会社の定款は、会社の目的や機関設計、事業活動のための根本規則を規定した最高法規で、会社の設立には、「定款」を作成して公証人の認証を受ける必要があります。
定款の内容を如何なるものにするかは、非常に悩むところであり、定款の記載内容が要件を満たさない場合は、定款そのものが無効になることもあります。
定款の内容は、ある程度の具体性が求められますが、規定内容が細か過ぎれば、事業活動の機動性を失う事になります。
定款は、会社の要となる骨格規則なので、内容が過不足なく使いやすいものにする必要があり、この点、会社設立業務に精通した専門家のアドバイスを受けることが重要です。
目次
定款の記載事項は、3つの記載事項に分類される
定款の記載事項は、①「絶対的記載事項」
②「相対的記載事項」
③「任意的記載事項」 の3つに分類されます。
①「絶対的記載事項」
「絶対的記載事項」は、この記載がないと公証人の認証を受けることが出来ず、定款そのものの効力が生じない、必ず記載する必要のある最重要記載事項です。内容は、 1.商号、 2.会社の目的(事業内容)、 3.本店の所在地、 4.発起人(出資者)の氏名・住所、 5.設立に際し出資すべき額またはその下限額、 の5つです。
この5項目の1つでも記載漏れがあれば、定款そのものが無効になります。
また、発行可能株式総数は、絶対的記載事項には該当しませんが、絶対的記載事項に準ずる事項として定款に記載する必要があります。
1.商号は、会社の名前のことで、欧文の名称を記入することもできます。会社法の施行で、「類似商号規制」は撤廃されましたが、類似または同一の商号を用いることは、不正競争防止法等で損害賠償請求される危険もあるので、商号決定には十分な調査が必要です。
2.会社の目的は、会社が行うまたは行おうとする事業の具体的な内容を記載します。定款に記載されていなければ、会社はその事業を行う事ができまあせん。
3.本店の所在地は、本店の住所のことで、私たちの住民登録に該当します。定款では、最小行政区までの記載で足ります。例えば、「当会社は、本店を東京都杉並区に置く」といった具合です。
4.発起人(出資者)の氏名・住所は、発起人全員の住所・氏名を記載します。また、発起人が法人の場合は、法人の名称を記載します。
5.設立に際し出資すべき額またはその下限額は、設立に際して出資、または出資してもらう財産の総額又は最低出資財産額を記載します。 最後に、発行可能株式総数は、会社が発行を認められる株式の上限数です。いわゆる「授権資本」と呼ばれる株式総数です。
②「相対的記載事項」
「相対的記載事項」は、定款に記載のない場合は、効力が生じない記載事項です。相対的記載事項は、絶対的記載事項比べ、非常に記載可能な範囲が広いので、会社の運営や事業展開について照らして、記載する事項について広範囲に検討する必要があります。記載漏れ等があれば、会社の運営に支障をきたす場合も考えられるので、専門家等のアドバイスを受けて作成して下さい。
相対的記載事項は、非常に多くの項目が考えられますが、そのうち、
1.変態的記載事項と2.株式の譲渡制限に関する事項は特に重要です。
変態的記載事項とは、1現物出資、2財産引受、3発起人の報酬・特別な経済的利益、4設立費用の4つに関する記載事項で、これらの内容を定款に記載していないと効力が発生しません。
また、これらの事項はそれぞれ複雑で難解な問題を内包しているので、会社法に詳しい専門家とよく相談して定款に記載するようにしてください。
2.株式の譲渡制限に関する事項は、非公開会社に有効とされる定款記載事項と言えます。会社の経営に好ましくない者が株式を取得して経営に参加することを未然に防ぐ規定です。
具体的には、定款に、「当会社の株式の譲渡または取得については、株主総会の承認を受けなければならない」と規定します。譲渡や取得を承認する機関は、取締役会等の他の機関でも構いません。
③「任意的記載事項
「任意的記載事項」は、相対的記載事項と同様に、定款に記載してもしなくてもよい、任意の記載事項です。任意的記載事項を定款に定めても法的効果は発生しませんが、定めることにより、会社の運営規則を明確にする機能があります。
