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トランプ大統領は、いまだに高度経済成長期の日本のイメージを引きずっている?

「米軍駐留費を日本に全額負担させる」「日本との不平等な貿易関係を正す」など、会見を開くごとに日本への批判を繰り広げるアメリカ新大統領のドナルド・トランプ。

 

昨年末、安倍首相がニューヨークにあるトランプ氏の自宅を訪れたときは、にこやかに握手を交わしていました。

 

しかし、当選後初めて開いた記者会見では、またしても日本との貿易不均衡を批判。

 

さらに、記者会見を開く前日のツイッターではトヨタ自動車を名指しで批判するなど、日本に対していいイメージを持っていないことが伺えます。

 

どうしてこれほどまで日本との関係、とりわけ貿易関係を敵視しているのでしょうか。

 

 

 

目次

  1. 1 日米貿易摩擦の幻影を追いかけ続けるトランプ
  2. 1-1 高度経済成長期の日本と貿易摩擦
  3. 1-2 青年期のトランプはアメリカ経済が衰退する様子を眺めるしかなかった
  4. 1-3 そもそも当時のアメリカの赤字は日本のせいではない
  5. 2 今後の日本の自動車メーカーとアメリカの関係は?
  6. 2-1 名指しで批判をされたトヨタ自動車
  7. 2-2 日本の各自動車メーカーは撤回しない方針
  8. 2-3 自動車貿易摩擦が再熱しないためには

 

1 日米貿易摩擦の幻影を追いかけ続けるトランプ

トランプが父であるフレッド・トランプ※から会社の経営権を譲り受けたのが1971年、彼がまだ25歳の時でした。トランプは社名を改めると、すぐさまオフィス開発やホテル、カジノ経営に乗り出し順調に成果を上げていきました。

 

※第45代アメリカ大統領のドナルド・トランプの実父で、不動産会社経営者。のちに、自身が経営していた不動産会社、エリザベス・トランプ・アンド・サンの経営権ドナルド・トランプに譲った。

 

 

1-1 高度経済成長期の日本と貿易摩擦

高度経済成長

(参照:高度経済成長 昭和後期

 

一方、当時の日本は高度経済成長期の真っ只中。国民総生産が西ドイツ(元ドイツ)を抜き、名実ともに世界第2位の経済大国にのぼりつめていた時代です。

 

高い技術力と円安※を背景に、日本は海外に製品を大量に輸出していましたが、 貿易収支が赤字に逆転したアメリカがこれを問題視。打撃を受けていたアメリカの労働者たちが日本製品の不買運動を開始するなど、日米貿易摩擦に発展していきました。

 

貿易による赤字は膨らみ続け、1977年、ついにアメリカ政府は日本の輸出製品に対して規制を実施します。

 

アメリカ経常収支

(参照:日本経済研究センター

 

 

1-2 青年期のトランプはアメリカ経済が衰退する様子を眺めるしかなかった

トランプ若い頃

(参照:theHUSTLE

 

大統領選前の記者会見で、トランプ氏は日本についてこう語っていました。

 

「日本の度重なる円安誘導のせいで、友達は高いキャタピラーではなく、コマツのトラクターを購入した」

 

「日本は、アメリカに100万台以上の日本車を送ってくるが、我々はどうだ? 最後にシボレー※を東京で見たのはいつだ?存在していない!彼らは我々をいつも打ち負かしてきたんだ」

 

日本に対する恨み節からもわかるように、日米貿易摩擦から40年経つにも関わらず、トランプ氏は今も続いているかのように当時の状況を振り返ります。

 

※ 当時は1ドル=360円の固定相場制。外国は、通貨が安い日本からの輸入品に対して、自国の高い外貨で代価を支払える。日本にとっては輸出が超有利ともいえる状況だった。
※ シボレーはアメリカの自動車メーカーであるゼネラルモータースが製造しているクルマの車種。

 

 

1-3 そもそも当時のアメリカの赤字は日本のせいではない

1984年度の世界経済白書によれば、アメリカの赤字の半分以上は国内要因によるものとされています。

 

アメリカの経常収支赤字は1981年から1984年にかけて悪化し、このうち3分の1はアメリカと貿易相手国との景気拡大速度の差に起因するものです。

 

