起業し会社を設立するとき、複数の仲間が集い、他の人材に頼らずビジネスを進める場合もあれば、事業規模によっては従業員を雇用しなければならないケースも考えられます。いま国内は、労働力不足が深刻化し、新卒採用が空前の売り手市場となっていることもあり、中途採用・キャリア採用が活発化して、転職市場における人材争奪戦も激しさを増しています。この記事では、採用環境が厳しさを増す中、実績のない新設企業はどのような採用活動をするべきかについて、既存企業の採用実態を踏まえつつ、そのポイントを解説します。
1 求人募集のポイント
会社設立にあたり、従業員の採用が必要となった場合、まずは採用計画の策定が必要となります。以下、この採用計画策定並びに法令上の規制事項等を踏まえた求人募集における注意事項とポイントをまとめます。
1-1 採用戦略とコストの調整
社員を採用すれば、将来へ向けて人件費が発生することになりますが、募集・採用活動にあたっても費用がかかりますので、経営計画策定の段階で充分な検討が必要です。採用戦略を考える上で注意すべきは、近年の若い世代の離職率の高さです。離職の要因を把握し、採用までのプロセスと入社後の育成プログラムを入念に検討することで、入社後の定着率を向上させることも可能です。
人材獲得競争が激しい中、募集段階からの仕掛けが採用を成功させる重要なポイントとなりますが、採用後は、「人件費」という経営上最も高いコストを抱えることになります。人件費は、計画的な「投資」ともいえますが、自社に利益をもたらしてくれる人材を採用することができるか否かに投資の成否がかかっていることを認識しなければなりません。
1-1-1 求める人材像の明確化
「雇用のミスマッチ」という言葉が頻繁に使われる今日、求める人材を明確にし、自社にとっての「優秀な人材」を定義することから始めなければなりません。有効求人倍率が高くなるに従い「優秀な人材」を確保することは困難となりますが、特に、企業としての実績のない新設会社にあっては、一般的な採用手法をとれば、自ずと「優秀な人材」よりも「入社してくれる人材」に軸足が移る可能性が高くなります。
したがって、自社にとっての「優秀な人材」の定義とともに、「次善の人材像」も明確にしておくことが肝要です。自社の目指す姿を前提に、従業員に求める資質等を拾い出してチェックリストを作成し、その全てを満たす「優秀な人材」と、これだけは譲れないという資質のいくつかを備えた「次善の人材像」を明確にし、採用後の教育・研修で補うという考え方です。
この視点に立ち、採用にかかる費用を把握するとともに、採用後の育成プログラムに要する費用を見積もることも忘れてはなりません。以下、採用に係る費用の項目と、自社が求める人材像を明確にするためのポイントを示します。
(表1)費用見積と人材像のポイント
採用に係る費用の見積 | 求める人材像 |
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1-1-2 自社の事業展開に必要な労働力の調達形態
求める人材像を定義し、必要人員数が決まると採用にかかる費用の見積もりとなりますが、求人段階で利用する機関やシステムによって費用が変わってきます。ハローワークのような公共機関は別として、人材紹介会社や派遣会社の紹介予定派遣を利用する場合は、採用費用が高額化します。
人材紹介会社の手数料は、求職者の年収の30~35%程度が一般的な成功報酬であると言われていますので、年収を400万円で想定すれば、120万円から140万円程度の費用を見積もる必要があります。人材紹介会社を利用する利点は、事前の細部にわたる打ち合わせによって、自社の求める人材を採用できる可能性が高くなるという点にあります。新設会社の場合は、必要とするキャリア人材に絞って人材紹介会社を利用することも有効です。
その上で、新卒採用、人材派遣受け入れ、外部への作業委託等を組み合わせ、事業計画に基づく採用コストの総額内で、人材の調達を検討することになります。
1-1-3 外国人雇用をどう捉えるか
国内の労働力人口の減少が顕著となり、ダイバーシティに対する注目度が高まっています。「女性の戦力化」、「多様な人材確保としての障害者雇用」、「外国人雇用」など、雇用のあり方に大きな変化が生まれてきています。中でも、外国人については、改正出入国管理及び難民認定法(以下、「改正入管法」。)が施行され、在留資格と在留期間に応じた雇用が可能となりました。
しかし、特定技能在留資格の外国人については、未だ特定技能の合格者が少ないこともあり、現在の採用状況は芳しくありません。技能検定合格者の増加と、彼らの賃金水準や雇用環境の整備が進めば、有力な戦力として計算できますが、現状では、新設会社での採用には困難が伴うと考えられます。
近い将来の採用戦略の要素として捉えれば、外国人材採用で必要となる「登録支援機関(外国人材の生活支援を担う機関)」との連携を視野に入れておくことも必要です。人材紹介会社、労務コンサルティング会社などの登録支援機関を把握し、これらの機関と良好な関係を築いておくことは、将来の採用活動にプラスとなります。
1-1-4 リファラル採用とは
「縁故採用」と言う意味で使われることがありますが、「リファラル採用」とは、本来は、「社員の人脈に採用情報を広め、質の高い採用を実現するケース」を指しており、「社員によるリファラル制度」として米国で発展した、社員にとってのインセンティブを伴う採用手法を言います。新設会社においては、社員の人脈に頼るという手法は採れませんが、取引先やカスタマー(顧客)による紹介もこの範疇に含まれることを考えれば、有効な採用手法の一つと言えます。
少し古いデータとなりますが、2012年の米国の採用経路の利用比率とリファラルのメリットについて見ると、以下のようになっています。
