本が売れないと嘆かれて久しい出版業界。町の小さな本屋は姿を消し、大手チェーン書店もつぎつぎと閉店し、地方の商店街は閑古鳥が鳴いています。本が売れなくなった原因はネット通販の隆盛など時代の変化によるところが大きいとされますが、本屋はそれでも本を売らなくてはなりません。
ところで、ここ5年ほどの間で、300坪以上の敷地面積を誇る大型書店がカフェを併設した「ブックカフェ」が定番化しました。このほか、雑貨やギャラリー、ドラックストア、授乳室を設ける本屋まで出現するなど業態はバリエーションに富みます。
そこで本記事では、最新の書店の業態事情をご紹介。生き残りをかけた書店の新戦略が見えてきました。
目次
- 1 書籍の売上はどれくらい減っている?
- 1-1 書籍・雑誌の市場規模はピーク時の約半分
- 1-2 減少の原因はインターネットの台頭
- 2 ブックカフェは当たり前? 変化した読書スタイル
- 2-1 過去最高の売上を更新する蔦屋書店
- 2-2 ベビー、キッズと気兼ねなく入れる「STORY STORY」
- 2-3 未来型コンビニ書店の登場
- 3 書店の未来はどうなる
1 書籍の売上はどれくらい減っている?
全国の書店の総店舗数は1980年代後半をピークに下降をはじめ、2016時点で13,488店となりました。10年前と比べると約4,000店の減少となり、この推移が続けば2022年には計10,000店近く減少すると予測されます。
年度 | 書店数 |
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2005年 | 17,839 店 |
2006年 | 17,582 店 |
2007年 |
17,098 店 |
2008年 | 16,342 店 |
2009年 | 15,765 店 |
2010年 | 15,314 店 |
2011年 | 15,061 店 |
2012年 | 14,696 店 |
2013年 | 14,241 店 |
2014年 | 13,943 店 |
2015年 | 13,488 店 |
・ 出版社数と書店数の推移比較
(参照:日本著作販促センター)
1-1 書籍・雑誌の市場規模はピーク時の約半分
出版科学研究所によると、紙媒体の市場規模は1996年のピーク時で1兆930億円でしたが、以降18年間は基本的には減少傾向で、2014年は7,544億円とピーク時から31%減少しました。
紙媒体の雑誌の市場規模は1997年のピーク時で1兆5,630億円でしたが、以降17年間は減少傾向で、2014年は8,520億円とピーク時から45.5%減少しました。(参照:NTTデータ経営研究所)
1-2 減少の原因はインターネットの台頭
NTTデータ研究所は書籍の市場規模の縮小および書店の売上の減少のおもな要因は、①インターネットの進化・普及の影響、②インターネット書店の隆盛、③電子書籍の普及にあると分析します。
①インターネットの進化・普及の影響 | インターネットの無料コンテンツ増加、グーグル、ヤフーなどの検索サイトの普及・進化・利用増(広告収入モデル)に対して、有料の紙媒体書籍・雑誌が劣勢となったことが大きく影響し、紙媒体の書籍・雑誌の売り上げが大きく減少した |
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②インターネット書店の隆盛 | リアル店舗の書店とウェブ書店の競合のもと、書籍・雑誌購読者層がアマゾンなどインターネット書店の利便性を高く評価、オンラインで書籍・雑誌を購入するようになり、リアル書店の需要が減少、売り上げが浸食された。 |
③電子書籍の普及 | 2019年度の電子書籍市場規模は、2,890億円程度(2014年度の2.3倍)、電子雑誌市場規模は510億円程度(2014年度の3.5倍)電子書籍と電子雑誌を合わせた電子出版市場は3,400億円程度と予測されており、その分、紙媒体の書籍・雑誌の市場規模を浸食し、リアル書店の売上の減少要因となっている。 |
(参照:NTTデータ経営研究所)
2 ブックカフェは当たり前? 変化した読書スタイル
購入する前の本を読むことができるブックカフェを中心とした書店に隣接させる複合型書店の形態は、2000年代中盤から徐々にその数を増やしています。
2-1 過去最高の売上を更新する蔦屋書店
書籍販売、CD・DVDレンタルなどで有名なTSUTAYAを運営する株式会社CCC(カルチャー・コンビニエンス・クラブ)は、カフェが併設された書店「Culfe(カルフェ)」を2013年から3年間で100店舗に拡大しました。
