皆さんの会社が、銀行から融資を受ける時、銀行は何を見ているのでしょうか?
昔から銀行員は、「ヒト」「モノ」「カネ」と言って、経営者や人材、商品やサービス、そしてお金の流れについて、しっかりと見るように育てられております。
その中でもお金の動きについては、「決算書」という会社の成績表に表されており、融資先の判断に置いて銀行が最も重視する資料です。
皆さんの会社の一年の活動成果が、財務数字として凝縮されているものが決算書であり、銀行は決算書の数字をタテ・ヨコ・ナナメに読み解きながら、融資した資金が、確実に返済されるのかを判断しているのです。
銀行から融資を受けるためには、銀行内で稟議を行いますが、稟議では担当者から課長、支店長、本部まで数多くのハンコが必要です。誰が見ても「大丈夫」と判断される稟議書を作らなければならず、そのための中心の資料が決算書です。
皆さんが銀行の担当者に渡した決算書は、支店や集中センターでコンピュータに入力され、過去データとの比較や各種指標の分析などが瞬時に行われます。そのデータをもとに担当者は稟議書を作成し、融資の決裁をもらうことになるのです。
では銀行内でスムーズに決裁をもらえる決算書=高評価を受ける決算書とはどんな決算書なのでしょうか?
今回は「銀行から高評価を受ける決算書」について解説してゆきます。
1.利益は出ていますか? 損益計算書をチェック
銀行が決算書を見る時にまず確認するのが損益計算書(P/L)です。損益計算書にはその会社の1年間の売上と利益が記載されています。まずは「利益が出ているか?」から確認します。利益とはすなわちその会社の「稼ぐ力」です。銀行からすると、貸したお金を返してもらうためには、事業が順調に進んでいなければなりません。最低限、利益が出ているということが必要です。
損益計算書には「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「当期利益」と、4種類の利益が記載されています。一般的に銀行取引で重要視されるのは「経常利益」です。それぞれの利益の中身を見てみましょう
売上 | 10,000 |
---|---|
仕入 売上総利益 |
80,000 20,000 |
人件費 販管費 経費計 営業利益 |
400 100 500 1,500 |
営業外収入 営業外支出 経常利益 |
200 300 1,400 |
特別利益 特別損失 当期利益 |
0 200 1,200 |
(1)売上総利益・・・もっとも基本となる利益
売上総利益は、その会社の商品とサービスによって、いくら稼いだかを示します。粗利益、業務粗利益とも呼ばれます。その会社の「商品やサービスの魅力により利益を生み出す力」と言い換えることができます。
計算式は
売上高―仕入(売上原価)=売上総利益 です。
例えばA社が、商品を8,000円で仕入れて、10,000円で売ったとします。
このときのA社の売上総利益は
売上高 10,000
仕入 8,000
売上総利益 2,000
商品を販売することで2,000円の売上総利益が計上されます。この利益の大きさが会社の損益の基本の数字になります。
ここから人件費や販管費を支払うことになるので、どのくらいの数量を販売し、どのくらいの売上総利益を確保すれば、経費を支払ってもお金が残るのかがわかります。売上総利益が十分に稼げていない会社や、そもそも売上総利益がマイナスである場合は、事業そのものの存続が危ういといえるでしょう。
付加価値を上げて単価を上げたり、仕入ルートを見直して原価を下げたり、販売数量を大幅に増やすなど、事業モデルを見直してゆかなければなりません。
<ポイント>
- 売上総利益は販管費をカバーできる金額を確保できているか
- 売上総利益率(売上総利益/売上)の変化は、売上の変化(数量・単価)によるものか、仕入(数量・単価)によるものか
(2)営業利益・・・会社の本業で得た利益
営業利益は会社の本業により得た利益です。営業力により稼いだ利益ともいえます。
会社の本業とは、製造業ならば商品を製造して得た利益、小売業ならば商品を販売して得た利益など、会社の中心となる事業により稼いだ利益をいいます。
計算式は
売上総利益―販管費(人件費+一般販管費)=営業利益
