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会社設立時の機関設計を詳細解説!

会社設立にあたっては、いくつかの決めるべき事項と為すべき手続きがありますが、最初の第一歩として、機関設計を行う必要があります。会社形態によって違いはありますが、株式会社の場合、法定事項が多いことや、組織のベースとなることを考えると、慎重に検討する必要があります。今回、この機関設計に関し、各機関の役割や権利義務について詳細に解説しますので、会社設立をお考えの方はぜひご参考下さい。

 

 

1 機関設計とは

会社が、組織として事業活動を行っていくには、組織の運営・管理を含めた法的判断および意思決定を下すための機関が必要となります。株式会社で言えば、その権能に応じて「株主総会」、「取締役」、「取締役会」、「監査役」、「監査役会」、「会計参与」、「会計監査人」、「監査等委員会」、「指名等委員会」など多くの機関がありますが、設立時に必須の取締役と株主総会が必置機関である以外は、会社の規模等に応じていくつかの選択肢があり、その中で任意に設置することができます。

 

一方、持分会社の代表格で、近年設立数が増加している合同会社の機関でみると、株式発行がないことから株主総会のような法定機関の設置は必要ありませんし、「取締役」、「取締役会」、「監査役」といった機関の設置も不要です。合同会社の経営に関する意思決定と業務執行は、基本的には「社員(=出資者)」の過半数をもって行うことになります。この社員の過半数をもってする意思決定のプロセスが、株式会社における「株主総会」や「取締役会」の決議に相当するものです。

 

ただし、合同会社であっても、実務上、迅速な意思決定機能を備えることには合理性がありますので、定款で「業務執行社員(持分会社は役員ではなく出資者たる社員)」を選出して、業務執行を委ねることは可能であり、この場合の意思決定は、業務執行社員の過半数をもって決することになります。また、「社員」の中から、株式会社の社長のような「代表社員」を選出することもできます。

 

合同会社における機関のもう一つの特徴として、社員による監査役機能があります。正式には、「社員の持分会社の業務及び財産状況に関する調査権(会社法第592条)」ですが、業務を執行する社員を定款で定めた場合には、各社員は、持分会社の業務を執行する権利を有しなくとも、その業務及び財産の状況を調査できるため、実質的な監査権限と言えます。

 

以上から、合同会社の機関は、「社員総会」、「業務執行社員」、「代表社員」を設置(選定)することが考えられます。本来なら全社員が有している意思決定等に係る権限をこれら機関に移譲することで、会社としての機能を高めることも可能になることから、機関設計の点では、株式会社と比較して柔軟性が高いといえます。

 

 

2 コーポレートガバナンスの重要性

具体的な機関設計の解説に入る前に、各機関の果たすべき機能と密接な関係にある「コーポレートガバナンス」について、言葉の示す意味と本質、そしてこれから将来へ向けて企業に求められる仕組みについて整理しておきます。

 

 

 

2-1 コーポレートガバナンスという言葉の意味

コーポレートガバナンスという言葉の意味は、その内容とともに正確に説明することは困難であると言われます。一般的な和訳として「企業統治=企業の意思決定システム」という言葉が用いられていますが、時々の経済環境や社会情勢の変化に伴って企業に求められる役割と機能も変化するように、この言葉の意味もまた時代と共に変化しているからです。

 

 

 

2-2 コーポレートガバナンスの歴史

日本のコーポレートガバナンスに係る歴史を繙くと、戦後の高度経済成長期から石油ショック前後に発生した、談合、贈収賄、不正融資、インサイダー取引、利益供与、損失補填、粉飾決算等々、現代で言うところの反社会的行為であることを知りながら、意図的に引き起こされた悪質な行為に対する牽制の仕組み作りから始まったといえます。

 

その後、学者などの専門家のアドバイスを容れた経営者層が、社会的責任や倫理観等を企業の経営理念や行動規範として実践し、一定の抑止効果が見られたことで一服感が生じました。2000年代に入ると、その初頭に頻発した、雪印乳業の集団食中毒及び牛肉偽装問題や日本ハムの牛肉偽装問題といった大企業の不祥事を機に、再びコーポレートガバナンスに対する注目が高まり、企業不祥事の再発防止へ向けた経営監視の仕組みを再構築するための拠り所となりました。

 

この経営監視と牽制の仕組みとして重視されたのが、株主総会、取締役会、監査役(会)といった会社の機関の充実であり、内部統制制度、証券取引所、労働組合、機関投資家などによる会社内外の制度や機関によるチェック機能でした。

 

 

 

2-3 新たな仕組み作りへ

これらの仕組みの実効性は別として、これまでの日本企業におけるコーポレートガバナンスに対するアプローチは、違法経営を遵法経営に転換するための仕組み作りに置かれていたことは間違いありません。しかし、近年、新たに、「企業競争力」を向上させるための経営に係る意思決定の仕組みと経営監視の仕組みを構築するという役割が求められるようになりました。

 

企業競争力を高めるコーポレートガバナンスとは、企業価値及び生産性の向上、イノベーションをもたらす企業体質を実現する仕組みと言えます。政府が打ち出した成長戦略「日本再興戦略2015・2016」では、「コーポレートガバナンスの更なる強化」として、「取締役会の実効性向上」、「情報開示等を通じた建設的対話の促進」という項目が掲げられ、同戦略に併記された「イノベーション、ベンチャー創出力の強化」とともに、コーポレートガバナンスは国の政策誘導のツールともなっています。

 

 

 

