日本は新型コロナウイルス感染症が蔓延する瀬戸際にあり、その経済も麻痺寸前であり倒産や廃業に追い込まれる企業のほか失業者も増えてきました。
こうした環境下での起業・会社設立は非常に厳しいものとなるため慎重な対応が求められる一方、今までとは異なった商品・サービスのニーズも見られ始め業態変更や新事業に取り組む企業も登場しています。
つまり、新型コロナ禍における起業等は困難な状況にあるものの、取り組み方によってはビジネスチャンスになり得るため、この時期での起業等は必ずしも無謀とは言えません。
そうした点を踏まえて、今回は新型コロナ禍の現状を経済全般や起業等においてどのように捉え、その中での起業・会社設立をどう考えるのか(中止する、延期する、推進する等)を説明していきます。
新型コロナ禍下でも起業を考えている方、ポストコロナ下まで会社設立を延期しようとする方などは是非参考にしてください。
1 新型コロナ禍下での起業・会社設立に関わる現状
新型コロナ禍が日本社会にどのような影響を与えているのか、その現状を確認してみましょう。
1-1 新型コロナウイルス感染症の状況
2020年5月2日時点(10時)での厚生労働省発表(現在感染者、退院者は1日時点)によると、新規感染者数は264人(前日比+75人)、累計感染者数14,545人、死亡者数458人(前日比+26人)、退院者数3,981人(前日比+515人)となっています。
世界での累計感染者数は300万人を突破しており、死者数においては22万人を超える状況です(5月1日時点WHO発表)。
日本国内のみの状況を見れば、累計感染者数は1万4千人を超えた状況ですが、新規感染者数は4月初旬から中旬にかけて6百人台後半だったものが4月末及び5月1日には200人前後とピークアウトの状況が見えてきました。
他方、世界全体での状況を見ると、地域により蔓延時期や拡大スピードが異なり、発症がピークアウトするところもあれば、急拡大している地域もあるという状況です。全世界での毎日の新規感染者数は8万人台を維持しており、全体としては以前感染拡大が収まっている状況とは言えません。
1-2 新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策
日本国内の新型コロナウイルス感染症の増加に伴い政府はその対応策の導入を進めてきました。
2020年2月13日には、「国民の命と健康を守ることを最優先に必要な対策は躊躇なく実行する」という方針を掲げ、帰国者等への支援、国内感染対策の強化、水際対策の強化、影響を受ける産業等への緊急対応などを柱として「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策」が立案されています。
また、3月10日には、国内の感染拡大の防止、諸課題への適切な対応のために「感染拡大防止策と医療提供体制の整備、学校の臨時休業に伴って生じる課題への対応、事業活動の縮小や雇用への対応、事態の変化に即応した緊急措置等」などを柱とする「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策-第2弾-」が立案されました。
4月7日には、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」がとりまとめられ、令和2年度補正予算案も閣議決定されています。
加えて同日に新型コロナウイルス感染症対策本部は、「新型コロナウイルス感染症に関して、全国的かつ急速なまん延による国民生活および国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある事態が発生した」と判断し、新型インフルエンザ等対策特別措置法第32条第1項の規定に基づいた「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」が発令さました。
なお、その実施期間は2020年4月7日~5月6日、実施区域は埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・大阪府・兵庫県・福岡県となっています。
さらに感染状況の悪化に伴い4月16日には、緊急事態宣言の実施区域が全都道府県に適用され、うち13都道府県(東京都・大阪府・北海道・茨城県・埼玉県・千葉県・神奈川県・石川県・岐阜県・愛知県・京都府・兵庫県・福岡県)は、特に重点的に対応が必要である地域として「特定警戒都道府県」に指定されました。
この緊急事態宣言の実施により全都道府県においては、新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(令和2年3月28日制定・4月16日変更)に基づいた具体的な対策が実施されることになったのです。
・「新型コロナウイルス感染症にかかる緊急事態措置」
上記の緊急事態宣言に伴い、各都道府県ではその対応措置を取り始めており、東京都は4月10日に「新型コロナウイルス感染拡大防止のための東京都における緊急事態措置等」を発表しています。その内容は以下の通りです。
- 1.区域:都内全域
- 2.期間:5月6日(水曜日)まで
- 3.実施内容:新型コロナウイルス感染症のまん延防止に向け、以下の要請を実施
(1)都民向け:徹底した外出自粛の要請(4月7日~5月6日)
・新型インフルエンザ等対策特別措置法第45条第1項に基づき、医療機関への通院、食料の買い出し、職場への出勤など、生活の維持に必要な場合を除き、原則として外出しないこと等を要請
(2)事業者向け:施設の使用停止及び催物の開催の停止要請(4月11日~5月6日)
・特措法第24条第9項に基づき、施設管理者もしくはイベント主催者に対し、施設の使用停止もしくは催物の開催の停止を要請。これに当てはまらない施設についても、特措法によらない施設の使用停止の協力を依頼
・屋内外を問わず、複数の者が参加し、密集状態等が発生する恐れのあるイベント、パーティ等の開催についても、自粛を要請
基本的に休止を要請する施設(特措法施行令第11条に該当するもの)としては以下のものが対象とされています。(施設の使用停止及び催物の開催の停止要請)
