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会社設立時の定款作成と役員報酬の決め方

株式会社などの会社設立時には、「会社の憲法」とも言える定款を作成する必要がありますが、その内容が後の会社経営に大きく影響することをご存知でしょうか。
定款に必要な項目や書き方などは雛形等を参考にすれば設立者自身でも形式的に問題のない定款を作成できるでしょう。しかし、定款の内容は会社設立後の事業運営や会社経営を規定するため、安易に設定すると事業が制約される、経営に悪影響が出るといったデメリットが生ずる恐れがあるのです。
今回は定款の重要項目についての内容や作成方法などを紹介します。定款における事業目的、機関設計や資本金などの規定について、作成上の重要ポイント、各種問題、問題の回避方法や注意点などを解説していきます。

 

 

1 定款の内容が及ぼす会社設立時やその後の経営における問題

定款は会社設立時だけでなくその後の会社経営に影響し、その内容によっては問題を引き起こすことになりかねないため慎重な作成が求められます。特に以下の項目については経営上の注意が必要です。

 

 

 

1-1 定款での事業目的

定款の絶対的記載事項の1つである事業目的を安易に設定すると、様々な問題を抱えることになりかねません。ここではその主な内容を紹介します。

 

①事業の内容や範囲が不適切の場合信用度の低下に繋がる

定款の事業目的において、自社の事業範囲を不適切に記載したり、漠然と設定し過ぎたりしていると、取引相手として適当でないと認識されてしまう恐れが生じます。

 

新設会社に対する取引を第三者が検討する場合、定款の内容が判断材料として利用されるケースも少なくありません。その新設会社がどのような企業で、どのような事業を行うか、信用できるかなどがチェックされるわけです。

 

特に事業目的は重要で、その内容により取引相手として相応しいか、期待する製品・サービスの提供が可能か、事業の成長性が見込めるか、などが評価されます。

 

もし定款の事業目的の内容が漠然としていて事業範囲が大雑把な内容で記載されていたら取引等の相手として適当でないと判断され、事業の進展に支障が出る可能性が高まるのです。

 

②融資が難しくなる

事業目的の内容が希薄であったり、逆に過度に多く羅列していたりするようでは会社の信用度が低下して資金調達や取引などで不利になることもあるでしょう。

 

不透明な事業(実態がない事業等)、丁寧に示されていない事業では資金を提供する相手として信用することは難しく、融資に踏み切れないという判断になる可能性が高くなります。

 

会社のルールブックである定款で「どのような事業を行う会社であるか(何の会社か)」を明確に示されていないような場合、設立前やその直後の実績のない会社を信用することは難しくなるはずです。

 

たとえば、創業融資の審査において、定款で実態がない事業や不明瞭な事業などを記載していると、マイナスの評価に繋がり融資を得る可能性は低くなってしまうでしょう。

 

③適切な記載がないと許認可や加入条件等で問題になる

事業の内容により行政の許認可が下りなかったり、特定の事業への加入が認められなかったりすることもあるため注意が必要です。

 

事業に関する許認可には行政機関が認めることで実施できる許可、要件を満足することで可能となる認可、営業が認められる届出などがあり、その許認可は定款の事業目的で判断されることがあります。

 

たとえば、保険業などにおいて定款の事業目的として「損害保険の代理店業務」と記載していないと金融庁などから代理店としての許可が出ず、保険の募集ができなくなるのです。

 

そのため許認可が必要となり得る事業を行う場合は、許認可の内容を満足できるような「事業目的」で記載しておかねばなりません。もし記載しておらず許認可が下りない場合は定款内容の変更が必要となり余計な時間と費用がかかるだけでなく、事業の開始が遅れてしまうかもしれません。

 

④法律・公序良俗などを守るといったルールに合致しない場合は問題になる

事業目的には法律・公序良俗に反する事業は行わない、営利目的の事業を行うといったルールがありますが、それを守らない場合は法務局の審査で問題*(受理されない等)となる可能性が生じます。

*公証人による認証を得ても法務局で認められるとは限りません。

 

法律・公序良俗に反する事業を行ってはならないのは当然ですが、それらを想起させる事業を記載しておくと取引や融資等に影響することもあるため注意が必要です。

 

また、事業目的の種類を多く記載しておけばよいというわけではなく、内容により取引や融資に影響することもあるため、不要な事業は記載しないほうが賢明といえるでしょう。

 

特に特定の業種、たとえば、金融業、風俗業や遊興娯楽業などを事業目的にしていると、取引に支障が出たり金融機関からの融資を受けるのが難しくなったりする恐れが生じるのです。

 

また、寄付活動やボランティア活動等だけを事業内容とすると事業目的として認められない可能性が生じます。

 

⑤漠然とした事業内容が経営の非効率化に繋がる

経営において明確な目的を設定することでそれを達成するための効果的な資源展開と業務の遂行が可能となりますが、定款の事業目的が不透明であると経営が非効率になる恐れが生じます。

 

たとえば、事業内容が曖昧、漠然としていたら事業に必要な人、モノ、金、情報等の経営資源の準備が適切に行えません。明確になっていない事業を思いつくままに進めると必要ない資源を用意したり、余分に導入し過ぎたりして限りある資源を浪費する可能性が高まるのです。

 

逆に対応可能な事業であるにもかかわらず定款で定めた限られた事業だけに取り組む場合、成長に繋がる事業機会を見逃すことにもなります。もちろん必要に応じて定款を変更して事業内容を拡大させることも可能ですが、変更の手間や費用をかけることになるわけです。

 

事業目的の内容によっては会社設立後の経営の効率性や事業機会への着手などに影響が出るということを留意しておかねばなりません。

 

 

 

1-2 会社の機関設計

会社の機関設計とは、株主総会、取締役、取締役会、監査役、監査役会、会計監査人、会計参与、委員会の機関や人数の内容を設定することですが、会社の規模や運営内容に即して設計しないと問題が起こりやすくなります。

