一丸となった取り組みも期待できます。

 

②「再来店率を高めて売上増加」

●企業概要
企業名:株式会社オオクシ
所在地:千葉県千葉市
従業員数:208名

 

●事業内容
業種:生活関連サービス業(理美容業)

 

●背景・取組内容
・理美容院業界では店舗数や従業員数の増加で収益が圧迫されていたが、業態の性質上、商圏が狭く新規来店客の大幅増加は期待できない

 

・そのためリピート客を増やす必要があり、以下の取り組みを行った
1)POSレジの導入により来店客・対応者・提供したサービス内容、運動会やお祭りなど地域のイベント等をデータ化し、従業員が各顧客に提供したサービス等を把握する

 

2)同データを活用して、顧客のニーズを把握しサービス提供に係る課題等を抽出する

 

3)データ等を活用して、接客マニュアルを作成し、それに基づいた研修で顧客毎にきめ細やかなサービスを提供できるように店員のスキルを向上する

 

●取組効果
・顧客ニーズの把握と顧客毎のきめ細やかなサービスの提供を通じて、リピート率85%超を達成でき、年間売上高は15年連続2ケタアップを果たした

 

●成功のポイント
・漫画と映像(DVDとe-ラーニング)で作成した接客マニュアルを活用した研修を実施

 

・各従業員が自分で成長記録ノートを作成しその成長を「見える化」したため、理美容師のモチベーションが上がり定着率が改善、顧客サービスも向上した
⇒マニュアルを作って訓練しても直ぐに身につけて実行してくれる従業員は多いとは言えません。同社の成長記録ノートのような従業員の自己実現意欲を高める仕組みを作るとマニュアルに沿った行動(或はそれ以上)が期待できるようになります。

 

⇒理美容院などのサービス業の場合、顧客とサービスを提供する従業員との質の高い関係性がリピート率を高めます。その関係性の向上には顧客に関する様々の情報をベースとしてサービスはもちろんのほか会話を含む接客方法の内容も検討されるべきです。

 

そのため顧客に関連する情報をデータベース化する必要がありますが、POSレジのデータの活用も重要になります。

 

⇒データに基づいてサービスのあり方を考案しそれを従業員が実施できるようにするためには訓練が必要です。同社のようにマニュアルを作りスキルアップを図れる機会を作っていくことが求められます。

 

企業(店側)のお客に対する取り組み(仕掛け)も重要です。たとえば、POSデータに基づいて優良顧客を囲い込むためのプロモーション政策の実行などが挙げられます。具体的には、顧客のランク付け等に応じた優待・割引・イベント等への招待・プレゼントなどのインセンティブの提供です。

 

 

4-3 人材の確保に貢献する事例

①「システム整備で効率化し、担い手不足に対応」

●企業概要
企業名:有限会社エフ・エフ・ヒライデ
所在地:栃木県宇都宮市
従業員数:17名

 

●事業内容
業種:農業(生花の生産・販売等)

 

●背景・取組内容
・農業生産者が減少する中、農業の生産性向上を図ることで農業生産従事者の人手不足を補う必要があった

 

・農業の生産性向上のために、生花栽培の温室の温度・湿度・日射を測定し、必要に応じて遮光や保温等を自動的に行う、温室の状況をスマホへリアルタイムで通知できるシステムを導入した

 

●取組効果
・システム導入により生産が効率化し、一般の農家の1/3の人員で業務遂行が可能となった
⇒システムの活用で生産効率が上がり、一般的な生産者の3分の1の人手で業務ができています。

 

・生育データの蓄積により球根植え付け時に出荷日の把握が可能となり、その結果大量発注に対応できるようになった
⇒成行や経験・勘に頼る業務運営からデータに基づく合理的(科学的)な運営で生産性を高めることができます。

 

・システム導入による業務の効率化で生産業務での余剰時間を販促活動に活用することもでき、売上げが3.7倍に増加した
⇒人手不足への対応のほか余剰時間の創出で他の業務に人員を割くことも可能になっています。

 

●成功のポイント
・ITを生産性の向上に活用した
ICTを生産に組み込みその管理に利用することで生産をより効率的することが可能です。今後は生産現場でIoT(モノのインターネット)の導入が進みさらなる生産性の向上が期待されます。

 

・その活用のために、異業種も含む多様な人と接点を持ち経営に関する力をつける、海外などで生産技術を勉強するなど、「井の中の蛙」にならない経営に努めている
⇒単にICTを導入したからと言って生産性の向上が実現できるとは限りません。その成功には各生産現場にあった適切なICTの導入が必要であり、そのためには導入に関連する知識・情報・人脈なども求められます。

