会社といえば従業員を雇っていなければならないイメージがあるかもしれませんが、現行の会社法では社長一人の会社というのも設立することができます。このような会社のことを指して一人会社と呼びますが、小規模事業の場合、個人事業か一人会社どちらが良いのかは判断に迷う所です。本記事では一人会社を設立するデメリットやデメリット、定款の作成方法など設立する手順、初めて従業員を雇うポイントについて説明します。個人事業主か法人どちらで事業をしようか迷っている方はぜひご参考ください。
1 一人会社とは
一人会社とは社長一人で経営している法人のことを指します。まずはこの一人会社とはどのような組織なのかについて説明します。
1-1 会社は一人でも作ることができる
旧商法の元では株式会社を設立するのは手間でした。資本金として最低1,000万円以上必要でしたし、取締役も3人必要でした。そのため、まずは個人事業主や有限会社として起業して、ある程度事業が大きくなった段階で株式会社化するというケースが多数ありました。
しかし、新会社法の成立以降、資本金や取締役の要件が緩和され、資本金1円、取締役1円から株式会社が設立できるようになり、零細・中小企業向けの合同会社という新たな法人形態も設立できるようになりました。このような事情から、はじめから株式会社や合同会社のような法人形態で会社を設立して事業を始めるということが簡単になりました。
社長一人の株式会社や合同会社のことを「一人会社」と呼びます。一人とはその名の通り、社長一人で経営している企業のことを指し、一見したところ個人事業主として起業しても良いと思えます。
しかし、そもそも法人と個人事業は根本から制度が異なり、個人事業主よりも法人として事業をした方が得するケースも少なくないのです。
1-2 法人と個人事業の違い
法人と個人事業主の本質的な違いは、事業が誰に帰属するかです。個人事業主の場合は事業の責任はその事業を行っている個人に帰属しますが、法人の場合は、「法人」という法律によって疑似的に作った人格に帰属します。
例えば、鈴木さんが個人事業主として事業をしている場合は、事業の収益も借金も責任も鈴木さん個人が背負わなければなりません。しかし、まったく同じ事業でも、鈴木さんが山田株式会社という法人を設立して、鈴木さんが社長一人で事業を行っていても、事業の収益や借金、責任はすべて山田株式会社のものとなり、鈴木さんは山田株式会社から役員報酬を貰って事業をしているという立て付けになります。
このように実態は同じようになっていたとしても、法人として事業を行っているか、個人として事業を行っているかによって違いが発生します。
2 一人会社を設立するメリット
では、1人で事業を行う場合でも、個人事業主ではなく法人として事業を行うことによってどのようなメリットがあるのかについて説明します。
2-1 節税対策の幅が広がる
まず、一人会社を設立するメリットとして挙げられるのが、節税対策の幅が広がることです。例えば、個人事業主の場合は青色申告をすれば3年まで損失の繰り越しが可能になりますが、法人の場合は9年間まで損失の繰り越しが可能になります。よって、創業してからしばらく赤字が続き事業の場合は損失の繰り越し期間が長い法人の方が税制面で有利になる可能性があります。
また、社宅や出張・旅費規程を使った節税対策のように、個人事業主にはない節税対策の選択肢が広がります。事業によって収益が発生していない段階ではこのような節税対策を行う必要はありませんが、事業が大きくなってくると、個人よりも一人会社の方が節税対策の幅が広がるので、法人の設立を検討してみても良いでしょう。
2-2 資金調達がしやすくなる
資金調達がしやすくなるというのもメリットの1つです。個人事業の場合は、個人のお金と事業のために資金が明確に区別されていません。どちらも個人名義の口座に預け入れられるからです。
一方で、法人の場合は、会社のお金と経営者個人のお金が明確に区別されています。会社のお金は会社名義の通帳、経営者個人のお金は経営者個人の通帳に入っていて、一人会社の社長といえども、個人と会社のお金を混同して使うことはできないからです。
お金を貸したり、出資したりする側から見たときに、資金を融通しやすいのは、個人のお金と会社のお金をきちんと分離管理している法人の方です。よって個人事業よりも一人会社の方が資金を調達しやすくなります。
2-3 有限責任になる
個人事業は無限責任、株式会社や合同会社などの法人は有限責任というのも一人会社を設立する上で大きなメリットの1つです。先ほどから説明しているとおり、個人事業主の場合は社長個人の責任で事業を行うので、事業の失敗は経営者個人で背負う必要があります。例えば、事業で失敗して1億円の借金が発生したとしたら、個人事業主の場合は事業を清算してもその借金を経営者個人が背負わなければなりません。
一方で株式会社や合同会社の場合、経営者が借金の連帯保証人になっているケースは別として、原則として事業に失敗した場合でも経営者が背負うべき責任は出資金の範囲に限定されています。
例えば、資本金300万円の会社で事業に失敗して、2,000万円の借金を背負ってしまった場合でも、経営者は出資金の300万円が手元にかえってこないだけで済みます。道義的な責任は別として法人の連帯保証人になっていないのなら、2,000万円の借金を経営者個人は背負う必要が無いのです。
一人会社を設立することによってこのような事業に失敗した場合のリスクヘッジも行うことが可能です。
2-4 人を雇いやすくなる
人を雇いやすくなるというのも、一人会社を設立するメリットです。個人事業と比較して、法人の方が出資金という事業の裏付けとなる資金がありますし、経理もしっかりしています。また、一定以上の事業規模が期待されるので、求職者は個人事業よりも株式会社や合同会社のような法人が行っている事業の方が安心して働くことができます。
人手不足の昨今においては有名なフランチャイズチェーンを行っているなどの例外を除けば、基本的に個人事業で求職者を確保するのは大変です。今は一人で事業をしているけれども、人を雇うことを考えているという場合は、個人事業ではなく1人会社を設立した方が良いでしょう。
