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【若手経営者向け】簿記の知識は不要!決算書を読んで経営改善と資金調達の円滑化を目指そう

決算書は経営状況を雄弁に語ってくれるツールです。自社の経営状況を客観的に分析して、将来のビジネスにどのように活かしていくかを考えるという意味で、決算書を読み解くことは、経営者にとって必須のスキルと言えるでしょう。

 

また、会社が資金調達を行うにあたって、融資を受けようとする金融機関から、決算書や資金繰り表などの提出を求められることがあります。金融機関はこれらの書類を読むことで、融資の可否を判断する一つの根拠とするからです。そこで、金融機関が財務書類から何を読み取ろうとしているのかを知ることは、金融機関との関係を良くして円滑に資金を調達するために重要なことです。

 

本稿では、決算書を作成こそはしているものの、読み方、使い方がよくわからない、簿記がわからない、という若手経営者に向けて、財務分析の基本を説明します。決算書のどこを見れば良いのか、何と比較すれば良いのか、さらに外部の関係者は何を見ているのか、という観点から一通りの財務分析のセオリーを紹介します。読めばすぐに実践できることばかりですから、是非参考にして経営に役立ててください。

 

 

1 経営と決算書の関係とは

「会計がわからずに経営ができるか」とは、かの有名な、京セラ創業者である稲盛和夫氏の言葉です。稲盛氏は自身の経営哲学として、経営と会計は密接な関わりがあり、会計を使いこなすことが会社を成長させるためにとても重要であるとの信念を、説得力をもって示しました。

 

まず初めに、稲盛氏が述べている経営と会計(決算書)はどう関係するのかを見ていきましょう。

 

 

1-1 決算書はこんな時役に立つ

決算書(財務諸表ともいう)は会社の経営状況について、会計技術を用いてわかりやすく可視化したものです。実際の会社経営はさまざまな出来事の積み重ねであり、複雑な事象が絡み合っているわけですが、会計はこれをお金という尺度によって単純化して測定し、書類として表現します。

 

まずは身近な事例を用いながら、この決算書というものが一体どんな時に役立つのかを説明しますので、イメージをふくらませてください。

 

 

①決算書は健康診断?

私達の体の状態は、外から見ていてもなかなかよくわからないものです。なんとなく顔色が悪い、肌のハリがないなど、良く観察していれば微妙な変化に気づくことはできるものの、やはりはっきりとした原因や正確な状態は把握できません。

 

そこで健康診断を受診すると、さまざまな検査などによって、血圧や血糖値、コレステロールなど体の状態が数値であらわされます。数値は客観的な基準で測定されていますので、信頼性があります。そして測定された数値を、性別や年齢ごとに分けて健康な人と比較することによって、自分の体の状態が客観的に把握できるのです。

 

決算書はよく会社の健康診断に例えられます。決算書は会社の経営を数値であらわしたものです。健康診断と同じように、客観的な基準で測定された数値は、会社の状態を明確に表現することができます。

 

健康診断の結果、例えばコレステロール値が高い、ということがわかれば、私たちは過去を振り返り原因を考えます。食生活が不規則だったからなのか、タバコが問題なのか、運動不足になっていなかったかどうか、と自身のこれまでの生活習慣を分析します。そして原因がわかれば、食習慣を見直そう、運動不足を解消しよう、などの対策が明らかになります。

 

同様に、会社の経営も、財務分析によって強みや弱みを把握することができます。例えば利益が伸びないのは、生産効率が低いから、もしくは利息負担が重いから、などの理由がわかります。理由が明らかになれば、今後どのようにそれを改善していくのか、という戦略を立てることにつながります。

 

生産効率が低いのであれば工場の稼働時間を増やしたり、利息負担が重ければ、クラウドファンディングなどを活用しながら負債を圧縮して自己資本に切り替えたり、という今後の方針が見えてきます。このようにして決算書は今後の経営方針の決定に役立つわけです。

 

② 健康診断結果を利用するのは自分だけではない?