 

株式会社の場合、取締役は必ず1名は設置しなくてはいけませんが、取締役会や監査役の設置は自由です。ただし、大会社の場合は監査役が必要で、公開会社(会社の株式の譲渡が可能な会社)は取締役会と監査役を設置しなければなりません。

 

このように機関設計は会社法の制約に基づいて行うことになりますが、一定の自由度も担保されているため、設立者は柔軟な機関設計ができます。

 

しかし、安易な機関設計を行い現在必要のない機関を設置して複雑にすることで余分な費用が生じたり、経営への圧力を高めたりする恐れが生じることもあるのです。

 

そうした経営を圧迫しかねない機関設計は経営上の問題として存在することになるため、金融機関や取引先などではよい評価がされず融資や取引に影響することもあります。

 

 

 

1-3 資本金

株式会社や合同会社では資本金は1円から設定が可能ですが、その金額によって事業運営、融資や税金などで問題が生じる恐れもあるため慎重な設定が必要です。

 

①事業運営

自己資本である資本金の金額が多いほど当然事業活動に必要なモノや人などの経営資源を確保できるため、事業が円滑に展開できます。

 

一方、資本金を少額にすれば、確保できる経営資源が少なくなるため、自ずと事業展開も小規模にならざるを得ません。その結果、事業の歩みは遅くなり成長スピードがゆったりとしたものになる可能性が高くなります。

 

もちろん資本金が少額であっても多額の借入ができれば、事業を進展・拡大させられますが、設立前後の会社が多額の資金を借入することは容易ではありません。つまり、借入金には限度があるため、事業での必要資金に足りない部分は自己資金で賄うことになるわけです。

 

株式会社では1円以上で資本金を設定できますが、会社設立にあたって借入可能な金額を見極めた上で必要資金として不足する分は資本金として準備しなければなりません。

 

なお、会社設立後から順調に事業を推進し成長軌道に乗せていくには、設立からの一定期間に行う事業内容を計画し、それ必要な資金〔自己資金+借入金〕を予測して調達する必要があります。

 

もしこうした計画に基づいた必要資金を確保することなしに事業を大雑把に推進していくと事業の失敗の可能性を高めることになるため注意しましょう。

 

②融資

資本金が少ないこと自体が融資を困難にさせてしまう恐れがあります。企業が利用する融資としては、公的融資とプロパー融資に大きく分けられますが、特に後者の場合には資本金の金額が融資に影響する可能性が小さくありません。

 

プロパー融資とは、銀行などの一般の金融機関が企業などに行う貸付を指しますが、信用の蓄積のない新設会社に対する融資審査は決して優しいものではないです。

 

その上新設会社の資本金が過少なものであればより審査は厳しくなり、融資額に見合う担保や保証人などが求められることになります。つまり、資本金の少ない企業ほどプロパー融資を受けるのが難しくなってしまうのです。

 

③税金

資本金の大きさによって法律上の取り扱いが異なってくることもあるため、それに従い支払う税金の額も影響されてしまいます。

 

たとえば、資本金が800万円以下と800万円超の企業とでは法人税率が異なり、前者の方が税率は低いです。また、資本金が1,000万円超と資本金1,000万円以下の法人の法人住民税を比べると前者の方が高くなります。

 

消費税に関しては、資本金1,000万円未満の新設法人の場合設立当初の2年間が免税事業者となりますが、1,000万円超の法人は課税事業者となります。

 

このように資本金の大きさによって適用される税金が変わってくるため、安易に設定すると必要のない税金を納めることになり得るため慎重に検討しなければなりません。

 

 

1-4 株式の規定

株主の少ない中小企業などで株式の譲渡を制限しておかないと、自社株式が競合会社などに売却されて乗っ取りにあったり、経営に圧力を加えられたりするといった脅威に晒される恐れが生じます。

 

将来は株式を公開して証券市場に上場したいなどとの考えから株式の譲渡制限を行っていないと、上記のように敵対する勢力に自社株が渡り、経営に影響が出ないとも限りません。

 

また、競合会社以外にも反社会勢力などに株式が取得されれば、経営上大きな問題を抱える可能性も出てくるでしょう。

 

こうした株式の譲渡に関する問題を回避するためには、株式譲渡に関する一定の制限を設ける検討も必要です。

 

 

2 定款の構成項目と主な内容

ここでは定款の構成項目のほか、その中で特に経営に大きな影響を及ぼす項目の内容を説明しましょう。

 

 

 

2-1 定款とは

定款とは、会社の事業運営や経営全般に関する基本的な規則を定めたルールブックであり、「会社の憲法」と言えるものです。そのため経営者や従業員は定款の定めに従った行動が求められます。

 

定款は任意に作成するものではなく、株式会社を設立する際には必ず作成し公証人による認証の上法務局で登記しなければならないものです。また、作成する内容・項目が会社法で定められており、公証人による認証を得ていない定款には効力が生じません。

 

たとえば、公証人よる認証を得ていない定款で会社設立されている場合、その会社設立は無効になってしまうのです。

 

定款は、会社の実態(組織編制)の形成と法人格の獲得のために作成・登記されるものですが、会社の機関設計、資本金や事業目的などを規定する内容も含まれます。そのため投資家、金融機関や取引相手等のステークホルダーにとっても重要です。

 

定款の内容によって投資や融資の判断をしたり、会社の経営や事業運営などをチェックしたりすることもあるため、第三者にとってもその会社の定款は重要な役割を果たします。

 

なお、特定の会社の定款を閲覧する権利(閲覧請求権)はその会社の株主と債権者が有しており、彼らならその会社の本店や支店において閲覧することが可能です。

 

株主と債権者以外の場合、その会社の管轄地域の法務局に手数料を支払って「登記事項証明書」を請求すれば、定款の一部の内容(事業目的等)を確認できます。

 

 

 

2-2 定款の項目

定款に記載される項目は、①絶対的記載事項、②相対的記載事項、③任意的記載事項の3つになります。

 