施設の種類 | 内訳 |
---|---|
遊興施設等 | キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホール、バー、個室付浴場業に係る公衆浴場、ヌードスタジオ、のぞき劇場、ストリップ劇場、個室ビデオ店、ネットカフェ、漫画喫茶、カラオケボックス、射的場、勝馬投票券発売所、場外車券売場、ライブハウス 等 |
大学、学習塾等 | 体育館、水泳場、ボーリング場、スポーツクラブなどの運動施設、マージャン店、パチンコ屋、ゲームセンターなどの遊技場 等 |
劇場等 | 劇場、観覧場、映画館又は演芸場 |
集会・展示施設 | 集会場、公会堂、展示場博物館、美術館又は図書館、ホテル又は旅館(集会の用に供する部分に限る。)※床面積の合計が1,000㎡を超えるものに限る |
商業施設 | 生活必需物資の小売関係等以外の店舗、生活必需サービス以外のサービス業を営む店舗※床面積の合計が1,000㎡を超えるものに限る |
*上記のほか、特措法によらない協力依頼を行う施設も指定
なお、施設の使用停止及び催物の開催の停止要請以外にも「適切な感染防止対策の協力要請」や「営業時間短縮の協力要請」を依頼する施設なども指定されています。
このような要請により国民の日々の暮らし、働き方や企業の活動は大きく制限されており、徐々に実態経済に悪影響が出始めています。
1-3 新型コロナ禍の影響による経済の実態
新型コロナ問題への対応に伴い、日本経済は様々な面で影響が出てきました。
①企業業績
SMBC日興証券の発表によると、4月30日までに業績を発表した3月期決算企業199社の2020年1~3月期の純利益合計が前年同期比67.3%減となりました。新型コロナ問題によりビジネス環境が急速に悪化していることが確認できます。
この調査の対象は東京証券取引所第1部の上場会社で、その数は全体の13.5%に該当するものですが、特に新型コロナの感染防止で求められた行動自粛などで影響の大きかった航空や鉄道分野の会社などでは赤字化が進展しました。
全体的に企業の純利益の減少幅が膨らんでいますが、非製造業の減少率が76.7%、製造業は59.3%となっています。また、東証によると4月30日時点で2部などを含めれば392社が3月期決算発表を当初予定から延期することを決めているのです。
株式会社東京商工リサーチでは「上場企業『新型コロナウイルス影響』調査(4月29日時点)」において、「4月29日までに、新型コロナ関連の影響や対応などを情報開示した上場企業は1,929社に達した」と発表しています。
全上場企業3,778社の51.0%が新型コロナウイルスにより影響を受けており、業績では下方修正が多く見られ当初予想から売上高は3兆1,416億円、最終利益は2兆3,646億円が減少しているのです。
このように国内企業は新型コロナ問題により影響を受けているわけですが、その感染拡大は全世界に広がり収束時期が予測できない状況です。そのためグローバル展開する上場企業の業績は今後さらに厳しくなることが予想され、国内経済は益々厳しい局面にさらされる可能性が高まっています。
・「新型コロナウイルスの影響を主な要因とした業績下方修正について業種別でみると、製造業が最も多く146社(構成比40.6%)と4割を占め(サプライチェーンの混乱や市場縮小などが原因)、サービス業が68社(同18.9%)、小売業が58社(同16.1%)となった」
この上位3業種で全体の75.6%を占めており、現在においてこれらが影響の大きな業種と言えます。
・「次期(2021年3月期)の業績予想は、163社中108社(構成比66.2%)が『未定』として開示しなかった」
現状においては新型コロナウイルスの感染拡大が今後どう業績へ影響するかについて、合理的に算定することが難しいと判断している状況が確認できます。
国内外の感染拡大の終息について予想がつかない状況ですが、国内では緊急事態宣言下での店舗やサービス業の休業、消費行動の抑制・停滞、海外の生産体制や材料調達などでの支障などが見られ、今期の業績は前年度より相当悪化する可能性が大きいと見るべきでしょう。
②企業の廃業・倒産の増大
東京商工リサーチ社は、4月30日(17:00)現在で「新型コロナ」関連の経営破たんが全国で累計109件(倒産79件、弁護士一任・準備中30件)に達したと発表しています。(30日は新たに経営破たんが4件発生)
「新型コロナ」関連の経営破たんは、2月が2件、3月が23件で4月は84件と急増しています。たとえば、滋賀県の琵琶湖湖畔に建つリゾートホテルが、インバウンド観光客の減少に伴い破産を申請するという滋賀県初の「新型コロナ」関連倒産があり、30日には宿泊業の2件が明らかになりました。
都道府県別でみると関連倒産は32都道府県に拡大し、その中で東京都の26件(倒産23件、準備中3件)と最多で、次いで北海道の11件(同10件、同1件)、静岡県と大阪府が各7件、兵庫県6件、新潟県と愛知県が各5件と続いています。
業種別では、インバウンドの消失と外出自粛の浸透の影響を受け宿泊業が24件(同17件、同7件)と抜きんでています。次いで同じく外出自粛の影響で売上の減少した飲食業が15件(同11件、同4件)、アパレル関連が10件(同5件、同5件)で、インバウンドと個人消費関連での依存の大きい業種による倒産が顕著です。
なお、28日には漏電しゃ断器メーカー(大阪府)の民事再生法適用の申請、自動車内装部品メーカー(東京都)の破産申請などが見られ、インバウンドや個人消費関連のみならず製造業、建設業など、幅広い業種に経営破綻が広がりつつあります。
中小・零細企業などは人手不足や消費増税などにより厳しい経営を余儀なくされてきましたが、その上に新型コロナ問題が加わり一層経営が困難な状況に陥ったとみられています。
③就業環境(失業者数、求人倍率、採用状況等)の悪化
型コロナ問題は企業の活動だけでなく、労働市場にも大きな影響をもたらしつつあることが明らかになり始めました。総務省が発表している3月の労働力調査では、製造業、宿泊業や飲食・サービス業などにおいて雇用が急減していることが確認できます。