健康診断の場合は、基本的には自身の健康な生活のために活用することが一番の目的でしょう。しかし、場合によっては診断結果を他者に開示することもあります。例えば、就職する際に雇用者に対して提出したり、生命保険の加入時に保険会社に提出したりします。住宅ローンを組む際に、銀行から求められることもあるでしょう。

 

このような場合には、健康診断結果は自身の健康状態を示す客観的な証拠として利用されているわけです。提出を受けた側は、数値を見て私たちの健康状態に問題が無いことを確認し、安心を得ます。

 

それと同様に、決算書の利用方法として、自社の健康状態を確認すること以外にもう一つ、重要なことがあります。それは、会社外部の関係者との信頼関係の構築です。

 

会社経営は単独では成り立ちません。社会の中でさまざまな関係者との信頼関係を構築・維持することによって、会社は存続し、成長することができます。それだけ外部の関係者の存在は大きなものです。

 

会社外部の関係者の一例として挙げられるのは、株主、債権者、行政機関です。これら外部の関係者は、以下の理由から会社の財務状況に強い関心を持っています。

 

株主は、企業に対して自身の財産を投資しています。当然、自らが行った投資に対してリターンがどれだけ得られるのかについて知りたいと考えるでしょう。また、議決権を行使することで会社経営そのものに関与することができますので、経営全般に関心を持っているかもしれません。

 

債権者は、企業に対して回収すべき貸付金や売掛金などの債権を保有しています。債権者にとって、自らの債権を回収することができるのか、利息を支払ってもらえるのかどうかは大変重要な関心事です。

 

行政機関は会社のもうけに対して税金を課して徴収しなければいけませんので、いくら利益を上げているのかを正確に知る必要があります。

 

会社にとっては、いずれの関係者も大切です。彼らとの関係を良好に維持しておくことが会社経営のために必要なことですから、彼らのニーズに応えなければなりません。

 

そのため、彼らの情報ニーズを満たすために財務状況を説明する必要があるのです。つまびらかに情報を開示し、説明することで彼らは安心を得ます。このようにして、関係者との信頼関係の構築にも決算書は役立つのです。

 

中でも、起業したばかりの会社にとって最も重要な関係者は、債権者である金融機関でしょう。設備投資資金や運転資金を調達するためには、金融機関から融資を受ける必要があるからです。金融機関からの融資が無ければ事業を展開していくことが困難になります。

 

そこで、金融機関の情報ニーズ、つまり決算書から何を読み取ろうとしているのかを知り、同じ視点に立って課題の洗い出しを行い、対応策をしっかりと考えておくことが求められます。

 

そのことが、結果的には金融機関からの信頼の獲得につながり、ひいては資金調達を円滑にすることにつながります。

 

 

1-2 決算書の種類

次に、決算書にはどのようなものがあるのかについて概観します。わが国の会計制度では、会社の規模や形態によって作成する書類が異なります。スタートアップ段階の企業に求められるものはそれほど多くありませんが、将来の事業拡大や株式公開を考慮して制度の全体像を把握しておくことが重要です。

 

まず、全ての株式会社に対して法令(会社法)にもとづき作成が求められるのが「貸借対照表」、「損益計算書」および「株主資本等変動計算書」です。「貸借対照表」と「損益計算書」は利益額を決定するために必要な書類で、「基本決算書」と呼ばれています。

 

そのほか、事業の概況や経営方針などを説明するための「事業報告」や、基本決算書を補足するための「注記表」、「附属明細書」の作成も求められています。

 

さらに、上場企業など大規模な資金調達を行う会社には、会社法だけでなく金融商品取引法も適用されます。このような会社は、広く資金調達を行うことによって関係者の数や範囲が大きくなるため、それだけ社会的な影響も大きく、より強い規制が必要になるからです。

 

金融商品取引法が適用される会社は、「貸借対照表」、「損益計算書」、「株主資本等変動計算書」に加えて、「キャッシュ・フロー計算書」の作成が求められます。「キャッシュ・フロー計算書」は、現金および現金同等物の動きだけを抽出して整理したものです。グループ会社がある場合は、グループ全体を対象とした決算書(連結決算書)も必要になります。また、年次だけでなく、四半期ごとの財務報告も求められます。

 

本記事では、若手経営者のスタートアップ企業を対象としていますので、全ての会社が作成する「貸借対照表」と「損益計算書」を用いた財務分析についておもに取り上げます。

 

また、法律上の作成義務は無いですが、これらの決算書を作成する過程で作成されるであろう「試算表」や、資金管理の必要から作成する「資金繰り表」も、もう一歩踏み込んだ分析を行っていくうえで有用です。

 

決算書の種類

 
     
  1. 貸借対照表
  2.  
  3. 損益計算書
  4.  
  5. 株主資本等変動計算書
  6.  
  7. キャッシュ・フロー計算書
  8.  
  9. 注記表、附属明細書
  10.  
  11. 試算表、資金繰り表
  12.  

