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IRでの情報は決算データだけない!IR活動がもたらすメリットと実施する際ポイントとは

企業の決算情報を確認したい場合、その企業のウエブサイトのIRコーナーにアクセスすれば簡単に入手できますが、そのIRに関する活動が昨今注目されてきています。

 

適正なIR活動が積極的に実施されると企業の認知度は向上し、株価は適正な価格に落ち着き、取引の拡大や人材確保の容易化などでの効果も期待できるのです。ここではIRとは何か、IR活動の具体的な内容がどんなものかを紹介します。IR活動のメリット・デメリットのほか事例などを簡単に説明し、優れたIR活動の内容やポイントを紹介していきましょう。

 

 

1 IR活動が企業に与える影響とは

IR活動が何故企業に必要なのか、IR活動が適切に実施されない場合企業にどのような影響がおよぶのか、といった点を説明していきましょう。

 

 

1-1 IR活動は株価に影響する

IR活動は決算情報のみならず、ビジョン、経営目標、経営戦略、事業内容、社会貢献など企業の幅広い情報をタイムリーに市場などへ提供する行為であるため、企業の株価に大きな影響を与えます。

 

IRは投資家向け広報としての役割を果たすため、決算短信、有価証券報告書などの決算情報を開示するという重要な役割を担っています。業績の速報ニュースとして位置づけられる決算短信の開示や決算発表によって株価は大きく動くこともあるので、その点だけを考慮してもIRは株価に影響するといえるでしょう。

 

しかし、決算短信や決算発表ではその業績に至った詳しい背景や今後の取り組みなどについては、様式の形式や時間の関係などで十分に説明できるとはいえません。そのため、業績が前期と比べて悪かったとしても一時的な要因で、次期には回復、さらに業績を伸ばせる場合でもそれらの要因や対策などについて説明することが困難です。そして、そのように表面的な業績の数値の変動という情報を中心として急激な株価の上昇や下降を招くことも少なくありません。

 

逆に一時的な要因で業績が大幅に向上した場合でも、同様に詳しい情報もないことから急激な上昇につながることもあるわけです。しかし、業績の低迷や回復の理由、改善するための方策などの情報が提供されていれば、そうした激しい株価の変動も小さくなる可能性が生じます。すなわち、投資家や企業が望まない株価の高騰や急落が回避しやすくなるのです。

 

こうした丁寧な説明は投資家に企業の業績を含む経営状態を適正に判断をしてもらうために必要で有効な方法となるため、IR活動は投資家にも企業にも有益な手段となっているのです。

 

 

1-2 IR活動は資金調達に影響する

IR活動の成果は株価に影響するほか、企業と資本市場との関係に影響し結果として企業の資金調達にも影響します。

 

IR活動は投資家を含む市場関係者へ企業に関するさまざまな情報を提供して、適正な投資判断の実現をもたらします。IR活動によってその企業が適正に評価されれば、その内容にしたがって株価を含む企業価値の増大に結び付くこともあるのです。

 

企業価値の増大はさらなる投資を呼び込み増資が実施しやすい環境を整える効果があり、加えて金融機関などの資金提供者を増やし資金調達を容易にさせてくれます。

 

また、企業価値が十分に理解されることで市場の噂や需給の変化などによる株価の大幅な変動も抑えやすくなり、急激な株価の上昇による資本コストの増大も回避しやすくなるでしょう(この点については3-1で説明します)。

 

逆にIR活動が適切に実行されなければ、明確な理由もない噂、不安などにより株価が急落し、信用不安が拡大することで企業価値が傷つくこともないとはいえません。結果として、そうした事態に至ると新株の発行が難しくなったり、融資が手控えられたりして資金調達に影響することもあるのです。

 

 

1-3 IR活動は取引先との関係に影響する

IR活動によって企業価値が市場で適正に評価され、その結果株価が上昇していけば企業の知名度も向上し、本業などでの事業機会の拡大にもつながります。

 

加えて株価が上昇しなくてもIR活動を積極的に展開することで投資家だけでなくステークホルダー全体に知名度の向上と事業に対する理解を得ることも可能です。

 

証券アナリストやファンドマネージャー向けの決算説明会、個人投資家向けの企業説明会、その他市場関係者とのミーティングの開催により自社の事業などに関する理解を深めてもらえます。また、ウエブサイトのIRコーナーを充実させ、決算情報のほか、理念、ビジョン、経営戦略、中長期計画について分かりやすく説明できるコンテンツを提供すれば、幅広いステークホルダーからの支持も得やすくなるのです。