2-5 営業しやすくなる
上記の人を雇いやすくなるということと、類似して、個人事業ではなく一人会社として事業をした方が、会社の信用度が上がり営業しやすくなります。
信用度の低い企業と取引していると、極端に言えば連鎖倒産に危機が高まります。連鎖倒産とは取引先が倒産することによって、売掛金が回収できずに資金繰りが悪化したり、仕入れ先・下請けの倒産によりサプライチェーンが機能しなくなり事業が継続困難になって、自社も連鎖的に倒産してしまう現象のことを指します。
もちろん、倒産までは行かなくても、取引先で何らかの不具合が発生した場合、自社も少なからず悪影響が発生することが予想されます。そして、法人よりも個人事業の方が事業規模が小さく資金的な裏付けが無いことが多いので、個人事業主は法人よりも信用度が低いと企業間取引でも見なされることが多いです。
よって、実際には1人で運営している事業であっても、一人法人を設立しておいた方が信用度が高いと見なされ、営業・取引先開拓の際には有利になります。
3 一人会社を設立するデメリット
一方で一人会社を設立することにはデメリットも伴います。本章では、個人事業主ではなく、一人会社を設立して事業を行うことによってどのようなデメリットが発生するのかについて説明します。
3-1 税務申告が複雑になる
個人事業主の場合は、1年に1回確定申告をしなければなりません。一人会社でも1年に1回、会社の税務申告が必要になります。法人の場合は1年以内であれば定款によって自由に事業年度のはじめの終わりを決めることができますが、一方で税務申告の難易度もあがります。
法人の場合は、貸借対照表と損益計算書、各種税務申告書類を添えて税務署に所得を申告し、納税しなければなりません。よって、確定申告位なら自分で行うことができても、企業の税務申告になると税理士に頼まないと申告が難しいということはよくあります。
税務申告が個人事業よりも複雑になることによって、税理士を雇う費用が発生しますし、税理士を雇わない場合でも申告書を作る手間がかかります。
3-2 個人の資産と法人の資産を区別しなければならない
個人の資産と法人の資産を区別しなければならないことにも注意が必要です。例えば、今月は生活費にお金が掛かってしまったという場合、個人なら事業に使っているお金を取り崩して自分の生活に充てることが可能ですが、法人の場合、個人の資産と法人の資産は別なので、生活が苦しいからといって、安易に会社の資産を個人の資産に移動することはできません。
個人事業主は自分の給料を何円に設定しようと自由ですが、法人の場合、社長=役員の給料はコロコロ変えることができません。役員報酬は原則として定期同額給与にしなければなりません。例えば、個人事業主の場合は、毎月の出費によって、給料20万円、30万円、50万円のように自分の生活費を自由に決めることができますが、法人の役員報酬は給料を20万円、30万円、50万円などとコロコロ変えることができずに、コロコロ変えている部分の給料は損金として認められない可能性があるのです。
よって、法人に資産を貯め込んで、自分の給料を少なくしていると、会社は潤っているけれども、経営者個人としては貧しいという事態はごく普通に発生しうります。
個人の資産と法人の資産が区別されて、自由に移動することができないのも、一人会社を設立するデメリットです。
3-3 社会保険料が高くなる可能性がある
個人事業主よりも一人会社の社長の方が社会保険料は高くなる可能性が高いです。個人事業主の場合は国民年金保険、一人会社の社長の場合は厚生年金保険に加入しなければなりません。ちなみに、厚生年金保険の保険料は、半分を会社が負担し、半分を個人が負担することになります。
具体的な保険料は毎年少しずつ変化をしていますが、一般的に厚生年金保険の保険料は国民年金保険の保険料よりも高くなる傾向があります。予想される年金支給額は国民年金よりも厚生年金の方が高くなりますが、事業者の資金繰りを考えれば、厚生年金保険の方が保険料は高くなることが多いので、資金繰りが厳しくなります。
3-4 会社設立にはコストがかかる
会社の設立にもコストがかかります。個人事業主の場合は、管轄の税務署に開業届や青色申告申請書を提出するだけで良いですが、法人の場合は定款を作成して、管轄の法務局に法人設立を届け出る必要があります。
会社の設立コストは合同会社か株式会社かによっても異なりますが、だいたい10万円程度になります。また、資本金も必要になります。例えば資本金100万円の会社を設立する場合は、個人の資産から100万円を法人の資産に出資する必要があります。理論上は1円から会社を設立することが可能ですが、1円で会社を設立すると創業直後から債務超過状態の会社ができあがるので、その後の資金調達などを考えると100万円程度は用意しておいた方が良いでしょう。
このように、会社設立の際にまとまったお金が個人の資産から流出するのは一人会社のデメリットだと言えます。
3-5 事業運営のランニングコストが高くなる
事業運営のランニングコストも、個人事業主よりも法人の方が高くなる傾向があります。例えば、法人の場合、会社の本社所在地を登記しなければなりません。そして、賃貸物件の場合、大家さんの許可が無いと勝手に会社の本社として物件を登記することができません。
よって、個人事業主ならオフィスが無くてもできる仕事でも、一人会社なら本社登記できるオフィスを確保する必要があります。ちなみに、ただの登記だけなら、月々数千円支払ってバーチャルオフィスを利用する方法もあります。
また3章の冒頭で説明した通り、税務申告が少し複雑なので税理士を雇うことになるケースが多いです。税理士と顧問契約すると月々数万円を顧問契約料として支払い、決算の際には別に申告書作成費用を支払う必要があります。
さらに、株式会社の場合は、決算を公告と言って、公に開示しなければなりません。このときの掲載料は会社負担になりますが、官報を使用する場合は7万円程度の費用が発生します。
このように、個人事業よりも法人の方が何かとランニングコストがかかることが多いです。
4 株式会社、合同会社どちらが得か?
