ECサイトにおける商品の取扱い数量が増加するとともに、商品を届ける運送業のニーズも高まっています。ところが、現在、運送業会では深刻なドライバー不足問題を抱え、現場は悲鳴を上げている模様です。一体どういうことなのでしょうか。
目次
- 1 EC市場の拡大と物流の重要性
- 1-1 拡大するEC市場
- 1-2 需要はあるがドライバーが不足
- 2 下請けの見直しが経済の活性化につながる
1 EC市場の拡大と物流の重要性
小口配送のニーズはEC市場の拡大とともに高まりつつあります。経済産業省の報告書によれば、2015年のBtoC※のEC市場規模は、前年比7.6%増の13兆7,746億円となりました。
※ BBtoC…Business to Customer(ビジネス・トゥ・カスタマー)の略で、個人を顧客としたビジネスのこと。一方、BtoB(Business to Business)は法人を顧客相手としたビジネスになる。
1-1 拡大するEC市場
過去5年間のECの市場規模を見ると、2014年までのEC全体の市場規模は前年比10%以上の伸び率で成長してきました。しかし2014年から2015年では伸び率は若干低下しました。
・ EC市場規模の推移
伸び率低下の理由について、報告書ではメルカリやフリルに代表されるフリーマーケットアプリケーション(通称“フリマアプリ”)の存在を挙げ、メルカリ上での月間流通金額は100億円を超える規模に成長し、従来型のEC市場を一部切り崩していると分析しました。
さらにEC市場の今後については
「BtoCのECにおける物販の市場規模拡大は、(階段の)踊り場にあるとも言えるが、2015年の伸び率低下をもってBtoCのEC市場が低迷していると捉えるのは早計である」
としました。
個人間の売買であるCtoCのEC市場については、
「若年層を中心にフリマアプリの人気は高く、『BASE(ベイス)』、『STORES.jp』などの個人が手軽にネットショップを出店できるサービスもまた徐々に知名度をあげ、出店数が増加している。2016年以降もCtoCのEC市場は拡大する」
と分析しました。
BtoBによるEC市場は伸び率が緩やかになったものの、代わりにCtoCによるEC市場が拡大傾向にあるため、EC全体の市場は今後も成長するとの見方がされています。
1-2 需要はあるがドライバーが不足
EC市場の拡大を語るうえで欠かせないのが物流です。配送サービスなくしてインターネットショッピングは成り立たないからです。ECサイト大手のAmazonは数年前から配送サービスを重視。商品をいかに早く購入者まで届けるかに力を注ぎ、独自の配送サービスセンターを設けたり、各国の配送業者と提携して時間指定配送、送料無料などのサービスを実現させてきました。(関連記事 – 流通を支配するAmazon〜創業者ジェフ・ベゾスが描いた未来〜)
しかし、宅配サービスの質を上げるほど割を食うのは配送業者と言われます。とくに2013年に佐川急便がAmazonから撤退※したニュースは記憶に新しく、撤退理由として「休む暇がない」「運賃が安すぎる」などその過酷な労働環境が話題となりました。
佐川急便からアマゾン業務を受け継いだヤマト運輸でも同様の事態となっています。
本来、ヤマトでは配送件数に応じた「業務インセンティブ」があるため、荷物が多いことはドライバーにとってマイナスばかりではありません。しかし、宅急便は1個あたり20円ほどで、仮に50個運んでも1000円ちょっとにしかならない計算です。(参照:弁護士ドットコム)
現在、ヤマトが抱える2015年度の「宅急便」取り扱い総数は17億3126万件におよびます。
また、クリスマスや年末年始の繁忙期には1日200〜300件のノルマが課せられるため、耐えきれず退職する従業員も多いようです。
このような状況から現在は深刻なドライバー不足に陥っています。石井啓一国土交通大臣もこの問題に言及し、「他産業に比べ長時間労働、低賃金の傾向にあり、ドライバー不足が深刻化している。運転手の働き方改革と、トラック輸送の生産性を向上させることが重要だ」と語りました。(参照:産経ニュース)
※ 佐川はアマゾンに対して運賃の値上げを要求。しかしアマゾンがこれを拒否したため、佐川は取引のほとんどを停止した。
2 下請けの見直しが経済の活性化につながる
国土交通省は昨今の運送業の過酷な労働実態を受けて「トラック産業の健全化・活性化に向けた有識者懇談会」で、運送事業のうち大手企業を除く99%の中小零細企業の底上げが肝心との見解を述べました。
2-1 負のスパイラルからの脱却
懇談会では、運送業において下請けになるほど手数料が取られ、運賃が低下することを問題視。結果、ドライバー不足に陥り、輸送がうまくいかず日本の経済が回らなくなると危惧しました。
・ 運送業における負のスパイラル
中小・零細企業は利用運送会社から仕事をもらう |
↓ |
下請けの下層になればなるほど運賃が安く、経営環境が悪い |
↓ |
収入が少ないため賃金が安く、中小・零細は、なお、労働者確保が難しい |
↓ |
法規制や人材確保難、燃料高騰に対し、特に長距離輸送は成り立たない |
↓ |
地方の新鮮な食材や、地方の工場生産の貨物が、都会に届かない |
↓ |
輸送がうまく行かないと、地方の工場は閉鎖せざるを得ない |
↓ |
地方が疲弊し、日本の経済が回らなくなる |
2-2 配送業の健全化を目指す
そこで、国交相は運送・配送業の健全化・活性化のため次のようなガイドラインを作成しました。今後はガイドラインの実効性が問われることになりそうです。
1 | 元請けは、荷主と協力し、法令違反となるような運送を下請けにさせない |
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2 | 各種利用料金を荷主から頂き下請け業者に支払う |
3 | 傭車手数料※は、運賃からのみ |
4 | 下請け比率を50%以下とし、3次下請けまで |
いくらEC市場が盛り上がっても、ドライバーがいなければインターネットショッピング後に商品は届きません。ドライバーの労働環境の改善が急務です。
※ 傭車(ようしゃ)とは、繁忙期などでトラックなどが不足したとき、他運送業者から依頼をすること。または、下請けの業者に依頼をすること。