 

IR活動によって、企業の認知度を高め事業への理解と適正な評価を得られれば、取引先の拡大にもつながります。企業の成長力や財務力が評価されれば、関連事業でのサプライヤーが自ら取引を申し出てくるケースも増えるはずです。また、自社の知名度がアップしていけば、新たな販売先の開拓のハードルが下がり、新規開拓の増加も期待できます。

 

逆にIR活動が積極的に実施されなければ、上記のような現象は期待しにくく、購買部門や販売部門が独自の力で取引先を開拓するしかありません。つまり、IR活動での知名度や信頼性の向上といった援護射撃は受けられないのです。

 

 

1-4 IR活動は人材確保に影響する

IR活動によって株価が上昇するとともに、ウエブサイトで積極的に企業情報を開示すると企業の知名度の向上により就職先としての関心を労働市場から得られやすくなります。就職先としての関心が高まればおのずと人材の確保は容易になってくるはずです。

 

就職先の選定は労働者にとっては、その生活、人生における一大事であるため、求職者はその就職候補となる企業に関する情報収集には余念がありません。求職者が求める情報は、職種や職務の内容のほか、企業の業績、事業内容、給与、人事処遇といった企業の基本情報や労働条件などの情報が主体で、IRとは必ずしも一致しないのです。

 

しかし、企業の理念、ビジョン、経営戦略、ビジネスモデル、事業ドメイン、マネジメント・ガバナンス体制、社会的責任、そして成長力などを評価する労働者も少なくありません。これらはIRで丁寧に説明されることも多く、こうした情報を分かりやすく伝えることが求職者の要望を満たすことにもつながるわけです。

 

つまり、IR活動であつかう情報のなかに求職者が求める情報も少なくないため、彼らにより分かりやすい形で情報を提供できれば、就職先の候補に加えられる可能性も高まります。

 

このようにIR活動を積極的に実施することで資本市場のみならず労働市場との関係を良好に維持し企業が求める人材の獲得を容易にすることも期待できるのです。

 

 

2 IR活動の全容、具体的な内容

ここではIRおよびその活動の全容を説明します。

 

 

2-1 IR活動の定義と活動の概要

ここではIRおよびIR活動の内容、活動の実態を確認していきましょう。

 

 

①IRとは

IR(Investor Relations)とは投資家向け広報と訳されるなど、企業が株主、投資家、資金提供者、取引先、顧客などに対して投資や取引などに不可欠な企業情報を、適宜、公平、継続的に提供する行為です。

 

従来のIR活動のおもな目的は合理的な株価形成を図り、資本コストを低減する、すなわち資金調達を容易にかつ低コストで実施できるように取り組まれるケースが多くみられました。

 

そのためIR活動のおもな対象は大口の株主や機関投資家であり、投資の判断に必要な情報の提供がIR活動の主たる目的だったわけです。しかし、証券市場における個人投資家の増加や取引先の株主化などの進展により多様な市場参加者が登場し、それに対応した情報提供も求められるようになってきています。

 

加えて従来からの債券による借入、銀行などからの融資など、金融機関などの資金提供者への情報提供も依然として重要です。さらに人手不足が深刻化しつつある現代社会において労働市場への適切な企業情報の提供も軽視するわけにはいかないでしょう。

 

このように企業が社会的存在として持続・発展していくには、経営資源たる人・もの・金が不可欠であり、それを効率的に獲得できるようにするためIR活動が重要な役割を果たしているのです。

 

 

②IRの位置づけ

IR活動それ自体は法律で規定されたものではなく、各企業の判断で独自に実施できる活動です。証券取引所から要請されるケースを除けば、IR活動をしようがしまいが、どの程度実施するかしないかは、各企業の判断に委ねられています。

 

金融商品取引法では「ディスクロージャー制度(企業内容等開示制度)」があり、投資判断に必要な有価証券報告書などの書類の提出が上場企業に義務付けられています。IR活動はこうした制度的開示ではないですが、有価証券報告書などにとどまらず投資家を含むステークホルダーに必要かつ有効な情報提供が企業の自由な判断で実施されるのです。

 

例えば、自社のウエブサイトにIRコーナー(IRページ)を用意し、業績・財務状況の資料、業績ハイライト、経営戦略や事業方針、などの情報が掲載されています。また、そうした情報をまとめたもの、決算説明会の様子などが動画で配信されるケースも少なくありません。

 

IR活動は制度的開示そのものではなく、その補完として実施されるケースも少なくないですが、経営資源の効率的な確保、事業の発展などに向けたマーケティング手段としての利用も多くみられます。

