ウイズコロナが長引く中、飲食業やサービス業などでは倒産・廃業に至る企業も増えてきました。こうした経営環境において無店舗経営や訪問販売の形態による起業・会社設立が注目を浴びています。
3密回避に対する意識が高まった国民が店舗や施設などを積極的に利用するには、もうしばらく時間がかかる可能性もあるため、無店舗のビジネス形態は有効な方法と言えるでしょう。
この記事では、無店舗型ビジネスに着目し、現在の経営環境を概観しつつ無店舗型ビジネスの特徴や将来性などを考察し解説します。無店舗で飲食業やサービス業を始めたい方、訪問等のビジネスで成功したい方、無店舗型ビジネスの進め方のポイント等を知りたい方などは、参考にしてみてください。
1 現在の経営環境と無店舗型ビジネス
まず企業を取り巻く経営環境を確認し、その上でその環境が無店舗型ビジネスにどのような影響を及ぼすのかなどを見ていきましょう。
1-1 ビジネス環境の現状
ここでは、現在の経営環境を経済全般、倒産廃業、無店舗型ビジネスの状況などから確認していきます。
1)現在の経済状況と今後
日本経済は、収束しない新型コロナの感染、解決が見えないロシアのウクライナ侵攻、エネルギー資源および穀物等の高騰、急激な円安進行といった問題に直面しています。
全般的には厳しい状況下にあると見られる直近の経済状況や、今後の経済動向について簡単に説明しましょう。
●GDP
2022年9月8日に発表された4~6月期の実質GDP成長率(2次速報)は、前期比+0.9%(年率換算+3.5%)で、1次速報の同+0.5%(年率換算+2.2%)から上方修正されました。
その内容としては、設備投資、民間在庫変動のほか、個人消費、政府消費、公共投資が上方修正されています。一方、控除項目(マイナス要素)である輸入の実質・前期比が下方修正され、それも実質GDP成長率を若干押し上げました。
この4~6月のGDPの状況は新型コロナの感染拡大が一時的に弱まったことによる経済社会活動の活性化の反映と見られています。具体的には、行動制限なしの大型連休を過ごせたことで対面型サービスなどを中心に、個人消費が活発化し国内の経済活動に好影響をもたらしたと考えられているのです。
なお、7~9月期もプラス成長が維持されると見込まれています。物価の高騰やオミクロン株の感染拡大(第7波)の影響がどの程度GDPに影響するか心配されるものの、夏休みに行動制限がなかったことと、秋の行楽シーズンにもその実施がないと予想されることから、プラス成長が予想されているのです。
新型コロナの影響で消費が抑えられ貯まった資金が対面型サービスなどを中心にリベンジ消費に向かい、4~6月期に続いて持続するものと見込まれています。
●2022年8月の景気動向
株式会社帝国データバンクの「TDB景気動向調査(全国)― 2022年8月調査―」によると、「2022年8月の景気DIは前月比0.1ポイント増の41.4となり、2カ月ぶりに改善した」と報じられています。
特に冷房器具など季節商品の売れ行きの順調さや、お盆・夏休みによる観光需要の増大などが貢献しているとのことです。その一方で、燃料価格の高騰や人手不足の再燃、感染者増にともなう出社制限、食品を含む生活必需品の度重なる値上げが個人消費を引き続き下押ししていると指摘しています。
●2022年10月以降
・新型コロナ感染
9月末時点で新規感染者数が3万人以上といった人数が継続している状況ですが第7波は収束しつつあり、外国人観光客の受け入れ拡大や観光・宿泊等の需要刺激策(Go To トラベル等の再開)が検討されており、GDPの回復が期待されるところです。
ただし、急激な外国人観光客等の流入や国内での移動の活発化が過度に進むことで第8波が生じれば、上記のGDPの回復が厳しくなるため、その動向を注視しておく必要があります。
・ロシアのウクライナ侵攻による影響
ロシアが占領したウクライナ東部地区の一部をロシアに併合したことにより、欧米を中心にロシアとの対立が深まっており、その影響がエネルギー資源や穀物等の供給および価格に大きくおよび、その確保や高騰に世界中が直面しています。
この問題の解決が長引く、さらに深刻化する、といった事態になれば、エネルギー資源や穀物等の確保は一層困難になり、価格の高騰はさらに継続する可能性が高いです。こうした状況が景気後退に繋がると危惧されています。
・インフレと円安
新型コロナにより世界のサプライチェーンが傷ついた状況の中、米国の経済政策および金融政策、ロシアのウクライナ侵攻など加わり、現在は強いインフレ圧力に晒されている状況です。
米国ではインフレ圧力を緩和するため大幅な利上げを進める一方、日本は量的緩和とゼロ金利政策が継続されており、円安が急激に進行しています。国内のエネルギー資源や穀物等の高騰はこの円安もその一因となっており、それらを輸入に大きく依存する日本への影響は極めて大きいです。
円高傾向に慣れてしまった国内企業にとっては、急激な円安進行への対応は容易ではなく、急激な物価の高騰は回復しつつある国内消費の勢いを弱めるばかりでなく、悪化させるという懸念が生じ始めました。企業としてはこうした状況によるリスクを増大させないための取組が必要になります。
2)倒産、廃業の状況
上記のような環境の中で倒産や廃業に追い込まれた企業の状況を示しておきましょう。
株式会社東京商工リサーチのコーポレートサイトでは月次の「全国企業倒産状況」が公表されており、2022年8月の状況として以下のような内容が示されました。
●全般
・2022年8月の全国企業倒産(負債額1,000万円以上)は、件数が492件(前年同月比5.5%増)、負債総額は1,114億2,800万円(同22.4%増)
・(倒産)件数は、4月から5カ月連続で前年同月を上回り、8月としては2018年同月以来、4年ぶりに増加。倒産件数は低水準だが、底打ちから増勢に向けて潮目が変化
・「新型コロナウイルス」関連倒産は、193件(前年同月比50.7%増)で、2022年6月の201件に次ぐ過去3番目。集計開始した2020年2月からの累計は3,851。
⇒これまで新型コロナによる影響を政府等の支援策で持ちこたえてきた企業にも限界が見え始め、倒産件数および負債総額の増加の勢いが増しています。
