みなさんは社会福祉法人と聞くとどのようなイメージをお持ちでしょうか?「社会福祉」といえば、介護施設や障害者支援施設などを連想される方が多いと思います。もちろんどちらも正解で、一般的には介護施設も障害者支援施設などについては、社会福祉法人にて運営されている場合が多くみられます。
しかし実際はそれだけではなく、保育園や就労支援施設、診療所などについても社会福祉法人において運営することができます。
近年、日本においては高齢化が進むとともに、一方では保育園の待機児童の問題も噴出しています。そんな中、社会福祉法人は大きな役割を果たしています。
1 社会福祉法人の目的
社会福祉法人については、一般の株式会社などとは異なり営利(儲けること)を目的としません。社会福祉事業が目的でないと設立ができないからです。社会福祉事業とは簡単に言えば「社会のために貢献するために行う事業」のことです。
以下では、具体的に社会福祉法人が運営する施設の例を挙げていきたいと思います。
1-1 社会福祉法人が運営できる施設
1 保育園
保育園については、社会福祉法人にて運営が行われていることが多くみられます。最近では保育園と幼稚園の機能を両方持ち合わせた認定こども園も社会福祉法人で運営されていることがあります。
2 特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームは、寝たきりや認知症等により要介護認定を受けた方が入居し、介護サービスを受けることができる施設です。「特養(とくよう)」と略されることが多く、この名前で聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。ただし、この特別養護老人ホームについては、介護認定を受けても空きがなく、すぐに入居できないのが現状です。5~10年待っている方も少なくありません。
3 有料老人ホーム
この有料老人ホーム、介護サービスを提供する施設としては「特養」と同様です。「特養」と異なるのは入居の要件。園によって違いはありますが、介護認定を受けなくても入居できる施設も多くあります。ただし、入居にあたり「特養」に比べて費用負担は増大します。
4 障害者更生施設
障害者更生施設では、障害を持っている方が、社会で活躍できるよう職業訓練等を行う施設です。ここで訓練を積んだ後、様々な業種の会社に就職することとなります。ちなみに障害者更生施設については、入居型の施設もあれば、通所型の施設もあります。
2 会計はなぜ必要なのか
社会福祉法人は社会福祉法人会計基準に従って会計処理を行い、毎会計年度の終了後3ヶ月以内に、各会計期間に係る計算書類等の作成をしなければなりません。また、作成した計算書類等は各所轄庁に届け出るとともに、一部については遅滞なく公表しなければならないこととなっています。
一般の企業は、適正な税金の計算を行うため、あるいは株主に業績を報告しなければなりませんので、決算書や申告書を作成、提出する必要があります。では、なぜ法人税等の負担額も生じず、株主も存在しない社会福祉法人が計算書類等を作成しなければならないのでしょうか。
2-1 利用者からの目線
各社会福祉法人の利用者がサービスを安心して持続的に利用するためには、各法人が自立して経営を行うとともに、健全で適正に運営がなされている必要があります。
資金繰りが上手くいっているかという観点ももちろん必要ですし、資産や負債の状態を把握することによって、その法人が今後永続的に運営できるのかという観点も重要となります。
2-2 所轄庁からの目線
社会福祉法人で運営される事業は、介護事業や保育所事業など様々な事業がありますが、そのほとんどが国や地方公共団体等から補助金や助成金を受けて運営されています。ちなみに近年では、職員の処遇を改善するための補助金等も多く支給されています。
もちろん補助金等の原資は国民からの税金でまかなわれています。そのため各所轄庁ではこれらの補助金や助成金が交付目的通りに利用されているかどうか、または、法人自体が社会福祉事業を行っていくうえで適正かどうか(例えば法令違反を行っていないかどうか)を監査する必要があるのです。
2-3 理事、評議員からの目線
