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株式会社から合同会社に組織変更するための方法〜有名な合同会社20社〜

アップル・ジャパンやアマゾン・ジャパンといった外資系大企業に続き、最近ではDMM.comが株式会社から合同会社へ組織変更するなど、いま合同会社に熱い視線が向けられています。大企業といえば株式会社と思う方も多いと思いますが、実は敢えて「合同会社」の形態を選んでいる企業が少なくありません。合同会社という名前は聞いたことがあっても、どんな特徴を持っているのかはあまり知られていません。そこで今回は、株式会社から合同会社への組織変更が増加傾向にある背景を探るとともに、実際に変更する際の手続き、合同会社に移行するメリット、合同会社に移行した有名な法人を20社ご紹介します。ぜひご参考下さい。

   

1 合同会社が注目されている背景

合同会社とは、日本版LLCとも呼ばれる会社形態の一つです。合同会社には、社員全員が有限責任を負う特徴があり、この点では株式会社と同じと言えます。また、出資者と経営者が一致するという特徴も合同会社にはあります。所有と経営が一致しているため、株主の利益や考えを優先する必要が無くなります。つまり、経営や事業に関する意思決定を迅速に行うことができる訳です。加えて、会社設立に要する費用が株式会社と比べて安く済む点も、合同会社の特徴の一つです。以上のような特徴を持っているため、合同会社は小規模な事業を法人化させたい場合に用いられるケースが多くなります

 

平成18年の会社法施行で、会社設立手続きが簡素化されるとともに、定款自治が拡大されたことで、法律の目的通り起業が促進されるとともに、経営の機動性・柔軟性が向上したと言われています。会社の各年度の設立数を見てみると、株式会社では、平成20年度の86,222件から、平成29年度が91,379件と一定の伸び率が確認できます。

 

この間の各年度においては、平成21年度から平成24年度にかけては80,000件程度で落ち着いていましたが、平成25年度に81,889件となって以降毎年度3,000件程度が増加し、平成28年度に初めて単年度の設立数9万件台(90,405件)を記録しています(法務省「商業・法人登記年次表2017年」より)。

 

一方で、「合同会社」の各年度における設立数は、同じ資料によれば、平成21年度の5,413件から平成29年度は27,270件と約5倍に達しています。特に、平成28年度は前年度より3,500件程度一気に設立件数が増加し、合同会社による起業がトレンドとなっていることを裏付けています。

 

また、合併・組織変更・種類変更による合同会社設立数は、平成29年度は160社で、平成20年度の90件から毎年10件程度着実に増えており、この傾向は今後も続くものと考えられます。後掲の株式会社と合同会社の違いにおいて詳述しますが、合同会社増加の理由としては、創業会社の場合は、設立時の初期費用及びその後のオペレーションコストの低さや機関設計の容易さなどが挙げられます。一方で、株式会社から合同会社への組織変更が増加傾向にある理由としては、シンプルな機関設計による経営にかかる意思決定の迅速さや、経営の自由度の高さにあると考えられます。

 

 

2 株式会社・合同会社の違い

国内の会社の形態は、平成18年5月の会社法施行によって、「株式会社」、「合同会社」、「合名会社」、「合資会社」の4種類となり、同時に、有限会社法が廃止されたことで、従来の有限会社は、法律上の性格は株式会社ながら「特例有限会社」と呼ばれています。これは、有限会社という商号の使用を義務付けられる(会社法関係法整備法第3条第1項)とともに、従来の有限会社特有の制度を利用し続けることができるという特例が適用されているからです。

 

「合同会社」、「合名会社」、「合資会社」は持分会社と呼ばれ、出資者である社員が業務執行を担う点で株式会社とその性格を異にしています。また、合名会社と合資会社の社員は無限責任社員を必要とするのに対し、合同会社は株式会社と同様に出資者の有限責任である点に大きな特徴があります。

 

有限責任とは、会社が倒産した際に、出資額を上限として責任を負うことを言い、仮に倒産して資本金を超える負債が残ったとき、自分の出資金は戻りませんが、それ以上の責任が追及されることはありません。

 

一方で、無限責任は、自分の出資金の額にかかわらず、会社の全ての負債に責任を持たなければなりません。この出資者責任という視点で捉えると、合同会社と株式会社は有限責任であるという点で共通項が見えます。また、これとあわせ、合同会社は税制面で株式会社と同様の扱いであるという点も、後述する、株式会社から合同会社への組織変更の壁を低くしていると考えられます。
では、株式会社と合同会社にはどのような違いがあるのでしょう。下記の組織比較表で確認してみましょう。

 

《株式会社と合同会社の組織比較表》

比較項目 株式会社 合同会社
出資者の名称 株主 社員
使用義務のある商号 株式会社(会社法第6条第2項) 合同会社(会社法第6条第2項)
会社所有と経営の関係及び機関設計 所有と経営は分離 株主総会及び取締役は必置機関で、取締役・執行役員が業務を執行する 所有と経営は一致している(原則)
社員(法人含む)自らが経営の意思決定と業務執行を担う
最高意思決定 株主総会 社員総会
代表者 代表取締役 代表社員
株式・資本の公開 任意(上場・非上場) 株式ではないため該当しない
最低資本金の額 1円以上 1円以上
最低役員数 取締役1名 社員(出資者)1名
役員任期 株式譲渡制限がある場合は最長10年、そうでない場合は2年 社員の任期なし(役員の登記や変更の費用が不要。
設立時資本金出資者 発起人が出資額に応じて「株主」となる 出資者全員が「社員」の立場(従業員と違う概念なので注意)
出資者(株主)責任 有限責任 有限責任
会計監査人監査 (注1)
大会社及び委員会等設置会社は必要(会社法第328条、同第327条第5項)
 
