会社設立時に用意する書類の1つである「調査報告書」は、どのような書類で、必ず必要なものであるかをご存じでしょうか。今回の記事では、会社設立の手続きと必要な書類、および調査報告書の特徴を解説します。。会社設立は手間のかかる作業ですが、事前に必要な準備を知ることでスムーズに進められるので、参考にしてみてください。
1 会社設立時の書類とは
初めに、株式会社を設立するまでの手順の概要と、手順のうち各段階ごとに必要となる書類の概要を見ていきましょう。
1-1 定款認証と必要書類について
株式会社の設立手順には、大きく分けると「定款認証」と「会社設立登記」の2つの段階があります。初めに定款認証から確認していきましょう。
まず、定款とは、会社の規程集に当たる書類です。定款の作成は、会社の基本事項を定める必要があるため、会社を設立するにはまず定款を作成する必要があります。定款で定める基本事項には、事業の目的や商号(会社名)、本店所在地、資本金額、発起人(会社設立者)の氏名及び住所、そして発行可能株式総数等があります。
そして、最後のページに発起人の記名押印と収入印紙4万円を貼り付けます。なお、収入印紙の4万円は、定款を電子書類(電子定款)とすることで省略可能です。
定款を作成した後、定款認証を行います。定款認証とは、公証役場という役所にて、公証人によって、その定款が正当に作成されているか、すなわち記載内容に不備がなく、会社法等の違反がないかを証明するための手続きです。
定款認証時には次の書類を用意する必要があります。
- 定款
- 発起人全員の印鑑証明書(発行後3か月以内のもの)
- 実質的支配者となるべき者の申告書
最後の「実質的支配者となるべき者の申告書」とは、犯罪収益移転防止法によってマネーロンダリング等を防止するための書類です。
この書類によって、その会社の実質的な支配を行使できる影響力を持つ者(個人、法人等)を申告します。法人成り等によって個人が会社を設立する場合には、実質的支配者とは通常、会社設立者(発起人)となります。
なお、代理人に定款認証を依頼する場合は委任状も必要です。実際に定款認証を行う際には、定款に間違いがあった場合に備えて発起人全員の実印も持参しておくと安心です。
他に、定款認証には手数料として5万円が必要となります。また、定款認証後の定款謄本はいずれ必要となるものなので、定款認証時に発行しておくと良いでしょう。定款謄本発行手数料は2千円程です。
1-2 会社設立登記と必要書類について
定款を作成し、定款認証を終えたら、次に資本金の払込みを行います。資本金とは、事業の運転資金に当たるものです。資本金の払込みとは、発起人の預金口座に資本金額を払込むという手続きです。
なお、資本金は現金が主流ですが、株式や不動産等の現物でも良いことになっています。そして、この現物による出資が、今回の中心テーマである調査報告書に繋がることになります。資本金の払込みは、誰が幾ら払ったか、すなわち発起人が正しく資本金額に相当するお金を払ったかを記録(記帳)するために、必ず振込みによって行います。
資本金の払込みを行った後は会社設立登記の順番です。この会社設立登記手続きが、会社を設立するための直接の手続きとなります。会社設立登記には次に挙げる書類を用意することになります(一部は条件次第で不要)。
- 設立登記申請書…会社設立登記を行うための申請書です。商号や本店所在地、資本金額(当書類上では「課税標準額」)等を記載します。
- 収入印紙貼付台紙…株式会社を設立するには登録免許税として15万円(資本金額が約2,144万円未満の場合)分の収入印紙が必要となりますが、この貼付台紙はその収入印紙を貼るための用紙です。なお、貼った収入印紙には消印をしません。法務局の担当者が消印を行います。
- 定款(の謄本)…定款認証を行うことで発行できる定款謄本のことです。
- 代表取締役、取締役及び監査役の就任承諾書…会社設立時の代表取締役、取締役、監査役の就任者の就任承諾書です。
- 発起人決定書、及び発起人会議事録…定款において、会社の本店所在地を定めていない場合に必要となる書類です。
- 役員全員の印鑑証明書…監査役を含めた役員全員の印鑑証明書、または次の「本人確認証明書」のいずれかが必要となります。
- 役員全員の本人確認証明書…住民票の写し、戸籍の附票、住基カード(住所記載のもの)のコピー、運転免許証等のコピー等のことです。住基カードと運転免許証等のコピーの場合は、表面裏面で「原本と相違がない」と記載し、記名押印をする必要があります。
- 同意書…次の①②③が定款に記載のない場合に必要となります。記載されていれば不要です。
- 設立時に発起人が割当てを受けるべき株式数と払い込むべき金額
- 株式発行事項と発行可能株式総数
- 資本金額、資本準備金額
- 払込みを証する書面…払込証明書とも呼ばれるものです。現金による資本金の払込みをした場合にそれを証する書類となります。払込みを行った預金通帳のコピーを合わせて綴じます。
- 委任状…代理人に会社設立登記の申請を委任する場合に必要となる書類です。
- 資本金の額の計上に関する設立時代表取締役の証明書…現物出資がある場合、資本準備金を1円以上と定める場合に必要な書類です。
- 調査報告書及びその附属書類…現物出資がある場合に必要となります。
2 調査報告書と現物出資について
調査報告書は、現物出資がある場合に必要な書類ですので、資本金の払込みだけの場合(現金出資のみ)には必要ありません。まずは現物出資について確認しましょう。
2-1 現物出資とは