販管費とは販売管理費のことで、従業員の給与や賞与などの人件費、事務所の家賃や水道光熱費などの支出をいいます。本業の商品やサービスを販売するために必要な、さまざまな経費支出のことです。
販管費が500円なら次のようになります。
売上総利益 2,000
販管費 500
営業利益 1,500
売上総利益から販管費を差し引いた1500円が営業利益となり、会社が本業により得られた利益を示しています。
販管費は固定費と変動費に分かれます。売上の増減に関わらず毎月決まってかかる家賃や人件費などの費用が固定費で、売上の増減によって変動するものが変動費です。販管費が増減している場合は固定費か変動費かの見極めを行いましょう。固定費が増加している場合は、売上が減少した場合に利益が計上しにくくなります。
<ポイント>
- 営業利益の変化は、売上総利益の増減によるものか、販管費の増減によるものか
- 営業利益率(営業利益/売上)の変化は、売上の変化によるものか、販管費の変化によるものか
- 販管費の中で増減した項目はなにか、固定費か変動費か
(3)経常利益・・・本業以外の収支を加えた利益
経常利益は本業で得た利益に、本業以外の活動で得た利益を加えた利益です。本業以外の活動でいうと、例えば社員寮の寮費の収入や株式の配当金などの収入を営業外収入で計上します。銀行からの借入に対する支払利息も営業外費用で計上します。
営業外収益:受取利息、受取配当金、雑収入
営業外費用:支払利息、社債利息、雑支出
計算式は
営業利益+営業外収益‐営業外費用=経常利益
本業の営業利益に、本業以外の活動で得られた収支を加えた利益です。
営業利益 1,500
営業外収益 200
営業外費用 300
経常利益 1,400
本業と本業以外の活動の中で経常的に得られる利益を示しています。銀行ではこの利益をもとに会社の稼ぐ力を判断します。
ただし、同じ経常利益を計上していても収支構造が全く異なる会社もあります。
B社を例にとると
営業利益 ▲100
営業外収益 1,700
営業外費用 200
経常利益 1,400
本業での収支を示す営業利益では赤字を計上しています。受取配当金で得た利益で本業の赤字を埋めているという構造です。本業の部分は収支が合っていないが、金融収支で経常利益を計上しており、今後本業の営業活動のテコ入れを行う必要があるという捉え方ができるでしょう。
<ポイント>
- 経常利益の変化は、売上総利益の変化か、営業利益の変化か、営業外損益の変化か
- 経常利益率(経常利益/売上)の変化の要因は何か
- 営業外損益の中に本来特別損益で計上すべきものは含まれていないか。
- 本業以外の収益(営業外収益)で、経常利益をカバーしている場合、本業の収支や、本業とそれ以外とのバランスは適正か。
(4)-1当期利益(税引き前当期純利益)
税引き前当期利益とは経常利益に特別利益を加えて特別損失を差し引いたものです。
計算式は
経常利益+特別利益―特別損失=当税引き前当期純利益
経常利益 1,400
特別利益 0
特別損失 200
税引き前当期純利益1,200
特別利益または特別損失で計上するものはどのような内容の取引でしょうか。例えば保有する不動産を売却して発生した利益(損失)など、通常の営業活動とは別で、イレギュラーに発生した利益(損失)です。翌年度以降は継続して発生することはありません。
特別利益:固定資産売却益、投資有価証券売却益
特別損失:固定資産売却損、投資有価証券売却損
<ポイント>
- 特別損益の中に経常的なものは含まれていないか
(4)-2当期利益(当期純利益)
税引き前当期純利益から法人税等の税金を差し引いた残りが当期純利益です。当期純利益とは税金を支払ったあと、最終的に会社に残る利益となります。
・法人税等とは、法人税、法人住民税、法人事業税です。
法人税+法人住民税+法人事業税=法人税等
法人税(法人所得税):会社の所得に対して課税される国税です。法人税率は資本金や所得金額によって異なり、資本金1億円以下の普通法人では15%~23.4%です。