 

 

2-2 IR活動のおもな内容

IR活動の内容は企業が自由に決められるため、取り扱われる内容は各社さまざまですが、一般的には以下の情報や活動が多くみられます。

 

 

①提供される情報の種類

企業のウエブサイトで提供されるおもな情報は以下のとおりです。

 

A 経営方針などの情報

社長メッセージ、経営方針、経営戦略・経営計画、事業などのリスク、コーポレートガバナンス、ディスクロージャーポリシー など

 

B 会社情報

会社概要、経営理念、事業内容、沿革 など

 

C 財務・業績情報

決算ハイライト、おもな経営指標、セグメント情報、連結貸借対照表(B/S)、連結損益計算書(P/L)、連結キャッシュフロー計算書 など

 

D 株式・債券情報

株価情報、株主還元(配当、自己株式、株主優待制度)、社債発行、株主分割、格付け、社債明細、アナリスト評価 など

 

E 電子公告

会社法第939条第1項の規定に基づく公告

 

F IRライブラリー

過去の決算資料などの各種IR資料(②参照)

 

 

②提供されるIR資料

IR資料としては以下のものが挙げられます。

 

A 決算説明会プレゼンテーション資料
B 決算短信
C 決算詳細資料
D 有価証券報告書
E 統合レポート(アニュアルレポート)
F 株主通信

 

以上のとおり、IRで扱われる情報や資料は決算情報といった業績や財務状況だけでなく、その企業がどんな企業なのか、どのように活動をしているか、といった幅広い内容が含まれます。

 

 

③IR活動としてのコミュニケーション手段

株主や投資家などと適切なコミュニケーションを図ることはIR活動として重要ですが、その具体的手段には以下のようなものが挙げられます。

 

A 決算説明会
B 機関投資家とのミーティング
C 個人投資家向け説明会
D ウエブサイトやメールなどでの質問対応

 

例えば、KDDI株式会社の2017年3月期 のIR活動の実績としては、機関投資家とのミーティングが933回、決算説明会が4回、個人投資家向け説明会が65回も実施されているのです。

 

 

2-3 決算説明会

決算説明会とは決算発表時期に、その企業の経営陣などが業績や事業の進捗、今後の経営方針・戦略などを説明するイベントで、その企業の現在の状況と将来の展望などが説明されます。

 

決算説明会には、証券会社などのアナリスト、機関投資家などのファンドマネージャーなどが招待され企業側からの説明を受けるとともに質疑応答も実施されています。

 

日本の上場企業の多くは決算説明会を開催していますが、その開催の回数は本決算のみ、中間決算と本決算の2回、四半期決算ごと、など各社さまざまです。

 

決算説明会で使用される資料は決算説明会プレゼンテーション資料、決算短信や決算詳細資料などで、説明会当日の内容を動画配信している企業も増えてきています。

 

決算説明会の時間は各企業によって異なりますが、企業側の説明で30分~1時間程度、質疑応答まで入れると1時間~2時間程度です。こうした説明会などの質疑応答の機会で述べられる意見などがその後の経営に活用されるようになってきています。

 

 

2-4 アニュアルレポート

アニュアルレポートとは、毎年1回発行される企業の財務・業績情報などを含む事業活動の結果や予定が盛り込まれた年次報告書のことです。一般的にアニュアルレポートと呼ばれることが多いですが、「統合(総合)レポート」の名称で示されることもあります。

 

企業が1年間活動した結果、すなわちどのような業績を達成しどのような財務状況となっているのか、事業の概況や経営全般の状況などが詳しくかつわかりやすく示されています。ほかには経営戦略、中期経営計画の概要および達成状況の報告なども含まれるのです。

 

つまり、有価証券報告書や決算短信などの開示書類をベースに主に投資家向けにわかりやすく編集されたものがアニュアルレポートといっていよいでしょう。

 

決算短信は、業績・財務の情報が数値で端的に示され、経営状況などは文字で簡単に説明される業績速報として位置づけられています。一方、アニュアルレポートではそれらの情報に加えグラフや画像などが自由に掲載され閲覧者により分かりやすく説明されている点に大きな違いがあります。

 

決算説明会に出席できない一般投資家などに決算短信の内容よりも詳しく、有価証券報告書よりも分かりやすく説明するための資料がアニュアルレポートといえるでしょう。アニュアルレポートは決算短信や有価証券報告書の弱点ともいえる点をカバーし、その企業の内容や状況を投資家などが容易に理解できるように作成されているわけです。