・負債総額は、3カ月連続で前年同月を上回る。8月としては2018年(1,212億6,800万円)以来、4年ぶりに1,000億円超え。最大の負債額は、倉庫、運輸業の日本ロジステック(株)(東京)の負債151億300万円。
⇒物流関連会社の大型倒産は、物流の停滞を反映している可能性があり、新型コロナからの経済回復の鈍化が懸念されそうです。
●産業別倒産
・2022年8月の産業別件数は、農・林・漁・鉱業、小売業、金融・保険業、サービス業他を除く6産業で前年同月を上回る
・最多は「サービス業他」の167件(前年同月比4.0%減)だが、2カ月連続で前年同月を下回る。小売業が45件(同28.5%減)で4カ月連続、金融・保険業が1件(前年同月3件)で2カ月ぶりに、各々前年同月を下回る
⇒倒産件数は相対的に多いもののサービス業他や小売業は減少傾向が見られます。
・燃料価格の高止まりが続くなか、運輸業は35件(前年同月比133.3%増)で、6カ月連続で前年同月を上回り、今年最多。建設業91件(同18.1%増)、不動産業17件(同41.6%増)が3カ月連続、情報通信業16件(同6.6%増)が2カ月連続、製造業52件(同15.5%増)、卸売業62件(同10.7%増)が3カ月ぶりに、各々前年同月を上回る
⇒燃料価格の高騰の影響が大きい運輸業では倒産の増加傾向が顕著です。また、不動産業や建設業でも増加傾向が見られ、建設業界の状況の悪化が懸念されます。
また、株式会社帝国データバンクでも同社サイトで8月での倒産状況を公表していますが、その中から注目点をいくつか挙げてみましょう。
・倒産件数は493件(前年同月449件、9.8%増)と、4カ月連続で前年同月比増加
・業種別にみると、7業種中5業種で前年同月比増加。建設業(前年同月78件→98件)は4カ月連続増。一方、小売業(同114件→76件)は6カ月連続で前年同月比2ケタ減
・業種別
7業種中5業種で前年同月を上回る。建設業(前年同月78件→98件、25.6%増)では、土木工事など設備工事業(同17→26件)で大幅増、全体でも2020年4月以来の4カ月連続増加。
・運輸・通信業(同20件→33件、65.0%増)では、トラック運送など道路貨物運送(同10→22件)が倍増。
・サービス業(同99件→133件、34.3%増)では、経営コンサルタントなどの専門サービス業(同12→25件)で倍増し、全体でも30%以上の増加。
・不動産業(同11件→22件、100.0%増)は、不動産代理・仲介業(同2→11件)で大幅増
・小売業(前年同月114件→76件、33.3%減)は、スーパーなど各種商品小売業(同9件→2件)や飲食店(同49件→32件)の減少もあり、6カ月連続で前年同月比2ケタ減
⇒厳しい経営環境の中、飲食業や小売業が健闘している様子が窺えます。
・倒産主因別
主因別では、「不況型倒産」の合計は366件(前年同月352件、4.0%増)で4カ月連続の増加、構成比は74.2%(対前年同月4.1ポイント減)
最多は「販売不振」の362件(前年同月345件、4.9%増)で、構成比は73.4%(対前年同月3.4ポイント減)。
⇒倒産の原因は様々ですが、「販売不振」が最多の原因となるケースが多いです。経営環境の悪化や不適切な経営方法などにより販売不振に陥りますが、現状では前者の影響が大きいことが推察されます。
※倒産主因のうち、販売不振、輸出不振、売掛金回収難、不良債権の累積、業界不振を「不況型倒産」として集計
3)無店舗型ビジネスの状況
ここでは新型コロナの感染拡大が無店舗型ビジネスにどう影響したかについて説明しましょう。なお、無店舗型ビジネスの種類は様々であり、それら各種の業況などを示したデータがないため、代表として「無店舗小売業」について紹介します。
●2020年の米国の状況
日本貿易機振興機構(JETRO)が2020年6月19日に同機構WEBサイトで公表している「新型コロナで小売業界に大きな打撃、オンライン販売は好調(米国)」の中で、新型コロナによる無店舗小売業への影響を確認することが可能です。
それによると「オンライン販売は好調」と題して以下のような点が示されました。
・自宅待機令の発令が本格化した2020年3月以降、米小売業の売上高は大きく減少し、3月の小売売上高(季節調整値)は前月比8.3%減
・フードサービスは、感染拡大を受けて臨時休業した店舗が多かったことなどが影響。衣料は、大半の事業者が3月中旬から店舗を閉鎖したことで、深刻な売上減となっており、2020年末までにその小売店の閉鎖数は全米で最大2万5,000店に達する可能性がある
・13業種中11業種の売上高が減少する中で、無店舗小売り(2.1%増)や食品・飲料(1.2%増)の売上は増加
⇒無店舗小売等の売上増は、自宅待機令下でのオンライン消費の増大や飲食料品の買いだめが影響としたものと分析されています。なお、アマゾンが4月30日に発表した2020年第1四半期決算の売上高は、前年同期比26%増の755億ドルの大幅増加でした。
・食料品宅配代行サービス業のインスタカートは、3月15日時点の過去3日平均のモバイルアプリダウンロード数が、前月同日比3.2倍の約4万件と急増
⇒当初は急激な需要の高まりに配達能力が不足していましたが、4月には新システム(2週間先の事前注文対応や納期短縮)を導入して、需要の拡大に成功しています。
図:2020年4月の小売売上高の2019年12月比業種別寄与度
出展:上記JETROサイトより
・米国の小売り最大手のウォルマートは、第1四半期(2~4月)の既存店売上高が前年同期比10%増となり、ほぼ20年ぶりの高い伸びを記録。特にネット販売の売上高が74%増と好調で、前四半期の35%増に比べ、急拡大した。
⇒同社は実店舗を維持しつつ、ネット注文された商品の宅配サービスの強化、商品を店舗の駐車場で車から降りることなく受け取れるサービスの実施、積極的なオムニチャネル(顧客等との接点を作り販売促進するための経路)化とデジタル化を推進してきました。
