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少子化時代の起業・会社設立の考え方および進め方

2022年の出生者数が80万人を割り込んだと話題になりました。日本社会では少子化の進行が予想以上に早く、日本経済への悪影響が懸念されています。この少子化環境で会社設立してビジネスを成長させていくにはその影響を的確に把握し、到来するチャンスを逃さず取り込んでいくことが重要です。

 

そこで今回の記事では、「少子化時代の起業・会社設立の考え方および進め方」について詳しく解説していきます。少子化の状況で成功できる起業・会社設立の方法を知りたい方、少子化のビジネスへの影響や対策を把握したい方、少子化環境に対応できるビジネスモデルのポイントや会社設立の進め方を学びたい方は参考にしてみてください。

 

 

1 少子化の現状とビジネスとの関係

少子化の現状とビジネスとの関係

 

最初に日本における少子化の状況を確認し、少子化がビジネスにどのような影響を及ぼすのか、について説明しましょう。

 

 

1-1 日本の少子化の状況

ここでは内閣府ホームページで公開している「少子化社会対策白書」の「令和4年度 少子化の状況および少子化への対処施策の概況」を中心に、現在の日本の少子化および政府の対策などを確認していきます。

1)「日本の少子化をめぐる現状」

上記白書では、日本の少子化が以下のように指摘されています。

 

・総人口は、2021年で1億2,550万人

 

⇒2010年の1億2,806万人をピークに、それ以降人口は減少傾向となりました。このままでは2050年代に1億人を割る見込みです。

 

・年少人口(0~14歳)、生産年齢人口(15~64歳)、65歳以上人口は、各々1,478万人、7,450万人、3,621万人で、総人口に占める割合は、それぞれ11.8%、59.4%、28.9%

 

⇒年少人口が1980年代半ばから顕著に減少し始め、現代だけでなく2050年以降も減少傾向が続くと予想されています。その一方で、65歳以上の高齢者人口が急拡大するに至りました。

 

・30歳代の出生率が上昇

 

⇒女性の年齢別出生率のピークの年齢とその出生率を見ると、1975年は25歳で0.22、1990年は28歳で0.16、2005年は30歳で0.10、2020年は31歳で0.10と推移し、ピーク年齢が高くなり、その出生率は低下しています。

 

合計特殊出生率の1970年以降の低下について、25歳時点の出生率で比較すると、1975年は0.22で2020年は0.05と大幅に低下しており、20歳代における出生率の低下が著しいです。
なお、35歳時点の出生率で比較すると、2005年は0.06でしたが、2020年は0.08となっており、30~40歳代の年齢別出生率は上昇してきました。

 

・低下傾向が続く婚姻件数、婚姻率

 

⇒婚姻件数は、1970年から1974年にかけては年間100万組を超え、婚姻率(人口千人当たりの婚姻件数)も約10.0以上でした。その後、1978年以降2010年までは、婚姻件数は凡そ年間70万組台で推移し、2011年以降、年間60万組台で低下を続け、2018年に初めて60万組台を割り込みました。

 

2019年は、「令和婚」の影響もあり、59万9,007組(対前年比12,526組増)と7年ぶりに前年を上回ったものの、2020年は52万5,507組と再び低下し、過去最低を更新したのです。婚姻率も4.3で過去最低となり、1970年代前半と比べると半分程度の水準になっています。

 

2020年の未婚率を年齢(5歳階級)別にみると、30~34歳では、男性は約2人に1人(47.4%)、女性は約3人に1人(35.2%)が未婚であり、35~39歳では、男性は約3人に1人(34.5%)、女性は約4人に1人(23.6%)が未婚です。長期的にみると未婚率は上昇傾向が続います。

 

・晩婚化、晩産化の進行は鈍化

 

⇒平均初婚年齢は、長期的にみると夫、妻ともに上昇を続け、晩婚化が進行しています。2020年は、夫が31.0歳、妻が29.4歳で、1985年と比べると、夫は2.8歳、妻は3.9歳の上昇です。前年(2019年)との比較では、男女とも横ばいになっています。

 

また、出生時の母親の平均年齢を出生順位別にみると、2020年では、第1子が30.7歳、第2子が32.8歳、第3子が33.9歳と近年は横ばいで、1985年と比べると第1子では4.0歳、第2子では3.7歳、第3子では2.5歳の上昇です。

 

後半部の内容をまとめると、男女ともに未婚の人の増加、晩婚化・晩産化の進展(現在は横ばい)が2000年以前と比べ大幅に進んだことが確認できます。単に家庭の経済的理由だけでなく、女性の就労化の加速、生活様式の変化、などの社会の変化に伴い、人々の結婚・出産・子育て等に対する価値観に変化が生じていることが分かるはずです。

2)「少子化対策の取組」

少子化対策の取組については、現在では新型コロナ感染による影響を受けていることもあり、「新型コロナウイルス感染症影響下における少子化対策」が実施されています。その主な取組内容は以下の通りです。

 

少子化対策の取組

 

(1)結婚

 

結婚新生活支援事業の支援内容の充実、地方公共団体によるAI活用等マッチングシステムの高度化、アプリ・SNS活用による子育て支援情報の「見える化」等が展開されています。

 

(2)妊娠・出産

 

妊産婦への電話やオンラインによる相談支援、保健指導等の提供、幼児健康診査の個別健康診査への切替えへ、などです。

 

(3)子育て

 

子育て世帯への臨時特別給付、保育所、幼稚園、地域子ども・子育て支援事業における感染拡大防止対策に係る支援が行われています。ほかには、オンラインを活用した子育て世代への支援情報の発信、地方移住への支援、「学び」の保障、などです。

 

⇒以上のように、コロナ禍という厳しい状況での結婚や子育てを支援する施策が実施されています。また、出産育児一時金の増額が検討されており、地方自治体などでは「出産・子育て応援給付金」といった制度も見られるようになりました。

 

 

1-2 少子化の社会やビジネスへの影響

少子化が日本社会やビジネスにどう影響するかを確認しましょう。

1)日本社会における影響

少子化の進行により以下のような状況が進んできました。

 

・日本社会の変容

 