絶対的記載事項は、名前の通り必ず定款に記載しなければならないものですが、相対的記載事項と任意的記載事項はその記載がなくても定款自体の効力に影響しないものです。

 

①絶対的記載事項

絶対的記載事項は、定款に必ず記載しなければならないもので、その項目が1つでも漏れていればその定款は無効となるため注意しなければなりません。絶対的記載事項を変更した場合、効力が発生する日から2週間以内に変更登記を行う義務があります。

 

絶対的記載事項は以下の5つになります。

 

1)商号

商号とは会社の名称(会社名)のことです。商号には「株式会社」「合名会社」「合資会社」「合同会社」という文字を加えて設定する必要があります。なお、商号においてローマ字(大文字及び小文字)、アラビア数字やその他の符号を用いることも可能です。

 

会社設立後に和名からローマ字の会社名へといった変更もできますが、商号変更登記が必要になり登録免許税がかかります。

 

また、以下の内容にも注意しておいたほうがよいでしょう(他社から訴訟を起こされるリスクの点で)。

 

  • A 不正の目的で他の会社であると誤認される可能性がある名称又は商号を使用しない(会社法8条)。
  • B 他人の商号として、消費者などの需要者において一地方程度に広く認識されているものと同じ商号を使い、他者の営業と混同させない(不正競争防止法2条1項1号)
  • C 全国的に認知されているといった他人の著名な商号を使用しない(不正競争防止法2条1項2号)
  • D 銀行、保険業、信託業でない会社が、自社の商号にその名称を含めて使用しない

 

2)会社の目的

定款では、その会社がどのような事業で収益を上げるかを明確にするために事業目的の記載が義務付けられています。その結果、会社は定款で定めた事業目的に沿った事業を展開する、しているという点を自社及び第三者が容易に理解できるのです。

 

事業内容に目的物がある場合は「○○製造」や「□□販売」、「△△輸入」などで表現されますが、目的物のないサービスが事業活動である場合は「××役務の提供」と一般的に記載されます。

 

会社の事業目的をどのように定めるかは、その会社自身で判断することであるため、事業内容が漠然としたり、やたら多く記載したりしても登記できないことはありません。

 

ただし、定款の事業目的には、「明確性」「営利性」「合法性」に基づいて設定することが求められています。もしそれらに該当しない場合は登記できない、事業運営上不利になるなどの問題が生じる恐れがあるのです。

 

定款に定めた事業目的以外の事業を行った場合法的な罰則規定ないですが、株主から問題視される可能性は否定できません。

 

そのほかにも事業目的の内容によっては不利益を被ったり、トラブルを招いたりすることもありますが、詳しい内容は後述します。

 

3)本店の所在地

本店の所在地を記載することですが、地番まですべての住所を厳密に示す以外にも最小行政区画(たとえば、東京都○○区)までにしておくことも可能です。近い将来に同じ区の他の場所へ移転する可能性がある場合などでは最小行政区画までの記載しておけば変更する手間がなくなります。

 

4)設立に際して出資される財産の価額又はその最低額

会社法第34条により会社設立後に発起人は、「設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を」払い込まなければなりません(出資の履行)。定款ではその出資財産額または最低額を記載する必要があります。

 

この出資財産額に基づいて資本金が設定されることになりますが、資本金の大きさは事業運営、対外的な信用や税金等に影響するため熟慮の上設定することが求められます。

 

5)発起人の氏名又は名称及び住所

発起人の氏名又は名称、住所の記載が必要です。注意点としては、印鑑証明書に記載された氏名や住所などを一言一句間違わないようにしましょう。

 

なお、上記の5つ以外にも会社設立までには必ず定款に定める必要があるものとして、「発行可能株式総数」があります。

 

6)発行可能株式総数

発行可能株式総数とは株式会社が発行可能な株式の総数を指し、定款に必ず記載しなければなりません。株式会社の設立の場合、その設立登記の前までに発行可能株式総数の定めを定款に記載する必要があります(定款認証時には必要ない)。

 

②相対的記載事項

相対的記載事項とは、定款にその事項が記載されなくても定款自体は効力を有するが、定款にその事項の定めがない場合、その事項の効力が否定されてしまうものです。そのため決定したら定款に記載すべきものとして扱われています。

 

相対的記載事項の具体的な内容には以下のものが含まれます。

 

  1. 現物出資
  2. 財産引受
  3. 発起人の報酬
  4. 設立費用
  5. 株式の譲渡制限に関する規定
  6. 株主総会の招集通知を出す期間の短縮
  7. 役員の任期の伸長
  8. 株券発行の定め

 

なお、1)~4)は、発起人等の権限の乱用により会社が不利益を被る可能性が高い「変態設立事項」にあたります。その変態設立事項は、裁判所が選任する検査役の調査を受ける義務を有するものです(会社法33条)。

 

③任意的記載事項

任意的記載事項とは、定款に記載しなくても問題にならない事項で定める義務がありません。定める内容は法律や公序良俗に反しなければ自由に設定することが可能で、該当項目としては以下の項目などが含まれます。

 

  • 事業年度
  • 定時株主総会の招集日
  • 取締役等の役員数
  • 役員報酬の決定方法
  • 議決権の代理代行者
  • 株主総会の議長

 

任意的記載事項を定めるかどうかは自由ですが、定めると効力を有するため会社のルールをより適切なものにしていくことができます。ただし、変更する場合は定款変更の手続(株主総会の開催、特別決議)が必要です。

 

 

3 定款の事業目的の望ましい内容と作成

ここでは会社設立後の経営に少なからぬ影響を与える事業目的について、その望ましい設定内容や問題への対応などを説明しましょう。

 

 

3-1 事業目的の例

事業目的は各企業によって異なるのは当然ですが、業種ごとによく使用されているパターンがあります。事業目的を検討する際は、そうした一般的な業種の例を参考にするのもよいでしょう。参考までに業種の例を以下に示しておきます。

