3月14日、Jリーグは社員総会で2016年度の収入が過去最高の135億円6000万円になる見通しだと発表しました。
Jリーグは、今年から英ストリーミング会社パフォームグループ(Perform Group)が提供する「ダゾーン(DAZN)」にて、全試合をストリーミング配信しています。
ダゾーン元年となった2017年で好スタートを切ったJリーグ。2年連続でスタジアムの入場者数が1000万人を突破するなど、景気は上向きです。果たして契約金10年2100億円の期待に応えることはできるのでしょうか?
目次
- 1 パフォームグループとは何だ?
- 1-1 世界最大のスポーツコンテンツ配信会社
- 1-2 なぜ破格の金額で契約できたのか
- 2 Jリーグの経営状況
- 2-1 過去最高益となるも黒字額は大幅に減少
- 2-1 Jリーグの経営の現状と今後
- 3 「10年2100億円」の期待に応えられるか
1 パフォームグルームとは何だ?
昨年末、創立25周年の節目を迎えたJリーグはJ1・J2の全試合を中継していたスカパーから、ライブストリーミングサービスのダゾーン(DAZN)に切り替えることを発表しました。ネットのみで試合の中継を行うのは、ダゾーンにとっても世界初の試みとなります。
ダゾーンでは現在J1・J2・J3の全試合が独占配信されており、このほかドイツ1部リーグ・ブンデスリーガやイタリア1部・セリアAなど海外サッカーを含めたさまざまなスポーツを視聴することができます。
1-1 世界最大のスポーツコンテンツ配信会社
(出典:Gigaom)
ライブストリーミングのダゾーンを運営するのは、英企業のパフォームグループ(Perform Group)です。
パフォームグループは、2007年にプレミアムTV(スポーツ部門でのインターネットとモバイルソリューション事業)とインフォーム・グループ(スポーツのデジタル権利事業)の合併により創設。翌年、シモン・デンヤーCEOのもと現在の「Perform」に改称しました。
パフォームが提供するダゾーンは、ロンドン、ベルリン、ミュンヘン、東京にオフィスを構え、海外サッカーを始め、野球、バスケットボール等130以上のスポーツコンテンツと年間6,000以上の試合をフルHD画質でストリーミング配信しています。月額1,750円で上記コンテンツが見放題となり、スマートテレビ、スマートフォンやタブレット、パソコンなどの端末で楽しむことができるサービスです。
リアルタイムで視聴できない人のために見逃し配信にも対応。ライブ配信終了後30日間は同じ試合を何度でも視聴できる仕組みとなっています。ダゾーンジャパンのジェームズ・ラシュトンCEOによれば、見逃し配信の期間延長も検討しており、要望が多ければ、90日や120日に引き延ばすことも検討可能と話しています。
1-2 なぜ破格の金額で契約できたのか
Jリーグとパフォームグループの交渉は昨年から進められ、7月、2026年までの10年間で2100億円の放映独占契約を締結しました。年間平均でいえば210億円を超える大型契約で、スカパーJSATの年間契約額の4倍超となりました。さらに、金額は最低保証のため収益次第では上積みされる可能性もあります。
(▲写真中央がJリーグ村井満チェアマン (出典:日本経済新聞))
契約内容によればダゾーンが持つのは放映権のみで、著作権はJリーグに帰属します。映像も主にJリーグが制作し、ダゾーンはプレミアリーグの放送ノウハウ提供などサポートにとどまります。このように、Jリーグが放送・動画・映像の権利を保有するのは創設25年以来初となりました。
ダゾーンジャパンのジェームズ・ラシュトンCEOは巨額投資を決めたJリーグの価値について
「パフォームはダ・ゾーンに登録した人からの利用料だけで収入を稼ぐという、とてもシンプルなビジネスモデルを取る。ダ・ゾーンには広告も入らないが、利用料だけで十分に費用をカバーできると思っている。(世界的には)音楽定額配信のスポティファイや、動画配信大手のネットフリックスが成功している。スポーツファンの方が音楽ファンより情熱を持っていると思うから、スポーツで同様のサービスが成功しない理由がない」(参照:日本経済新聞)
と自信をのぞかせました。
(▲ダゾーンジャパンのジェームズ・ラシュトンCEO (出典:DAZN))
さらに、ダゾーンでは映像製作に関して世界標準の中継映像づくりを目指すとし、従来よりカメラを3台増やした9台体制で中継。スーパースローやリバースカメラを駆使してスタジアムの臨場感をこれまで以上に演出することができるとしています。
また、同契約にはパートナーとしてNTTグループも加わっています。J1各クラブのホームスタジアムにwi-fi環境整備・情報サービス提供などを進めるスマートスタジアム計画に取り組む予定で、スタジアムでの視聴環境の質の向上や新たな体験を創出するとしています。
2 Jリーグの経営状況
1993年の開幕当初は、ジーコ、ストイコビッチ、リトバルスキーなど多くのビッグネーム外国人選手が在籍し、Jリーグを大いに盛り上げました。その後は一時低迷するものの、2002年のW杯日韓同時開催で日本サッカーは再び盛り上がります。2008年には当時の過去最高収益を記録しますが、2011年の東日本大震災で売り上げを大きく落とします。
