経営環境が大きく変わったことで、一年前までは大きな収益を得られていた事業でも、急に赤字におちいるというケースが多くなっています。長期的に会社経営を続けるためには、新規事業を立ち上げて、リスクの分散や収益の柱を新しく打ち立てることが必要となってきます。
とはいえ、既存事業を伸ばす場合と比較して、あまりノウハウや技術力を活用できない新規事業を一から軌道に乗せるのは簡単ではありません。9割くらい失敗すると言われる起業と同様に、新規事業の大半も失敗に終わります。特にはじめて新規事業を立ち上げる場合は、ノウハウや経験がないため失敗する可能性はより一層高くなります。
新規事業で取り返しのつかない失敗を避けるためには、重要なポイントをしっかりと押さえておくことが重要です。そこで今回の記事では、新規事業の立ち上げで重要なポイントを15個ご紹介します。
新規事業を立ち上げる予定の方はもちろん、経営不安から新規事業の立ち上げを検討している方は必見の内容です。
1 新規事業の立ち上げとは
はじめに、新規事業の立ち上げどういったものかを簡単におさらいしておきましょう。新規事業の立ち上げの意味やメリットをご存知の方は読み飛ばしてもらってもかまいません。
1-1 新規事業立ち上げの意味
新規事業の立ち上げとは、新しいビジネスを始めることであり、「多角化」や「業種転換」などと呼ばれることもあります。
なお新しいビジネスを立ち上げる点では起業や開業と共通していますが、起業や開業は開業届や会社設立を経て、まったく一から事業を始めることを意味します。一方で新規事業の立ち上げと言った場合は、すでに事業を行っている企業が新しく別のビジネスを始める場合を指します。
1-2 新規事業立ち上げのメリット
新規事業の立ち上げには、主に二つのメリットがあります。
一つ目のメリットは、経営上のリスク低減につながる点です。単一の事業のみを営む場合、市場の衰退などの理由でその事業の収益性が下がると、会社全体の業績自体が悪化します。最悪の場合、会社経営自体が困難となる可能性があります。しかし新規事業を立ち上げれば、仮に一つの事業がダメになっても、もう一つの事業で収益を得られれば、会社全体としての業績を大きく悪化させずに済みます。
二つ目のメリットは、大きく収益を伸ばせる可能性がある点です。もう一つの新規事業を立ち上げることで、既存事業と新規事業でシナジー効果が生まれる可能性があります。シナジー効果とは、お互いの事業の良い面が相乗効果を生み出し、それぞれの事業を別々に行うよりも、より大きな効果を得られることを意味します。単にリスクを回避できるだけでなく、上手くいけばより大きな収益を得られる可能性もある点で、新規事業の立ち上げは意義のある戦略と言えます。
1-3 新規事業の成功事例
みなさんが知っているような大手企業でも、新規事業の立ち上げにチャレンジし、成功しています。例えば三菱商事は、社内ベンチャーとして「スープストックトーキョー」というスープ専門店のビジネスを立ち上げました。
あたかも本当に存在するかのように顧客像を設定する「ペルソナマーケティング」が功を奏し、今では売上高が100億円を超える大成功を収めています。
三菱商事以外にも、リクルートや楽天などあらゆる企業が新規事業の立ち上げに成功しています。失敗事例が多い中、こうした大手企業による成功事例は、これから新規事業を立ち上げる方にとって非常に参考になるものでしょう。
2 無駄のないプロセスで新規事業を立ち上げる
新規事業を立ち上げるに際しては、そのプロセスが非常に重要となります。あるプロセスを飛ばしたり、順番を間違えてしまうと、質の高いビジネスに仕上がらなかったり、前のプロセスに戻るリスクが高くなります。
新規事業の立ち上げには多大な費用や時間がかかるため、無駄にしないためにも正しいプロセスを経る必要があります。そんな新規事業の立ち上げですが、一般的には下記のプロセスで進めるのが良いと言われています。
- ・経営理念や経営ビジョンを明確にする
- ・事業を行う分野を決定する
- ・顧客の悩みやニーズを洗い出す
- ・ビジネスプランや事業戦略を策定する
- ・具体的な行動計画を考える
- ・新商品・サービスのリリース