一般企業では、取締役などの役員が定められており、実際の経営を運営していく上で重要な決定を行う場合には、代表取締役を中心とした取締役会で決定するとともに株主総会にて株主に説明し、承認を得る必要があります。 社会福祉法人ではどうでしょうか。社会福祉法人には取締役などの役員も株主も存在しません。しかしながら、そのような状況下では適正な法人の運営が行われないこととなってしまうため、「理事」や「評議員」の設置が求められています。
2-4 理事、評議員とは
社会福祉法人では、理事及び評議員を選任しなければなりません。
理事は実際の法人運営を行う者であり、この理事を代表する人のことを理事長と言います。一般企業の社長をイメージして頂けるとわかりやすいかもしれません。社会福祉法人では重要な方針決定の際(例えば社会福祉法人で新たな施設を設置する場合や、高額な資産を購入する場合等)には、理事を招集して行う理事会を開催する必要があり、決議する内容によって、過半数あるいは2/3以上の賛成を得る必要があります。
また、評議員は上記の理事を監督する役割があります。法制度上は評議員が理事を任命し、理事が行う法人の運営が適正かどうか評議員会を行い検討します。
社会福祉法人では理事と評議員を必ず設置しなければならず、最低人数も定められています。理事は最低6名以上、評議員は最低でも理事の人数+1名以上選任する必要がありますので、理事と評議員合わせて13名以上の方に協力を求めなければなりません。
3 社会福祉法人が作成する書類
社会福祉法人では様々な書類の作成が求められ、その法人が行う事業や所轄している公共団体によって必要な書類も異なります。各書類それぞれに作成する目的があり、すべて重要なのですが、実際の現場で作成される方にとっては数も多く大変頭を悩まされていることかと思います。ここでは、どの事業を行う社会福祉法人でも作成が必要である計算書類を中心に主要な作成書類を見ていきましょう。
3-1 計算書類
計算書類は社会福祉法人の1年間の収支や資産、負債の現況を説明する書類をまとめたものをいいます。一般企業でも、「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」などの書類をまとめたものを決算書と呼び、これらを利用して利害関係者に1年間の業績を説明しますが、社会福祉法人が作成する「計算書類」も同じような性質を持っています。
では、社会福祉法人でも「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」を作成するのかというと全く同じではありません。社会福祉事業を行う上で、より着目すべき点を表すことができる書類、具体的には「資金収支計算書」「事業活動計算書」「貸借対照表」などの書類を作成することとなるのです。
3-2 支払資金とは
資金収支計算書を理解するためには、まず社会福祉法人会計特有の「支払資金」について理解しておく必要があります。
一般的に「資金」というと、現金や預金のことを意味しますが、社会福祉法人会計における「資金」では純粋な現金、預金よりも広い概念でとらえられています。
社会福祉法人では、この後説明する資金収支計算書を作成しますが、この資金収支計算書の支払資金の範囲は、現金預金・未収入金等の流動資産と未払金・預り金等の流動負債を言います。つまり、未収入金などの近い将来、現金・預金として入ってくるもの(流動資産)も資金として扱い、反対に未払金などの近い将来、現金及び預金が出ていくもの(流動負債)も資金として取り扱うのです。
社会福祉法人が作成する書類は、純粋な現金及び預金の動きだけでなく短期的な現金及び預金の異動まで含めて表示されるため、一般企業が作成する書類よりも近い将来のキャッシュフローが分かりやすくなっているのです。
3-3 1取引2仕訳
一般企業の経理で用いられている複式簿記を一度でも勉強された方にとっては「1取引1仕訳」が原則だということは基本中の基本だと思われているでしょう。
そんな企業会計の経験者の方にとって、初めのうちは大変理解しづらいですが、社会福祉法人会計においては、「1取引2仕訳」が基本となるのです。
では、なぜ1取引に対して仕訳が2本必要となるのでしょうか。
