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会社設立時に必要な株主名簿と人事制度

株式会社設立後に用意することになる書類「株主名簿」をご存知でしょうか。株主名簿は、会社に設置しておくことが義務付けられており、また会社と会社の所有権を守るために非常に重要な書類となります。そこで今回は、株主名簿について、株主名簿に至るまでの「株主」や「株式会社」の基本的な内容から、会社設立後の適切な人事制度についても詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。

 

 

1 株主と株式会社について

株主名簿を理解するためには、まず株主と株式会社の理解を深めることが重要です。ここでは改めて、株主名簿へと繋がる株主と株式会社、そしてそもそもの会社とは何かという基本事項を説明します。

 

 

 

1-1 会社とは、株主とは

会社とは「法人」の一種です。法人とは法に基づいた人格です。個人事業主は、個人による営利活動を行う際の、あくまでもその本人を指していますが、法人とは、代表者個人あるいは代表者を初めとする集団による社会活動を行うための疑似人格、ということになります。

 

法人は、個人で行う活動には限度があるためより活動範囲を拡げたい場面や、または「法人」という枠組みに設けられた法的・制度的な仕組みを活用したい場面において必要とされます。法人は社会的な人格なので、裁判権や不動産の所有権等の個人と同様の権利も有しています。

 

法人は主に営利活動を目的とする場合としないものとに分けることができ、会社と名が付く場合には営利活動を目的とすることになります。会社にも様々な形態があり、その一つが株式会社、ということになります。

 

営利活動を目的としない法人には、ある目的の元に集まった「人」による「社団法人」や、ある目的のために「財産」を管理して運営するための「財団法人」があります。

 

会社のような法人格を設けるためには、人間における出生届に該当する法的な必要手続きと、そして運営資金とが必要となります。

 

この運営資金のことを株式会社では「株式」と呼んでいます。運営資金を出すということは株式を取得するということであり、その会社のオーナー、すなわち所有者となることを意味します。

 

設立したばかりの株式会社においては、オーナーと社長は同一人物であることがほとんどですが、株式会社の本来の特徴の一つは、オーナーと経営者(役員)とは分離されている、という点です。この特徴については次の項にて説明します。

 

そして、株式会社のオーナーには「株主」という肩書きがあります。株主には様々な分類があり、例えば株主が法人の場合には「法人株主」、個人の場合には「個人株主」となります。更に、株式の保有数や株式保有の目的によって下記のような分類例があります。

 

  • 大株主=その会社の株式の保有率が高い株主。具体的にこの呼称を有するための保有率の指針がある訳ではありませんが、まとまって株式を所有している株主のことを指します。
  • 筆頭株主=大株主のうち、最も多くの株式を保有している株主。多くはその会社の親会社や、設立時の出資者となります。
  • 主要株主=株式保有率が10%以上の株主。その氏名は決算書の一つである「事業報告」に、発行済株式総数と共に記載をすることになります。

株式の保有率は議決権の割合とイコールになります。議決権とは、株式会社の意思決定の場である株主総会において、取り上げられた議題を決議するための権利です。

 

議決権50%以上で決議となりますので、会社の意思決定を1人で行うためには、株式(=議決権)を50%以上所有しておく必要があります。なお、定款によってこの要件を排除することもできます。

 

設立者であったとしても、仮に株式を50%以下しか持たない場合は、最悪会社から追放される可能性があるということです。

 

なお、株主総会の決議には幾つかの種類があり、利益の配当等を決議する「普通決議」や、より会社にとって重要な議題となる、例えば会社の法律といえる定款の変更等を行う場合の「特別決議」があります。

 

この特別決議には議決権の3分の2が必要となりますので、事業を譲渡することを考えていない場合は、株式を3分の2保有する大株主となっておくことが安心と言えるでしょう。

 

 

 

1-2 株式会社とは

株式会社とは、法人のうちの営利活動を目的とする「会社」の一種で、「会社法」という法律によって定められている形態の一つです。

 

他に会社法によって定められている会社の形態には「合資会社」、「合同会社」、「合名会社」の3つがあり、現在日本国内には株式会社を含めて4種類の会社があることになります。

 

株式会社とその他の会社で異なる特徴の一つは、会社を設立するための運営資金(出資金)の出資者の役割の違いです。先述した通り株式会社の出資者、すなわち株主は、その会社のオーナーとなりますが、原則として会社の経営にはタッチしません。

 

対して株式会社以外の会社の出資者は、会社のオーナーであり、かつ経営者(役員)の1人ということになります。この特徴の違いは、会社の運営資金の調達方法の違いにも繋がります。

 

株式会社の場合は、株式を発行することで外部に対しても広く出資者を募って運営資金を大きくすることができますが、株式会社以外の会社では、出資者は内部の人間となるため株式会社と比較すると運営資金の面において小規模となります。

 

なお、かつて株式会社の設立には最低でも1000万円の出資金を必要としていましたが、平成18年の法改正、すなわち会社法の施行によってこの金額制限は無くなり、現在では出資金1円からでも株式会社を設立できることになっています。

 

またこの会社法では、株式会社における株式発行の手順や会計方針、そして取締役に関する様々な規定が定められています。

 

株式会社の規定事項は他の形態の会社よりも厳しいものとなっています。その理由の一つに、株式会社は他の形態の会社に比べて株式発行などの面において社会に対する影響が大きいことがあります。

 

株式会社は利益を追求するということばかりではなく、商品やサービスを社会に提供し、役員や従業員に給料を支給し、株主に利益を還元し、税金を納めるという、資本主義の社会において非常に重要な役割を担っているのです。

 

株式会社以外の会社の出資者は、会社内部の人間となるため社会に対してより影響が少ないものとなります。そのため規定も少なく、利益の配当なども株式会社と比して自由に自分たちの裁量で決めることができます。

 

また、出資者の役割の違いは、出資者の会社の債務に対しての責任の負い方の違いにも繋がります。株式会社の出資者は会社の債務に対して「間接有限責任」を負います。間接有限責任とは、出資者が株式を取得した額、すなわち出資額を上限として責任を負う、というものです。

 

言い方を変えると、出資者=株主のリスクとは会社が倒産した際に株式を失うことになりますが、それ以上のリスクはありません。倒産した会社に負債が残ったとしても、株主に追加の請求が来ることはないのです。

