夏休みなどの長期休暇を分散化することで、親と子が一緒に過ごす時間を増やし、経済効果につなげようとする「キッズウィーク」制度の導入が、来年4月を目処に進められています。
「働き方改革」と表裏一体で進められる「休み方改革」は、有給休暇取得率が極端に低い日本の企業風土に合わせて、国主導で連休を作り出そうとするものです。
親子が同時に休みを取ることで国内旅行消費の効果も期待されており、みずほ総合研究所は、消費創出効果は0.4兆円規模になるとの試算を発表しました。
ただ、今年2月から始まったプレミアムフライデー同様、企業側の意識改革や環境整備などが求められるだけに、官民一体で動かなければその効果は限定的になるとも指摘しました。
今後は地域ごとに協議会を設置して検討を重ねていくとされるキッズウィーク。
果たして、休日のあり方が多様化することで地域活性化や雇用拡大につながるのでしょうか。
目次
- 1 要は「大人と子どもが一緒に休む」制度
- 1-1 学校休業日の分散化とは?
- 1-2 期待される観光需要拡大と地域活性化
- 2 キッズウィーク導入で0.4兆円の経済効果!?
- 2-1 昨年名目民間最終消費支出の約0.1%程度に相当
- 2-2 成否のカギは、親が子どもに合わせた有給休暇を取得できるかどうか
- 3 保護者が休めない家庭の子どもは?
1 要は「大人と子どもが一緒に休む」制度
キッズウィークとは、地域ごとに夏休みや冬休みなどの学校の長期休業日から、一部の休業日を他の日に移して休業日を分散化する制度のことで、学校が休みとなった日に大人も有給休暇を取得し、大人と子供が共に休日を過ごそうとするキャンペーンになります(政府配布資料)。
2018年度から全国一律で実施されるのではなく、地域の事情に応じて都道府県や市区町村ごとに、学校休業日を設定する方針です。
・ キッズウィーク概要
2018年度から学校休業日を分散化 | 法令上の手当てにより、夏休みなど長期休業日から平日に学校休業日を分散させる |
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子どもだけでなく、大人も休ませる | 学校休業日に合わせた休暇を取得するよう、企業等に強く要請し、有給休暇取得率を70%にする |
多様な活動機会の確保 | 親子が親しむことができるプログラムが提供できるよう文化・スポーツ団体、企業等に活動機会の確保等を要請 |
1-1 学校休業日の分散化とは?
小学生から高校生における約1ヶ月間の夏休みの一部を短縮して、その分をたとえば9月の連休に当てたり、10月に新たな連休を創出したりすることで、大人と子どもが一緒に過ごす時間を増やそうとする制度です。
例1:子どもの長期夏休みを短縮し、県民の日と合わせて4連休を創設する
例2:子どもの長期夏休みを短縮し、土日等と合わせて、秋に新たな長期休業日を創設する
政府は、「子どもの休みに合わせて大人が休みをとり、地域行事や体験活動、旅行など多様な活動を共に行うことにより、家庭や地域の教育力の充実が図られ、地域愛を育てることとなる」と話します。
また、同時に、「大人についても働き方を見返す契機となる。1億総活躍社会に向け、働き方改革と表裏一体のものとして休み方改革を進め、有給休暇取得率70%の達成を目指す」との目標を掲げました。
1-2 期待される観光需要拡大と地域活性化
キッズウィーク導入により期待されるのは、家族と共に過ごす時間を増やしたり、趣味に打ち込む時間を増やしたりすることだけではありません。
今年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017-Society5.0の実現に向けた改革」のなかで、休暇改革としてキッズウィークを挙げ、「学校休業日の分散化や分散化された学校休業日に合わせた有給休暇取得の促進、休日における多様な活動機会の確保を図るとしました。
休日を多様化することで、これまで一時期に集中していた観光需要が平均化され、さらに交通渋滞の改善、ハイシーズンの宿泊料金の低廉化、雇用拡大および地域の活性化につながる効果が期待されています。
2 キッズウィーク導入で0.4兆円の経済効果!?
みずほ総合研究所は、6月末、キッズウィーク導入による波及効果について、閑散期での大型連休の創設による国内旅行消費は0.4兆円規模に及ぶと発表しました。
2-1 昨年名目民間最終消費支出の約0.1%程度に相当
みずほ総研は、算出にあたって全国の地域を夏休みが短く冬休みが長い「北海道東北」と、夏休みが長く冬休みが短い「関東・北陸信越・中部と近畿・中国・四国・九州・沖縄」の2グループに分け、夏休みと冬休みが分散されると仮定し、次の3つの経済効果が生まれると分析しました。
・ 夏休み・冬休みの分散による国内旅行消費の新規創出効果
① | 夏休み・冬休みの一週間が閑散期に移行することによる新規の旅行需要増加 |
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② | 夏休み・冬休みにおける混雑緩和に伴う旅行料金(宿泊料金やパック料金など)の低下を通じた旅行需要の押し上げ |
③ | お盆や年末年始のピーク需 要の緩和を通じた旅行需要の押し上げ |
(みずほ総合研究所公表資料より作成)
以上を合計すると、新規旅行消費創出効果は約0.4兆円程度と計算され、昨年の名目民間最終消費支出の約0.1%程度に相当するとし、みずほ総研は「一定程度の経済効果が見込めるだろう」と述べました。
2-2 成否のカギは、親が子どもに合わせた有給休暇を取得できるかどうか
みずほ総研は、キッズウィークの導入には経営者らによる働き方・休み方を見直す協力が不可欠だとします。
休暇取得の分散化に対するアンケート調査では、否定的な意見も多く、なかでも「そもそも有給休暇を取得することができない」などの意見が多く見られました。
有給休暇の取得状況を見ると、2012年以降はほぼ47〜48%台で推移しており横ばいとなっています。政府はこれを2020年までに70.0%とする目標を掲げていますが、みずほ総研は「現状のままでは実現は困難」と述べています。
・ 有給休暇取得率の推移と目標
2012年 | 47.1% |
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2013年 | 48.8% |
2014年 | 47.6% |
2015年 | 48.7% |
・ ・ | |
2020年 | 70.0% |
(みずほ総合研究所公表資料より作成)
有給休暇を取得することは、長時間労働を良しとする傾向の日本独自の企業風土では難しいため、政府は経団連および企業にキッズウィークに合わせた有給休暇を取得させるよう強く働きかける方針を示しています。
3 保護者が休めない家庭の子どもは?
政府は、キッズウィーク導入に向けて法令上の手当てを講じるとともに、学校など現場で混乱が生じないよう対策を検討するとしています。
また、保護者が休めない家庭の子供への対応として、キッズウィークの実施に合わせた子供の居場所づくり、イベントづくりなど、関係機関に要請するとともに必要な支援を行う方針であることを明らかにしました。
このほか、親子参加型のスポーツ・文化等に親しむことができるプログラムの提供や、各種施設の無料開放等が行われるよう、地方公共団体や関連団体に協力を要請する。また、家族が宿泊する際に、人数にかかわらず利用できる適切な料金の宿泊商品の造成を観光業界に促します。
2018年4月からの導入が予定されているキッズウィーク。果たして親と子が同時に休み、試算通りの経済効果を創出することができるのでしょうか。政府の今後の取り組み状況に注目が集まります。