法人住民税:事業所がある地方自治体に納付する地方税です。会社という法人も地方自治体の公的サービスを享受しているという観点から税金を負担する義務があります。法人住民税は、法人税額に住民税率を乗じて計算する「法人税割」と、利益額や法人税額に関係なく資本金などに応じて課税される「均等割」の合計になります。
法人事業税:法人事業税は地方自治体から事業を営んでいる事業所に対する応分の負担を課せられる地方税です。法人の所得に対する「所得割」が基本になる地方税です。
法人税等の実効税率は21.42%~33.59%です。
税引き前当期純利益 1,200
法人税等 300
当期純利益 900
2. 自己資本は十分ですか?貸借対照表をチェック
貸借対照表(バランスシート)は決算時点での会社の財政状態を表しています。これまでの経営成績の蓄積が貸借対照表に記載されています。
1. 純資産
2. 負債
3. 現預金
4. 売掛金
5. 在庫
(1)純資産
銀行が貸借対照表の中で、まず初めに見る項目は純資産です。純資産は総資産から負債を差し引いたものです。純資産は株主からの出資金と、利益や損失の積み上げである利益準備金を加えたものです。利益を順調に計上している会社は純資産が増えてゆき、損失が計上している会社は純資産が減ってゆきます。
純資産がマイナスの状態を「債務超過」と呼びます。
債務超過の状態は言い換えると
- 損失が出資金を食い潰した状態
- 会社を清算したときに負債が残る状態 であり、銀行は会社の経営状態を懸念します。
債務超過の企業に対する銀行の見方は極めて厳しいといえます。経営実績として赤字を積み重ねている企業ですので今後資金が必要になったとしても返済される可能性が低い、または資産を処分してもお金が返ってこないことになるからです。
経営改善計画を提示し、どのように債務超過を解消するかを示すことが、融資を受けるための最低条件といえます。また中小企業の場合は個人資産との合算で検討することも可能ですが、できるだけ法人単体での債務超過は回避すべきです。
債務超過に至らないまでも、利益準備金がマイナスである累積損失の状態も同様です。累積損失が増加しているのか、改善途上にあるのか、いつ解消されるのかを示してゆく必要があります。
<ポイント>
自己資本比率が前年・前々年に比べて低下傾向あるいは同業平均比低い水準にある場合は、その要因を検討する必要があります。
- 利益水準が低く慢性的に赤字基調で推移している
- 急激な企業規模が拡大している
- 多額の不良債権・不良在庫が発生している
- 業績の浮沈が大きい
・自己資本比率
純資産÷総資産 = 自己資本比率
純資産は他人に返済する義務がない資金で自己資本と呼ばれます。負債(金融機関等からの借入金)は他人資本と呼ばれ、返済義務のある資金です。自己資本は返済義務がないため安全性という面で銀行からの評価が高くなります。
(2)負債
負債は主に金融機関からの借入金を指します。1年以内の返済義務のある短期借入金と、1年超の長期借入金に分かれます。
適正な借入水準は業種によって異なります。製造業など、事業を行うために多額の設備投資が必要な業種は、設備投資直後には借入金額が大きくなります。小売業・卸売業などでは運転資金が中心となるので、目安とすれば月商の3カ月分程度です。
約定返済以外で借入金が増減した場合は、銀行の担当者に内容を説明できる資料を作成して渡しましょう。銀行の担当者は稟議の中で金融機関別の借入残高表を必ず作成します。
資金調達に関する情報は決算期だけでなく、定期的に銀行の担当者に伝えておきましょう。
<ポイント>
- 借入に関する情報は銀行の担当者に定期的に資料を提出しておく
- 長期固定適合比率
固定資産÷(純資産+長期借入金)×100=長期固定適合比率(%)
固定資産が長期資金で賄われているかを見る指標です。通常固定資産を購入する資金は、自己資本や長期の借入金で調達します。100%を上回っていると、短期借入金で固定資産を賄っており資金繰りが不安定な状態にあります。
(3)現預金
現預金は前期に比べた増減や、その水準を確認します。現預金が前期から減少している場合は、その要因を分析します。
単純に考えると、収入より支出が多ければ現預金は減少します。回収条件が伸びる、支払条件が短くなれば、現預金は減少します。貸借対照表や、損益計算書のどこの項目とリンクしているかを確認します。