 

対して、合資会社と合名会社の出資者は、会社の債務に対して「直接無限責任」を負うことになっています。直接無限責任とは、会社の債務がそのまま上限なく出資者の債務となることを意味します。

 

なお、合同会社は株式会社と同様に間接有限責任となります。合同会社は、会社法施により新しく設けられた形態の会社で、株式会社と同様の間接有限責任という特徴と、出資者が会社に対してより自由な裁量を持つという合資会社と合名会社と同じ特徴を併せ持っています。

 

さて、株式を取得して株主になることは、会社のその年度の利益の分配金を受け取る権利や、会社の最高意思決定機関である株主総会に出席して会社の経営に関する決議に参加出来る権利を持つ、ということです。

 

この株主総会によって、いわゆる役員と呼ばれる「取締役」を選任します。社長と呼ばれる代表取締役は、取締役からなる「取締役会」から選任される形式です。これが社長を含む取締役の、株主と株主総会との関係性や選任までの流れです。

 

取得した株式は他人に譲渡することが出来ます。上場して株式公開した場合は自由に株を売買することができます。これが株式投資と呼ぶ投資活動です。

 

非上場の株式会社の株式譲渡には、会社の合併・買収を指す「M&A」が有効であるとされています。社長の高齢化による後継者問題や、より規模を広げるための会社統合の局面でM&Aによって事業譲渡を円滑に進めるというものです。この際にも、株主を網羅した株主名簿は重要な書類となります。

 

 

2 株主名簿とは

それではここから株主名簿について説明しましょう。

 

改めて、株主名簿とは株主を一覧にした書類です。また、会社法では株主名簿の会社への設置を義務付けており。設置を怠った場合には100万円以下となる罰金を設けています。そのため、会社の構成人員が自分一人であるからといって設置する必要がない、ということにはなりませんので注意しましょう。

 

そして、株主名簿を正しく管理する意義は、罰則があるという点にだけではなく、会社の所有権を守るという点にもあります。

 

株式の変化は年単位で捉えると緩やかなものとなりますが、株式保有率50%が株主総会の決議を左右することを考えると株式の管理を疎かにすることはきません。気づかない内に会社を乗っ取られることもあり得るのです。

 

なおかつて株といえば、株券という紙でできた実体のことを指していました。株式会社は株券を発行することになっており、かつての株主とは株券の所有者のことを指していたのです。

 

しかし、株券とは詰まるところ紙ですので、紛失や盗難といった事例が後を絶たず、毀損することもあり、また管理が煩雑になるという問題を抱えていました。株券を発行する会社にとっては株券発行の費用も嵩み、株券発行会社によっては株式所有者変更の際に名義変更手数料を取るところもありました。

 

また、株券売買の当事者同士では株券のやり取りを行っていたとしても、株主名簿上で書き換えが行われていないが故に、株主名簿上の株券所有者は以前の所有者のまま、という状況も発生していました。頻繁に売買が行われる株券の場合、より事態は複雑になる一方です。

 

この状況を打開する意味も込めて会社法によって、上場、未上場に関わらず株券を実体を伴わない電子化による「電子株式」とすることになりました。上場会社の株券は会社法によって無効となり、証券保管振替機構(通称「ほふり」)や証券会社などの口座で電子管理されることになりました。

 

また、電子株式化に伴い、株主とは株主名簿に記載されている人のことを指すということになっています。

 

株主は自身の株式の保有証明を、電子管理によって株式発行会社に認知させることができ、株式発行会社はその株券の現保有者が誰であるか電子管理によって確認することができ、そして株主名簿にその事実を反映させることができる、ということです。

 

なお、電子株式は上場会社にとっては義務化されたものですが、未上場会社では株券を紙で発行しても良いことになっています。かつて株券を発行していた未上場会社が、電子株式化する手間や費用を考えて会社法施行以降も発行済株券の有効性を残したままにして、現在も引き続き発行している場合もあります。

 

 

 

2-1 株主名簿の記載事項

株主名簿には、以下の項目を記載することとなっています。

  • 株主の氏名または名称
  • 株主の住所
  • 保有株式数
  • 株式の種類
  • 株式取得年月日(株式取得代金の払込完了日)
  • 株券発行の場合は株券番号
  • 備考

 

雛形としては以下のようになります。

 

氏名または名称|   住所   |保有株式数|株式の種類|  取得年月日   |株券番号|備考
山森 海川  |○○県△△… |  50  | 普通株式 |平成31年4月30日| -  |株券不発行

 

 

 

2-2 株主名簿の保管場所と保管形式

株主名簿の保管場所は本店とすることと会社法によって定められています。保管形式は必ずしも紙に出力しなければならないということはなく、エクセルなどの電子ファイルでも良いことになっています。ただし、前述した記載項目を網羅して株主名簿の体裁を取っておかなければなりません。

 

なお新規上場を見据えている場合には、株主名簿の作成・管理を専門に行う「株主名簿管理人」を設ける必要があります。株主名簿管理人を請け負っている機関には信託銀行などがあり、株主名簿管理人を設けている会社の場合、株主名簿管理人の事務所にも株主名簿を設置する必要があります。

 

 

 

2-3 株主名簿の閲覧権利者

株主名簿は誰にでも閲覧できるものではありません。閲覧権利はその会社の株主と債権者が持っています。この点は、法務局で誰もが閲覧請求できる登記簿謄本と違うところです。

 

 

 

2-4 株主名簿記載事項証明書

電子株式ではない株の株主から、株主名簿に自身の株式保有状況を確認された際に応えるものがこの株主名簿記載事項証明書です。その株主の株式保有状況(株主名簿に記載されている事項)を株主名簿から抜き出して、代表取締役の記名押印をしたものとなります。

 

ここでは株主名簿と株主名簿に至るまでの株式会社にまつわることを見てきました。株式会社設立の際には株主名簿の重要性を理解し、株主に変更があった際には滞りなく株主名簿を更新するようにしましょう。

 

 

