世界的に増加する超富裕層人口。所得格差の拡大など解決すべき問題も多いなか、富裕層がお金を使うことで経済に好循環をもたらすのもまた事実です。
調査分析会社のウェルスエックスは6月、総資産額3000万ドル(約34億円)以上の超富裕層人口(UHNW)の調査を行なった結果、今年は前年比3.5%増となる22万6450人となり、その合計額は27兆ドル(3040兆円)に達したと発表しました。
また、あわせて報告書は3000万ドル以上を保有する人口を国・地域ごとにランキング化したところ、1位はアメリカの7万3110人(前年比6.7%増)で、2位日本1万6470人(前年比14.7%)、3位中国1万6040人となりました。上位20カ国のなかでも日本の前年増加率は最も大きかったことがわかりました。
本記事では、ウェルスエックスが公表した報告書「World Ultra Wealth Report 2017」をもとに、超富裕層人口の現状を見ていきます。
目次
- 1 世界の超富裕層人口は約22万人
- 1-1 北米およびアジアが成長をけん引
- 1-2 ヨーロッパは富裕層の国外流出も影響?
- 2 超富裕層が多い国ランキング
- 2-1 超富裕層が最もいる街はニューヨーク
- 2-2 2021年までに約30万人に
- 3 新興アジアでは“富の創造”が続く
1 世界の超富裕層人口は約22万人
(出展:Wealth-X)
報告書によると、2017年現在、純資産額が3000万ドル(約34億円)以上の超富裕層人口は、前年比3.5%増の22万6450人となり、合計資産額は1.5%増となる27兆ドル(3040兆円)に達しました。
1-1 北米およびアジアの成長がけん引
超富裕層人口(UNHW)の分布を地域別にみると、北米ほかアジアにおける成長が目立ちました。超富裕層人口のうち36%(8万1700人)はアメリカに集中しており、ヨーロッパでは28%(64730人)、アジア26%(5万9850人)となります。
アジアについては、日本、インドおよび中国の堅調な伸びを背景にUNHW人口は6.6%の最大の増加を見せました。アジアの超富裕層は10年前の18%から着実に増加しており、現在では世界の4分の1を占めます。
一方、中南米やアフリカでは超富裕層人口は減少し、純資産も平均で7%減少しました。全体に占める超富裕層人口の割合は、中南米3%、アフリカ1%程度にとどまります。
地域 | UNHW人口 | 前年比 |
---|---|---|
北米 | 8万1700人 | 5.1%増 |
アジア | 5万9850人 | 6.6%増 |
オセアニア | 3130人 | 3.0%増 |
ヨーロッパ | 6万4370人 | 0.2%減 |
中東 | 8380人 | 0.1%減 |
中南米カリブ | 6850人 | 3.4%減 |
アフリカ | 2170人 | 4.0%減 |
(World Ultra Wealth Report 2017より作成)
1-2 ヨーロッパは富裕層の国外流出も影響?
北米、アジアとは対照的にヨーロッパでは超富裕層が減少しました。とくにブレクジット※(Brexit)で話題のイギリスでは米ドルに対する英ポンドの価値が31年ぶりに下落したことが直接的な影響をもたらしたと考えられています。
ドイツやフランスなどのEU主要国では、経済成長は穏やかに改善の兆しを見せていましたが、金融市場活動は鈍化しました。
また、ロシアでは、欧米諸国による経済制裁が継続中で、商品価格の下落が続いていることから、富裕層人口の大幅な減少につながりました。
このほかパリ同時多発テロなどの影響で、資産家の海外移住※が相次いだことが、UNHW人口の減少につながったとも見られています。たとえば昨年、オーストラリアでは流入した富裕層がもっとも多く(8000人)、オセアニア地域の成長に影響しました。
・超富裕層人口の資産別内訳
(出展:Wealth-X)
※ UNHWとはUltra-high-net-worthの略で、超富裕層を意味する。
※ 調査会社のNew World Wealth(ニュー・ワールド・ウェルス)によると、100万ドル(1億円)以上の資産家による海外移住者数では、フランスが最も多い10000人で、ついで中国9000人、イタリア6000千人、インド4000人、ギリシャ3000人となった。
※ ブレクジットとは、イギリスがEU(欧州連合)から脱退すること。イギリス(Great Britain)と離脱を意味する(exit)を組み合わせた造語。今年3月、イギリスのメイ首相はリスボン条約50条に則り、EU離脱を正式に表明した。
2 超富裕層が多い国ランキング
3000万ドル以上を保有するUNHW人口を国・地域別にみると、アメリカが7万3110人と最も多くなりました。ついで、日本1万6740人、中国1万6040人、ドイツ1万3420人、イギリス8860人、フランス8630人、カナダ8590人、香港7650人、スイス5940人、イタリア5530人となりました。(上位10カ国)
・ 3000万ドル以上を保有する富裕層が多い国・地域ランキング
順位 | 国・地域 | 人口 | 増減率 |
---|---|---|---|
1 | アメリカ | 73,110 | 6.7% |