そのため政府が緊急事態宣言を出した4月以降の雇用状態はさらに悪化するものと予想されるわけです。新規求人数も全体的に絞られる傾向があり、失業者数の増加もリーマン・ショック後の100万人を超える状態が懸念されています。
*独立行政法人労働政策研究・研修機構 HP 「新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響 完全失業者数」より出典
3月の労働力調査によると、完全失業者数は176万人で前年同月に比べ2万人の増加で、2カ月連続の増加となりました。求職理由別に前年同月で比較すると、「勤め先や事業の都合による離職」が4万人の増加、「自発的な離職(自己都合)」が8万人の減少、「新たに求職」が6万人の増加となっています。
なお、完全失業率は1月と2月が各々2.4%、3月が2.5%と完全失業者数の増加が反映される形となりました。今後の動向が気になるところですが、大和総研は「新型コロナ感染拡大で迫る雇用危機」(2020年4月27日)で、年末まで感染が拡大していけば雇用者数は301万人減少し、失業率が6.7%となる恐れがあると指摘しています。
厚生労働省が28日に発表した3月の有効求人倍率*は1.39倍で、前月を0.06ポイント下回っています。この1.3倍台は2016年9月以来3年半ぶりの水準です。
*有効求人倍率:仕事を探す1人に対して、企業から何件の求人があるかを示す指標
また、企業の採用活動にも影響が出始めています。株式会社ディスコキャリタスリサーチによる「新型コロナウイルス感染拡大による採用活への影響」では以下のような点が浮き彫りにされました。
1)新型コロナウイルス感染拡大による(企業の)採用活動への影響
- ・「かなり影響がある」(46.3%)「やや影響がある」(42.2%)をあわせて約9割の企業が影響を受けたと回答
- ・従業員規模別では、規模が大きいほど「かなり影響がある」の割合が高く大手では5割強に上る(56.4%)
- ・業界別で「かなり影響がある」の比率が高いのは、「IT」(53.5%)、「商社・流通」(49.2%)
2)3月下旬時点の採用活状況
- ・「基本的には進めているが、一部見合わせている」が最多(47.7%)。「当初予定通り進めている」は2割強
- ・WEB活用による代替など感染防止策を講じながらも採用活動を継続する企業が大半
- ・「採用を取りやめる」は1%未満
3)2021年卒採用予定数への影響(当初計画/前年との比較)
- ・採用数は「当初の計画通り」が7割を占める(70.6%)。「下方修正する見込み」は調査時点で1割未満(9.0%)
- ・前年比較では「前年と同程度」が5割超(55.0%)。「減らす」(17.6%)が「増やす」(14.3%)をやや上回る
以上のように企業の採用活動において、採用を見合わせるといった抑制的な動きも見られるようになってきました。
2 新型コロナ禍の現在で起業・会社設立する場合の影響や問題点
新型コロナ問題によって人々の暮らし方や働き方、企業の経営の仕方などが影響を受け、様々な問題に直面するようになってきました。ここではそのことが起業や会社設立にどのような影響や問題をもたらすのかを確認していきます。
2-1 インバウンド需要目当ての起業は困難に
新型コロナ問題に伴う入国規制措置が実施されている現状において、インバウンド需要目当ての起業や会社設立は極めて困難な状況にあると言えます。
日本政府は、2月には外国人の入国を原則拒否する対象として中国の湖北省と浙江省、韓国の大邱(テグ)市などに限定していましたが、3月に入りイランや欧州も拡大させました。
また、この措置とは別に3月下旬からは入国後2週間、ホテル等での待機などを要請する国や地域も拡大し、米国やシンガポール、タイなど多数の国が対象となっています。
こうした対応の結果、訪日外客数が以下のように大幅に減少し始めました。
2020年 訪日外客数(総数)*日本政府観光局データより
1月:2,661,022人(前年同月比▲1.1%)
2月:1,085,100人(▲58.3%)
3月:193,700人(▲93.0%)
また、国別では中国と韓国の訪日外客数の減少が大きく、3月の伸び率ではどちらも▲97%以上になっています。このようにこれまで堅調に伸びてきた訪日外客数は壊滅状態に陥り、加えて夏の東京オリンピック・パラリンピックも来年に延期されたため、当面インバウンド需要の回復が期待できない状態なのです。
2-2 行動自粛と施設の停止要請で飲食・サービス業の起業は困難に
都道府県から新型コロナ対策として、行動自粛と施設の停止などが要請されまともな事業活動が困難になっているため、これらに関連する事業での起業等は失敗する可能性が小さくありません。
政府から緊急事態宣言が出され5月6日以降においても延長される可能性が濃厚となっており、国民の行動自粛の意識もようやく高まってきました。その結果、新規感染者数はピークアウトを迎えつつありますが、不要不急の外出や買物が手控えられるようになり消費の減少が顕著になってきたのです。
消費動向調査(2020年4月実施分)によると、以下のような結果が確認できます。
1)4月の消費者態度指数(二人以上の世帯、季節調整値)は、3月の30.9から9.3ポイント低下して21.6となり、4カ月連続で前月を下回った。消費者態度指数を構成する4項目全てが前月から低下した。
2)消費者態度指数の動きから見た4月の消費者マインドの基調判断は、急速に悪化している。
消費者態度指数(二人以上の世帯)の推移
季節調整値 (前月差)
2020年 2月調査 38.3 (▲0.5)
3月調査 30.9 (▲7.4)
4月調査 21.6 (▲9.3)
また、総務省の家計調査報告(2020年2月報告)を見ると、「消費支出の対前年同月実質増減率の推移(二人以上の世帯)」では1月と2月の消費支出は▲3.9%と▲0.3%となっています。3月の減少は5カ月連続の実質減少となっているのです。
「消費支出(季節調整済実質指数)の推移(二人以上の世帯)」では、2015年を100とした場合の1月と2月の値は95.7%と96.6%となっています。