 

 

2-5 決算短信と有価証券報告書

決算短信とは、上場企業の決算期発表および四半期決算発表のさいに作成する対象の決算期間における業績・財務内容をコンパクトにまとめた共通形式の資料のことです。

 

投資の重要な判断材料となる有価証券報告書は、決算後3カ月以上の期間を要するため、証券取引所が各上場企業に決算短信の作成および公表を要請している決算速報なのです。

 

したがって決算短信は法的な開示義務がないですが、上場企業のほとんどは各決算期末から1~2カ月後に証券取引所や報道機関などに発表しています。また、各企業においてはIR活動の一環として、自社のIRサイトなどで決算短信や有価証券報告書をPDF形式などで提供しているケースが多いです。

 

有価証券報告書は決算短信と同様決算内容の情報をまとめたものですが、有価証券報告書は決算内容の全容を確定したものとして報告するための資料といえるでしょう。一方、決算短信は決算内容を端的にまとめた速報版的な役目を果たす資料です。

 

また、有価証券報告書は法律によって義務付けられた法的開示書であるといった違いもあります。

 

なお、決算短信は証券取引所の「適時開示情報閲覧サービス(TDNet)」、有価証券報告書は金融庁の「EDINET」で閲覧することも可能です。

 

 

3 IR活動の特徴とは そのメリット・デメリット

IR活動がその企業や投資家にどのようなプラス効果をもたらすのか、逆にどのようなマイナス効果をもたらすのか、といったそのメリットとデメリットを紹介しましょう。

 

 

3-1 IR活動の6つのメリット

IR活動で得られるメリットのおもな内容について説明していきます。

 

 

①合理的な株価形成と資本コストの低減

IR活動を通じた証券市場との対話、相互理解により企業の株価は適正な価格に収斂され、不適切に評価された際の株価の変動に伴う資本コスト*の大幅な増減が回避できます。
(*資本コストとは、負債コストと株主資本コストを含む資金調達で発生する費用のことです)

 

IR活動は、企業側が業績・財務の状況や事業方針などの情報を適宜・継続的に投資家などに提供することでその企業の状態を適正に把握してもらうことに役立ちます。その結果、株主、投資家や金融機関などがその企業に対する市場での根拠のない噂に惑わされず適正に評価しやすくなり、不必要な株式の売買は減少していくわけです。

 

その企業に対する噂などに基づく望ましくない売買がなくなれば、株式は企業の実態に即して合理的な価格へと収斂されやすくなります。もちろん業績の動向や市場での需給要因などで多少の変動はあっても、情報不足から生じる誤った不信感や不安感に伴う株式の売買は抑制されるのです。

 

株価が合理的で適正な価格に落ち着けば、憶測から生じる高騰は抑制される、すなわち「株主の期待利回り」の大幅な上昇が抑制されるので、企業にとっての資本コストも抑制されるわけです。

 

株主の期待利回り(期待収益率)とは、投資家が企業の株式を保有するさいに求めるリターンの利回りで、インカムゲイン(配当金)とキャピタルゲイン(売却益)が含まれます。企業側にとっての株主の期待利回りは株主に還元する便益に伴う費用でもあり、「株主資本コスト」と言われているのです。

 

不適切な評価で株価が異常に高騰すれば株主の期待利回りも上昇することとなり、株主資本コストも上昇します。このような状態の株主資本コストは融資による支払利息である負債コストよりも大きくなりやすく、自己株式の発行による資金調達は好ましい手段として認識されなくなるのです。

 

なお、株主資本コストは株式市場での各株式に対するさまざまな反応で上下します。例えば、好業績の情報が伝われば「買い」の反応が強くなり、信用不安などの情報が伝われば「売り」の反応が強く出るのです。つまり、市場に正確な企業情報を伝えることで無用な反応が回避できます。

 

また、企業が不適切に評価され株価が著しく下がれば、信用面や企業価値の面で評価が下がり借入コストの上昇につながりますが、株価が適正であれば、そのコストの上昇も回避しやすくなります。

 

このようにIR活動によって企業の状況を正しく伝え市場に理解してもらうことができれば合理的な株価が形成され、結果的に企業は適切な水準の資本コストを維持しやすくなるのです。

 

 

②企業イメージの向上

IR活動で企業の目指している点、実際に事業で取り組んでいる内容、社会に貢献する姿勢などを伝え理解してもらえると、企業の存在価値が内外で認識され企業イメージの向上につながります。

 