以上のように、個人事業と比較した時の一人会社設立のメリット・デメリットについて説明してきました。4章では、一人会社を設立するならば株式会社、合同会社どちらの方が良いのか、個人事業から一人会社に切り替えるタイミングについて説明します。
4-1 株式会社と合同会社の違い
上記のメリット・デメリットを勘案して、一人会社を設立することを決定した場合、次に決定しなければならないのは、株式会社、合同会社いずれかの法人形態で会社を設立するかということです。厳密に説明すればこの他の法人形態もありますが、新設法人の約7割は株式会社、約2割は合同会社として設立され、他の法人形態は制約が多い法人も多いので、実際には、株式会社、合同会社のいずれかを選択すれば十分です。両者の違いについて説明します。
4-1-1 合同会社は出資者=経営者
まず、合同会社と株式会社の大きな違いの1つが、株式会社の場合は出資者と経営者が分離している可能性があるのに対して、合同会社の場合は出資者=経営者になるということです。
株式会社の場合は株主総会で取締役を任命して会社を株主の代わりに経営してもらいます。このときに株主が直接経営に関わる必要は無く、株式を保有していない人が会社を経営することも可能です。一方で合同会社の場合は、株式を発行しないので、会社に出資をしている人が経営者となります。
一人会社として経営しているのなら、社長一人で出資も経営も行っているケースが多いので、それほど気にする必要はありません。ただし、他人から出資だけを受けるという場合は、株式会社では可能でも、合同会社ではできないので注意してください。
4-1-2 合同会社は定款で決められるルールの範囲が広い
会社の基本的なルールのことを定款と呼びます。そして、合同会社の方が定款で決められるルールの範囲が広いです。
株式会社の運営ルールは会社法によって大きく制限されています。例えば、会社で利益が発生した場合、出資者に対して配当金という形で還元することができますが、合同会社の場合は、定款で決めれば自由に配当金を分配できるのに対して、株式会社では、株式の保有割合に応じて配当金が分配されます。
他にも株式会社の場合は役員の最長でも10年以内にしなければなりませんが、合同会社の場合は自由に役員の任期を設定することができます。
一人会社ではこのような定款で決められるルールの範囲をあまり意識する必要はありませんが、会社の規模が大きくなり、出資者が増えてくれば来るほどこのようなルール設定の違いが重要になります。
4-1-3 株式会社の方が知名度は高い
先ほど、個人事業よりも法人の方が信用力は高くなり、資金調達や営業の際に有利になると説明しましたが、同じ法人でも株式会社と合同会社では知名度が異なるため、信用力にも違い発生します。
合同会社は新会社法で設立可能になった法人形態で、ここ10年程度で誕生しました。これに対して株式会社は会社法ができる前から存在しており、昔は資本金1,000万円以上、取締役3人以上と設立のハードルが少し高かったのです。
現在は株式会社を設立するのも、合同会社を設立するのも費用的にはほとんど違いはありませんが、このような背景があるので株式会社の方が合同会社よりもきちんとした会社だと見なされることが多いです。
4-2 株式会社と合同会社どちらが得か?
以上の違いをベースに、一人会社を設立する場合、株式会社と合同会社をどのように使い分ければ良いのかについて説明します。
まず、1人会社として設立する場合は、株式会社であっても合同会社であってもほとんど違いはありません。イニシャルの設立コストは合同会社の方が低いですが、差額が数万円から10万円程度なのでほとんど気にする必要が無いでしょう。
どちらの法人形態の方が良いかを考える際に、目安となるのがどのような会社運営をしたいかです。一人会社として設立しても、多くの人がいずれ事業を拡大したいという野望を持っているはずです。
このときに将来的に上場を考えていたり、ベンチャーキャピタルのような投資家から出資をうけたりすることを計画しているのであれば、株式会社として設立した方が良いです。合同会社では上場したり出資を受けたりすることができないので、このような戦略を取る場合は株式会社にする必要があります。
一方で、上場や出資を受ける予定は無く、1人で好きなことをしたい、あるいは少数精鋭で生産性の高い会社運営をしたいという場合は、株式会社よりも合同会社の方が優れています。自分達で決められる会社のルールの範囲が広いですし、スピーディーな経営が可能になります。
株式会社の方が合同会社よりも信用されやすいという点もありますが、法人形態を選ぶ際には両者の違いはあまり加味しなくても大丈夫です。徐々に合同会社という法人形態はメジャーになりつつありますし、どちらも資本金1円、社長1名から設立できるので、本質的には両者の信用力の裏付けにほとんど違いは無いはずです。また、後から、変更することも可能ですので、会社を大きくしたくなったら合同会社を株式会社にするということも可能です。
自分の考える会社が向かうべき成長イメージに合わせて法人形態を選べば良いでしょう。
4-3 個人事業から一人会社を設立するタイミング
もう1つ、一人会社を設立するにあたって問題となるのが、個人事業が良いか一人会社を設立するのが良いかということです。
これについては、一つの目安となるのが事業による収益です。経営者個人に対する所得税は累進課税となっており、所得が高くなればなるほど税率が高くなります。一方で法人税は所得に関係なく税率は一定になっています。よって、事業から一定以上の収益が発生している場合は、個人よりも法人の方が税金は安くなります。また、一人会社のメリットの所でも説明しましたが、個人事業よりも一人会社の方が節税対策の幅が広がります。