(表2)リクルートワークス研究所のレポート(Works Review Vol7 2012)より
採用経路 | 社員リファラルのメリット | ||
---|---|---|---|
項目 | 割合 | 項目 | 割合 |
リファラル | 28.0% | 会社の文化や価値観への高い適性 | 69.8% |
求人求職サイト | 20.1% | 採用プロセスの短縮 | 66.8% |
自社の採用サイト | 9.8% | 採用コストの削減 | 51.2% |
ダイレクトソーシング | 9.1% | マネジャーの満足度向上 | 40.3% |
大学 | 6.6% | 長い就業期間 | 39.1% |
再雇用 | 4.3% | より良い資格 | 35.7% |
ソーシャルメディア | 3.5% | 早期に高い生産性を発揮 | 27.9% |
サードパーティ(転職業者) | 2.8% | ||
紙面公告 | 2.2% | ||
紹介予定派遣・契約 | 2.3% | ||
キャリアフェア | 1.9% | ||
飛び込み | 0.8% | ||
その他 | 8.8% |
また、この資料によれば、社員リファラル制度の利点と欠点を次のようにまとめており、この内容から、採用制度の方向性についてのヒントを得ることができます。
(表3)利点と欠点の調査結果の概要(Works Review Vol7 2012より)
項目 | 理由 | |
---|---|---|
利点 | 1)マッチングの向上 | 社員は、自社の社風や仕事で高いパフォーマンスを発揮するために何が求められているのかを深く理解している。また、万が一適さない候補者を紹介し、自分の評判が損なわれるのを懸念して慎重に候補者を人選することが多いため、適性の高い人材を紹介する確率が高い。 |
2)ニッチなスキルを持つ人材の確保 | 社員は、過去の就業先や出身大学、ネットワークグループを通じて、ニッチな分野を専門とする人材を知っている傾向がある。 | |
3)定着率のアップ | 新規採用者は、社内に知り合いが存在すると、新しい職場に比較的早くなじむことができる。企業側も新規採用者と信頼関係を築きやすいことから、離職率が低くなる。 | |
4)人材の多様性の維持 | リファラルの促進によって人種、性別、宗教など社内の人的構成が偏るとの懸念があるが、調査によれば、社内の労働力の多様性が促進されたとの報告ある。 | |
5)採用コストの削減 | (表2)にあるとおり、調査の回答で51.2パーセントが採用コストの低減をメリットと答えている。 | |
欠点 | 1)紹介者が退職した場合の生産性の低下 | 紹介者が退職すると新規採用者のモチベーションや生産性が低下し、退職に至る可能性が高いとの指摘がある。 |
2)紹介ボーナスに対する罪悪感 | 紹介ボーナス(インセンティブ)を受け取ることを躊躇する社員が存在する。 |
一方、日本の企業におけるリファラル採用について、エン・ジャパン株式会社が調査結果を公表していますので、その調査結果の概要を以下に紹介します。
(表4)リファラル採用(社員紹介)意識調査の概要
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〔以上、エン・ジャパン株式会社2017年10月17日発表〕
調査のタイミングは異なるものの、日米ともにリファラル採用のメリットとしてあげる項目は共通しており、採用の成功割合も高いという傾向が見えます。会社の経営が軌道に乗り、毎年の採用にあたって「社員によるリファラル制度」を普及していくことも視野に入りますので、新設会社においては、社員以外のステークホルダーによる「確かな人材」の確保という手法は、十分検討に値するのではないでしょうか。
1-1-5 定着率向上対策
社員の採用にあたっては、若い世代の離職率の高さを意識する必要があります。
厚生労働省が2019年10月21日に公表した、2016年3月新規学卒者の在職3年以内離職率(2016年3月1日~2019年3月31日)は、大卒者で32.0%(前年31.8%)、高卒者で39.2%となり、依然として高い水準にあります。事業所規模別の大卒離職者で見ると、5人未満(57.7%)、5~29人(49.7%)、30~99人(39.3%)と全体平均を大きく上回っており、少人数の事業所ほど離職率が高くなっています。
前年度の同調査における分析では、離職後転職した人は、「仕事の内容がやりたい仕事と異なっていた」ことを離職理由に挙げることが多く、離職前と同じ業種・職種に転職した人は「キャリアアップ」を求めて離職した人が多いとしています。まずはミスマッチを減らすことが求められますが、採用後の育成計画にも工夫が必要です。
しかるべきコンサルタントに依頼し、採用から教育研修に至る一連の人材育成計画を明確にするとともに、計画通り実践することも有力な対処法です。また、ミスマッチ防止の観点では、実績のある企業においてはインターンシップ制度が普及していますが、新設会社の場合は、新卒者向けのこの制度は活用できないため、主に中途採用及びキャリア採用を目的とした「紹介予定派遣」を利用することも検討の余地があります。紹介予定派遣の場合、基本的には派遣契約に基づいて実際に仕事に就くため、個人の能力や適性を見極めやすいというメリットがあるためです。
1-2 法令対応等の注意点
社員の募集・採用にあたっては、各種法令上の制限に留意する必要があります。法令違反や採用時のトラブルを未然に防止する観点から重要な事項をまとめました
1-2-1 雇用対策法による年齢制限の禁止(雇用対策法第10条)
2007年10月1日の改正雇用対策法施行で年齢制限は禁止(以前は努力義務)となりました。ただし、雇用対策法施行規則第1条の3第1項に該当する6項目が適用除外とされています。適用除外項目は以下のとおりです
(表5)《例外6項目》・・・雇用対策法施行規則第1条の3第1項