 

1-3 簿記と決算書の関係

「簿記がわからない」「苦手だ」という経営者もいますが、財務分析を行うにあたって簿記の知識は必須ではありません。しかし、最低限簿記とはそもそもどのようなものなのかを理解し、簿記と決算書がどのようにつながっているのかというイメージをつかんでおくことは重要です。

 

「簿記」とは、その名のとおり、帳「簿」に「記」録するための技術を意味します。会社の日々の活動は、全て帳簿に記録します。そこで、記録するためには、記録のためのルールが必要になるわけです。

 

簿記は、時に「ビジネスの言語」と呼ばれます。言語ですから、単語や文法・構文などのルールがあります。外国語やプログラミング言語を学んだことのある方であれば、記録のためには、このようなルールが必要になることが、おわかりいただけると思います。

 

一般的に言われる簿記の学習とは、記録のためのルールを覚えて、実際に起こった出来事を記録する技術を習得することを指します。

 

さて、簿記という技術によって会社の活動がひとつ一つ記録されるわけですが、このままでは蓄積された情報の単なる羅列、つまりデータベースにすぎません。次は、これらの記録を意味のある「まとまり」に整理しなおします。

 

簿記の手続きを通じて、会社の一つ一つの活動が、資産や負債、資本、収益、費用の増減として記録されています。今度は、記録をもとに最終的に収益や費用がどれだけ発生したのか、また増減の結果、現時点で資産や負債がいくらあるのか、という観点からまとめて、集計をします。

 

  • 資産……会社が保有している現金や債権、土地・建物などの経営資源。
  • 負債……会社が負っている借入金などの返済義務のある債務。
  • 資本……会社設立時などの際に株主から出資された元手と、経営活動によって生み出された株主の持ち分。
  • 収益……売上高など、経営活動によって獲得した資本増加の原因。
  • 費用……仕入高や支払家賃など、収益を獲得するために要した支出など。

 

その結果として、会計期間(通常は1年間)ごとに集計した書類が決算書となります。1年間の経過を待たず、月ごとなど一定期間で集計し、誤りがないか細かくチェックしたり、経営状況を迅速に把握したりするための書類が試算表です。

 

また、上記の決算書はあらゆる資産や負債の動きをとらえるものですが、現金だけの動きを管理することが別途必要になります。土地や建物などの固定資産がいくらあったとしても、日々の現金支払いが滞れば、銀行取引停止などに陥り、最悪の場合、倒産にいたるおそれがあるからです。これを黒字倒産といいます。

 

そこで、現金の流れを管理するために、法定書類ではありませんが、企業が自主的に、あるいは金融機関からの指導によって作成する書類が「資金繰り表」です。前述したキャッシュ・フロー計算書によく似た形式を用いることが通例です。

 

現在では、安価で質の高い会計ソフトウェアが多く提供されており、簿記の細かいルールを知らなくとも、簡単に試算表や決算書を作成することができます。

 

ソフトウェアを活用して会計処理を効率化することは、生産性を高めるためにも大変重要なことですが、上記のような簿記の大まかな流れを知っておくことは、決算書を理解するうえで役立つでしょう。

 

 

2 決算書を見るポイントとは

前述のように決算書(財務諸表)には経営活動の結果が、数値によって整理され、表示されています。今度は逆に、示された結果である決算書から、経営の実情を読み解いていきます。そのために必要なポイントをまずは概観します。

 

 

 

2-1 何があらわされているかをザックリと把握する

前述のとおり、決算書には資産、負債、資本、収益、費用の状況があらわされます。これらは大きく区分すると、①一年間の「動き」をあらわすものと②決算日時点での「残高」をあらわすものとして考えられます。

 

① 一年間の「動き(フロー)」をあらわす「損益計算書」

商品やサービスの売上などによる収益や、収益を獲得するために費やした仕入や家賃、給料などの費用は、それぞれの項目ごとに1年間分を合計した結果が損益計算書に計上されます。

 

つまり、1年間でどれだけの売上があったのか、家賃や給料の合計がいくらだったのかが、損益計算書を見れば手に取るようにわかります。そして収益と費用の差額から、最終的な「もうけ」の額である当期純利益が計算されます。

 

別の言い方をすれば、損益計算書は、最終的に獲得した利益の額と、その発生原因や内訳を示す書類である、と表現できます。

 

 

② 決算日時点での「残高(ストック)」をあらわす「貸借対照表」

資産や負債、資本の項目も常に増減しますが、貸借対照表には増加した額や減少した額ではなく、増減の結果として期末時点でどれだけの残高があるのかがあらわされます。

 