一般的な企業会計では、取引について「仕訳」を起票することにより損益計算書、貸借対照表が誘導的に作成されます。これは、社会福祉法人会計でも同じで、仕訳を起票することで、事業活動計算書及び貸借対照表が作成されます。
しかし、社会福祉法人会計ではこの事業活動計算書に加え、支払資金の増減を表示する資金収支計算書の作成が必要となります。そのため、一般企業と同じく損益を計算するための仕訳に加え、支払資金の増減を計算するもう1本の仕訳が必要となるのです。
実務的な話になりますが、社会福祉法人の会計を行う上で、一般企業用に市販されている会計ソフトは利用しにくいのですが、その理由はこの「1取引2仕訳」にあります。
3-4 内部取引
社会福祉法人会計では、それぞれの法人内で行う事業ごと、あるいは拠点ごとに計算書類等を作成することが求められています。
1 内部取引の意義
そのため、社会福祉法人が有する事業区分間、拠点区分間において生ずる内部取引については異なる事業区分間の取引を事業区分間取引とし、同一事業区分内の拠点区分間の取引を拠点区分間取引といいます。
2 内部取引の相殺消去の方法
事業区分間取引により生じる内部取引高は、資金収支内訳表及び事業活動内訳書において相殺消去することになります。事業区分間における内部貸借取引の残高は、貸借対照表内訳書において相殺消去します。
また、拠点区分間取引により生じる内部取引高は、事業区分資金収支内訳書及び事業区分事業活動内訳書にて相殺消去し、拠点区分間における内部貸借取引の残高は事業区分貸借対照表内訳書において相殺消去します。
なお、サービス区分間取引により生じる内部取引高は、拠点区分資金収支明細書及び拠点区分事業活動明細書において相殺消去を行います。(参考「「社会福祉法人会計基準の制定について」の一部改正について」)
4 資金収支計算書
資金収支計算書は、1年間の支払資金の収支を報告する書類です。一般の会社でいえばキャッシュフロー計算書に近いものになります。社会福祉法人については、営利を目的としていません。そのため、国や市からの補助金や利用者から施設利用料などをどのように使い、また残しているかということに重点を置いた資金収支計算書が重要となっています。
4-1 資金収支計算書の科目区分(収益)
では、資金収支計算書ではどのような科目が表示されるのでしょうか。
前述したように、資金収支計算書は社会福祉法人特有の「支払資金」の増減を表示する書類です。そのため、資金収支計算書には「支払資金」の増減を生じた取引の結果が集約されています。
まずは、収益から見ていきましょう。
①介護報酬・委託費・施設型給付費など
それぞれの法人が行う社会福祉事業に対して、地方公共団体等から給付を受けるものをいいます。
各法人は一定の期間ごとに、利用者の状況等を報告し社会福祉事業を運営していくためのメインとなる収入を請求することとなります。
この際に、利用者の人数を集計することはもちろんですが、それぞれの利用者の状況を把握し、報告しなければなりませんので、事務を行う方は大変な作業の一つになっています。
例えばこども園では、園児の年齢や保護者の所得によって請求額が変わることとなります。それぞれの保護者の方は、市町村から所得に応じた認定(1号、2号、3号の3段階に分かれています)を受けているのです。
②利用者等利用料
社会福祉事業の利用者から直接収受するものをいいます。社会福祉法人では利用者から給食費などの一部負担金等を実費徴収することも多くありますが、これらの金額についても、契約等に基づいてきっちり過不足なく徴収できているか集計し、計算する必要があります。
③補助金
一般企業と異なり、営利を目的としない社会福祉法人では、施設整備や人件費などに充てるための補助金の受給を受けることがあります。
この補助金を交付目的通りに利用したかどうかという点は、補助金を支給した市町村にとっては大変重要な点になります。監査が行われた際には細かくチェックされる論点の一つです。
④ 寄附金
社会福祉法人では、外部の方から寄附を受けることが多くあります。