 

A 保険代理店業

  • 生命保険の募集に関する業務及び締結の媒介に関する業務
  • 損害保険の代理業、自動車損害賠償保障法に基づく損害保険代理業
  • 各種損害保険代理店業及び生命保険の募集に関する業務

 

B 不動産業

  • 不動産の売買、仲介、斡旋、賃貸及び管理
  • 不動産の所有、売買、斡旋及び貸借に関する業務並びに不動産の清掃業務及び警備保守業務
  • アパート、マンション、オフィス及び駐車場の管理・運営及び経営
  • 不動産鑑定業並びに不動産に関するコンサルティング
  • 宅地造成、都市開発、都市計画及び景観に関わる企画、設計、施工、管理

 

C 金融業

  • 金銭貸付、債務保証、債務の引き受け、債権の売買並びにその他の金融業
  • 財務、販売及び給与管理システムの導入・運用の支援

 

D 投資・株式売買の関連事業

  • 証券市場、商品先物市場、為替市場等における投資及び運用
  • 有価証券の売買、保有、投資、運用及び投資に関わるコンサルティング
  • 株式の保有、売買及びその他投資事業

 

E 商業(小売業、販売、卸業)

  • 衣料、雑貨品の企画、デザイン、製造、販売業
  • アクセサリー、雑貨品の販売
  • ギフト用品の販売
  • スポーツ用品の販売並びにスポーツイベントの開催支援
  • キャラクター品の販売並びに企画、開発、デザイン
  • 紳士服、婦人服、子供服、学生服の企画・製造・販売並びに輸出入
  • 衣料品、雑貨品、装身具、鞄、貴金属、宝石の輸出入業務並びに販売
  • 古物の販売及びリサイクル店の経営
  • 古物営業法による古物商

 

 

3-2 適切な事業目的を作成するためのポイント

①何を実際に行う会社であるかを示す

定款の事業目的には実際に行う事業を示すことが第一に求められるため、行わない事業を記載してはいけません。

 

事業目的の記載では業務として行う事業を想定して定款に盛り込むことが基本です。該当業務を端的に示しておくことで「当社は○○業で△△の設計から製造・販売のほか、商品の企画等のコンサルティングまで行います」といった内容が第三者に理解してもらえます。

 

つまり、自社が何の会社、どのような会社であるかを示すことができるわけです。自社に対して取引や融資を検討する取引先や金融機関などにとって、定款の事業目的は新設会社を評価する判断材料となることもあるため、曖昧・漠然とした内容ではなく具体的かつ端的に示すようにしましょう。

 

なお、事業の対象としては、本業として収益を上げる、つまり売上を計上する事業が該当します。逆に営業外収益で計上するような業務は除いておくべきです。

 

②将来取り組む可能性の高い事業も含める

事業目的の内容では実際に行う事業を記載するのが基本ですが、近い将来などに取り組む可能性の高い事業も含めておくべきです。特に本業と関連して比較的近い将来に始める可能性がある事業は記載しておくほうが良いでしょう。

 

もし定款に記載していない事業を始める場合には定款の変更が必要となり、変更手続の手間と登記費用がかかります。そのため将来取り組む可能性のある事業はある程度記載するのが一般的なのです。

 

ただし、記載することで融資や保証などに影響する業種もあるため、その点を考慮して記載することが求められます。

 

③法令順守であるとともに許認可への影響を考慮する

業種によっては一定の資格など保有しておかないとできないものや、行政等の許認可が必要なものがあるため、それらを考慮した事業内容を記載しておくべきです。

 

たとえば、弁護士や税理士などの業務は各々の資格を保有する者に認められる業務であり、同等の資格を保有していない場合は行えません。それにもかかわらず定款で「税理士代理業務」など記載するのは不適切であり、実際業務を行うかどうかにかかわず法令違反が問われることになり得ます。

 

また、事業を行うにあたり、免許の申請、許認可が必要な事業では、定款に該当する事業内容の記載が必要です。

 

たとえば、宅建業の免許を申請する場合、定款の事業目的には「不動産の売買、賃貸、仲介、管理」や「宅地建物取引業」などの内容を記載しておかねばなりません。

 

古物商の事業で会社を設立する場合、定款に「古物営業を営む」旨の内容が読み取れる記載が求められます。たとえば、「○○の中古品等の買取り及び販売」などです。

 

人材紹介業や派遣事業は許認可が必要となる事業であるため、「有料職業紹介事業」や「労働者派遣事業」などと記載することになります。

 

建設業の場合、「軽微な建設工事」を除き公共工事であるか民間工事であるかに関わらず、建設業法第3条に基づき建設業の許可が必要です。なお、建設業の許可は建設工事の種類別に行われるため、定款では「建設業」ならびに該当する専門工事の種類などを含めるようにしましょう。

*「建設工事は、土木一式工事と建築一式工事の2つの一式工事のほか、27の専門工事の計29の種類に分類されており、この建設工事の種類ごとに許可を取得することとされています」(出典:国土交通省WEBサイト)

 

介護保険法に基づく介護保険サービス関連事業はその目的に合致した所定の文言を記載しなければなりません。

 

以上のほか飲食業や旅行業なども許認可を取得する際にその業種に適した事業目的の記載が求められるため注意しておきましょう。もし適切な記載がない場合は事業の許認可が下りないこともあり、定款の変更が余儀なくされます。

 

④事業数は適度な数に留める

事業における許認可や将来の可能性などの点から定款に記載する事業数が多くなるケースはありますが、意味なく多数の事業を羅列するのは避けるべきです。

 

将来やってみたいという思いから事業間の関連性が希薄な事業を多数並べると企業のビジョンや戦略などの面で一貫性が感じられず経営に不安を抱かれる恐れが生じます。「いったい何の会社なのか」「何をしたい企業なのか」といった疑問や不安に繋がるわけです。

 