 

 

5 起業時・会社設立時からの生産性向上の進め方

起業時・会社設立時からの生産性向上の進め方

 

一般的に企業における生産性向上の取り組みは、事業が開始されてから何らかの問題が生じた時に実施されるケースが多いですが、ここでは開業時からの取り組み方を説明しましょう。

 

 

5-1 起業時からの生産性向上の手順

ここでは起業時での生産性を高めるための基本的な進め方を紹介します。

 

起業時からの生産性向上の手順

 

①最初から生産性の高い業務遂行を目指す

起業時から事業をスムーズにスタートさせ早く成長軌道に乗るために生産性の高い業務を目指すことを全従業員に示しておくべきです。

 

「生産性の低い業務を行っていては起業の成功はない!」という意識を全従業員がもち生産性の高い業務を目指しましょう。効率的な業務遂行はその意識から始まるということを忘れずに、些細な作業の動きやモノの移動などからムダを取り除くという意識をもって取り組むことが重要です。

 

②生産性についての目標を設定する

事業を開始する前に、どういう業務遂行をすれば生き残れる、成長できるかを考え、そのための生産性の目標を設定する必要があります。たとえば、業界で勝ち残るにはどの程度の収益性が必要かを検討し、生産性の目標にするのです。

 

目標値は同業種・同業態、類似或いは競合する業界などのデータを根拠として設定するとよいでしょう。

 

具体的には事業や店舗の売上高利益率(粗利益や営業利益等で)、売上高原価率、売上高販管費比率、売上高人件費比率などを競合先や業界平均よりも良い数値で検討します。

 

たとえば、業界平均の売上高営業利益率が10%なら自社は15%を目標にする、ライバル店の売上高人件費比率が11%なら自社は9%を目標にするといった設定です。

 

また、商品を在庫して販売する業種・業態では商品在庫の効率性も重要となるため、棚卸資産回転率なども設定します。その業界平均値が8回なら自社は10回などの数値を検討するのです。

 

③生産性を高める業務対象と改善活動の方向性を検討する

上記の生産性の目標を達成するために、キーとなる業務を選定し改善活動の方向性を決めなければなりません。起業時においてすべての業務の生産性を高めることは困難であるため、重点的に取り組む対象を選んで進めることは重要です。

 

対象業務の選定については、事業のバリューチェーン(価値連鎖)を明らかにして競争優位をもたらすコア業務や指標に関連する業務などを検討するとよいでしょう。或いは競争上弱点となるような業務を候補にするのも有効です。

 

たとえば、製造業でコストが競争の優劣を分ける場合、生産コストや販売コストに関連する業務などが主な対象になることが予想されます。また、納期が競争優位に大きく影響する場合、受注から生産・出荷までのリードタイムの短縮に関連した業務が対象となるでしょう。

 

もちろん業務プロセスが比較的少ない業種・業態の場合、全業務プロセスを対象にすることも可能です。このように生産性の目標に基づいて対象業務が決まってくれば、具体的に何をすればよいかという改善活動の方向性も見えてきます。

 

④各業務レベルの生産性の目標と活動内容の決定

改善対象の業務を設定したら②で検討した目標値を業務レベル(現場の担当者レベル等)で実現していくための目標値を決め、それを実現するための活動を検討します。

 

たとえば、売上高人件費比率10%を前提とした場合、予定の売上高や給与等(残業等含む)から予定従業員数(目標値の設定)を割り出し、その人数で業務を遂行できる方法を検討するわけです(活動内容の検討)。

 

仮に売上高人件費比率10%、目標売上高は30000万円、従業員1人当たり予定人件費が300万円の場合、人件費総額は3000万円になります。この条件から予定従業員数は{300万円÷3000万円=}10人です。

 

従って、目標値の達成のために10人で業務が遂行できるように各作業を検討していくという流れになり、その活動内容を決定していきます。

 

また、有形固定資産回転率を目標値として利用する場合、その設定は設備機械の導入内容の目安(購入予算)や業務内の決定に利用できます。有形固定資産回転率の業界平均値が5回なら自社は6回と定め、それ目標とした資産の導入と業務内容を検討するのです。

 

売上高が20000万円で有形固定資産回転率を6回とするなら資産は3333万円程度の価値のものが目安になります。そして、その資産を使って売上高20000万円を実現していくための具体的な使用方法(資産の稼働の仕方や作業の方法等)や販売方法(生産量に対応した販売体制の構築やプロモーション政策の実行等)を検討していくのです。

 

 