4月7日に「緊急事態宣言」が発令された結果、対象地域では各緊急事態措置が実施されており、消費者の行動自粛とともに事業者に対しては休業要請する施設などが発表されました。
遊興施設等、大学、学習塾等、劇場等、集会・展示施設、商業施設については、施設の使用停止及び催物の開催の停止が要請され、飲食店は原則営業を継続できるものの宅配・テイクアウトを除き営業時間の短縮が要請されています。
従って、娯楽や教育等のサービス業、一定規模以上の商業施設にある小売業、イベント関連業種などは営業が困難な状況にあり、飲食店関連も事業が大幅に制約されているのです。
こうした状況を受けて、先に確認したように飲食・サービス業関連の企業倒産に繋がっており、この分野の起業等も非常に難しい状況にあると言えるでしょう。
2-3 サプライチェーンの毀損で原材料・部品の調達が困難に
新型コロナ渦の影響で人の移動制限や生産活動の停止などが要請され、ヒトやモノの動きが急激に停滞し始め、グローバル規模のサプライチェーンの一部が機能不全に陥りました。その結果、製造業や流通業において原材料・部品等の調達で問題が生じるようになったのです。
新型コロナウイルス感染症の発生地とされる中国は近年まで「世界の工場」の役割を担い日本との間では、日本からの輸入が年間1,440億ドル、日本への輸出が760億ドルまで拡大しています。
日本側にとっては、この中国からの輸入の中に国内工場等で使用する原材料・部品・製品が含まれており、中国は日本においても重要なサプライチェーンとしての機能を担っているのです。しかし、今回の新型コロナ問題により中国からの調達品に入手困難或いは大幅遅延などが生じており、事業に影響を及ぼし始めました。
具体的には、国内工場で作る製品の部品等が中国から入って来なくなってきたため、生産計画が大きく狂いだす事例が増えています。特に自動車産業では中国からの部品調達が増えていたため(全体の2~3割程度)、日産自動車の九州工場のように今回の新型コロナ問題で調達が滞る事例が発生しているのです。
また、製造業だけでなくエンターテインメント分野、特にアニメ制作の分野で、中国の都市封鎖に伴うアニメ制作作業の遅れが影響し始めています。現在ではアニメの絵を描く動画や原画、背景などの作成を中国に外注するケースが少なくないです。
そうした状況の中、今回の新型コロナ問題により中国での制作が困難となったため、日本の制作会社だけでは仕事量をさばけない状態に陥り放映の延期などに繋がっています。
中国のサプライチェーンが毀損したことにより日本政府は海外生産拠点の分散・再編成を支援する方針を発表しました。この流れを受けて脱中国の動きが少しずつ進展し、東アジアに集中した生産拠点や調達先の分散化、日本への生産回帰が進むと予想されます。
従来のように中国をサプライチェーンに組み入れて安価な原材料・製品を調達する、豊富な労働力を活用すると期待しても上記の状況や米中の対立などにより、別の対応に迫られる可能性が増大してきたのです。
2-4 従来型の採用活動では人材確保が困難に
企業の採用活動にも新型コロナ問題が影響しており、起業・会社設立する企業においては以前に増して人材確保が難しくなるため、より慎重な対応が求められます。
たとえば、2月中にインターンシップを実施し3月から本格的な採用活動に入る予定だったところ中止に追い込まれたという企業も見られ始めました。入社希望者を一堂に集めて説明会を行ったり、インターンシップで入社体験や実務経験させたりすることが難しくなっています。
これまでの人手不足を背景として労働市場は売り手市場であったため、丁寧な採用活動が必要とされ内定者に対する対面を中心としたコミュニケーションが行われてきましたが、現状ではそれも困難です。そのため内定者に対するフォロー不足から内定辞退者の増加を心配する企業も見られるようになっています。
このように従来型の採用活動をすることは困難であり、何も対策を講じなければ希望通りの人材確保に失敗する確率を高めてしまうことになりかねません。そのためこれまでとは違った非接触なコミュニケーション手段を効果的に活用した採用活動に取り組む必要性が生じているのです。
2-5 安全対策の欠如による事業の停止の恐れ
施設の停止や事業活動の自粛などを要請されない事業である場合でも新型コロナウイルス感染症に関する安全対策を怠ると、事業の継続が困難になる恐れがあります。
企業の事業内容によって新型コロナに対する影響は異なりますが、3密(密閉・密集・密接)を避けて事業を継続し社員や顧客などのステークホルダー(利害関係者)の安全を確保した取り組みは不可欠です。
社員がウイルスに感染すれば事業は一定期間停止に追い込まれるだけでなく、顧客や取引先等とのビジネスが中断してしまう恐れもあります。つまり、感染した企業に対する取引が見直される可能性もあるため、事業を行う上で適正な感染対策が必須となるのです。
特に少人数の規模で起業・会社設立する場合、1人でも感染者を出すと事業の存続が困難になる恐れもあり、社員と事業を守るためには徹底した安全対策が求められます。
2-6 新たな働き方への対応不足で生産性が低下へ
2-5に関連して社員が職場で一堂に会して仕事をするのが困難になっており、テレワーク(在宅勤務・リモートワーク)といった新たな働き方が必要ですが、その内容の質を高めないと仕事の生産性が低下しかねません。
業種や職種によってテレワークの内容や利用度合いなども異なってきますが、新型コロナ渦の現状においてはどの企業においても少なからずその対応に迫られています。
事務職でも営業職でもその仕事にテレワークを取り入れるとなれば、社員に対する管理のあり方も大幅に変更せざるを得ません。自宅や外出先での仕事が増えるため、業務の進め方を根本的に変更させなければならないケースも生じてくるでしょう。
また、働き方の変更に伴い様々な問題も生じる可能性があります。例えば、以下のような問題です。
- ・社員間のコミュニケーションが悪くなった
- ・在宅勤務でのセキュリティに不安がある
- ・テレワークのやり方がわからない
- ・業務の効率が悪い
- ・出勤管理が適正にできない