売上計上のある主な事業、許認可等で必要となる事業内容の記載はすべて含める必要がありますが、無暗に羅列するのは避けましょう。中小規模の会社の場合は、全部で10種類程度が1つの目安になります。

 

なお、関連する事業の範囲を広げたい場合は「前各号に附帯または関連する一切の業務」などと記載しておくべきです。そうすれば具体的な事業を細かく記載する手間がなくなり見栄えも良くなるはずです。たとえば、以下のように記載します。

 

第2条 当会社は、次の事業を行うことを目的とする。

  1. (1)○○の製造及び販売
  2. (2)△△の輸入及び販売
  3. (3)前各号に附帯又は関連する一切の事業

(出典:日本公証人連合会WEBサイトより)

 

⑤取引や融資に影響する事業は慎重に検討する

将来取り組む可能性のある事業を定款に盛り込む際には、取引や融資への影響も考慮して記載を検討すべきです。

 

業種によっては融資や信用保証の面でその対象外とされるケースがあります。たとえば、信用保証協会では農業・農業的サービス、林業、水産養殖業、金融・保険業や風営法に該当する事業などは保証の対象外となる可能性があるのです。

 

銀行などの金融機関においては、金融業や性風俗業への融資は控えられています。

 

現在は行っていなくても、実際は上記の業種と関係ない場合でも、その可能性が読み取れる、想起される事業内容が記載されていれば、融資等に影響が及びかねません。そのため上記のような影響のある事業内容を記載する場合は慎重に判断する必要があります。

 

⑥その他の制限に注意する

会社の定款の事業目的を決定する上で4つの重要な形式的要素があり、その点を押さえた作成が求められます。その4つとは適法性、営利性、明瞭性、具体性です。

 

適法性は先に説明した法令遵守が該当し、明瞭性や具体性は①などの「何の会社であるか」を明確に示すことになります。たとえば、「製造業」、「販売業」、「サービス業」の場合は、「半導体装置の製造」、「商業施設等で利用する什器・備品の販売」、「イベントの企画・運営のサポート及び運営の代行サービス」といった内容で示すことです。

 

営利性については、会社の場合営利を追求するのが会社という存在であるため、会社の事業目的は営利を目的とした事業に限られ非営利事業を目的することができません。

 

そのため定款で、「社会福祉」「社会貢献」や「○○のボランティア活動」などを主たる事業目的とするのは不適切です。ただし、製造業などを主たる事業としてその事業に伴い社会貢献活動に関連した表現を使用しても問題にはならないでしょう。

 

最後に事業目的の書き方についてですが、記載する文字は日本語(ひらがな、カタカナ、漢字)のみとなっている点は注意しておくべきです。つまり、アルファベットなどの外国語は使用できません。

 

そのため、業界用語などで一般的にアルファベットの略字等が使用されている場合でもカタカナなどを使用して記載する必要があります。ただし、「Tシャツ」「IT機器」といった日本の日常生活で使用される単語などは認められるケースもあるため、法務局で確認したほうがよいでしょう。

 

 

3-3 適切な事業目的の設定による経営の質の向上

事業目的を適切に設定することで経営の質が向上し、会社の発展が促進されます。

 

会社設立後事業を推進し企業を成長させていくには的確な目標を設定しそれを実現するための資源を用意するとともにその資源を有効活用して事業を効率的に展開しなければなりません。

 

この一連の流れを端的に示すと、経営目標の設定⇒環境分析⇒対象事業の選定⇒戦略目標の設定⇒各種行動計画の策定⇒計画の実施 という経営戦略の策定と実施という戦略フレームに落とし込めます。

 

事業の成功確率を高めるためには、上記のような経営戦略の策定の流れの中で対象事業を絞り込み選定することが不可欠です。適切な環境分析(SWOT分析等の外部環境及び内部環境の分析)に基づいてターゲットを選定し、ターゲットのニーズを充足する商品・サービスを設定するとともにライバルに勝利し売る提供方法などを考えだすことが求められます。

 

こうした作業を経て具体的な事業内容が浮かび上がるようになり、定款の事業目的として相応しい事業内容になるのです。

 

しかし、会社設立前に詳細な経営戦略や事業計画を策定することは容易でないため、定款の事業目的としてはとりあえず想定している事業内容を羅列する程度に終わる傾向がよく見られます。

 

定款の事業目的の内容としては、先の4つの形式的な要素などが満足できていれば事足りることになりますが、事業を成功させ会社をより成長させていくための経営戦略や経営管理の点では不十分です。

 

経営戦略策定の中で事業が絞り込まれてこそ経営目標をより少ない資源と時間で達成することが可能となりますが、大雑把に事業が設定されれば失敗の可能性を高め、非効率な行動を生み出しかねません。

 

ターゲットの主要なニーズとかけ離れた事業を推進しても大きな成果が得られず、資源を浪費することになります。こうした無駄をなくし主たる事業の目標を達成するには経営戦略の視点で事業目的を設定するという意識を持つことが重要です。

 

 

4 定款の機関設計の望ましい内容と作成

機関設計は会社の意思決定を行い、会社の運営・管理を担う地位や会議組織などを決めることです。各々の会社の状況にあった組織を作り上げることが会社の成長に貢献するため、設立者は指導力を発揮しやすく運営しやすい組織にするための適切な機関設計が求められます。

 

 

 

4-1 公開会社にするか非公開会社にするか

定款における公開会社とは、発行株式の全部又は一部について譲渡制限に関する定めを設定していない株式会社のことです。非公開会社とは、公開会社とは逆に発行株式に関する譲渡制限に関する定めを設定している株式会社を指します。

 

どちらにするかで会社運営に大きな差が生じるため、各々の特徴を理解して決めるようにしましょう。

 

・公開会社

公開会社は、株式の譲渡制限がないため不特定多数の株主をもつことが可能で、結果として株主や債権者の数が多くなり、会社の規模も大きくなる傾向があります。

 