3 会社設立時からの人事制度

人手不足が深刻化し働き方改革が求められる今日において有能で意欲の高い人材を確保することが会社の発展に欠かせません。しかし、希望の人材を採用することは容易ではなく、とりわけ会社設立前後の企業などではその点で苦労するはずです。
今回は人材確保に役立つ会社設立時からの人事制度を取り上げます。適切な人事制度の構築が求められる理由や人事制度の基本的な内容のほか、導入の手順、その際の重要ポイントなどを説明する予定です。
業務の生産性、社員のモチベーションや定着率の向上などに繋がる人事制度の設計・運用に関心のある方は是非お読みください。

 

 

 

3-1 人事制度とは

人事制度とは、企業の経営目標等を達成するための従業員に対する採用・配置制度、報酬制度、資格等級制度、評価制度、教育・育成制度等の人的資源管理に関わる社内ルールの総称です。

 

企業はその経営目的・目標を達成するための活動を行います。そして、その活動を遂行するのが従業員であるため、従業員の業務への取り組み方が業績などの活動結果に大きく影響するわけです。

 

そのことから社内には、従業員の取り組み方を企業が求める内容に導くために不可欠な人的資源管理上のルールが必要であり、それが人事制度になります。

 

ただし、賃金制度、退職制度、評価制度、目標管理制度や昇級・資格制度などの各制度内容ついてのルール・仕組みを単に作成すればよいというものではありません。

 

各種の人的資源管理上の制度は、企業の経営目標等、経営戦略や経営計画を実現するために必要な行動へと従業員を導くものでなければなりません。

 

各従業員が自分のやるべきこと、努力すべきこと、能力を高めること などを適切に理解し意欲を高めるために適切な人事制度の導入と運用が求められています。

 

 

 

3-2 適切な人事制度が必要な理由

適切な人事制度が求められる理由について、国内企業が抱える経営課題の点から確認していきましょう。

 

①国内企業の経営課題

一般社団法人日本能率協会が2018年10月に発行している「第39回 当面する企業経営課題に関する調査 日本企業の経営課題 2018」の調査結果によると、以下のような課題が確認されています。

 

・人材の強化の重要度が高まる

上記報告書によると、2018年度の経営課題の第1位は「収益性向上」(43.2%)、第2位が「人材の強化」(39.5%)となっており、昨年度に比べ「人材の強化」が3.6ポイント増加し順位も上昇しました。また、「働きがい・従業員満足度・エンゲージメントの向上」も10位から7位へとランクアップしています。

 

こうした状況の発生について報告書は、「足元の人手不足に対応するとともに、働き方改革による生産性向上や多様な働き方への対応のみならず、中長期的な事業の成長を支えるためにも、人材の確保・育成、社員の意欲向上を重要視していることが背景にあると思われる。」と考察しています。

 

今日の企業では、人材の確保・育成、従業員の意欲向上が重要な経営課題として認識されているのです。

 

・人材不足の深刻化が今後の経営に影響する

今後の経営に影響を及ぼす要因に関する質問で、「非常に影響がある」と回答された比率の大きい項目には、「人材採用難」(31.2%)と「人件費高騰」(21.8%)がありました。また、どちらも「やや影響がある」までを含めれば9割を超える企業が「影響がある」と答えています。

 

つまり、今日の経営課題として人材強化の重要度が高まっている上、人材不足の深刻化が問題視されているわけです。

 

・IT/ソフトウェア、人材への投資を増やす

各分野への投資スタンスへの質問の回答としては、「IT・ソフトウェア投資」を増やすと回答した比率は 75.1%と最も多いです(「かなり増やす」から「やや増やす」までの合計)。

 

他では「人材投資」が、増やすとする比率の合計で 74.6%と2番目に多くなっています。報告書では「現在の経営課題として、人材不足への対処と将来に向けた人材強化のためにも、人材に対する投資を増やそうとする姿勢が強くなった」と考察しています。

 

つまり、人材強化や人手不足に対応していくために人材投資が重要視されているのです。

 

・働き方改革での成果はあるが生産性向上が課題

「働き方改革」の取り組みの成果状況に対する質問の回答では、「残業時間の削減」や「有給休暇の取得促進」について、「成果が見られる」との回答が2割を超え、「ある程度」までを含めると7割以上の企業で成果が認められています。

 

他方、「業務の効率化」では、「ある程度の成果が見られる」が過半となりましたが、「あまり成果は見られない」が3割超と少なくありません。加えて「社員の満足度やモチベーションの向上」については、「あまり成果が見られない」が4割超、「社員の創造性の向上」では、「あまり成果は見られない」と「成果は見られない」の合計が約7割と多いです。

 

調査では残業時間削減や有給休暇取得など、「働き方改革」の第一段階での成果が確認されましたが、「業務の効率化、社員の意欲や創造性の向上など、生産性の向上に繋がる成果には、もう一段の取組みが必要とされるようだ」と生産性向上に結び付ける取り組みの必要性が指摘されています。

 

このように人事制度の内容に関連する経営課題が多いため、これらを解決していくには適切な人事制度の導入が不可欠なのです。

 

②就職先企業の選択基準

株式会社DISCOは、2017年3月卒業予定の全国の大学4年生等を対象に、就職活動に関する調査を行い、就職先企業の選択基準について下記のような結果を報告しています(調査時期:2016年8月1日~5日、回答数:1,137人)。

 

 

「就職決定企業に決めた理由」では、1位が「社会貢献度が高い」(31.6%)、2位が「職場の雰囲気が良い」(28.0%)、3位が「仕事内容が魅力的」(27.2%)となっています。

 

他では5位が「福利厚生が充実している」(25.5%)、7位が「給与・待遇が良い」(22.8%)、12位が「休日・休暇が多い」、15位が「希望の職種に就ける」(11.6%)です。

 

また、「就職先企業を選ぶ際に重視する点」では、1位が「将来性がある」(46.4%)、2位が「給与・待遇が良い」(41.9%)、3位が「福利厚生が充実している」(39.4%)となっています。

 

他では4位が「職場の雰囲気が良い」(32.7%)、6位が「休日・休暇が多い」、11位が「教育・研修制度が充実している」(18.4%)、12位が「希望の勤務地で働ける」(17.9%)です。

 

このように人事制度の内容に関連する項目が就職先を決定する上で重要な判断基準となっていることが確認できます。つまり、人事制度の内容を充実させることが学生に選ばれる企業へと繋がるのです。