起業する事業者にとっては、最初からこうしたテレワークの導入が必要となってくるため、事前にどのように仕事を進めれば効率的に業務目標を達成できるか設計する必要があります。つまり、感染拡大前までに考えていた業務の進め方では機能しない恐れがあるため、新たに検討しなければならないのです。
特に営業担当者は外出での勤務が主体となりますが、顧客へ直接訪問することが困難になっている状況でどのように商談を進めるのかその方法を講じなければなりません。
また、製造業においては生産現場での安全確保を重視した働き方を確立することが業務の推進においても人材確保においても必要になってくるでしょう。
2-7 株主総会開催での手間が増大
株式会社を設立すれば株主総会の開催が必要となりますが、新型コロナ渦の現状において開催するには通常以上の手間がかかる可能性も小さくありません。そのため状況によっては延期したり、オンライン開催したりすることの検討も必要です。
定時株主総会は、決算後3カ月以内に開催する会社が多いですが、会社法第296条第1項では、事業年度の終了後一定の時期に招集することが規定されているだけで、決算後3カ月以内の開催が要求されているわけではありません。
定款所定の時期に定時株主総会の開催が必要な会社でも、天災等の事情によりその時期に定時株主総会を開催できない場合、当該状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催することも可能です。一定の手続が必要ですが、困難なら延期することも検討するべきでしょう。
実際に開催することになれば、開催場所の空調、出席者の席の配置、出席者の入場前の検温などの対応が必要となり、通常以上の手間とコストがかかり企業にとっては大きな負担とリスクになりかねません。
また、株主総会を開催する場合、オンライン等で参加/出席を認める株主総会を実施することも可能です。もちろん株主総会を開催する現実の開催場所を設ける必要はありますが、株主がオンラインで出席するという方法が取れます。
株主の安全を考慮すればオンライン開催は有効であり、企業にとっても費用、コストと安全の面でメリットが得られるでしょう。
3 新型コロナ禍下で起業・会社設立する際に考える・注意すること
これまでの新型コロナ禍下での様々な問題や影響を踏まえ、どのように起業や会社設立を行うべきかについて説明していきます。
3-1 起業等の延期も検討
新型コロナ禍による経済へのダメージは計り知れない状況となっており、感染拡大の収束の予測も立たない状況であるため、起業や会社設立による事業の開始は一旦見合わせる検討も必要です。
政府や各自治体においては様々な対策が施されていますが、対応が遅く内容も中途半端であるため、その効果も自ずと発生が遅れ結果も中途半端なものとなっています。このような状況下では感染の早期収束を期待するのは困難と考えるべきです。
また、感染状況は海外の方が極めて悪い状況であり、欧米の経済活動は大部分において停滞しており、この状況はもうしばらく続くものと予想されます。従って、消費の中心である欧米市場の停滞が継続する可能性があり、日本からの輸出や現地法人の生産の減少も継続する可能性が低くありません。
日本のGDPの約7割を占める第3次産業が行動自粛や施設の停止要請等により通常の活動が困難である上に、海外への輸出も低調な状態が続けば新型コロナ不況はしばらく続くものと危惧されます。
こうした状況下で起業等により事業を開始するのはリスクが高くなるため、事業の開始を感染の収束が見込める状態になってからに延期することも検討するべきでしょう。
なお、事業開始の目安は自分で判断することになりますが、以下のような状況などを想定する必要があります。
- ・国内感染者数が2桁の前半で維持でき、感染拡大がコントロールされている状態にある
- ・感染者数の減少とともに治療法の確立とワクチン接種が開始される状態にある
- ・行動自粛や使用停止の要請が終了し経済活動が正常な状態へ戻った状態にある
- ・経済活動の正常な再開とともに各種の需要の改善が見られる状態にある
以上のような状態を確認してから起業や会社設立の具体的な行動を進めるということも考えてみましょう。
3-2 医療や安全対策などの分野で事業を開始
第3次産業では新型コロナ渦によって事業活動が大きく制約され停滞する一方、医療・衛生・安全などに関連した製品等は需要が急増しており、関連する分野ではビジネスチャンスとなっています。
たとえば、医療や衛生関連の製品ではマスク、消毒薬が不足しており、消費者どころから医療機関や介護施設、役所などでも入手が困難な状況です。価格も高騰しており、マスクなどは感染拡大前の10倍以上の値段で販売されているケースも少なくありません。
こうした状況を受けて当該関連製品の分野へ進出する、或いは一時的に供給するケースが多く見られるようになってきました。たとえば、シャープ、日清紡ホールディングスやパナソニックなどがマスクを生産しているのです。
また、トヨタ自動車では医療現場で役立つ「フェイスシールド」を作り始め、サントリー、花王や日本コカ・コーラなどでは消毒液の生産を進めています。ソニーやトヨタ自動車は人口呼吸器の生産に協力するようになりました。
こうした動きはビジネスチャンスを得るためのものではなく、社会貢献目的であると言えますが、異分野の事業に手を出すことは新たな技術の習得・蓄積にも繋がり将来のためにもなります。
起業する事業者にとっては、ビジネスチャンスにもなり社会貢献になるため、感染収束後のビジネス展開にも有効です。もし起業する事業の技術などを上記のような新型コロナ関連対策事業に活かせるなら不況下での一定の収益を確保できるとともに社会貢献により知名度を上げる機会にもなり得ます。
禍を転じて福と為すという諺ではないですが、経営者にはこうした悪環境下でも事業機会を見つけ将来に繋げる取り組みも必要です。
3-3 ITを活用した新たな業務の進め方
新型コロナ渦で業務の進め方について制約を受けるようになったため、それに対応した仕事の仕方や働き方が求められます。
当面の間はテレワークが中心となったり、業務の時間短縮を実施したりすることが当り前となるため、その対応方法を適宜改善していかないと非効率が生じてしまいます。そして、結果的に業務の生産性が上がらず事業が失敗する可能性も高くなるのです。