はじめに行うのは、経営理念やビジョンを明確にするプロセスです。経営理念やビジョンとは、会社を経営する上で大事にしたい考え方や、今後成し遂げたい大きな目標などを意味します。こうした根本的な考え方や目標をあらかじめ明確にしないと、本業や会社の社風からズレた事業を行ってしまい、ご自身で方向性を失ってしまうので注意しましょう。
次に行うのは、事業を行う分野の決定です。くわしくは後述しますが、基本的には自社やご自身が得意にしている分野や、ご自身が好きな事業を行うのがオススメです。まったく得意でない上に関心がないビジネスの分野だと、たとえ儲かる分野だとしても熱意を持って取り組めないでしょう。ご自身の武器や趣味、もしくは悩んでいることなどを基準に、新規事業を立ち上げる分野を決定すると良いでしょう。
事業を行う分野が決定したら、次は顧客の悩みやニーズを洗い出すプロセスです。事業で収益を得るには、顧客に自社の商品やサービスが購入・利用されなくてはいけません。利用されるには、顧客の悩みを解決したり、ニーズを満たすような商品やサービスである必要があります。ですので、いきなりゼロベースからビジネスモデルを考えるのではなく、まずはその事業分野がターゲットとする顧客の悩みやニーズを特定することから始めましょう。
そして顧客の悩みやニーズを特定できたら、それを基にビジネスモデルや事業戦略を策定します。顧客の悩みを解決できたりニーズを満たすのはもちろん、自社の商品でなければ得られない独自のメリットがあるとなお良いでしょう。また、事業戦略の策定も必須で行います。競合他社の製品や事業戦略をリサーチし、自社のポジション(低コスト戦略や差別化など)を明確にすることが重要です。
ビジネスモデルや事業戦略が決まったら、各職種(マーケティングや営業など)が行うべき作業を決定します。要するに、各職種ごとにいつまでに何をすべきかを決定するわけです。高い目標を掲げるのは良いですが、無理なノルマを設定するとかえって生産性や従業員のモチベーションが下がります。行動計画を策定する際は、無理なく頑張れば実現できるスケジュールを設定しましょう。
ここまで終わったら、いよいよ新規事業を本格的に立ち上げます。なお立ち上げ前に、テストマーケティングを行う場合もあります。テストマーケティングについては、のちほどくわしく解説します。
3 顧客のニーズを基にビジネスモデルを策定する
新規事業の立ち上げで重要なポイントは多々ありますが、プロセスと同じくらい重要なのが「顧客のニーズを重視すること」です。
先ほどもお伝えしましたが、そもそもビジネスとは顧客に商品やサービスを販売し、その対価として利益を得る行為を意味します。そのため、せっかく商品やサービスを開発しても、それを顧客に買ってもらえなければ事業は成立しません。
事業を成立させるには、顧客のニーズを基にビジネスモデルを策定することが欠かせないのです。とはいえ、顧客のニーズを見つけると言われても、どのようにすれば良いかわからないという方もいると思います。一番簡単でオススメなのが、顧客が抱えている「〜したい」を見つけることです。例えば痩せたいと考える顧客に対しては、そのニーズを解決できる商品(ダイエット食品)やサービス(フィットネス)を提供すれば利益を得られます。
ただし厄介なのが、顧客の「〜したい」という感情を基にビジネスモデルを策定したにも関わらず、商品やサービスが意に反して売れないケースがある点です。というのも、顧客自身が本当のニーズを理解できていない可能性があるためです。例えば痩せたいというニーズにも、「異性にモテたい」とか「健康的な生活を送りたい」など、あらゆる潜在的なニーズがあります。こうした本当のニーズに対処しなければ、商品やサービスはなかなか売れません。
顧客が抱える本当のニーズを見つけ出すには、例えば「ペルソナマーケティング」や「ジョブ理論」などのフレームワークを活用するのが有効です。こうしたフレームワークを使えば、顧客のライフスタイルや普段の行動を徹底的に観察することで、本当のニーズを見つけ出せます。
実際には競合他社の商品やサービスも存在するため、単純に顧客のニーズを満たせばかならず新規事業の立ち上げが成功するというわけではありません。とはいえ、ニーズを満たさなければ商品は基本的に売れないため、顧客のニーズを満たすのはスタートラインに立つ上で不可欠といえます。
4 自社の強みを活かせる新規事業を立ち上げる
顧客のニーズを満たせるビジネスモデルを作れても、それを実行できるだけのスキルやノウハウがなければ意味がありません。