以上のことから一定以上の所得が期待される場合は個人よりも法人として事業を行った方が有利です。だいたい500万円~1,000万円程度の所得の発生が期待される場合は一人会社を設立することを検討した方が良いでしょう。
ただし、一定以上の所得がある場合、会社の財布にお金を入れておいた方が個人の財布にお金を入れておくよりも、合計で考えると節税できるということであって、デメリットのところでも説明した通り、会社の財布と個人の財布の間で簡単に資産の移動はできません。節税に重きを置きすぎると経営者個人としては豊かになりにくいです。
一定以上の起業資金がある場合は、事業を有限責任にして、節税するためにも一人会社を設立した方が良いですが、起業資金が少ない場合は個人事業主として起業して事業が安定してきたら法人成りを検討しても良いでしょう。
5 一人会社の設立手順
一人会社の設立手順について簡単に説明します。法人を設立する際には、①定款を作成する、②法務局に法人設立を届け出る、③設立後の各種手続きを行うという3つのステップがあります。
5-1 定款を作成する
まず、一人会社を設立する第一段階として、会社の基本ルールとなる定款を作成しなければなりません。定款には会社の所在地や資本金の金額、会計年度など会社の運営に必要な基本情報が盛り込まれています。何を定款に盛り込まなければならないかは、株式会社か合同会社かによっても異なりますが、近年は会社設立のための書籍やWEBサイトに雛形が掲載されているので、このような雛形を見ながら、自分で定款を作成することもできます。分からなければ弁護士などにアドバイスを受けるのも良いでしょう。
会社設立の際に法人と取締役個人の印鑑(実印)が必要になるので、とりあえずは会社の名前が決まった段階で法人の印鑑を作成しておいた方が良いです。また、個人で印鑑登録の手続きをしていない場合は印鑑登録をして、印鑑証明書を入手しておいてください。
ちなみに、作成した定款に対して、出資者の同意が必要になりますが、一人会社の場合は出資者=経営者=自分になると考えられるので、定款作成して署名すれば良いでしょう。また、株式会社を設立する場合は、更に定款を公証人役場で認証してもらう必要があります。定款が出来れば資本金を、会社の資本金を入れるための銀行口座に振り込みます。なお、定款作成の詳細方法については後述します。
5-2 法務局に設立届を提出する
以上の手続きが完了したら、必要な書類を持って、本社所在地を管轄する法務局に法人の設立届を行います。代表的な必要書類は以下の通りです。
5-2-1 登記申請書
法人を登記する際に申請書ですが、法務局のテンプレートを参考に作成することができます。
5-2-2 登録免許税分の収入印紙を貼り付けたA4用紙
法人を設立する場合には手数料が掛かります。資本金×0.7%が手数料になりますが、合同会社の場合は60,000円、株式会社の場合は150,000円が下限金額となります。
5-2-3 定款
ステップ1段階目で作成した定款です。定款には40,000円の収入印紙を貼る必要がありますが、電子定款にすると、定款のための印紙代は不要になります。電子定款を作るためには専用の機械が必要になりますが、代行業者に依頼すると電子定款を作成してもらえることも多いです。
5-2-4 取締役の印鑑証明
取締役(合同会社の場合は社員、一人会社の場合は取締役=代表取締役、社員=代表社員)の印鑑証明書が必要になります。早めに印鑑登録をして証明書を入手した方が良いでしょう。
5-2-5 資本金の証明書類
資本金を振り込んだことを証明する書類です。通帳の記帳欄、表紙、個人情報欄をコピーして製本、ページの綴り部分に契印をします。
5-2-6 印鑑届出書
法人の実印を登録するために必要な書類です。上記のテンプレートに記載されています。
5-2-7 その他
その他、定款の内容によって、発起人の決定書や取締役の就任承諾書などが必要になります。
5-3 設立後の各種手続きを行う
法人の設立届を行うと不備が無ければだいたい一週間前後で法人の登記が完了となります。ただし、法務局に届け出ただけでは、まだ法人の設立は完全に完了していません。法人を設立したことを、管轄の税務署や都道府県、市町村事務所、年金事務所などに対して届け出なければなりません。
人を雇う場合は労働基準監督者やハローワークに労働保険の加入手続きをしなければなりませんが、社長一人の場合は労災保険、雇用保険の適用が無いので大丈夫でしょう。
これらの関係機関できちんと法人設立を届け出て無事に法人として活動することができます。
6 会社設立で初めて定款を作成するときのポイント
定款は、会社の根本的なルールであり、会社を設立するには、定款を作成し、公証人の認証を得る必要があります。今回は一般的な会社形態である、株式会社の場合について説明します。定款に定める事項には、様々な種類がありますので、そのポイントを押さえる必要があります。
定款とは、会社の根本的なルールです。会社法では、会社が必ず従わなければならない定めもありますが、会社の自主性を広く認め、定款にゆだねている部分も多くあります。定款の形式には、書面のほか、電磁的記録(電子定款)もあります。なお、定款に定めた内容を変更する場合には、基本的に定款変更手続き、株主総会の特別決議が必要となります。
7 定款に定める事項とその種類
定款に定める事項について、必ず盛り込まなければならない事項なのか、そうではないのかなど、区分けして項目を整理します。定款に定める事項それぞれについての詳細な解説は、4以下をご覧ください。
・絶対的記載事項
法律上、必ず記載または記録しなければならず、その記載・記録がない場合には定款が無効となる事項をいい、以下の項目がこれに当たります。つまり、定款を作成するには、必ず、以下の項目を全て定めなければなりません。
- ① 目的
- ② 商号
- ③ 本店所在地