会社の成長・発展を促進していく上で多様な資金調達手段を確保するためには公開会社にすることは有効です。しかし、会社法等のルールに基づく様々な制約を受けることになり、会社自治への制限や監視が強まることになります。

 

また、競合関係者などが株主に加わる恐れがあり、情報漏洩や経営への良からぬ圧力などが生じないとも限りません。もちろん競合関係者以外の株主から利益配分や経営に対する要望といった圧力が加えられ経営権が侵害される恐れもあります。

 

・非公開会社

現在、非公開会社は小規模な会社を中心に株式会社の大半を占めると言われるほど多いです。非公開会社の特徴は公開会社に比べて会社法等での制限が少ない点で会社自治の自由度が高いと言えます。たとえば、取締役会の設置が任意となる、役員の任期が定款により10年まで伸長できるなど、機関設計での自由度が高いです。

 

・設計のポイント

株式会社による会社設立を行う場合、設立当初から多額の資金確保や資金調達先の多様化などが必要ないなら非公開会社で設立するほうが望ましいでしょう。株主からの圧力、競合会社からの影響などを回避し会社自治の自由度を高めたい場合には非公開会社のほうが有効です。

 

 

 

4-2 取締役会設置会社にするか取締役会非設置会社にするか

取締役会設置会社とは取締役会が設置された株式会社で、設置されていない会社が取締役会非設置会社です。

 

取締役会は3人以上の取締役で構成される会社経営(業務執行)に関する意思決定機関で、公開会社、監査役会設置会社、委員会設置会社はその設置が義務付けられています。これら以外の会社の場合は、定款で定めることで設置が可能です。

 

・取締役会設置会社のメリット

取締役会設置会社では業務執行の決定は取締役会が担うことになるため、株主総会を開催する手間が少なくなります。つまり、迅速な会社運営が可能となり機会損失を防ぎ問題を拡大させないといった機動的な経営が実現しやすくなるのです。

 

また、取締役会が設置されているという点で対外的な信用度の向上が期待され、取引や融資などでの効果も期待されます。

 

・取締役会設置会社のデメリット

取締役会設置会社は取締役を3人以上設置しなくてはならず、監査役または会計参与も設置しないといけないため、その選定の手間や役員報酬の増加といった負担が強いられることになります。

 

また、株主総会に関わる手続面等では、取締役会設置会社のほうが非設置会社よりも負担が大きく手間がかかりやすくなります(株主総会の招集通知の通達するタイミング、招集通知での計算書類等の提供や議題提案権等)。

 

・設計のポイント

取締役会設置会社にするか否かの判断は各会社の状況や、取締役会設置会社にすることによるメリット・デメリット等を考慮して判断しなければなりません。

 

取締役会を設置しない場合、株主総会で業務執行の意思決定を行うことになるため運営上迅速性や柔軟性に問題が生じやすくなりますが、同族会社など少数株主が経営する会社などでは影響は過少です。

 

少数の株主が取締役となっていれば、株主総会の開催も容易でありシンプルな会社運営が可能で取締役会を設置する必要はないでしょう。ただし、取締役会非設置会社で外部株主が存在する場合、株主総会における緊急動議、株主の監査是正権など経営者以外の株主の権限も強化されるため注意が必要です。

 

 

 

4-3 役員の任期をどう設定するか

役員の任期は公開会社と非公開会社で異なりますが、任期の設定が会社運営に影響を及ぼすケースもあるため安易な設定は避けましょう。

 

・取締役及び会計参与の任期

公開会社の場合原則は2年で定款の定めにより短縮は可能です(伸長できない)。他方、非公開会社の場合原則は2年で、定款の定めにより10年まで伸長できます(短縮もできる)。

 

・監査役の任期

公開会社の場合監査役の任期は4年で、伸ばすことも短縮することもできません。他方、非公開会社の場合原則は4年で、定款の定めにより10年まで伸ばせます(短縮はできない)。

 

公開会社にすると役員の任期は伸長できないため、非公開会社と比較して再任などで手間と費用がかかるというデメリットがあります。しかし、非公開会社にして役員の任期を10年など長期間に設定しておくと、対象役員は長期間固定されることになるわけです。

 

もし役員間で対立が生じたり、役員の経営能力に疑義が生じたりすると役員の長期固定化は問題になるでしょう。もし任期の途中で対象の役員を解任したりすれば訴訟問題にもなり得ます。

 

このような問題が生じる可能性もあるため、今後の会社運営や経営への影響などを考慮して状況に適した期間を設定しなければなりません。

 

 

 

4-4 株主数が増えてきた場合どうするか

取引や資金調達など様々な理由から株主が増えてきたら株主総会を開催するのも簡単ではなくなり手間と費用が増すだけでなく業務執行の意思決定の遅延という問題も生じやすくなります。

 

そのため株主数が一定以上になれば、取締役会を設置して会社運営の機動性を確保していくことも必要です。株主が何人以上になれば株主総会が簡単に開催できなくなるかは会社ごとに異なるため、自社の状況をよく観察して検討することが求められます。

 

株主がある人数以上になって株主総会が容易に開けない、スピーディーな経営ができないと感じ出したら業務執行の意思決定を委ねる取締役会の設置を真剣に検討しましょう。

 

 

5 役員報酬とは

定款作成や取締役の選任などのように会社設立時は決めなければならない項目が多いため、代表者自身に関わる役員報酬など、つい忘れてしまうことがあります。しかし、会社の役員報酬というのは、充分な準備をしておかないと、主に税金面で不利益を被ることになります。

 

役員報酬と従業員の給料との違いを整理します。従業員と会社は、「雇用契約」を締結し、契約に基づいて給料が支払われることになります。一方、役員と会社の関係は、株主総会から一年間、会社の経営を任されるという「委任関係」にあります。委任を受けた役員は、民法上は特約がなければ委任者(会社)に対して報酬を請求することはできません(民法第648条第1項、会社法第330条)。