例えばAIでそれぞれの顧客に合う髪型を提案するサービスを思いついたとしましょう。このサービスにニーズがあっても、AIを作り上げるだけの技術力がなければサービスを作ることはできません。外注で作るのもできますが、余分にコストがかかるなどデメリットも少なからずあります。
したがって、新規事業を立ち上げる際には、ニーズを満たすのはもちろん、自社の強みを最大限発揮できるビジネスの領域を選ぶことが重要です。例えば優秀なエンジニアを多数抱えているならば、プログラミングのスキルを発揮できるビジネスモデルが良いでしょう。もしくは経営者自身が知名度や人気を持っているならば、積極的にマーケティングで経営者の知名度や人気度を活用しない手はありません。
自社の強みを活かすと、高いクオリティでビジネスを作り上げることができる上に、競合他社との競争に打ち勝ちやすくなります。とくに強みとなる資源やスキルが希少なものであれば、それだけ参入障壁や優位性は高くなるため、安定して収益を得られるようになります。
とはいえ、自社の強みをどのようにして見つけるか分からないという方もいるでしょう。自社の強みについては、これまでの実績や第三者からの評判を確認するのがオススメです。実績豊富なスキルや領域は得意分野であるといえますし、第三者から評判が高いスキルやノウハウも同様です。
「自社にはまったく強みがない」と思っても、よく探したら何かしら強みはあるはずです。なかったら、1〜2年努力して強みを作れば良いのです。一度確固たる強みを作れば、新規事業の立ち上げはもちろん、既存事業の業績を伸ばしたり、業績を回復させる上でも役に立ちます。
ぜひ新規事業を立ち上げる際には、ニーズに加えて強みを発揮できるビジネスモデルを確立しましょう。
5 現時点と今後の市場規模を考慮する
新規事業の立ち上げで、もう一つ重要なのが「市場規模」です。ビジネスで満足いくだけの利益を得るには、多くの顧客を獲得しなくてはいけません。たとえ顧客にとってニーズのあるビジネスを行っても、その商品を欲しいと思う顧客の数自体が少なければ得られる利益は少ないでしょう。
立ち上げた新規事業を成立させるには、ある程度顧客が存在する市場を選ばなくてはいけません。そこで確認すべきが「市場規模」です。市場規模とは、簡単に言うとある市場で動いている金額の大きさです。市場規模を確認することで、大体自社がどのくらいマックスで稼げるかを把握できます。極端な話ですが、市場規模が100億円で、自社しかその市場にいなければ最大で100億円の収益を得られる可能性があります。
現実的には市場規模と同額を稼ぐのは不可能ですが、ある程度の収益性を確認はできます。数百万円しかない市場では、ほとんど収益を得られないため避けた方が堅実です。実際の目安は事業内容や競合の数などによって異なるため一概に言えないので、各自で判断してみてください。
また新規事業の立ち上げでは、現時点のみならず将来的な市場規模も重視する必要があります。たとえ現時点で市場規模が大きくても、今後何かしらの理由で市場が衰退する可能性は十分あります。現時点で市場規模が大きいからと安易に新規事業を立ち上げると、市場が衰退して全然収益を得られないリスクがあります。
そうした事態に陥らないためにも、将来的な市場規模の推移についても必ず予測した上で、新規事業を立ち上げましょう。具体的には、技術革新の動向や消費者のニーズ、景気などあらゆる要素を考慮した上で、ご自身で今後の市場規模を予測します。必ず当たるとは限りませんが、まったく何も考えずに新規事業を立ち上げるよりは、リスクを抑えることができるでしょう。
6 立ち上げ前に「熱意を持って取り組める新規事業か?」を確認する
ここまでは市場選定やビジネスプランの策定で重視すべき点を、市場規模や強みの活用、顧客のニーズ重視など、テクニック的な側面から解説しました。ですが、新規事業の立ち上げではテクニック的な部分はもちろん、熱意も非常に重要となります。
たとえ市場規模が十分な領域を選び、顧客のニーズを満たせるビジネスプランを策定しても、事業を立ち上げてすぐに収益を得られるとは限りません。基本的には、どんなに凄いビジネスでも軌道に乗るまでに1〜3年はかかります。軌道に乗るまでは十分な収益を得られないことも多く、経営者はひたすら耐えながら毎日地道な作業をコツコツと続けなくてはいけません。