現物出資には、例えば、土地や建物等の不動産、パソコンやプリンター等の事務機器、株式等の有価証券、ゴルフ場等の会員権があります。すなわち現物とは、お金に換算する価値のあるもの、すなわち会社の資産となり得るものを指します。
そのため、現物出資を行う場合はその対象物の時価(市場価格)を調査して、その金額を出資金(資本金と同義。以下同様)に計上することになります。時価であって新品時の購入額ではない点に注意が必要です。
現物出資を行うメリットの1つは、現金出資が少ないとき等に出資金を増やせるということです。なお、現物出資は会社設立時だけではなく、増資の際にも可能です。
出資金額は会社の信用力に直結する数値です。現在では、会社を設立するには出資金1円でも可能ですが、仮に1円で会社を設立したとすると、その会社には1円の信用力しかないと判断される場合もあります。
信用力は、融資の申し込み先である銀行や、取引先が重要視する項目のため、出資金額は多ければ多いほど良いとも言えます。ただし、集められるお金やお金を集める手段は限られています。思うように現金を集められなかったときに、現物出資を行うことで出資金額を増やし信用力を高める、というのが現物出資を行う理由とメリットの1つです。
さて、現物出資には、節税に繋がるというメリットもあります。現物出資したものが10万円以上の価額と見積もったパソコンや車である場合、それらは減価償却資産扱いとなります。減価償却とは、その年に経年劣化する分を「減価償却費」という科目で費用計上するという会計上の考え方です。
費用というのは利益を圧縮するものであり、そして事業の結果の税金(法人税等)は利益によって求められるものです。利益が低いほど法人税等も低いということになりますので、減価償却資産が多ければ多いほど減価償却費も大きくなり、結果利益もそのぶん低くなります。
そして、この減価償却資産が現物出資したものであれば、すなわち会社の現金によって購入したものでなければ、会社の現金を減らすことなく費用を計上できるということになります。
現物出資にはもう1つのメリットがあります。それは、現金を出さなくても、または現金がなくても、価値のある現物を持っていることで会社設立者になれることです。
一方、現物出資にはデメリットもあります。現物出資を行った場合、見た目の出資金額は増えるものの、現物出資によって増額した出資金額は実際に自由に使えるお金ではありません。
お金の管理は会社経営で最も重要な業務の一つです。もし自由に使えるお金を見誤ると、経営に行き詰まることになります。現物出資を行った場合は、実際に自由に使えるお金を常に管理・把握しておくことが大切です。
また、現物出資の最大のデメリットといえるものが、手続きや必要書類を揃えるのに手間や時間がかかる点です。現物出資を行うためには、定款に現物出資する人の氏名や住所、現物出資物(資産)の品名や製造会社等の情報、そして資産の価額を記載することになります。
その上で「調査報告書」、「財産引継書」、「資本金の額の計上に関する証明書」という3つの書類を作成します。次に調査報告書を中心に、現物出資する際に必要なこれら3つの書類について見ていきましょう。
2-2 調査報告書とは
「調査報告書」とは、現物出資した際に計上した価額が適切であるかどうかを調査した書類です。「財産引継書」とは、現物出資したものが会社の所有物となったことを称する書類のことです。最後の「資本金の額の計上に関する証明書」とは、現物出資がある場合に添付することになる書類です。
調査報告書の様式には定型があります。出だしを「○○年○○月○○日株式会社○○(設立中)の設立時取締役(及び設立時監査役に)選任されたので、会社法第46条の規定に基づいて調査をした。その結果は次のとおりである。」と記し、続けて現物出資物の調査品を並べます。
現物出資品は、現物出資する人の完全な所有物であることが条件です。すなわち、ローンがまだ終わっていないものは現物出資の対象とはなりません。
そして、適正な価額(時価)を見積もることは最重要事項となります。もし、多めに見積もったり、新品時の購入額として計上したりした場合は、後に適正な価額との差額分を会社に対して支払うことになります。
例えば、現物出資額を時価50万円と見積もった場合は、調査報告書には「時価金50万円と見積もられるべきところ、定款に記載した価額は時価と同額の50万円であり、これに対して割り当てる設立時発行株式の数は普通株式○○株であることから、当該定款の定めは正当なものと認められる。」と記載します。
なお、現物出資は基本的には、検査役を裁判所に申し立てるところがスタート地点です。申し立て後に、弁護士や公認会計士を検査役として選任し、現物出資の価額調査を行うことになります。
ただし、この検査役の選任は、現物出資額が500万円以上になる場合の手続きです。現物出資額が500万円以下の場合は、検査役の選任の必要はなく、調査報告書等の添付で済むことになります。
検査役の選任の金額基準は、あくまでも現物出資額が対象です。現金出資と合わせることで出資額が合計500万円以上となる場合でも、現物出資額が500万円未満である場合は、検査役の選任は不要となります。
3 まとめ
調査報告書は、会社設立に際して現物出資を行う際、他の2つの書類(財産引継書、資本金の額の計上に関する証明書)とセットにして、会社設立登記時に登記申請書に添付をする書類です。現物出資を行わない場合は、調査報告書は必要ではありません。
会社設立は人生の一大イベントであるため、勢いで進めると後悔することになりかねません。現物出資という選択肢があること、そして現物出資を行う際には何が必要になるのかを慎重に確認してみてください。