- ④ 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
- ⑤ 発起人の氏名または名称、および住所
・相対的記載事項
定めなければ定款が無効になるというわけではないが、その事項が効力をもつには定款に定める必要がある事項で、例えば、以下の項目がこれに当たります。会社法では、相対的記載事項として数多くの事項が定められていますが、その全てが、会社を設立するにあたって通常定める事項とはいえません。ここでは、会社を設立する際に定められることが多い項目に絞って、その一部だけをご紹介します。
- ① 取締役会、監査役の設置
- ② 株主総会の定足数、決議要件を法律と変える場合
- ③ 取締役、監査役の任期を伸ばす場合
- ④ 全取締役の同意により取締役会決議を省略する場合
- ⑤ 株券を発行する場合
・任意的記載事項
⑴、⑵以外で、会社法の定めに違反しない事項について、定款に定めればその範囲で効力をもつ事項があります。これは、当事者がある程度自由に定めることができるため、数多くの事項がありますが、ここでも、会社を設立する際に定められることが多い事項に絞り、その一部だけをご紹介します。
- ① 定時株主総会の招集時期
- ② 株主総会の議長
- ③ 取締役、監査役の人数
- ④ 代表取締役、役付取締役(専務取締役、常務取締役など)
- ⑤ 事業年度
- ⑥ 公告の方法
8 定款作成の項目
定款を作成する際に、上でご紹介した項目をどのような順序で並べるかについては、特に法律に定められていません。実際には、書籍やインターネットなどを参考にご自身で作成するか、弁護士や司法書士などの専門家に依頼して作成してもらうことになります。なお、全てを網羅したものではありませんが、各項目のまとまりごとに次のように配列される例が多いようです。
総則
- ① 商号
- ② 目的
- ③ 本店所在地
- ④ 公告の方法
株式
- ⑤ 発行可能株式総数
- ⑥ 株券を発行するか否か
- ⑦ 株式の譲渡制限
株主総会
- ⑧ 招集手続
- ⑨ 招集権者
- ⑩ 議長
- ⑪ 決議要件
- ⑫ 議事録
取締役、代表取締役、取締役会(設置する場合)
- ⑬ 人数
- ⑭ 選任方法
- ⑮ 任期
- ⑯ 役付取締役
- ⑰ 報酬
- ⑱ 取締役会設置の場合には、例えば次の事項
-
- 招集権者
- 議長
- 招集期間の短縮
- 決議方法
- 議事録
監査役(設置する場合)
- ⑲ 上記⑬~⑰に準じた定め
計算
- ⑳ 事業年度
- ㉑ 剰余金の配当
附則
- ㉒ 会社設立時に定めた、一時的な事項
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
- 発起人の氏名または名称、および住所
- 設立時発行株式総数
- 最初の事業年度
- 設立時取締役などの氏名
9 定款作成に必要な項目の解説
定款でよくある項目の並べ方に沿って主な項目について解説します。
・商号
商号は、会社の名称を指します。事業の名称や、屋号(ブランドの名称)とは異なります。会社が複数の事業を行っていて、例えばそれぞれの事業に名前がついていても、会社の名称は一つです。株式会社の場合、その商号には、必ず、「株式会社」という文字を入れなければなりません。同一の本店所在地で、既に存在する会社と同一の商号を使用することはできません。こうした商号があるかどうかは、法務局か、インターネット上の登記情報サービスにて調べることができます。また、著名な企業と同一の商号を使用することは、不正競争防止法に抵触するためできません。
さらに、既に他社が商標登録している名称を商号に使用することは、その他社の商標権を侵害するおそれがあるため、できません。登録商標があるかどうかは、インターネット上の特許情報プラットフォームにて調べることができます。そのほか、他業種や一事業部門なのではないかといった誤解を招く名称も使用できません。
・目的
会社の事業目的のことを指します。多くの場合、主要な事業を一つまたは複数列挙して、最後に、「前(各)号に附帯関連する一切の事業」などと記載します。事業内容については、許認可や届出を要する事業の場合には、その記載内容で、許認可、届出においても問題がないかどうか、官庁に確認しておくことが望ましいです。
・本店所在地
本店というのは、会社の主な営業所のことを指します。これは、市町村または、東京23区では各区まで記載することとなります。さらに進んで、番地まで記載することも可能ではありますが、そこまで記載してしまうと、同一市町村内で本店を動かす場合にも、定款変更手続が必要となってしまい手間がかかるため、一般的ではないようです。
・公告の方法
公告とは、会社の合併、解散、その他の事項が生じた場合に、会社法の定めに従って、広く知らせることをいいます。重要な事項が対象となっていることもあり、公告の方法については、登記事項となっています。公告の方法には、政府が発行している官報に掲載する方法、日本経済新聞などに掲載する方法、インターネット上で行う方法(電子公告)の3つがあり、そのうちどれにするかを定めるのが一般的です。
・発行可能株式総数
発行可能株式総数とは、文字通り、会社が発行することができる株式の総数をいいます。つまり、会社が発行できる株式数の上限であり、いわば「枠」を意味します。
・株券を発行するか否か
会社法では、会社は原則として株券を発行しないものとされており、定款で株券を発行する旨を定めた場合には、株券を発行できるとされています。そのため、株券を発行しない場合には、定款に定める必要はありませんが、その旨を明確にするために株券を発行しない旨を定款に定めても構いません。
・株式の譲渡制限