 

 

 

5-1 会社法上の役員報酬

しかし、実務上は、下記の会社法の取締役の報酬等についての規定を根拠として、報酬が支払われています。

 

《会社法第361条》

  1. 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益について次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
    1. 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
    2. 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
    3. 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容
  2. -略-
    *会計参与の報酬等(同法第379条)、監査役の報酬等(同法第387条)-略-

 

このように、定款で定めるか株主総会で決定することが明記されており、法的に適正な手続きを経ないと役員報酬の支払いはできません。最も一般的な支給形態は第361条第1項第1号の確定報酬型(事前確定型の年俸月割り)です。同法第2号は変動報酬型と言われ、業績変動や物価変動の報酬で、具体的算定方法を定款で記載するか株主総会で決定することになります。

 

会社法でこのような規定が設けられているのは、役員のお手盛りを防止するためです。役員が自分たちの報酬を自在に決めることができると、会社の利益を害し、結果、株主利益をも害することにつながるからです。

 

 

 

5-2 法人税法上の役員報酬

法人税の取扱い上は、株主総会で総報酬額を決議し、その範囲内で定めた各役員の支給額を限度に支給すれば、損金算入が認められることになっています。これは、株主総会による機関決定額の範囲内であることに適正性を認める形式基準と言えますが、自社の業績や業界水準との比較において不当に高額なものは認めないという実質基準(法人税法施行令第70条第1項第1号)を設けて、高額報酬に対する税法上の歯止めをかけています。

 

この制度の実効性を確保するため、役員に定額報酬を支給する場合は、株主総会又はそれに代わる決議機関の決議とその内容を記載した議事録の作成が必要となります。また、定期報酬に加え、賞与等の一時金を支給する場合は、事前の株主総会等の決議とその内容を記載した議事録を添え、所定の期限までに所轄税務署長宛てに届け出る必要があります。

 

なお、株主総会決議や事前の届出等を含め、これらの手続きの有無並びに適正性は、税務調査時に確認される事項ですので、会社法並びに税法への適法性を確保することは、役員報酬決定に当たって極めて重要なポイントとなります。

 

 

6 法令・税務上重要な事項

適法性を確保するためには、役員報酬の支給に係る規程類の設定が必要となります。役員報酬額の決定のあり方としては、前述した会社法の趣旨である「役員のお手盛り防止」を念頭に置けば、株主総会においては、各年度の役員に対する報酬総額を決定(取締役と監査役の各総額です。)することでその目的は達せられますし、実務上も、ほとんどの企業が総額決定となっています。

 

 

 

6-1 手続き等の適法性確保

この総額決定を前提とし、役員報酬支給に係る基本規程及び支給額を定める決議機関の議事録等が必要となります。決議機関の議事録は、総額決定に係る株主総会議事録、取締役会議事録、監査役の協議記録(監査役会議事録)等で、これらの会議等が適法に開催され、議事録が作成されなければなりません。株主総会での総額の決定を受け、各役員の報酬額を決定するときは、基本規程の定めによることになります。その内容は、取締役の報酬については取締役会、監査役の報酬については監査役の協議に従うというのが一般的です。

 

株主総会で総額を決定した後の取締役会及び監査役の協議において、各役員の報酬を決定したときも、その内容を記載した議事録の作成が必要となります。また、各役員の報酬を代表取締役が決めるという定めになっているような場合は、代表取締役が報酬を決定したことが分かる文書等を整備する必要があります。

 

 

 

6-2 役員報酬・賞与規程等

大規模企業には、役員報酬に関する規程を含め多様な規程類が設けられていますが、同族色の強い会社など中小企業においては、規程類が整備されていない場合が多く見受けられます。規程未整備の会社においては、代表者が決定することになりますが、そこには恣意的な判断が入る可能性が高いため、コンプライアンス経営が叫ばれる現代の企業経営にあっては、好ましい状態とは言えません。

 

したがって、これから会社を設立する場合は、役員報酬の支給に関する規程を作成することが望ましいと考えられます。規程のイメージを掴んでいただくため、下記に役員報酬・賞与規程の一般的な記載内容を紹介します(編成、項目とポイントのみ記載)。

 

役員報酬・賞与規程(参考)

 

第1.役員報酬

  1. 1. 目的
  2. 2. 役員の定義
  3. 3. 職務執行期間(事業年度ではなく、役員任期のカウント期間である株主総会から株主総会までを記載)
  4. 4. 決定方法(各取締役の報酬は、株主総会で決定された報酬等(報酬と賞与の合計額)の総額の範囲内において、取締役会で決定する。各監査役の報酬は、株主総会で決定された報酬等の総額の範囲内で、監事の協議により決定する)
  5. 5. 常勤役員の報酬(常勤役員の報酬額について、役付けごとに算定方法を記載)
  6. 6. 非常勤役員の報酬(一般的には定額。算定基準を設ける場合は、その内容を記載)
  7. 7. 役員報酬の構成(使用人兼務役員の取扱いを含む)
  8. 8. 通勤費
  9. 9. 休職時の取扱い(休職時の報酬の支給・不支給などを記載)
  10. 10.報酬の改定(改定する場合の要件や基準を記載。総額は毎期株主総会に付議に留意)
  11. 11. 臨時措置等(業績悪化や特殊事情による報酬減額時の措置)
  12. 12. 報酬の支給日(定期同額が税法上の重要な要素。支給日を明記)
  13. 13. 控除項目(所得税、住民税、社会保険料等支給時に控除する項目)

第2.賞与

  1. 14. 賞与の決定(報酬とあわせ株主総会決定の総額以内での支給ルールを記載)
  2. 15. 賞与の支給日

第3.就任・退任時等の取扱い

  1. 16. 就任・退任時等の報酬の支払い(例:月の途中で就任又は退任した場合の報酬関係)

(付則)
この規程は、○○年〇月〇日から施行する。

 

 

 