各企業は理念のもとにさまざまな経営目標をもちそれを実現するために事業に取り組んでいます。しかし、その企業の理念、目標、事業内容、社会貢献、従業員・取引先・地域住民などとのかかわり方などが情報として十分に提供されていなケースも少なくありません。

 

つまり、「この企業はいったいどんな企業なのか、社会にどのように役立っている企業なのか」などと認識されていないケースが少なくないのです。十分に認識されなければ株主や投資家の裾野を広げることは難しく、株式を長期に保有してくれる株主は増えにくくなるでしょう。

 

逆にIR活動でその企業の実態が正確に個人投資家をはじめ各ステークホルダーに伝われば、企業の取り組み姿勢が評価され、株主の層が広がる可能性も生じます。また、株主の拡大だけでなく、取引先、資金提供者、労働の提供者や事業場所の提供者などの増加につながることもあるのです。

 

 

③個人投資家などの株主層の拡大

IR活動が活発に実施されていくと情報提供の対象が証券会社や機関投資家など以外の個人投資家などにも拡大されていき、結果的に株主層の裾野の広がりが期待できます。

 

決算説明会は主に証券会社のアナリストや機関投資家のファンドマネージャーなどが招待されますが、一般の個人投資家は通常呼ばれるケースは少ないです。そのためテレビCMなどで知名度の高い企業以外は個人投資家などから自社に興味を持ってもらえる可能性は高くありません。

 

興味どころか名前すら知ってもらえないということも十分にあり、そのような状況では自社へ投資してもらえる可能性は高いとはいえないでしょう。そして、こうした事態を打開するためにIR活動が求められるわけです。

 

自社のウエブサイトにIRコーナーを設け、業績・財務の状況のほか自社がどのような事業に具体的にどう取り組んでいるか、社会とどうかかわりをもっているかなどの説明が重要になります。

 

自社のIRコーナーで決算情報の書類を提供したり、決算説明会の動画を配信したりして、自社を社会全般に広くアピールすることが必要です。また、個人投資家などを対象とした企業説明会などの頻繁な開催も有効でしょう。

 

そうした活動により、今後の株式の期待利回りの上昇を期待させる成長性・発展性や、社会に貢献する事業とその取組姿勢などが個人投資家などに伝われば、彼らからの支持も得やすくなります。その結果として株主層の広がりが期待できるわけです。

 

 

④安定株主の増大

IR活動による個人投資家などの株主層の拡大に伴い安定株主が増大する可能性も高まります。

 

安定株主とは比較的短期間の株価の変動による売却益を目的として株式を保有するタイプではなく、長期の保有による株式の期待利回りを求める投資家といえるでしょう。つまり、安定株主は企業の株式を長期間保有し、その間の配当と最終的に売却した場合の利益を得ることが目的の投資家です。

 

企業にとっては、安定株主が増加するほうがその株価は安定しやすくなるため資本コストの増大を抑えやすくなるというメリットがあります。そのため目先の業績の良さのアピールよりも中長期的な業績の展望やそれを実現するための具体的な方法や構想の提示が欠かせません。

 

また、株主のなかには社会貢献、省エネ、環境重視といった面を評価して比較的長期に渡って投資する個人や機関も増えてきています。こうした投資家に企業の社会貢献などでの取り組みをIRで示すことができれば、安定株主の増加につながっていくでしょう。

 

そして、安定株主が増加すれば敵対的買収といった脅威から自社を守れる、リスク対応力の増強が図れるというメリットも得られます。

 

 

⑤株価の安定

IR活動を通じた個人投資家などの拡大および安定株主の増大により株価の高騰・急落といった大きな変動リスクを低減させることも可能です。

 

短期的な業績の低迷や市場の需給の状況などにより自社の株価が大きく上下することは少なくありませんが、安定株主が多いとその変動の幅も狭まりやすくなります。長期的に株式を保有してくれる安定株主が増えると一時的な株価の高騰・急落で売買される量も少なくなり、その変動も早めに収束されることが期待できるのです。

 

株価の変動が小さくなればリスク回避志向の強い投資家も増え、より安定した株価の形成につながり、結果として企業は資本コストを適切な水準に維持しやすくなります。

 

 

⑥投資家にとっての適正な投資の実現

企業のIR活動で業績、財務、将来性、他社との差別性、などの企業情報が的確に提示されると、投資家は自分の判断基準に沿った適正は投資が実現されます。

 

各投資家・投資機関などにおいては投資先を選定・評価する判断基準があり、それに基づいて投資対象が決められます。その選定のさいには判断を下すための必要最低限の情報が不可欠です。また、情報量が満たされていても情報の質が不十分であれば誤った評価につながるため、情報は正確で新鮮であることが求められます。