寄附金品を受け入れる場合は寄附者が作成した寄附申込書に基づき、寄附者、寄附金額及び寄附の目的を明らかにして理事長または理事長から権限移譲を受けた者の承認を受けなければなりません。
また、会計上は収受した寄附金はその目的により区分経理することになります。実務上は下記のような区分をされます。
- 経常経費寄附金
- 施設整備等寄附金
- 設備資金借入金元金償還寄附金
- 長期運営資金借入金元金償還寄附金
4-2 資金収支計算書の科目区分(費用)
費用科目については、社会福祉事業に直接・間接的に要した費用を計上することとなります。
直接的に必要な経費(例えば保育園での絵本やおやつ代)は「事業費」の区分に計上し、間接的に必要な経費は「事務費」として表示されます。
ここでは、代表的な科目について説明していきます。
【事業費】
①職員給料・非常勤職員給与
常勤職員に対する給料については、俸給(本給)と賞与を除く諸手当を一括して「職員給料」に計上します。
また、非常勤職員に対する給与については、本給及び賞与を含む諸手当を一括して「非常勤職員給与」に計上します。
②派遣職員費
社会福祉施設の運営にあっては、指定居宅サービス基準等の更正労働省令において、職種別の職員の配置数が定められており、これを満たさない場合には報酬等の減額などが行われます。
しかし、法人自ら雇用する常勤・非常勤の職員でこの職員配置が満たせない場合、派遣会社から職員の派遣を受けて充足することがあります。
社会福祉法人会計基準では、人件費の「派遣職員費」で処理しますが、この「派遣職員費」で処理するのは、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律に基づく職員派遣の支払額であり、この適用を受けない給食など施設の業務の一部を他に委託するための費用は「業務委託費」で処理します。
③消耗器具備品費
利用者の処遇に直接使用する介護用品以外の消耗品(介護事業の場合)、器具備品で、固定資産の購入に該当しないものをいいます。
ただし、市町村等の公設の施設を法人が委託を受けて運営している場合等で、委託契約において、委託者である市町村等に当該資産の所有権がある旨の定めがある場合、当該資産は原則として法人の固定資産から除外しなければなりません。この場合には、上記のように「消耗器具備品費」として計上することとなります。
④賃借料
利用者が利用する器具及び備品等のリース料、レンタル料をいいます。
日本国内のリースは、近年ではファイナンス・リース取引に該当するものが増えてきております。このファイナンス・リース取引というのは、リース期間が対象の資産の耐用年数に近い年数に設定されており、リース料総額がおおむね対象資産の時価に近いものをいいます。つまり、分割購入したのと同様のリース取引を意味します。
このファイナンス・リース取引については、原則として、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うものとされています。このため、これに該当するリース取引に係るリース料については、賃借料に計上しません。
賃借料に計上するのはファイナンス・リース取引以外のオペレーション・リース取引やレンタカーなどのレンタル料です。
【事務費】
①旅費交通費
業務に係る役員・職員の出張経費及び交通費をいいます。ただし、研究、研修のための旅費は除き、例えば遠足(保育園の場合)等の交通費は事業費の旅費交通費に該当することとなります。
(旅費交通費のうち事務費として計上するもの)
- 職務に必要な会議に出席するための電車代、バス代、タクシー代などの交通機関の交通費、宿泊代、旅費日当、出張手当
- 児童、利用者の病気やけが等のため、病院や自宅まで同行するための交通費
- 入所者の旅行、外出娯楽、保育園の園外保育等の職員の付き添いの費用
②事務消耗品費
事務用に必要な消耗品及び器具什器のうち、固定資産の購入に該当しないものの費用をいいます。
同じ消耗品でも事業に必要なものか、事務用として必要なものかで計上する科目が異なることになりますので要注意です。
③修繕費
建物、器具及び備品等の修繕又は模様替えなどに要する費用をいいます。ただし、建物、器具及び備品を改良し、耐用年数を延長させるような資本的支出を含みません。