その結果、自宅待機令が発令された3月には、そうした宅配サービス等のサービスの利用者数が4倍に伸び、新規顧客の開拓にも貢献したと見られているのです。このように無店舗経営に共通する要素が消費者に受け入れられていることが窺えます。
●無店舗型ビジネスと関わりが深いEC市場の状況
経済産業省のWEBサイトの「電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」によると、
・令和3年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、20.7兆円(前年19.3兆円、前々年19.4兆円、前年比7.35%増)に拡大
・令和2年の日本国内のBtoB-EC(企業間電子商取引)市場規模は372.7兆円(前年334.9兆年、前々年353.0兆円、前年比11.3%増)に増加
と公表されています。
BtoC-EC市場規模の経年推移(単位:億円)
上記資料の通り日本のBtoC-EC市場規模は2013年より右肩上がりで増大しており、2020年は若干減少したものの2021年には2019年の水準を超えた増加を見せました。デジタル分野の対前度比の伸びが12.38%と伸びが最大ですが、物販系分野の伸びも8.61%と大きいです。
・物販系分野のBtoC-EC市場規模では、「食品、飲料、酒類」(2兆5,199億円)、「生活家電・AV機器・PC・周辺機器等」(2兆4,584億円)、「衣類・服装雑貨等」(2兆4,279億円)、「生活雑貨、家具、インテリア」(2兆2,752億円)の割合が大きく、これらの上位4カテゴリー合計が物販系分野の73%を占める
・令和3年は前年に比べ消費者の間で徐々に外出機会が回復したにも関わらず、物販系分野のBtoC-EC市場規模が引き続き増加
⇒この状況は、ECの利用が消費者の間で徐々に定着しつつあると判断できます。また、令和3年の物販系分野のBtoC-EC市場規模が令和2年に比べると伸びが鈍化しているものの、国内の個人消費の物品購入が概ね横ばいで推移している点から、物販系分野のBtoC-EC市場規模の成長率は高いと分析されているのです。
上記のようなEC市場の拡大傾向や消費者のEC利用の一般化は、ECの活用が重要となる無店舗型ビジネスにとっては、その成長を予想させる判断材料になるのではないでしょうか。
1-2 無店舗型ビジネスとは
ここでは無店舗型ビジネスの内容を説明します。
「無店舗型ビジネス」の制度的な定義はないですが、「無店舗」で行っている事業を「無店舗型ビジネス」として扱ってよいでしょう。なお、日本標準産業分類(平成25年10月改定)の分類では、大分類「I 卸売業,小売業」の中分類「61」として「無店舗小売業」があり、以下のような小分類が規定されています。
・610:「管理,補助的経済活動を行う事業所(無店舗小売業)」
たとえば、その細分類の6109は、「同一企業の他事業所において,輸送,清掃,修理・整備,保安等の支援業務を提供する事業所」です。
・611:「通信販売・訪問販売小売業」
611の細分類には、無店舗の「各種商品小売」「織物・衣服・身の回り品小売」「飲食料品小売」「機械器具小売」「その他の小売」が含まれます。具体的には、無店舗のカタログによる販売小売業、インターネット通販小売業、医薬品配置小売業・訪問販売による小売業・化粧品訪問販売小売業、などです。
・612:「自動販売機による小売業」
612は「店舗を持たず,自動販売機により商品を小売する事業所」ですが、店舗を持つ小売事業所の自動販売機による販売は対象にされません。
・619:「無店舗小売業(その他の小売)」
619(9)は「他に分類されないその他の無店舗により小売する事業所」のことで、「無店舗により、家具、什器、化粧品、書籍、文房具、時計、楽器、スポーツ用品など他に分類されないその他の商品を小売りする事業所」とされています。
上記分類の「無店舗小売業」は主に商品を無店舗で提供する業態が対象となっていますが、6109のように支援業務を提供する事務所も含まれます。こうした点も含めて「無店舗型ビジネス」とは、無店舗により商品やサービスなどを提供する事業と考えてよいでしょう。
1-3 無店舗型ビジネスのメリット・デメリット
無店舗型ビジネスには、どのようなプラス面とマイナス面があるのか、を説明します。
1)プラス面
●初期投資・開業資金の低さ
店舗等の施設を持たないビジネスを始める場合、初期投資額を抑え開業資金の金額を少なくすることができるため、資金にゆとりのない起業家には無店舗経営は有効です。
店舗等を要する事業の場合、店舗等に高額な資金が必要となるため、起業家にとっては開業での障害になり得ます。店舗等にかかる資金を自己資金で賄うことができない場合、家族等・友人、金融機関、ベンチャーキャピタル(VC)、行政やクラウドファンディング(WEB上で資金を不特定多数等から調達する手段)などを通じて確保しなければなりません。
この資金調達が起業や会社設立において最大の障壁になり得ますが、無店舗なら多額の資金調達が不要となり、他の事業を推進するための別の面で活用できます。
また、初期投資が多いと経営環境の悪化の際に撤退や事業転換などへの対応が困難になりますが、無店舗経営なら柔軟に対応することが可能です。
●運営コストの低減化
店舗等を設けた場合、様々なコストが毎月発生して経営を圧迫することもあるため、無店舗である場合その負担が大幅に低減でき事業の維持並びに成長へと繋げてくれます。
たとえば、店舗等の設置のために土地や建物を借りる場合、毎月その賃料が負担になるはずです。また、店舗等での事業を行うには毎月に水道光熱費も発生するでしょう。
ほかにもセキュリティ、クリーングやメンテナンスなどの費用も発生するはずです。こうしたコストは1点当たりでは少額であっても、全体では軽視できない金額になることもあります。
この運営コストは毎月の利益を減少させ、経営を圧迫するケースも少なくありません。しかし、無店舗経営ならこうした運営コストを低減化でき、健全な財政の維持に貢献してくれます。
●商圏の拡大化
店舗等を保有するビジネスでは、そこへお客が足を運ぶという地理的範囲の「商圏」が生まれ、それが事業の成否に影響しますが、無店舗なら店舗の商圏という制約を受けません。