2 | 日本 | 16,740 | 14.7% |
3 | 中国 | 16,040 | 3.6% |
4 | ドイツ | 13,420 | 4.5% |
5 | イギリス | 8,860 | △14.2% |
6 | フランス | 8,630 | 2.7% |
7 | カナダ | 8,590 | △1.5% |
8 | 香港 | 7,650 | 4.1% |
9 | スイス | 5,940 | △0.5% |
10 | イタリア | 5,530 | 1.8% |
(World Ultra Wealth Report 2017より作成)
日本の伸び率について、調査を行ったウェルスエックスは、安全とされる日本円の強さを背景に、UHNW人口においてアジア諸国最大の上昇率を記録したと述べました。
2-1 超富裕層が最もいる都市はニューヨーク
また、UNHW人口の分布を都市別にみると、アメリカ・ニューヨークが最も多く8350人(前年比9.0%増)で、ついで、2位香港7650人、3位東京6040人、4位ロサンゼルス4600人、5位ロンドン3630人、6位パリ3440人、7位シカゴ3110人、8位ワシントン2570人、9位大阪2390人、10位ダラス2330人となりました。
上位10カ国以内にアメリカの都市が最多となる6都市がランクインしました。このほか日本2都市、フランス1都市、イギリス1都市ずつ入りました。
・ 世界都市別UNHW人口ランキング(トップ10)
順位 | 国・地域 | 人口 | 増減率 |
---|---|---|---|
1 | ニューヨーク | 8350 | 9.0% |
2 | 香港 | 7650 | 4.1% |
3 | 東京 | 6040 | 17.5% |
4 | ロサンゼルス | 4600 | 8.0% |
5 | ロンドン | 3630 | △14.6% |
6 | パリ | 3440 | 4.6% |
7 | シカゴ | 3110 | 7.6% |
8 | ワシントン | 2570 | 8.9% |
9 | 大阪 | 2390 | 16.6% |
10 | ダラス | 2330 | 5.4% |
(World Ultra Wealth Report 2017より作成)
(出展:WOLFSTREET.com)
2-2 2021年までに約30万人に
2021年までに世界の超富裕層人口は7万2,550人増加して29万9,000人となるとウェルスエックスは予測します。また、総資産額は35.7兆ドル(4004兆円)に上昇すると見込まれており、引き続き全世界の所得水準は上昇するだろうと述べました。
とくに中国やインドを中心とするアジアや、ベトナム、インドネシアなど東南アジア諸国でもUNHW人口は急速に拡大するだろうと見られています。
3000万ドル以上を保有する富裕層が多い国・地域(11〜30位のランキング)
順位 | 国・地域 | 人口 | 増減率 |
---|---|---|---|
11 | インド | 4510 | 8.9% |
12 | 韓国 | 4230 | 1.7% |
13 | ロシア | 3780 | △6.2% |
14 | ブラジル | 3570 | △1.1% |
15 | スペイン | 3190 | 3.2% |
16 | 台湾 | 3000 | 2.0% |
17 | オランダ | 2860 | 4.4% |
18 | スウェーデン | 2660 | 4.3% |
19 | サウジアラビア | 2640 | △0.4% |
20 | オーストラリア | 2470 | 2.5% |
21 | シンガポール | 2170 | △0.5% |
22 | インドネシア | 1950 | 9.6% |
23 | デンマーク | 1440 | 7.5% |
24 | アイルランド | 1330 | 6.4% |
25 | ベルギー | 1320 | 7.3% |
26 | タイ | 1250 | 4.2% |
27 | トルコ | 1190 | △0.8% |
28 | アラブ首長国連邦 | 1120 | 2.8% |
29 | メキシコ | 1050 | △10.3% |
30 | イラン | 950 | 0.0% |
(World Ultra Wealth Report 2017より作成)
3 新興アジアでは“富の創造”が続く
ウェルスエックスは、今後の超富裕層人口について、“富の保存”段階に入った欧米とは対照的に、新興アジアでは“富の創造”が拡大すると予測しています。
新興アジア地域は、2010年に世界の超富裕層の10.5%だったものの、2016年に約15%に増加しました。中国では経済成長と技術革新、消費者の急速な進化が見られ、インドやインドネシアでの超富裕層増加、ベトナムやフィリピンでは低所得層からも強い成長が見られます。
平均して、新興アジアの超富裕層世界と比較して富裕度が高いのが特徴的です。多くが“富の保存”段階ではなく“富の創造”段階にあり、ヨーロッパやアメリカにおける一般的な多世代の富のパターンとは対照的です。新興アジア地域が最初の大きな富の移転を受けて、今後10年間で富裕層人口がさらに拡大すると予想されています。