そもそも、株主は株式を自由に譲渡することができるのが原則です。ただ、原則どおりにしておくと、会社にとって好ましくない人物が株主になってしまうおそれもあります。そこで、株式の譲渡は自由にできないこととし(制限)、譲渡には会社(株主総会または取締役会)の承認を必要とするのが、株式の譲渡制限です。会社の承認が必要となることや、その承認の手続などについて、定款に定めることになります。
・株主総会
ア 株主総会とは
株主総会は、会社の組織、運営、管理についての重要な事項の意思決定を行う機関で、会社を設立する場合、必ず設ける必要があります。
イ 定める事項
株主総会は必ず設置される機関であるため、定款に以下の事項を定めることが一般的です。
① 定時株主総会と臨時株主総会の表記
定時株主総会は、文字通り、毎年開催される株主総会で、その招集を行うべきことについては、会社法に定められています。臨時株主総会は、必要がある場合に、随時招集されるもので、特に会社法に定められていません。
② 招集時期、招集地
定時株主総会の招集時期について、「毎事業年度の終了後○ヶ月以内」とすることもできますし、「毎年○月」とすることもできます。
会社法には、招集地に関する定めはなく、どこで開催することも可能ですから、必ずしも定款で定めなくても構いません。
③ 招集手続
株主に招集通知を出すことによって行います。会社法では、招集通知は、原則として、株主総会の日の2週間前までに株主に発するとされています。
もっとも、設立する多くの会社が該当する、株式の譲渡制限があり、かつ、取締役会を設置せず、さらに、書面投票・電子投票を採用しない会社であれば、1週間を下回る期間を定めることができます。
・取締役
ア 取締役とは
取締役とは、いわば会社の経営者であり、これも、必ず設置される機関です。もっとも、1名設置すれば足ります。他方で、取締役会については、そもそも必須ではなく、設置しないことができます。
イ 定める事項
① 人数
1名より多い人数で、「○名」と特定したり、「○名以上○名以下」と幅を持たせることもできます。
② 資格
株式の譲渡制限を設けている会社では、取締役を株主から選任することを定めるのが一般的です。
③ 選任および解任の手続
取締役の選任および解任は、いずれも、株主総会の決議によって行われます。その決議の要件は、原則として、定足数は議決権の過半数を有する株主の出席、決議はその議決権の過半数とされています。定款で、定足数を緩和する場合、議決権の3分の1までが限界とされています。
④ 任期
会社法では、取締役の任期は、原則として、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までと定められています。もっとも、多くの会社が該当する、株式の譲渡制限のある会社であれば、定款で定めることで、この2年を、10年にまで伸ばすことができます。
10 定款作成の手続
発起人が定款を作成した後、公証人の認証を得ることになります。その後、定款に基づいて設立の登記を行うと、会社が成立することになります。設立する会社の種類、機関に応じて、ポイントを押さえつつ、必要な事項を網羅した定款を作成することが大切です。
11 会社設立後に初めて従業員を採用する際の成功のポイント
個人で会社設立をしてから事業が順調に回りだすと人手が必要になってきます。事業規模を広げるには、人材を雇わなければなりません。そのような理由から、初めて従業員を採用するにあたって準備しておくことがあります。従業員の採用には、書類や保険加入などの手続きが必要なのです。初めての従業員の採用に成功するポイントを紹介するので、面接時に役に立つ注意点も併せて参考にしてみてください。
12 従業員採用の手続き
従業員を採用するにあたって、雇用契約や保険加入の手続きをする必要があります。採用の手続きを問題なく処理することは、雇用主の義務です。労働基準法により雇用契約は、口約束ではなく書面でかわす必要があります。
12-1 従業員の採用に必要な書類
従業員の採用に必要な書類は次の通りです。
- 応募書類
- 採用後提出書類
- 雇用契約書類
1 応募書類
応募書類は、人材紹介機関に人材募集の依頼を出すことにより、応募のために必要な書類になります。応募者に提出を求める書類をあげてみましょう。
- 履歴書
- 職務経歴書
- 資格・免許の写しなど
応募書類を選考する際のポイントは、「求める人材に近いか」と「必要な情報が記入されてあるか」の文章力による間接評価になります。そのため、提出された履歴書や職務経歴書の内容から、「応募者全員と面接をするのか、絞り込むのか」を判断することが必要です。
2 採用後提出書類
書類選考から面接を経て最終選考により採用を決定した場合、入社時に応募者に提出を求める書類があります。
- 住民票
- 給与所得者の扶養控除等申請書
- 年金手帳
- 雇用保険被保険者証
- 離職証明書
- 健康保険被扶養者(異動)届
上記の書類以外にも採用者により必要な書類が異なってきます。採用決定後に書類の提出を求める際は、書類取得までにかかる時間も考えて提出期限を決めることも必要です。
3 雇用契約書
雇用契約書は、採用後に提出してもらう最も重要な書類になります。労働基準法により、書面で明示する義務があるのです。雇用契約における明示を必要とする項目と口頭での伝達でよい項目を取り上げてみます。労働基準法で定められている書面にて明示を必要とする項目です。
- (1) 労働契約の期間ついての事項
- (2) 就業場所と従事する業務内容についての事項
- (3) 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務が必要な就業時転換に関する事項
- (4) 賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項
