「会社の機関」とは、会社の意思決定や運営・管理を行う組織やその業務を行う立場にある者のことであり、「株主総会」、「取締役」、「取締役会」、「監査役」、「監査役会」、「指名、監査、報酬委員会の各種委員会」、「執行役」、「会計監査人」、「会計参与」があります。
このうち株式会社においては、株主総会と取締役は必ず設置しなければならない機関です。
会社法の施行により会社の機関をどのようにするかと言う「機関設計」の自由度が大きくなりました。
会社の機関設計は、会社運営に大きく影響することなので、自分が設立する会社の機関に対する役割の理解と機関設計には将来を見据えた十分な配慮が必要です。
このページでは、株式会社の機関と最近人気の会社設立形態である「合同会社」の機関について説明します。
目次
株主総会
株主総会は、株式会社の実質的オーナーである株主で構成される会社の最高意思決定機関です。株主総会は原則として取締役が招集し、会社の運営や事業管理、また、会社法に定められた事項や定款に定めのある一切の決議を行います。株主総会の議決権は、1株1票で、単元株式採用会社では、1単元につき1議決権を有します。
取締役と取締役会
取締役は、会社の業務執行機関です。取締役と後で説明する「監査役」を合わせて「役員」世呼ぶことがあります。株式会社の取締役は、会社経営の専門家として活動し、会社の重要な執務決定と執行を行いますが、会社の従業員ではありません。
いわゆる従業員の雇用契約とは異なる契約を会社と行います。
この点、最近「執行役員」と呼ばれる方が気をよく耳にしますが、「執行役員」は、会社の従業員のままでその地位に就くこともあります。正確な表現では「役員」でない者も存在します。
取締役会は、会社の機関設計において取締役が3人以上に定められた株式会社に設置の義務が生じる会社の機関です。
代表取締役の選任や会社経営の重要方針について意思決定決議・執行する機関です。
監査役
監査役は、文字通り取締役の業務執行(取締役の職務執行において法令や定款遵守が行われているか等)や会社の会計業務についての監査を行う機関です。前者の取締役の業務執行に関する監査を「業務監査」と言い、後者の監査を「会計監査」と言います。
監査役は、株式会社における必須機関ではなく、定款の定めでおくことができますが、大企業が設置することの多い「委員会設置会社」には置くことができません。
尚、株式譲渡制限のない公開会社である取締役会設置会社と会計監査人設置会社では、委員会設置会社を除き、監査役の設置が義務付けられています。
監査役会
監査役会は、監査役が3名以上(うち半数以上が社外監査役であることが必要で、監査役の中から常勤監査役を選出する必要があります)で構成され、委員会設置会社以外の公開会社に設置義務がある会社の機関です。
会計参与
会計参与は、会社法により新しく設けられた会社の機関で、取締役と共同して計算書類の作成等を行う機関です。会計参与は、会社計算書類の作成と言う専門的な知識を必要とするため、公認会計士や税理士、監査法人または税理士法人にのみに就任資格が限定されている会社の機関です。取締役会を設置し監査役を置かない機関設計の会社では、会計参与の設置義務があります。
各種委員会
会社法が規定する株式会社の委員会は、「指名委員会」、「監査委員会」、「報酬委員会」の3つがあります。委員会は主に大企業向けの機関で、委員会設置義務はどのような会社にもなく、設置はあくまで任意です。
会計監査人
会計監査人とは、株式会社の計算書類を監査する機関で会社の登記事項です。会社の役員ではなく、公認会計士・監査法人のみが会計監査人になることができます。
中小企業で株式譲渡制限会社の機関設計
日本の株式会社のほとんどが中小企業であり、起業からいきなり大企業を作ることは考えにくいので、中小企業でしかも株式譲渡制限会社における主な機関設計を挙げてみます。
①株主総会と取締役
株主総会と取締役 これら2つの機関は、株式会社には欠くことのできない機関なので、これが現行の株式会社の機関設計で最も簡単な設計です。スモールビジネスに最も適した機関設計と言えます。