条項 | 条文 | 求人票記載文言の良・否とポイント |
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1号 | 事業主が、その雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをしている場合において当該定年の年齢を下回ることを条件として労働者の募集及び採用を行うとき(期間の定めのない労働契約を締結することを目的とする場合に限る。)。 | 〔〇〕:60歳未満の方を募集 (定年年齢が60歳の為) 〔×〕:60歳未満の方を募集(契約期間〇箇月) 契約期間を表示すると有期労働となり、第1号に反する為。 |
2号 | 事業主が、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)その他の法令の規定により特定の年齢の範囲に属する労働者の就業等が禁止又は制限されている業務について当該年齢の範囲に属する労働者以外の労働者の募集及び採用を行うとき。 | 〔〇〕:警備員として18歳以上の方を募集 警備業法の規定により18歳未満の就労が禁止されている為。 〔×〕:警備員として18歳上〇歳未満を募集 法令上上限年齢を設ける理由がないため。 |
3号のイ | 長期間の継続勤務による職務に必要な能力の開発及び向上を図ることを目的として、青少年その他特定の年齢を下回る労働者の募集及び採用を行うとき(1.期間の定めのない労働契約を締結することを目的とする場合に限り、かつ、2.当該労働者が職業に従事した経験があることを求人の条件としない場合であって学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校 -中略- 3.職業能力開発総合大学校を新たに卒業しようとする者として又は当該者と同等の処遇で募集及び採用を行うときに限る。)。 |
※いわゆるキャリア形成を目的として、新規学卒者等の若年層を期間の定めのない労働契約で募集・採用する場合は、上限年齢を定めることが認められます。 《要件》 1)期間の定めのない労働契約であること 2)職業経験の有無を条件としないこと 3)新規学卒者以外の者について、それと同等の処遇とすること 〔〇〕:40歳未満の方を募集(経験不問) 〔×〕:40歳未満の方を募集(契約期間6カ月) 有期契約となり1)の要件を満たさない為。 |
3号のロ | 当該事業主が雇用する特定の年齢の範囲に属する特定の職種の労働者(以下この項において「特定労働者」という。)の数が相当程度少ないものとして厚生労働大臣が定める条件に適合する場合において、当該職種の業務の遂行に必要な技能及びこれに関する知識の継承を図ることを目的として、特定労働者の募集及び採用を行うとき(期間の定めのない労働契約を締結することを目的とする場合に限る。)。 | ※技能継承の面で、特定職種の特定年齢層の労働者数が相当程度少ない場合、この特定年齢層に限定して募集・採用することができる。この場合においても、「期間の定めのない労働契約」として募集・採用しなければならない。 《要件》 1)特定の職種例 ・技術者(システムエンジニア)など 2)特定年齢層 30歳~49歳のうち5歳~10歳の幅で設定すること。 3)相当程度少ない 企業単位で判断します。 •求人票記載例は省略 – ・年齢幅の記載例:30歳~39歳は〔〇〕 30歳~45歳は〔×〕 (最大年齢幅は10歳までの為) |
3号のハ | 芸術又は芸能の分野における表現の真実性等を確保するために特定の年齢の範囲に属する労働者の募集及び採用を行うとき。 | 〔〇〕:演劇の子役のため〇歳以下の方を募集。 〔×〕:イベントコンパニオンとして30歳以下の方を募集 単に特定の年齢層を対象とした商品・サービスの提供が目的で、芸術・芸能の分野に該当しない為。 |
3号のニ | 高年齢者の雇用の促進を目的として、特定の年齢以上の高年齢者(六十歳以上の者に限る。)である労働者の募集及び採用を行うとき、又は特定の年齢の範囲に属する労働者の雇用を促進するため、当該特定の年齢の範囲に属する労働者の募集及び採用を行うとき(当該特定の年齢の範囲に属する労働者の雇用の促進に係る国の施策を活用しようとする場合に限る。)。 | ※60歳以上の高年齢者に限定、又は、特定の年齢層の雇用促進を図る国の施策(助成金対象)を活用する場合は、年齢制限を可とするもの。 〔〇〕:60歳以上の方を募集 〔×〕:60歳以上70歳未満の方を募集 60歳以上の高年齢者募集では、上限年齢を設けることができない為。 |
1-2-2 男女雇用機会均等法による性別を理由とする差別の禁止(同法第5条、第7条)
男女雇用機会均等法は、労働者の募集及び採用に係る性別を理由とする差別を禁止(第5条)するとともに、業務上の必要性などの合理的理由がない場合に、募集・採用において労働者の身長・体重・体力を要件とすること、募集・採用・昇進、職種の変更をする際に、転居を伴う転勤に応じることを要件とすることは、「間接差別」として禁じています(第7条)。
(表6)男女雇用機会均等法による規制内容
条項 | 法律の規定事項 |
---|---|
5条 | 《性別を理由とする差別》
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7条 | 《間接差別》
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※男女雇用機会均等法による規制内容は、採用計画、会社説明会や情報提供の方法にまで及んでいますので、例外(法令違反とならない場合)を含め、詳細は厚労省のHPで確認しておく必要があります。
1-2-3 若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)への対応