 

 

 

3-3 適切な人事制度を構築するメリット

適切な人事制度を構築することで、上記で確認した経営課題の解決に役立つ、選ばれる企業となるためのメリットが得られます。

 

①人材確保の容易化

人事制度の雇用管理制度、人事評価制度、報酬制度や能力開発制度などの内容が人材確保に大きく影響します。つまり、それらの内容が労働者にとって適正であれば、入社を希望する者が増え、離職する者が減り適切に業務を遂行する人材を確保しやすくなるのです。

 

企業が求める人材を広く募集し採用していくにはそのための運用に関するルール・仕組みが必要になります。中期経営計画などに合わせて必要人材の内容を確認し、必要な時期に必要な人数を募集・採用するためには採用管理に関する適切な制度の設計・運用が不可欠です。

 

つまり、そうした制度を適切に整備・運用できれば、計画的に必要人材が確保できるようになります。

 

しかし、給与が低い、昇給・昇格などの評価制度が不十分である場合、その企業には入社希望者は増えず既存の従業員には離職者が増加しやすくなるのです。そのため従業員を惹きつける報酬制度とそれと連動する適切な評価制度の運用も欠かせません。

 

こうした従業員が納得できる報酬制度と評価制度を導入し運用していれば、人材確保は容易になり、離職率も下げられます。また、適切な能力開発制度の構築も人材確保に役立つはずです。

 

②従業員のモチベーションと生産性の向上

適切な人事制度が運用されていると、従業員の労働意欲が高まり業務の生産性の向上に繋がりやすくなります。

 

たとえば、給料やボーナスが多い、退職金がある、残業時間が少ない、有給休暇が多くとれる、仕事にやりがいがある、挑戦的な課題に取り組める、育休がとりやすい、人事評価と処遇が納得できる、能力アップできる、などの制度が運用されていれば、従業員はその企業で一生懸命に働く意志が強化されるのです。

 

労働意欲の向上は、業務上の創意工夫や適切な行動を導くため、業務の生産性向上も期待できます。

 

 

4 人事制度の内容及び重要ポイント

ここでは人事制度の基本的な構成・内容とともにその重要ポイントについて説明しましょう。

 

 

 

4-1 人事制度の基本構成と作成の考え方

人事制度の中核は「雇用管理制度」「人事評価制度」「報酬制度」と「能力開発制度」になります。

 

これらの制度は各々個々に作成されますが、互いに無関係なものではありません。各々関連性があるためそれを考慮して作成・運用する必要があるのです。従って、その関連性が考慮されない制度では矛盾が生じる恐れが強まります。

 

たとえば、評価と処遇の対応が不適切な場合、従業員に不満が生じることになるでしょう。また、人事制度は企業の理念・使命、経営戦略・経営計画に基づいた作成・運用が欠かせません。

 

理念や計画等を無視した人事制度を運用すれば、業績などの経営目標を達成することが困難になります。そして、その結果が報酬や福利厚生などでの処遇の悪化を招けば従業員の労働意欲の低下や離職者の増加に繋がりかねません。

 

人事制度の構築は企業の理念・使命を前提として、経営戦略や中期経営計画等に適合し、各制度の関連性を考慮して作成・運用されるべきことを認識しておきましょう。

 

 

 

4-2 人事制度の中核システム

先に紹介した中核の4つの制度について説明します。

 

①雇用管理制度

雇用管理制度の領域は採用管理、配置・異動管理と退職管理です。また、企業によっては、昇進・昇格、休職や教育訓練などを含めるケースも見られます。なお、ここでは採用、配置・異動、退職の3つの管理について説明しましょう。

 

A 採用管理

採用管理では、中期経営計画などに従い一定期間の必要人員数を確保するための要員計画の立案と実行が行われます。

 

・要員計画

要員計画は、企業が事業活動を遂行していくために一定期間に必要となる適正な従業員数を定めそれを確保するための計画です。

 

事業規模や事業内容から目標達成に必要な人数や人材の能力等を見積り、現状とのギャップを把握してその差を埋めるように補充するのが要員計画になります。もちろん業績目標との関係から人件費の総枠を条件とした人数の設定も必要です。

 

業績目標との整合性を図るために、計画での売上高、付加価値率、損益分岐点比率、労働分配率、人件費比率などの数値がよく利用されます。たとえば、目標売上高に予定人件費比率を乗じて計画の人件費を見積り、その額に納まる人数を計画人数としたりするのです。

 

・採用計画

要員計画と採用計画は類似していますが、区別しておいた方がよいでしょう。要員計画は上記の通り中期経営計画等に従って立案・運用されるものですが、採用計画は各年度の要員計画の内容に基づき計画・実施されるものです。

 

つまり、要員計画の各年度の具体的な採用活動が採用計画により実行されることになり、採用計画では以下のような内容が決定されていきます。

 

どの職種にどのような能力・特性を有する人材を何人採用するか 
いつから募集をどのように行うか
募集対象者をどこまでにするか
募集するための広告をどのように行うか
採用の選定基準を設け、いつまでにどのように選考(書類選考、筆記試験、集団・個別面接等)し終わらせるか
内定等の採用通知をいつどのように行い、辞退者が出ないようにするか

 

・採用活動の時期

これまでは高校や大学を新規に卒業した者を対象として4月などに入社させるという採用(新規学卒者春期一括採用)が多く見られました。しかし、人手不足が常態化する企業が増え1年間を通じて採用活動(通年採用)する企業も少なくありません。

 

なお、最近では大企業や中小企業を問わずインターンシップ制度を採用して、人員確保に努める企業が増加しています。学生の就職先企業の選定理由として「職場の雰囲気」が重要視されており、インターンシップによる企業での実体験を企業選定での判断材料にする傾向が見られます。

 

B 配置・異動管理

配置・異動管理は、採用した人材を職場や業務に配置したり、既存の従業員を別の職場や業務に異動させたりするための行為です。

 

採用した人材の配置・異動は、一定の教育訓練や研修の後要員計画に従って必要とされる職場へ配属するという形態で実行されます。他方、既存の従業員に対する配置・異動は一般的に人事異動という形態で行われます。

 

後者の人事異動は大きく2つに分かれ、1つが垂直的異動でもう1つが水平的異動です。

 

