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通常賞与と決算賞与の違い 〜メリットとデメリットまとめ〜

日本において賞与は夏と冬の年二回支給されることが一般的ですが、賞与の支払いルールは基本的に法令の規制がなく、企業が自由に支払い内容・支払い条件を設定できます。そのため、「業績に連動する賞与」「従業員個人の成績に連動する賞与」といったように、企業によりさまざまなタイプの賞与があります。

 

また、そもそも賞与という概念がなく、賞与分も込みの年俸制を採用し、毎月均等の給与を支給している企業もあるなど、賞与に対する考え方は企業により異なります。本稿では、そもそもの賞与の定義、通常賞与と決算賞与の違い、賞与支給のメリット・デメリット、賞与支給時の注意点などについて説明します。

 

 

1 通常賞与と決算賞与の違い

そもそも賞与とはどのように定義されているのでしょうか? 賞与の定義やその歴史、通常賞与と決算賞与のそれぞれの内容について説明します。

 

 

1-1 そもそも賞与とは?

まず賞与(ボーナス)の定義について説明します。法令の観点では、労働基準法が賞与の概念を定めています。労働基準法第11条において、「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」と定義されています。

 

したがって、賞与が労働の対象として支払われているならば、一般的に賞与は賃金の範疇として取り扱われます。そもそも賞与が従業員に対する恩恵的な給付なのか、労働の対価としての賃金として取り扱うべきなのかといった問題がありますが、労働契約、就業規則や労働協約等によって明確に定められているのであれば、賞与は賃金としての性格を持つものとされています。

 

また、賞与は、その支給要件や支給時期、計算方法、支給対象者、支給金額などは原則として企業が自由に定めてよいもので、毎月の賃金のように必ず支給しなければならないわけではありません。昭和22年9月3日発基17では、賞与とは「定期または臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」と通達されています。会社の業績、従業員の個人成績、従業員の勤務期間などに一定の基準を設け、達成できない場合には賞与を支給しないと社内規定に定めることも可能です。またそもそも賞与という制度を導入しないこともできます。なお、賞与という名称であっても、定期的に支給され、かつその支給額が確定しているものは、賞与とはみなされません。

 

つまり賞与とは、「賃金の一種であり、支給要件や支給時期については企業が自由に決定できるもの」となります。それに対して毎月の給料については、労働基準法や各種社会保険法などで厳しく定められているため、経営者の都合で簡単に変更できるものではありません。

 

 

1-2 通常賞与とは?

賞与には大きく「通常賞与」と「決算賞与」の二つのタイプがありますが、まず通常賞与について説明します。通常賞与とは、決算賞与に該当しない日本における一般的な賞与であり、夏と冬の二回支給されることが一般的です。夏の賞与については、公務員では6月(企業では6月から7月初旬頃)、冬の賞与については公務員、企業ともに12月の支給とすることが一般的です。なお公務員の賞与は人事院規則で支給ルールが定められており、定率で支給される期末手当と、勤務成績に対する評価で決められる勤勉手当から構成されています。

 

通常賞与が夏と冬の二回支給されることが一般的である理由については、歴史的な背景があります。江戸時代において、商人が丁稚・手代(手代というのは、番頭と丁稚の間にいる使用人で商家奉行人の身分の一つ)といった奉公人に対し、お盆と年末に奉公人に配った「仕着」が賞与の起源といわれています。夏は盆の薮入り(住み込みの丁稚等が実家へ帰省できるお休みのこと)として支給し、冬は正月の餅代という位置づけで支給されていました。餅代の支給額は商家主人の裁量で決まり、勤続年数や勤務ぶりによる餅代の差もあったため、褒賞や懲戒の意味があったようです。

 

また日本で会社として初めて賞与を支給したのは、三菱の岩崎弥太郎といわれています。明治時代、後進国である日本の海運会社が、大国の世界の海運会社と渡り合うということは大変厳しいものでした。世界の海運会社と激しい競争を繰り広げていた中で、岩崎弥太郎が自身の50%の減給宣言を行い、社員も岩崎弥太郎にならって給与の3分の1を返上するなど、徹底したコストカットを図りました。その結果、三菱は厳しい競争に勝利することができたのです。そして勝利できたのは社員の奮闘のおかげとして、年末に賞与を支給することにしました。

 

以上のような背景から、日本における通常賞与は夏と冬の年二回支給されることが一般的となっています。

 

 

1-3 決算賞与とは?