顧客は徒歩、自転車、自動車や電車等を利用して目的の店舗等へ足を運びますが、その利用する手段よって自ずと店舗等の商圏が定まり、それがビジネス上の制約になります。従って、商圏が狭いよりは広い方がビジネスとしての可能性が高く、発展する余地が大きいのです。
無店舗型ビジネスなら店舗型の商圏の概念は当てはまらず、広範囲の設定もできます。特にインターネットを利用したビジネスなら国内のみならず海外を対象としたビジネスが可能であり、そのビジネスの可能性は絶大です。
●ターゲットの多様化
無店舗型ビジネスなら商圏が広まるため、その分多様なターゲットを対象にでき、事業の拡大もしやすくなります。ビジネスで成功するにはターゲットに合わせた商品・サービスを提供することが重要となりますが、ターゲットが少ない、限られるという状況ではビジネスの発展性は大きくありません。
無店舗型のように商圏が広く多様なターゲットを対象にできるなら、自社の経営資源に合わせてその対象範囲を広げていく、事業を拡大・発展させていくことが可能となるのです。
●ビジネスの自由度の高さ
店舗型ビジネスではその店舗コンセプトに合わせた商品・サービスを揃えることになるため、自ずとその自由度は制約されてしまいます。また、店舗型では営業時間も顧客や従業員の要望などを踏まえた設定となるため、それが縛りになるケースは多いですが、無店舗型なら柔軟に対応しやすくなるのです。
また、店舗オペレーションについても、実店舗等ではその物理面(空間、設備・什器等)での制約があり、店頭の在庫量や陳列量のほか、展示品やPOPなども限られてしまいます。
一方、無店舗型ならその内容を自由に設計することが可能であり、自分が望む店舗運営を実現できるとともに、改善のための変更も容易です。
●新型コロナへの感染対策
無店舗経営の場合、店舗型のように人と接する機会が少なくなるため、感染症が広まる状況下でも経営への影響は小さくなります。コロナが長引く現状では無店舗経営は有利な形態と言えるでしょう。
2)マイナス面
無店舗型では以下のようなマイナス面もあります。
●店舗等自体によるPR効果の消失
店舗型ビジネスでは店舗等自体が一定のPR効果を発揮するため、集客に役立ちますが、無店舗型の場合はその効果は得られません。つまり、無店舗型では自社で適切な広告宣伝等を行う必要があるのです。
もちろん店舗型でも広告宣伝は必要ですが、顧客はその店の前を通れば実際に目にすることができ、魅力を感じれば自ら入店もします。一方、無店舗型では、そうした顧客の行動は期待できないため、自社で顧客に自社の存在を認知させ来店してもらえるような誘導が必要となってくるのです。
たとえば、インターネット上で自社の存在を知ってもらうための広告、情報発信といった取組が無店舗型では特に重要になってきます。
●説明など情報伝達力の不足
訪問などを除けば無店舗型では商品・サービスの取扱に関して、お客に直にアピールや説明などができないため、その魅力や取扱上の注意点などを十分に伝えることが容易ではありません。
そのことからお客に商品等の良さが伝わらず購入に至らないケースも増える可能性があります。また、チラシ・パンフレットやWEB上の説明などでは注意点などを説明しにくいこともあり、それが購入後のクレームとなるケースも少なくないです。これらの情報伝達力の不足が事業の成長を阻むこともあります。
●関係性の構築に工夫が必要
店舗型では経営者や従業員が顧客と対面しながら商品等の説明や相談などの対応を行い、人間関係を作りながら顧客を抱え込んでいくという手段がとりやすいですが、無店舗型ではそれが容易ではありません。
店舗等ではお客と相対しながら彼らの要望や悩みなどを聞き、それを解決するための提案として適切な商品等を案内することで信頼を得て購入に結び付けることができます。そしてその信頼性がお客との関係を確かなものとし、固定客へと昇華させることができるのです。
こうした関係構築は無店舗型でも必要ですが、直接的にお客と接しないため、その実現が容易ではありません。ホームページ、SNSなどによるWEBコミュニケーションや訪問など様々な方法を駆使して関係を構築することが必要となります。
●インターネット販売等での競争激化
無店舗型、店舗型を問わず、どの業種・業態でもインターネット販売に力が入れられ、その参入者は増える一方となっていて競争は厳しいです。その中においてインターネット上で自社をターゲットに発見してもらい、その数多存在するライバル等の中から選好してもらわなければなりません。
そのためには店舗型ビジネスなどで見られる通常のマーケティングのほか、WEBマーケティングを活用したビジネス展開も必要になってきます。
2 無店舗型ビジネスの種類と特徴
ここでは無店舗型ビジネスのタイプとその特徴について説明しましょう。
2-1 無店舗型ビジネスのタイプ
無店舗型ビジネスは、「移動」「インターネット」「電話」「訪問(出張)」といった形態・手段により商品・サービスを提供する事業になります。具体的には以下のようなビジネスが多く見られます。
1)移動型
このタイプは、自動車などを利用してターゲットがいる場所へ移動した上で商品・サービスを提供する形態です。代表的なビジネスとしては、キッチンカーや弁当販売などが挙げられるでしょう。
会社員を集客しやすいオフィス街、学生が対象となる大学等の教育機関、買物客が多い商業集積、入場者が集まるイベント会場、様々な人が出入りする公園、などの一角で料理や食品等を提供するケースが多く見かけられます。
和食・洋食・中華などの各種料理、カフェ等での軽食やコーヒーなどの飲料、夏のアイスクリーム・かき氷、冬の焼き芋、年中見られる焼き鳥、たこ焼き・お好み焼き、回転焼き・タイ焼き、クレープ、など様々な移動販売が行われています。
また、調理は自宅等で行い、移動した場所でお弁当などを販売する形態も多いです。ほかには様々な食品・雑貨などを車で販売する「移動スーパー」などが、今過疎地域などでその価値が見直されつつあります。ほかにも、アクセサリー・雑貨やアパレルなどの販売も多いです。
2)インターネット利用型