熱意を持って取り組んでいない、つまりただ儲かりそうという理由だけで立ち上げた新規事業の場合、この辛い時期を耐えることができない可能性があります。少ない収入や地道な作業に耐えることができず、諦めてしまうケースは少なくありません。
一方でビジネス自体に対して熱意を持っていれば、収入が少なくても地道な作業が続いても、将来的に成功することを目指して着実に辛い時期を耐えることができます。趣味や好きなことならば、お金をもらわなくても熱中できるのと同じ理屈です。
また、熱意を持って取り組めない場合、ビジネスに対する本気度も低くなります。そのため、一つ一つの作業に甘さが生じてしまったり怠けてしまい、上手くいく新規事業も上手くいかなくなってしまいます。
上記のような理由から、新規事業の立ち上げを成功させる上で熱意は非常に重要なのです。新規事業を立ち上げる際には、収益性や市場規模はもちろんのこと、「熱意を持って取り組めるか?」という質問を一度ご自身の心に投げかけてみるのがオススメです。熱意をどうしても持てないならば、他のビジネスプランにした方が良いでしょう。
7 事業計画はしっかり作り上げておく
新規事業を立ち上げる際、事業計画はしっかり作り上げておきましょう。事業計画とは、新規事業で達成したい目標やそこに至るまでに行うこと、戦略、収支計画などを定めたものです。事業計画の作成は必須ではないため、作成せずに新規事業を立ち上げることも可能です。ですが、今回お伝えする3つの理由から事業計画はしっかり作っておくことをオススメします。
まず1つ目の理由は、今後の方向性ややるべきことを明確にできる点です。事業計画では、今後何をすべきか、どのような戦略で事業を進めていくかなどを詳細に定めます。そのため、事業計画を策定することで明確な道筋を見据えた上で新規事業を運営していくことができます。
2つ目の理由は、資金調達の際に事業計画書が必要となる点です。新規事業を本格的にスケールさせたい場合、よほど自己資金がある場合でない限り、基本的には金融機関や投資家から資金調達を行います。融資にしろ出資にしろ、金融機関や投資家は事業計画書の内容をもとにお金を出すか判断します。しっかりと客観的なデータを示しつつ事業計画書を策定することで、資金調達を有利に進めることができるわけです。
3つ目の理由は、経営戦略やビジネスプランを改善しやすいことです。入念に計画を練って新規事業を立ち上げても、かならず成功するとは限りません。予想に反して新規事業が上手くいかない場合は、必要に応じて経営戦略やビジネスプランを修正しなくてはいけません。あらかじめしっかりと事業計画を策定していないと、どこが悪かったのかを判別することができないため、事業の戦略を的確には改善しにくいです。そうした事態を避けるためにも、あらかじめ事業計画はしっかりと策定しておく必要があります。
具体的には、客観的なデータを使って戦略の根拠を持たせるのはもちろんのこと、いつまでに何をすべきかを分かりやすい文言でしっかりと設定することが必要です。
8 資金の調達・活用計画は重点的に策定する
新規事業の事業計画を策定する上で、特に重視すべきは「資金調達」と「調達した資金の活用」に関する計画です。新規事業に限らず、会社の経営が存続するにはビジネスに必要な資金を確保し、それを無駄なく活用し続けることが必要です。
有力なアイデアがあっても、それを実現できるだけの資金がなければ収益は得られません。また、資金調達の方法や条件を間違えると、返済や利息の支払いで資金繰りが悪化したり、経営権を投資家に握られてしまい、経営陣の意思決定に支障をきたす可能性があります。したがって、新規事業を立ち上げる際は、ビジネスにどのくらいの資金が必要かをしっかりと見極めつつ、今後の会社経営に支障をきたさないように資金調達の方法や条件を考えておくことが重要です。
また、資金を調達するのみでなく、その後の活用計画も入念に練っておくことが大切です。資金をどのように活用するかをしっかり定めておかないと、収益性が見込めないビジネスに多額の資金を投入してしまったり、本来ならば不必要な部分に資金を投入し、結果的に全然リターンを得られないリスクがあります。また、何も考えずに調達した資金を使ってしまうと、早々に使い果たしてしまい、新規事業が軌道に乗る前に資金が尽きてしまうおそれがあります。資金繰りが失敗すると事業の継続に支障をきたすため、無駄のない資金の活用を立ち上げ時から意識しておきましょう。