決算公告 必要 不要
現物出資に係る検査役 必要 不要
定款自治の範囲 合同会社に比して、狭い 広い
定款の変更 株主総会議決事項(原則、出席株主議決権の3分の2以上必要) 原則、社員全員の一致で決する
持分譲渡 原則として自由だが、定款で譲渡制限を設けることは可能 原則、社員全員の同意を要する
税制面の違い 合同会社との相違はない。 (注2)
国内法人としての違いはない

(注1) 大会社の定義
最終事業年度に係る貸借対照表の資本金が5億円以上、または、同負債の部の合計額が200億円以上(たとえ資本金が5億円未満であったとしても)である株式会社をいいます(会社法第2条第6項)。

(注2)合同会社が米国の会社の子会社の場合、米国税制の要件に合えば、合同会社の出資者(構成員)である米国の会社の所得として課税(パス・スルー課税)され、税率の違いや業績次第(赤字の場合は通算して利益が減る)では、米国の会社にとって税制上有利に働く場合があります。外資の子会社ではあっても日本の合同会社は普通に法人税が課税され、何らの税制上のメリットもないのですが、外資系の会社に合同会社への組織変更が目立つのは、このような親会社の事情も影響しているのかもしれません。

 

 

3 組織変更するメリット・デメリット

外資系のメリットは別として、日本資本の株式会社が合同会社に組織変更することのメリットとデメリットを整理します。前項で示した組織比較表と関連する事項もありますので、合同会社への移行を検討している方は、下記のメリットを是非ご参考にしてください。

 

 

 

3-1 決算公告の義務がない

株式会社では義務とされている決算公告が、合同会社では不要となる点が大きなメリットです。決算公告とは、あらかじめ定款によって定めた方法により、貸借対照表や損益計算書などの決算書を公表する手続きを指します。株式会社における決算公告は、一般的に定時株主総会が終了した後に行われます。なお決算公告については、官報や電子広告などの方法で実施します。

 

合同会社ではこの決算公告の義務がないため、決算公告の掲載に要する費用(一般的には約6万円かかる)をかけずに済むようになります。スモールビジネスを行う方にとっては、年間6万円程度の費用を削減できる点は、魅力的なメリットに思えるでしょう。

 

また、外部に決算情報を公表しなくて済む点も、場合によってはメリットとなるでしょう。決算情報を公表すると、自社の財務状況が外部に筒抜けになってしまいます。業績が低迷している時でも公表する必要があるため、自社の信用力やブランド力の低下を招く恐れがあります。合同会社ではこの心配がないため、安心して事業に取り組むことができます。

 

 

 

3-2 剰余金の分配に関して制限がない

合同会社に移行する二つ目のメリットは、剰余金の分配に関して制限がない点です。剰余金とは簡単にいうと、営業活動によって得た利益を意味します。株式会社が剰余金の分配を行う場合、その都度株主総会による決議を経た上で、具体的な内容を決定する必要があります。加えて剰余金の分配比率は、出資金の比率と同等である必要もあります。

 

つまり株式会社の場合、業績にどれほど貢献しようがしまいが、分配する出資金の比率を変動させることはできません。極端な話ですが、出資額が多いほど偉いという話になり、社員にとっては業績向上に貢献しようというインセンティブが働きにくいです。

 

一方で合同会社の場合、自由に剰余金の分配比率を決定することができます。たとえば、ほとんど出資はしていないものの業績向上に大きく貢献してくれた社員に対して、より多くの利益を配当することができます。社員の頑張りに応じて利益配分を決定できるため、社員の貢献意欲を高め、全社的な業績向上に繋がる可能性もあります。

 

このように剰余金の分配比率を柔軟に決定できる点は、合同会社に移行する魅力的なメリットの一つと言えます。

 

 

 

3-3 役員任期を更新する必要がない

合同会社に移行する三つ目のメリットは、合同会社にすると原則的に役員の任期を更新する必要が無くなる点です。株式会社では、法律によって取締役と監査役の任期が定められています。基本的に取締役の任期は2年、監査役の任期は4年となっており、定款に定めることで一定の年数だけ伸ばすことができます。

 

一方で合同会社では、役員任期の更新手続きが不要になります。つまり合同会社に移行することで、役員の任期延長に要する費用や手間(労力)を削減できるようになります。本業が忙しい会社などにとっては、この点は合同会社に移行する大きなメリットとなるかもしれません。

 

 

 

3-4 意思決定を迅速に行いやすい

意思決定を迅速に行いやすくなる点も、合同会社に移行するメリットです。事業規模が大きい株式会社ほど、出資者と経営者がそれぞれ別であるケースが多いです。重要な経営判断を実行するためには、株式総会により多数の出資者から同意を得る必要があります。

 

つまり重要な経営施策を実践しようとする度に、出資者の同意を得る必要があるため、時間がかかってしまうという訳です。加えて、経営者の意向を必ずしも実施できるとは限りません。出資者の考え次第では、経営者の立場から追い出される可能性すらあります。このように株式会社では、組織規模が大きくなればなるほど(出資者が分散するほど)、意思決定が遅くなったり、経営陣の立場が弱くなっていきます。

 

しかし合同会社では出資者と経営陣が原則一致するため、上記のような事態が生じるリスクがありません。つまり合同会社に移行することで、以前よりも素早く意思決定を行えるようになります。加えて、経営陣の意向を意思決定にそのまま反映させることができるようにもなります。組織規模が大きい会社ほど、このメリットは非常に魅力的で得られる恩恵が大きいでしょう。

 

 

 