しかし、残りの3分の2の赤字はアメリカによる投資超過幅が拡大したことによってもたらされたものだと見られています。

 

アメリカ貿易赤字

(参照:アメリカの貿易赤字

 

アメリカ国内における投資超過が実質的な高金利をもたらし、実質高金利はドル高を招き、その結果、経常収支の赤字を生み出すことになったようです。(参照:内閣府経済社会総合研究所「日米貿易摩擦」)

 

日本にさんざん煮え湯を飲まされたと思い込んでいるトランプ氏。
今後、自動車メーカーを始めとする日本企業はアメリカと上手くやっていけるのでしょうか。

 

 

2 今後の日本の自動車メーカーとアメリカの関係は?

トランプ氏は強いアメリカの復活を標榜し、アメリカ企業に対して国外に生産工場を作らないよう呼びかけていました。

 

欧州最大手の自動車メーカー、フィアット・クライスラーはこの呼びかけに応じるかのように、アメリカ国内での工場の設備増強のため10億ドル(約1172億円)を投資し、約2000人を追加で雇用すると発表しました。

 

このほか、ゼネラルモータースやフォードなどのアメリカ企業も、メキシコでの工場の新設をとりやめ、アメリカに投資すると発表しています。

 

 

2-1 名指しで批判をされたトヨタ自動車

conp

 

就任後の初会見では外国の自動車メーカーとして初めて批判をされたのがトヨタ自動車です。

 

トヨタ自動車はメキシコ国内にアメリカ向けの自動車を生産するための工場を新設する予定であるとコメント。するとトランプ氏は、SNS上でアメリカに工場を移すよう促し、さまなければ輸入時に高い関税をかけると牽制しました。

 

この発言の4日後、トヨタ自動車の豊田章男社長は、今後5年間の米国での設備投資額は100億ドル(約1.1兆円)になる見通しだと発表しました。

 

 

2-2 日本の各自動車メーカーは撤回しない方針

しかし、トヨタ自動車は、この決定はトランプ氏の批判に応じるものではなく、アメリカにおける投資戦略の一環だと説明しました。さらに、メキシコ新工場をめぐる計画は2013年ごろから始動しており、変更するつもりはないとしています。

 

また、一連のトランプ氏の発言を受けて、本田技研工業は事業方針を当面変えるつもりはないと回答。マツダや日産自動車もメキシコ工場を移転する計画はないとしました。

 

 

2-3 自動車貿易摩擦が再熱しないためには

日本の自動車メーカーがもっともおそれるのは、1975年の日本車に対するダンピング※訴訟から始まった日本車不買運動です。

 

1975年、赤字続きの状況に業を煮やした全米自動車労働組合(UAW)※は日本車がアメリカ国内の自動車産業に被害を与えているとして政府に提訴しました。

 

To match Special Report USA-AUTOS/UNION

(参照:Reuters

 

しかし、アメリカ国際貿易委員会(ITC)は「アメリカ車不振の原因は、内需の落ち込みと石油製品価格の高騰に伴う需要の小型車シフトに対して、メーカーの対応が遅れたためであって、輸入車の増加によるものではない」と裁定。

 

結果的には、アメリカ政府は日本車の輸入制限措置を採ることできなくなりましたが、日本が輸出自主規制をすることで、自動車貿易摩擦は和解の方向に進みました。(参照:内閣府経済社会総合研究所「日米貿易摩擦」)

 

日米にはこのような激しい貿易の歴史を経て、競争と協調が共存する現在に至ります。トヨタが言うように、日本企業は何万、何十万の雇用をアメリカで生み出してきました。決して日本だけが甘い蜜を吸っていたわけではないことをトランプ大統領に理解してもらいたいものです。

 

※UAWは自動車のみならず、農業、航空宇宙産業に従事する労働者からなる労働組合。政治に対しても強い影響力を持つ。

※ダンピングとは、ある商品の輸出向け販売が、その商品の国内向け販売より安い価格で行われること。輸入国の業界がこの損害を政府に訴えることをダンピング提訴という。GATT(関税及び貿易に関する一般協定)ではダンピング行為が立証されると、該当する輸入品に対し、ダンピング関税をかけることが認められている。

 

 


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