テレワークを導入すれば、社員の管理が難しくなるとともに社員間での意思疎通も低下しかねません。そのためITを活用した社内会議システムなどの導入と活用が重要になってきます。
また、顧客に訪問して商品・サービスを説明・販売するといった営業スタイルが困難な場合においてもITを活用した営業方法は重要になってくるはずです。会社や自宅いながら顧客に自社製品等を丁寧に説明・アピールできることが求められています。
教育サービス分野ではビデオ会議システムなどを応用したオンライン教室の開催も増えており、教育関連分野で起業する場合などではオンライン教室から始めるのも有効でしょう。
3-4 「巣ごもり需要」への対応
災害やパンデミックなどの非常事態においてもその状況に伴う事業機会が生じるケースも多く、今回の新型コロナの影響でも「巣ごもり需要」というビジネスチャンスが生じています。経済活動が停滞する中で起業する場合にはこうした新たなニーズを起爆剤として事業を成長軌道に乗せることも重要です。
国民は3密を避けるように行動制限を受け、特定の事業者も施設が運用できない状態にあるため、人々は自宅に巣ごもる時間が増えその過ごし方が問題になっています。
具体的には外出して食事やレジャーなどを楽しむことができないため、自宅での新たな楽しみ方、時間のつぶし方などへの要求が高まっているのです。たとえば、以下のような巣ごもり需要が考えられます。
・デリバリーサービスの活用
外食が困難な状況で家庭での料理ばかりとなる、自宅勤務の夫・妻や休校の子供の昼食が増える、という状況では家庭料理に飽きが生じるとともに調理の負担も大きいため様々な料理の宅配サービスを試したくなる方も少なくないはずです。
・動画配信サービスや電子書籍の利用
テレビの番組やニュースなどの情報だけでは時間をつぶせていない方などは、映画、ドラマやスポーツなどの動画配信サービスの利用が有効になるでしょう。これらはもともと週末や休日の時間がたっぷりとある時の利用にピッタリですが、仕事の休みが多くなった今最も効果的に時間をつぶせる手段としてニーズは大きいはずです。
また、電子書籍を利用した読書も増える可能性があります。ネットで本を読み放題とするサービスなども絶好の時間つぶしの手段として期待できるでしょう。
・趣味の充実
通常は仕事が忙しく自分の趣味に時間が持てない方でも現在ならたっぷり没頭する時間があるはずです。また、あまりに自由な時間が持てるようになったため何か趣味を始めてみようと思う方も少なくないでしょう。
趣味の対象は人それぞれですが、現状では家で手軽にできるもの・コトが有力候補になります。たとえば、絵画の制作、ギターなどの演奏、英会話や資格取得等のための学習、電子工作、手芸、ネイルアート、アロマ、DIYや園芸・家庭菜園など様々です。
こうした趣味の実現に関連した商品・サービスを自宅で手軽に提供できるビジネスが求められます。
・子供の教育
学校が休校となって子供の教育を心配する親も少なくないため、家庭での子供の学力向上に役立つ教育サービスが求められています。行政の対応は遅く、予算的な制約もあることから学校側に家庭での教育サービスを求めるのも困難な状況であり、各家庭での対策が必要となってくるはずです。
オンライン授業のサービスなどのほか、親が子供を教えるための教材なども求められやすいでしょう。
・自宅でエクササイズ
頻繁に散歩やジョギングがしにくい状況下においては、自宅で気軽にできる運動へのニーズも高まります。狭いスペースで上手くストレスを発散させ子供と一緒に楽しめるようなエクササイズが特に有効でしょう。
また、特定の運動やスポーツの向上に役立つ専門的な指導をオンラインで提供するといったサービスも求められる可能性があります。野球、サッカーやゴルフなどでも肉体強化や特定のスキルの向上等に関する指導を提供するサービスも必要になってくるのではないでしょうか。
・資産形成や副業のきっかけ
時間のある今のうちに投資の勉強をして将来の資金作りを始めたい、収入の減少を補うために副業をしたいという方には、投資や副業を学ぶための学習サービスは有効です。
投資や副業の始め方や行い方などを伝授するとともに、彼らの取り組みを支援する金融商品・サービスの提供も期待できます。
なお、巣ごもり需要以外では、「リスク対応サービスの提供」などが期待できるでしょう。
SARSや東日本大震災後に日本のビジネス界ではリスク対応を支援するサービス、事業継続マネジメントの導入サービスの需要が増大しましたが、新型コロナ問題が収束した場合同様のことが予想されます。
その当時、国なども企業に対して事業継続計画(BCP)を策定してリスクに備えることを要請したため、BCP導入サービスなどの需要が急増しました。新型コロナにおいても同様のことが想定されるため、中小企業診断士、税理士や社会保険労務士などの士業のほか、各種のコンサルタントではBCPやリスク対応に関するサービスの需要が期待されそうです。
以上のように様々な巣ごもり需要が期待されるため、それを捉えるビジネスを少しでも展開していけば新型コロナ渦の厳しい経済状況の中でも起業を成功させることは不可能ではないはずです。全面的にビジネスモデルを上記のニーズに合わせなくても業態の幅を広げて対応させることは困難ではないでしょう。
3-5 ビジネスモデルの変更、業態変更
飲食・宿泊・各種サービス業などでは新型コロナ問題により従来型のビジネスモデルでは事業継続が困難になってきたため、モデルの変更が求められています。ビジネスモデルの変更というと少々大袈裟ですが、少なくとも業態の変更や工夫が必要です。
たとえば、飲食業では店舗での食事の提供が困難となっているため、テイクアウト(持ち帰り)での提供や宅配サービスによる提供などに取り組む事例が少なくありません。ほかにもドライブスルー方式で食事を提供する飲食店も見られるようになりました。
また、アメリカのレストランなどでは自宅での調理サービスといった新業態を開発して厳しい状況に対応しているところもあります。
従来のように店舗に来て席についてもらい食事を提供するという業態からお持ち帰りや食材の提供という形態を取り入れ収入の確保に努め厳しい状況に対応しているのです。