現預金が多いと、短期的な支払い能力という面では、安定します。反対に現預金が少ない場合、支払にあたり資金調達が必要になります。一定水準の現預金は確保するべきです。
<ポイント>
- 現預金が減少している場合、要因は何か
- 流動比率
流動資産÷流動負債 × 100 = 流動比率(%)
流動資産:現預金・売掛金・受取手形・在庫
流動負債:買掛金・支払手形・短期借入金
流動負債を流動資産で支払うことができるか、すなわち会社の短期的な支払い能力を表す指標です。流動資産が大きければ流動負債の決済もスムーズに行うことができます。
(4)売掛金
売掛金は、売上を計上しているが代金をまだ回収していない状態の売上債権です。通常売掛の期間は1~2ヵ月の場合が大半です。売掛金が増加している場合は要因を分析します。
銀行員が決算書で売掛金を見るときは、売上が架空計上されているケースや、回収できない不良債権が発生しているケース、関係会社宛に売掛金を計上しているケースがないかを注意しています。回収条件の変更や、販売先が変更したことで売掛金が増加することもあります。売上高が順調に拡大している中で売掛金が増加するのは正常です。
売上や利益を水増しするために売掛金や在庫は操作されることが多いので、銀行員がよく確認している項目です。
<ポイント>
- 売掛金が増加している場合はその要因は何か
- 期末の押し込み売りや架空計上はないか
- 不良債権は発生していないか
(5)在庫
在庫は仕入を行ったが、まだ販売されていない状態の商品です。棚卸資産とも呼ばれます。
過去の推移やヒヤリングを通して適正な在庫水準を確認します。在庫が増加している場合はその要因を分析します。
銀行員が決算書で在庫を見るときは、在庫が架空計上されているケースや、不良在庫が発生しているケース、回収が長期化しているケースがないかを注意しています。売上高が順調に拡大している中で在庫が増加するのは正常です。
在庫を増加させ、売上原価を圧縮し、利益を水増しするなど、売掛金や在庫は操作されることが多いので、銀行員がよく確認している項目です。
<ポイント>
- 在庫が増加している場合はその要因は何か
- 在庫は実際に存在しているか
- 不良在庫は発生していないか
3.資金は足りていますか?キャッシュフローについて
キャッシュフローとは会社の営業活動に基づく資金の余剰や不足を指し、損益計算書が会計上の収支であるのに対して、キャッシュフローは現金の収支を示します。
キャッシュフローにもさまざまな種類がありますが、銀行員がキャッシュフローを見る場合には、簡易キャッシュフローを見ます。当期利益に減価償却費を加えたもので、運転資金や設備投資支出を勘案前のキャッシュフローです。長期借入金の返済原資を考える際に用いられます。
<ポイント>
- 簡易キャッシュフローは長期的な返済能力を示している
- 簡易キャッシュフローで長期借入金返済を賄えているか
・ 簡易キャッシュフロー
当期利益+減価償却費 = 簡易キャッシュフロー
簡易キャッシュフローで長期借入金の約定返済をカバーしている状態は望ましい状態です。資金的に安定しており、余剰資金を新たな投資や自己資本の増強に用いることができます。
・フリーキャッシュフロー
簡易キャッシュフロー - 長期借入金返済 = フリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフローがマイナスの場合は、長期借入金を返済する資金を新たに調達しなければなりません。①簡易キャッシュフローを増やす②借入返済額を適正化する③返済のための資金を調達するという対応が必要になります。
・債務償還年数
(有利子負債―現預金)÷簡易キャッシュフロー = 債務償還年数
債務償還年数は有利子負債を完済するのに、現在のキャッシュフローでは何年かかるかを示します。10年以内というのが目安ですが、業種によっては15年や20年という目安もあります。
4.銀行が細かく決算書を見るのはなぜ?自己査定について
銀行は貸出先についてそのリスクを一社ごとに個別に評価します。
融資した資金が契約通り返済されるのか、返済されない資金の割合がどの程度あり、破綻したときのための引当金をどの程度計上しておくのかを金融庁に報告する「自己査定」というものがあるためです。