新卒採用でのミスマッチ解消やブラック企業対策などを目的に、若者の適職の選択並びに職業能力の開発及び向上に関する措置等を総合的に講ずる「青少年の雇用の促進に関する法律(若者雇用促進法等)」が、2015年10月より順次施行されています。この法律の主な内容は次の通りです。
(表7)若者雇用促進法の等の内容
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1-2-4 職業安定法による労働条件等の明示(職業安定法改正法2018年1月1日施行)
労働者の募集や求人申し込みにあたっては、職業安定法第5条の3において、少なくとも以下の事項を書面の交付によって明示しなければならない旨規定されており、求職者が希望する場合には、電子メールによることも可能となっています。
(表8)職業安定法第5条の3「最低限明示しなければならない労働条件等」
記載が必要な項目 | 記載例 |
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業務内容 | 一般事務 |
契約期間 | 期間の定めなし |
試用期間 | 試用期間あり(3カ月) |
就業場所 | 本店(○○県○○市〇-〇)または ××支店(住所) |
就業時間 | 9時00分~18時00分 |
休憩時間 | 12時00分~13時00分 |
休日 | 土・日曜日、祝日 |
時間外労働 | あり(月平均20時間) ※裁量労働制を採用している場合は、次のような記載が必要です。(例)企画業務型裁量労働制により、〇時間働いたものとみなされます。 |
賃金 | 月給 20万円(ただし、試用期間中は19万円) ※時間外労働の有無にかかわらず、一定額の手当てを支給する制度(固定残業代)を採用する場合は、次のような記載が必要です。
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加入保険 | 雇用保険、労災保険、厚生年金、健康保険 |
募集者氏名又は名称 | 〇〇株式会社 |
※派遣労働者として雇用する場合 | 雇用形態:派遣労働者 |
なお、この労働条件の明示にあたっては、次のとおり遵守すべき事項(指針)が示されています。
(表9)職業安定法に基づく指針等の主な内容(遵守事項)
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2 求人票の作り方
近年は、仕事に「やりがい」や「自身のキャリアアップにおける有用性」なども求めるようになっており、目先の給料の高さは、応募する際の動機のウエイトとしては相対的に低くなりつつあります。応募者が求人票で真っ先に見るのは、「仕事の内容・職種」です。自分にできそうか、自分のやりたい仕事かという、いわば「あたり」をつけるような判断基準です。次に、就業時間、休日、残業時間等を確認して、職場の環境を思い描きます。
「給料」で注意しなければならないのは、「裁量労働制度」や「固定残業制度」を採用していると高めに設定されていますので、「残業の多い企業」として敬遠される可能性があるということです。「ブラック」との印象を与えるような求人とならないよう細心の注意が必要です。応募者にとって魅力的に映るのは、「安定していること」、「福利厚生制度が充実していること」、「キャリアパスが明確なこと」といった点です。
2-1 求人票の作成要領
法令上の注意事項とともに、以上の点に留意して、ハローワークや大学に提出する求人票や自社サイトの求人募集ページに掲載する内容は、下記の要領で作成することが望ましいと言えます。ハローワークの求人票様式を参照しながら確認して下さい。
(表10)求人票作成要領(ハローワーク提出様式の中で注意すべき事項)
注意すべき記載事項 | 記載要領と注意事項 |
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仕事の内容欄 |
・給与台帳の整備・管理、勤怠管理、社会保険関係書類の整備並びに提出、労務関係のデータ入力、消耗備品類の管理、来客対応 ・パソコンは、エクセルとワードを中心に使用しますので、両方の基礎的スキルがあれば十分です。勘定系及び業務系のシステムも使用しますが、所定の研修プログラムを受講して、1カ月程度で使いこなせる程度です。 |
賃金形態等欄 |
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求人条件にかかる特記事項欄 | 様式の各欄に記載しきれなかった事項や注意事項等、採用にあたって参考になる情報等を記載する欄です。例えば次のような事項です。
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備考欄 | 〔例示〕
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その他(その他の記載欄で注意すべき事項) |
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2-2 採用選考時に注意すべき事項
求人への応募があり、採用選考を行う際にも注意すべき事項がいくつもあります。基本的に、応募者には職業選択の自由が認められていることに留意しなければなりません。一方で、企業側には、「採用の自由」が認められていますが、基本的人権を侵害することは認められないということが最大の注意事項となります。
具体的には、次のような行動は、就職差別につながるおそれがあるとして、厚生労働省のリーフレットに明示されていますので、注意が必要です。
(表11)就職差別の懸念がある行為