 

IR活動により投資家が求めるさまざまな種類・内容の情報が提供され、かつ正確で新鮮な情報が提供され続けられると、投資家は適正な評価が可能となり適切な投資判断がくだせるわけです。また、業績や将来性について今後期待できる確かな情報を見いだすことができれば、一時的な株価の変動に動じることなく長期的な保有も期待されます。

 

こうした投資行動を通じて短期的な売買による損失は回避されやすくなり長期的な保有による利益の獲得に繋げられるのです。

 

 

3-2 IR活動の2つのデメリット

IR活動には大きなマイナス要素は少ないですが、費用や実施する人材に関する要素があります。

 

 

①一定の費用が発生

一般社団法人 日本IR協議会の2014年度「IR 活動の実態調査」*によると、アンケート調査で回答を得た企業のIR活動の年間費用の平均は1,634万円です。
*参考URL:https://www.jira.or.jp/download/newsrelease_20140418.pdf

 

IR費用を500万円未満とする企業は回答企業の45.7%、500~1,000万円未満が19.1%、1,000~2,000 万円未満が12.8%のほか、1~3億円未満の企業が1.5%となっています。

 

上記の結果では費用が1,000万円までの企業が全体の約65%となっており、金額的には多いとは言えないものの、効果測定が困難な活動に対して一定のコストがかけられているわけです。

 

ただし、上場企業の広告宣伝費では何百億円、何千億円という金額が計上されている点を考えると上記のIRの費用は微々たるものといえなくもないでしょう。

 

 

②経営者の関与とIR担当者の育成

IR活動が適正かつ効果的に実施されるためには、経営者がIR活動の意義を理解・関与し必要な人材を確保・育成していくことが求められます。つまり、経営者がIR活動に理解を示めさず自らもIRに関与しない、また、IR担当者も積極的に育成していない場合にはIR活動の効果は発揮されにくくなるのです。

 

IR活動は、企業の事業に関わる主業務やそれを支える間接業務とは異なるため、効果的に遂行するための方法などを学び取り入れ実行しなければなりません。そのためどのようなIR活動が自社にとってどのようメリットをもたらすのか、どのような方法をとれば目標が達成できるのか、といった点をまず経営者が理解することが重要です。

 

そのため何かと多忙な経営層にとっては業務の負担が増し、またIR担当部署の設置、人材育成に関わる手間やコストもかけなくてはなりません。

 

また、IR活動を計画し実行する人材を確保し必要な知識・スキルなどを習得させ、そして実行させるという取り組みが求められます。IR担当者の育成のカリキュラムの策定や人事処遇などの整備も進めていかねばなりません。

 

このようにIR活動を推進していくには、必要な体制の整備が必要であり時間もコストも少なからずかかるわけです。

 

・ IR活動のメリットとデメリットまとめ

メリット 合理的な株価形成と資本コストの低減
企業イメージの向上
個人投資家などの株主層の拡大
安定株主の増大
株価の安定
投資家にとっての適正な投資の実現
デメリット 一定の費用の発生
経営者の関与とIR担当者の育成

 

 

4 経営に活かすIR活動のポイント

さまざまなメリットが期待できるIR活動ですが、ここではそれをどのように経営に活かしていくかという点に着目して、IR活動の推進事例や推進する上でのポイントを説明します。

 

 

4-1 企業にとって望ましいIR活動と事例

企業にとって望ましいIR活動を把握するために、「IR優良企業賞」およびその事例と特徴などを紹介していきましょう。

 

 

①IR優良企業賞

一般社団法人 日本IR協議会は毎年、会員企業の中から優れたIR活動を実行している企業について「IR優良企業賞」を発表しています。ほかにも小型株企業に対しては「IR優良企業奨励賞」が、長期間の優れたIR活動をした企業や顕著なIR実績を有する企業には「特別賞」が、優良企業賞の受賞が3回目の企業には「大賞」が表彰されます。

 

「IR優良企業」は株価や時価総額において高いレベルでの維持が見られる傾向あるとされ、IR優良企業賞の受賞企業のIR活動には他の企業が参考にすべき点が少なからず見れるでしょう。

 

その2017年度のIR優良企業賞の受賞企業とその受賞のおもな理由は以下のとおりです。(出所:一般社団法人 日本IR協議会ホームページ

 