少子化による世帯規模の縮小、子供がいる世帯割合の減少を通じて、単独世帯や一人親と子の世帯の増大等の世帯類型の多様化が進みます。さらに児童数や小・中学校の減少、子供の社会性発達に関する影響、地域社会の活力の低下など、様々な社会的影響が見られるようになりました。

 

児童数・学生数の減少が学校教育機関等の統廃合を加速させ、都市部と地方との教育体制での格差に繋がり、学習機会の差を通じた学力格差の増大が懸念されます。

 

また、一人親の子供が都会へ流出していけば地方における過疎地域の増大が進み、社会インフラにおいても地域間格差が増大するほか、地域のコミュニティ機能の維持が難しくなっていくでしょう。

 

さらに子供自体の数や兄弟数の減少は、子供同士が切磋琢磨し社会性を育む機会を減少させ、自立性や協調性のある若者への育成を阻害する可能性も高まります。社会性に乏しい若者が増大していけば、社会で様々な問題が生じる可能性が大きくなりかねません。

 

・経済的影響

 

生産年齢人口の減少を通じて、日本経済は生産量、消費や貯蓄の低下が進むことが懸念されます。たとえば、少子化は人口減少をもたらし、GDP、すなわち国の経済規模を縮小させ、国力を弱らせかねません。そして、結果的に国民の暮らしが貧しくなっていくことに繋がるのです。

 

生産年齢人口が減少していく状況で、一定の経済成長率を維持するためには、技術革新や規制改革、若年者の労働能力の開発、中高年者の労働能力の再開発等、労働生産性の向上への取組が必要になります。

 

少子化の進行で労働力不足が続けば、高齢者等の就業が益々重要になるとともに、ロボットやAIを含むデジタル技術等の活用などにより生産活動等の効率化を進めなくてはならないでしょう。

 

また、高齢者層の増大につれ社会保障給付費が増大し、労働力人口一人あたりの社会保障負担も増加していくため、社会保障制度における給付と負担の公平性や、現役世代の負担増を緩和していくための制度見直し、給付の効率化も不可欠です。

 

少子化による経済への影響で、現状の社会システムを維持するのが困難になっており、様々な面で改善や改革が必要となっています。

2)経済成長に対する影響

経済成長の主要な要因は、労働投入、資本投入および全要素生産性(技術進歩、効率化等)ですが、人口減少がこれらに悪影響を及ぼし結果的に一国の経済に負の効果をもたらすのです。

 

たとえば、人口減少は労働投入の減少に直結します。技術的な面を考慮しない場合、労働者が多いほど生産量を増やすことができ、GDPの増大につながるわけです。しかし、人口減少で労働者が減少すれば、生産量は低下し、GDPを減少させます。

 

また、人口減少は様々な需要の減退に繋がるため、必要とされる住宅ストックや企業における従業員1人当たり資本装備などが減少していく可能性が高いです。つまり、資本投入が減少しGDPも減少させることになります。

 

また、需要が減少すれば仕事量の減少に繋がり豊かな生活を送るための収入を確保することが難しくなるはずです。また、若者の中で将来に備えて貯蓄を行う者が減少する一方、過去の貯蓄を取り崩して生活する高齢者等の割合が増えかねません。

 

貯蓄は将来の大きな支出を生み出す源泉となり得ますが、貯蓄額が日々の暮らしの消費で減少すれば、将来における大きな投資の減少をもたらす可能性が高まります。

 

生産性について、「生産年齢人口の増加する経済」と「減少する経済」を比較してみると、後者では生産性が落ちる可能性が高いです。たとえば、人口規模が拡大していけば、多様性の広がりとともに、多様なナレッジが生じて社会の維持向上が期待できるようになります。

 

また、若者の多い人口構造になっていれば、新しいアイディアを持つ者の増加によりイノベーションが促進されやすくなります。しかし、人口が減少する高齢化社会では、生産性の向上に向けたナレッジやイノベーションの創出が劣り、結果として生産性が停滞する懸念が生ずるのです。

 

このように少子化に伴う人口減少や高齢化社会の進展は国の経済に悪影響を及し、成長を阻害することになります。

 

 

2 少子化の影響を受けやすいビジネスの動向

少子化の影響を受けやすいビジネスの動向

 

ここでは少子化による影響の大きな市場などの状況や、生き残り・成長をかけた取組などを紹介しましょう。

 

 

2-1 子供関連ビジネス市場の状況

まず、少子化の直接的な影響を受けやすい子供関連ビジネス市場を確認します。

 

株式会社矢野経済研究所のサイトでは「子供関連ビジネス市場に関する調査を実施(2022年)」の概要が公表されました。その主な内容は以下の通りです。

1)「2021年度の子供関連ビジネス市場(37分野計)は前年度比5.3%増も、コロナ禍前の水準に戻っている市場は少ない見込」

同社が示す「子供関連ビジネス市場規模推移」を見ると、2015年度の95,528億円から2019年度の105,724億円まで緩やかに増加してきました。2020年度は新型コロナの影響もあり95,526億円と大きく減少しましたが、21年度から22年度へと回復を見せています。

 

市況概要として、2021年度の子供関連ビジネスの市場規模は、前年度比5.3%増の10兆628億円との予想です。なお、例年においては、市場規模は少子化による影響から漸減する分野が見られましたが、2020年度はコロナの影響で多くの市場分野で規模が一気に縮小した。

 

そのため、前年度比で見ると21年度は大幅な伸びに見える市場があったものの、コロナ禍前の水準に回復している分野は少ない状況です。こうした状況の中、コロナ禍前並み、もしくはそれ以上の市場規模の成長を2021年度に見せた市場は「玩具」、「家庭用ゲーム」、「子供向けビデオソフト」、「幼児・学生向け通信教育」、「玩具菓子」などとなっています。

 

これらの市場はいずれも、家の中で楽しむことができる商品・サービスであり、コロナ禍で外出しにくい状況となった結果、巣篭もり需要で伸長する見込みの高い分野と言えるでしょう。

 

一方、2021年度も2019年度比較で規模縮小が見込まれる市場として、「テーマパーク・遊園地」、「インドアプレイグラウンド」、「子供向けスポーツ教室・スポーツクラブ」、「ベビーカー」などが挙げられています。