CCCではスターバックスとライセンス契約を締結し、TSUTAYA内にあるスターバックスの売上げはすべてTSUTAYAの売上げとして計上されるようになっています。
カルフェではカフェのレジで書籍の購入もでき、コーヒーと一緒に読みたい本を購入したり、選んだ本を近くのカフェのレジで精算できたりするなど、利用客の利便性が図られています。
(▲カルフェの外観 / 出典:CCC カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)
CCCは、カルフェが提供する読書スタイルについて「書籍・雑誌売場とカフェが“併設”されるだけでなく、境目なく“一体的に融合”しており、購入前の書籍や雑誌を“カフェ席”に持ち込んで自由に読むことができ、“書籍売場”内にも”カフェ席”が多数配置され、コーヒーを片手に本選びも可能」と説明します。
その結果、TSUTAYAの書籍・雑誌の2016年における売上げは22年連続して過去最高額を突破し、全国812店舗で1,308億円となりました。TSUTAYAによれば国内最大の売上高だとします。
(参照:CCCニュースリリース)
1-2 ベビー、キッズと気兼ねなく入れる「STORY STORY」
創業100年を超す老舗書店の有隣堂は、2015年、電子書籍で提携する楽天と複合施設のノウハウを持つリーティングカンパニーとの協力のもと、書籍・雑貨・カフェの機能を兼ね備えた新業態「STORY STORY(ストーリー・ストーリー)」を始めました。
(▲ストーリー・ストーリーの店舗外観 / 出典:日経トレンディネット)
730平方メートル(220坪)の広い店内に雑貨がきれいにディスプレイされ、一見本屋とは気づかないような、おしゃれな店内風景に驚かされます。
ストーリー・ストーリーでは、購入前の書籍を併設のカフェでゆっくり楽しむことができるほか、知育玩具や絵本なども取り揃えており、親子で一緒に楽しむことができるスペースも確保。有隣堂は、読み聞かせなど親子で参加できるイベントを随時行い、階下の子供用品売場も含めた親子連れの回遊を促すことができるとしています。
(参照:店内での読み聞かせ会の様子 参照:ストーリー・ストーリー)
また、店内には楽天が提供する電子書籍リーダーkoboが20台以上設置されており、気軽に電子書籍を楽しむことができます。店舗内のカフェでは「楽天市場」で人気のスイーツも提供され、お持ち帰りも可能。また、季節やトレンドなどにあわせて「楽天市場」からセレクトした雑貨も販売しています。(参照:楽天プレスリリース)
1-3 未来型コンビニ書店の登場
大手コンビニチェーンのローソンとフタバ図書は、2014年、複合書店とコンビニエンスストアの一体型店舗の展開を始めました。広島県広島市にオープンした第1号店では、道路に面した通常入口のほか、書店側にもローソン店舗への入口を設け、フタバ図書の営業時間内であれば書店から自由に行き来することができます。
店内には書籍50万冊、野球(広島カープ)グッズ3千種類、レンタルDVD10万本、CD・DVD15万枚、ゲームソフト2万本、文具5千アイテムを取り揃えており、日本最大級の未来型書店コンビニとなります。
(▲併設されたローソンとフタバ図書)
かねてから書店内にコンビニを併設してほしいとの要望があり、需要に応えることで利用客の利便性の向上と集客が図られました。
コンビニが他業種と連携してサービスを提供するのは、最近の“流行り”とも言え、利用客のついで買いなどの相乗効果が期待されます。
今後両社は、双方が持つインフラやノウハウを共有し、「未来型書店コンビニ」として地域の利用客に支持される店舗づくりを目指すとしています。(参照:ローソンニュースリリース)
また、ローソンは、2015年から全国の約1000店舗で専用の書籍棚を設けるなど、書籍の取り扱いを始めています。昨今の書店減少を受け、実際に書籍を手にとって選ぶ機会を増やすため、販売を開始しました。
通常の店舗では10~20冊の書籍(漫画除く)を販売しますが、導入している書籍販売専用の商品棚では、小説文庫や雑学文庫、ビジネス書、料理・健康の実用書など、人気ジャンルの書籍を75アイテムほど用意しています。(参照:ローソンニュースリリース)
3 書店の未来はどうなる?
今後は、スマートフォンやタブレットユーザーの増加により電子書籍、電子雑誌を利用する機会が増えることが見込まれるため、さらなる書店減少が予想されています。そういった中でTSUTAYAが記録した過去最高の売上げは、出版業界の唯一の明るいニュースともいえます。新業態の書店が売上げ減少の歯止めとなるのか。今後の動向に注目です。