3-5 税制や社員の責任面で株式会社の良いとこ取りができる

合同会社に移行する最後のメリットは、税制や社員の責任面で株式会社と同じメリットを享受できる点です。株式会社の経営で得られる税制上のメリットを、合同会社に移行しても原則変わらず受けることができるため、税制上の不利益を被る心配はありません。

 

加えて株式会社と同様に「社員が無限責任ではなく有限責任を負う」点も、魅力的なメリットでしょう。個人事業主のような無限責任を負う事業者の場合、事業者は会社が倒産した際に、全ての負債を負う必要があります。一方で有限責任を負っている場合は、会社が倒産した際には、出資額を限度とした責任しか負わずに済みます。

 

つまり無限責任と比べて有限責任の方が、会社が倒産した際のリスクがはるかに小さいという訳です。上記であげたメリットを得るために合同会社に移行した際には、これまで(株式会社だった時)と同様に、社員は有限責任を負うのみとなります。会社が倒産した際のリスクが大きくならない点は、合同会社に移行する動機の一つとなるでしょう。

 

以上が合同会社に移行する4つのメリットです。確かに合同会社に移行すると、信用力が低下するリスクがある点や資金調達しづらくなる点など、デメリットが無いわけではありません。

 

しかしデメリットを上回るほど、合同会社への移行には魅力的なメリットがあります。先ほどお伝えしたように、事実名の知れた有名企業の中にも、敢えて合同会社の形態を選んでいる所も少なくありません。合同会社への移行を考える際は、メリットとデメリットを天秤にかけた上で、実際に移行すべきか決めると良いでしょう。

 

《合同会社への組織変更で想定されるメリット》

  項目 摘要
経営に関する意思決定を迅速に行うことが可能になる。 株主総会や取締役会を開催して決する必要がなくなるため、経営にかかる意思決定が速くなる。経営陣の方針に反するような株主意見を反映する必要がなくなり、経営の自由度が増す。
会社運営の管理コストを下げることができる。 株主総会や取締役会の開催費用の圧縮、会計監査や決算公告費用を削減できる。
役員任期がなくなるため、役員の変更登記も不要となり、事務処理の簡素化と費用削減が見込める。
利益配分を出資比率に拘束されず自由に決めることが可能になる。 定款で定めておけば、社員の利益配分を自由に行うことができる。
大会社規制が及ばなくなる 取締役会や監査役会、会計監査人、委員会等設置など、会社の形態や規模に応じた機関を設置する必要がなくなる。
また、会社危機の折は、破産更生法ではなく民事再生法の対象となるため、経営者の意向に沿った再建も一定程度担保できる。

 

《合同会社への組織変更で想定されるデメリット》

  項目 摘要
金融商品取引所への上場ができなくなるため、資金調達手段が制限される。 組織変更により、株式は社債やその他の財産に変わるため、上場できない。
事業を行う上で、許認可が必要な場合、制限を受ける可能性がある。 許認可の取得において、株式会社であることや、取締役会設置会社である株式会社といった要件が付されるケースが想定される。
自治体やそれに準ずるような公共的組織との取引に当たって制約を受ける場合がある。 取引に際し、当該会社の機関決定にあたって、取締役会の決定を要件とするような案件がある可能性が高い。
合同会社という商号の知名度は依然として低いため、新規の取引等で敬遠される可能性が高い。 企業の信用度と言う意味では、様々な規制のある株式会社のほうが、経営の透明性と信頼性が高いのが実態。

 

 

4 組織変更するための手続き・必要書類

組織変更は、会社法の施行を機に創設された制度です。会社法の下では、株式会社から持分会社へ、持分会社から株式会社への組織変更ができることが規定されています(会社法第2条第26号)。ちなみに、先述した特例有限会社が株式会社への組織変更をするときは定款の変更として扱われます。

 

 

 

4-1 組織変更のプロセス

ここからは、組織変更を行うための手続きについて見ていきます。最初に、組織変更に係るプロセスをざっくりと把握し、個別の手続きについて説明します。

 

組織変更計画書作成

組織変更承認取締役会決議

組織変更に関する書面等の備置き及び閲覧等

総株主の同意

〇 登録株式質権者、登録新株予約権質権者に対する通知又は公告
〇 新株予約権の買取請求の通知又は公告

〇 債権者異議公告・催告
〇 株券提出公告・通知
〇 新株予約権証書提出公告・通知

効力発生日

解散登記、設立登記

 

 

4-2 組織変更計画の作成

組織変更するときは、その会社は組織変更計画を作成しなければなりません(会社法第743条)。
会社法で規定された、定めなければならない事項(同744条)は以下のとおりです。

 

  • ① 組織変更後の会社が、合名会社、合資会社又は合同会社のいずれであるかの別
  • ② 組織変更後持分会社の目的、商号及び本店の所在地
  • ③ 組織変更後の持分会社の社員についての次に掲げる事項

    • イ.社員の氏名又は名称及び住所
    • ロ.当該社員が無限責任社員か有限責任社員かの別
    • ハ.社員の出資の価額
  • ④ ②~③のほか、組織変更後持分会社の定款で定める事項
  • ⑤ 組織変更後持分会社が組織変更に際して、組織変更をする株式会社の株主に対してその株式に代わる金銭等(組織変更後持分会社の持分を除く)を交付するときは、当該金銭等について次に掲げる事項

    • イ.当該金銭等が組織変更後持分会社の社債であるときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその計算方法
    • ロ.当該金銭等が組織変更後持分会社の社債以外の財産であるときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
  • ⑥ ⑤の場合は、組織変更をする株式会社の株主に対するその金銭等の割り当てに関する事項
  • ⑦ 組織変更する株式会社が新株予約権を発行しているときは、組織変更後に持分会社が新株予約権者に対してそれに代えて交付する金銭の額または算定方法。
  • ⑧ ⑦の金銭の割り当てに関する事項
  • ⑨ 組織変更がその効力を生ずる日、及び、組織変更後の持分会社が「合名会社」、「合資会社」「合同会社」であるときのそれぞれの社員の責任(有限責任か無限責任か)を明記すること。
    〔組織変更計画書-記載例-〕(法務局:登記申請書記載例http://houmukyoku.moj.go.jp)より