次に決算賞与について説明します。

 

決算賞与とは、上述したような就業規則等で支給予定日を定めている夏や冬の通常賞与と異なり、「決算の前後に支払われる賞与」のことです。なぜ決算の前後に支払われるかというと、企業の業績に連動して支払われる性質の賞与であるためです。特に外資系企業などでは、一般的な夏と冬の通常賞与がなく、決算賞与のみを採用している企業もあります。決算賞与はその年の企業の業績とダイレクトに連動していることが多いため、決算で利益が大きく出た場合は支給も増えますが、利益が出ていない場合は支給されないこともあります。

 

こうした点から、実力主義傾向が強い外資系企業では、決算賞与が採用されていることが多い傾向があります。
決算賞与のメリットの詳細については後述しますが、決算賞与には節税対策や従業員のモチベーションアップといった側面があります。

 

 

2 通常賞与のメリット・デメリット

賞与は前述したように、原則として企業が自由に支払い条件を設定できるため、企業にとっては通常賞与を支払う・支払わないどちらのオプションも選択できます。ここでは通常賞与支給のメリットとデメリットについて説明します。

 

 

2-1 通常賞与のメリット

①人件費のコントロールがしやすい

通常賞与のメリットとして、賞与に業績連動の要素が強ければ、業績不調の際はボーナスの支給額を減らすことができるため、企業業績にあわせて人件費のコントロールを行いやすいことが挙げられます。一般的に月給を下げる場合は、労働基準法など関連する法規の規制が厳しくなるうえ、従業員に対しても納得のいく説明を行う必要があります。

 

それに対し、賞与については基本的に企業が自由に支払い条件や支払い金額を設定できるため、月給を調整するよりも融通がきくというメリットがあります。賞与は経営者側と労働組合側が交渉して支給月数を決めるケースが一般的ですが、賞与が業績とある程度連動するという制度にしておけば、従業員に対し昨年の業績が悪かったので賞与も少ないという説明がしやすくなります。

 

通常賞与を適用せず賞与分も込みで年俸制を採用している企業は、法令の縛りや従業員の納得感の観点から、一時的に業績が悪くなったからといって簡単に月給を下げることはできません。以上のことから、月給よりは賞与で人件費をコントロールするほうが経営者にとっては容易であるといえるでしょう。

 

また賞与は休日出勤手当や夜間割り増し手当を含む残業手当や、退職金の算出に用いる必要がなく、法令でも残業代を計算する時間給に賞与を含めることは規制されていません。つまり賞与分を年俸に込みにして月給払いにしている企業より相対的に人件費を抑制することができます。

 

②従業員のモチベーションアップにつながる

通常賞与は企業業績や個人業績と連動している部分があり、自分の頑張りが賞与の増加につながることから、従業員のモチベーションアップにつながります。また夏と冬は行楽や帰省など出費が多くなるシーズンですので、従業員にとっては賞与がない会社より、通常賞与がある会社のほうが安心で魅力的に映るでしょう。

 

なお日本において、一般的に通常賞与はある程度企業業績と個人業績に連動していますが、企業業績が悪くても一定の月数が支給されることが多い傾向にあります。

 

 

2-2 通常賞与のデメリット

①賞与支払い後の退職者の集中

通常賞与のデメリットの一つとして、賞与支払い後に退職者が集中するリスクがあります。中途採用市場でよくみられるケースですが、賞与をもらってから離職をする労働者は多く存在しています。企業により賞与支払い規則は異なりますが、一般的には従業員が賞与支払日に在籍している場合に賞与が支払われます。そのため、夏あるいは冬に賞与をもらってから離職する労働者が多くなる傾向になります。

 

これらの理由で、通常賞与を適用している会社は、賞与支払い直後に人員が大きく変動するリスクが高くなり、組織運営に多大な影響を及ぼします。

 

②キャッシュアウトの季節段差

日本においては、通常賞与が夏と冬の二回であることが一般的であるため、従業員への賞与支払いに備え、夏と冬に特別に現金を確保しておく必要があります。もし夏と冬に売り上げが落ち込む傾向にある企業であれば、場合によっては賞与支払いのために借り入れをするなど、賞与支払い資金に備える必要があります。

 

上記のような問題があるため、通常賞与を導入せず、賞与分も込みの年俸制にして12か月均等に給与を支払いしている企業もあります。このような企業は、毎月の給与のキャッシュアウト計算が容易になるため、経営管理上のメリットがあります。

 

 

3 決算賞与のメリット・デメリット

決算賞与には節税やモチベーションアップというメリットがある一方、キャッシュフローの悪化といったデメリットがあります。

 

 