また、資本的支出とは、固定資産を改良し、その使用可能期間を延長、あるいはその価値を増加させる支出をいいますが、このような支出は通常の維持管理(あるいは原状回復)に要する修繕費には該当せず、固定資産に計上することになります。
資本的支出と修繕費の区別は困難を伴いますが、おおむね次により判定します。
A、実質的な判定
- 建物に非常階段を取り付けるなど、物理的な負荷があるときは、資本的支出とします。
- 附属のユニットの付加、取替えによって大幅に機能が向上する場合は、資本的支出とします。
- 単なる、施設内の機械装置の移設や事務机の配置換えのための費用は、修繕費になります。
B、改築に伴う施設整備
改築に伴う施設整備について補助金の交付を受ける場合、その交付要綱に資産の価値の増加する工事等である旨の条項がある場合には資本的支出に該当します。
C、大規模修繕等
社会福祉施設等施設整備補助制度に基づく大規模修繕等に係る支出は、原則として修繕費となりますが、実質的に価値増加が認められる金額については資本的支出に計上します。
D、災害による修繕
災害により被災した試算について支出した金額のうち、原状回復に要した費用は修繕費になります。
④業務委託費
洗濯、清掃、夜間警備及び給食など施設の業務の一部を他に委託するための下記のような費用をいいます。
- 寝具のクリーニング等の洗濯業務の委託費
- 施設内の清掃業務の委託費
- 廃棄物の処理のための委託費
- 給食の調理業務の委託費
- 夜間若しくは日中の警備、防犯警報装置による警備の委託費
- 会計業務、請求事務の委託費
- 税理士、公認会計士、弁護士等の顧問料
- 法人の変更登記に係る司法書士の手数料
5 事業活動計算書
事業活動計算書は1年間の事業活動の成果を報告する書類です。資金収支計算書とは異なり、社会福祉法人の「もうけ」を計算することになります。一般企業の損益計算書と同様の性質を持った書類となりますので、一般企業などで経理の経験がある方や、投資家の方で上場企業の損益計算書を目にしたことのある方々にとっては、資金収支計算書よりもイメージがわきやすいのかもしれません。
事業活動計算書は、サービス活動増減の部、サービス活動外増減の部、特別増減の部及び繰越活動増減差額の部に区分します。
5-1 事業活動計算書の構成
①サービス活動増減の部
サービス活動による収益及び費用を記載してサービス活動増減差額を記載します。なお、サービス活動による費用に減価償却費の控除項目として国庫補助金特別積立金取崩額を含めます。
②サービス活動外増減の部
受取利息配当金、支払利息、有価証券売却損益並びにその他サービス活動以外の原因による収益及び費用であって、経常的に発生するものを記載します。
③特別増減の部
社会福祉法人が事業開始にあたって財源として受け取った寄附金の額、施設及び設備の整備のために国又は地方公共団体等から受領した補助金、助成金及び交付金等の収益、固定資産売却による損益、事業区分間又は拠点区分間の繰入れ及びその他の臨時的な損益を記載し、同乗の寄附金に対応した基本金の繰入額、同乗の補助金に対応した国庫補助金等積立金の積立額を減算して、特別増減差額を記載します。
なお、国庫補助金等特別積立金を含む固定資産の売却損・処分損を記載する場合には、特別費用の控除項目として国庫補助金等特別積立金取崩額を含めて記載することとなります。
6 貸借対照表
貸借対照表は、毎年の決算期末日(たいていの社会福祉法人については3月31日)における、その法人が保有する資産や、返済すべき負債の額など記載した書類です。貸借対照表では、その法人の財政状態を把握することができ、また、換金性の高いものとそれ以外のものに区分されているので、経営の安定性についても図ることが可能です。
貸借対照表は下記の3つの区分にわけて表示されます。
- 資産の部
- 負債の部
- 純資産の部
6-1 資産の部
法人の資産は、まず流動資産と固定資産に区分され、固定資産がさらに基本財産とその他の固定資産に区分されます。流動資産や固定資産という言葉は企業会計にも出てくるものですが、基本財産は社会福祉法人会計特有の概念になりますのでしっかり理解しておく必要があります。