今や無店舗型ビジネスの代表的なタイプが、このインターネット利用型と言えるでしょう。店舗等を持たず、商品やサービスの提供をインターネット上で行うのがこのインターネット利用型になります。
自社のホームページを開設し、商品やサービスをPRするページ、お客が注文するページを設定して販売するのがこの形態です。最近では商品の販売だけでなく、様々な分野のコンサルティング、受験対策等の教育支援、英会話や楽器演奏などのレッスン、など多様なサービスが提供され始めています。
特にゲームや動画等を提供するサービスは豊富で利用数は相当な規模に発展してきました。ほかにも仕事や生活で役立つアプリの提供なども多いです。
現代ではスマホなどを中心にインターネットで情報を集め、コミュニケーションを取り、買物を行い、自由な時間や余暇などを楽しむ、といった暮らし方が一般化しつつあり、インターネットを利用したビジネスは店舗の有無を問わず不可欠となっています。
3)電話利用型
このタイプは電話で商品・サービスの注文を取ってビジネスを成立させる形態です。たとえば、自社が扱う商品・サービス(高価格の商品や保険等の役務の販売など)を企業や個人に電話でアピール・説明するなどして受注するといったタイプになります。
インターネットを利用したビジネスが現在のように普及する前は、この電話による受注方法が無店舗型ビジネスの代表的な方法の1つでしたが、今はインターネット利用に置き換わりつつあります。
ただし、直接的に面談せず言葉を交わさずに購買するインターネット通販では、購入者は十分な説明を聞くことが難しく、売手も購入者の様子を見ながら、言葉を聞きながら説得することができないため、電話によるアピールや説得のほうが有効な場合も少なくありません。
なお、電話だけで受注活動するタイプよりも電話を主としながら必要に応じて訪問して受注するタイプも多いです。
4)訪問(出張)型
企業や個人宅などへ訪問して商品・サービスを提供するビジネスがこのタイプになります。移動型と類似していますが、特定の施設や場所などへ行くのではなく企業等や個人のところへ行くのが訪問・出張型です。
具体的には、業務代行、営業代行、デリバリーサービス、クリーニング、家事代行、保安・警備、修理・保全、整理・整頓、調理、買物代行、学習・習い事支援、理容、などが代表的な仕事になります。医療関係では、健康診断、訪問の診療や整骨・マッサージ、などが挙げられるでしょう。
なお、これらの中には一定の機器・設備・道具などを自動車で運び使用するタイプも少なくありません。また、こうしたタイプの中には店舗型と同様に事業に関する免許などが必要となる場合もあるため、開業する場合には事前の確認が必要です。
2-2 国内電子商取引市場の業種と状況
先の経済産業省の国内電子商取引市場の調査では、同市場を物販系分野、サービス系分野、デジタル系分野の3分野に分け、各々で以下のように業種を分類しています。
●物販系分野
食品、飲料、酒類
生活家電、AV機器、PC・周辺機器等
書籍、映像・音楽ソフト
化粧品、医薬品
生活雑貨、家具、インテリア
衣類・服装雑貨等
自動車、自動二輪車、パーツ等
その他
上記8分類の中で市場規模が最も大きいのは、「食品、飲料、酒類」(2兆5,199億円)で、次いで「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」(2兆4,584億円)、「衣類・服装雑貨等」(2兆4,279億円)、「生活雑貨、家具、インテリア」(2兆2,752億円)が続き、これらの上位4カテゴリーの合計は物販系分野の73%です。
全ての商取引金額(商取引市場規模)に対する、電子商取引市場規模の割合をEC化率とした場合、「書籍、映像・音楽ソフト」(46.20%)、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」(38.13%)、「生活雑貨、家具、インテリア」(28.25%)が高くなっています。
つまり、上記の分野ではEC化進んでおり、消費者がECをより受け入れている分野であり、無店舗型ビジネスに適している分野と解釈できる一方、その分競争も厳しくなるという可能性に注意が必要です。
●サービス系分野
旅行サービス
飲食サービス
チケット販売
金融サービス
理美容サービス
フードデリバリーサービス
その他(医療、保険、住居関連、教育等)
上記の分類の中では「旅行サービス」(1兆4,003億円)が最大の割合(約3割)を占めます。令和2年は新型コロナの影響で「旅行サービス」、「飲食サービス」、「チケット販売」の市場規模が前年比で大きく縮小しましたが、令和3年は「チケット販売」の市場規模が回復に転じました。
●デジタル系分野
電子出版(電子書籍・電子雑誌)
有料音楽配信
有料動画配信
オンラインゲーム
その他
「オンラインゲーム」(1兆6,127億円)が上記の中で最大の割合(6割弱)を占めます。令和2年の伸び率より鈍化したものの、巣ごもり需要を背景に「オンラインゲーム」、「有料動画配信」、「電子出版(電子書籍・電子雑誌)」は市場が拡大しました。
新型コロナが収束するにつれ、上記の分野の伸びは鈍化する可能性があるものの、こうしたデジタル系分野の利用が消費者に定着しつつあり安定した需要が期待できそうです。そのため同分野は無店舗型ビジネスにとってもして有望であると言えるでしょう。
3 無店舗型ビジネスの事例と成功のポイント
ここでは無店舗型ビジネスの事例を紹介し、その成功のポイントなどを説明します。
3-1 行列ができるキッチンカー
●企業概要
企業名(屋号):TOKYO PAELLA(トーキョーパエリア)
代表者・所在地:吉沢章一(移動販売)
設立日等:2006年に独立開業。キッチンカーによる営業経験は10年以上
事業内容:キッチンカーによるパエリアの販売
●無店舗型ビジネスのタイプ
キッチンカーによるパエリアの販売。
●同社の無店舗型ビジネスの特徴
TOKYO PAELLAは、多様なレストランで腕を磨き、パエリアの本場スペインのバレンシアで料理長も経験してきた店主(吉沢氏)が始めたパエリア専門のキッチンカーです。現在は「ネオ屋台村」や「TLUNCH」が主催する場所などに出店しています。