3-1 決算賞与のメリット

①節税対策に使える

経営者にとって、決算賞与を採用する最も大きなメリットは節税面におけるメリットでしょう。決算賞与の費用は税務上の損金に算入できます、つまり費用が増えるため利益額が減り、結果として支払うべき法人税も少なくなります。決算で予想以上に利益がでたのでなんとか節税したい、しかしすでに決算日も迫っており節税対策を打つ時間がない。そのような場合に、従業員に決算賞与を支給することで損金算入し、法人税の支払い額を抑えることができます。

 

簡単な例ですが、例えば課税対象となる利益が1000万円だったとします。このまま決算賞与を支給しない場合、法人税の税率を40%とすると、400万円の法人税額となります。

 

そこで決算賞与として従業員にも還元するため、期末に決算賞与を全従業員に支給するとします。決算賞与を仮に500万円支払った場合、課税対象となる利益は1000万-500万円=500万となり、法人税額は500万円×法人税率の40%の200万円となります。決算賞与を検討する前の税額が400万で、決算賞与支払い時の税額が200万なので、結果として200万円の法人税の節税になりました。
このように、決算賞与は損金算入できるため、税務面での大きなメリットがあります。

 

②従業員のモチベーションアップがより強くなる

決算賞与は通常賞与よりも、従業員のモチベーションアップという側面がより強くなります。決算賞与は業績とダイレクトに連動した賞与であるため、夏と冬の通常賞与に加えて、決算で余剰となった利益を従業員に還元することで、予期せぬ利益がでて納税するより従業員のモチベーションも上がるというメリットがあります。従業員からすると、頑張っても給料が変わらないよりも、頑張りが企業の業績アップにつながり、業績アップ分が決算賞与として従業員に還元されるのであれば大きなモチベーションアップになります。

 

従業員の立場からすると、通常賞与に加えて、さらに決算賞与まで支給される企業は大変魅力的に映るでしょう。また従業員にとっては、会社のために頑張って働くことで業績アップに貢献すればするほど会社が働きに報いてくれるため、会社へのロイヤリティーも上昇し、離職率が低下するといったメリットがあるでしょう。そうした良いサイクルが生まれれば、企業の評判も高まりより優秀な人材が集まりやすくなるかもしれません。

 

 

3-2 決算賞与のデメリット

①キャッシュフローの悪化

決算賞与を適用することで、支払い法人税は減少しますが、手元キャッシュ自体は悪化します。そのため決算賞与を適用する際は、資金計画に細心の注意を払う必要があります。

 

上述と同じ事例を用い、キャッシュの観点から説明します。課税対象となる利益が1000万円で決算賞与を支払わなかった場合、法人税額は利益額1000万円×法人税率の40%の400万円となります。したがって、キャッシュアウトは税額の400万となり、手元には利益額1000万から税額400万を引いた600万が残ります。

 

仮に決算賞与を500万円支払った場合、課税対象となる利益は1000万-500万円=500万となり、法人税額は500万円×法人税率の40%の200万円となります。この場合のキャッシュアウトは、決算賞与の500万と税額の200万の合計700万となります。したがって、手元には利益額1000万から700万を引いた300万が残ります。

 

上記の例のように、キャッシュという観点から見ると、決算賞与を適用することで法人税額は減少するものの、トータルのキャッシュアウトが多くなってしまうため、手元資金が少なくなってしまいます。そのため決算賞与を適用する場合は、決算賞与支払い月の資金計画に問題がないか事前に検討し、キャッシュ不足が生じないよう注意する必要があります。

 

なぜなら、企業はいくら収益面では利益が出ていても、キャッシュが枯渇するといわゆる黒字倒産となってしまいます。いくら数字上は収益面でプラスになっていたとしても、売掛金の入金が1年後であったり、収益以上の大きな設備投資を行ったりすると、キャッシュが枯渇してしまう可能性があります。そのため、一般的には損益計算書が特に注目を浴びますが、損益だけでなくキャッシュフローの観点も経営に取り入れることが大切です。

 

実務上は、キャッシュフロー計算書をさらに日々のベースで管理するようにした資金計画表のようなものを作成し、日々のキャッシュの動きを把握するとよいでしょう。特に決算賞与は業績と連動することから、正確な金額を決算前に把握することが難しいため、事前に多めの支払い金額を想定し、手元資金に余裕をもたせておくことが重要です。

 

②モチベーションの低下のリスク

決算賞与は従業員にとってモチベーションアップにもなりますし、逆にモチベーションの低下につながることもありえます。業績が上昇しており決算賞与を支払うことができるなら従業員のモチベーションアップになりますが、もし業績が悪化し決算賞与の支払いがなくなると、従業員の不満はつのり、企業の将来に悲観的になる社員が発生するかもしれません。