とはいえ、資金繰りや資金調達に関しては、数字に強くないとしっかりとした計画を策定できない場合が多いです。自社内に会計やファイナンスに精通した従業員がいないならば、必要に応じて外部の専門家に計画策定のサポートを行ってもらうのも一つの手です。確かに外注により手数料は発生してしまうものの、新規事業が失敗して多額の損失をこうむるよりは遥かにマシであると言えるでしょう。
9 競合企業との差別化ポイントを明確にする
新規事業の立ち上げる際、成功を妨げるのが競合企業です。商品やサービスにニーズがあっても、競合企業も同じような商品を販売している場合は顧客を取られてしまう可能性があります。そのため、立ち上げた新規事業で顧客を獲得するには、競合企業との差別化も必要となります。
差別化とは、簡単にいうと競合企業とは異なる形で商品やサービスを提供する経営戦略を意味します。具体的には、商品やサービスの品質や性能で差別化する方法や、ブランドや販売方法で差別化を図る方法、アフターフォローや独自の特典で差別化を図る方法などがあります。
重要なのは、価格以外で競合他社との差別化を図ることです。価格で競合他社に勝とうとすると、価格競争に巻き込まれるリスクがあります。一度価格競争に巻き込まれてしまうと、どんどんと価格を下げざるを得なくなり、最終的には商品やサービスが売れても利益が手元に残らなくなります。手元に利益が残るようにするために、商品のデザインやアフターサービスなど、価格を下げない方向で工夫して競合他社との差別化を図ることが大切です。
では一体、どのように自社の差別化ポイントを見つければ良いのでしょうか?もっともオススメなのは、自社の強みを差別化に活かすことです。自社の強みを活かすことで、他の会社が容易に真似できない差別化を実現できる可能性があります。他社が容易に真似できない差別化を実現できれば、長い間にわたって収益を得ることができるでしょう。
10 状況に応じてフレームワークを活用する
ここまで新規事業の立ち上げについて解説しましたが、新規事業の立ち上げはそう簡単には成功しません。むしろ割合的にいうと、大半の新規事業は失敗に終わってしまいます。とくに初めて新規事業を立ち上げる企業にとっては、どのように新規事業を立ち上げるかは悩みどころになるでしょう。
そこでオススメなのが、フレームワークの活用です。新規事業の立ち上げに際しては、経営戦略や事業プランの策定に役立つフレームワークが多々あります。
例えば「SWOT分析」というフレームワークでは、自社の強みと弱み、外部の機会(チャンス)と脅威という4つの項目を明確にすることで、的確な経営戦略を立てることができます。また、ファイブフォース分析というフレームワークを活用すれば、売り手(原材料の仕入れ先)や買い手(顧客)、競合企業、新規参入、代替品という5つの力関係を基に、新規参入する市場の魅力度合い(収益性)を判断できます。
上記はあくまで一例であり、他にも下記のようなフレームワークがあります。
- ・3C分析(顧客、競合、自社の3項目から経営戦略を考える)
- ・PPM分析(市場の成長性と自社の市場シェアから、今後の経営戦略を考える)
- ・ペルソナ分析(顧客のニーズを基に商品やサービスを開発する)
- ・ポジショニングマップ(新規事業を立ち上げる際のポジションを決める)
- ・VRIO分析(経営資源の優位性を確認する)
さまざまなフレームワークがあり、それぞれ使用する場面や目的は異なります。新規事業を立ち上げる際には、適材適所でここでご紹介したフレームワークを活用してみてください。使いこなせれば、新規事業の立ち上げを遥かに有利に進めることができるでしょう。
11 撤退する状況を明確にしておく
どれほど成功しそうな新規事業でも、必ず成功するとは限りません。たいていの新規事業は、そこまでうまくいかないか、赤字が続いて失敗に終わります。
そのため、新規事業を立ち上げる際には、あらかじめ徹底する状況を明確にしておくことが重要です。言い換えると、「こうなったら事業をやめよう」と決めておきましょうということです。撤退ラインを決めておかないと、赤字が続いて会社全体で大きな損失をこうむったり、債務超過に陥って会社経営を続行することが困難となる可能性もあります。