資産科目の代表的なものは現金・預金です。日々の取引で現金・預金は常に変動するわけですが、最終的に期末日時点で金庫にいくら現金があるのか、銀行口座にいくら残高があるのかが、貸借対照表の現金・預金の残高としてあらわされます。現金・預金以外の資産としては、掛取引を行った場合の売掛金といった売上債権や、土地や建物などの固定資産も計上されます。

 

負債科目では、金融機関からの借入金や、買入債務などが計上されます。資本には株主が出資した資本金などが計上されます。

 

貸借対照表の興味深い特徴として、資産額と負債および資本の合計額が必ず一致するというものがあります。資本は正確には「純資産」と呼ばれています。つまり、現在手元にある全ての資産の合計から、将来返済の義務がある全ての負債の合計を控除した額は、正味の資産額に一致する、ということです。

 

 

 

2-2 財務分析の観点

決算書に何があらわされているのかがわかったところで、次はそれを分析するための大きな観点について説明します。

 

① 何を分析の対象とするのか(実数分析と比率分析)

財務分析は大きく分けると、数値そのものを読み解く実数分析と、数値を百分率(パーセント)に置き換えて見ていく比率分析があります。

 

実数分析と比率分析にはそれぞれ利点と欠点があります。実数分析は数値そのものを扱いますので、経営の状況や影響額のイメージがつきやすい反面、事業規模の違う他社との比較が難しい、などの欠点があります。比率分析はその逆の利点、欠点があります。両者を相互補完的に利用することが必要です。

 

② 何と比較するのか(トレンド分析とクロスセクション分析)

次に、実数や比率といった情報を用いて分析をするにあたり、そこから経営判断のための材料を得るためには、比較対象が必要になります。そこで何と比較するのか、という観点から、過去の数値と比較する手法(トレンド分析)や他の会社などと比較する手法(クロスセクション分析)があります。

 

トレンド分析では、昨年度(あるいは過去数か年)の決算書を用いて推移を確認します。例えば、損益計算書にもとづいて利益の増減を比較することによって、何が利益を増加させたのか、減少させたのか、という情報を得ます。

 

利益が増加していたとすれば、その原因としては、収益が増えたのか、費用が減ったのか、あるいはその両方以外にありません。仮に収益が増えたのであれば、それは本業の売上増加なのか、資金運用がうまくいって利息収益が増えただけなのか、など徐々に階層を落としながら分析していくことができます。

 

クロスセクション分析では、例えば同じ業界のトップ企業や目標とする企業の財務状況と比較します。収益・費用の構造や資産・負債の状況を比較して、自社の強みや弱みを把握することができます。この場合は事業規模が異なりますので、やはり比率分析を組みあわせて用いることが有用でしょう。

 

例えば、自社の方が売上高は大きいのにも関わらず利益が小さいような場合、総資産利益率(後述)を比較すると、自社のほうが低いということが判明したとします。その場合には、総資産回転率(後述)を上げることが有効だと気付くことができます。このように多角的に分析を行うことが必要になりますので、分析手法の幅広い理解が重要です。

 

クロスセクション分析を行う際の注意点として、同一業界や業態の企業を比較対象とすることです。決算書には、業種や業態の性格が強くあらわれますので、全く異なる業種の財務情報からは得られる情報に限界があるからです。

 

個別企業の財務情報を入手する手段としては、上場企業等であれば金融庁のデータベース(EDINET)や、東洋経済新報社の「会社四季報」などを参照するのが良いでしょう。他方、中小企業には決算書の開示義務がありませんので、入手は困難です。webサイト上で情報公開している企業もありますが、あくまで自主性に委ねられています。
EDINET(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)

 

また、業種別や産業別の標準指標と比較するという手段もあります。標準指標とは、各種の機関が独自の調査にもとづき、業種別や産業別の平均値などを算出して公表しているものです。代表的な標準指標の資料として以下のようなものがあります。

 

*日本政策投資銀行設備投資研究所『産業別財務データハンドブック』
経済産業省『企業活動基本調査』
TKC『TKC経営指標』

 

このほか、過去に蓄積された研究や実務上の経験則から、クロスセクション分析に有用となる一般的な基準値が示されるものもあります。これについては、具体的な指標を確認しながら説明します。

 

 

3 具体的な分析手法とは

ここからは、実際の分析で用いられている分析指標を、具体的に挙げていきます。可能であれば、手元に自社の過去数か年分の決算書と、比較企業の決算書を用意して、実践をしながら確認してください。

 

 

 

3-1 安定性分析

安定性分析とは、資産、負債、資本の状況から会社の財務面での安定度を分析するための比率分析です。ここでいう安定した状態とは、借金体質におちいらずに健全な財政運営ができていることを指します。財務面の安定度は、短期的な観点と長期的な観点の両面から判断する必要があります。