 

これらの市場についても基本的には新型コロナの影響を大きく受けていることが考えられ、主に外出を伴うモノ・コト、または外出する場合に利用するものに関連した分野は縮小する可能性が高いです。

 

出生率の低下傾向が続いており、ベビー市場、幼児市場、学校教育市場などの子供関連市場は縮小傾向が進む状況となっていますが、現在では新型コロナや物価高騰などの新たな要因が加わり、同市場の経済環境はさらに厳しさを増しています。

 

この市場で会社設立して事業を拡大させる場合、少子化という流れに対応できるビジネスに加えて新型コロナなどの影響を乗り越えられる対策の構想が不可欠です。

2)「2021年度の幼児英才教育の市場規模は、前年度比4.3%増の515億円」

2020年度の幼児英才教育(幼児受験教育市場と知育主体型教育市場の合算)の市場規模は、前年度比1.6%減の494億円となっており、2021年度は同4.3%増の515億円が予想されています。

 

2020年度はコロナの影響で春期の新規会員獲得に向けた営業活動が実施できず、また学校の休校に合わせて多くの教室が4~5月は休講していたため、当該市場の事業者のほとんどが2020年度では売上高を大きく減少させました。

 

しかし、コロナ禍にあっても幼児英才教育のニーズ自体が落ち込んでいないため、教室再開後は順調に生徒数を回復している事業者が多いです。有名幼稚園や小学校の受験を目的とした指導を行う幼児受験教育市場においてはコロナ禍によってニーズがさらに高まっていると見られています。

 

たとえば、コロナ禍においては私立学校の充実した設備やオンライン対応力を保護者が評価しており、私立受験ニーズがより高くなっているのです。

 

このように少子化により全般的には需要の減少という状況に直面していますが、その一方で新たなニーズが生まれています。そうしたニーズを取込んでいくことで起業や事業の拡大へと繋げることも可能なはずです。

 

 

2-2 子供関連ビジネス市場の各事業分野

子供関連ビジネス市場にはどのような分野が存在するのか紹介しましょう。矢野経済研究所は「子供関連ビジネス市場」について、0歳以上15歳以下の国内の子供用とされる商品・サービスとして、以下のような分野で分類しています。

 

子供関連ビジネス市場

(1)娯楽用品・レジャー

玩具、家庭用ゲーム、児童書、ビデオソフト、子供用自転車、子供向け映画、テーマパーク・遊園地、ゲームセンター・アミューズメント施設、インドアプレイグラウンド

(2)教育サービス・教育用品

学習塾・予備校等、幼稚園、幼児英才教育、子供向け英会話教室、子供習い事教室、子供向けスポーツ教室等、子供向け通信教育、学習参考書・問題集、子供向け文具、学習机・椅子、ランドセル・カバン

(3)食品

粉ミルク、乳幼児向け食品、玩具菓子

(4)衣料品

ベビー・子供服、児童服・学生服、ベビーシューズ・子供靴

(5)ベビー・子供関連用品・サービス

ベビー用紙おむつ、ベビーカー、ベビーベッド・ベビー寝具・子供用寝具、チャイルドシート、キッズ写真館、子供用携帯電話、子供用防犯用品・サービス

(6)保育関連サービス

保育園、ベビーシッター、学童保育、プリスクール

 

以上の事業分野では少子化の影響がより直接的に生じ、厳しい経営状況に押しやられる可能性が高いです。

 

しかし、少なくなる子供・若者に対する親や近親者等の育て方・支援の仕方・接し方等の変化や、価値観の変容に加え、子供等自体の価値観の変容などにより、上記の事業分野でも既存の需要量や新たなニーズが増大する可能性も十分にあります。そうしたチャンスを取り込めば起業による成功も不可能ではありません。

 

 

2-3 少子化環境の祖父母・親に対するビジネス

少子化に伴い、子供や孫に対する親や祖父母の消費行動や支出のあり方に以下のような変化が見られるようになりました。

 

たとえば、高齢者が自分の孫へ提供する商品・サービスに関するビジネスなどが少子化の影響を受けています。孫の数が多いほど、祖父母にはプレゼントや教育などで支出するお金が増えますが、逆に少ないほどその支出は少なくなる可能性が高いです。

 

また、孫に会いに行く、祖父・祖母に会いに行く、遊ぶ・旅行する、などの行為や移動にかかる支出なども上記と同じようになるでしょう。ほかにも孫が少なくなることで次のような状況の可能性が高まります。

 

具体的には、祖父母が孫全体に支出できる資金量が一定である場合、孫一人当たりが受けとれる資金量は孫の数が少ないほど多くなる可能性が高くなるはずです。つまり、少子化の状況では、祖父母から受け取れる・提供される、孫一人当たりの資金(プレゼント等で)は多くなることが期待されます。

 

この状況をビジネスの視点で見れば、祖父母に利用してもらう商品・サービスの客単価を高めやすい状況になり得るということです。つまり、一人の孫に対してかけてもらう商品・サービスの量を多くさせる、より高価なものを選んでもらうことが期待できます。

 

少子化で子供が減っても、その分野で提供する商材等の量と価格で補うことも可能です。そうした面での新たなニーズ(品質の高さ等による高級感や、数の多いことによるお得感 など)を掘り起こしていけば成長に繋げられるでしょう。

 

なお、この現象は祖父母の行動だけでなく、両親の行動にもあてはまるはずです。子供の数が少ないほど養育費や教育費の負担は軽くなり、一人の子供に費やせる資金は多くなります。

 

 

2-4 少子化と向き合う主要な事業分野の動向

少子化の影響が大きい産業の状況や、その危機を乗り越えるための取組について紹介しましょう。

1)教育産業

教育産業は子供の数の減少により需要の増大は望みにくいですが、政府の施策などによりビジネスチャンスが広がる可能性があります。

 

●税制

 

税制度の新設や変更はビジネスに大きな影響を及ぼすことがありますが、教育面でもそれは同様です。たとえば「教育資金一括贈与の非課税制度」が挙げられます。

 