②株主総会と取締役と監査役
株主総会と取締役と監査役 監査役には、取締役の業務執行に対する監査、会社法、定款遵守義務に対する監査の「業務監査」と「会計監査」がありますが、「会計監査」に限定する監査役の設置も認められます。
③株主総会と取締役会と監査役
株主総会と取締役会と監査役 取締役会は3名以上の取締役で構成します。②、③の機関設計は、会社機能の分化がある程度進んでいるので、各分野の優秀な人材登用が可能になると言えます。
尚、株式譲渡制限を定款に規定して譲渡制限会社になることで、取締役会や監査役の設置がなくなります。また、取締役や監査役の任期を通常の2年から最長10年までにすることができます。
更に、監査役の権限を「会計監査」に限定でき、発行可能株式数を設立時発行株式数の4倍を超えて設定できるので、柔軟で機動的な財務戦略を行う事が可能になります。
株式会社の機関設計も会社法施行に伴い柔軟な機関設計が可能になりましたが、会社の機関設計は、事業活動に大きな影響を及ぼすことが考えられるので、自分起業しようとする会社の実質を十分分析して機関設計する必要があります。
この点、会社の設立に豊富な経験と実績を持つ専門家は、その経験と知識から様々な起業形態に対する生きたアドバイスを与えてくれます。また、起業後も良きアドバイザーになることも期待できます。
合同会社の機関
合同会社は、2012年に施行された新会社法で認められた新しい形態の会社です。合同会社では、株式発行がないので当然ですが、株式会社のように会社法で設置が義務付けられている「株主総会」が必要なく、また、取締役、取締役会監査役等の株式会社にみられた機関を設置する必要がありません。
株式会社は、社会に散在する少額資本を集めて、ある程度大きな資本投資が必要な事業を行う事が基本的な趣旨であり、株主は会社の実質的所有者です。
この点、合同会社は、原則として出資者である「社員」全員に会社の代表権と業務執行権があります。
合同会社は、このように株式会社のような機関分離化が進んでいない(分離の必要がないとも言える)会社形態で、合同会社の業務や経営に対する意思決定・執行は、「社員」の過半数を持って決定します。この議決決定プロセスが、株式会社における「株主総会」や[取締役会]の決定にあたります。
ただ、合同会社も迅速で効率的な意思決定手段として、定款で「社員」の中から「業務執行社員」を選出して一般「社員」の業務執行を外すことも可能です(合同会社の社員でも、会社業務に関心がなく、興味を持つ者に業務執行を委ねたい者もいるでしょう)。
このような場合の業務執行に対する議決は、「業務執行社員」の過半数を持って決定します。
また、「社員」の中から株式会社の社長にあたる「代表社員」を選出することもできます。
合同会社には、株式会社における監査役機能も存在します。合同会社では、原則として全ての「社員」が、会社の財産と業務執行等についての状況を調査する権限が認められています。
つまり、原則として合同会社の「社員」は常務執行権が認められていない「社員」であっても、株式会社で言う「監査役」の権限があると言う事になります。
合同会社は、小規模で機動的な事業展開を可能にした会社形態で、所有と経営が一致する人的な会社形態ですが、従来から存在する「合同会社」や「合資会社」の会社債務に対する「社員」の無限責任の弊害を除去して、新規起業を行いやすくした会社形態と言えます。
この結果、合同会社の設立数は、年を追ってその数が増加しています。
つまり、合同会社の機関設計は、「社員総会」、「業務執行社員」、「代表社員」の選定等が考えられ、これらの機関の設定や権限の移譲で、合同会社の意思決定や経営方針の方向は大きく変化すると言えます。
合同会社では、「社員」が原則として会社を代表しますが、これを「代表社員」を定めて権限を制限したり、また、原則的に「社員」全員が有する業務執行権を限定し「業務執行社員」の選出等、合同会社は定款に規定することで、非常に柔軟な機関設計することが可能な会社形態と言えるのです。