2-4 中小企業におけるコーポレートガバナンス

国も絡んだ中でコーポレートガバナンスへの取り組みが進む中、上場企業においては、コーポレートガバナンス・コード(注1)の浸透により、統治構造に関する一定の進展が見られますが、中小企業においては、企業の所有者である株主と経営者が一体である企業が多く、外部の利害関係者からの牽制が効きにくい構造であり、経営の意思決定を行う仕組みや、経営計画の策定にあたり、管理会計を活用するというような経営管理機能が未整備であるのが実情です。

 

同族経営の多い中小企業で、経営に対する監視と牽制を担う利害関係者を外部に求めるとすれば、債権者でもある取引金融機関となる場合が多いと言えます。金融機関は、経営に関するアドバイスを送り、 場合によっては経営を監視し、必要があれば軌道修正する役割を担うことが可能です。中小企業がコーポレートガバナンスを強化する為には、機関設計を充実することとあわせ、外部機関を活用することがポイントとなります。

 

(注1)コーポレートガバナンス・コード
金融庁による有識者会議で取りまとめられた「コーポレートガバナンス・コード案」(2015年3月)を受けて、東京証券取引所が整備を行い、2015 年6月から適用した上場企業の企業統治の指針。

 

 

3 各機関の役割

株式会社における各機関の名称とその役割について、法定事項を確認した上で各機関の具体的な役割等についてみていきます。なお、これ以降に記載する会社法の条項については、会社法第〇条第1項を⇒「法〇①」という記載方法としますのでご留意ください。

 

 

3-1 株式会社の機関(法定事項の概要)

  機関の名称 設置ルールと資格等の概要
株主総会 会社法に規定された事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議することができます(法295①)。
取締役 株式会社は株主総会以外に、一人又は二人以上の取締役を置かなければなりません(法326①)。取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、株式会社(取締役会設置会社を除く)の業務を執行します(法348①)。
取締役会 株式会社は、定款の定めによって取締役会を置くことができます(法326②)が、次の株式会社は取締役会を置かなければなりません(法327①)。(1)公開会社、(2)監査役会設置会社、(3)監査等委員会設置会社、(4)指名委員会等設置会社。
監査役 株式会社は、定款の定めによって、監査役、監査役会を置くことができます(法326条②)。監査役は、取締役(会計参与設置会社の会計参与を含む)の職務の執行を監査します(法381①)。
監査役会 監査役会の設置は、原則任意ですが、公開会社である大会社(委員会設置会社を除く)では必須です(法326②、328①)。
会計参与 株式会社は、定款の定めによって会計参与を置くことができます(法326②)。会計参与は、公認会計士若しくは監査法人又は税理士若しくは税理士法人でなければなりません(法333①)。
会計監査人 株式会社は、定款の定めによって会計監査人を置くことができます(法326②)。会計監査人は公認会計士又は監査法人でなければなりません(法337①)。
監査等委員会 株式会社は、定款の定めによって監査等委員会を置くことができます(法326②)。
指名委員会等 株式会社は、定款の定めによって指名委員会等を置くことができます(法326②)。

 

 

3-2 各機関の役割と権利義務

ここからは、各機関の役割と権利義務について解説していきます。

 

 

3-2-1 株主総会

株主総会は、会社の最高意思決定機関として、会社法に定められた決議事項をはじめ定款で定められた事項について決議を行います。株主総会の開催にあたっては、開催日程や招集通知発送日など法律で定められた期限があり、有効な決議とするためには適法な手続きに則る必要があります。

 

《株主総会の権限と権利義務》

項目 役割と権利義務
権限 会社法で規定された株主総会の権限は下記のとおりです(法295) ① 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。 ② 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会はこの法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議することができる。 ③ この法律の規定により株主総会の決議を必要とする事項について、取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは、その効力を有しない。
招集・開催 取締役は、毎事業年度の終了後一定の時期に定時株主総会を招集しなければなりません(法296①③)が、必要がある場合には、いつでも招集できます(同法②)。招集通知は、会日の2週間前(公開会社でない株式会社は1週間前)までに株主に対して発しなければなりません(法299①)。また、総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上の議決権を6カ月(これを下回る期間を定款で定めた場合にはその期間)前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項と招集理由を示して、総会の招集を請求することができます(法297①)
決議 株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を退いて、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数をもって行います(法309①)。なお、自己株式の取得、新株予約権の募集、株式の併合、役員及び会計監査人の解任等一定の重要事項については、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上にあたる多数をもって行わなければなりません(法309②)。
議決権 株主は、株主総会において、有する株式1株につき一個の議決権を有しますが、単元株式数を定款で定めている場合は、1単元の株式について一個の議決権となります(法308①)。また、株式会社は、自己株式については議決権を有しません(同条②)。

 

3-2-2 取締役

取締役は、会社設立時に必ず一人置かなければならない機関であり、会社成立後は業務の執行に携わる立場であるため、広範な権限を有するとともに様々な責任を負うことになります。

 