・垂直的異動

垂直的異動は役職や資格の上昇・下降といった変更で、下記の4つが主に該当します。

 

現在就いている役職よりも上位の役職への変更が「昇進」で、下位の役職への変更が「降職」です。「昇格」は職能資格制度等での現在の資格から上位資格への変更で、下位資格への変更が「降格」になります。

 

垂直的異動はリーダー人材の育成の観点から実施されるケースもありますが、主に人事評価制度の運用の中(人事考課の結果)で実施される方が多いです。

 

・水平的異動

水平的異動は、一般的に役職・資格の変更に関係なく行われる異動で配置転換や出向が該当します。

 

配置転換のタイプは、現在の職種から異なる職種の部署に変更される「職種転換」、同一職種のまま勤務場所が変更される「勤務地転換」などです。出向とは企業間の契約のもとで企業の命令により他の企業に異動しそこでの指示命令を受けて勤務する形態を指します。

 

出向のタイプは、現在所属する企業と雇用契約を維持したまま他の企業に異動してその指示命令下で勤務する「在籍出向」と、異動元との雇用契約を解消して移動先と雇用契約を結んで勤務する「転籍出向」です。

 

出向の目的は様々ですが、リストラの一環、従業員の能力開発や業務支援・協力などで行われるケースが多く見られます。

 

・人事異動の目的

人事異動は下記のような目的で実施されるケースが多いです。

 

  1. 1)人事考課の反映:昇進昇格や降格などの人事評価の結果を反映するため
  2. 2)組織の活性化:従業員の業務に対するマンネリ化の打破や、硬直した組織風土の改革のため
  3. 3)従業員育成:従業員の教育訓練や能力開発を行うため
  4. 4)生産性の向上:従業員を適材適所に配置することで生産性を高めるため
  5. 5)従業員のキャリアパス(職歴計画)の支援:従業員が希望するキャリアを積めるようにするため

 

・配置・異動で実施される手段

配置・異動では、人事考課の結果を反映する手段のほか以下のような手段が利用されています。

 

1)ジョブローテーション

ジョブローテーションは人事施策の最も代表的なもので、従業員を計画的にいくつかの職務に異動させる施策です。定期的に複数の職務を経験させることにより、従業員の能力と意欲を高めるとともに業務の生産性向上も期待できます。

 

高度な知識と経験を有する職務において頻繁なジョブローテーションは生産性の低下に繋がりかねないため注意が必要です。

 

2)キャリアデベロップメント(キャリア開発制度・CDP)

企業の人財ニーズと従業員のキャリアパスを考慮して作成・実行する人事施策がCDPになります。CDPは、企業が経営計画で必要とする人材を育成・確保していくために、従業員のキャリアパスの希望を取り入れつつ教育とジョブローテーションを計画的に実施していくものです。

 

・人事異動に関連する制度

代表的な制度が複線型人事制度です。複線型人事制度とは、全社的に同一の人事制度を適用するのではなく、複数のキャリアやコースを用意して運用する多元的人事管理制度を指します。

 

たとえば、ラインとスタッフ、総合職と一般職、全国社員と地域限定社員などの区分が設けられ、各区分に応じた採用、配置・異動、評価、教育などの人事管理が実施されるのです。

 

複線型人事制度は専門職などのキャリアを設定することで、単一型人事制度での弊害であるライン管理職のポスト不足という問題を解決できます。また、従業員の仕事に関する多様なニーズに対応しやすくなる点も同制度の優れた一面です。

 

C 退職管理

従業員は定年により退職するほかその前に自己都合で退職するケースも多いため、会社設立後間もない企業でも退職管理の制度を完備しておかねばなりません。

 

また、従業員の意志とは関係なく企業の経営状況によっては雇用調整などにより従業員に退職を求めるケースも生じます。こうした状況にも適切に対応するためには退職管理の制度設計を行い運用できることが不可欠です。

 

そのため退職に関わる規定の整備が必要ですが、まず定年退職の規定から始める必要があります。

 

・定年制

定年制とは、一定の年齢に到達した従業員を、各企業が定めている就業規則や労働協約に基づき雇用契約を解消し退職させる制度のことです。定年制は60歳などの年齢が定年年齢として設定されているため、従業員にとっては生活の安定、企業にとっては雇用の安定に繋がるWIN-WINの制度として多くの企業で採用されてきました。

 

なお、定年年齢は法律の改正により引き上げられ、2012年には「希望者は65歳まで雇用継続できるよう義務を課す」と改正され、65歳定年に向けた動きが加速されています。

 

さらに人手不足や年金不足などを背景として65歳を超える年齢の定年制や定年制の撤廃などを求める声が強くなってきており、自主的に対応する企業も少しずつ見られるようになってきました。

 

こうした65歳超定年や定年廃止に応えることが人材を確保しにくい会社設立前後の企業には有効な手段になるかもしれません。

 

なお、定年に到達した場合、退職金が支給されるケースが多く見られ、その内容は退職金制度として規定されます。

 

・早期退職制度

早期退職制度とは、企業側が退職者を募り、自主的に退職する従業員に対して退職金を割り増しで支払ったり、転職先を斡旋したりして退職を促す制度です。制度のタイプとしては、早期希望退職制度と選択定年制度の2つがあります。

 

両方の制度ともに基本的な内容は同じですが、早期希望退職制度は主に業績の悪化に伴う整理解雇の実施を回避する目的でその前に実施されるケースが多いです。

 

他方、選択定年制度は業績の悪化と直接関係なく組織の若返りや、従業員が別の人生を歩むための応援として行われています。特に定年前後の生活の選択肢が増えることになるため、従業員にとっては魅力的な制度の1つとなり、人材確保に役立つはずです。

 

・役職定年制

役職定年制とは、企業内で部長や課長などの管理職を務める従業員が一定年齢に到達する場合に、役職から解任され専門職などに異動する制度のことです。役職定年制は、組織の新陳代謝の活性化、人材育成や従業員の意識改革などを目的に行われます。

 

なお、制度の種類としては、一定年齢に達したら一律に役職から外れる一律管理職定年制や、役職別に定年年齢が定められた役職別定年制などです。

 