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また、ハローワークが把握している就職差別につながるおそれのある事象の中で、約半数が家族に関する情報収集となっており、SNSなどで、これが就職差別であると拡散されるような事態となれば、その後の採用活動に悪い影響を及ぼすことはもとより、その企業に対する信頼そのものが失墜することにつながりますので、最新の注意が必要です。
このほか、障害者雇用にあたっては、格別の注意が必要となります。障害者の雇用にあたっては、「障害者雇用率制度」への対応とともに、次のような点に注意が必要です。
(表12)求人の募集・採用時の障害者雇用における注意事項
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以上の注意点を押さえ、採用選考時に配慮すべき事項を整理すると以下の通りとなります。
(表13)採用選考時に注意すべき事項
注意事項 | 主な項目 |
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本人に責任のない事項の把握 |
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本来自由であるべき思想や信条等の把握 |
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採用選考の方法 |
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募集時に提出させてはならない書類 |
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2-3 応募者の個人情報の取扱い
職業安定法第5条の4では、「労働者の募集を行う者等は、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない」と規定しています。
具体的には、(表13)で整理した事項に抵触する情報を収集した場合は、厚生労働大臣の指導・助言対象とされ、場合によっては改善命令の対象となります。さらに、改善命令に違反するようなことになれば、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられることもあります(職業安定法第48条の3及び第65条7号)。
(表10)の「その他」欄にも記載した通り、選考試験で不採用となった場合の履歴書の取扱いについても、予め明確な処理方法を定めておかなければなりません。返却せずに、企業側でシュレッダー処理するとの求人票等への記載もありますが、近年は、当人からの返却依頼が増加傾向にあり、「返却」が主流となっています。どのような方法をとったとしても、「求職者等の個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない(職業安定法第5条の4)」との規定に則ったものとしなければなりません。
仮に、企業側の管理が不十分で、応募者の個人情報が流出・漏えいし、不正使用等の実害が生じるようなことがあれば、罰則のみならず、企業に対する信頼とイメージの低下を招くことになりますので細心の注意を以て管理しなければなりません。また、労働保険や社会保険手続き並びに源泉徴収票作成のためマイナンバーの提供を求めることになりますが、あくまでも、入社が確実になった時点で提供を依頼するという点に注意が必要です。
3 応募が来ないときはどうする?
中小企業庁がまとめた「中小企業・小規模事業者の人材確保・定着に関する調査(中小企業庁委託により㈱野村総合研究所が実施2014年12月)」の内容から、起業時求人募集の応募者が来ない場合の対処法につき、そのヒントを整理します。
(表14-1)「中小企業・小規模事業者の人材確保・定着に関する調査(2014年12月)」
※人材確保ができている企業とできていない企業の特徴(単位:%pt)
人材採用に関する特徴項目 | 人材確保できている企業 | 確保できていない企業 |
---|---|---|
人材獲得のためのノウハウ・手段 | ▲15.8 | ▲35.1 |
労働条件(労働時間、職場環境、休暇制度等) | 24.0 | 8.3 |
賃金(基本給・ボーナス) | 4.0 | ▲11.4 |
福利厚生(住宅手当、子育て、介護支援等) | 2.5 | ▲9.8 |
自社の知名度 | ▲0.9 | ▲11.0 |
教育制度(計画的なOJT、研修制度)の充実 | ▲4.4 | ▲14.1 |
必要とする人材像の明確化 | 6.6 | ▲2.5 |
人事制度(人事制度の明確化、雇用の安定) | 9.1 | 2.2 |
仕事のやりがい | 42.0 | 36.3 |
職場環境への配慮 | 33.4 | 31.9 |
数値の見方:各項目は、「強み」と回答した企業の割合(%)から「弱み」と回答した企業の割(%)を引くことで算出した数値(▲数値は、弱みと回答した企業が多い)。
(表14-2)「中小企業・小規模事業者の人材確保・定着に関する調査(2014年12月)」
※人材の確保手段ごとの課題(単位:%)
人材確保手段 | コスト高 | 人材が少ない | 人材の質が低い | 内定辞退が多い | 定着率が悪い | 使いづらい | その他 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
ハローワークへの求人 | 1.0 | 27.7 | 33.9 | 5.7 | 19.9 | 5.8 | 5.9 |
知人・友人(親族含む)の紹介 | 3.5 | 40.1 | 9.6 | 1.0 | 7.3 | 20.7 | 17.8 |
就職情報誌、新聞雑誌等の求人広告 | 33.4 | 21.5 | 18.7 | 3.5 | 13.7 | 2.5 | 6.7 |