《取締役の役割と権利義務》

項目 役割と権利義務
業務執行 ・取締役は、定款に定めがある場合を除き、株式会社(取締役会設置会社を除く)の業務を執行します(法348①)。
・取締役が二人以上の場合には、定款に別の定めがある場合を除き、株式会社の業務は取締役の過半数をもって決することになります(同条②)。
選任・任期 ・役員(取締役、会計参与及び監査役)及び会計監査人は、株主総会の決議によって選任されます(法329①)
・取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで(法332①)
・公開会社でない株式会社(非公開会社)においては、定款によって、2年の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとすることができます(同条②)。
・監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社の取締役の任期は、1年です(同条③⑥)。
会社の代表 ・取締役は株式会社を代表(二人以上の場合は各自)しますが、他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合は、この限りではありません(法349①②)。
・この代表する者については、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって代表取締役を定めることができます(同条③)。こうして定めた代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有し、この権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができません(同条④⑤)。
善管注意義務 会社と取締役は、委任関係(法330)にあります。委任関係の一般的な義務として、善良なる管理者の注意もって職務を行う義務を負っています(民法第644条・受任者の注意義務)。
忠実義務 取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければなりません(法355)。
競業避止義務 取締役が自己または第三者の為に会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき、株主総会において取引に係る重要な事実を開示し、承認を受けなければなりません(取締役会設置会社の場合は、取締役会の承認)。
利益相反取引 回避義務 取締役が、自己または第三者の為に会社と取引する場合も、競業避止義務同様、取締役会の承認を受けなければなりません。
任務懈怠責任 善管注意義務と忠実義務を怠ったことによって生じた会社の損害に対し、賠償責任を負います。
利益相反取引 取締役会の承認を得て行った自己取引であったとしても、結果として会社が損害を被った場合は、取引の当事者たる取締役のほか、取引を承認した取締役も連帯して賠償責任を負います。

 

3-2-3 取締役会

取締役会は,取締役全員で組織される合議体です(法362①)。取締役会の権限は広範に及ぶため、その協議によって結論を得るという手続きを行わせることで、意思決定における監督機能を持たせたと言えます。これは、出資者である株主と経営者が同一ではないということを前提にした仕組みです。株式は、株式会社における株主の地位ですが、株式の譲渡制限がなければ自在に流通し、株主が頻繁に変動する可能性があります。

 

株式が自在に流通して株主が変動を繰り返すと、株主の会社経営に対する継続的かつ積極的な関与が困難となり、監視機能が働かなくなることから、経営者の権限濫用を監視・監督するための機関として取締役会の設置を規定したものです。このため、株式の譲渡制限のない会社(公開会社)では取締役会を必置機関としたほか(法327①)、監査役会設置会社(同条⑩)、監査等委員会設置会社(同条⑪の2)及び指名委員会等設置会社(同条⑫)に取締役会の設置を規定しています(法327①)。

 

それ以外の株式会社においては、取締役会は必置機関ではありませんが、置くことを選択することができます。公開会社等に取締役会の設置義務を課した目的は以下の点にあると言われています。なお、同族経営的小規模会社に多い譲渡制限のある会社(非公開会社)には設置義務はありません。

 

《取締役会設置義務の目的》

会社区分 設置義務の目的
公開会社 出資者である株主が頻繁に変動することで、経営者に対する監視機能が働かなくなることが想定されるため、監督機関として取締役会を置くことが相当との判断です。
監査役設置会社 監査役会という仕組みの機関を置きながら取締役会は置かないという機関設計は、経営組織の在り方として均衡がとれないためです。
監査等委員会設置会社 この機関は、監督をする者が業務執行者(代表取締役等)の任免を含む取締役会の決議における議決権を有するとともに、業務執行者に対する監督機能を強化することが目的となっており、取締役会の設置が前提となっているためです。
指名委員会等設置会社 取締役会と各委員会の構成及び権限の行使が密接不可分のものと考えられています(ワンセットであるとの認識)。

 

このように、機関の構成によって設置義務の有無が生じますが、取締役会を設置した場合、付議・決定事項には、法律で付議することを定められた法定事項と、株主総会や定款によって決議を委ねられた非法定決議事項があります。各付議事項の項目は省略します。

 

 

3-2-4 監査役

監査役は、取締役と同じく株主総会で選任され、株式会社と委任関係に立ちます。監査役の設置および員数は、定款により定めることができます(法326②)が、取締役会設置会社(公開会社でない会計参与設置会社を除く)、会計監査人設置会社は、委員会設置会社を除いて、監査役を必ず置かなければなりません(法327②③④)。

 

《監査役の役割と権利義務》

項目 役割と権利義務
職務 ・監査役は、取締役の職務の執行を監査し、監査報告を作成しなければなりません(法381①)。
・監査役監査は、大別して業務監査と会計監査に分かれます。
・監査役は、取締役会に出席し、必要と認めるときは意見を述べなければなりません(法383①)。
・監査役は、会社の業務・財産の調査権など幅広い権限を有する一方、善管注意義務や取締役会・株主総会への報告義務など様々な義務を負います。
責務 ・日本監査役協会は、実務指針として、「監査役監査基準」を定め、監査役の責務や心構えをはじめ、詳細な規定を設けています。最も重要な役目として、株主の負託を受けた独立の機関として取締役の職務の執行を監査することにより、企業の健全で持続的な成長を確保し、社会的信頼に応える良質な企業統治体制を確立するという「責務」挙げています。
選任・任期


