世界有数の石油産出国であるベネズエラが経済破綻寸前の危機に瀕しています。
ベネズエラはかつて南米で最も豊かな国とされていましたが、近年の原油価格暴落によりインフレが深刻化し、極端な食料危機と医療不足に見舞われています。市民は食糧を求めて行列を作り何時間も待ち続けるという異常な事態で、マドゥーロ政権は対外債務を返済する見通しも立っていません。その結果、デフォルト(債務不履行)の可能性が高まっています。
反米姿勢を貫いた前チャベス政権の意志を引き継ぐ形で誕生したマドゥーロ政権。不安定な経済運営もあり、マドゥーロ政権に対する市民による抗議運動が激化しており、罷免を求める声も日増しに強まっています。
南米一裕福だったはずのベネズエラは、果たしてどこで道を間違えたのでしょうか。
目次
- 1 インフレ率、今年度末までに2200%に達する見込み
- 1-1 史上最悪の食料危機
- 1-2 国会権限停止でデフォルト不安発生
- 2 石油依存から脱却できないベネズエラ
- 2-1 世界有数の石油産出国
- 2-2 外務省、ベネズエラの渡航に注意を促す
1 インフレ率、今年度末までに2200%に達する見込み
(出展:COINRUSSIA)
毎年何十億ドルの潤沢な石油収入があったベネズエラの経済は、かつてないインフレに苦しんでいます。
海外メディアのNBSニュースによれば、現在ベネズエラにおける物価上昇率は800%に達し、IMF(国際通貨基金)の試算では今年度末までに2200%に達すると見込まれています。
マドゥーロ大統領が2013年に就任して以降、四半期ごとの縮小傾向が続いていおり、昨年度の国内経済規模は18.6%縮小しました。
2000年初め、南米で最も裕福だったベネズエラは今や最貧国の1つとなってしまいました。
1-1 史上最悪の食料危機
ベネズエラ国内では、すでにトウモロコシや米といった主要食料品を市場で見つけることはできず、医薬品も急激に不足しています。
ある市民は、ヨーグルト、クッキー、冷凍チキンなどはもはや一般市民が手を出せる価格ではなく、普通の食事すらできないと嘆きます。
食料価格は少なくとも5倍に跳ね上がり、市民は珍しい食べ物を転売して利益を得るため、スーパーマーケットで行列を作るといいます。
さらに干ばつの発生で水も不足したため、飢饉など国民の栄養状態に深刻な問題が発生しています。
(▲食料品を求めて行列をつくる市民 / 出展:Libre Mercado)
1-2 国会権限停止でデフォルト不安発生
ロイター通信によればベネズエラの最高裁が4月、野党が多数を占める国会の権限を事実上停止する決定を下しました。その結果、ベネズエラ国債はドル換算で0.035ドル超安い0.464ドル前後へと暴落しました。1年ものの国債利回りは49%となりました。
2 石油依存から脱却できないベネズエラ
21世紀の社会主義の建設を標榜していた前チャベス政権。しかし、政治家による汚職や腐敗は後を絶たず、後継のマドゥーロ政権が石油依存の経済政策からの脱却を試みるも上手くいきませんでした。また原油価格の暴落により、国民の食料や生活必需品をまかなうこともできなくなりました。
・ ベネズエラ基本情報
人口 | 2990万人 |
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首都 | カラカス |
国家元首 | ニコラス・マドゥーロ大統領 |
主要産業 | 石油輸出、その他天然資源の輸出 |
GDP | 3739億ドル |
物価上昇率 | 800% |
失業率 | 25.3% |
為替レート | 公式では1ドル=10ボリバルだが、闇レートが横行中 |
2-1 世界有数の石油産出国
ベネズエラの経済は石油収入に大きく依存しており、原油の確認埋蔵量は2,965億バレル(2012年BP統計)と世界第1位を誇ります。このほか天然ガスや金、ダイヤモンド、ボーキサイトなどの天然資源を豊富に産出します。
しかし、2008年後半からは原油価格の急落や世界金融危機の影響を受け、2014年、2016年に再度原油価格が急落して国内経済は苦境に立たされていました。
2-2 外務省、ベネズエラの渡航に注意を促す
近年、南米で最も治安の悪い国にもなったベネズエラ。2013年4月の大統領再選挙でマドゥーロ大統領が誕生して以降、全国で与野党支持者間の衝突が後を絶ちません。そのため、日本外務省は現在、ベネズエラへの渡航に対して注意を促しています。
ベネズエラ国内における2014年の犯罪発生件数は27万4,606件で、前年よりも約6.8%増加しました。ベネズエラ政府は、軍を街頭に出動させて治安対策に当たらせるなどの対策をとっていますが、再三にわたる外貨不足、物資不足を受けて市民の不満も頂点に達し、反政府運動が激化、治安はこれまでにないほど悪化しています。
さらに、コロンビアとの国境地帯では、依然として、コロンビア反政府武装ゲリラ組織とベネズエラの過激派組織が衝突を繰り返され、一般凶悪犯罪者グループ等のアジトや活動が確認されており、身代金目的の誘拐事件、麻薬関連犯罪が多発しています。
外務省は、邦人に対してベネズエラの現状を十分に認識、誘拐、脅迫、テロ等の不測の事態に巻き込まれることがないよう、海外安全情報及び報道等により最新の治安・テロ情勢等の関連情報の入手に努めよう求めています。
(参照:外務省)
果たしてマドゥーロ政権はこの難局を乗り切ることができるのか、それとも経済破綻を迎えてしまうのか。今後のベネズエラの動向から目が離せません。