教育サービス業では一定場所での集合教育からオンラインでのライブ授業などで対応するところも見られるようになりました。受験生などでは個別の指導や相談が重要であり面談での対応が求められるところですが、これらもオンラインでの対応に変更されつつあります。
ほかにも「オンライン自習室の提供」といったサービスを提供しているところもあります。オンライン自習室は、オンライン会議システム等などを利用して生徒が学習塾と繋がった状態で自習するもので、質問をLINEなどを使って送り先生から返事してもらうという仕組みです。
このように従来とは異なる業態や工夫を取り入れることで新型コロナ渦の影響の大きな業種でも生き延びることが可能となるほか、起業する場合においても不可欠な対応となるでしょう。
なお、業態の変更に当たり行政から助成金などの支援が提供されはじめました。起業して間もない企業などでも所属する都道府県に確認して積極的に活用しましょう。
例:業態転換支援(新型コロナウイルス感染症緊急対策)事業 (東京都中小企業振興公社)
- 1)販売促進費(印刷物制作費、PR映像制作費、広告掲載費 等)
- 2)車両費(宅配用バイクリース料、台車 等)
- 3)器具備品費(Wi-Fi導入費、タブレット端末、梱包・包装資材 等)
- 4)その他(宅配代行サービスに係る初期登録料、月額使用料、配送手数料 等)
上記の費用に対して上限100万円(助成対象経費の4/5以内)までの支給が可能。
3-6 安全性の確保
起業し事業を継続させていくには社員だけでなく顧客や取引先の安全の確保が不可欠となるため、その対策を整え事業を進めて行かねばなりません。
3密を避けるのは当然ですが、さらに社員同士や顧客・取引先等との直接的な会話や商品等の受け渡しを少なくするといった取り組みが必要です。マスクの着用は当然ですが、消毒剤による手の洗浄を適正に実施するなどが求められます。
スーパーマーケットなどの小売業のレジ業務では飛沫対策として透明なプラスチック板などを社員と顧客のための安全措置とし導入するケースが多くなりました。
ほかにも換気設備の導入や店奥の什器の上部にファンを設置するなど店内の換気をよくするための工夫に取り組む店舗なども少なくないです。店の出入口にはアルコール洗浄剤を設置して顧客にも洗浄をお願いするケースも増えてきています。
会社への通勤では勤務時間に時間差を持たせるようにして交通機関が込み合う時間帯を避けた通勤が可能となるようにしたり、自宅勤務を多くしたりするといった働き方の変更も重要です。そのためテレワークを実施できる体制整備も進めて行かねばなりません。
3-3で説明したように社員と顧客の安全を確保しながら営業を進めるにはITを活用したプロモーション手段の導入や開発が不可欠となるため、起業する時点からその方法を検討する必要があります。
3-7 現状に即した採用活動への変更
新型コロナ渦の影響により人材の採用活動が難しい状況ですが、やり方を工夫して積極的に採用活動を進めれば逆に優秀な人材を獲得できるチャンスへと変えることも不可能ではありません。
全国のハローワークへ企業から報告される内定取り消しの数は(厚生労働省の発表)、3月27日の時点において22社で合計32人となっています。内訳は大学生や短大生などが12社で14人、高校生が10社で18人です。
1-2で紹介したように企業の採用活動に変化が見られ、来年度の採用計画を変更する企業や見合わせる企業などが見られるようになってきました。つまり、大企業等での採用枠に減少が見られることから中小企業や新設会社においては優秀な人材を確保できる機会が増える可能性があるわけです。
しかし、既に説明した通り従来型の説明会の開催やインターンシップなどが困難な状況であるため、これまでとは異なった採用のアプローチも必要になります。
Zoom(オンライン会議システム等)などを使った説明会や懇談会などを実施したり、選考作業や入社手続をオンラインで行ったりするなどの新たな取り組みが不可欠です。もちろん自社で行えない場合は、採用支援サービス(採用代行サービス等)の利用も必要になるでしょう。
その場合でも上記のような採用におけるWEBコミュニケーションが得意な業者の選定が重要となるはずです。また、業者との連携をち密に行い内定候補者が絞れる段階以降では自社も選考過程に関与し、会社側からのコンタクトやコミュニケーションをオンラインやEメール等で適切に行い彼らとの信頼関係を築けることが重要になります。
4 ポストコロナ下で起業・会社設立する場合の注意点
ここでは新型コロナウイルスの感染拡大が収束した後で起業等をする場合に考えるべきことや注意すべき点を説明していきます。
4-1 新型コロナの収束後も景気が悪い可能性がある
新型コロナによる景気の悪化は感染拡大の収束後も一定期間継続する可能性があるため、起業や会社設立の時期は慎重に検討するべきです。
消費者等の行動自粛や事業者の営業活動の抑制により日本経済は大きなダメージを受け消費支出のみならず設備投資や在庫投資などが冷え込んでいる状態です。シンクタンクの中には2020年度の日本のGDP成長率はマイナスになると予想しています。
経済活動が低調になる上に休業等により消費者は所得が不足しており、事業者は十分な運転資金の確保が難しくなっている状況です。加えて中国、米国及び欧州においても経済の立て直しには2020年度だけでは足りない可能性も出てきました。
従って当面の間、国内経済は厳しい状況になり得るため、感染拡大前の需要の回復を早期に期待するのは困難です。感染が収束したからといって、目当ての需要が回復するとは限らないため、その動向をしっかり見極めて起業や事業の開始を検討しなければなりません。
4-2 ポストコロナ下でニーズが変化する可能性がある
新型コロナ渦によって消費、暮らし方、働き方や業務のあり方などが変化するようになり、それに対応した商品やサービスなどが一定のビジネスとして有効になっていますが、収束後はそれらのビジネスに変化が生じる可能性も考えられます。
たとえば、感染拡大中の現在においては人とできるだけ接触しないようなサービス等が不可欠ですが、感染の心配がなくなればそうしたサービスの価値は相対的に低下する可能性は低くありません。