2015年からはJ1に2ステージ制※が導入され、ファンやサポーターの一部からは「時代に逆行している」など批判されるも、2016年度の収入は過去最高となりました。
2-1 過去最高益となるも黒字額は大幅に減少
平成28年度決算では収入(経常収益)は135億6000万円で、6900万円の黒字です。前年比で収入は2億1900万円の増加、黒字額は4億9600万円の減少となりました。
黒字額が大幅に減少した要因には、事業費が2015年度より6億5800万円増加したことが挙げられます。結果、経常費用も7億1500万円増加し、黒字の減少につながりました。
・Jリーグの収入の推移
(参照:どらぐら日記)
また、入場者数については2016シーズンの総入場者数が1,000万人を突破いたしました。1シーズンで総入場者数が1,000万人を突破するのは2年連続となります。
・過去4年の入場者数
年度 | 入場者数(人) |
---|---|
2013 | 9,165,092 |
2014 | 9,539,714 |
2015 | 10,044,351 |
2016 | 10,014,592 |
2-2 Jリーグの経営の現状と今後
Jリーグの経営状況について、企業経営分析を行うKMPGは、Jリーグに加盟するほとんどのクラブは、スポンサー企業からの広告料収入に過度に依存した経営状態にあると指摘します。
多くのJクラブでは広告料収入が入場料収入を大きく上回っており、クラブ経営を行ううえでリスクが高いと分析。ドイツ・ブンデスリーガでは所属クラブの広告料収入、入場料収入、放映権料収入の割合はそれぞれ30%程度であるため、Jクラブが特定の収入に依存していることは明らかだとしました。
・ 15年度J1入場料収入
クラブ名 | 収入 |
---|---|
浦和レッズ | 21億7400万円 |
FC東京 | 9億6600万円 |
横浜Fマリノス | 9億4800万円 |
ガンバ大阪 | 7億9500万円 |
川崎フロンターレ | 7億7700万円 |
名古屋グランパス | 7億2700万円 |
アルビレックス新潟 | 7億1100万円 |
ベガルタ仙台 | 6億6000万円 |
サンフレッチェ広島 | 6億3800万円 |
松本 | 5億9700万円 |
サガン鳥栖 | 5億7600万円 |
清水エスパルス | 5億5100万円 |
ヴィッセル神戸 | 4億2500万円 |
ヴァンフォーレ甲府 | 3億5400万円 |
湘南ベルマーレ | 3億3500万円 |
モンテディオ山形 | 2億8100万円 |
「入場料収入が低いと試合観戦のニーズはそれほど高まらず、試合観戦のニーズが低いと試合の放映権を高額で売却することができないことに加えて、試合放映がほとんど行われないことからスポンサー企業は広告を打つことをためらってしまうと考えられ、結果として営業収入を増加させることが困難になってしまう。このように、Jクラブは営業収入を獲得していくうえでクラブ経営の悪循環に陥っている」(参照:KPMG Insight 「Jリーグの現状分析」)
とされていました。
しかし、この度の大型投資により状況は一変。Jリーグは原資を獲得したことでさまざまな強化費、育成コストに振り向けることができるようになります。
さっそく2016-2017シーズンのJ1上位チームの賞金の増額が発表され、優勝チームには合計で21億5000万円が支払われることになりました。昨季の4億8000万円の4倍以上となります。
さらに、優勝賞金を元に海外有名選手を獲得すれば、クラブのレベルアップにつながるだけでなく、観客収入や広告収入の増加も見込むことが十分期待できます。ヴィッセル神戸のオーナーを務める楽天の三木谷社長は、3月、元ドイツ代表のポドルスキが正式加入することを発表。久々のビッグネームのJリーグ参戦に期待がかかります。
※ 2ステージ制とは、リーグを前期と後期の2つに分け、前期優勝者と後期優勝者を含めた年間勝ち点3位までの最大5チームが出場できるチャンピオンシップ(CS)で年間優勝者を争う方式で、2015年、2016年の2シーズンで採用されていた。
3 「10年2100億円」の期待に応えられるか
村井滿チェアマンはパフォームとの大型契約で地上波放送を含めた視聴機会を増やす手段を手にすることができたとし、今後のJリーグについて
「Jリーグが目指すところは、スポーツを産業にという国の大きな方針に対してそれを牽引していく立場で全面的にスポーツを産業化していくことに舵を切ります」
と、Jリーグをスポーツ産業の先駆けとする方針を掲げます。
「産業という言葉の意味合いで言えば、そこに投資が行われる、将来価値を見越して投資が行われる、そしてそのもとに人材が集まってくる。アイディアが集まってくる、そして新しい市場が生まれてくる、今までにないサービスが生まれてくる。そうした延長線上で豊かな地域社会や日本のスポーツ文化をどんどん育んでいく。」(参照:Qoly)
日本のスポーツ史に残る大型契約となった10年2100億円。果たして期待に応えるだけの成果をあげることができるのか。今後のJリーグに注目です。