 

① 短期的な安定性分析指標

短期的な安定性を図る指標として、売上債権対買入債務比率、および買入債務対棚卸資産比率があります。

 

売上債権対買入債務比率=(受取手形+売掛金)÷(支払手形+買掛金)
買入債務対棚卸資産比率=(支払手形+買掛金)÷棚卸資産

 

売上債権とは受取手形や売掛金のことで、買入債務とは支払手形や買掛金のことを指します。

 

売上債権対買入債務比率は、商品売買から発生する債権と債務の比率をあらわします。商品売買取引から生じる債権・債務は日常的に反復して発生し、消滅することを繰り返します。これらの比率を見ることで、短期的な債権と債務のどちらがどれくらい大きいのかを把握することができます。

 

数値が小さいほど、それだけ債務の方が債権よりも大きいことを示します。取引条件などを見直して、できる限り債務を圧縮した運営を目指しましょう。

 

買入債務対棚卸資産比率は、日々の商品仕入や製品生産がどれくらい負債に依存しているのかを把握できます。

 

数値が大きいほど負債に依存している、ということになります。迅速に決済できるように資金を潤沢にする必要があります。

 

このような安定性分析は、自社の数値だけでは、適正なのかどうかを判別するのは困難です。自社の数値を算出するだけではなく、同業他社や標準値などと比較することで、自社の課題がより一層明確になります。

 

② 長期的な安定性分析指標

短期的安定性指標は、概ね1年間といった短いスパンでの安定性を見るものでしたが、長期にわたって安定しているかどうかを判別するためには、固定資産と資本との関係に着目します。

 

固定比率=固定資産÷資本
固定長期適合率=固定資産÷(資本+固定負債)

 

固定比率および固定長期適合率は、いずれも長期にわたって利用できるお金と、実際に利用している固定資産の対応関係を示します。本来、長期的に利用する固定資産は長期資金によってまかなうことが、金融面での安定につながりますので、これらの指標は両者の対応関係を測るのに適しています。

 

最も確実に利用できるお金は自己資本ですから、その範囲内で固定資産を運用すること、つまり固定比率は100%以下であることが望ましいとされています。

 

仮に固定比率が100%を超えているとして、さらに固定長期適合率も100%を超えているとすれば、それは日々の運転資金が固定資産に充当されていることを意味します。この状態は、資金不足に陥るリスクがあり望ましくありません。最悪の場合でも、固定資産長期適合率が100%を超えないようにコントロールすることが必要です。

 

また少し異なる観点から、負債と資本の構成割合も長期的な安定性指標になります。負債は利息負担を発生させますので、財務的には負債は少ないほど良い、ということが言えます。

 

自己資本比率=資本÷(負債+資本)
負債比率=負債÷(負債+資本)

 

自己資本比率も負債比率も、資金調達総額のうち、資本や負債がどれくらいあるか、ということを示します。

 

 

 

3-2 流動性分析

流動性分析は、短期的な支払い能力を見るものです。最も一般的に使用される指標として、流動資産と流動負債の割合である流動比率があります。およそ1年以内に支払期限が到来する債務に対して、すぐに現金化して支払に充てられる資産がどれだけあるのかを示します。

 

流動比率は、かつてアメリカの銀行家が、融資の可否を判断するために開発した指標とされており、「銀行家比率」とも呼ばれています。

 

流動比率=流動資産÷流動負債

 

流動比率は、100%以上が必須で150%以上が望ましく、200%以上が優良とされていますが、現実的には200%以上となることは滅多にありません。同業他社や標準値と比較をしながら、できる限り高い水準を目指しましょう。

 

流動比率をもう少し厳密にした指標に「当座比率」があります。流動資産の中には棚卸資産が含まれますが、棚卸資産は現金化に時間を要する場合があります。そのため、短期的な支払い能力を厳密に測定するためには、流動資産全体では不適切であるという考えから当座比率が用いられます。当座比率は、流動資産から棚卸資産を除いた金額を当座資産として分子に設定します。

 

当座比率=当座資産÷流動負債

 

そのほか、キャッシュ・フロー計算書を作成している場合には、より詳細な分析が可能となる指標として経常収支比率があります。キャッシュ・フロー計算書を作成していない場合でも、資金繰り表を用いて同様の分析を行うことが可能です。

 

経常収支比率=経常収入÷経常支出

 