 

組織変更計画書

〇〇株式会社(以下「当社」という。)は、合同会社への組織変更を行うにあたり、次の通り組織変更計画書(以下「計画書」という。)を作成する。

  1. 組織変更後持分会社の会社種別  合同会社とする。
  2.  
  3. 目的
    • ① ○○の製造販売
    • ② ○○の売買
    • ③ 前各号に附帯する一切の事業
  4. 商号 合同会社 〇〇
  5. 本店   ○県○市
  6. 組織変更後社員の氏名又は名称及び住所,無限責任社員又は有限責任社員 の別、出資の価額に関する事項
    • ① ○県○市○町○丁目○番○号 有限責任社員○○〇〇 金○万円
    • ② ○県○市○町○丁目○番○号 有限責任社員○○○○ 金○万円
  7. 組織変更後持分会社の定款で定める事項 別紙定款案のとおり。 -略-
  8. 組織変更する株式会社の株主に対して株式に代えて交付する対価の内容及び割り当てに関する
    事項  -略-
  9. 効力発生日 平成○年○月○日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号
〇〇株式会社  代表取締役 ㊞

 

 

4-3 組織変更計画に関する書面等の備置き及び閲覧等

組織変更計画を策定したら、会社はその効力が発生する前に、その内容等に関する事項を本店に備え置かなければなりません(会社法第775条)。これは、次項以降に説明する株主と会社の債権者にとっての判断材料となるからです。

 

〔事前開示書面 -例-〕

 

事前開示書面

当社は、会社法第775条及び会社法施行規則に基づき、下記の通り組織変更の内容その他法務省令で定められた事項を記載した書面を備え置きます。

  1. 組織変更計画の内容    別添「組織変更計画書」に記載の通り。
  2. 新株予約権の定めの正当性に関する事項(会社法施行規則第180条第1項関係)
      該当する事項はありません。
  3. 組織変更する株式会社の最終事業年度に係る計算書類等の内容
      別添「貸借対照表」の通り。
  4. 債務の履行の見込みに関する事項
    平成〇年〇月〇日現在、当社及び組織変更後の持分会社の貸借対照表における資産の額及び負債ならびに純資産の額は以下の通りです。
  資産の額 負債の額 純資産の額
当社(株式会社) 〇〇百万円 〇〇百万円 〇〇百万円
組織変更後持分会社 〇〇百万円 〇〇百万円 〇〇百万円

 

本財務状況から、組織変更前後における支払い能力に懸念はなく、また、組織変更の効力発生日までに財務に重大な影響を及ぼす事象の発生は、現状では予想されておりません。したがって、組織変更によって当社が負担すべき債務について、履行の見込みがあると判断されます。

平成〇年〇月〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号
〇〇株式会社  代表取締役 〇〇 〇〇 ㊞

 

 

4-4 総株主の同意

組織変更する株式会社は、組織変更の効力発生日の前日までに、組織変更計画について総株主の同意を得なければなりません(会社法第776条第1項)。また、組織変更をする株式会社は、効力発生日の二十日前までにその登録株式質権者及び登録新株予約権質権者に対し、組織変更をする旨を通知しなければなりません(同条第2項)。なお、この通知は、公告をもって代えることができます(同条第3項)。

 

 

 

4-5 新株予約権買取請求

株式会社が組織変更をする場合には、組織変更をする株式会社の新株予約権の新株予約権者は、当該株式会社に対し、自己の有する新株予約権を公正な価格で買い取ることを請求することができます(会社法第777条第1項)。

 

また、新株予約権付社債に付された新株予約権の新株予約権者は、第1項の規定による請求をするときは、別段の定めがある場合を除き、併せて、新株予約券付社債についての社債を買い取ることを請求しなければなりません(同条第2項)。

 

この買取請求権行使の機会を確保するため、組織変更しようとする株式会社は、組織変更を行う旨を、効力発生の二十日前までに、新株予約権者に対して通知しなければなりません(同条第3項)。この通知は、公告をもって代えることができます(同条第4項)。

 

〔新株予約権の権利行使と効力〕

《新株予約権の価格の決定等》・・・会社法第778条

新株予約権者より新株予約権の買取請求があった場合、その価格の決定について、新株予約権者と組織変更をしようとする株式会社との間に協議が整ったときは、その株式会社は効力発生日から六十日以内にその支払いをしなければなりません(同条第1項)。

しかし、効力発生日から三十日以内に協議が整わないときは、新株予約権者又は組織変更後持分会社は、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対し価格の決定の申し立てをすることができます(同条第3項)。

《権利の行使できる期間》

新株予約権買取請求は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、その内容と数を明らかにして行わなければなりません(同条第5項)。

《買い取りの効力の発生日》・・・会社法第778条第6項

新株予約権の買取りは、組織変更の効力発生日に効力を生じます。

 

 

4-6 異議申立・債権者保護条項

この項目はかなり重要です。この手続きが取られていないと組織変更の効力が生じません(会社法第745条第6項)。株式を他の財産に代えることによる評価を重視しています。株式に代える対価が不当に評価されて債権者が不利益を被ることがないよう、債権者を保護するための手続きを義務付けています。手続きとしては、①組織変更をする旨、②会社の計算書類に関する事項、③異議ある債権者は一定期間内(1か月以上の期間を設ける必要があります)に述べる旨を官報に公告し、「知れている債権者」には個別に催告することを求めています(会社法第779条第1項及び第2項)。