教育機関の紹介(就職担当等 | 2.6 | 40.8 | 9.4 | 5.3 | 15.9 | 11.7 | 14.4 |
人材紹介会社の仲介 | 51.3 | 14.8 | 12.4 | 2.1 | 8.1 | 6.1 | 5.1 |
就職ポータルサイト(マイナビ等) | 46.1 | 12.1 | 10.2 | 9.5 | 10.0 | 4.6 | 7.6 |
自社のホームページでの告知 | 1.0 | 50.9 | 9.3 | 2.3 | 4.7 | 4.7 | 27.1 |
取引先・銀行の紹介 | 9.1 | 28.5 | 5.5 | 0.7 | 3.6 | 20.1 | 32.5 |
インターンシップの実施 | 3.4 | 27.1 | 8.1 | 4.2 | 6.4 | 14.8 | 36.0 |
中小企業支援機関の仲介 | 6.6 | 25.2 | 11.1 | 1.3 | 5.8 | 18.6 | 31.4 |
ジョブカフェ | 2.7 | 21.1 | 8.2 | 4.1 | 4.1 | 15.0 | 44.9 |
(表14-3)「中小企業・小規模事業者の人材確保・定着に関する調査(2014年12月)」
※就職時に就職先に関して明確に分かっていた事項(単位:%)
項目 | 大企業への就業者 | 中規模企業就業者 | 小規模企業就業者 |
---|---|---|---|
賃金 | 45.9 | 41.4 | 24.9 |
労働条件 | 39.0 | 36.8 | 22.9 |
福利厚生 | 25.5 | 20.9 | 13.9 |
仕事のやりがい | 16.8 | 16.3 | 14.1 |
会社の規模や知名度 | 23.4 | 15.0 | 11.9 |
社風 | 13.6 | 12.1 | 10.0 |
人事制度 | 14.5 | 11.2 | 9.7 |
教育制度 | 11.9 | 10.2 | 8.1 |
企業の成長力 | 13.2 | 9.7 | 9.1 |
職場環境への配慮 | 10.3 | 8.4 | 8.1 |
(表14-1)から、「人材が確保できている企業」と「人材が確保できていない企業」とでは、「人材獲得のためのノウハウ・手段」に大きな違いがあり、人材が確保できていない企業は、総じて、採用の基本的なノウハウが蓄積されておらず、採用活動自体に課題があることがわかります。定期的な採用の有無に左右される面もありますが、基本的な人材採用ノウハウを備えることが求められます。そして、この課題は、新設企業にもあてはまるものです。
また、(表14-2)では、人材確保の手段についての課題が整理されていますが、中小企業の採用方法の主力ともいえるハローワークに関しては、人材の数や質、定着率といった点で他の方法よりも課題としては大きくなっています。人材紹介会社の仲介や就職ポータルサイトに関しては、コストの高さが課題となっています。
その他、各求人方法には一長一短がありますが、人材確保が困難な今日にあっては、求める人材像を明確にしたうえで、これらの方法を効果的に併用することが必要になります。一方で、(表14-3)に示したように、応募者が、企業側の発信する採用情報をどの程度把握していたのかという観点では、小規模企業の情報が総じて少ないことが分かります。賃金、労働条件、福利厚生といった主要な情報が曖昧では、求人募集のセオリーから外れていると言わざるを得ません。
新設会社や中小規模の企業にとっては、主要な情報を明確に発信するとともに、会社の規模別でみて情報量が拮抗している分野(仕事のやりがい、社風、教育制度など)の情報を、積極的に発信することが企業としての魅力を伝える大きなポイントとなります。ただし、そのためには、実態が伴わなければなりません。発信した情報と実態が乖離しており、それが離職理由となれば、企業としての信用は低下し、「口コミ(ネット上を含め)」で、瞬く間に企業イメージは失墜してしまいます。
求人票の書き方の項でも紹介しましたが、どのような求人媒体(方法)を使う場合でも、いかに詳細な情報を掲載するかが求人募集の実効を上げるための大きな要素と言えます。募集しても応募がない場合は、まずは、発信している情報量、とりわけ応募者が主として求める部分(賃金、労働条件、仕事の内容、福利厚生、人事・教育を含めたキャリアパスなど)の掲載内容を見直し、できる限り詳細で豊富な情報を提供することが必要です。
また、経営実績のある企業で、前述の「口コミ」などで悪い風評が流れていれば、短期間でそれを払拭することは至難の業です。いま最も嫌われるのが、「ブラック」と称される企業です。新設会社にあっては、応募がなく、求人内容を見直す際、世にブラックと言われる業界や企業の情報を収集し、そうではない企業であることを訴求ポイントの一つとして、求人案内の中に散りばめることも必要です。特に、「ブラック」が多い業界での起業では、他社との明確な差別化を図ることが肝要です。
4 従業員を雇用する際に必要な手続き
従業員を初めて雇用する際は、様々な手続を官公庁や年金事務所などに行う必要があります。この書類は意外と種類数が多く、届出が必要な書類とそうでない書類が状況に応じてことなるので、意外と負担になります。
また、雇用形態の違いによっても、届け出る先、各種書類、働いてもらう人と締結する書類などが異なります。
その点も踏まえ、従業員を雇用する際の手続きについて、流れを押さえましょう。
4-1 雇用契約書の締結
従業員(正社員・契約社員・アルバイト・パートなど)を雇用する際は、入社時に、従業員と労働条件通知書もしくは雇用契約書を締結する必要があります。
労働条件通知書は、「当社ではこのような形で働いてくださいね」と、雇用主側の方から差し出す書面です。
雇用主の記名・押印か署名捺印は必要ですが、あくまで雇用主が労働者に対して一方的に提示する物ですので、労働者側の記名・押印か署名捺印は不要です。