欠格事由

兼業禁止


解任
・監査役は、株主総会の普通決議により選任され、任期は原則 4 年(法329、336①)で、取締役より長いのが特徴です。
・監査役(会)は、監査役選任議案に対する同意権と、監査役選任の議題・議案提出の請求権を有します(法343)。
・法人、成年被後見人や会社法等に違反した者など、欠格事由に該当する者は、監査役になれません(法335①、331①)。
・監査役は、会社や子会社の取締役や使用人等を兼ねることができません(法335②)。
・監査役が欠けた場合に備えて、補欠の監査役を選任できます(法329②)。
・解任には、株主総会の3分の2以上の特別決議を要します(法309②七、339①)。解任された場合、正当な解任理由がある場合を除いて、損害賠償を請求できます(法339②)。
業務監査 ・業務監査においては、取締役の職務執行が、法令・定款に適合しているか、善管注意義務・忠実義務に違反していないかなどを監査します。法令とは、会社法だけではなく、金融商品取引法などすべての法令を含みます。
・具体的には、主に以下の点を中心に、会社経営の広範な分野にわたって監査し、不正行為、法令・定款違反その他の問題があるときは、取締役(会)に対しケースに応じて、「報告」、「指摘」、「助言」、「勧告」を行い、又は当該行為の差止めを請求します。
① 取締役の職務の遂行に関し、不正行為や法令
・定款違反の事実はないか。
・取締役(会)は、善管注意義務に基づき、経営判断の原則に配慮して意思決定をしているか。 ・取締役会は、取締役の職務の執行を適切に監督しているか。 ・競業取引・利益相反取引は、所定の承認を受けているか。忠実義務違反はないか。
② 内部統制システムに係る取締役会決議の内容は相当か。
・法令等遵守体制、リスク管理体制、情報保存管理体制などの内部統制システムが、適切に整備されているか。
・取締役(会)は、体制の整備状況等を把握し、欠陥や問題に適切に対処しているか。
・必要な見直しが適時・適切に行われているか。
・財務報告の適正性を確保するための体制の整備状況。
③ 事業報告等は、法令・定款に従い、会社の状況を正しく示しているか。
会計監査 ・会計監査人設置会社を除いて、計算関係書類が会社の財産・損益の状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかなどについて監査し、問題があるときは、必要に応じて、取締役会に対してフィードバックします。
・会計監査人設置会社では、次の事項等を監査しなければなりません。
① 会計監査人の監査の方法と結果が相当であるか。
② 会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制(会計監査人の内部統制)が整備されているかどうか。
監査報告 ・期末には、業務監査と会計監査について、監査の方法およびその内容と監査の結 果を記載した監査報告を作成しなければなりません(会社法施行規則129、会社計算規則150・155)。
・監査役会設置会社では、まず各監査役が「監査役監査報告」を作成し、監査役会はこれについて審議した上で「監査役会監査報告」を作成しなければなりません(会社法施行規則130、会社計算規則151・156)。
登記事項 ・監査役の設置、監査役会の設置、監査役の選任・退任、社外監査役の選任・退任は、原則として「登記」が必要です(法911③十七、十八、915①)。
その他 《監査役会等を設置しない会社の監査》
・監査役会も会計監査人も設置していない非公開会社では、定款の定めにより、監査役の監査範囲を会計関係に限定できます。

 

 

3-2-5 監査役会

監査役会の設置は、原則任意ですが、公開会社である大会社(委員会設置会社を除く)では必置機関です(法326②、328①)。 設置した場合は、監査役が3人以上で、そのうち半数以上が社外監査役(注2)でなければならず、常勤監査役(注3)を選定しなければなりません(法335③、390③)。役割と権利義務は以下の通りです。

 

項目 役割と権利義務
決議 ・監査役会は、監査役全員で組織し、全員の過半数で決議を行います(法390①、393①)。
職務 ・監査方針・調査の方法など監査役の職務の執行に関する事項を決定し、監査役会監査報告を作成します(法390②) 。
・監査役会の議事に関し、議事録の作成が必要です(法393②③)。
・議長の選定について会社法に定めはありませんが、大多数の会社で選定しています。

 

(注2)社外監査役
監査役であって、当該会社又はその子会社の取締役や支配人その他の使用人などになったことがないものをいいます(法2十六)。責任限定契約などを除いて、社外監査役の役割・権限・義務・責任等について特段の定めはなく、社内監査役との優劣はありませんが、監査役会設置会社の場合は、社外監査役である旨の登記を要します(法911③十八)。

 

(注3)常勤監査役
監査役会は、常勤監査役を選定しなければなりません(法390②③)が、会社法には、その役割・権限・義務・責任等についての特段の定めはなく、常勤も非常勤も監査役としての権能は同じです。しかし、立場上、常勤監査役は、常勤者としての特性を踏まえ、監査環境の整備および社内の情報の収集に積極的に努め、収集した情報を、他の監査役と共有するよう努めなければなりません。

 

 

3-2-6 会計参与

会計参与は、主として中小企業の計算書類の正確性に対する信頼を確保するため設置される機関で、定款において任意に設置できます。主な職務は、取締役及び執行役とともに計算書類を作成し、その計算書類を取締役及び執行役とは別に保存し、 株主・会社債権者に対して開示することです。計算書類の作成と適正さを確保する機関であるため、公認会計士又は税理士の資格を有する者しか選任されません。

 

また、会計参与を設置する株式会社およびその子会社の取締役、監査役、執行役、支配人またはその他の使用人は、会計参与を兼務することはできません。会計参与を設置する会社の顧問税理士については、法令上は会計参与を兼務することは可能ですが、その職務を考えれば兼務することは適当とはいえません。会計参与の任期は、取締役と同様、原則として2年ですが、株式譲渡制限会社(非公開会社)については、定款で任期を最長10年まで延長することができます。

 

《会計参与の職務と権限》

職務 ① 取締役・執行役との計算書類の共同作成
② 計算書類の保存
③ 計算書類の株主および債権者への開示
④ 計算書類を承認する取締役会への出席
⑤ 計算書類の作成の際,取締役・執行役と 意見が異なった場合,株主総会における意見陳述
⑥ 会計参与報告の作成
⑦ 株主総会における計算書類の説明義務
⑧ 株主総会における会計参与の選任等に関する意見陳述
⑨ 辞任した会計参与による株主総会における辞任理由の陳述
権限 ① 会計帳簿・資料の閲覧権および謄写権
② 職務遂行上必要な場合の当該会社・子会社の業務および財産状況の調査権