たとえ新規事業が失敗しても、他の事業領域で利益を出せていれば会社経営を続けることはできます。他の事業分野に悪影響を出さないためにも、事前に撤退ラインは決めておくことが大切です。
では、具体的にどのような状況ならば事業を撤退すべきなのでしょうか?基本的には、貢献利益が赤字になったら撤退するのがベストです。貢献利益とは、各部門や事業プロジェクトごとの利益であり、売上高から変動費と個別固定費を差し引くことで計算できます。貢献利益が赤字ということは、その事業が会社全体の利益を減らしていることを意味します。そのため、基本的には徹底するのがベストです。
ただし、新規事業の中には利益が出るまでに時間がかかるケースもあります。そうした事業の場合は、貢献利益が赤字になった時点で撤退するのは機会損失となります。そのため、実際には貢献利益以外の判断基準をもっておくことも重要です。例えばあらかじめ定めておいたKPIの達成状況や、市場や利益の成長度合いなどの判断基準が活用されています。
撤退ラインを定める方法をまとめると、「自社の状況を基に判断する方法」と「外部環境を基に判断する方法」に分けることができます。どちらかに偏って新規事業の撤退を判断するのではなく、あらゆる基準を定めておきましょう。そうすれば、多角的な視点から新規事業の撤退を判断できるでしょう。
12 初期費用を抑える
新規事業を立ち上げる上で、非常に重要なポイントの一つが「初期費用を抑えること」です。初期費用とは、新規事業を立ち上げる際や立ち上げ直後に必要となるお金です。例えば会社の設立費用や商品やサービスの開発費用、市場調査に要する費用、宣伝広告費などが該当します。事業内容によっては、機械設備を購入するのに多額の初期費用がかかるでしょう。
しつこいようですが、新規事業の立ち上げが上手くいく可能性は高くありません。言い換えると、費やした初期費用はすべて水の泡となる可能性が高いということです。気合を入れて多額の初期費用を投資してしまうと、新規事業が失敗して多額の損失を抱えるリスクがあります。初期費用を借入により調達していた場合、経営者個人が返済の義務を負うリスクもあります。投資した金額次第では、資金繰りが悪化して倒産や破産などに追い込まれるケースもあるでしょう。
初期投資が大きい新規事業ほど、成功した場合に得られるリターンは大きい傾向にあります。加えて、最初に多額の初期費用をかければ、ビジネスが成長するスピードを早めることができるでしょう。以上より、確かに多額の初期費用をかける行為にもメリットは少なからず存在します。
ですが、メリットが大きいのと同時に失敗した場合の損失も大きなものとなります。そもそも新規事業の成功確率が高くない以上、なるべく初期費用を抑えて新規事業を始めた方が良いでしょう。例えば最初から実店舗を借りて商売するのではなく、ホームページで商品を販売する方法などが考えられます。もしくは商品を製造するビジネスならば、少しだけ販売して手応えを得られたら、そのタイミングで本格的に投資するのが良いでしょう。
初期費用を抑えれば、自己資金でビジネスを始めるのも可能です。金融機関からの借入や投資家からの出資を受けなければ、利息や元本の支払いで資金繰りが悪化する心配もありませんし、投資家に経営権を握られる心配もありません。新規事業を立ち上げる予定の方は、まずは極力予算を抑えることを考えてみましょう。
13 テストマーケティングを行う
必須ではありませんが、新規事業を立ち上げる際にはテストマーケティングを行うのがオススメです。テストマーケティングとは、新しい商品やサービスを本格的に販売する前に、試験的に販売してみて、ニーズがあるかどうかを確認する手法です。基本的には、地域を限定して販売する手法が用いられますが、アンケートやサンプルを使ってもらうケースもあります。
多額のお金を投資して新製品やサービスを本格的に販売すると、万が一商品が売れなかった場合に多額の費用が水の泡となってしまいます。一方でテストマーケティングを行えば、本格的に商品をたくさん製造したり宣伝広告に予算を投入する前に、その商品やサービスに需要があるかどうかを確認できます。そのため、多額の費用を無駄にせずに済むのです。