- (5) 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
なお、口頭での伝達でよい項目は次の通りになります。
- (6) 昇給に関する事項
- (7) 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、支払時期に関する事項
- (8) 臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項
- (9) 労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項
- (10) 安全・衛生に関する事項
- (11) 職業訓練に関する事項
- (12) 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- (13) 表彰、制裁に関する事項
- (14) 休職に関する事項
(参照:厚生労働省キャリアップ2010)
ここで注意しておくべきは、口頭での伝達でも可能ですが採用者に明示することは必要な点です。つまり、採用者に口頭で明示する義務はあることを理解しておきましょう。就業開始してから契約内容と違うことや口約束などで、労働問題に発展することは、事業所にとって大きな障害になります。そのためにも最初に交わす雇用契約書は、非常に重要になるのです。口頭で伝える項目についても入社時にきちんと明示することをお勧めします。
12-2 社会保険の加入
採用を決定した従業員と雇用契約を交わした後に、重要な手続きが社会保険の加入です。雇用形態によっても「加入が必要であるか、必要でないか」が、違ってくることを理解しておきましょう。なお社会保険とは、健康保険、厚生年金、介護保険になります。社会保険の加入が必要になる雇用形態は、常勤の従業員です。また、アルバイトやパートとして採用した従業員でも1か月の労働日数が正社員の4分の3以上である場合や、1日または1週間の労働時間が正社員の4分の3以上の場合は、社会保険に加入する必要があります。
社会保険の加入について注意しておきたいのが、従業員の雇用開始から5日以内に最寄りの年金事務所に手続きをしなければいけない点です。業務に追われて忘れてしまわないように、自社の社会保険担当者にお願いすることも考えてみましょう。
12-3 労働保険の加入
労働保険は、従事者5名以下の農林水産業以外の全事業所において加入義務がある保険です。労災保険と雇用保険があり、一般的な事業では、手続きを同時に行うことができます。農林漁業や建設業などの業種では、労災保険と雇用保険を別に手続きをする必要があるのです。また、労働保険の手続きは、最寄りの労働基準監督署に従業員の雇用開始から10日以内に行う点も注意しましょう。
13 初めての従業員採用における注意点
際に従業員を雇用することになっても、勤務における規則や勤怠管理などの書類も作成しなければいけません。また、厚生労働省からの助成制度についても理解しておくことで会社にとってのメリットを得ることもできます。
13-1 就業規則の作成
就業規則がないと、従業員の勤務に対しての指導どころか、雇用契約において問題が発生したときに雇用側が不利になります。法律的には、10人以下の従業員の事業所には、就業規則の作成は義務付けられておりません。しかし、労使関係でトラブルが生じたときに就業規則は判断基準にもなるので作る必要があるのです。ただし、就業規則を法律上の効力として活用しない信頼関係を築ける職場が理想になるでしょう。
13-2 給与支払事務所等の届け出
初めて従業員を雇用して給料を経費計上することになる場合は、給料を支払う事業所として税務署に届け出る必要があります。従業員に給料を支払う立場になると、雇用主は源泉徴収義務者になるからです。
そのため、給料支払事務所等の届け出を提出して、税務署に所得税を納税する義務が発生します。注意点として、毎月の給料から源泉徴収した所得税を1か月以内に納税しなければいけなくなることです。納税を怠った場合、事後に納税をする際に規定よりも多く納めることになることも注意しましょう。
13-3 法定帳簿の準備
法定帳簿で上げられるのは、労働者名簿や賃金台帳、出勤簿などです。これら法定三帳簿は、労働基準法の第109条により、整備義務と保存義務を課せられています。それぞれの法定帳簿の保存期間を見ていきましょう。
- 労働者名簿・・・労働者の死亡、退職、解雇の日より3年間
- 賃金台帳・・・労働者に支払った最後の給料について記入した日から3年間
- 出勤簿・・・出勤最終日から3年間
同様に雇用契約書や災害補償に関する書類なども最終勤務日より3年間の保存が義務付けられています。
1 記載が必要な事項について
労働者名簿には、記載が義務付けられている事項があります。
- 氏名
- 生年月日
- 性別
- 住所
- 業務の種類
- 履歴
- 雇用年月日
- 退職年月日と事由、死亡年月日と原因など
労働者名簿では、上記の8つの項目の記入が必要です。また賃金台帳にも必要な記載事項があります。
- 氏名
- 性別
- 賃金の計算根拠
- 基本給及び手当の内訳
- 所定労働日数
- 所定労働時間
- 時間外労働時間数
- 深夜労働時間数
- 休日労働時間数
- 控除される項目と金額
賃金台帳の場合、上記10項目が必要な記載事項です。法定三帳簿は、労働基準監督署の調査が入った際に必ず提出を求められる書類になります。そのため、項目漏れのないように作成しておきましょう。
13-4 助成制度の利用
厚生労働省より支援金が受けられる制度を助成制度と言います。助成金は、納税義務のない国から企業に向けた支援金なので、雇用主にとって有利な申請手続きになるでしょう。
助成金を受けられるタイミングは、次の3つのタイミングになります。