パエリアとともにタパス(前菜)やスープをセットにしたランチメニューが基本のサービスです。味付けはバレンシア風ですが、日本人の好みに合うように調整されており、具材は肉、魚介、イカ墨などが週毎に変わり飽きない工夫が施されています。
満足感の得られるボリュームで提供されるランチの価格は750円~1000円程度とサラリーマンや学生などが気軽に求められる価格帯です。キッチンカーには屋号の「TOKYO PAELLA」が記されていますが、営業時には派手なPOPやのぼりなどはなく最低限必要なメニューなどが設置されています。
また、お店のホームページやSNS等での発信はないですが、様々なメディアからの取材などがありその情報がWEB上に発信されています。
●成功のポイント
・経営者の強みを活かした経営
起業してビジネスで成功するには経営者の強みを最大限に生かすことが不可欠ですが、同店の場合は経営者が有するパエリア料理や料理人として経験の強みがキッチンカー経営に活かされています。
吉沢氏は、日本食や洋食などで料理人としての経験を積み、パエリアの本場であるスペインのお店でも料理長を務めました。つまり、同氏は本場のパエリアを調理できるだけでなく日本人好み(ターゲットの好み)にアレンジできるなどの腕も持ち合わせているのです。
・試行錯誤の努力の継続
パエリアをキッチンカーで調理するのは容易ではなく、味を含めた品質を安定させるのに何年もの歳月がかかっており、その間は試行錯誤で業務(調理を含むオペレーション等)の改善に取り組まれてきました。
キッチンカーは店舗での調理と比べ条件が厳しくなる傾向があるため、満足できる料理を提供するのに予想外の時間がかかることもありますが、そうした状況に負けずに努力を積み重ねることが行列のできるお店へと繋がっています。
・常連客の獲得
上記のような取組で本物のパエリアのランチセットがお手軽価格で購入できるため、同店は常連客を少しずつ獲得することに成功しました。出店が流動的なキッチンカーがお客を安定して確保するには常連客の確保が不可欠であり、その熱心なファンが行列のできるキッチンカーへと結びつきます。
また、新型コロナの感染拡大はキッチンカーの営業に追い風となり、常連客の増大には有利に働いたでしょう。
・メディアによる取材という広告宣伝効果
行列が新たなお客を集め、その状況が各種のメディア等からの取材を呼び込みました。そして、メディアの同店に関する情報発信が同店の広告宣伝として役立っているのです。
一般的に移動販売ではホームページやSNS等で情報発信やPRをして顧客を集めることが必要ですが、同店の場合は各種メディアがその役割を果たしてくれています。
3-2 SNSを活用したレディスアパレルEC
●企業概要
企業名:株式会社my clozette
所在地:大阪府大阪市西区新町1丁目
代表者・設立日等:中島千晶
事業内容:レディスアパレル等の販売
●無店舗型ビジネスのタイプ
同社は、インスタグラムやFacebookなどのSNSを発信源としてEC事業を営んでいます。同社の事業は無店舗で商品をインターネット上で販売するEC事業の典型ですが、現在は上記所在地に店舗も構えています。
●同社の無店舗型ビジネスの特徴
代表者の中島氏はアフィリエイトの仕事で起業した後、韓国からのアパレルの輸入販売からオリジナル商品の製造販売へと進出しました。無店舗で広告を出すことなく、SNS等で商品をPRしてEC事業を成功させたのです。
ブログなどでフォロワーを集め、彼らを対象として商品・サービスの提供を始めるといった起業が多く見かけられますが、同社はその成功例と言えるでしょう。
・コンセプト
同社の事業コンセプトは、中島氏自身が「消費者として、本当に着てみたいと思えるアパレルを提供する」ことです。「本当に着てみたい」とは、デザイン性や着心地等だけでなく、お手頃価格であること、クリーニングなどメンテナンスが容易であること、などが含まれます。
・ターゲット
同社のターゲットは、中島氏と同じような世代の、「子供が幼稚園に通い始め、自分のオシャレにも関心を向けるママ層」です。中島氏のフォロワーには、子育て世代など同じような境遇のママ層も多いため、彼女らのニーズも把握しやすく、ターゲットにすることが可能でした。
・価格
商品の価格は、ターゲットにとってお手頃価格と言える1万円未満の設定です。同社の取扱商品は原価率が50%程度となっており、お客にとっては割安感のある商品として映るでしょう。
・販売
ほとんどがEC販売ですが、同社所在地での店舗販売も行われています。また、商業施設に期間限定のショップ(展示会)を開設するケースも多いです。展示会では子供も楽しめるエンターテインメント性などが考慮されています。
広告は主にSNSやホームページの案内になります。具体的には、インスタグラムなどのSNSで商品を紹介する形態です。中島氏のフォロワーに受け入れやすい素朴で温かみのある画像の投稿などが共感を呼んでいます。
・商品
中島氏がデザインしたものを日本の生地・縫製で仕上げる形態がとられています。同社の商品は、他社に設計・生産を丸投げして作るようなタイプではありません。
●成功のポイント
・フォロワーの顧客化
SNSをお客とのコミュニケーション手段や広告手段とする場合、フォロワーをお客にできるかどうかが成否に直結しますが、同社はそれに成功しました。フォロワーのニーズを聞き取ったり、提案した内容の反応を確認したりして、商品化・サービス化することが重要です。
また、フォロワーの数が多くても、自分の提案する商品等に共感を持ってくれる人が少なければ事業として成立しません。しかし、中島氏には共感してくれるフォロワーの数が多く事業が軌道に乗りました。
関係が密なフォロワーはお客になってくれる可能性が高く、商品等を購入してくれる確率も高くなります。
・自身の思い込みとニーズのマッチング
同社の場合、「中島氏自身が本当に欲しいと思える商品」と「ターゲットも欲しいと思う商品」の内容が一致しているため、同社の商品はターゲットに受け入れられています。デザイン性、着心地、メンテナンスや価格など、購買を決定づける要素とターゲットのニーズがマッチしているのです。