6-3 役員報酬の損金算入の可否

役員に対して支給する報酬は、企業会計上の費用であっても税務上の損金として認められなければ、企業にとってはその分税務上の利益が増加し、税金が多くなってしまいます。役員報酬のうち、下記の報酬のいずれにも該当しないものは、法人税法上の損金に算入できませんので注意が必要です。

 

《損金算入される役員報酬》

  報酬類型 内容
定期同額報酬 支給時期が1か月以下の期間ごとであって、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの(法人税法第34条第1項第1号)
事前確定届出報酬 特定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する報酬(①と③を除く)で、その内、所定の報酬は所轄税務署に事前に届け出たものをいう(同条第項第2号)(例:賞与)
利益連動報酬 同族会社に該当しない法人がその業務執行役員に支給する利益連動報酬で、所定の要件を満たすもの(同法同項第3号)。所定の要件の説明は省略します。

 

一般的な①の類型において、損金算入の可否が問われるのは、役員報酬を期中に改定した場合です。全額を損金算入することができる要件は以下の通りであり、これ以外は損金不算入となります。

 

〇3カ月以内に改定が行われる場合

定時株主総会で改定が行われる場合で、当該事業年度開始の日の属する会計期間3カ月経過日までに行われていれば損金算入が可能です。

 

〇役員の職制上の地位の変更等によって改定される場合

役付取締役(専務・常務等)が平取締役に降格した場合は損金算入が可能です。

 

〇業績悪化によりやむを得ず改定した場合

経営状況が著しく悪化(判断基準があります)し、減額改定が行われた場合は損金算入が可能です。

 

 

7 事業計画と役員報酬決定時期

法人を新規設立した場合の役員報酬については、設立時から3カ月以内に決定しなければなりません。この場合においても、前述の通り、株主総会で総額を決定するとともに規程類を整備するなど適法性を備えなければなりません。会社の新設に当たっては、事業計画(損益計画、資金繰り等)を作成しますが、この時に意外と悩ましいのが役員報酬であると言われています。

 

会社法のお手盛り防止規定のところで触れたたように、役員報酬には手続きの適法性と金額の妥当性(業界水準や自社の損益状況との相当性においての上限規制)が求められます。また、初年度の役員報酬をゼロとするなど過度に抑制するケースも見られますが、業績好調の場合には法人税負担が大きくなるなど、健全な損益管理の観点からお奨めすることはできません。

 

単なる数字合わせではなく、資金繰りを含め、事業方針と事業推進方策に基づく四半期計画を含めた緻密な事業計画とし、収益目標と納税額を想定した上で役員報酬を決定するなど、根拠を明確にすることが大きなポイントとなります。

 

 

8 法定福利費の負担

法定福利費負担も考慮しなければなりません。健康保険料(40歳から64歳までは介護保険料含む)と厚生年金保険料ですが、これらは従業員と同じく会社と当人の折半です。健康保険も厚生年金も標準報酬月額に対して保険料率(どちらも保険料率は一律です)を乗じて保険料が決まりますので、標準報酬が上がるほど保険料も上昇することになります。2018年4月1日現在の、健康保険における標準報酬月額の上限は139万円(折半前の保険料月額:159,433円)、厚生年金保険の標準報酬月額の上限は62万円(折半前の保険料:113,460円)です。社会保険料は会社にとっても当人にとっても高額な負担といえます。

 

この関係で話題になるのが、賞与に係る健康保険料と厚生年金保険料の計算基礎となる標準報酬額の上限額です。健康保険料の場合、年度支給累計額で573万円、厚生年金保険では1回の支給額150万円が上限となります。上限額を超えると保険料は一定額になるため、この仕組みを利用して、毎月の定額報酬の額を低く抑え、役員賞与で上限を超える額に設定して保険料総額を抑えるという手法を用いるのです。保険料を低く抑えることができれば、会社も役員当人も社会保険関係の負担を減らせるという意味では有益な手法と言えます。

 

しかし、制度上の問題はないとしても、定額報酬と年3回以内支給の賞与額に異常なアンバランスがあれば、年金事務所の調査対象になりますし、企業倫理の面からも十分な検討が必要であると考えられます。

 

会社設立初年度は、あらゆる面で慎重にならざるを得ないのは当然ですが、過度な役員報酬の抑制などは事業計画の妥当性に疑念が生じ、金融機関との取引に影響することも考えられます。事業計画は、経営に対する取組姿勢を対外的に示すことにもつながりますので、役員報酬の決定を含め、疎略な印象を与えないよう注意が必要です。

 

 

9 まとめ

定款は株式会社の設立にあたって法的に提出が義務付けられている書類ですが、会社のルールブックと呼べるものであるため、設立後の会社の運営・経営に大きく影響します。
そのため法務局に提出する単なる書類として扱うのではなく、会社を発展させるための根拠資料として役立てるべきです。定款に記載する項目は多数ありますが、中でも事業目的や機関設計などは今後の会社経営に大きく関わるため慎重な検討が求められます。
事業目的では、実際に行う事業、将来取り組む可能性のある事業、法令に則した事業、許認可を満たせる事業、取引・融資等に影響しない事業、などといった点の考慮が重要です。

 

また、実務においては定款に羅列した事業を遂行するだけでは、失敗したり運営が非効率になったりする可能性が高まるため、経営戦略の視点から事業を導き出し選定することも忘れないようしなければなりません。
機関設計は会社の業務執行の意思決定に関わる機関などを決める作業であるため重要です。そのため安易な機関設計を行うと会社運営の機動性や柔軟性が損なわれ会社の成長を阻むことになりかねません。
機関設計では、公開会社にするかどうか、取締役会を設置するかどうか、役員の任期をどうするか、株主が増えた場合にどうするか、などの点の考慮が重要になります。
将来の会社のあるべき姿を描きながら短期及び中長期の視点から現在の会社の機関がどうあるべきかを検討して設定するよう心掛けましょう。

 

 


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