・転籍出向

既に説明した通り転籍出向による退職が予想される場合、その処遇について事前に決めておくべきです。

 

・雇用調整

雇用調整とは、業績の低迷などで経営状況が厳しくなりリストラ等の不採算事業の廃止などを受けて行う、企業内の余剰労働力を削減することを指します。雇用調整の方法としては、以下のような項目が順番に実施されねばなりません。

 

  1. 1)残業時間の規制
  2. 2)短時間労働者や非正規労働者の削減
  3. 3)通年・定期採用活動の停止
  4. 4)配置転換や出向の実施
  5. 5)希望退職者の募集
  6. 6)退職勧奨(自己都合退職扱い)
  7. 7)整理解雇(会社都合退職扱い)

②人事評価制度

人事評価とは、各従業員が有する職務遂行に関わる知識・能力のほか、職務態度、職務への適性、活動の成果などを定められた基準に従って評価することで、人事考課と同意義です。

 

人事評価(考課)の結果は、各従業員の昇進・昇格、配置・異動、能力開発(教育訓練)、昇給等などの処遇に反映されるため、評価制度は人事制度の重要な役割を果たします。

 

また、評価の結果が処遇に直結するため従業員のモチベーションに大きく影響することから丁寧な設計・運用が欠かせません。

 

A 人事評価のあるべき姿

適正な評価基準を設けることが第一に重要です。次に従業員の活動結果、能力や姿勢などを公正に評価することが求められます。そして、その評価結果を昇給、昇進・昇格等の適正な人事処遇として反映させねばなりません。

 

自身の行動結果などが正しく評価され基準に合致した昇給や昇進等の処遇に結び付くと、従業員は満足感が得られモチベーションの向上に繋がります。

 

また、人事評価では各従業員の能力、適性や希望(キャリアパス)などが確認され、その結果に基づき適材適所の配置・異動や教育訓練などが行われます。

 

能力や適性に見合った業務に付けたり、教育が提供されたりすることで従業員はやる気を起こし業務の生産性の向上も期待できるのです。

 

B 人事評価の構成

人事評価は主に業績評価、能力評価と情意評価の3つで構成されます。業績評価は、1年度などの一定期間における従業員の業務成果や活動結果を評価対象とするものです。

 

能力評価は年度末や年度初めなどの一定時期における従業員の能力を評価対象とし、情意評価も一定時期の従業員の業務に対する取り組み姿勢や意欲などを対象とします。

 

各領域の評価ウェイトをどのように重みづけするかは各企業の評価方針によって異なります。たとえば、成果主義を重んじる企業では業績評価のウェイトが重くなり、職能資格制度を取る企業では能力評価のウェイトが重くなりがちです。

 

どちらが良いということは一概に言えませんが、過度に偏り過ぎない考慮が重要になります。また、その評価方針や基準を設定する際には従業員の意欲向上の観点から彼らの意見も十分に取り入れて設計していく(或は一緒に作成する)ことが欠かせません。

 

C 評価方法

評価方法の種類としては、相対評価と絶対評価があります。

 

1)相対評価

相対評価とは、一定の従業員間での比較を基にその優劣を評価することです。そして、優劣の判定結果に基づき処遇が実行されます。たとえば、同じ等級の者を比較評価し、優秀な評価順に処遇A(全体の5%)、B(25%)、C(60%)、D(10%)というふうにランク分けしていくのです。

 

なお、相対評価では、同じ業績等の者でも評価対象となる集団が異なれば評価結果が異なる恐れがあり、公正な評価ができない可能性があります。

 

2)絶対評価

絶対評価とは、絶対的な評価基準で各従業員を評価することです。そのため、従業員がどの集団に属していても評価方法が適正なら同じ評価結果が得られるという公正性が保たれます。

 

なお、絶対評価では従業員個々で評価するため、優秀な評価結果を得る従業員が多くなれば人件費増に繋がある恐れがあり注意すべきです。

 

D 評価の適正化

評価結果が従業員の業務や生活に大きな影響を与え労働意欲に直結するため、公正な評価の実施が求められます。公正かつ適正な評価を行うために以下のような施策や手段がよく取られています。

 

1)心理的誤差傾向等の排除

人事評価は上位者が部下等に対して行う行為ですが、他者である上位者の判断に委ねられるのが一般的です。つまり、適正な人事評価が実施できるかどうかは評価者の判断次第ということなります。

 

もし評価者の評価能力が不足していたり、偏った判断をしたりする(心理的誤差)などの傾向があれば、適正な評価は期待できなくなるはずです。

 

そのため評価者には公正に評価できるための考課者訓練を施すとともに、評価者の複数人化(360度評価・多面評価)や従業員の自己申告(自己申告制)などが求められます。

 

E 目標管理制度

目標管理制度とは、従業員が所属部署の方針に基づき毎期の初めに目標を設定し、その年度末に自己評価して申告するという人事評価制度の1種です。

 

評価者は従業員の申告結果に基づき評価を行いその結果を面談で伝達するという形態が取られます。企業によっては面談の際に直属の上位者と被考課者とが評価結果についての一致を見出すケースもあります。

 

単に表面的な結果を判断するのではなく、結果を良くするための改善点、苦労した点や結果に現れない努力した点などを確認して適正な評価を下すことが重要であり、その取組が従業員の能力・意欲の向上に繋がるのです。

 

③報酬制度

報酬は労働の対価ですが、その報酬の内容や量は従業員のやる気に影響するほか企業のコストにもなるため、報酬制度は評価制度と連動して適切に設計・運用されねばなりません。

 

なお、報酬には賃金・賞与や福利厚生などでの金銭的報酬のほか、昇進・昇格、表彰、自己実現の支援や良好な職場環境の整備などの非金銭的報酬も含まれます。

 

その報酬制度は「賃金管理」「賞与・退職金管理」「福利厚生管理」などにより実施されます。

 

A 賃金管理

賃金管理は、賃金を適正なレベルに保つための「賃金額管理」と賃金額を適正に分配するための「賃金制度管理」等に大別されます。

 

1)賃金額管理

賃金額管理の目的は、賃金額の総額(総額賃金管理)や各従業員個別の賃金額(個別賃金管理)の管理です。

 