 

こうして決算賞与が支給されているうちは従業員のモチベーションアップにつながりますが、決算賞与の支給が当たり前という認識が従業員に定着してしまうと、支給されない時は逆にモチベーションの低下につながるリスクがあります。

 

・通常賞与のメリットとデメリットまとめ

  通常賞与 決算賞与
メリット 人件費のコントロールが容易 節税対策になる
従業員のモチベーションアップにつながる 従業員のモチベーションアップがより強くなる
デメリット 賞与支払い後、退職者が集中する キャッシュフローの悪化
キャッシュアウトの季節段差がある モチベーションの低下のリスク

 

 

4 賞与支給時の注意点

賞与を支給するさいに注意するべき項目は次のようになります。

 

4-1 賞与全般における支給時の注意点

①就業規則へ賞与支給基準を記載する

賞与全般について、賞与は賃金の性質をもつため、賞与支給条件や内容を就業規則に記載する必要があります。就業規則とは、従業員が就業上遵守すべき規律や労働条件に関する具体的細目を定めたものです。

 

就業規則の作成は法令で義務付けられており、労働基準法第89条では「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」と定められており、就業規則への記載が必須となる項目は以下になります。

 

  1. 始業および終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
  2. 賃金の決定、計算および支払の方法、賃金の締切りおよび支払の時期並びに昇給に関する事項
  3. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
    退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算および支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
  4. 臨時の賃金等(退職手当を除く)および最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
  5. 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
  6. 安全および衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  7. 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  8. 災害補償および業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
  9. 表彰および制裁の定めをする場合においては、その種類および程度に関する事項
  10. 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

 

このうち賞与全般については、上記「2.賃金の決定、計算および支払の方法、賃金の締切りおよび支払の時期並びに昇給に関する事項」に該当するため、賞与の支給ルールを就業規則に記載する必要があります。賞与の性格上、企業業績や個人業績と連動するため事前に支給額まで決定することができないため、支給額そのものを規定する必要はありません。ただし少なくとも支給条件と支給時期については、就業規則に規定しておく必要があります。

 

また雇用するさい、賞与の有無についてあらかじめ明示することが労働基準法第15条で定められています。そのため賞与を適用している企業は、賞与の有無について必ず説明する必要があります。後々のトラブルを避けるためにも、賞与の詳細な支給条件や支給時期について、就業規則に明記しておくとよいでしょう。

 

②賞与金額の計算に注意する。

通常賞与・決算賞与に関係なく賞与は賃金と同様の性質を持つため、所得税や社会保険の納付が必要になります。毎月の給与と異なり、賞与は変動幅が大きく所得税や社会保険料の計算基準も異なるため注意が必要です。
社会保険料についてですが、賞与額から1000円未満の端数切捨てた金額(賞与標準額)に保険料率をかけて計算します。

 

賞与の源泉所得税の計算は、賞与の支給総額から社会保険料を差し引いたうえで、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」にしたがって計算します。実務上はさらに扶養親族の数なども考慮して賞与の源泉徴収額を計算します。
市販の会計ソフトを用いて所得税の源泉徴収額や社会保険料を計算することもできますが、賞与の業績連動割合が高く賞与金額が毎年大きく変化する場合、総務や経理で賞与の計算に熟練した従業員がいないと計算ミスや納付漏れがおきるリスクがあります。

 

 

4-2 決算賞与における支給時の注意点

①税務リスクに注意する

一般的に決算賞与は節税対策としてメジャーな手段であるため、税務署も算出方法や適用方法に不備がないか入念にチェックしてきます。そのため後々になって、税務署に決算賞与を否認されるなど、修正申告を求められるリスクがあります。特に決算賞与を対象の事業年度内で支給せず、未払い計上して翌期に支払う場合、細心の注意が必要になります。

 

なぜなら、税法は基本的に現金主義で算出するため、現金支出を伴わない引当費用などは基本的に損金として認められません。もし引当費用を損金として認めてしまうと、企業が恣意的に引当費用を計上し課税所得を減少させることができるためです。そのため会計基準に基づいて作成される財務諸表は保守的な観点で発生主義、税法に基づいて計算される課税所得は現金主義を基本的な概念として作成されます。

 