 

期間内に異議を述べなかった債権者は、組織変更を承認したものとみなされます(会社法第779条第4項)。異議を述べた債権者に対しては、組織変更をする株式会社は、組織変更が債権者を害するおそれがない場合を除き、「弁済し」、「若しくは相当の担保を提供し」、「または弁済を目的とした相当の財産の信託」をしなければなりません(会社法第779条第5項)。

 

組織変更公告ならびに債権者異議申述催告書の記載例は以下の通りです。

 

株式会社組織変更公告

債権者 各位

当社は,合同会社に組織変更することといたしましたので公告します。
組織変更後の商号は○○合同会社とします。
効力発生日は平成○年○月○日であり,当社の総株主の同意の取得は 平成○年○月○日に終了(又は予定)しております。
この組織変更に異議のある債権者は,本公告掲載の翌日から1箇月以内にお申し出下さい。
なお,最終貸借対照表の開示状況は次のとおりです。
掲載紙 官報  掲載の日付 平成○年○月○日 掲載頁 ○○頁(号外第○○号)

平成○年○月○日

○県○市○町○丁目○番○号
○○株式会社 代表取締役 ○○○○ ㊞

 

催 告 書

拝啓 益々御清祥のことと存じ上げます。
さて,今般当会社は,平成○年○月○日の臨時株主総会において,総株主の同意をもって○県○市○町○丁目○番○号○○合同会社に組織変更することとしましたので,当該組織変更につき御異議がありましたら 平成○年○月○日までにその旨をお申し出下さい。

以上のとおり催告いたします。

平成○年○月○日

○県○市○町○丁目○番○号
○○株式会社
代表取締役 ○○○○

株式会社○○銀行 御中

上記は催告書の原本の控えに相違ありません。

平成○年○月○日

○○株式会社
代表取締役 ○○○○ ㊞

(注)催告書の原本の提出が困難であるときは,その控え及び承諾書を添付します。

(以上、法務局登記申請様式記載例http://houmukyoku.moj.go.jpより)

 

 

4-7 株券及び新株予約権証券について

組織変更する株式会社が株券を発行している場合、当該証券は組織変更の効力発生日をもって無効となるため、当該の株式会社は、株主及び登録株式質権者に対し、組織変更の効力発生日までに株券を提出しなければならない旨の公告するとともに、個別に通知をしなければなりません(会社法第219条第1項、第3項)。

 

効力発生日までに会社に株券を提出しない株主に対しては、会社は株券提出までの間、対価の交付を拒むことができます(同条第2項)また、株券を提出することができない株主がある場合(紛失等)は、株券発行会社はその株主の請求によって、利害関係人に対して一定期間内(3以上)に異議を述べることができることを公告することができ、この期間内に異議を申し出る者がなかった場合は、請求者に対し対価を交付することができます(会社法第220条)。

 

新株予約権証券を発行している場合も、株式交換の効力発生日をもって無効となりますので、同じ問題が生じます。会社は、組織変更の効力発生日の1か月前までに公告するとともに、新株予約権者及び登録新株予約権質権者に個別に通知しなければなりません。また、効力発生日前までに新株予約権証券を提出しない株主に対しては、その提出までの間、会社は対価の交付を拒むことができます。新株予約権証券を提出できない場合は、株券と同様の扱いとなります(以上、会社法第293条第1項~第4項)。

 

組織変更につき株券等提供公告

当社は,合同会社に組織変更することにいたしましたので,当社の株券(新株予約権証券,新株予約権付社債券を含む。)を所有する方は,効力発生日である平成○年○月○日までに当社に御提出ください。
平成○年○月○日

○県○市○町○丁目○番○号
○○株式会社
代表取締役 ○○○○

(注)新株予約権証券の提出公告も兼ねる例です。

(法務局登記申請様式記載例 http://houmukyoku.moj.go.jpより)

 

 

4-8 効力の発生と対価の交付(会社法第744条及び第745条)

株式会社は、組織変更計画書に定めた効力発生日をもって持分会社となり、前掲の同計画書の2~6までの事項について定款の変更をしたものとみなされ、株主は、会社の社員、社債権者となります。また、会社は、組織変更計画にしたがって、組織変更前の株主及び新株予約権者に対し、組織変更による対価を交付することになります。なお、組織変更する株式会社が保有する自己株式については、対価を割り当てることはできません(会社法第744条第1項第6号括弧書)。

 

 

 

4-9 組織変更の登記

会社が組織変更をしたときは、その効力が生じた日から二週間以内に、その本店の所在地において、組織変更前の株式会社については解散の登記を、組織変更後の合同会社については設立の登記をしなければなりません(会社法第920条)。

 

 

 

4-10 手続き無効の訴え

会社の組織変更について、なにがしかの理由によって無効を主張するときは、訴えをもってのみ行うことができる旨、会社法第828条で規定されています。

 

<会社法第828条>(会社の組織に関する無効の訴え)

第1項 次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。
第1号~第5号 -略-
第6号 会社の組織変更:組織変更の効力が生じた日から六個月以内
第7号以下 -略-
第2項 次の各号に掲げる行為の無効の訴えは、当該各号に定める者に限り、提起することができる。
第6号 前項第6号に掲げる行為:当該行為の効力が生じた日において組織変更をする会社
の株主等若しくは社員等であった者又は組織変更後の会社の株主等、社員等、破産管財人若しくは組織変更について承認をしなかった債権者

なお、組織変更の無効を主張するときの事由については、法律上明記されていません。このため、手続き上の瑕疵がある場合に限り、それによって関係者が被る不利益の程度を考量して判断するものと考えられます。