経常収入および経常支出は、固定資産取得や借入金の受入・返済など臨時的な収支を除いて、日々の事業活動から生じたキャッシュの収支だけを抽出して計算します。

 

経常収支比率が高いほど、日々の資金繰りがひっ迫していることを示します。資金繰り表を活用して、改めて資金の全体の流れを見直す必要があります。

 

 

3-3 収益性分析

収益性は、企業が利益を獲得するために投下した資産や資本に対して、どれだけの利益を上げているか、また売上高に対してどれだけ利益があるか、によってあらわした指標です。当然、収益性は高ければ高いほど良いということになります。

 

① 資産や資本に対して利益がどれくらいか

企業は、株式の発行や借入によって調達した資金を用いて資産を取得し、それを利用したり販売したりすることで利益を生み出しています。そこで、資産取得に投下した資産と利益を対応させることによって、どれだけ利益を生み出す力があるのかを見ることができます。

 

総資産(資本)利益率=経常利益÷総資産(資本)

 

総資本とは、調達した資金の総額、つまり資本と負債の合計額を意味しますから、前述した貸借対照表の特徴からわかるように総資産の金額と一致します。どちらを分母に用いても利益率は同じです。

 

分子に用いる利益額は、経常利益以外にも営業利益や当期純利益を用いることができます。これらの利益は、損益計算書で段階的に計算されます。このようにさまざまな角度から分析することによって、損益の構造を把握することができ、経営管理に一層役立てることができます。

 

*営業利益……売上高から仕入高や製造原価、販売・管理費など生産販売活動にかかる費用を除いた額。
*経常利益……営業利益に受取利息や支払利息など金融活動にかかる収支を加減した額。毎期継続、反復する活動から生み出した利益を示すもの。
*当期純利益……臨時的な損益や税金も全て加味した最終的な利益。

 

さらに、以下のように利益率を細かく見ることによって、より詳細に分析することも可能です。

 

経営資本利益率=営業利益÷経営資本

 

経営資本とは、生産や販売のために利用されている資産のことを指し、総資産から出資金や貸付金などの金融資産を除いて考えます。この場合は生産販売活動に特化した指標なので、分子には営業利益を用います。

 

自己資本利益率=当期純利益÷自己資本

 

自己資本利益率は、株主の立場から見て、出資した金額に対してどれだけのリターンが得られたのかを測る指標です。ROE(Return on Equity)とも呼ばれ、投資家にとっては馴染みの深い指標です。上場を目指す場合や株主を意識した経営をする場合には、この指標を一層改善していく必要があるでしょう。

 

② 売上高に対して利益がどれくらいか

損益計算書では、前述のとおり段階的にいくつかの利益が計算されます。これらの利益額をそれぞれ売上高に対応させることによって、活動区分ごとの利益構造から強みと弱みを把握することができます。

 

売上高営業利益率=営業利益÷売上高
売上高経常利益率=経常利益÷売上高
売上高当期純利益率=当期純利益÷売上高

 

例えば、同業他社と比較して、売上高営業利益率は高いが売上高経常利益率が低くなっているような場合を想定します。この場合には、生産販売活動から獲得できる収益力は優位であるものの、金融活動では遅れをとっている、と分析できるでしょう。借入利率の見直しや、余剰資金の運用による利息の獲得が必要になります。

 

損益の構造を把握して、過去の推移、また他社との比較を組み合わせることで、さまざまな有用な情報が得られます。

 

 

3-4 活動性分析

活動性とは、資産や資本の回転速度をあらわします。

 

「回転」というのは経営のサイクルを意味します。つまり、企業は調達した資金を資産に投下して、それを利用あるいは販売することで再びキャッシュを手にします。これが一連の販売サイクルになります。この販売サイクルにどれだけの期間を要しているのかというのが活動性の指標になります。もちろん「サイクルが早ければ早いほど良い」「活動性が高い」ということになります。

 

総資産回転率=売上高÷総資産

 

売上高を総資産の額で割ることで、1年間で資金投下何回分の売上が上がったか、という回数を示します。

 

回転「率」という名称ですが、単位は「回」になります。

 

実は、総資産回転率は前述の収益性分析と密接な関係にあります。総資産利益率は売上高利益率と総資産回転率を掛け合わせたものとなるからです。

 

総資産利益率=売上高利益率×総資産回転率

 

つまり総資産利益率を高めるためには、売上高利益率を高めるか、あるいは総資産回転率を高めれば良い、ということになります。つまり、原価やコストを下げて1単位あたりのもうけを増やすか、生産販売のサイクルをより早くする、ということです。

 

 