- 従業員を採用したとき
- 従業員に教育訓練を受けさせるとき
- 福利厚生を充実させるとき
上記にあげたタイミングにより、雇用調整助成金や再就職支援奨励金、特定求職者雇用開発助成金など様々な労働者の状況に応じた助成金が用意されているのです。
助成金を受けられる対象となる企業の条件を取り上げてみます。
- 労働保険の加入者
- 労働保険料の滞納がない
- 就業規則と法定三帳簿の整備されている
- 助成金を受けるための計画や提出物が期間内にされている
上に定める条件をクリアされていれば、助成金を活用することができるでしょう。
14 従業員採用における面接時のポイント
今まで従業員の採用の手続きについて、解説してきましたが、実際に従業員を採用するために重要なるのが面接です。次に初めて従業員を面接する際のポイントを解説していきます。
14-1 面接の進行を組み立てる
まず、面接の進行を組み立てることは面接する側の採用担当者として、理解しておく必要があるでしょう。その理由は、面接を受ける応募者は、採用担当者の進行に任せて面接に臨んでいます。次に何を話したらよいか、迷っている態度は応募者に不安を持たれることも考えられます。では、一般的な面接の進行を見ていきましょう。
- 自己紹介や自己PRを求める
- 転職理由や前職をやめた理由を尋ねる
- 志望動機について転職先を選ぶ基準を尋ねる
- 今までの経験や実績、資格スキルについて尋ねる
- 最後に質問をしてもらう(会社に対して)
このような手順で、面接の進行を組み立てていくことが一般的な流れになります。ポイントは、面接前に項目ごとにメモを取れるように面接シートなどを作っておくことです。
応募者は、採用担当者以上に緊張しているので、質問に対しての答えになっていないケースも少なくありません。そのような時の軌道修正にも活用ができます。
14-2 応募者を見抜く良い質問
面接では、応募者を見抜く良い質問をすることが重要なポイントになるでしょう。それは、応募者が「自社で貢献できる人物かどうか」見極める判断基準にもなります。上辺だけの質問ではなく人物の特性を深く掘り下げられる質問が大事なのです。
例えば、「前職の会社でどのように貢献してきましたか?」という質問1つにしても具体的に聞き直してみます。「その貢献はどのようにされてきましたか?」と掘り下げていくのです。「どのように」という質問は、具体的に答える必要があります。そのため、実際に経験していない実績やスキルに対して質問を返せなくなることが考えられるのです。
そのため、面接経験がない採用担当者の場合は、応募者の人間性を確かめられるのに有効な質問になります。
また、応募者の将来のビジョンや「入社してどうなりたいのか?」「具体的なキャリア設計を持っているか?」などを質問することによって、人間的な向上心もうかがえることになるでしょう。
14-3 応募者への接し方に注意する
面接をする採用担当者も応募者から逆に面接されていることになります。それは、面接に訪れた企業で、初めて会う人物が採用担当者になるため、会社の代表する顔ともいえるからです。つまり、第一印象が悪ければ、応募する人にとっても不安材料になります。
面接時は、応募者と面と向かって面接だけに集中しましょう。くれぐれも電話やパソコンなどを操作しながらの面接では、応募者に対して敬意を払わないことになります。些細なことから企業の仕事内容にも期待が持てなくなり、選考途中での応募辞退にまでなることも考えられるのです。
また、採用担当者と応募者の間に雇用関係は生まれていないことも理解しておくべきでしょう。そのためには、応募者に好感を持ってもらうことも必要になります。応募者が質問に対しての回答をしている際も笑顔で相槌を打って聞く姿勢も大切です。さらに応募者の話し方のペースに合わせて緊張を和らげる工夫も必要になるでしょう。初めての従業員を採用する際の面接では、応募者に好印象を与えることが成功へのポイントになるのです。
このように応募者への接し方を考えながら、良い質問と進行で選考のための判断材料を引き出しましょう。
15 まとめ
以上のように一人会社を設立するメリットやデメリット、設立の仕方について説明してきました。一人で事業をする場合、わざわざ会社をつくる必要はないと思われるかもしれませんが、社長一人の事業でも会社を設立することによって様々なメリットを受けられることができます。大きなメリットとしては、節税の選択肢が広がることと、事業に対する所得税が一定以上になると安くなることが挙げられます。また、個人事業主は無限責任なのに対して、法人の出資者は有限責任なので、事業に失敗した時のリスクヘッジもできます。はじめから、ある程度の収益が見込める事業で起業する場合は、個人事業ではなく一人会社を設立して事業を行うのも良いでしょう。
そして、一人会社を設立する際には株式会社と合同会社の2つの会社形態があります。多くの会社の場合は、どちらの法人形態で設立しても大した違いは発生しませんが、上場したり、出資などを受けたりしたいのであれば株式会社、他人から出資を受けることなく、少数精鋭で自由な事業運営がしたいのであれば合同会社の方が良いでしょう。何もこだわりや資金的な制約がなければ、知名度の高い株式会社で会社を設立した方がベターだと考えられます。
会社を設立するために、定款などの必要書類を作成し資本金を払い込み、管轄の法務局に法人設立の届け出をすれば良いです。ただし、法人を設立したあとにも、税務署、都道府県事務所、年金事務所など関係機関に法人設立の届け出をしなければならないので注意してください。
いずれにしても、社長一人の事業であっても、一人会社を設立することには様々なメリットがありますので、起業する、個人事業として一定以上の収益が発生している場合は、一人会社を設立することを検討しても良いでしょう。