IR優良企業大賞

A 小松製作所

  • 長期間に渡る一貫した情報開示が継続され、投資家との対話も深められている。
  • 経営層が交代してもそのIR活動の姿勢に変化はなく、IR担当者の知識や組織としての対応も十分である。
  • 経営トップのほか経営層による対話や、工場見学会、部門別説明会などへの評価も高い。
  • 建設機械の月次の稼働状況データなどがウエブサイトで開示され、個人投資家向けIRの充実などフェア・ディスクロージャーも重視されている。
  • 近年注力されているESG説明会は、持続的成長への信頼性を高めるものと評価を得ている。

 

B 塩野義製薬

  • 経営トップは投資家との対話に積極的で、自社の競争優位性に関する説明に説得力が見られる。
  • 厳しい環境でもハイレベルな情報開示が継続され、資本市場との対話も継続されている点は投資家の信頼感に結び付いている。
  • 対話の成果をガバナンス改善に活用する、R&D部門の幹部などの意識改革や事業戦略に反映させる点での評価も高い。
  • IR部門では継続したレベル向上への取り組みが見られる。また、ESGに関する対話促進により、社会的課題への取り組みと企業価値向上との接点を示すことに努力している。

 

IR優良企業賞

C ダイキン工業 初受賞

  • 経営トップが投資家と対話し、一貫性のある姿勢で事業環境や中長期の課題などについて説明している。
  • IR部門は投資家の要望を把握の上それを説明資料などに反映させている。アニュアルリポートも毎年テーマが変更されるなどの工夫が見られる。
  • ウエブサイトによる情報発信や工場見学会などのイベント開催などを積極的に実施している。個人投資家向けIR活動も活発である。
  • 高いDOE(株主資本配当率)目標などの資本政策も設定され、資本市場からの理解が得られるよう努めている。

 

D 大和ハウス工業 初受賞

  • 近年、IR活動が強化され、その取組姿勢や情報開示、経営へのフィードバック、事業説明会などのイベント開催などが業界のなかでもトップクラスである。
  • 数値による開示情報が詳細でわかりやすく、事業分野別スモールミーティングでも有益なディスカッションが可能となっている。
  • 初めて作成した統合レポートでは企業価値向上のプロセスが明確に示されている。また、同書を用いたミーティングにおいて、対話と理解を深めるツールとして高く評価された。

 

E 野村総合研究所 初受賞

  • 一般的に把握しにくいとされる業態に属するが、継続的に情報開示の維持・向上に努めている。
  • 経営トップが積極的に投資家との対話に取り組み、率直な意見交換の姿勢が高く評価される。
  • IR部門は経営陣の考えや事業内容などを投資家に理解されるように努め、丁寧な説明に取り組んでいる。
  • アクセスの容易さや長年にわたる経験の蓄積などにより、IR部門の現場への信頼感も高い。
  • 説明資料も充実。事業ごとの説明会などのイベントも評価されている。

 

 

②IR優良企業賞の受賞企業にみられるIR活動の特徴

上記の受賞企業から読み取れる優れたIR活動の特徴として、以下の点が挙げられます。

 


A 経営トップがIR活動を理解し取り組んでおり、特に投資家などとの対話を積極的に行っている。経営戦略や経営計画なども説明されるケースが少なくない。

 

B IR部門のIR活動に対する維持・向上への取り組みが熱心である。

 

C 投資家との対話(双方向コミュニケーション)を通じて得られた意見が経営にフィードバックされている。

 

D 説明資料が充実しており、詳細だが分かりやすい内容となっている。

 

E 説明会などのイベントが積極的に開催されており、業績説明などが丁寧に実施されている。

 

F ウエブサイトのIRコーナーの充実化など個人投資家向けの情報提供にも熱心である。

 

以上の内容からIR活動は業績などの決算情報を提供・開示する行為に止まらず、株主、投資家、市場全体などとの良好な関係を構築・向上させるための取り組みといえるでしょう。また、市場との双方向のコミュニケーションを行い、それを通じて得られた貴重な意見・情報を経営に活かすなど、新たな価値創造の機会としてIR活動が利用されています。

 

 

4-2 IR活動を推進する上での注意点・重要点

ここではIR活動を有効に機能させ効果のある実行に結び付けるための注意点や重要点を紹介しましょう。

 

 

①投資家のタイプに合わせたIR活動

投資家にはさまざまなタイプがいるので、そのタイプの違いも考慮したIR活動が重要です。

 

投資家には国内で組織にて取り組んでいる証券会社や機関投資家、個人で投資しているタイプ、海外の投資家などさまざまで、投資の目標や株式を保有する期間などの違いがあります。そのため投資家によって企業に求める情報の対象およびその内容の量や質も異なってくるわけです。