この制度は「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税」のことで、祖父母などから教育資金を一括贈与で受けた場合の贈与税が非課税扱いになります。その内容は以下の通りです。

 

  • 期間:2023年3月31日まで(2026年3月まで延長予定)
  • 対象者:30歳未満の方(受贈者)(30歳未満の子や孫)
  • 内容:受贈者が教育資金に充てるため、金融機関等との一定の契約に基づき、受贈者の直系尊属(祖父母など)から金銭等受ける場合、その1,500万円までの金額に相当する部分の価額について受贈者の贈与税が非課税になります。

 

少子化の状況が進む中、家庭における子供の教育費の支出は1993年頃をピークにそれ以降は徐々に減少してきました。一方、子供一人当たり年間教育費は1970年代から1990年代前半にかけて急上昇し、それ以降は緩やかな上昇傾向にあります。

 

日本人の賃金上昇が低いため、家計における子供の教育費負担は重くなっており、上記の教育資金一括贈与の非課税制度はその家計を助けるものであり、教育関連の商品・サービスを提供する事業者にとっては恩恵をもたらす施策と言えるでしょう。

 

この制度は、塾・予備校、スポーツ・音楽等の習い事などの学校等以外への支払いにも利用できるため、様々な教育関連機関等にメリットがあります。たとえば、高額な授業料を設ける私立等の教育機関、それらの受験対策を行う塾・予備校等、幼児英才教育などを提供する民間サービス、などには追い風となるはずです。

 

教育関係以外では以下のような施策があります。

 

「住宅取得等資金の贈与の特例」

 

この施策は、祖父母などの直系尊属からの贈与により、自己の居住用住宅の新築、取得または増改築等の対価に充てるための金銭を取得した場合に、一定の金額まで、贈与税が非課税となる制度です。

 

具体的には、省エネ等住宅の場合には1,000万円まで、それ以外の場合には500万円までの住宅取得等資金の贈与が非課税になります。

 

「結婚・子育て資金の贈与の特例」

 

この施策は、2023年3月31日までの間に祖父母等から、18歳以上50歳未満の子や孫へ「結婚・子育て資金」にあてる資金等について、1000万円まで贈与税が非課税となる制度です。

 

以上のように贈与税の非課税対象枠を設ける措置が取られており、孫やその親の教育等における金銭的な負担が軽減され、それらに関する支出の増大が促されています。これは事業者にとってはチャンスのはずです。

 

●学習指導要領の変更等

 

「学習指導要領」とは、文部科学省が定める教育課程(カリキュラム)の基準のことを指します。そのため学習指導要領の内容に変更があったり、新たな内容が導入されたりすると、教育産業ではその対応に迫られることになるのです。

 

近年においてはグローバル化の進展とともにデジタル技術が高度化し、インターネットなどを含むICTやAI(人工知能)の進化が目覚ましく、社会が大きく変化してきました。そして、こうした状況を踏まえた教育の充実が求められるようになってきたのです。

 

具体的には、英語教育やプログラミング教育の導入が挙げられます。英語に関しては「新教科」として位置づけられ、本格的な運用が始まることになりました。

 

プログラミング教育については、まだ手探りで進める感が否めないですが、こちらもいずれ正式な教科になる可能性は高いでしょう。こうした状況は教育サービス事業者にとっては仕事の増大となるため、様々な関連サービスや商材の開発に取り組む事業者にとってはチャンスです。

 

また、外国語やデジタル技術のスキル取得等は社会人にも求められており、リスキリングとしてそれらを学ぼうとする傾向も見られるようになりました。会社の社員や経営者として、それらを学習し活用することが必要とされる状況になってきています。

 

さらに海外に目を向けると、人口が増加する国もあり、それらの国では既存の教育サービスモデルで対応して、増大する需要を取り込むことも可能です。他方、日本と同様に人口が減少している国でも、その国のニーズに対応できるモデルを開発できれば、開拓できる可能性は小さくありません。

 

日本の教育産業は国内の少子化に伴う児童数・学生数の減少という危機に直面する一方、時代の変化とともに新たなニーズが発生し、減少する需要量を補う機会が生ずるケースも少なくないです。また、海外へ進出し様々なニーズに対応すれば成長の道が閉ざされることはないでしょう。

2)ベビー服・こども服産業

この産業も少子化の影響を受けやすい事業分野ですが、新型コロナの影響を除く近年の状況を見ると、市場規模は横ばいで推移しています。

矢野経済研究所サイトの「ベビー・こども服小売市場に関する調査を実施(2020年)」によると、「ベビー・こども服の国内小売市場規模推移」の状況は下表の通りです。

 

ベビー・こども服の国内小売市場規模推移

 

少子化の傾向は2000年以前から顕著になっていましたが、近年のベビー・こども服市場はそうした逆風の中、横ばいでの推移を保ってきました。上記の調査によると、2019年の国内のベビー・こども服小売市場は、前年比99.5%の9,141億円で、市場規模はほぼ横ばいの推移とされています。

 

その背景として、消費税増税や実質賃金の伸び悩みによる消費マインドの低下に加え、少子化が影響しているようです。なお、横ばい推移の中で実績を伸ばしたのが、楽天市場やZOZOTOWNなどの「モールへの出店」や、自社オンラインショップなどの「EC事業」に注力している企業・ブランドが挙げられています。

 

具体的には以下のような点が指摘されました。

 

  • 「しまむら」が新ブランドを立ち上げ、トータルコーディネートなど特色のある商品提案で事業展開している
  • 「ナルミヤ・インターナショナル」はSNS等でトレンドワードになった「量産型女子」のための新ブランドをオンラインショップで販売し、トレンドやカルチャーに敏感な小学校高学年からを対象として、量産型ファッションや「ヲタ活」を楽しむための、ガーリーファッション(女の子らしさを強調したファッション)を提案している
  • ユニクロは、消費者の声を反映した子供用の安心であったかなインナーの販売を開始した

 

このようにこども服市場が、まだ魅力を有する市場として、低価格・プライベートブランド以外に多様な新ブランドが立ち上げられています。販売ルートも百貨店・量販店等の既存の流通ルートから、専門店、インターネット通販、海外進出等へ注力するという時代に対応した動きが強まってきました。