3-5 成長性分析

成長性は、未来への発展可能性について示すものですが、もちろん、決算書は基本的には過去情報の蓄積ですから、未来の数値を直接導くことはできません。

 

成長性分析では、利益額などの過去からの伸び率や前年度比を用いて傾向を知ること、および研究費や新製品開発などへの投資が未来の成長をもたらすものとして考えます。

 

伸び率=(今年度値―前年度値)÷前年度値
対前年度比=今年度値÷前年度値

 

売上高研究費比率=研究費÷売上高
売上高新製品比率=新製品売上高÷売上高

 

 

3-6 生産性分析

生産性の分析は少し難易度が上がります。決算書からも若干離れますので、外部からは入手できない情報を用います。そのため、自社の経営分析をかなり詳細に行いたい場合に用いられる手法です。

 

特に、投入した経営資源一単位あたりの生産効率や、労働者一人あたりの生産効率を把握することがおもな目的です。収益性分析とよく似た観点ですが、収益性は「もうけ」である利益のみに焦点を当てるのに対して、生産性は企業活動全体をとらえていることが特徴的です。

 

生産性は、資産や労働などの投入に対して、生み出された「付加価値」の割合として求められます。「付加価値」とは、自社の活動によってどれだけ新たな価値を生み出したか、ということを意味しています。

 

「付加価値」は次の2通りのいずれかの方法で求めます。

 

付加価値=売上高-原材料や支払経費等の外部からの購入額
付加価値=人件費+金融費用+賃借料+租税公課+経常利益+(減価償却費)

 

減価償却費は加算する場合と加算しない場合があります。両者で算出結果の意味合いが異なってきますので、分析の目的に応じて使いわけることが必要です。

 

付加価値を求めたのち、以下の方法で生産性を測ります。

 

総資産投資効率=付加価値÷総資産
労働生産性=付加価値÷従業員数

 

総資産投資効率は、投入した資産に対する生産効率をあらわし、労働生産性は従業員一人当たりの生産効率をあらわします。

 

また、売上高に占める付加価値の割合をもって、付加価値率を見ることもできます。

 

付加価値率=付加価値÷売上高

 

さらに、付加価値のうち、それがどれだけ人件費に分配されるのか、という観点からの指標として労働分配率があります。

 

労働分配率=人件費÷付加価値率

 

ちなみに、労働生産性と労働分配率を掛け合わせた値は一人あたりの人件費になります。

 

一人当たりの人件費=労働生産性×労働分配率

 

 

4 金融機関が関心を寄せていることとは

さまざまな財務分析の指標や手法を紹介しましたが、ここで、会社にとって大切な関係者である金融機関は、そもそも会社の何に対して関心を寄せているのかについて、改めて確認します。

 

 

4-1 金融機関が会社に期待すること

金融機関は、預貯金を集めて調達した資金をもとに、企業などに融資をして、利息を得ることで経営が成り立っています。

 

金融機関の立場で考えれば、融資の可否を判断するさい、これから融資をしようとする相手は、約束どおりにきちんと返済ができるのか、あるいは利息が払えるのかを考慮することはきわめて重要なことです。もし仮に利息の支払いや元本の返済が滞ったり、最悪、融資先が倒産して回収不能になったりすると、非常に大きな損害を被るからです。

 

そのような背景から、金融機関は会社の支払い能力や将来性を判断する必要があります。そのために、会社に対して定期的に決算書や試算表、資金繰り表の提出を求めているわけです。

 

また、一回きりの取引関係で終わるのではなく、その後長いお付き合いができる相手なのかどうかも、金融機関にとって重要な判断材料です。今はまだ収益力も低く、財務基盤も脆弱な会社であったとしても、将来の成長が期待できるのであれば、金融機関にとっても今後大きなビジネスチャンスにつながる可能性があるからです。

 

このように、金融機関は会社に対して、良き顧客であり、良きパートナーであることを期待しているのです。

 

 

4-2 金融機関は何を見ているか

融資の可否を判断するためには、支払能力について、安定性や流動性を見ることによって分析することなります。また今後の取引関係の継続を考慮するうえでは収益性や活動性、成長性も重要です。

 

つまり、金融機関も決算書などを用いて、前述したような財務分析を行っています。「銀行家比率」と呼ばれる流動比率は、伝統的な分析指標であることを紹介しましたが、現代の銀行家にいたるまで脈々と引き継がれ、使用され続けています。

 

