「株主名簿」について解説するにあたり、そもそも会社において株主とは、どのような位置づけなのか、どのような権利があるのか、「株主権」について整理してみましょう。
株主には様々な権利があります。
目次
株主の権利
まず、大別して2つの大きな権利があると言えます。
自益権
ひとつめは「自益権」。これは権利の行使によって個々の株主が個別に利益を受けることができるというものです。「自益権」には、利益の分配を受ける「配当請求権」のほか、株式分割などを受ける「新株引受権」、会社解散時に残余財産を受ける「残余財産分配請求権」などがあります。
共益権
次に、「共益権」。これは経営の改善によって株主全体の利益につながり、その恩恵が受けられる権利です。また「共益権」の代表的なものとして「株主総会への出席権」、役員の選任時などの「議決権」「帳簿閲覧権」「株主代表訴訟提起権」等が挙げられます。
株主権は「株主平等の原則」によって、株主としての資格に基づく法律関係においては、その内容及び持ち株数に応じて平等に扱われなければならないとされています。
しかし、一部例外も見られ、「帳簿閲覧権」などは、発行済の株式総数の10分の1以上を所有する大株主に限られるなど、持ち株数に応じてその内容が変わるものもあるのが現状です。
「株主名簿」の記載事項について
「株主名簿」とは、株主の氏名・住所などが明記された名簿です。発行会社が株主を把握するために作成します。日本法では会社法121条(商法旧223条)に規定があります。株主名簿の必須記載事項は以下の7つです。
株主名簿の必須記載事項
1、 株主の氏名及び住所 2、 株主の有する株式の種類及び数(種類株式発行会社※にあっては、株式の種類及び種類ごとの数) 3、 株式の取得年月日 4、 株式会社が株券発行会社である場合には、保有株式数のうち株券が発行されているものの株券番号 5、 株式に質権を設定した場合は、質権者の氏名(法人の場合は名称)及び住所 6、 株式に質権を設定した場合は、質権の目的である株式 7、 株式が信託財産に属する場合はその旨の表示※「種類株式発行会社」とは、「種類株式を発行している会社」のことですが、種類株式というのは、株式の内容について(例えば配当の金額や議決権など)差異を設けることで様々な場面に活用することを目的として設けられた株式のことを指します。
種類株式
会社法が発行を認めている種類株式は多種あります。以下に一例をご紹介しましょう。・剰余金の配当や残余財産の分配について差異を設ける種類株式 ・ 議決権制限株式 ・完全無議決権株式 ・譲渡制限付種類株式 ・取得請求権付種類株式 ・取得条項付種類株式 ・全部取得条項付種類株式 ・拒否権付種類株式 ・取締役、監査役の選任解任権付き種類株式
株主の管理
株式会社は株主名簿により株主の管理を行います。会社は作成した株主名簿をその本店に、株主名簿管理人があるときはその営業所に、備え置かなければなりません。
株主名簿管理人
株主名簿管理人とは、株式会社に代わって株主名簿の作成及び備え置きなどの事務を取り扱う者をいいます。
株主名簿の閲覧、謄写
また株主・債権者は、会社の営業時間はいつでも株主名簿の閲覧、謄写(コピー)の請求ができます。登記簿のように誰でも請求できるわけではなく、あくまでも株主・債権者に限っています。
なぜならば、株主名簿の閲覧、謄写などが、株主と債権者がその利益を確保するため、また間接的に会社の利益を保護するために認められたものだからです。
株式名簿への記載
株主総会に出席する権利や各種の株主優待を受ける権利など、株主の権利を執行するためには、自分の名前が株式名簿に記載されていることが必須となります。株主の流通市場を通して株式を購入した際、短期の利益目的で売買するといった例を除いて、その企業の株主になることを前提に株式を購入した場合は、ただちに名義変更を行う必要があります。
「株主名簿」の精度がトラブル回避の決め手
日本社会は9割が中小企業で成りたっています。家族・親族経営による「ファミリー企業」も多く、中には株主名簿が適正に整備されていない会社が少なくありません。
相続のトラブル
たとえば株主が既に亡くなっているにもかかわらず放置していたままという会社があったとしましょう。株式の相続人が突然、会社の経営方針にあれこれ口出しをしてきたらどうされますか? 法的には止められません。株主総会の決議が思うようにできなくなることも考えられます。
名義貸しのトラブル
また、会社設立時に名義だけ借りた発起人が、数年後、株主の権利を主張してくることも……。それらのトラブルは株主名簿が整備されていないために起こるものです。
株主名簿を毎年、見直し修正を加えることが大切です。大きなトラブルに発展しないためにも、株主名簿の精度はいつも高くキープしていたいもの。
また、株主名簿の整備不良は、会社法976条7項により過料の制裁がありますので、厳重な注意が必要でしょう。