 

3-2-7 会計監査人

会計監査人は、株主総会の決議によって選任されます(法329条①)。会計監査人には法定の資格があり、公認会計士又は監査法人でなければなりません(法337①)。

 

《会計監査人の職務と権限》

1.職務・権限・責任

  • 会計監査人は、株式会社の計算書類(貸借対照表、損益計算書、注記表等)及び附属明細書、臨時計算書類並びに連結計算書類を監査し、会計監査報告を作成しなければなりません(法396①)。
  • 会計監査人監査の対象は、事業報告も含まれているものの、会社法で会計監査人の責任を負うものを「計算書類」およびその「附属明細書」としています(法436②)。
  • 会計監査人は、監査に必要な情報を得るために、会計帳簿類を閲覧・謄写し、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対し、会計に関する報告を求めることができます(法396②)。

2.独立性の確保

会社法の規定では、委員会設置会社を除き、会計監査人設置会社には監査役を置かなければなりません(法327③)。これは、会計監査人は、業務監査を行う監査役等とセットでなければ、業務執行機関からの独立性を確保できないためです。

3.会社との関係

会計監査人と株式会社の関係は、取締役や監査役同様委任関係にあります(法330)。このため、いつでも辞任することができます(民法651①

4.任期・選任・解任等

  • 株主総会の普通議決によって選任(前出)されますが、設立の際は、発起人又は創立総会の決議によって選任されます(法38②三)。
  • 監査役の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(法388①)。
  • 会計監査人が職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき等所定の事項に該当するときは、監査役は、その会計監査人を解任することができます。(法340①②)

 

 

3-2-8 監査等委員会設置会社

監査等委員会は、3 人以上の取締役によって構成され、うち過半数は社外取締役でなければなりません(法331⑥)。監査等委員会は、取締役の職務執行に対する監査を担う機関ですが、監査等委員以外の取締役の選任等・報酬等について、株主総会における意見陳述権を有するなど、一定の監督機能を担っています。

 

監査等委員会設置会社は、監査等委員会を置く株式会社であり(法2十一の二)、公開会社か否か、大会社か否かを問いません。また、必ず取締役会及び会計監査人を置かなければならず(法327①⑤)、監査役を置くことはできません(同条④)。

 

《監査等委員会の職務と権限》

1.監査等委員会の職務・権限

(1)取締役の職務執行の監査

  1. ① 監査報告の作成義務(法399の2③一)
  2. ② 取締役・子会社に対する報告請求権及び会社の業務・財産の調査権(法399の3)
  3. ③ 取締役の報告義務の相手方となること(法357①③)
  4. ④ 監査等委員以外の取締役と会社との間の訴訟における会社を代表する監査等委員の選定(法399の7①二)
  5. ⑤ 取締役会の招集権(法399の14)

(2)会計監査人に対する職務・権限

  1. ① 会計監査人の選任及び解任並びに不再任に関する議案内容の決定権(法399の2③三)
  2. ② 会計監査人の報酬等決定に対する同意権(法399①③)
  3. ③ 会計監査人の解任権と株主総会あて説明義務(法340①②③⑤)
  4. ④ 一時会計監査人の選任義務(法346④⑦)

(3)監査等委員以外の取締役の選任等・報酬等に対する意見陳述権

  1. ① 監査等委員以外の取締役の選任等・報酬等に対する意見陳述権(342の2 ④、361⑥)

(4)監査等委員の選任議案についての同意権・提案権

  1. ① 監査等委員である取締役の選任議案の提出に対する同意権(344の2①)
  2. ② 監査等委員である取締役の選任に係る議題、議案の提出請求権(同条②)

(5) 利益相反取引の承認

  1. ① 取締役の利益相反取引の承認による任務懈怠の推定否認(法423④)

2.監査等委員の職務・権限・義務

(1)取締役の職務執行の監査

  1. ① 取締役の不正行為等があるときの、取締役会あて報告義務(法399の4)
  2. ② 株主総会提出議案・書類等の報告義務(法399の5)
  3. ③ 監査等委員による取締役の違法行為等の差止請求権(法399の6)

(2)監査等委員の選解任等についての意見陳述

  1. ① 監査等委員である取締役の選任・解任・辞任の場合について意見を述べる権限(342の2①②③)

(3)監査等委員の報酬等に関する権限

  1. ① 監査等委員である各取締役の報酬等の協議による決定(法361①②③)
  2. ② 監査等委員である取締役の報酬等について意見を述べる権限(法361⑤)

(4)監査等委員である取締役の義務

  1. ① 善管注意義務(法330、民法644)
  2. ② 法令・定款遵守義務及び忠実義務(法330、355)

 

3-2-9 指名委員会等設置会社

指名委員会等設置会社とは、「指名委員会」、「監査委員会」、「報酬委員会」の3つの委員会が設置された会社(法2十二)で、委員会を構成する委員の過半数は社外取締役です。指名委員会等設置会社は、従来の株式会社とは異なる概念のコーポレートガバナンスを備えています。取締役会が経営を監督する一方、業務の執行については執行役に委ね、経営の合理化と適正化を目指す体制です。現在、東証一部上場企業で導入している企業が60社程度と言われる特殊な機関設計ですので、詳細な説明は省略します。

 

 

4 各機関の組み合わせ

各機関の役割と権利義務を念頭に機関設計を行ことになりますが、必置機関である株主総会を除けば、会社規模等に応じて組み合わせを検討することになります。適法な組み合わせとして下記の基本的なパターンが考えられます。

 