なお全国展開を目指して商品やサービスを販売する場合、テストマーケティングの地域選びが非常に重要となります。テストマーケティングの地域については、年収や人口などの要因が全国平均と近く、交通の便が良い場所が良いと言われています。具体的には、広島や静岡、神奈川、大阪がテストマーケティングの場所に適しています。事実多くの大手企業は、こうした地域でテストマーケティングを実施してきました。
基本的には自社でテストマーケティングを行いますが、場合によってはリソースが足りなかったり、マーケティングの専門知識がないために、自社で行えないケースもあるでしょう。その場合には、テストマーケティングを専門的に行う外部業者にアウトソーシングするのがオススメです。外部の専門業者に頼むとお金は余分にかかりますが、専門知識のある業者に依頼するため、質の高いテストマーケティングを実施できます。また、テストする分のリソースを利益を生み出す本業に投入できるようになります。
余分なお金や手間こそかかるものの、新規事業のリスクを少しでも軽減したい場合はテストマーケティングを実施すべきでしょう。
14 顧客からのフィードバックを重視する
ビジネスプランの策定や市場選定も重要ながら、実際に新規事業を立ち上げた後の行動も手を抜いてはいけません。
新規事業立ち上げ後に特に意識すべきは、顧客からのフィードバックを重視することです。どれだけ商品やサービスを入念に作り上げても、最初から100%完璧なモノを作り上げることは不可能です。そのため、サービスや商品をリリースした後は、顧客から不満や要望を聞き出し、それをもとにサービス・商品に改良を重ねることが重要です。事実メルカリなどの優れたサービスも、何回も改良を重ねるに重ねて今に至っています。
顧客からのフィードバックを参考にすることで、より顧客のニーズに適した商品やサービスを作り上げることができます。また、顧客とのコミュニケーションを積み重ねることで、顧客が自社に対して持つ愛着(ブランドロイヤルティ)を高める効果も期待できます。あらゆるメリットがあるため、顧客からのフィードバックにはたとえそれが都合の悪い内容だとしても積極的に耳を傾けましょう。
なお顧客からのフィードバックを得る方法にはさまざまあります。一番オーソドックスなのは、インタビューでしょう。インタビューでは直接顧客とのやり取りするため、柔軟に意見を聞くことができます。ただし一度にたくさんの人から意見を聞くことは難しいため、効率性に欠けます。
もう一つメジャーな方法としては、アンケートがあります。アンケート用紙さえ用意すれば、短時間に多くの顧客からフィードバックを得ることもできます。ただしアンケートの質次第では期待した回答を得られなかったり、しっかりと本心で答えてもらえない可能性もあります。
方法ごとにメリットやデメリットは異なり、確固たる正解の方法はありません。顧客からフィードバックを得る際には、予算や目的に応じて方法を使い分ける必要があるでしょう。
15 他社との連携も欠かさずに
新規事業の立ち上げを成功させる上では、他社の力を借りることも欠かせません。どんなビジネスであれ、自社のみで完全にビジネスを完結させることはほぼ不可能だからです。例えば製品を製造する新規事業であれば、販売先や原材料の仕入れ先がいなければビジネスは成り立たないでしょう。
このような他社との関わりに加えて、積極的に他社との連携を図るとより一層新規事業の立ち上げがスムーズにいくでしょう。
例えば専門的なスキルや技術を要する作業をアウトソーシングする方法があります。アウトソーシングとは、簡単に言うと業務の外注です。例えばシステム開発やマーケティングの分析などには専門的な知識やノウハウを要するため、自社のリソースのみで遂行するのは難しいでしょう。そこでアウトソーシングを行えば、外部の専門家に業務を代行してもらえる上に、自社で時間や労力を費やす必要がなくなります。
もしくはM&Aにより、他社と積極的に新規事業の立ち上げを行う手段もあります。M&Aとは会社同士が合併・買収する行為です。一から新規事業を立ち上げて軌道に乗せるとなると、長い時間がかかります。ですが立ち上げる分野ですでに利益を上げている会社や事業を買収すれば、すでに基盤が整っている状態から新規事業を始めることができます。