 

他方、子供服市場における従来の販売戦略を踏襲し続けるだけの企業では、少子化という需要量の減少や時代の変化に対応できず市場からの退出を余儀なくされています(2013年のフーセンウサギの倒産等)。

3)レジャー産業

子供に人気のある「遊園地やテーマパーク」などのレジャー産業も少子化の影響を受けやすいですが、その状況を確認しましょう。

 

遊園地・テーマパークの事業だけに着目すると、2000年からの市場規模の推移は下表のようになっています。

 

*経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」(長期データ)の対個人サービスにおける「遊園地・テーマパーク」のデータから

 

遊園地やテーマパークの国内小売市場規模推移

 

2000年以降の同市場の売上高は2009年のリーマンショックと2020年以降のコロナ禍という特殊な状況の影響を除けば、多少の上昇・下降はあるものの長い目でみれば右肩上がりの上昇が確認できます。

 

つまり、コロナ禍に陥るまでは少子化の大きな影響は見られず概ね上昇軌道を辿ってきたと言えるでしょう。この状況は、同市場が子供を対象とした市場というよりも若年層のほか、幅広い層が対象となる市場に変化してきたことが指摘されています。

 

多様なテーマパーク、東京ディズニーリゾート、ユニバーサルスタジオジャパン(USJ)、ハウステンボスなどの大手レジャー施設などが開設され、ユニークな水族館や動物園などの新設やリニューアルが実施されており、子供のみならず大人や高齢者などが楽しむ時代になっているのです。

 

時代の流れと伴にライフスタイルや消費等に対する価値観が変容し、消費ではモノ消費からコト消費が重視され、特に体感・体験といった点が消費の重要ポイントとなっています。

 

こうした点に直接的に訴求できるのが、遊園地・テーマパークの事業であり、そこで魅力的な施設やサービスが提供されるようになって、市場が拡大してきたのです。

 

また、海外からのインバウンド需要が増大し、スキー等のウインタースポーツ関連施設やリーゾート施設などに注力する動きも見られるようになってきました。

 

一方、従来型の子供を対象とした遊園地などでは閉園に追い込まれた施設も少なくありません。子供の数の減少とともに、時代に合った子供の遊び・楽しみのニーズに適応できない施設では事業からの撤退を余儀なくされているのです。

 

しかし、上記で確認したとおり、ターゲットの幅を広げ、それらのニーズに対応した施設等にしていくことで新たな需要を取り込み成長することもできます。また、子供だけを対象とする場合でも「キッザニア」(児童を対象にした職業体験型のテーマパーク)のように特色のある施設にすることで成功を掴むことも可能なはずです。

 

 

3 少子化に対応するビジネスモデルでの重要ポイント

少子化の影響を受けやすいビジネスの動向

 

少子化の影響の大きい子供関連産業等においては、その逆境を生き抜くためのビジネスモデルの構想が必要になります。ここではその際に考慮したいポイントを紹介しましょう。

 

 

3-1 客単価の増大

対象ビジネスの需要量が減少すれば収益が圧迫されやすくなりますが、それをカバーするためには顧客一人当たりの収益を増やすこと、すなわち「客単価の増大」が重要になります。

 

客単価とは、顧客1人が1回の買物等で購入する金額のことです。売上は、「客単価×顧客数」で得られるため、少子化で顧客数の増大が望みにくい状況では客単価の向上が求められます。もちろん顧客数の増大に対する取組も必要ですが、ここでは客単価について考えましょう。

1)客単価が決まる要因

客単価は「売上高÷顧客数」で得られるものですが、その売上高は「商品・サービスの単価×購入数」で表されます。従って、顧客数が一定であれば、商品等の単価をアップさせる、購入数をアップさせる、その両方を行うことが、客単価アップの方法です。

 

しかし、これらについては実際のやり方次第で、客単価のアップどころか収益を低下させることもあり得ます。たとえば、客単価のアップを目的に単に商品等の単価を上げた場合、顧客が有する値ごろ感から外れ買い上げや利用が急激に落ちこむことも珍しくありません。

 

逆に商品価値はそのままで単価を少し下げることで購入数・利用数が伸びて、結果的に収益が以前を上回るケースも少なくないです。また、購入数の増減は単に価格だけで影響するものではありません。

 

商品・サービスが売れる、利用されるという結果に至るには、商品等の認知、他者の紹介、信頼性、機能・品質の善し悪し、顧客に合わせた価値の提案、割引・ポイント・ノベルティ等のプロモーション、店等の立地などによる購入の便利さ、配送・受取の便利さ、など様々な要因が関係します。

 

こうした要因は、商品等の特徴やターゲットの種類などによって異なってくるため、その商品等の購買に関する影響要因を把握して購入してもらえるようにその内容を整えていく必要があるのです。つまり、自社の商品等が売れるための仕組を作る適切な「マーケティング活動」が求められます。

 

客単をアップさせるために、どのような要因に働きかければ、単価をアップできるか、購入数を増やせるかを分析し、売れるための仕組を作るようにしましょう。

2)客単価を上げるための方法

客単価をアップさせるための方法をいくつか紹介します。

 

客単価をアップさせるための方法

 

(1)商品等の単価のアップ(アップセル)

 

これは販売する単価、利用単価を上げる方法です。たとえば、商品なら従来にない性能や品質を加えて商品価値を高めることで単価を上げることができます。もちろん顧客やユーザーがその価値を認めるとともに、その対価を妥当と評価したり、支払が可能であったりすることが前提です。

 

以前の商品に比べて機能が豊富になって利用がより快適になったり、より耐久性が向上したりすれば、価格上昇分に見合う、あるいはそれ以上の価値と評価して購入してもらえるケースは少なくありません。

 

特に少子化で子供一人に対する愛情の注ぎ方が強まる傾向があり、より材質の良いモノ、より安全・安心なモノ、より高性能なモノ、より本物のモノ、などが求められることも多いです。

 

また、商品の性能や品質という、もの自体の向上のほか、新たなサービスを加えることで価値を高めて単価を上げるという方法もあります。たとえば、商品の利用に関する保険の適用や交換保証、ポイントの増大・イベント等への招待や優待、送料の無料や軽減、といったサービスの付与です。