一方、雇用契約書は、労働者側が「このような雇用契約でいかがですか」と示し、労働者側が「確かに同意し、記名・押印か署名捺印を行います」と示す契約書類です。
雇用契約の上では、労働条件通知書か雇用契約書のどちらかが必ず必要となります。
なお、企業時点から人を雇うのが大変な場合や、正式に雇用してよいか迷う場合は、最初は従業員を雇用という形ではなく、業務委託という形で事業に参画してもらう方法もあります。この場合は、業務委託契約書を締結します。また、現代ではクラウドソーシングという形で、クラウドワークスやランサーズを利用したり、秘書やバックオフィスを代行してくれるサービスもあるので、そのようなサービスを活用するのも一つの手です。
業務委託の場合は、相手は個人事業主というケースが大半で、後述する各種社会保険の手続などは原則不要になります。
4-2 健康保険・厚生年金被保険者資格取得届を、年金事務所に提出
まず、正社員、もしくはパートタイマーでも1日(1週間)の労働時間と1ヶ月の労働日数の両方が正社員の概ね4分の3以上の場合は、健康保険・厚生年金被保険者資格取得届を、年金事務所に提出し、健康保険・厚生年金に加入する義務があります。
また、日雇の場合は雇用期間が1ヶ月を超えた場合、2ヶ月以内の雇用契約の場合はその期間を超えた場合にも加入義務が発生します。
健康保険・厚生年金被保険者資格取得届を提出する上では、番号に間違いのないよう、従業員に年金手帳の提出をしてもらい、基礎年金番号を確認することが必要です。
また、パートタイマーで上記の労働条件に当てはまらない場合でも、
- ・週の所定労働時間が20時間以上
- ・雇用期間が1年以上見込まれ、季節雇用ではないこと
- ・賃金の月額が8万8000円以上であること
- ・主婦・フリーターなど学生でないこと
- ・常時501人以上の企業に勤めていること
という5点を全て満たす場合は、加入対象になります。ただ、会社設立後いきなり501人以上を雇用するということは極めて想定しにくいので、当面は気にする必要はありません。
4-3 健康保険被扶養者(異動)届
役員・従業員に被扶養者(専業主婦・未成年の子供など)がいる場合、資格取得届とあわせて、「健康保険被扶養者(異動)届」を提出する必要があります。
被扶養者の範囲は、
- ・配偶者(内縁含む)、直系尊属(父母・祖父母)、子、孫、弟、妹(離れているなど同一世帯でなくても可)
- ・同一世帯で、3親等以内の親族(親子は1親等、祖父母・兄弟・孫は2親等、叔父・叔母・甥姪など3親等)
- ・同一世帯で、配偶者(内縁含む)の父母及び子
- ・同一世帯で、配偶者が亡くなった後における父母及び子
に該当し、かつ仕事等で上記の加入要件を満たさず、1年間の収入が130万円未満の人となります。
4-4 国民年金第3号被保険者資格取得届
役員・従業員が厚生年金に加入する上で、当該役員・従業員の配偶者で、20歳以上60歳未満の人が被扶養者となる場合は、国民年金第3号被保険者に該当することとなります。
第3号被保険者である期間は、配偶者は
- ・国民年金の保険料(令和元年は月額16,410円、年々見直しが行われる)を収めなくてよい
- ・さらにこの期間は、保険料を納付したものとみなし、将来国民年金の受給においてプラスになるという、大きなメリットがあります。
ただし、手続きをしないと、この制度は適用されませんので、必ず従業員に配偶者が被扶養者であるかを確認することが大切です。
役員・従業員の配偶者が被扶養者の場合、必ず国民年金第3号被保険者資格取得届を年金事務所に提出することで、従業員にとって大きなメリットとなります。
4-5 労働基準監督署への各種届出
従業員(アルバイト・パート含む)を雇用した場合、労働基準監督署に「適用事業報告」を提出する必要があります。
期限は、適用事業となってからできるだけ早くとされております。日にちを区切った期限こそないものの、早めに提出した方がよいでしょう。
あわせて、多くの事業所では時間外労働・休日労働が発生する可能性がありますので、「時間外労働・休日労働に関する協定書(いわゆる36協定書)も提出する必要があります。(電信制での届出も可能)
36協定書は、原則「会社は従業員に法定労働時間(通常1日8時間、週40時間)を超えて労働させることは原則としてできませんが、「36協定書」を労働基準監督署に提出することで、提出日以後については、協定の範囲内で、時間外・休日労働をさせることができます。
ただし、36協定があるからといって、制限なく時間外労働をさせる事はできませんし、時間外・休日労働をさせた場合は、割増賃金も必要となります。
さらに、大企業は2019年4月(中小企業は2020年4月)より、働き方改革に伴う時間外労働の上限規制がスタートしています。
概要としては、
- ・時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として、月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできない
- ・臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、時間外労働の合計が年720時間以内、もしくは時間外労働+休日労働が月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする必要がある
- ・原則である月45時間を超えることができるのは、年6か月まで
- ・法違反の有無は「所定外労働時間」ではなく、「法定外労働時間」の超過時間で判断など、時間外労働・休日労働に対する規制がこれまでより相当厳格化されます。