 

【参考】この他の提訴関係の条項:会社法第834条第6号(訴えの相手方)
                  〃 835条第1項(訴えの管轄)

 

 

5 変更にかかる費用

  

組織変更に係る主な費用は以下の通りです。      (単位:円)

  株式会社解散 合同会社設立 組織変更計
登録免許税   30,000 30,000
解散登記 30,000   30,000
清算人選任 9,000   9,000
清算決了 2,000   2,000
公告費用 35,000   35,000
76,000 30,000 101,000

※公告費用は、掲載行数によって金額が変わります。また、事務手続きの代行を依頼する場合は、別途その費用がかかります。

 

 

6 合同会社に移行した有名企業20選

大規模に事業を展開している有名企業が、敢えて合同会社の形態を選んでいたり、株式会社から合同会社に移行するケースが近年見受けられます。アマゾンやアップル、グーグルの日本法人をはじめとして、世界的な有名企業が合同会社の形態を選んでいます。ここでは、合同会社の形態を選んでいる有名企業や合同会社に移行した有名企業を20社ご紹介します。

 

 

 

6-1 グーグル合同会社

検索エンジンの最大手で誰もが知っている「グーグル」の日本法人も、合同会社の形態を選んでいます。アメリカに本社を置くグーグルは、検索エンジンの事業以外にも、クラウドコンピューティングやハードウェア、オンライン広告など、多方面に事業を展開しています。

 

アメリカ合衆国の主要なIT企業を表す「GAFA」の一角でもあり、世界的な大企業と言っても過言ではありません。グーグルの日本法人は、2001年に「グーグル株式会社」として設立されました。しかし2016年に合同会社へと移行し、「グーグル合同会社」という名称に変わりました。

 

 

 

6-2 アマゾンジャパン合同会社

二社目としてご紹介するのは、こちらも世界的な大企業である「amazon」の日本法人「アマゾンジャパン合同会社」です。ネット通販を手がけるアマゾンは、インターネットの急速な発展に伴い急成長を遂げてきました。今やグーグルと同様に、アメリカ合衆国の主要IT企業「GAFA」の一角に名を連ねています。

 

アマゾンジャパンもグーグルと同様に、日本法人として設立された当初(1998年)は株式会社でしたが、2016年に合同会社への移行が図られました。

 

 

 

6-3 Apple Japan合同会社

GAFAの一角であるAppleの日本法人「Apple Japan」も合同会社の形態を選んでいます。Appleは言わずと知れたiPhoneやMacBookなどの製品を販売している会社であり、Apple製品はその洗練されたデザイン性やブランド力から、日本やアメリカをはじめとして、世界中に根強いファンを持っています。そんな世界的な有名企業の日本法人「Apple Japan」は、2011年に有限会社から合同会社に移行しました。

 

ここまで見てきて分かる通り、GAFAの日本法人のほとんどが合同会社に移行しています。世界的な有名企業が移行していることからも、合同会社に移行すると大きなメリットがあるのが分かるでしょう。

 

 

 

6-4 ワーナーブラザーズジャパン合同会社

ワーナーブラザーズといえば、数々の世界的大ヒット作品を世に輩出している有名な映画配給会社です。そのワーナーブラザーズにも日本法人があり、デスノートなどの有名作品を配給してきました。

 

ワーナーブラザーズジャパンも設立当初は、株式会社として設立されました。その後他社との合併や新規事業への参入などを経て、2016年に合同会社へと移行しました。

 

なお合同会社に移行した際には、社名の変更も同時に実施しています。

 

 

 

6-5 合同会社DMM.com

つい最近合同会社に移行したのが「DMM.com」です。動画配信サービスの最大手であるDMM.comは、意思決定の円滑化を主な目的として、平成30年に合同会社へと移行しました。

 

DMM.comでは動画配信サービスだけでなく、仮想通貨やアプリ開発など、多方面に事業を展開しています。多方面に事業を展開すればそれだけ意思決定の量が増えるため、素早い意思決定が成功の重要な要因となり得ます。多角化経営を効率よく進めるために、意思決定を素早く行える合同会社の形態を選んだのだと推測されます。

 

 

 

6-6 モンスターエナジージャパン合同会社

モンスターエナジージャパン合同会社は、アメリカ発祥のエナジードリンク「モンスターエナジー」を販売する会社の日本法人です。2012年に日本に設立されて以来、「モンスターウルトラ」や「モンスターアブソリュートゼロ」など、ユニークなドリンクを数多く販売してきました。

 

Appleやグーグルにも言えることですが、海外の有名企業が日本に進出する際には、合同会社の形態を選ぶ傾向があります。アウェーの環境で事業を展開する上で、意思決定を素早くできる点や、所有と経営が一致している点は大きなメリットになると考えられます。

 

 

 

6-7 合同会社西友

安さと品揃えがウリのスーパーマーケットを運営する「西友」も、合同会社に移行しています。西友では実店舗だけで「SEIYU」ブランドの事業を営んでいる訳ではなく、ネット上でもスーパーマーケット事業を運営しています。西友は、平成17年に世界最大手のスーパーマーケット「ウォルマート」とのM&Aにより、同社の子会社になりました(傘下に入りました)。その後平成21年にはウォルマートの完全子会社となり、それと同時に合同会社への移行も図られました。

 

 

 

6-8 ギットハブ・ジャパン合同会社

ソフトウェアの開発者にとってはお馴染みの「GitHub」を提供しているギットハブ社の日本法人も、合同会社として事業が行われています。

 