 

価格ラインを複数設定して、低価格帯から中級価格帯へ、中級価格帯から高級価格帯へという誘導を試みるという方法もよく利用されています。

 

子供用の商品は、機能以上に子供から見た場合の満足度、親や祖父母から見た場合の評価(安全性、利便性や豪華さ等)が重要となり得るため、その点を考慮した商品開発と品揃えを行い適切な価格設定が欠かせません。

 

(2)関連商品の購入(クロスセル)

 

商品等の価格はアップしないが、顧客等が一度に購入する際の購入数を増やすことで客単価を上げることが可能です。たとえば、小学校入学時から利用するランドセルを販売する際に、通学などで使用する靴を一緒に購入してもらう、といった方法がクロスセルになります。

 

学習塾などでは、小学生向けの算数・国語・理科などの科目に英語やプログラミングなどを加えて、月額の利用料金をアップさせることが可能です。或は集団指導に個別指導を加えるといった方法も考えられます。

 

また、情操教育や趣味の学習などを始める場合に、初心者用として関連する用品や道具を一式揃えて手頃な価格で販売するという方法も多いです。このように購入対象となるモノやサービスを増やし、それらをリーゾナブルな価格で提供すれば、売上高の拡大も狙いやすくなります。

 

(3)まとめ買いの促進

 

これは同じ商品・商品群等を一度に多く購入してもらう方法です。たとえば、ベビー用品の一つである紙おむつ、ミルク・離乳食などの食品などは一定期間に相当量必要となりますが、それらをまとめ買いしてもらう方法になります。

 

嵩張るモノや重いモノなどは必要な量だけ購入したいところですが、「まとめ買いすれば、通常価格より20%」といったサービスを付与すれば、購入を促すことも可能です。あるいは「○個以上購入で、今だけ送料無料!」などのサービスも多く見られます。

 

値引や送料の負担などが売手側に生じますが、一度の販売量が増えることで収益を確保しやすくなるとともに、新規客やリピート客を増やせることも多いため、まとめ買いを促す販売方法も重要になります。

 

(4)特典で購買に繋げる

 

これは特典を付与することで、アップセル、クロスセル、まとめ買いを促進させる方法です。

 

特典の内容は様々ですが、対象となる顧客(子供、親や祖父母)の要望を把握して魅力あるモノやサービスを考案し提供しなくてはなりません。親や祖父母等の購買の意志決定者だけでなく、贈られる・利用する子供等の要望を取り入れた特典も重要です。

 

たとえば、まとめ買いで商品等の価格が下がれば買手である親等にとっては魅力的ですが、それを利用する子供にとって魅力がないモノなら、その特典は次の機会に効果を発揮するとは限らないでしょう。

 

逆に子供が楽しめるレジャー施設等への優待券・割引券、ゲームや玩具、などなら、その特典は子供にとって魅力的に映り、次回の購買に繋がる可能性が高まります。特典をつければ、それで購買に結び付くというものではないため、その内容を適切に設定して提供することが重要です。

 

 

3-2 Z世代以降の価値観・ニーズへの対応

子供関連産業では子供自身の消費に対する考え方や行動が事業の成功に直結するため、事業者はそれらの正確な把握に努めなければなりません。

 

特に、1980年あたりから1995年頃までに生まれた世代、いわゆるZ世代やそれ以降の世代が今後の消費における中心層になるため、彼らの価値観や行動様式などを優先して捉えることが求められます。

 

そのZ世代の特徴としては、以下のような点が挙げられるでしょう。

 

●生活様式

 

Z世代は、彼らが生まれた時から、インターネットが普及して、PCや携帯電話・スマホが身の回りにある・使用できる環境にあり、ネットを通じたコミュニケーションを日常的に行っている、というデジタルネイティブ、スマホネイティブ、SNSネイティブです。

 

テレビや雑誌などよりもインターネットで情報収集を行い、SNSで友人等とコミュニケーションをとる生活が行われています。従って、モノ・サービスの購入や活動のきっかけから実行までネットを利用するケースの多い生活が中心になっているのです。

 

特にスマホの利用が中心で、ネットサーフィンやSNS等で様々な情報を収集し、買物、読書、ゲーム、などで自由な時間を楽しむほか、学習、就職活動、仕事、などに多くの者が活用しています。

 

そのためビジネスを行う者にとって、Z世代等への対応はこのデジタルネイティブ等の特徴を踏まえたマーケティング活動が不可欠です。つまり、店頭というようなリアルの場所でのマーケティングに加え、ネット上でのマーケティングをいかに効果的に実施するかが求められています。

 

Z世代以降の特徴がどう変化するかはわからないですが、少なくとも現在の特徴をある程度引き継ぐ可能性は高いため、まずはZ世代への対応に注力しそのライフスタイルやニーズ等の変化を随時取り込んでいく努力が必要です。

 

●消費の価値観

Z世代の消費の価値観として、以下のような点が挙げられます。

 

Z世代の消費の価値観

 

  • 「タイパ」の重視
  • 「共感」の重視
  • 「イミ消費」の重視
  • 「体感」の重視

 

「タイパ」とはタイムパフォーマンスの略語で、「時間対効果」を指す言葉です。これまでは「費用対効果」いわゆる「コスパ」が消費において重視されるケースが多かったですが、Z世代はコスパ以上にタイパを重視する傾向があると言われています。

 

ネットが発達して様々な情報を容易に入手できる今日では、ゲーム、音声や動画などが大量に利用できるため、それらを楽しむには多くの時間が必要になります。

 

そのため一定時間でより多く楽しめるモノや方法が重視されるようになってきたのです。書籍を要約や短時間で読めるサービス、動画の倍速化等のサービス、一定期間内での複数コンテンツの利用、といったサービスが登場し始めてきました。

 

「共感」というのは、ある商品やサービスのコンセプトなどの価値に共感を持てるかどうか、という点です。提供側の開発への思い、その商品の社会的な意義、利用することで得られる満足感、などで供給者、使用者等の間で共感できるものが重視されています。

 