  設置機関の組合せ 設置にあたってのポイント
取締役のみ 小規模の会社に適した機関設計です。取締役は一人でもよいため、取締役一人の登記で済ませることもできます。
取締役+監査役 監査役は、会社の規模に関係なく業務監査と会計監査の権限を待ちます(法381)が、株式譲渡制限会社は、定款で監査役の権限を会計監査に制限することができます(法389①)。対外的な信用度向上を目的に一定規模の会社が採用することが多いパターンで、小規模な会社には実益はないと考えられます。
取締役+会計参与 会計参与は、取締役と共同して計算書類を作成します。会計参与になれるのは、公認会計士、監査法人、税理士、税理士法人に限られることから(法333①)、計算書類の対外的信用度が向上するという効果が見込まれます。
取締役+監査役+会計参与 対外的な信用力はかなり高くなり、会社の体裁も整いますが、設置目的が曖昧だと形骸化して無駄になる可能性が高い構成と言えます。
取締役会+監査役 取締役会は取締役3名以上で構成(法331⑤)され、株主総会を開かずにかなりの部分の意思決定が可能ですが、取締役会設置会社は、監査役若しくは会計参与またはその両方を設置(大会社)しなければならない点に注意が必要です。
取締役会+会計参与 監査役を置かず、取締役会と会計参与の編成も可能です。
取締役会+監査役+会計参与 中小企業でもかなり大きな組織が対象となる組み合わせで、対外的な信用を高める必要のある会社向きと言えます。

 

 

5 会社規模に応じた最適機関設計

前項で示した組み合わせを基本としながらも、会社規模と求められるガバナンスを勘案し、最適と考えられる機関設計をお示しします。

 

 

5-1 小規模会社の場合

条件 機関設計
創業メンバー2人以内の小規模会社 創業時のメンバーが2人以内で小規模な場合は、いくつもの選択肢はあるものの、「株主総会+取締役」が最適です。取締役は1人でも2人でも可です。代表取締役の設置は任意ですが、2人の取締役とすると検討が必要です。1人でも2人でも可能です。
3人以上の小規模会社 取締役を3人とすると、取締役会の設置が視野に入ります。取締役会を設置すると、監査役若しくは会計参与を置かなければなりませんので、役員の増加によるコスト増も考えられます。基本的には①で十分運営可能です。
機関設計の選択肢
①取締役 ②取締役+監査役 ③取締役+会計参与 ④取締役+監査役+会計参与 ⑤取締役会+監査役  ※ 従業員が数十人いるような場合は、②又は③も選択の余地があります。

 

5-2 中規模・大規模(公開会社・非公開会社区分)

会社区分 機関設計
公開会社である中規模会社 中規模会社は小規模の会社に比べて従業員数が多いことが予想されます。一定数の従業員を擁する企業では、公開会社でもあり、コンプライアンス対応を含め一定水準のガバナンスの整備を念頭に機関を検討しましょう。
機関設計の選択肢としては、小規模会社の選択肢の他、下記が考えられます。
①取締役会+監査役+会計監査人 ②取締役会+監査役会+会計監査人
※ 一般的には②が最適です。監査役3名の確保、半数以上を社外監査役とし、 あわせて常勤監査役を置かなければなりませんので、コストが大きくなります が、ガバナンスを重視する必要があります。
公開会社である大規模会社 株主や会社債権者が多数にわたることが想定されるため、ガバナンスの強化のために、会計監査人設置、監査役会又は指名等委員会又は監査等委員会設置及び会計監査人の設置が義務付けられるので,以下の形態からの選択になります。
①取締役会+監査役会+会計監査人
②取締役会+指名等委員会+会計監査人
③取締役会+監査等委員会+会計監査人  
※いずれの場合においても、任意に会計参与を設置することはできます。
非公開会社である中規模会社 公開会社同様に一定の従業員数が見込まれますので、非公開会社とはいえ、一定水準のコンプライアンス対応を含めたガバナンス体制を確保しなければなりません。公開会社と同様の選択肢の中で検討すると、①が適していると考えられます。
非公開会社である大規模会社 公開大会社ほど株主が交替しないことが予想されます。全株式譲渡制限会社であっても大会社の場合には,会計監査人の設置が義務付けられています(法328②)。そして,会計監査人設置会社は,監査等委員会・指名等委員会設置会社を除き,監査役をおかなければなりません(法328①)。取締役会の設置は強制されていませんが、会社規模を考えれば、④が最適な選択です。
④取締役会+監査役+会計監査人
⑤取締役+監査役+会計監査人
なお、いずれの場合も、任意に会計参与を設置することが可能です。

 

これからの企業経営において重視すべきは、コーポレートガバナンスの充実にあります。企業が、社会の公器であると言われて久しい今日、社内の人事労務問題への対応のみならず、社会にどうコミットするかもこれからの企業にとって重要な要素になります。

 

 

6 持株会社とは?持株会社には二種類がある

持株会社(ホールディングス)という言葉を、少し前からよく聞くようになりました。様々な会社が持株会社を設立し、○○ホールディングスなどいう社名にしているケースがあります。会社設立を検討する方も、今後組織が大きくなれば、持株会社の設立等を視野に入れる段階がでてくる可能性があります。

 

持株会社(ホールディングス)は、二つの種類に分けられます。事業を行う「事業持株会社」、会社の支配・管理のみを目的とした「純粋持株会社」です。一般的には、純粋持株会社のことを「持株会社」と呼ぶケースが多いです。

 

以前は財閥の存在による経済の集中など、過度の資本集中を防ぐために、持株会社の制度は認められていませんでした。その後、1997年の法改正により、持株会社の制度が運用できるようになりました。