GitHubとは、複数人のエンジニアと共同でソフトウェアを開発する際に、円滑に開発を進めることができるプラットフォームです。一緒にコードのレビューをしながらプロジェクトを管理できるため、開発者にとっては欠かせないサービスです。ソフトウェア関連という比較的新しい産業だからこそ、合同会社という組織形態があっていると言えます。

 

 

 

6-9 デロイトトーマツコーポレートソリューション合同会社

デロイトトーマツとは、世界最大の会計事務所であり、監査業務やM&Aアドバイザリーなど、ビジネスに関する高度なサービスを法人向けに提供しています。世界四大会計事務所の一角でもあるデロイトトーマツは、日本の市場でも数々の実績を残してきました。
デロイトトーマツのグループは、日本国内の主要事業の機能を集約する目的で同社を設立しました。新たに設立した合同会社に事業機能を集約することで、生産性の向上やサービス品質の向上などの効果が期待できるそうです。

 

 

 

6-10 エクソンモービル・ジャパン合同会社

エクソンモービルとは、石油の製造販売を主力事業とするアメリカの企業です。世界トップクラスの石油メーカーであり、「Esso(エッソ)」や「エクソン(EXXON)」など、有名なブランドを複数持っています。
エクソンモービルの日本法人である「エクソンモービル・ジャパン」は、2012年の組織再編により合同会社への移行が実施されました。

 

 

 

6-11 P&Gプレステージ合同会社

洗剤や化粧品などの身近な製品を販売するP&Gグループは、実は日本の企業ではなくアメリカに本社を置く企業です。世界約180カ国で事業を展開しており、今もなお売上高や営業利益を伸ばし続けている優良企業です。

 

日本にも何社かグループ会社が存在し、その中の一つに「P&Gプレステージ合同会社」があります。同社では、化粧品やビューティーケア製品、医薬品の販売や輸出入を主な事業として行なっています。2016年までは「P&Gマック種ファクター合同会社」という社名でしたが、2016年に現在の社名に変更されました。

 

 

 

6-12 コダック合同会社

コダック合同会社は、写真用フィルム事業で世界的な有名企業となった「イーストマン・コダック」の日本法人です。

 

世界で一番初めにフィルムやデジカメを開発した同社は、2000年前後までは世界トップクラスの業績を誇っていましたが、近年のフィルム市場縮小に伴い、業績が下降していき、2012年に一度倒産しています。倒産後は事業規模を縮小して再出発し、現在に至っています。

 

コダックの日本法人は現在、印刷用フィルム事業やソフトウェア事業、インクジェット事業などを営んでいます。同社は当初株式会社の形態をとっていましたが、2013年12月に「コダック合同会社」への商号変更を行い、合同会社への移行を果たしています。

 

 

 

6-13 合同会社ユー・エス・ジェイ

合同会社ユー・エス・ジェイは、大阪にある大人気テーマパーク「USJ」を運営している会社です。「エンターテインメント&レジャー業界におけるアジアのリーディングカンパニーへ」というスローガンを掲げる同社は、1994年の設立以来、多くのお客さんを魅了し続けています。

 

2006年からは「USJドリームウィーバーズ」というプロジェクトを開始し、難病の子供支援やチャリティ・ディナーショーなどの社会貢献活動も行なってきました。同社も他の会社と同様に、当初は株式会社として設立されました。しかしつい最近(2018年)に、社名が「合同会社ユー・エス・ジェイ」に改名されると同時に、合同会社への移行が実施されました。

 

 

 

6-14 日本ケロッグ合同会社

日本でも大人気のフレーク菓子「ケロッグ」を開発するケロッグ社。その日本法人として設立されたのが「日本ケロッグ合同会社」です。ケロッグの大成功で世界的な有名企業となったケロッグ社は、本社がある街に大学を建てたりと、多方面に向けた社会貢献も行なっています。

 

現在日本ケロッグ合同会社では、ケロッグ以外にも近年大流行したグラノーラも販売しており、ヘルシーな食事を楽しみたい顧客層からの支持も獲得しています。また同社は、味の素や森永製菓などの会社と業務提携を結んでおり、両社の良さを活かした商品づくりにも努めています。

 

同社も設立当初は「株式会社」でしたが、途中で合同会社への移行が図られました。おそらく意思決定の迅速化や所有と経営の一致を目指したのだと推測されます。

 

 

 

6-15 デジサート・ジャパン合同会社

デジサート・ジャパン合同会社は、アメリカのSSL証明書の認証局を運営しているデジサート(DigiCert)の日本法人です。SSLとは、インターネット上でデータのやり取りを行う際に、そのデータを暗号化する技術であり、SSLがあることで外部からデータを改ざん・盗み見されることを防ぐことができます。IBMやトヨタ自動車、Facebookなどの世界的な有名企業も、デジサートからSSL証明書の認証を得ています。有名企業が利用していることからも、同社の信用力の高さが伺い知れます。

 

同社は当初、「日本ベリサイン株式会社」として設立されました。平成24年にはシマンテックの100%子会社となり、その2年後には「合同会社シマンテック・ウェブサイトセキュリティ」に社名変更され、事実上合同会社への移行が図られました。

 

そして平成29年に、デジサートInc.に買収されたことで、デジサート・ジャパン合同会社に社名変更がなされ現在に至ります。この買収によりデジサート社は、電子証明書事業において世界的な最大手になりました。

 

要するに、これまで紹介した外国資本の会社は日本法人として設立されましたが、同社は外国資本の会社に買収される形で現在に至っているのです。

 

 

 

6-16 eBay Japan合同会社

eBay Japan合同会社は、グローバル規模でオンラインマーケットを展開している米国企業「eBay」の日本法人です。eBayのサービスを用いることで、海外に向けたECサイトの展開が可能になります。そのため、海外展開を図りたい企業から絶大な支持を得ています。