銀行から融資を受ける会社にとっては「借入=負債」になりますが、銀行にとっては「貸出金=資産」です。その資産が正常な資産か、それとも一部目減りしてしまう資産なのかを見極めて、場合によっては引当金を積んでおくというものです。
銀行は融資先の債権の健全度合いを、それぞれの銀行の基準で査定していく自己査定を行います。債権の状態を詳細に検討し、債権の保全状態を把握してゆきます。
債権を査定するという作業は、融資先一社一社の企業内容を把握して、「債務者区分」と呼ばれる格付けを行っていくことになります。この債務者区分によるランク付けが高い企業は、債務不履行になる可能性が低いことから、銀行は金利を低く設定することができ、融資姿勢も積極的になります。
一方で債務者区分が低い企業は、元利金支払の遅れや、債務不履行になるリスクが高くなることから、新規の融資は受けにくく、金利は高めに設定されます。反対に資金回収へ移る可能性を持っています。
融資を受ける側にとっては、この自己査定という作業が、どのような基準で、どのように査定されておくのかを、予め知っておくことが重要です。
(1)信用格付け (2)債務者区分 (3)自己査定への対応
(1)信用格付けの仕組み
信用格付けは決算書をもとに入力された財務データをベースに考えます。
①定量評価
②定性評価
③実態評価 の流れです。
まずは①で決算書のデータを分析し、②で評価者の主観を加えて評価し、③で決算書の数字を実態に合わせて引き直して評価します。ただ評価のウエイトは①③で90%、②で±10%ですので、やはり決算書の数字が最も重要です。
①定量評価
定量評価は3期分の決算書をもとに行われます。決算データはスコアリングモデルというモデルに基づき分析が行われます。自動的に行われますので、評価をよくする方法はありませんが、特に重要な指標については、決算書作成時より意識しておく必要はあります。
- 収益性(売上総利益率・営業利益率・経常利益率)
- 財務内容(自己資本比率・流動比率・長期固定適合比率)
- 返済能力(債務償還年数)
②定性評価
定性評価では決算書の数字には表れないものを評価します。
業界の動向や、会社の特性、経営者の資質などです。
③実態評価
決算書の数字が実態と異なる場合には、実態に合わせて引き直します。
- 回収見込みのない売上債権
- 含み損を抱えた有価証券
- 回収不能な貸付金 などです。
(2)債務者区分
- 正常先…業況が良好でありかつ財務内容も特段の問題がないと認められる債務者
- 要注意先…①金利減免・棚上げを行っているなど貸し出し条件に問題がある②元本返済もしくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題がある③業況が低調ないしは不安定④財務内容に問題があるなど、今後の管理に注意を要する債務者
- 要管理先…上記の要注意先である債務者であって、債務者債権の全てまたは一部が要管理債権の債務者
- 破綻懸念先…現状経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後破綻する可能性が大きいと認められる債務者
- 実質破綻先…法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、債権の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者
- 破綻先…法的・形式的な経営破綻の事実が発生している債務者で、具体的には破産、会社整理、会社更生、民事再生、手形交換所の取引停止処分等の事由により経営破綻に陥っている債務者
要管理先以下になった場合には、基本的には銀行は債権回収に移りますので新規融資や取引継続は困難です。
また要注意先でも、新規融資のさいには注意を払っていく必要があり、積極的な融資は考えられません。中身によって正常先に戻ることが、期待できる場合は融資も可能ですが、そうでない場合は融資姿勢としては取引解消に向かう場合があります
(3)自己査定への対応