様々な場面においてオンラインや宅配といったサービスが重宝されていますが、収束後には逆にフェイストゥフェイスで利用するサービスや施設などのニーズが回復する可能性も考えられます。
実際に収束してみないとどうなるかはわからないですが、その時々の状況によってニーズは絶えず変化するため、その変化に柔軟に対応していくことが厳しい状況下での起業や事業継続の成功に繋がるはずです。
4-3 イノベーションの創出、事業の高度化は今後も重要
新型コロナ渦は経済的に厳しい状況を作り出しましたが、その対応に取り組んだ結果として、イノベーション創出の重要性を再認識させ、ネットを通じた協業を加速させたというプラス面も発生させています。
感染拡大により医療関連商材や衛生用品などが不足したため、異業種から多くの参入が見られました。これらの企業には参入するための関連技術や設備などがあったわけですが、新分野に進出することでシナジー効果を高め将来の経営や技術開発に役立てられます。
また、こうした異業種への参入にあたり、他社との協業を進めた例も少なくありません。米国の大学病院でフェイスシールドが不足したおり、その手当のため大学側が製品の設計を行い自動車メーカーが生産を受け持ったという例がありました。
さらに他の大学がその設計書を利用して多数のメーカーと材料のサプライヤーを繋ぎ、フェイスシールドの大量生産を可能にしたのです。日本でも大学が眼鏡フレームメーカーと協力してフェイスシールドを開発するという事例や、その設計データが公開されそれをもとに中小企業等が次々とフェイスシールドの生産に着手するという事例が生じています。
他にも医療分野でのロボットの活用や遠隔診断など今まで普及が進んでいなかったロボットの導入や高度なITの活用が進められました。こうした事例は成功例として他の分野に随時拡大されることが予想され、今後のビジネスでの競争優位性に繋がる可能性もあります。
厳しい状況を生き抜くためには、イノベーションを実現したり、シナジーを活かして新事業に参入したりすることが重要です。また、自社だけではできることが限られるため他社との協業が増々重要になり、人的な繋がりに囚われないネットを通じた交流・連携に取り組むことがさらに求められるようになるでしょう。
4-4 働き方の見直しが重要
新型コロナ渦によってテレワークが当たり前の状況になっていきますが、収束後もその仕組みを維持する場合、より適切なマネジメント体制の整備が求められます。
新型コロナの影響を心配する必要がなくなった場合でも通勤時間が不要な在宅勤務には一定のメリットもあるためテレワークを継続させる企業も少なくないでしょう。しかし、職場が自宅中心となった場合の業務の効率性や社員間のコミュニケーションが問題になる恐れもあります。
テレワークを長期的に活用する場合は、それを前提としたマネジメントへ変更し業務効率の向上と社員のモチベーションアップに繋げていかねばなりません。
週何日まで在宅勤務するのか、オンライン会議のほか顔を突き合わせての会議をどの程度行うのか、在宅勤務での業績目標の設定と結果の評価をどう行うのか、外回りの営業職はどのように勤務させるのか など自社の事情に合わせながらより適切なマネジメントシステムを作ることが求められます。
4-5 米中対立に伴う世界経済の動揺を注視する
ポストコロナの世界経済は、新型コロナ問題の責任について欧米と中国とで対立する可能性が高く世界経済はより不安定な状態に陥る可能性があるため、その動向を踏まえた起業や事業展開を考えねばなりません。
2020年5月初め時点において米国のトランプ大統領やポンペオ国務長官は新型コロナの発生源が中国の武漢市にある研究所を発生源とし、中国政府が本疾病について人から人へ感染することなどの報告を怠ったとして、中国政府の責任を追及する構えを見せています。
欧州などの国の中にも米国と同様の認識を示す国が見られ、やはり中国政府の責任を問う姿勢を示しているのです。米国を含むこれらの国は、まだ中国政府に対して実質的な責任を求めていないですが、今後はその可能性も否定できません。
特に米国は本件についてパンデミック前に膠着していた米中貿易問題を有利に解決するための外交カードとして利用する可能性があり、米中間の貿易問題の解決がさらに長引きくことが懸念されます。
また、中国は今回の感染の拡大や都市封鎖などに伴い生産活動を大幅に制限したため、世界のサプライチェーンとしての機能に綻びを生じさせました。その結果、日本や米国では中国についてサプライチェーンから外す動きも出始めています。
このようなことから今後の中国においては、欧米や日本への輸出が減少し脱中国の動きが加速しかねません。そのため中国市場をターゲットにする企業を顧客とする事業、中国から材料・部品を輸入する企業を顧客とする事業などで起業する場合は大きな影響を受ける可能性があります。もちろん直接中国市場をターゲットとする事業で起業する場合はより影響が大きいはずです。
表面的には感染が収束しつつある中国ですが、製造業等が事業を再開しつつあるものの決して良好な状態ではありません。これから回復へ向けて活動再開を本格化したいところでしょうが、新型コロナの責任問題がその足かせになろうとしているため中国に関連する事業には慎重に検討していく必要があります。
5 まとめ
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い起業や会社設立は厳しい状況下にあり、様々な問題を解決するための努力や工夫が通常以上に求められます。そのため起業等を感染が収束するまで延期する検討も必要です。
もしこうした困難な状況の中で起業等を進める場合は、安全を確保した働き方、業務の進め方などが不可欠でテレワークなどを活用した対応に取り組まなければならないでしょう。また、業態変更や新しい商品・サービスの提供などを開発し実施することも求められます。
ポストコロナ下での経済環境も決して安心できるような状況になるとは限らないため、その時々に適応できるビジネスシステムを構築し起業やビジネスの推進に努めるようにしてください。