 

単に決算情報を明瞭に提示するだけでは不十分で、海外投資家向け、国内機関投資家向け、国内個人投資家向けといったある程度のタイプ別でのIR活動の展開が求められます。

 

また、短期の業績動向に敏感な短期保有目的の投資家には、直近の業績データと今後の見通しについて説得力の高い情報提供や説明も重要になるでしょう。例えば、短期的な業績の低下に陥った場合でもその原因分析と回復のための実効性のある手段を客観的に示すといった説明が必要です。

 

具体的には、その手段を実現するための資金調達、生産、販売、人員などに関する計画の概要程度の説明が求められます。「なるほど!こういう対策が用意されているので業績の回復が期待できる。」と思わせる情報の提供が必要なのです。

 

また、比較的長期に渡って株式を保有する投資家には、中長期のビジョン・目標を示し、それに向けた具体的な戦略内容の提示が重要になります。

 

経済・法規制・技術・競合他社の動向、それらに対応する自社の販売力、サービス提供能力、設計力、製造力などの分析とそれに基づく戦略の提示が欠かせません。これらの情報を簡潔でわかりやすい形で投資家にアピールできるかがポイントとなるでしょう。

 

加えて海外向け投資家には以上の情報提供に関して英語や中国語といった外国語で提供できる資料やコンテンツの準備のほか、外国語で説明できるIR担当者の育成も重要になります。

 

 

②IR活動を推進する役員および担当部署の設置

全社的なIR活動を推進していく場合、経営層のIR活動への積極的な関与は不可避であるため、IR活動推進を担う役員の設置が求められます。また、コーポレートガバナンスの点においてもIR活動は重視されているため、必要な体制を整備することが上場企業では不可欠となっているのです。

 

証券取引所では上場適格基準の確認のため、「適時開示に係る審査」が実施されます。その審査対象となる項目は、開示の時期、虚偽内容の有無、投資判断に必要な情報の欠落、誤解情報の有無、開示の不適正 などです。

 

こうした審査項目をクリアしないと上場を維持することに支障がでるため、上場企業としては専門的な対応が求められます。そのためには、IR活動を積極的に推進する役員と専門の担当者部署の設置が不可欠です。そして、彼らを通じて投資家や市場に適宜、公平、継続的に有益な情報を提供し、彼らとの良好な関係を維持・向上することが求められます。

 

 

③IR活動で提供する情報のポイント

各種投資家によって重視する情報には多少の違いはあるでしょうが、一般的には下記の内容が重要なポイントになるでしょう。

 

A 業界平均以上のキャッシュフローを創出するビジネスモデルの内容

どのようなビジネスシステムで競合他社以上のキャッシュフローを生み出せるのかといったビジネスの仕組みを説明することが重要です。

 

B 現在のポジションおよび今後の成長性

現在の自社の業界におけるポジションがどこにあり、今後の事業推進によりどのポジションへ移行できるかという成長性の明示が求められます。

 

C 競争優位性の程度

業界他社と比較して現在の自社の競争優位性がどの程度あるのかを数値などで端的に示し、今後どの程度の期間その優位性が確保できるかなどの説明も必要です。また、強化によりさらに優位性が拡大できるのかなどの言及も望ましいでしょう。

 

D 戦略、事業の実現のため体制の整備

ビジョン、目標、戦略および事業内容を端的に説明することは当然ですが、それらを実現させるための具体的な体制の整備に関する情報提供も重要です。戦略や事業を推進するための人、モノ、カネ、情報をどのように調達しマネジメントしていくのか、という点も触れなくてはなりません。

 

E 社会貢献への取り組み

企業市民としてどのように社会と向きあい取り組んでいるか、どう社会に貢献しているか、という点が投資の重要な評価要素になってきているため、それらの情報開示も必要です。それらの要素は長期的な保有を目的とした投資の判断材料にもなることから、その積極的な情報提供は安定株主の拡大に向けて有効となるでしょう。

 

F リスク情報

経済動向やライバルの状況などの変化によって、企業の戦略や事業は成功するとは限らないため、どのような環境が失敗につながるのかといったリスクの説明も求められます。投資家が投資先の経営環境がどのようになれば業績に影響するのか、目標が達成できなくなるのか、といった点を判断できる材料の提示が重要となるのです。

 

また、そうしたリスク要因に対してどのような手段を講じて打開していくのかといった対策を示しておくと投資家の信頼も得やすくなるでしょう。

 

 


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