また、財務分析から得られる定量的な情報だけでなく、経営者が会社の将来をどのように考えているのかといった経営姿勢や、経営者自身が信頼できる人物かについてもよく見ています。このような定性的な情報は、経営者と何度も面談を重ねることで、担当者の心証として徐々に蓄積されていきます。

 

そのほか、金融機関がすでにあるいはこれから関与しようとする、別の融資先のビジネスとのマッチングなども考えています。複数のビジネスをマッチングさせることによって、それぞれが相乗効果を発揮して、より大きく成長することを期待するからです。

 

顧客企業のビジネスが成功すれば、より大きな資金需要が生まれるため、金融機関にとっても新たなビジネスにもつながり、win-winの関係が実現します。金融機関はこのように経営コンサルティング会社のような役割も担っています。

 

経営分析のまとめ

安全性分析 売上債権対買入債務比率 (受取手形+売掛金)÷(支払手形+買掛金)
買入債務対棚卸資産比率 (支払手形+買掛金)÷棚卸資産
固定比率 固定資産÷資本
固定長期適合率 固定資産÷(資本+固定負債)
自己資本比率 資本÷(負債+資本)
負債比率 負債÷(負債+資本)
流動性分析 流動比率 流動資産÷流動負債
当座比率 当座資産÷流動負債
経常収支比率 経常収入÷経常支出
収益性分析 総資産(資本)利益率 経常利益÷総資産(資本)
経営資本利益率 営業利益÷経営資本
自己資本利益率 当期純利益÷自己資本
売上高営業利益率 営業利益÷売上高
売上高経常利益率 経常利益÷売上高
売上高当期純利益率 当期純利益÷売上高
活動性分析 総資産回転率 売上高÷総資産
総資産利益率 売上高利益率×総資産回転率
成長性分析 伸び率 (今年度値―前年度値)÷前年度値
対前年度比 今年度値÷前年度値
売上高研究費比率 研究費÷売上高
売上高新製品比率 新製品売上高÷売上高
生産性分析 付加価値 売上高-原材料や支払経費等の外部からの購入額
人件費+金融費用+賃借料+租税公課+経常利益+(減価償却費)
総資産投資効率 付加価値÷総資産
労働生産性 付加価値÷従業員数
付加価値率 付加価値÷売上高
労働分配率 人件費÷付加価値率
一人当たりの人件費 労働生産性×労働分配率

 

 

5 経営に活かすために大切なこととは

これまで財務分析の必要性や代表的な手法について説明しましたが、最後にまとめとして、財務分析の知識を今後の経営に活かすため、注意しなければならないことを挙げておきます。

 

 

5-1 自社の経営状況を実感すること

経営者であれば、会社の経営について常にあれこれと考えを巡らせているでしょう。新しい事業の可能性や、既存事業をどのように改善していくべきかなど、アイディアを練ることはとても楽しく、そしてとても重要なことです。

 

しかし、そのようにして生み出されたアイディアも、最終的には単なる思い付きではなく、客観性を伴わなければいけません。そのためには、数値による根拠が必要です。特に、それを外部の関係者と共有するためには数値を活用して説得力を備えることが求められるでしょう。

 

財務分析はそのための材料を提供します。自社の財務状況について数値を用いて分析することで、抽象的な感覚だけではなく実感をともなって知ることができます。冒頭で紹介した京セラの稲盛氏の言葉はまさにこのことをあらわしているのです。

 

 

5-2 外部の関係者との信頼関係を構築すること

財務分析は自社の経営を知ることだけでなく、そこから得られた情報を用いて外部の関係者との信頼関係を構築するためにも必要不可欠です。

 

株主に対しては、業績をアピールするための材料にすることができます。株主資本利益率の向上などは格好のアピール材料になります。取引先との交渉の場面でも、譲れないラインがわかるので、妥協点の模索に用いることができるでしょう。

 

そして、特に金融機関に対しては、求められた書類を提出するだけではなく、自社の経営が現在どのような状況にあるか、またそれを今後どのように改善していくか、というはっきりとした意思を示す必要があります。

 

課題と今後の対応、そして将来への展望に数値にもとづいた根拠があり、明確であればあるほど説得力を伴うので、信頼を勝ち取ることができます。しっかりと地に足を着けて、はっきりとした根拠にもとづく考えを持った経営者であることを、印象づけることが重要です。

 

財務分析をしよう、ということで数値を計算するだけで満足していては、本来の価値は見出せません。そこから何を読み解き、得られた結果を外に向かってどのように展開していくか、という場面こそ、経営者の創造性が発揮されるところです。それがまさに、会社の未来につながる財務分析の本当の価値であるということを、是非実感してください。

 

 


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