 

eBay Japan合同会社では、eBayと同様のサービス「Qoo10」というサービスを運営しています。当初このサービスは、ジオシス合同会社という会社が運営していたサービスでしたが、2018年にeBayに買収されたことを契機に、社名の変更が行われました。デジサート・ジャパン合同会社と同様に、当初から日本法人として設立された訳ではなく、買収によって傘下に入った形になります。

 

当事者ではないと良かったのか悪かったのかは分かりませんが、世界的な有名企業のブランド力と資本を活用できる点は大きなメリットであると推察できます。

 

 

 

6-17 ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社

ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社は、フィンランドに本社を置く開発ベンダー会社の日本法人です。近年はIoTやクラウドコンピューティング、高速ブロードバンドなどの事業に着手しており、時代の最先端を行くグローバル企業として有名です。

 

日本法人である同社では、スマートフォンや携帯電話の製造・販売を主力事業としています。また、法人対象のハードウェアやソフトウェアの販売事業も営んでいます。

 

設立初期から当社は株式会社の形態をとり続けていました。しかし2018年4月に、合同会社への組織変更を行いました。変化の激しい経済環境においては、迅速に行動できる合同会社の方が良いと判断したのかもしれません。

 

 

 

6-18 キャタピラージャパン合同会社

次にご紹介するのは、アメリカに本社を置く「キャタピラー社」の日本法人である「キャタピラージャパン合同会社」です。「CAT」というマークがついている建設機械が、キャタピラー社が製造しているものになります。

 

キャタピラー社では、油圧ショベルやブルドーザーなど、建設現場に欠かせない機械を世の中に提供し続けています。加えて業種別に適切な機械や作業方法などの提案も行なっているため、同社は世界中で高い評価を得ています。同社はキャタピラー社と新三菱重工の共同出資により設立された企業です。2012年にキャタピラー社が全株式を保有するようになり、2017年に合同会社への移行が実施されたことで今に至ります。さらに相模や明石、秩父などにも事業所を持っており、国内の建設業界でも高い認知度と評価を誇っています。

 

 

 

6-19 クロックス・ジャパン合同会社

若者を中心に大人気のサンダル「クロックス」。そのクロックスを製造しているクロックス社の日本法人も合同会社の形態を選んでいます。

 

滑りにくさや足跡の付きにくさを目指して作られたクロックスですが、おしゃれな色やデザインが若者から人気を集め、今では世界的に高い人気を誇る商品となりました。日本法人である同社でも、国内の顧客向けに様々な種類のクロックスを販売しています。

 

 

 

6-20 ユニバーサルミュージック合同会社

最後にご紹介するのは、グローバル規模で事業を展開しているレコード会社「ユニバーサルミュージックグループ」の日本法人です。なおユニバーサルミュージックグループは、フランスの企業ビベンディの傘下でもあります。1998年に行ったポリグラムとの合併により、現在ユニバーサルミュージックグループは世界最大規模のレコード会社となっています。日本法人である「ユニバーサルミュージック合同会社(以後同社と呼ぶ)」は、日本に所在する外資系レコード会社としては最大手の規模を誇り、ロックやクラシック、J-POPなど幅広いジャンルの音楽やアーティストを世の中に輩出しています。

 

同社もこれまで紹介した例に漏れず、以前は株式会社でした。2009年の1月に株式会社から合同会社への移行が図られて現在に至ります。

 

 

7 まとめ

今回の記事では、「合同会社の概要」と「合同会社に移行すると得られるメリット」、そして「合同会社への移行を図った有名企業20社」をご紹介しました。合同会社は、「全社員が有限責任を負っており、所有と経営が一致している企業の形態」を指します。社員が負う責任が有限責任であるため、会社が倒産した際のリスクを抑えることができます。また所有と経営が一致しているため、経営陣の移行を最大限尊重しつつ、意思決定をスムーズに行えます。加えて新規で会社を設立する場合を考えると、株式会社と比べて設立登記に要する費用を安く抑えるメリットも期待できます。

 

以上の理由から、合同会社は小規模なビジネスを行う際に設立されるケースが多いです。しかし一方で、世界的に有名な企業が敢えて合同会社に移行するケースが近年増加しています。特に外資系企業の日本法人においては、この傾向が顕著に見られます。

 

大企業が合同会社に移行する背景には、意思決定の迅速化が目的にあると考えられます。事業規模が大きくなるほど株主の影響力が増すため、意思決定に遅れが生じやすくなります。そこで合同会社へ移行すれば、株主への配慮が不要になるため、意思決定のスピードを高めることができます。アップルやグーグルなど、世界的に有名な企業が合同会社への移行を進めている昨今、中小企業を営む方も合同会社という選択肢を持っておいて損はないでしょう。

 

株式会社から合同会社への組織変更は、オペレーションコストの低さもさることながら、その主なメリットは、経営の自由度の確保と迅速な意思決定の実現にあることがわかります。事業拡大に係る資金調達を市場に求めない、あるいは求める必要がないのであれば、合同会社への変更も視野に入れて然るべきかと思われます。ただ一方で、株式会社の評価は、ガバナンスの強化、経営の透明性の確保等を重視した規制を導入してきたことで、ステークホルダーに対する信用度は高いレベルで定着していると言えます。

 

近年、上場企業対象とは言え、コーポレートガバナンスコードが導入されたことで、経営の持続可能性と企業価値の向上にその軸足が移っていることは間違いありません。中小企業にとっては、公共的な取引や上場企業との関係性が残る以上、一定水準のコーポレートガバナンス体制が求められるのではないでしょうか。持続可能性を担保できる体制なのか否かを含め、組織変更には、事前に多角的な視野で検討を加える必要があることをご留意ください。

 

 


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