5-2 現場レベルでの生産性向上への取組内容

各業務の現場レベルでの生産性の目標を達成するための基本的な取組内容(生産性を高めるための方法)について説明しましょう。

 

①業務レベルでの改善活動の内容

以下のような内容で改善活動の内容を検討していきます。

 

業務レベルでの改善活動の内容

 

1)対象業務を分解し改善作業の対象を「見える化」する
⇒たとえば、靴の販売店なら商品の仕入、店舗での販売や経理・総務などの業務が存在しますが、売上高・コスト、顧客ニーズや競争など「産出量」に大きく関わる業務を中心に改善の対象となる作業の内容を見える化(第3者が見てもわかるようにどんな作業があるか明確化する)していきます。

 

店舗での販売業務なら店舗レイアウト(商品陳列・展示、動線の設定等)、POPの作成、接客(アプローチから接客後のフォロー含む)、商品補充、呼び込み、店舗内清掃といった業務に分解し、各作業の内容(やるべきこと)を明確します。

 

2)改善活動の対象とする作業を特定する
⇒生産性を高める方法の1つは産出量を増大することであるため、売上を多くする、客足を増やす、リピートを伸ばす、顧客満足を高める、自店を選んでもらえるといった要素に関連する作業を改善活動の対象として特定しなければなりません。

 

たとえば、店舗内へと誘導する店頭の商品陳列・展示、顧客のニーズを引き出し最適な商品を推奨できる提案(接客)、顧客の心をつかむPOPの内容、リピートに繋がる店のイベントへの招待やポイント付与などの業務・作業が候補に挙げられるでしょう。

 

⇒インプット(投入量)を少なくすることで生産性を高めることも可能であるため、人員の削減、労働時間の短縮などに繋がるような方法も検討するべきです。具体的には店舗内の接客、商品陳列の乱れの直し、バックヤード内の商品整理、店頭在庫の補充、各時間帯の来店者数に応じた人員配置、などが候補として考えられます。

 

3)効率的な作業への変更
⇒ムダな作業を洗い出して排除するとともに生産性を高める新たな作業方法を考案し導入していきます。各プロセスについて具体的にいつ、何を、誰が、どのように実施するかを明確にすることが不可欠です。

 

なお、新たな作業方法の導入にあたっては、業務の自動化、機械・ジグ等の採用、ICTの活用などを検討することは有効ですが、コストの増大になり過ぎないようにする必要があります。

 

4)新たな作業内容や方法をマニュアル化し訓練する
⇒新たに定めた作業方法は作業標準化してマニュアルとして運用するべきです。また、マニュアル通りの作業が実際にできるようにするため、従業員に訓練の機会を提供しなければなりません。

 

5)生産性向上へのモチベーションアップを図る
⇒生産性向上は従業員の協力なくして実現できないため、彼らが協力してくれるようにモチベーションを高める仕組みを作ることが重要です。

 

たとえば、生産性向上へ積極的に取り組む、新作業をいち早く習得しスキルアップする、マニュアルに沿った作業を実践し成果を出す、などの場合に人事考課で評価したり、表彰したりしてその労に報いるようにします。

 

②小売業・サービス業・飲食業等で実施される改善活動の内容

これらの業種等における業務の生産性向上に向けた取組内容を紹介しましょう。

 

1)人員、労働時間、原材料、設備機械稼働時間などの削減による生産性向上

 

人員、労働時間、原材料、設備機械稼働時間などの削減による生産性向上

 

●作業現場の5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)の徹底
⇒作業に必要なものを取り出すのに時間がかかる、直ぐに使わないモノが作業スペースを占有し作業の妨げになっているなどの場合ムダな作業時間や労力を生じさせるため、作業場の5Sが実施されるようにルール化します。

 

5Sのうち「整理」は、必要なもの・不要なものにわけて不要なものは捨てることです。「整頓」は必要なものを直ぐに出せるようにすること、「躾」は決めたルールなどを守る、といった意味で考えるとよいでしょう。

 

●作業場のレイアウトや動線の改善
⇒作業スペースや通路が狭い・複雑で人やモノが移動しにくい、作業場のレイアウトが悪く人やモノの移動距離が長い・時間がかかる、などの場合ムダな作業時間や労力を生じさせるため、作業場のレイアウトや動線の改善が必要です。

 

動きやすい、モノが直ぐにとれる、最短で移動できる、体の負担が少ない、などの作業者目線と、歩行者間隔が十分ある、混雑しにくい、商品が見やすい・取りやすい、などのお客目線での改善が求められます。

 