基本財産の具体例としては、社会福祉施設を経営する法人ではその施設のように供する不動産(土地や建物)、それらが貸与されている場合などでは所定の金額の預金等が挙げられます。
また、これらの基本財産は法人の定款に定めておく必要があります。基本財産は法人存続の基礎となるものなので、これを処分、担保に供する場合には原則として所轄庁の承認を受けなければならない旨も定款に明記されることになります。
6-2 負債の部
負債の部には、法人が将来負担することが確定している事項について記載することとなります。主に社会福祉法人会計で記載することとなるのは下記の科目です。
- 設備資金借入金
- 役員等短期借入金
- 事業未払金
- 職員預り金
- 前受金
- 賞与引当金
どの科目も一般の企業会計でも登場する科目ばかりですが、賞与引当金については、一般企業の会計とは異なり厳密に定められています。ここでは、賞与引当金の内容等をご説明します。
6-3 賞与引当金
1 意義
賞与引当金は、法人と職員との雇用関係に基づき、毎月の給料のほかに賞与を支給する場合において、翌期に支給する職員賞与のうち、支給対象期間が当期に帰属する支給見込額について設けられる引当金をいいます。
この賞与引当金を設定しないといけないのは、賞与については、支給時の一時の費用として処理するのではなく、期末時に翌期に支給する職員の賞与のうち、支給対象期間が当期に帰属する支給見込額について、当期の費用として引当計上する必要があるものとされているためです。
2 計上額の算定
賞与引当金の算定にあたっては、過去の賞与の支給実績、法人業績の状況、労使間の協定内容、交渉状況、翌期の給与のベースアップ等を勘案して、翌期の賞与の支給見込額を算出し、そのうち当期に帰属する額を引当金繰入額として計上します。
ただし、支給見込額の算定が困難であり、毎年度の実績がおおむね同額である場合には、次の算式による計上も合理的であるとして認められています。
繰入額=一人当たりの賞与支給額×期末現在の在職使用人の数
3 会計処理
賞与引当金も、社会福祉法人会計基準では「差額計上方式」により処理します。このため、当年度の負担に属する金額を事業活動計算書上、サービス活動増減の部の「賞与引当金繰入」に計上します。
また、職員賞与の支給時には、賞与引当金をまず支給額に充当します。当然ですが、この「賞与引当金繰入」もしくは「賞与引当金取崩」は資金を経由しませんので資金収支計算書に記載されません。
6-4 純資産の部
純資産の部では一般企業の決算書でいうところの資本金と近い概念を持つ「基本金」と各種積立金等が表示されます。
6-5 基本金
社会福祉法人が事業活動を継続するためには、一定の資産を維持していく必要があります。そのうち、社会福祉事業の対価としてではなく、社会福祉法人が事業開始等にあたって財源として受け入れた寄附金の額を「基本金」として計上します。
基本金は、社会福祉事業を存続させていく限り、原則として維持していかなければならない純資産です。
この基本金の組入れは、寄附金を事業活動計算書の特別収益に計上した後、その収益に相当する額を基本金組入額として特別費用に計上して行います。
また、社会福祉法人が社会福祉事業の一部または全部を廃止し、かつ基本金組入れの対象となった基本財産又はその他の固定資産が廃止や売却された場合には、当該事業に関して組み入れられた基本金の一部又は全部を取り崩します。
上記以外の場合は、原則として基本金を取り崩すことは生じないものとして取り扱い、取り崩す際には必ず行政の事前承認が必要となります。
6-6 国庫補助金等特別積立金
1 内容
国庫補助金等は、国や地方公共団体等、公的な資金から拠出された補助金等を指します。社会福祉法人は、当該補助金等を受け入れると純資産は増加しますが、そのうち施設及び設備の整備のために国、地方公共団体等から受領した補助金、助成金、交付金等の額を「国庫補助金等特別積立金」に計上します。
2 積立て
国庫補助金等特別積立金として次のものを積立てることとなります。
- 施設及び設備の整備のために国及び地方公共団体等から受領した補助金、助成金及び交付金等