特に近年では、SNS等でフォロワーを多く有する者(インフルエンサー等)が情報発信する商品・サービスが共感の対象となるケースが多いです。従って、共感を呼べる商品等はZ世代において有力な購買候補になり得ます。従来のようにブランド力を有するだけでは売上を伸ばすのが困難になってきました。

 

「イミ消費」とは、個人にとって意味のあるものを購買していくという消費スタイルを指します。たとえば、一般的にコスパが悪いと思われる商品等であっても、無駄な消費になりそうなものでも、自分が気に入れば購入する、という態度がイミ消費です。

 

個人の考え・感情に従って購買・消費されるため、よりパーソナルな対応が必要となります。現代においては、デジタル技術等を活用したマーケティング対応をとれれば、各顧客へのパーソナライズ化した対応は十分に可能です。

 

「体感」の重視とは体験・体感を重視する、というコト消費のことを指します。これはZ世代以前の親世代などにおいても見られる現象と言えるでしょう。

 

商品・サービスを購買して、それ自体の価値を楽しむという形態から、商品・サービスを様々な方法で試す・利用するほか、商品等を自分で作る・提供する、という行為を楽しむことに価値が置かれ始めたのです。そのため今後のビジネスにおいては体験・体感に重点を置いた価値の提供が求められます。

 

 

3-3 ターゲットの拡張

少子化時代おいて、ターゲットを子供や若者だけに絞るだけでは需要量は伸ばせないため、ある程度拡張させる対応が必要です。たとえば、子供用・若者用の商品等を大人用・シニア用へと広げることなどが考えられます。

 

この考え方は、「少子化が進む一方で高齢化社会が拡大するから、高齢者対応のビジネスへシフトする」ということではありません。もちろんシニア向け事業を中心事業として確立することは重要ですが、全面的な転換を意味するものではないです。

 

既存の子供向けから、青年向け、大人向け、そしてシニア向けとして対応範囲を広げ、事業基盤を強固にすることが重要となります。たとえば、紙おむつ事業がその典型的な事例と言えるでしょう。

 

以前の紙オムツ市場は、乳幼児向けが主力商品でしたが、2020年を超える現代では、高齢化社会が進み要介護者等の増大に伴い、大人向けの紙オムツの需要が増え今では乳幼児向けを逆転しています。

 

また、食品や飲料などでもそうした対応が少なくありません。乳酸菌飲料などは子供向けが主体でしたが、健康志向が強まる現代では大人向けの乳酸菌飲料なども多く見られるようになりました。

 

お菓子などでは、従来子供向けの商品として提供していたモノに大人向け商品を開発しているケースも多いです。子供向けと異なる、少し苦めのチョコレート味や抹茶味などを加えた商品がよく見かけられます。

 

以上のほかにも日本を訪れる外国人をターゲットとしてビジネスを拡大させることも重要です。日本に来る訪日客の中には、自分の子供や孫などにより良い商品等を買って帰ろうとする傾向も見られます。そうしたインバンド需要を取り込むことで既存事業の維持成長を図ることが可能です。

 

以上のように同じタイプの商品・サービスであってもターゲットを周辺へと移すことで新たな需要を取り込み、事業を拡大させることができます。

 

 

3-4 海外展開

日本は少子化、人口減少に陥っていますが、世界には人口が増加する国も多いため、そうした国に進出して子供・若者向け事業を展開することも有効です。

 

国内の子供・若者向け事業がそのままの形で海外において通用するとは限らないですが、経済成長を伴って人口増加する国もあるため、対応次第ではその増大する需要を取り込めます。

 

たとえば、米国は世界で最大のGDPを誇るとともに今も比較的安定した経済成長を続け、人口も増加しています。米国では移民が多いこともありますが、その移民のヒスパニック系やアフリカ系などは多産の傾向があるため、人口増加が今後も見込まれているのです。

 

人口増加の傾向は発展途上国でよく見られますが、そうした国・地域の中には経済が急激に発展して新興国と呼ばれるケースも少なくありません。こうした国等では国民の消費力が向上し、教育などへの支出増も期待されます。

 

つまり、そうした国々ではかつての日本で見られた子供・若者向けビジネスでの需要増が見込まれるわけです。子供・若者向けの、より安心・安全な商品、より高品質・高性能な製品、より効率的・充実した教育等のサービス、などの需要が望めます。

 

もちろん日本の商品・サービスをそのままの形で提供するのではなく、その国・地域の法令、文化・慣習、利用者・保護者等の価値観などを含めた特徴やニーズに対応して提供することが求められます。

 

海外展開の例は様々ですが、教育業界でも海外進出に注力しているケースは少なくないです。日本の海外駐在員の子息を対象としたスクール運営からスタートし、その国の子供を対象とした教室・塾の運営に軸足を移している企業もあります。

 

また、そうした教室を現地においてフランチャイズチェーンとして展開する事例も見られるのです。さらにそうしたスクール運営から教育教材を提供するといった事業を展開する企業もあります。

 

アニメやゲームなどのエンターテインメント分野は以前から海外展開が行われてきましたが、これらの分野での日本の知名度が海外で高くなり、日本文化に興味を抱く若者が世界的に増加するようになりました。そのため娯楽・遊戯などに関連する事業は益々海外での需要を拡大させることが可能です。

 

 

4 少子化時代での会社設立の進め方とそのポイント

少子化時代での会社設立の進め方とそのポイント

 

少子化の環境にあっても起業して成長できる会社を作り運営していくための進め方やそのポイントを説明しましょう。

 

 

4-1 少子化に対応できるビジネスモデルの構想

少子化環境での会社設立では、その不利な状況でも乗り越えて成長できるビジネスモデルの構想と実現への取組が不可欠です。

 

誰の、どのようなニーズを、どの商品・サービス(の内容や構成)で、顧客が満足するようにかつライバルに勝てるようにどう提供するか、を端的にまとめた内容がビジネスモデルになります。

 

そして、そのモデルの基盤やそれに基づく業務システムの中に、自社の状況に合わせて、客単価の向上、Z世代等の価値観・ニーズへの対応、ターゲットの拡張、海外展開、などの要素を含めることも検討しましょう。