●効率的な人員の割り振りや配置
⇒成行で人員が各業務に割り振られると、作業部署や時間帯により作業者の不足や作業待ちが生じてムダな作業時間や労力が生じます。そのため人員を時間帯ごとの業務量に応じて計画的に必要人員を割り振ることが重要です。

 

●作業標準の設定と訓練
⇒作業者により作業方法が異なり提供する商品・サービスの品質がばらつく、作業者が間違った作業方法を行いミスが多発する、などが見られる場合ムダな労力と品質上の問題が発生します。

 

そのため正しい作業の内容や手順をマニュアル化し、それを実践するための訓練も実施しなければなりません。

 

●多能工化
⇒業務間・作業工程間で業務量の差が大きく人員の過不足が生じる、業務間で遊び・待ちが生じるなどが見られる場合、ムダな作業時間や労力を生じさせるため、従業員を多能工化し業務量の差を解消する必要があります。

 

多能工とは、たとえば飲食業で調理業務が忙しい時にホールスタッフが調理業務を一時的に担当するといった、従業員が複数の業務・作業ができるようにすることです。

 

●ペーパーレス化や情報化によるムダな業務の排除
⇒作業に関する手続が書面のため作業にかかるまでの時間が長い、作業部署間の連絡が悪く確認等で時間がかかる、手作業による手続でミスが多く確認や修正でムダな時間を浪費するなどが見られる場合ペーパーレス化や情報化等でムダな手続・作業を排除するようにしましょう。

 

たとえば、作業の開始・終了の指示は紙伝票ではなく、現場の端末で確認できるようにし、その指示に対する現場担当者の応答も端末で行えるようにするといった方法が挙げられます。バーコード入力などの方法を取り入れると操作は容易になるでしょう。

 

2)販売数・顧客数・リピート率等(産出量)のアップによる生産性向上

 

販売数・顧客数・リピート率等(産出量)のアップによる生産性向上

 

●販売力・接客力の向上
⇒担当者による売上高や販売数に大きな差が生じる、顧客からの評価が悪く従業員が顧客ニーズに沿った提案ができていない、企業や店側に顧客を集客する魅力がない、などの場合販売数・顧客数・リピート率等を向上させる手立てが必要です。

 

具体的には、マニュアル化した販売・接客方法の徹底、販売や接客が優秀な従業員の方法に基づく訓練(ロールプレイング練習)、顧客との関係性の向上に繋がる方法の構築(売場での会話、SNS等でのコミュニケーションの仕方などの改善)などが実施候補に挙げられるでしょう。

 

●優良顧客の囲い込み
⇒来店客はあるが売上が伸びない、来店客の多くは一元客である、接客は出来ているが購買に結びつかない、などが見られる場合、優良顧客を設定して囲い込む方策が必要です。

 

業種にもよりますが、全体の約2割の顧客で売上高の約8割を占めるケースが多く見られます。この場合の2割の顧客がその企業(店)の優良顧客になるのです。一般的に優良顧客の検討にはRFM分析が利用されます。

 

RFM分析は、最後に購入した日(recency)、購入頻度(frequency)、購入金額(monetary)の3点で顧客を分け、各指標の値を利用してランク付けする方法です。

 

こうした分析によって抽出した優良顧客に対してより効果的な接客方法やプロモーション政策を展開することが求められます。

 

●強みとなっている自社や自社商品・サービスの提供
⇒自社や商品・サービスのどのような点を顧客にアピールすればよいかわからない、他社との違いを踏まえたPRや接客が上手くできない、顧客のニーズを捉えた販売・接客ができていないなどの場合、自社の商品・サービスの魅力と顧客ニーズを踏まえた販売・接客は困難になるでしょう。

 

より多くの商品・サービスを購買してくれる、何度も店に足を運んでくれるようにするためには、他社よりも自社が優れている点(品質・価格・納期など)をアピールする、会話の内容、顧客の反応・顔色などからニーズを探る、ニーズと利用場面等に合わせた提案を行うといった応対が必要です。

 

顧客に自分の希望に合致している上に他社で買うよりお得である・メリットがあると感じさせる販売・接客の方法を各顧客に合わせて検討しましょう。

 

●自社・自店に顧客を呼び込む仕掛け
⇒新規顧客の数が伸びない、一元客の数が少ない、顧客を紹介してもらえるケースが少ないなどの場合売上が伸び悩むため新規顧客の開拓にも注力する必要があります。

 

収益を伸ばしていくには新規顧客の数を増やし、彼らを優良顧客へ誘導する仕掛けが不可欠です。そのため、まず新規顧客の増大に繋がる対策として、チラシ等の広告、店頭での商品展示・POP・呼び込み、キャンペーンの実施、ホームページ上のPR、SNS使った商品・イベント等の告知、優良顧客への紹介依頼などを行い自社へ訪れるように仕向ける方策が求められます。