- 設備資金借入金の返済時期に合わせて執行される補助金等のうち、施設整備時又は設備整備時においてその受領金額が確実に見込まれており、実質的に施設整備事業又は設備整備事業に対する補助金に相当するもの
また、国庫補助金等特別積立金の積立ては、国庫補助金等の収益額を事業活動計算書の特別収益に計上した後、その収益に相当する額を国庫補助金等特別積立額として特別費用に計上して行います。
3 取崩し
国庫補助金等特別積立金は、施設及び設備の整備のために国又は地方公共団体等から受領した国庫補助金等に基づいて積立てられたものであり、当該国庫補助金等の目的は、社会福祉法人の資産取得のための負担を軽減し、社会福祉法人が経営する施設等のサービス提供者のコスト負担を軽減することを通して、利用者の負担を軽減することにあります。
したがって、国庫補助金等特別積立金は、毎会計年度、国庫補助金等により取得等下資産の減価償却費等により事業費用として費用配分される額の国庫補助金等の当該資産の取得原価に対する割合に相当する額を取崩し、事業活動計算書のサービス活動費用に控除項目として計上しなければなりません。
また、国庫補助金等特別積立金の積立ての対象となった基本財産等が廃棄され、又は売却された場合には、減価償却が行われた際と同様に、当該資産に相当する国庫補助金等特別積立金の額を取崩し、事業活動計算書の特別費用に控除項目として計上しなければなりません。
6-7 積立金と積立資産
事業活動計算書の当期末繰越活動増減差額にその他の積立金取崩額を加算した額に余剰が生じた場合には、その範囲内で将来の特定の目的のために積立金を積み立てることができます。積立金を計上する際は、積立ての目的を示す名称を付し、同額の積立資産を積み立てることになります。似たような科目名ですが、積立金は純資産の部の科目、積立資産は資産の部の科目ですのでご注意ください。
また、積立金に対応する積立資産を取り崩す場合には、当該積立金を同額取崩します。
7 附属明細書
附属明細書は、当該会計年度における資金収支計算書、事業活動計算書及び貸借対照表に係る事項を表示するものであり、社会福祉法人は毎年度、附属明細書を作成し所轄庁等に提出することが求められています。
なお、作成すべき附属明細書は以下のとおりです。
【法人全体で作成する明細書】
- 借入金明細書
- 寄附金収益明細書
- 補助金事業等収益明細書
- 事業区分間及び拠点区分間繰入金明細書
- 事業区分間及び拠点区分間貸付金残高明細書
- 基本金明細書
- 国庫補助金等特別積立金明細書
【拠点区分で作成する明細書】
- 基本財産及びその他の固定資産の明細書
- 引当金明細書
- 拠点区分資金収支明細書
- 拠点区分事業活動明細書
- 積立金・積立資産明細書
- サービス区分間繰入金明細書
- サービス区分間貸付金残高明細書
- 就労支援事業別事業活動明細書
- 就労支援事業製造原価明細書
- 就労支援事業販管費明細書
- 就労支援事業明細書
- 助産事業費用明細書
8 財産目録
財産目録は、当該会計年度末現在におけるすべての資産及び負債につき、その名称、数量、金額等を詳細に表示するものであり、こちらも社会福祉法人は毎年度作成し、提出することが求められています。
財産目録は、貸借対照表の区分に準じ、資産の部と負債の部に区分し、純資産の額を示します。したがって貸借対照表の純資産の部合計と財産目録の差引純資産は必ず一致することになります。
9 社会福祉法人が公表する書類の基礎知識
社会福祉法人会計に携わる者は必ず気を付けなければならないのが「資金の取扱い」です。一般企業であれば、法人の資金はどのように利用し、また、内部留保しても自らが稼いだ資金であるので何ら問題はありません。
9-1 資金の取扱い
しかしながら、国や地方公共団体等からの補助金や助成金等で運営が成り立っている社会福祉法人については、資金の取扱いが厳密に制限されています。ここでは、各種社会福祉事業における「資金の取扱い」について整理します。
9-2 介護保険事業(特別養護老人ホーム等)
①資金の運用
特別養護老人ホームである指定介護老人福祉施設の指定施設サービス等に要する費用の額は、指定施設サービス等を利用者に提供した対価として報酬を得ることとなるので、施設報酬を主たる財源とする施設の運営に要する経費など資金の使途については、原則として制限を設けないこととなります。
