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【日本の基礎科学力低下?】10年間で被引用論文数が4位から10位に後退

(出展:USC Keck School of Medicine)
(出展:USC Keck School of Medicine)

学術情報を専門に分析するクラリベイト・アナリティクスによれば、日本の科学生産高はここ10年間停滞しているとされます。実際、2015年に国際的な影響力が強い科学雑誌に掲載された日本の論文数は、2005年に比べて600件減少しました。

 

また、今年6月に公表された科学技術白書において、学術的価値が高いことを示す被引用論文数が10年間の間で4位から10位に後退したことが明らかになりました。

 

伝統的に得意とされてきた分野での論文数の減少に対して、文部科学省は「日本の存在感の低下は顕著になってきている」と警鐘を鳴らします。

 

2000年以降、17年間で17人のノーベル賞受賞者を輩出するなど、米国に次ぐ第2位の成果を上げてきた日本の科学界。あらためて国の科学技術の現状を把握し、その問題点を認識する必要がありそうです。

 

本記事では、文部科学省が公表した平成29年版科学技術白書をもとに、基礎科学の現状をみていきます。

 

 

目次

  1. 1 なぜ10年間で日本の基礎科学力は低下したのか
  2. 1-1 引用される論文数が4位から10位に
  3. 1-2 中国、8位から2位に躍進
  4. 1-3 国際共著の割合も他国と比べて低い
  5. 2 日本科学界の3つの危機
  6. 3 基礎科学力の強化に向けて

 

1 なぜ10年間で日本の基礎科学力は低下したのか

白書によると、近年、日本の論文数の伸びは停滞し、国際的なシェアの順位は大幅に低下しています。

 

被引用トップ10%補正論文数の順位において、この10年の間に、日本は4位から10位に低下しました。Top10%補正論文とは、被引用数が上位10%に入る論文の抽出後、実数で論文数の10分の1となるように補正を加えた論文のことで、研究の質を図る指標になるものです。被引用度の高い論文数の低下は国際的な影響力の低下を意味します。

 

 

1-1 引用される論文数が4位から10位に

2002〜2004年におけるTop10%補正論文数で、アメリカ、イギリス、ドイツについで論文数5750件、国際的なシェア7.2%だった日本は、2012〜2014年では論文数6524件に増えたものの、シェアは5.0%に落としました。

 

・ 2002-2004年次のTop10%補正論文数

順位 国・地域名 論文数 シェア
1 アメリカ 38075 47.4%
2 イギリス 8957 11.1%
3 ドイツ 8068 10.0%
4 日本 5750 7.2%
5 フランス 5521 6.9%
6 カナダ 4447 5.5%
7 イタリア 3740 4.7%
8 中国 3720 4.6%

 

・ 2012-2014年次のTop10%補正論文数

順位 国・地域名 論文数 シェア
1 アメリカ 51837 39.5
2 中国 22817 17.4
3 イギリス 15537 11.8
4 ドイツ 14343 10.9
5 フランス 9428 7.2
6 カナダ 8160 6.2
7 イタリア 8049 3.1
8 オーストラリア 7074 5.4
9 スペイン 6775 5.2
10 日本 6524 5.0

(参照:文部科学省「平成29年版科学技術白書」より作成)

 

なお、最新の論文引用数は、アメリカの5万1837件が最も多く、次いで2位中国2万2817件、3位イギリス1万5537件、4位ドイツ1万4343件、5位フランス9428件、6位カナダ8160件、7位イタリア8049件、8位オーストラリア7047件、9位スペイン6775件となりました。

 

 

1-2 中国、8位から2位に躍進

一方、日本が後退するのを裏目に、中国の躍進が目立ちました。2002〜2004年時に論文数3720件で8位だった中国は、10年間の間に6倍以上に論文数を増やし、シェア17.4%で世界ランク2位につけます。

 

このほか、中国の清華大学が、数学およびコンピューター科学分野での被引用論文数がアメリカのマサチューセッツ工科大学を抜いて世界1位になるなど、近年中国科学界の躍進が顕著となっています。

 

 

1-3 国際共著の割合も他国と比べて低い

日本の基礎科学力の揺らぎは、国際共著の数からも見てとれます。

 

イギリス、ドイツとの国際共著論文数(多国間)の比較では、2011〜2013年で、イギリス5725件、ドイツ5274件に対し、日本は1546件と3分の1以下となっています。2国間の共著論文数でも、イギリス4475件、ドイツ4222件、日本1714件となりました。

 

・ 多国間の国際共著数推移

  イギリス ドイツ 日本
1996-1998 993 964 353
2001-2003 4630 1632 563
2006-2008 3191 2928 975
2011-2013 5725 5274 1546

(参照:文部科学省「平成29年版科学技術白書」より作成)

 

共著

(参照:科学技術白書)

 

 

2 日本科学界の3つの危機

白書では、国内の基礎科学力の低下につながりかねない3つの危機的課題は①研究費・研究時間の劣化、②若手研究者の雇用・研究環境の劣化、③研究拠点群の劣化だと指摘しました。

 

・ 基礎科学力の揺らぎの原因となる“3つの劣化”

研究費・研究時間の劣化 基盤的経費および研究者の裁量による自由な研究を支える研究費が減少している。一方で、競争的資金等の獲得競争が熾烈化している。
若手研究者の雇用・研究環境の劣化 大学の基盤的経費は減少しており、国立大学においては、常勤の教職員人件費が圧迫され、基盤的経費により安定的に雇用される教員数が減少し、競争的資金等により任期付きで雇用される不安定な若手研究者が増加している。
研究拠点群の劣化 研究者が国内外の研究者と切磋琢磨まし、研究の内容や段階等に応じて最適な機関を選んで力を発揮できるような、「知の集積」の場の多様性が望まれる。

(参照:文部科学省「平成29年版科学技術白書」より作成)

 

白書によれば、研究費・研究時間の劣化については、国立大学運営費交付金の予算額が年々減らされ、個人研究費についても、アンケートで減っていると答える割合が43%に及びます。

 

若手研究者の雇用・研究環境の劣化については、不安定な雇用条件やそれにともなう経済的不安の下に置かれた若手研究者は、短い任期中に業績を積むことを強いられるなど、独創性や創造性を十分に発揮しづらい状況を生み出していると言われています。

 

研究拠点群の劣化については、たとえばドイツとのトップ10補正論文数の比較では、上位では日本の大学が上回る一方、中位ではドイツの方が大きく上回りなど偏りが大きい状況となっています。

 

・ 国立大学運営費交付金等予算額の推移

研究費推移

(参照:科学技術白書)

 

・ 日独トップ10補正論文数の分布比較

補正論文数

(参照:科学技術白書)

 

 

3 基礎科学力の強化に向けて

白書は、他国に先駆けて優れた研究成果を創出するためには、若手研究者をはじめとする研究者が最大限能力を発揮できるような環境整備、人材システム改革、研究費制度が必要であると指摘します。

 

そのためには、基礎科学の重要性を国民一人一人に知ってもらうことが大切であり、真理を探究する文化が広く浸透する必要があると述べました。

 

2000年代以降、日本人の自然科学系ノーベル賞受賞者はアメリカ人に次ぐ世界2位となりました。科学者はノーベル賞を目的に研究するわけではないですが、世界から高く評価されることは大変誇るべきことであり、今後も人類社会の発展に大きく貢献するために、科学者を取り巻く環境を改善していくことが求められています。

 

 


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