総額賃金管理とは、企業全体の総額人件費を計算して賃金総額をその範囲内に保てるようにすることです。総額人件費は予定の労働分配率(人件費÷付加価値額×100%)や人件費比率(人件費÷売上高×100%)などで求められます。

 

賃金総額は、従業員に支給される現金賃金の部分として総額人件費の8割程度に設定されるケースが多いです。残りの約2割には「法定(及び法定外)福利費」「退職金等の費用」「教育訓練費」などが含まれます。

 

個別賃金管理とは、各従業員の賃金額を管理することで個別賃金額の決定が主な管理対象です。個別賃金額を決定していく上でキャリアやコースごとの標準的なモデル賃金を設定し各従業員に適用する形態が多く見られます。

 

モデル賃金の設定は、業界平均値などが利用されますが会社設立時には慎重に検討しましょう。業界平均以上に設計して魅力的な賃金水準で人材確保を容易にすることもできますが、過度に水準を高くすると財務負担が増し経営リスクを高めることになりかねません。

 

また、個別賃金管理では定期昇給やベースアップも重要な管理対象です。定期昇給は賃金テーブルに基づき年齢・勤続の上昇や査定の結果により賃金を引き上げる手段になります。

 

ベースアップは、賃金テーブル自体が上方に変更される手段で、企業業績の向上や消費者物価の上昇などが考慮され実施されるケースが多いです。

 

2)賃金制度管理

賃金制度管理は賃金の構成項目、項目の算定方法、賃金の計算式の設定などを設計・運用していくもので、主に「賃金体系管理」と「賃金形態管理」に分かれます。

 

賃金体系管理

賃金体系管理は現金賃金の構成内容を「基本給」や「手当」などとして設定し運用できるようにすることです。賃金体系は企業ごとに異なりますが、一般的にはまず、現金賃金は「定期賃金」と「賞与」に分かれ、定期賃金は「所定内賃金」(基本給と諸手当)と「所定外賃金」(残業手当、休日出勤手当、深夜勤務手当等)に分けられます。

 

基本給のタイプとしては、年功給(年齢や勤続年数に基づく)、職務給(就く職務の困難度に基づく)、職能給(資格等級などに基づく)や成果給(業務成果に基づく)などです。

 

これらは各企業の報酬に対する方針によって異なり、成果主義の報酬制度の場合は成果給のウェイトが一般的に重くなります。

 

賃金形態管理

賃金形態とは賃金の計算や支払いの形態を指し、賃金形態管理では一般的に時間軸を物差しにした「時間給」「日給」「月給」「年俸」で設計・運用されるケースが多いです。ただし、職種によっては「仕事量」を物差しにした「出来高給」「歩合給」「業績給」などが採用されます。

 

B 賞与管理、退職金管理

賞与も現金賃金の1つであるため、定期賃金と同様に賞与総額の管理と個別賞与額の管理が必要です。賞与については、慣習的、功労報奨的、利益分配的な観点から支給されますが、各企業によって位置づけ異なり、賞与管理のあり方は様々です。

 

一般的には、月給の何カ月分とした支給や企業及び個人の業績・成果を反映した支給などが多く見られます。

 

厚生労働省の調査(労働統計要覧 E賃金 産業別夏季及び年末賞与)によると、民間企業の賞与額(平成27年度、従業員が5人~29人の企業)は夏が約36.7万円、年末が約37.0万円です。賞与額を設定する際にはこうした数値や大企業の平均支給額、支給月数などが参考になるでしょう。

 

退職金管理は退職金制度を実行するためのものであり、退職金の支給形態である「退職一時金制度」と「退職年金制度」の2つへの対応が求められます。

 

退職一時金制度の退職金算定方法には、基本給に基づく算定と、基本給以外の賃金表やポイントなどに基づく算定があります。一般的に小規模企業は基本給連動制、規模が大きくなるほどポイント制を採用する企業が多いです。

 

ポイント制の場合、企業に貢献した実績をポイントに反映させる設計が可能であるため、貢献度の高い従業員の退職金は多くなり労働意欲の向上に結び付きます。

 

退職年金制度とは、退職することで従業員やその遺族が受け取れる企業年金のことです。退職一時金と異なり、企業年金の場合は分割して定期的に受給できますが、一括受け取りの選択が可能なケースも見られます。

 

C その他報酬制度、福利厚生管理

金銭的報酬に含まれるものとして、従業員持株制度やストックオプション制度があります。

 

従業員持株制度は、自社株式を取得するための奨励金の支給や貸付金の提供などの便宜を図り、従業員の取得を促す社内制度です。従業員が従業員持株会を脱会(退社)するときに買取価格が取得額を上回れば将来に向けた資産形成に役立ちます。

 

ストックオプション制度は、企業が社員や取締役などに対して、事前に設定した価額(権利行使価額)でその企業の株式を取得できる権利を付与する制度のことです。

 

ストックオプションを付与された者は、その企業の株価が大幅に上昇した時などで権利を行使して株式を取得・売却すれば、株価上昇分の利益が得られます。たとえば、自社が証券取引所に上場する場合などで権利を行使すれば大きな資産を作ることが可能です。

 

こうした制度を導入することで人材確保も容易になるため、会社設立時でも検討する価値があるでしょう。

 

直接報酬とならない福利厚生施策も人材確保に貢献するため、労働者のニーズを把握して施策として反映させることは重要です。福利厚生としては、社会保険の完備は当然ですが、医療・生命保険や住宅補助の提供、社宅・独身寮等の整備、各種レクリエーション活動の補助などになります。

 

④能力開発制度

企業が経営目標等を達成していくためには、戦略・計画に対応できる人材が必要であり、従業員に対しては教育や訓練などを通じた能力開発も不可欠です。そして、能力開発制度は、その企業の能力開発をどのような体系のもとにどのような施策を実施していくかを定め実行するために設計・運用されます。

 

能力開発の体系は、主に「OJT」「off-JT」「自己啓発」で構成されますが、これらを経営計画や他の人事システムの内容も考慮して設計しなければなりません。

 

A OJT(On the Job Training)

OJTとは、日常の業務に従事する中で実戦的な職務遂行能力を習得・向上させる職場内教育のことで、OJTとしてジョブローテーションがよく利用されています。また、目標管理制度や自己申告制度の運用もOJTの中で進められるケースも少なくないです。

