株式会社の設置必須機関である株主総会の承認を得た「貸借対照表」又はその要旨は、公告する必要があります(決算公告)。
これを怠った場合は、100万円以下の過料が科せられる場合があるので注意が必要です。
従来の公告方法は、「官報」、と「日刊紙」の2つの媒体に掲載する方法のみでしたが、商法の改正によって、「株主総会の承認を得た後、5年を経過する日まで、法務省令に定める電磁気的方法により不特定多数の者が提供を受けられる状態に置く」との規定が置かれたことにより、「官報」や「日刊紙」の他に、いわゆる「電子広告」(自社サイト等への開示)も認められています。
公告方法は、「官報」、「日刊紙」、「電子公告」の3種類が認められていますが、定款にこのうちどの方法で公告を行うかを記載する必要があるので、自社の規模や各公告方法のメリット・デメリット等を十分精査して、最もよいと思われる公告方法を選択して下さい。
目次
電子公告制度について
商法の改正で、それまで官報又は時事に関する日刊新聞紙に限定されていた公告の方法に加え、会社や一般社団法人は、インターネットで公告(電子公告)することが可能になりました。電子公告とは、官報や日刊紙掲載の方法で行っていた決算や会社の合併・資本減少等の公告をインターネット上のホームページに載せることを言います(会社法2条第34号等)。
公告の趣旨は、会社の債権者等の利害関係人が会社の動きや財務状況等の現状を知ることができるようにすることなので、掲載しているホームページにアクセスすることで、この趣旨を実現することになります。
電子公告を行うための手続き
電子公告は、 ①定款に「電子公告を公告の方法とする」と記載し、登記申請を行います。②電子公告機関に公告調査を委託し、電子公告機関は法務大臣に公告委託があったことを報告し、これにより電子公告調査が開始します(公告開始)。
③電子公告期間が終了すれば、電子公告機関から調査の結果が報告されます。④この調査結果を受け、「公告をしたことを証する書面」として登記申請書類に添付します。
法務省 法務省電子公告調査機関一覧
但し、「決算公告」のみを電子公告の方法で行うには、公告調査は必要ありません。
電子公告を行うには、定款に定めが必要
会社が公告を電子公告の方法で行うには、定款にその定めをしておくことが必要です。会社の設立時に作成する「原始定款」に電子公告を行う旨の記載をしてください。ただ、WEBページのURLまで定款に記載する必要はありません。
また、全ての自社に関する情報の公告方法を従来通り「官報」と「日刊紙」で行う場合でも、貸借対照表の開示である「決算公告」に限り、「電子公告(自社サイトへの電磁気的公告)」も可能です。(会社法440条3項)
電子公告の掲載要件について
資本金5億円未満、負債総額200億円未満の会社であれば、「決算公告」のみで公告掲載要件が満たされ、「決算公告」のみインターネットで行う際には、取締役会で「決算書のみをインターネットで公告する」趣旨の決議を行います。この後、決算公告を行うホームページのURLを登記します。
電子公告は、自社のホームページである必要はありませんが、掲載してから5年間は継続して閲覧できる状態に置くことが必要です。
また、自社のホームページで公告する場合には費用はかかりませんが、帝国データバンク等の他社の公告掲載サービスを利用する場合は、1年間で3万円+消費税、5年間12万円+消費税の費用が発生します。
帝国データバンク 帝国データバンク決算公告サービス
電子公告のデメリット
電子公告を行うホームページは、世界中どこからでも、誰でも会社のサイトにアクセスできることが利点のでもありデメリットにもなります。つまり、世間にあまり知られたくない会社の台所事情(決算内容等)を一般にさらけ出すことになるデメリットを覚悟する必要があります。
中小企業の場合の決算公告は、「貸借対照表」のみの掲載で十分なのですが、「貸借対照表」には、会社の1年以内の返済義務である「流動負債」や「純資産」、また、当期利益等の会社の業績内容が一般にさらされてしまいます。
会社法上公告は、「官報」「時事に関する事項を掲載する日刊紙」、そして「電子公告」のいづれかの方法で公告しなければなりませんが、「電子公告」の方法をとることで、会社の業績が思わしくなく、負債が増加している現状が広く一般に広まれば、肩身の狭い思いをしたり、おかしな風説を流されたり、また、悪用されて予期しないトラブルを生じさせる端緒になる危険もないとは言えません。
電子公告に対する一般的注意点
決算公告に限らず、全ての公告を電子公告に変更する場合は、事前に調査機関の調査が必要です。この調査費用は意外と高額で約20万円位になります。
また、法務局での定款変更続きの費用は登録免許税3万円が必要です。
尚、定款変更の際の定款そのもの中には、URLの記載は必要ないのですが、法務局における登記事項証明情報(登記簿)には、URLの記載が必要なので注意して下さい。
官報に掲載する公告
官報とは,法律・政令、条約等の制定・改正等の公布の情報や,破産・相続等の裁判内容が掲載される国が発行する国の広報紙といった性格を持つ情報紙で、国立印刷局が,行政機関の休日を除き、毎日発行しています。官報に掲載する方法で公告を行う料金は、1枠で30408円、2枠で60816円、3枠なら121632円になります。
中小企業の公告では、貸借対照表のみの公告で足りますが、公告は通常2枠必要になるので、毎年の出費を考えるとかなり重い金額と言えます。
株式会社兵庫県官報販売所 官報公告料金表
時事に関する事項を掲載する日刊新聞に掲載する公告
日刊紙による公告のほとんどは、日本経済新聞に掲載しますが、日刊紙による公告掲載費用は、非常に多額の料金が発生するので、中小零細企業の殆どはこの公告掲載方法を採用していません。また、日刊紙での公告では、定款に当該日刊紙の発行地の定めを記載しないで公告することも可能ですが、これがない場合で、掲載料金が格安の地方版に掲載した場合は、公告として認められない場合があるので注意して下さい。
公告方法の選択
公告方法の選択は、各会社の実情は様々なので、自分が起業する会社に一番適していると思われる方法を選択することになります。一般的には、公告費用を気にしない場合や公告掲載を一過性にしたい場合は、「時事に関する事項を掲載する日刊新聞(日刊紙)を公告媒体とすればよいでしょう。
ただ、公告費用がかさむので、この公告方法は、起業してすぐの会社や中小企業では良い選択とは言えません。
また、公告費用はあまり気にしないが、決算書を広く一般に長時間閲覧させたくないとお考えの方には、「官報」による公告方法がお薦めです。
「官報」は国家が発行する「国民の情報紙」的な性格もありますが、一般の方が「官報」を継続して購読して、かつ、細かな情報までチェックすることは非常に少ない事例と言えます(ただ、官報閲覧が趣味の方又は業務上閲覧の必要がある方、例えば信用調査機関の方はよく見ています)。
「官報」による公告も、先述したようにある程度の料金が発生しますが、以上の点から考えると「官報」による公告も一考の価値があります。
最後に、決算書を広く、長い期間一般に閲覧させても構わないが、公告の費用はできる限り抑えたいと考える方は、自社のホームページに掲載する「電子公告」の方法を選択するのがよいでしょう。
ただ、掲載期間は掲載後5年間が義務付けられているので、誤って削除しないように注意して下さい。
削除に関して善意(知らずに)であっても、過失の程度を「重過失」(一般人が通常注意すると考えられる注意を著しく欠く過失で、起業するものは会社経営者としての責任が重く、重過失も一般に比べ広く認められます。)と認定されれば、過料の対象になります。