・購入意欲をそそる販売
「初回限定生産100着」といった販売意欲を高める販売方法を同社は取っています。顧客に商品の希少性を訴求して購入意欲を促進する方法はWEB販売では有効です。
また、他の施設で展示会などを適宜開催し「実際に目にして触れる」という機会を設け、EC利用に不安のファンを取り込もうとする販売方法も取られています。
3-3 完全出張型サービスのリフォーム店
●企業概要
企業名:株式会社SKホームやまと
代表者・所在地:鹿嶋鯉太郎、神奈川県大和市中央林間
設立日等:2001年6月 創業
事業内容:住宅塗装/防水工事/内装工事/外構工事/火災保険申請
●無店舗型ビジネスのタイプ
同社は、店舗を保有せず完全出張型でリフォーム等の工事を提供する事業者です。インターネットから問い合せや相談・要望を受け、お客のもとに訪問・現地調査して、塗装やリフォーム工事等を提案するといったビジネススタイルが取られています。
●同社の無店舗型ビジネスの特徴
・「ハイクオリティーを安く提供する」というポリシー
高品質な工事をお客に提供するために、無店舗をはじめ、営業要員なし、チラシ配りなしなど、販売にかかるコストを極力抑えた経営に同社は取り組んでいます。同社の宣伝方法は、SNSやお客による口コミ、利用者等の紹介などです。
・無店舗でも安心感のある対応
お客が心配しがちな工事代金については、「一式○○円」といった工事代金の見積りではなく使用材料や工事内容等の仕様書が添付された見積りで、追加料金もない安心しやすい「コミコミ価格」の提示となっています。
また、施行等によるトラブルや保険適合などに対しての相談や助言が有資格者などの専門家等により行われており、お客の不安を取り除く対応が重視されているのです。
・「しつこい営業(セールス)」はなし
建築関連の工事の場合、施工業者の営業が相談者などに何度も訪問して受注を迫るといった「しつこい営業」がよく見かけられますが、同社ではそうした対応は取られていません。
お客からの相談や依頼などがあれば訪問して真剣に対応されますが、押しかけて契約を迫るというような強引な営業をしないのが同社のポリシーです。
●成功のポイント
・地域に根差した地道な経営
同社は神奈川県大和市を中心として、20年以上に渡り地域に密着してリフォーム工事等に携わってきました。その積み上げてきた信頼による口コミ等の効果でお客を集めることが可能となっており、完全出張型サービスの業態を実現しているのです。
営業マンを配置し、訪問や電話等による積極的な営業スタイルを取ったり、チラシなどの広告を多数打ったりしたほうが、受注の増大には有効ですが、同社は営業コストをかけずに信頼で受注できるスタイルを貫いています。
なお、積極的な営業スタイルは活用の仕方次第では有効です。ただし、受注案件を増やして事業を拡大させるには複数の地域に店舗を構えることも必要となります。その場合には事業規模に合わせて作業者を含む施工体制の増強なども整備しなければなりません。
また、こうした対応を進めると全体のコストが増加するため、いかに各業務を効率化していくかという課題にも向き合う必要性が生じます。
・信頼を得る業務システム
建築やリフォームの工事にかかる費用は高額になるほか、工事の仕上がりなどでトラブルになることも多いため、お客は信頼できる施工業者を選びたいという心理が働きます。
無店舗の場合、店舗がないという点でお客の不安が生じかねませんが、相談から施工後までお客が安心できるシステム(専門家による診断・提案、有資格者等によるサポート・施工、コミコミ価格の見積り、高品質で低価格、長期保証、しつこい営業なし)を用意して、無店舗というマイナス面がカバーされているのです。
逆に無店舗等によるコスト削減が良好なコストパフォーマンスに結び付いているというプラス面をアピールし、お客の信頼に繋げています。
4 無店舗型ビジネスの進め方の重要点や注意点
無店舗型ビジネスの経営方法も店舗型のそれと基本の部分は同じで、各々の業種・業態で重要とされる要素は大きな違いはありません。ただし、無店舗経営には「無店舗」という性質があり、それによるメリット・デメリットなどが影響するため、その点を踏まえた仕組みの構築が不可欠です。
従って、無店舗の長所を強みとし活かし、短所を弱みとして克服するような取組を進めることが重要になります。
4-1 無店舗経営のビジネスモデルの構築
ビジネスの成功はそのビジネスモデルの内容に大きく依存しますが、それは無店舗型ビジネスでも同様です。無店舗経営では、業種・業態の点と無店舗である点を踏まえた適切なモデルを作ることが成功に繋がります。
たとえば、店舗を構えて営む飲食店には、どのような客層をターゲットとして、彼らが求め、ライバルとの競争にも勝てるメニュー(調理品)や飲料、価格、サービス(店舗オペレーション等)などを提供できるようにする「ビジネスの仕組み」を作らねばなりません。
そして、無店舗経営では、そうしたモデルに無店舗として重要となる要素を加味・強化すること、つまり、その特徴も十分に考慮してビジネスシステムに組み込むことが求められるのです。
たとえば、事例で挙げたキッチンカーの経営では一般的に以下のような点が重要とされています。
・移動販売の飲食店として売れるメニューや商材の選定(週単位のメニューの内容や具材等の変更、季節の旬の材料や特定地域の名物素材の使用、等)
・出店可能で集客しやすい場所の確保(複数の箇所の確保)
・販促物の工夫(お客の目を引く車の外観、POPやメニューの掲示、等)
・常連客を獲得するこだわり(お客との関係構築、本物の価値の提供や飽きない工夫、等)
・SNSやホームページなどWEB上の情報発信による広告やコミュニケーション
・調理を含むオペレーションの工夫(キッチンカーという施設での効率的な運用)と原価管理(実店舗とは異なる製造原価や経費の把握とコントロール)
・ライバルとの差別化(周囲の実店舗や他のキッチンカー等との差別化)
このように無店舗経営の場合、各業種・業態で重要な仕組みとなる要素があるため、経営者自身の店舗コンセプト(こだわり)や経営資源(調理スキル・経験、資金、人脈、等)を踏まえて、取り入れることが成功するために必要です。