 

これらの要素は先に確認した通り、少子化環境を乗り越え成長へと進むための重要なポイントになり得るため、構想しているビジネスモデルに取込めないかを検討することも必要です。

 

 

4-2 ビジネスモデルに適した会社の形態

会社設立する場合、ビジネスモデルや将来の事業展開などを踏まえて、どのような法人形態にするか、も検討しましょう。一般的には株式会社を会社設立時に選ぶ方が多いですが、最近では合同会社や一般社団法人などを選択する方も増えてきました。

 

起業時では個人事業主としてスタートし、事業が安定してから法人組織に変更する方が多いですが、その際に「株式会社が多いから選ぶ」というのではなく、各法人形態の特徴なども確認して決めるのが重要です。

 

一般的な会社形態としては、株式会社のほかに合同会社、合資会社、合名会社があります。これの組織の違いは色々とありますが、代表的な要素としては、設立に関する容易さ・手間・費用、出資者の責任の有無等、内部自治や信頼度、などが挙げられるでしょう。

 

たとえば、株式会社の場合、他の形態よりも設立の手続等に関する手間や費用はかかるものの、資金調達や信頼度の面で有利になりやすいという特徴があります。

 

合同会社は、日本では株式会社よりも信頼度が低く見られることもありますが、手続や費用の面で株式会社よりも負担が少なく、海外では多く採用されています。日本においても外資の日本法人が合同会社を採用しているケースが少なくありません(「アマゾン」など)。

 

そのため早い段階で海外進出するなら、合同会社という選択も悪くないでしょう。

 

また、社会貢献性の高い事業を中心とするなどの場合、一般社団法人の採用も有益です。この法人形態は、収益事業をすることも可能であり、教育機関などにおいて採用されるケースが多く見られます。

 

一般社団法人は利益を出資者に分配する行為はできないですが、社会に役立つ事業を推進する場合などでは利用者からの信頼も得やすくなるため、事業展開上有利となることが期待できるでしょう。

このように組織形態については、自社の事業や将来構想等に合わせて選ぶことが重要です。

 

 

4-3 人材確保にも有効な会社づくり

少子化が会社組織自体に与える最も大きな影響は人材確保であるため、いかに有能な人材を集め定着させるかが課題になります。

新設会社は事業実績がないため、経営者の知名度や大企業との資本関係などがないと、一般的には社会的信用度に欠け、人材を集めるのが容易ではありません。ただでさえ人手不足の現状においては、新設会社での新規採用は困難を増すため、丁寧な対策が求められます。

 

もちろん採用に関する制度設計は必要です。経営戦略や事業計画に基づく人材戦略・計画を策定し、いつ、何人、どのような能力・資質を有する人材を確保していくか決定しなければなりません。

 

経営理念や事業方針などに照らした人材の資質(価値観・性格・判断基準・行動特性 等)を明らかにし、その合否基準を設けておくことも必要です。また、採用には費用がかかるため、その許容限度を設定の上費用対効果の高い採用方法(募集するメディア等の活用など)も検討しておかねばなりません。

 

学卒、若年層の中途採用などにこだわらず、退職前後の高齢者層のほか、子育て中の女性や主婦なども積極的に採用することが重要です。将来の海外展開を視野に入れている場合などは外国人の採用は有効でしょう。

 

また、希望する人材を集め能力を発揮してもらうためには、満足できる処遇の提供が不可欠です。一定水準以上の賃金や就業条件(リモートワーク、フレックスタイム、短時間労働対応 等)を提供していくことも必要となるため、働きたいと思えるような人事制度を作る努力も求められます。

 

会社は人の集合体であるため、経営者は会社を魅力的な集団にするための「会社づくり」に努めなければなりません。

 

 

4-4 成長できる会社への導き

会社設立して、従業員を確保できたとしても、それで組織が機能的に運用できるとは限らないため、経営者は以下のようなポイントを中心に会社が適切に回るように導きましょう。

1)経営理念やビジョンの明示と共有

経営者が会社として実現したい思いや将来ありたい姿を従業員に示し、それを浸透させることが重要です。この行為は、従業員がその会社を選ぶ際の動機になるとともに、入社後の会社や仕事に対するモチベーションにも関係するため、経営者は手を抜くことができません。

2)戦略・計画の策定とその実行

事業の目標を定め、それを達成するための道筋を決めて計画的に実施することが事業の成功に繋がります。そのため事業についての戦略とそれを受けた計画の策定が必要です。戦略・計画が策定されることで、従業員は目標達成に向けた考えと行動が取りやすくなり、効率的で自律的な活動が期待できます。

 

また、経営者は従業員に戦略等の内容を理解させ協力が得られるように導くことが重要です。目標に向けて、全社が一つの方向に進めるように働きかけましょう。

3)人的資源管理の向上

自社の仕事に魅力があって、人材確保ができたとしても、従業員に対する処遇等が適切でなければ、従業員のやる気が落ちて集団としての機能が十分に発揮されないこともあります。そのため従業員のモチベーションを維持向上させるための適正な人的資源管理の実行が必要です。

 

先に述べた報酬等の処遇や就労条件を整備するとともに、従業員がやりがいや魅力を感じる人事制度や福利厚生制度などを提供していくことも求められます。さらに居心地のよい職場、信頼関係のある上司・部下・同僚の関係、切磋琢磨できる業務環境、キャリアアップが可能なシステム、などの整備が重要です。

 

従業員が会社、仕事や働き方などに満足できる環境を少しずつでも整えていくことが経営者に求められています。

 

 

5 まとめ

少子化時代の起業・会社設立の考え方及び進め方

 

少子化により対象ビジネスの需要量が減少するという可能性は高まるものの、新たなニーズを発見したり、ターゲットの範囲を広げたりすることで、少子化環境でも成長の道は拡大できます。

 

世の中の動きに目を配り、子供・若者だけではなく大人、親・祖父母などの世代の価値観や行動様式の変化に注視していけば、成長のきっかけを発見しビジネスを拡大させることは不可能ではありません。ピンチの裏にはチャンスもあると考え、少子化時代での起業・会社設立を前向きに考えてみてください。


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