以上のことから、決算賞与の支給においては、未払い計上よりも決算賞与の支給を対象となる事業年度末までに完了させるほうが税務リスクは低くなります。
しかし実務上、決算賞与を対象の事業年度内に支給するのは困難でしょう。なぜなら決算賞与はその性質上、業績と連動しているもののため、決算期を過ぎて業績が固まってから支給額を決定することが多いためです。そのため、決算賞与の未払い計上を選択する企業が多くなる傾向になります。

 

基本的には支給した時点で損金算入となるので、決算日までに支給せずに未払いになっていると損金算入できないというのが原則ですが、「法人税法施行令72条の3」で定義されている下記の条件を満たした場合は、未払い計上となっていても基本的には損金算入が可能です。

 

  1. 決算日までに、同時期に賞与が支給される全ての従業員に対して、賞与の支給額を各従業員に通知していること。
  2. 上記の各従業員に通知をした賞与の金額を、通知した全ての従業員に対して、決算日の翌月末までに支払っていること。
  3. 支給した日ではなく、通知をした日の属する事業年度において、損金経理していること。

 

以上の要件を満たせば、決算賞与の未払い費用について損金算入が認められますが、実務上はさまざまな注意点があります。

 

②決算賞与の未払い計上時の注意点

決算賞与の未払い計上については、未払い計上の要件を満たせば損金算入可能ですが実務上注意すべき点があります。

 

まず、就業規則で賞与を賞与支給日に在籍している社員のみと限定している場合、未払い計上が認められないリスクがあります。法人税基本通達では、「法人が支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合、その支給額の通知は、令第72条の3第2号イの支給額の通知には該当しないことに留意する」とあります。

 

つまり、賞与について「支給日在職基準」を設けている会社は決算賞与の未払い計上が認められないというリスクがあります。これは期末日から支給日までに実際に退職した社員がおらず、未払い計上した全員に支給しても認められません。なぜなら、問題は実際に支給したかではなく、「賞与支給日に在籍している従業員にのみ賞与を支給すること」という就業規則が問題となるためです。支給日在職基準があるということは、期末日までに通知したとしても、支給日に退職していれば、支払われないことになります。

 

また、従業員への通知についても注意が必要です。各従業員に対する支給額を通知しないといけないので、賞与として全体でこれだけ支給する、といった通知は認められません。そして全従業員に通知しないといけないので、一部の従業員に未通知となることは認められません。したがって、決算日までに通知した証拠を残すために、日付と支給金額が記載された賞与通知を全従業員に交付し、その控えを保管しておくなどの対応が必要になります。実際の支給段階でも、決算日の翌月末までに、全ての従業員に全額を支給しないといけないので、一部が未払いのままとなっている場合は認められません。

 

以上のように、決算賞与の未払い計上については、さまざまな制約があるため特に注意が必要です。決算賞与を初めて適用する場合は、決算賞与に詳しい税理士など専門家に相談することをお勧めします。

 

 

5 まとめ

以上、通常賞与と決算賞与をまとめると次のようになります。

 

①毎月の給与と違い、賞与は各企業が自由に支払い条件、支払い時期を決定できる。そのため企業によりさまざまなタイプの賞与があり、企業によっては全て年俸に含め賞与が存在しない場合もある。

 

②賞与のタイプは大きく通常賞与と決算賞与に分類される。通常賞与は、一般的に夏と冬の年二回支給されることが多く、日本においては一部業績連動しているものの過去からの慣習という意味で支払われている。決算賞与は、企業業績と連動して期末後に支払われるもので、業績が良い場合にのみ支払われることが多い。

 

③通常賞与のメリットとして、毎月の給料より法令の制約を受けないため賞与を用いて人件費のコントロールができる。また賞与があることは従業員のモチベーションアップにつながる。デメリットとして、賞与支払い後に退職者が集中してしまうリスクや、賞与支払い月にキャッシュアウトが大きくなることがある。

 

④決算賞与のメリットとして、決算賞与を損金算入することで節税対策に使えることがある。また決算賞与を通常賞与に加え支給することで、従業員のモチベーションアップにもつながる。デメリットとして、決算賞与の支払いと法人税の支払いを合算すると、決算賞与を支払わない場合よりトータルのキャッシュアウトが多くなる。

 

⑤賞与を支給する場合は、支給条件や支給時期について就業規則に明記しなければならない。また雇用時にも賞与の説明が必要になる。

 

⑥決算賞与を適用する場合は税務リスクに注意する。該当事業年度内に決算賞与を支給する場合は税務リスクが小さくなるが、未払い計上する際は税務当局から否認されるリスクもあるため、適用条件の慎重な検討が必要であり、税理士などへの事前相談が推奨される。

 

 


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