現状の決算内容では格付けが悪くなるかもしれない、とお悩みの方も、あきらめるのはまだ早いです。銀行の担当者や支店長に、決算書の内容や、会社の実態を正しく理解していただくために自己査定への対応のポイントをまとめました。
主なポイントは3つです
①収益性 ②財務内容 ③返済能力
①収益性
企業が存続し借入金の返済を行っていくためには、十分な利益が計上されている必要があります。収益性を判断する場合は売上総利益・営業利益・経常利益・当期利益など各段階において、着実に黒字を計上できているかがポイントです。正常な会社であれば利益が計上されているのですが、今期赤字を計上してしまったからといって要注意先以下となるわけではありません。
- 創業赤字によるもので計画対比での乖離は小さい
会社創業時は特別な費用が計上されることが多く、当初1~3年程度は赤字になる可能性も高くなります。このため赤字であっても計画した売上からの乖離幅が小さければ赤字であっても正常先と判断されます。目安としては売上等が概ね70%を達成していれば問題ありません。 - 赤字は一過性のもので、短期間のうちに解消できる
固定資産の売却損、有価証券評価損など、赤字の要因が経常的ではなく、一過性のものの場合には、正常先と判断することができます。営業利益・経常利益ベースでは黒字が出ていることは前提ですが、こうした要因により一時的に赤字となったからとしても、債務者区分が直ちに要注意先に下がることはありません。 - 債務の返済能力に問題がない場合
今期の決算内容は赤字だが剰余金が潤沢な場合は、資産売却により返済原資が確保できるなど、返済能力に問題ない会社であれば、正常先となる可能性があります。また中小企業の場合は経営者の財産状況と債務者とを一体的に考えます。結局は債務を返済できるという点が確認できれば大丈夫です。
②財務内容
財務内容は貸借対照表の資産の中身を精査します。その会社が実質債務超過に陥っていないかどうかを精査するものです。ここでいう実質とは、資産を簿価ではなく時価で再評価したものをベースに純資産を判断することを意味します、
流動資産についても棚卸資産回転率や売上債権回転率などに、ストレスを一定程度かけることで資産価格を修正します。
固定資産については含み益、含み損を考慮します
実質債務超過とは、純資産がマイナスの状態にあるものです。利益水準や利益の蓄積が少なくなっている場合は、銀行から見ると貸し倒れのリスクが高くなっているといえます。
実際には実質債務超過の解消期間を5年程度みる場合があるので、経営改善計画を作成する際には5年の間に債務超過を解消する方法を盛り込みます。
③返済能力
償還能力とは借入金を現金ベースで返済する能力があるのかを判断するものです。銀行からすると、まずは償還能力がなくてはなりません。利益がいくら上がっていても、有利子負債が一定期間内に完済できる償還能力がなければ十分とはいえません。
- 債務償還年数
(有利子負債―現預金)÷簡易キャッシュフロー = 債務償還年数
債務償還年数 | 債務者区分 |
---|---|
10年未満 | 正常先 |
10年以上20年以下 | 要注意先 |
20年以上 | 破綻懸念先以下 |
なお業種により特性が異なるホテル業や不動産賃貸業などは、借入期間が長くなる装置産業のため目安が30年など長くなります。
償還能力だけでなく実際に返済が滞っていないかどうかという返済状況も重要です。
延滞期間 | 債務者区分 |
---|---|
3ヵ月以下 | 要注意先 |
3~6ヵ月 | 要管理先・破綻懸念先 |
6ヵ月以上 | 実質破綻先 |
5.まとめ
ご覧いただいた通り、銀行取引の中で決算書の数字は非常に大切です。今後の企業活動に必要な資金をスムーズに受けるためにも決算書は銀行から見て高い評価を受ける内容にしてゆく必要があります。
こうしたポイントを経営者と財務・経理担当と税理士とが、よく打合せておく必要があります。
そして銀行の担当者とは決算書を渡す時だけではなく、試算表ベースでも、財務状況を伝えておく必要があります。会社の数字を変えることはできませんが、業況が悪化している場合でも早い段階で担当者と打ち合わせを進めてゆけば資金調達への道は拓けますので、絶えずコミュニケーションを図ってゆきましょう。