 

ほかにもアクセスをよくするための駐車スペースの確保、来店に対するプレゼントやポイント付与、無料相談会の開催、無料の試用品の提供なども有効でしょう。

 

 

6 改善活動を成功に導くための注意点

改善活動を成功に導くための注意点

 

生産性向上を実現するために特に注意しておきたい点を最後に確認しておきましょう。

 

改善活動を成功に導くための注意点

 

 

6-1 生産性向上の取り組みは従業員に任せにしない

生産性向上の取り組みを従業員に課す場合、経営者もその活動に積極的に関与し従業員に任せっぱなしにしないことが重要です。

 

従業員に特定の業務の生産性を上げるための活動を指示してもそれだけで改善活動がスムーズ進むと期待するのは困難です。何のために、どのように改善活動を行うのかを指示されても本来の業務があるため、活動は進まず停滞することも珍しくありません。

 

端的に言うと、忙しい業務がある中で何の役に立つのかもわからない面倒ごとを押し付けられるようなイメージを従業員が持ってしまい活動が進まないケースが多いのです。

 

こうした状況を回避するためには、経営者は改善の意義と進め方などを丁寧に従業員へ説明するとともに自らもその活動に加わることが望まれます。経営者が活動の重要性を示して一定の関与を行い、活動自体をリードすることも時には必要です。

 

 

6-2 改善活動の負担を大きくしない

生産性向上の取り組みは従業員に大きな負担になるケースが多いため、経営者や活動のリーダーには彼らの負担が過大にならないマネジメントが求められます。

 

業務の改善活動を進める場合、定時以降や休日などの時間を使うケースも少なくないですが、そうした時間が多くなると従業員の負担が重くなり本来の業務に支障が出ないとも限りません。また、過重労働となった従業員から離職者が出る恐れも生じます。

 

生産性向上の取り組みであるのに、逆に業務効率が下がったり従業員が辞めたりしては意味がない上、経営上の大きな損失になり本末転倒です。こうした状況を避けるには、改善活動をできるだけ短時間で効率的に行う、残業や休日出勤を極力少なくする、複数の改善項目を同時並行的に進めないといった対応を重視するべきでしょう。

 

 

6-3 コアコンピタンスと顧客ニーズの視点を外さない

生産性向上の取り組みは自社の競争優位の源泉となるコアコンピタンス(中核能力)や顧客ニーズに直接的に関連する業務を主な対象として進めることが重要です。

 

せっかく取り組んで効率化を実現してもライバルとの競争に貢献しなかったり、顧客満足に繋がったりしない改善活動では結果的に付加価値額の増大に貢献しないこともあります。

 

たとえば、単にコストを削減したり納期を少し短縮したりするといった生産性向上では顧客ニーズを満足させたり、ライバルとの競争に勝ったりできないこともあるのです。

 

どういった改善活動の結果が顧客の心をつかみ、競争を有利にさせるのかという点を考え改善の優先順位をつけて取り組むようにしましょう。

 

 

6-4 改善活動が従業員にメリットをもたらすようにする

改善活動は従業員にとって負担になるため、その活動が従業員にとっても有益であることを認識させる必要があります。そして、そのための仕組みを作り運営することが不可欠です。

 

生産性向上によって顧客が増え、ライバルに勝ち会社の業績が伸びる可能性が生じます。会社としてはこの業績の向上がメリットとなりますが、その恩恵を従業員と分かち合う仕組みを作ることで彼らの積極的な協力を得ることが可能となるのです。

 

改善活動テーマの提案、改善行動の積極的な実践、改善方法の実践による優秀な成果などに対して各職場や従業員を評価したり表彰したりするといったインセンティブを用意することがその仕組みの骨格になるでしょう。

 

改善活動を多少の負担を負いながらも実施して結果を残せば、会社も従業員も幸せになれるというイメージを持てるようにしていくことが成功に繋がります。

 

 

7 まとめ

企業における生産性向上の取り組みは長年に渡って継続されるべき行為ですが、起業時・会社設立時からその意識をもって少しずつでも実行していくのが望ましいです。

 

起業時では事業を開始することに目が向いて活動に無駄が生じやすくなりますが、業務の方法を成行で進めて行くとそのやり方が習慣となって非効率な業務遂行が浸透してしまいます。

 

起業時は特に経営資源の余裕もないことからより生産性の高い業務運営が求められるため、最初から効率的な業務ができるように取り組んでみてください。


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