 

持株会社として会社を支配するには、会社の総発行株式の過半数(50%超)を有することが前提となり、過半数以上の株式を持つ会社を「子会社」として定義します(なお、100%の株式を保有する場合は、「完全子会社」となります)。

 

 

 

6-1 事業持株会社

事業持株会社は、会社自身が事業を行いつつ、関連企業の過半数以上の株式を保有することで傘下に収めるパターンです。

 

通常の事業会社でもよくあり、子会社の株式を過半数以上持つことにより支配下に置きつつ、自社でも事業を行うというパターンです。日立製作所などはその典型例といえます。

 

日立製作所は、自社本体で約3万3千人以上の従業員を擁する大企業です。組織図をみると、グループのコーポレート・統括機能や主力部門である研究開発・モビリティ・ライフ・インダストリー・エネルギー・ITなどの部門を自社で抱えています。

 

一方日立工機(現在の工機ホールディングス)をHKホールディングスに売却するなど、採算性や技術力があっても、コア事業とのシナジーが望みにくい業種は売却するなど、選択と集中を進めています。

 

このように、事業を行う一方で、持株会社としての立ち位置も有する会社も、日本には多くあります。

 

 

 

6-2 純粋持株会社

純粋持株会社は、事業自体は行わず、傘下の会社の株式保有と、会社の管理のみのために設立されます。持株会社を設立、というと大抵この「純粋持株会社」のケースです。

 

特徴として、「基本的には傘下の子会社からの配当金で運営される」という点があります。純粋持株会社は事業を行うわけではありません。その利益はどこから来るのかというと、子会社の株式の配当金です。子会社の株式を多数持っているため、そこから得られる配当の額は大きく、配当だけで純粋持株会社の運営が成り立つのです。

 

持株会社を指す場合、純粋持株会社のことを指すケースも多いです。

 

 

7 持株会社のメリット

なぜ持株会社を設立するのか、という疑問をお持ちの方もいると思いますので、それぞれ事業持株会社、純粋持株会社のメリットについても触れていきます。

 

 

 

7-1 事業持株会社のメリット

①事業持株会社の本業の温存と、必要に応じた事業の子会社化による切り離し

よく家電などを見に行くと、昔は、製造会社が、「ソニー」とか「東芝」のように組織本体が販売者であるケースが多かったですが、現在は、「○○アプライアンス」とか「○○マーケティング」のように、製造・販売会社を分離、本体から切り離すケースが目立つようになりました。

 

また、NEC、富士通のように、以前はパソコン事業を直轄下に置いていた会社であっても、株式の過半数を外資系事業のLenovoに譲渡、名前だけはNECパーソナルコンピューター、富士通クライアントコンピューティングなど残るものの、実質的な経営支配権は、Lenovoが握るなど、子会社化し本体から切り離した上で、株式を他社に大幅に譲渡するケースもあります。

 

②将来的な事業・ブランドの統合

代表的なのは、広島のエディオンでしょう。エディオンは中国地方で確固たる地盤を持つ会社でしたが、関東の石丸電気、中部のミドリ電化、近畿のエイデン、北陸・北海道の100満ボルトと経営統合、100満ボルト以外はエディオンのブランドに統合しました。

 

このように、本体で事業を行い、同時に事業ブランドの統一を図る場合に、事業持株会社として傘下に収め、その後統合という手法も使われるケースがあります。

 

 

 

7-2 純粋持株会社のメリット

①意思決定のプロセスが素早くなる

もともと企業は、子会社の株式を持つことで、グループ企業を傘下に収めてきました。しかし、企業規模が大きくなればなるほど、経営の意思決定という場面において、役員間での調整など、内部に対する説得の必要性など、手間がかかるようになります。

 

特に、特定企業を買収したり、新規事業を開発するなど、新しい動きを起こすときに、内部で調整・根回しなどを行っていては、非常に時間がかかってしまい、迅速な経営判断が要される現代ではハンデになります。

 

ですが、純粋持株会社であれば、あくまで企業としての意思決定は純粋持株会社の中で行えるため(もちろん、最低限の事情説明は必要となりますが)、柔軟かつスピーディーに意思決定ができるようになります。

 

②権限・意思決定権の子会社への移譲による、子会社自身の機動力強化

純粋持株会社になることは、子会社側にとってもメリットがあります。大きなメリットの一つとして、意思決定権を子会社側へ大幅に委譲でき、高速な経営判断ができることが挙げられます。

 

子会社を事業ごとに分けることで、それぞれの自主性を引き出し、また経営に関しても採算性などを明確化することで、子会社が、経営結果に責任を持つ意識が育ちます。

 

③給与体系・人事などの柔軟化

被雇用者側にとってはあまりプラスとは言えませんが、持株会社と子会社の事業会社を分離することにより、持株会社は持株会社の給与体系、子会社は子会社の給与体系・人事制度など、組織や採算性に応じ、柔軟に設計できます。

 

④リスク分散

企業を統括する持株会社と、事業を行う事業会社を明確に切り離すことで、事業会社でコンプライアンス上や財務上の問題が生じても、持株会社への影響を少なくすることができ、また他のグループ会社への問題波及も抑えることができます。

 

⑤グループ会社の売却の容易化と、他社の買収の容易化

グループごとに経営が独立しているということから、不採算事業や、本体とのシナジー性が薄い事業を売却などで切り離しやすくなります。

 

もちろん、事業持株会社であっても、グループ会社の売却は可能ですが、純粋持株会社の場合はよりスピード感を持ち、合理的にすすめることができます。

 