ただ、あまり細かな規定を設けると会社の運営に支障をきたすことも考えられるので、記載の際は様々な面から十分検証することが大切です。
任意的記載事項でも、資本金の額や設立時に発行する株式数については登記事項なので、定款認証後には速やかに決定する必要があります。
定款の認証
定款を作成したら、本店の所在地を管轄する法務局所属の公証人役場で、公証人の認証を受けます。定款は、この認証によって登記申請資格を持ちます。定款認証には、株式会社の場合は、発起人全員で公証人役場に行くのが原則ですが、発起人の中から代表者を選んだり、会社設立の専門家等の第三者を代理人(委任状が必要)として認証手続きを依頼することもできます。
持参する書類や認証に関わる手数料等は、各公証人役場に連絡して確認して下さい。
定款の認証に関わる書類を公証人に提出すると、公証人は内容を確認して、訂正では済まされない重大なミスでない限り、間違いがあれば、その場で訂正します。
定款規定の注意点
新会社法の施行により、従来の定款記載条項にも変化が生じています。特に定款の相対的記載事項や任意的記載事項に関しては記載可能な条項に変化があるので注意して下さい。
例えば、従来の株式会社では、3人以上取締役と取締役会が必要でしたが、現在の会社法での必須機関は、株主総会と取締役1人だけです。
また、会社法のもとでは、非公開会社(譲渡を譲渡制限会社)を条件に、役員任期を最長10年にまで定款に記載することで可能としています。
ただ、会社を複数で設立してそれらの者を取締役に任じても、会社経営を巡って意見が異なる事態に陥ることも多いので、定款で取締役の任意を10年とすることは考えものです。
さらに、現在の株式では、1株何円といった価格制限はなく、定款には、発行可能株式数だけを記載するだけでよい(会社設立時には、発行可能株式数の記載をせず、資本金の最低額を定款に記載すれば足ります)とされていますが、株式発行は自己資本の大きな部分を占める経営資産なので、1株の価額やそれに伴う発行可能株式数は、経営資産状況や将来の事業展開のシミュレーションに照らして妥当な価額、発行数に留める必要があります。
最後に、従来の商法では、定款に株式譲渡制限条項をおいても、株主の死亡を原因とする「一般承継」による相続人への株式移転は制限することが不可能でした。つまり、株式譲渡制限条項を設けても、会社の経営に不都合な者が株主として経営に参加することを完全には防ぐことができませんでした。
この点、会社法では、定款に「相続その他の一般承継により当会社の制限株式を取得した者に対して、当会社は譲渡制限株式を承継した者に対し売渡請求出来る」という文言を加えることで、一般承継人の経営参加を防ぐことが可能になりました。会社の安定経営には、このような条項を加えることは有益と考えます。
以上定款規定の注意点を解説しましたが、各会社に応じた細かな規定が必要になることもあり、あまり細かな規定を設けると、かえって会社経営の足かせになる危険もあるので、定款記載事項は、会社経営に詳しい専門家の意見を十分聞きながら作成して下さい。
電子定款について
電子定款とは、従来からある紙の定款に代わり、電子文書に電子署名をなし、法務局の供託オンライン申請システムと申請総合ソフトを利用して、PDF化した定款文書を送信することを言います。電子定款では、紙の定款のように印鑑を押すことが出来ないので、「電子署名」をして、電子署名を本人が行ったことを確認して「電子証明書」を送付します。
これには、住民基本台帳カード(住基カード)が必要の他、電子証明書新規発行申込書の用意も要ります。
この点は、各行政機関の窓口で詳しい説明と手続き手順の説明が受けられます。
公的個人認証サービス共通基盤事業運用会議 公的個人認証ポータルサイト
電子定款認証では、紙の定款認時に発生する定款認証費(収入印紙代)4万円が不要になります(新会社法で新たに認められた合同会社については公証人の定款認定は必要ありません)。
ただ、電子定款の認証には、用意しなければならない機器(ICカードリーダー等)やソフトウエア(PDF変換ソフト)があるので、自分一人で申請する際には、かえって費用や手間がかかってしまう事があります。
この点、会社設立手続きの専門家に依頼すれば、安価で、しかも迅速な定款作成ができます。