4-2 無店舗の長所を活かしたビジネスシステム
ビジネスモデルの実現には、モデルに沿った具体的な仕組みを決定し整備しなければなりません。その際に無店舗経営では、その長所を反映させることが特に重要になります。
たとえば、キッチンカーの場合、実店舗を設置するよりは初期投資・開業資金および開業期間を少なくすることが可能ですが、その分の資金を材料の調達ルートの確保、WEBでの情報発信、出店場所の探索などに資金や時間をあてることが重要です。
また、実店舗より運営コストが低くなりやすいため、その分を販売価格に反映して「価値の高い材料を使って手頃な価格」で提供するという差別化戦略を取ることも可能になります。
キッチンカーは複数の場所に出店でき実店舗のようにその決まった立地条件に依存しなくて済むため、より自店にマッチした場所を選べるほか商圏を拡大させることも可能です。
こうした無店舗型ビジネスならではの長所を活かしてモデルの内容をより充実したシステムに昇華しましょう。
4-3 無店舗の短所を克服するビジネスシステム
自社のビジネスモデルと整合させつつ、無店舗型ビジネスの短所が生じないようにビジネスシステムを設計しなくてはなりません。たとえば、無店舗の場合、店舗等の施設自体がPR効果をもたらしたり、信頼性を高めたりする効果が得られないため、それを補う手立ても必要になります。
広告宣伝などの販売促進の面では、ターゲットの特性などを考慮しつつ、WEBやリアル(営業マン等による)での広告宣伝活動に重点を置くことも必要です。自社の無店舗型ビジネスがターゲットに認知され、そのビジネスが信頼されるように情報発信することが求められます。
具体的には、SNSやホームページ上で自社のビジネス上のこだわりや信条などのほか、定期的に商品・サービスを紹介する、商品等のお役立ち情報を発信する、お客等の悩みの相談を受ける、といった対応が必要です。
ほかにもセミナーや展示会などを特定の施設で開催したり、お客へ訪問したりして、商品等をPRする、疑問等に応える、といった対応も重要になるでしょう。無店舗経営は実店舗等のようにお客に直接対応しにくいという不利な面があるため、それをカバーする取組をシステムに取り込むことが重要です。
4-4 無店舗型ビジネスの計画化
店舗の有無に関係なくビジネスを成功させる重要な点の1つとして、事業の計画化が挙げられます。起業者の中には事業計画の作成に否定的な方も多いですが、事業計画は事業をできるだけ早く効率的に成功するために必要なツールで、策定行為は不可欠な作業になるのです。
たとえば、船や飛行機などでは安全に目的地へ到達できるように航路や飛行経路があり、運航計画が定まっています。ビジネスでもそのゴールに到達するための計画が必要なのです。
ビジネスモデルを具体的な仕組みのシステムとして仕上げ、それを、いつ、どこで、だれが、何を、何故(何のために)、どのようにするかを明確にすることが求められます。
あまり細かな内容まで規定するのは負担が大きいため、端的にまとめる、重要な事項に絞って作成するといった取組も必要です。こうした計画書があることで、やるべきことを忘れずに取り組むことができ、結果を振り返ることで改善や新たな取組の必要性などが検討できます。
つまり、計画書はビジネスのスケジュールであり、スコアカードでにもなり、適正な経営を実現するためのマネジメントツールとして活用できるのです。
4-5 会社設立など成長後の注意点
上記のような計画を策定し適切に実行すれば、事業を軌道に乗せ成長へと進むことが期待できますが、その成長の先に限界が生じた場合これまでは違った取組が求められます。
たとえば、創業者一人やその家族などでコンパクトな無店舗経営を行い一定の成長を果たした場合、会社設立などして事業を拡大するといった検討も必要になるはずです。
その場合、従業員を雇い、他の地域などで事業を展開していくといった方法も必要になります。従業員には業務の教育訓練などを施す必要があり、訓練後は担当地域で業務を遂行させ、管理者には彼らの業務をコントロールさせるといったマネジメントも実施しなくてはならないでしょう。
また、業種やそのビジネスモデルによっては事業拡大に多大な経営資源(機器設備や人員、お金等)が必要なることもあり、その確保や準備を計画的に進めることが重要になります。
なお、その経営資源の確保が困難な場合やそのリスクを回避したい場合などでは、自社の成功したビジネスモデルをフランチャイズチェーン(FC=自身のビジネスモデル等の使用を、対価を得るかわりに他者に許可するチェーン組織)化するという方法も有効です。
FC化の場合、事業に必要な施設、機器や従業員などは加盟する者が通常負担し、FCを主催する側の本部企業は加盟店を管理・支援するといった業務を受け持つため本部の負担は比較的小さいです。優れた無店舗型のビジネスモデルならFCとして急速に事業を拡大させることも不可能ではありません。
また、無店舗にこだわる必要はなく、必要に応じて実店舗等の施設を設けることも有効です。直接お客と接するポイントを設けることで、自社の信頼性を高め、お客との交流を深めつつ、彼らの生の声を聴けるというメリットも得られます。
もちろん常設の店舗等はもたずに定期的に同じ場所、あるいは様々な場所で期間限定の展示会、販売会、交流会などを開催するといった方法も有効です。無店舗経営を基本としながらもその限界を克服し、実店舗の有効性を取込んでいくようにすれば、無店舗型ビジネスを発展させることも困難ではないでしょう。
5 まとめ
無店舗型ビジネスは一人や少人数、小資本で実施しやすく機動性等が優れているため、経営環境の良くない状況でも起業・会社設立に有効です。ただし、無店舗経営には優れた長所がある一方、短所も少なくないため、その特徴を理解してビジネスの仕組みを作ることが重要になります。
店舗や施設を基盤として行うビジネスの種類や業態の特徴だけでなく、その無店舗経営での重要な要素を把握して自社のビジネスシステムとして仕上げることが必要です。こうしたポイントを抑えて取り組めば厳しい経営環境下でも成功の可能性を高められるため、無店舗型ビジネスも検討してみてください。