 

目標管理制度の運用では、上司が定期的に部下の活動内容を確認し目標達成に向けた支援・指導が実施されることもあるため、OJTの一環として見ることができます。

 

なお、ジョブローテーションを適切に行うことにより従業員が希望するキャリアパスと能力開発が実現しやすくなるのです。

 

B Off-JT(Off the Job Training)

Off-JTは、職場などの業務から外れて知識やスキルなどを習得させるための教育訓練等で、階層別研修、職能別研修などが該当します。なお、教育訓練の形態としては、個人で受ける個人的教育訓練と集団で受ける集団的訓練に大別されます。

 

C 自己啓発

自己啓発は、従業員が自らの意志で業務等に関する知識やスキル等を習得するという能力開発の行為です。たとえば、自己啓発セミナーへの参加、資格や免許の取得のための教育講座の受講、大学・大学院等への通学 などになります。

 

企業としては、自己啓発を促すための支援施策を整備することで能力開発を促進するとともに従業員のモチベーションアップを図ることも可能です。具体的には資格等の取得費用の補助、資格取得者への手当の支給、受講や通学等に向けた残業時間の制限や有給休暇の付与 といったサポートが考えられます。

 

 

5 人事制度の導入の手順と構築・運用のポイント

ここでは人事制度を導入していく流れやその重要点を簡単に説明していきましょう。

 

 

 

5-1 人事制度導入の基本的な流れ

人事制度を導入していく場合、以下のような手順で進めるのが望ましいです。

 

  1. ①経営理念に基づく人事理念の設定
  2. ②経営戦略・経営計画に基づく人事戦略の策定
  3. ③人事制度の中核システムの制度設計
  4. ④新人事制度の運用開始
  5. ⑤運用結果の確認と改善

 

戦略・計画に従って人事のあり方を考えていくことが前提で、それらを反映して人事制度の各システムが導入されなければなりません。また、制度を作る際には従業員の声を反映させることが重要で、コンサルタント等に設計を任せるだけでなく従業員も関与させることも必要です。

 

運用後は各種のシステムで問題がないかを確認し、あれば直ちに改善するように取り組みましょう。

 

 

 

5-2 人事制度の導入・運用のポイント

人事制度の導入の流れに沿って、各段階での導入・運用のポイントを説明します。

 

①経営理念に基づく人事理念の設定

人事制度を構築する上で人事に関する基本方針である人事理念を経営理念や経営戦略に基づき固めておくのがよいでしょう。

 

人事理念とは、経営理念や戦略に従ってどのような人材を確保しどのように扱っていくかという人材に対する基本方針です。つまり、企業理念や事業上の目標を達成するために必要な従業員やその取扱いに関する企業の考えをまとめたものです。

 

もちろん各企業によって人事理念の内容は様々ですが、「企業の夢を追い求められる」「困難に挑戦できる」「社会に貢献できる」「他者と協調・協力できる」「常に問題の解決・改善に取り組める」「能力向上に努力を惜しまない」といった価値観などが提示されます。

 

こうした人事理念を定めておくことは、従業員の業務上の判断力を高め自律的な行動等を促すことに繋がるため、行動指針などの形で明示しておくべきです。

 

②経営戦略・経営計画に基づく人事戦略の策定

人事制度は経営目標を達成させるために機能しなければならないため、経営戦略・経営計画が第一の前提となります。そして、それらに従って一定期間の人事戦略や人事計画が策定され、それを支えるシステムとしての人事制度の設定が必要です。

 

人事戦略とは、経営戦略・経営計画の遂行・実現のために、外部環境や内部環境への対応を図りつつ、以下のような点を明確にすることを指します。

 

どのような価値観や風土を重視するか
どのような人材を何人求める
必要人材の確保にどれだけのコストをかけるか
必要人材を整えるためにどのような教育や異動等を行うか
上記を実現するためのシステム(人事制度)をどのように設計するか

 

③人事制度の中核システムの制度設計

人事戦略が策定できれば、人事制度をそれらに対応できるように設計していきます。まず、中核となる雇用管理制度、人事評価制度、報酬制度と能力開発制度の内容を固めていきましょう。内容については既に説明した点が参考になるはずです。

 

④新人事制度の運用開始

人事制度の構築にかかる期間は企業の規模によって大きく異なりますが、大企業などの場合では現状分析、人事戦略の策定から人事制度の確立までに数カ月以上要するケースも少なくありません。

 

しかし、少人数で会社設立する場合では人事制度以外に様々な点で時間が取られるため、人事制度についてはまず中核システムの基本的な部分の設計と運用に注力するべきです。その他の内容については少しずつ従業員の意見などを踏まえながら整備していくとよいでしょう。

 

⑤運用結果の確認と改善

人事制度は作ったら終了というものではなく、常時の改善や進化が伴うものです。様々な環境変化により戦略や計画自体も変化が強いられそれに対応する形で人事制度も変更せざるを得なくなります。

 

また、労働者の就業等に対する価値観も社会の変化とともに移り変わることも多いため、従業員の意識に合わせた人事制度の改善や変更も必要です。業績の変化と従業員の意識変化などを定期的にモニタリングして必要な改善に努めなければなりません。

 

会社設立前に適正な人事制度を構築することは開業後の業務遂行を円滑にして企業を成長へと導いてくれます。適正な人事制度を設けると、新設会社でも必要人材を確保しやすくなり結果的に事業を円滑に進めやすくなるのです。また、人事制度が従業員にマッチすれば、彼らのモチベーションは高まり業務の生産性向上にも繋がります。

 

人事制度の中核システムは、雇用管理制度、人事評価制度、報酬制度と能力開発制度であるため、会社設立前ではこれらの基本部分を固めることが優先されます。その後従業員も加えて人事制度を少しずつでも完成させていくとよいでしょう。

 

人事制度は戦略や計画の内容に基づき作成されるものであり、それらの変更に伴い人事制度も変更されるべきです。また、社会全般や自社において従業員の仕事に対する価値観に変化が見られる場合、人事制度での対応も必要になります。

 

人事制度は、企業を運営する人材を動かす仕組みのコアにあたるため、常時見直し従業員の納得感のある制度に維持していかねばなりません。

 

 


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