⑥類似事業を傘下に収め、地域で親しまれたブランドを残す

代表例としては、北海道のツルハホールディングスが挙げられるでしょう。

 

ツルハホールディングスは、北海道のツルハドラッグ、関東のくすりの福太郎、山陽地方のウォンツ、山陰地方のウェルネス、四国のレディ、静岡の杏林堂、愛知のB&Dなど、地域でよく知られた会社をM&Aで傘下に収めています。流通管理システムやCMなどは統合しつつも、名前は地域ごとに残し、あくまでツルハグループのマークを入れるのにとどめています。

 

今後事業承継が本格化し、日本国内の事業が縮小する中、あらゆる業種で、「地域で知名度・信頼を持つ企業をホールディングス企業が買収し、できるだけ企業が現状のカラーを保った状態で運営できるようにしていくという流れは進んでいくでしょう。

 

 

8 持株会社のデメリット

持株会社にも、当然デメリットは存在します。事業持株会社特有のデメリットと、純粋持株会社特有のデメリットがそれぞれ存在するので、この点も抑えておくとよいでしょう。

 

 

 

8-1 事業持株会社のデメリット

①子会社における不祥事の、本体への波及

事業持株会社の場合、事業持株会社と子会社の関係がより密接であるケースが多いです。子会社で何か不祥事が発生すると、本体のブランドイメージの毀損などにつながることもあります。

 

特に事業持株会社の子会社は、事業持株会社の名前の一部を冠しているケースが多いため、親会社も強い批判にさらされる場合があります。

 

また。親会社が非上場である場合は、子会社は上場できないというデメリットもあります。いくら子会社の業績がよく、株式上場が見込める状態であっても、親会社が非上場である場合は、上場申請ができません。

 

そのため、上場を考える場合は、親会社が上場会社であるかという点が重要になってきます。

 

 

 

8-2 純粋持株会社のデメリット

①グループ内企業の事業の類似

純粋持株会社の場合、傘下のグループ企業は自由度が高まる半面、グループとしての帰属意識が薄れる可能性もあります。

 

また、同業種・隣接業種の会社が同じホールディングス会社(純粋持株会社)の傘下に入ることもあり、グループの行う事業や、グループの子会社、孫会社の事業に類似・重複が生じる場合もあります。

 

例えば、三井住友フィナンシャルグループの場合、傘下に三井住友銀行、SMBC信託銀行(三井住友トラストホールディングス)、三井住友カード、セディナ、SMBCコンシューマーファイナンス(旧プロミス・旧モビット)を傘下に持ち、さらに三井住友トラストホールディングスの傘下には、三井住友トラストクラブ(旧CITIカード、ダイナースクラブ)、三井住友トラストカードなど、同じ傘下事業者内でクレジット事業、信販・金融事業などが類似・重複しています。

 

ただ、三井住友フィナンシャルグループの場合、各事業が異なる層をターゲットにしているため、その点は棲み分けができているといえましょう。

 

②グループ内事業の統制

純粋持株会社の場合、子会社間での統制や人事交流に関し、本体とのつながりの濃さで温度差がでるのも事実です。

 

事業会社の独立・自主性を考えると、必ずしもマイナスと言い切ない部分もありますが、純粋持株会社とグループ企業の関係は比較的ドライになることも考えられます。

 

 

9 持株会社に関するまとめ

持株会社の制度が始まり20年以上が過ぎ、「○○ホールディングス」など、持株会社の存在は一般化してきました。

 

また、会社の買収、売却が国内だけから世界へ広がるようになり、今後も、大手企業から中堅企業まで、あらゆる企業がホールディングス化し、企業間での会社の売買は活発になっていく可能性が高いでしょう。特に現代は、たくさんの子会社を持つことよりも、リソースを集約し、強みの部分に力を入れる流れが強まっています。

 

自社の得意な分野に特化し、ナンバー1が望めない事業は切り捨てると言った、思い切った選択と集中を行う企業も存在します。

 

一方で、日本電産のように、事業持株会社として、様々な会社をM&Aで傘下に収め、積極的に経営に関与し、生産性の高い企業に変貌させていく会社もあります。

 

このように、一口で持株会社と言っても様々なスタンスがあり、また子会社に対する関わり方の温度も異なります。一般的に想定されるのは、持株会社=「ホールディングス」という概念、つまり純粋持株会社という概念です。しかし、厳密に持株会社を分けると、「一般持株会社」と「純粋持株会社」に別れ、それぞれで経営に対するスタンスや関与の仕方などに個性があることがおわかりいただけたかと思います。

 

今後、日本の産業が縮小するなか、企業の大小を問わず、買収、売却はより一般化していきます。事業買収、売却には、売り手、買い手それぞれの意図があり、目指す方向性が存在します。

 

事業持株会社、純粋持株会社ともに、企業を支配下に置き、グループ全体の経営力を拡大するという点では同じですが、事業持株会社の場合、既存事業とのシナジー効果や、同業他社の買収により、立て直し、再生を図る意図が強い会社、純粋持株会社は、その名の通り、グループ内の象徴的な存在であり、あくまで実働部隊は各傘下の会社であるという方向性の違いがあるといえるでしょう。

 

もともと財閥解体の流れで、持株会社制度が認められない時代が長かったですが、現代社会のグローバル化、事業スピードの高速化により、持株会社制度は様々な意図を持って活用されています。

 

会社設立を考える上でも、会社の出口として、事業承継、売却などのケースも将来的には出てくる可能性があります。それを踏まえ、会社設立を考える際であっても、持株会社という概念をあらかじめ知っておくと良いでしょう。

 

 


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