ただし、M&A自体に時間や費用がかかるため、もう少しつながりの弱い業務提携という手段もあります。業務提携とは、簡単に言うと他社と協力して一緒に新規事業を成長させる手法です。資本の移動を伴う場合は「資本業務提携」と呼ばれます。お互いに経営権を維持したまま協力し合える点でメリットが大きいものの、スキルや技術、機密情報の漏洩には注意が必要です。
また、近年大きな注目を集めているオープンイノベーションも、新規事業の立ち上げでは有効な手法の一つです。オープンイノベーションとは、自社外部から得られたアイデアや技術などを組み合わせることで、新しい商品・サービスやビジネスモデルを開発する手法です。同業他社や隣接する業種からアイデアや技術を得るのはもちろん、大学や研究機関などからアイデアや技術を得る手段も活用されています。
オープンイノベーションを活用するメリットは、自社のみでは作り上げることができないアイデアや技術を手早く得られる点です。新規事業にとってスピードは命なので、このメリットは非常に大きいでしょう。ただし、自社で優れたアイデアや技術を生み出す能力が低下するリスクがある上に、収益を他社に分配する必要が出てくる点などがデメリットとなります。
以上のとおり、他社との連携により新規事業を立ち上げる方法はさまざまあり、それぞれ利点や注意点は異なります。自社に最適な方法を選んで、他社と協力して新規事業の立ち上げにチャレンジしてみましょう。
16 リスクを抑えて何回もチャレンジする
新規事業立ち上げにおける最後のポイントは、リスクを抑えて何回もチャレンジするという点です。新規事業の成功確率は非常に低く、入念に準備しても成功する可能性は高くありません。膨大な初期費用や時間を投資して新規事業を立ち上げて失敗に終わると、精神的にも経済的にも再起不能となる可能性があります。
そのような自体に陥らないために、ここまで紹介したように「初期費用を抑える」とか「テストマーケティングの実施」が重要となります。ですが、こうしたポイントに加えてリスクを抑えることも重要です。もちろん初期投資を抑えることやテストマーケティングを実施することも大事ですが、時間や労力をかけすぎない点も重要となります。
そして、一回あたりの新規事業にかけるリスクを抑えつつ、何回も成功するまでチャレンジすることが重要です。一回あたりの資金や労力を抑えれば、手元に資金や時間が余るため、再び新規事業の立ち上げにチャレンジできます。たとえ一回あたりの成功確率が低くても、何回もチャレンジすれば成功につながる可能性は十分あるでしょう。
もちろん、失敗するたびにダメだった理由を分析し、それを次の新規事業の立ち上げで改善することも重要です。何回も同じ間違いを繰り返しては、ただお金や時間を無駄にするだけです。ですが、改善点を次に活かすことができれば、何回もチャレンジするにつれて成功する可能性が少しずつ低くなっていきます。
新規事業の立ち上げを考える際には、一回で成功するとは考えずに、失敗することを十分視野に入れた上で立ち上げに移りましょう。そして失敗した時も成長の機会であると捉えて、そこで得られた改善点を次に活かすことが大切です。
どれほど優れた経営者でも、新規事業をすべて成功させている人はほぼいないです。それを知っていれば、何回もチャレンジする重要性がわかるでしょう。
17 まとめ
今回の記事では、新規事業を立ち上げる際に知っておくべき15個のポイントについて解説しました。話がかなり長くなったので、最後にもう一度今回お伝えした内容をおさらいしておきましょう。
新規事業でまず重要となるのは、新規事業立ち上げのプロセスです。新規事業を立ち上げる際には、「経営理念・ビジョンの明確化」→「顧客の悩みやニーズを洗い出す」→「ビジネスプランや事業戦略の策定」→「具体的な行動計画を考える」→「新商品・サービスのリリース」というプロセスを経ることが重要です。順番を飛ばしたり間違えると、スムーズに立ち上げがうまくいかないので注意が必要です。
また、ビジネスプランや事業戦略の策定も新規事業の立ち上げでは重要です。ビジネスプラン・事業戦略を策定する際には、「顧客のニーズ」や「自社の強み」、「市場規模・成長性」を意識しましょう。特に、資金面での計画や、他社との差別化ポイントは入念に考えましょう。加えて、リスクを軽減しておくことも重要です。初期費用を抑えることで、何回も新規事業の立ち上げにチャレンジし、少しずつ成功に近づける意識を持ちましょう。