なお、建設事業・自動車運転の業務・医師・鹿児島県、沖縄県における砂糖製造業については、2024年3月まで上限規制の適用が猶予され、新技術、新商品等の研究開発業務については、上限規制の適用除外となります。
また、36協定書自体についても、働き方改革実施以前のものではなく、働き方改革に対応した36協定書を締結することが重要となります。
なお、労働基準監督署が用意した36協定届作成支援ツールというWebサービスがありますので、当初はこちらのツールを使うという手もありますが、会社設立代行業者を通し、社会保険労務士に、より自社の実情にあった36協定書を作成してもらうとなおよいでしょう。
また、創業時で、健康保険・厚生年金保険新規適用届を提出していない場合は、同時に提出する必要があります。入社日から5日以内に健康保険・厚生年金保険新規適用届を提出する必要があり、加えて、「労働保険 保険関係成立届」の提出も必要です。労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険をまとめて「労働保険」と呼びます。
雇用保険に関しては、雇用期間31日以上で、週20時間以上の労働など一定の条件がありますが、労災保険は、労働時間・勤務形態・労働日数にかかわらず、1名でも雇用がある場合は必ず加入する必要があります。
手続は、従業員を雇った日から10日以内に労働基準監督署に行う必要があります。
万が一、加入のし忘れがある場合、後から強制的に加入手続を行うこととなり、課徴金や保険料の遡った請求などが行われることもあります。加入手続は忘れないようにしましょう。
さらには、「労働保険概算保険料申告書」も必要です。労働保険料は、従業員に対する賃金額を基準とし、労災保険・雇用保険ごとに所定の料率をかけて計算します。
保険料の納付は、年間の賃金見込額で、各年4月1日~3月31日までの保険料のおおよその額を一旦計算、納付し、実際の賃金で算定した保険料を6月1日~7月10日の間に「労働保険確定保険料申告書」を提出、あわせて次年度の「労働保険概算保険料申告書」も提出し、概算保険料の納付も行う必要があります。提出期限は、従業員を雇った日から50日以内です。
また、「雇用保険適用事業所設置届」も必要です。正社員はもちろん、アルバイト・パートで31日以上、週20時間以上働く場合は加入義務が発生します。(昼間部の学生の場合は加入義務なし)提出先はハローワークで、雇用日から10日以内に届けが必要です。
最後に、「雇用保険被保険者資格取得届」の提出も必要です。雇用保険適用事業所設置届を提出しても、雇用保険被保険者資格取得届の提出漏れがあると、従業員が雇用保険に加入したことにならないため、トラブルの原因になります。
従業員を雇った月の翌月10日までにハローワークに提出する必要があるため、忘れずに提出するようにしましょう。
5 法人設立ワンストップサービスとは
2020年1月20日から、法人設立後の手続を、マイナンバーカードとカードリーダーがあれば、内閣府番号制度担当室が運営するマイナポータルの「法人設立ワンストップサービス」で、法人設立後に必要な手続を1つのサイトから行うことができるようになりました。
(今後、法人設立そのものも、法人設立ワンストップサービスでできるようになる予定ではありますが、手続上専門的な部分・説明も多く、これから会社を設立しようとする人にとってはハードルが高いと思われます。)
ただし、実際にサイトをご覧いただくとおわかりいただけるかと思いますが、「かんたん問診・申請」の質問内容は、けして「かんたん」といえるものではありません。ある程度税務・会計・労務の知識がないと、どれに当たるかがわかりにくい項目もあります。
また、法人設立ワンストップサービスの利用は、マイナンバーカード本体を利用するため、法人設立を行う代表者本人しか利用できません。
そのため、税理士・社会保険労務士などの代理人は利用できません。システムがこなれてくるまでは、結局従来のやり方で専門家に依頼した方が確実、ということも想定されます。
6 まとめ
いかがでしたでしょうか。労働力不足が深刻化する中、起業時の従業員採用は困難が予想されます。採用計画は、事業計画の達成を期すため、現実に立脚したものであるとともに、複数年の採用を想定することも必要です。その上で、法令上の規制事項等を踏まえ、実効性の高い採用活動を展開しなければなりません
また、法人設立ワンストップサービスなど最新のトピックも紹介しましたが、従業員の雇用では労働基準監督署やハローワークへの相談、そしてより理想的なのは、労働協約・36協定等各種労務書類の作成も含めた社会保険労務士への依頼が確実と言えます。
労務関係では、労災・雇用保険・年金など、万一の加入・手続き漏れがあると、役員・従業員本人だけでなく、場合によっては被扶養者など家族・親族にまで影響がでる可能性もあります。
また、働き方改革の関係で、36協定や従業員の労働時間・各種管理など、社会保険労務士など専門家の知見がないと、知らないうちに問題のある状況になってしまう恐れもあります。
社会の従業員保護に対する目は厳しくなっており、以前のような限度を超えた労働をさせることで、会社や経営者が問題視され、事業に支障をきたすことさえ想定されます。
会社設立を行う起業家自身は、全ての時間を事業のためにコミットしても問題はありませんが、それができるのは、あくまで起業家自身のみです。執行役員・社員など労働者の場合は、一定の限度を定め、その中で、健康に支障のないように働いてもらうよう配慮する必要があります。
時間の制約の中で制約を出していくことは難しさもありますが、一方で、従業員に健康・健全な状態で働いてもらい、パフォーマンスを出してもらうことは、経営者に課せられた一つの責務ともいえます。
行うべき手続や時代に合わせた労務環境の管理はしっかりと行い、社員が健康的に働け、パフォーマンスを出せる会社にしていくことが重要と言えます。