②資金の繰入れ
施設報酬を主たる財源とする資金の繰入れについては、健全な施設運営を確保する観点から、当該指定介護老人福祉施設の事業活動資金収支差額に資金残高が生じ、かつ、当期資金収支差額合計に資金不足が生じない範囲内において、他の社会福祉事業等又は公益事業へ資金を繰り入れても差し支えないこととなっています。
③資金の積立て等
次期繰越活動増減額に余剰が生じる場合には、安定的な経営の確保及び財務状況の透明性の確保の向上を図る観点から、事業計画を作成の上、その範囲内で将来の特定の目的のために、次のような積立金を積み立てることが望ましいとされています。
・施設整備等積立金
建物、設備及び機械器具等備品の整備・修繕、環境の改善等に要する費用、及び増改築に伴う土地取得に要する費用に係る積立金
・人件費積立金
人件費に充てるための積立金
④役員等の報酬
施設報酬を主たる財源とする法人役員及び評議員の報酬について、その報酬が当該社会福祉法人の収支の状況からみてあまりに多額となると、実質的配当とみなされ、国民の信頼と期待をそこなるおそれがあります。そのため、社会福祉法人は、きわめて公共性の高い法人であることを理由に役員報酬等は高額であってはならないこととされています。
9-3 保育所
保育所が地方公共団体等から受ける委託費の使途については、徐々に緩和の方向に進んでいるものの、まだまだ注意する必要があります。
万が一、資金の使途が適正でないとされた場合には、各所轄庁から以下のような行政指導が行われることとなっています。
・入所児童の処遇等に不適切な事由が認められ、改善措置が講じられない場合
改善計画の作成と提出を速やかに行い、その改善計画通りに改善措置が講じられない場合には、改善措置が講じられるまでの間で所轄庁が必要と認める期間、改善基礎分の管理費相当分若しくは人件費等相当分又はその両者を減額されます。
・収支計算書の結果から、不適切な資金使途が認められた場合
4月から翌年3月までの間、改善基礎分全額について加算が停止されます。ただし、これらの加算が停止されている施設であっても、保育所経理等通知に掲げる事業等のいずれかを実施し、一定の要件を満たすものについては、改善基礎分が加算されたものと仮定して経費を充当することが認められています。
10 計算書類等の承認・届出・公表
社会福祉法人が作成する計算書類等は下記のようなスケジュールで承認・届出及び公表を行います。なお、最後の所轄庁への届出は毎年6月末日までに行わなければならないので注意が必要です。
計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書の作成
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財産目録等の作成
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監事による計算書類等の監査
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会計監査人による監査
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理事会での計算書類等の承認
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一定の期間の計算書類等の据置き及び評議員への計算書類等の提供
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評議員会での計算書類等の承認
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所轄庁への届出
10-1 所轄庁への届出及び情報の公表
社会福祉法人は、毎会計年度終了後3ヶ月以内に下記の方法により一定の書類を各所轄庁に届け出なければなりません。
①書面の提供
②電磁的方法による提供
なお、届出を行う書類は下記のとおりです。
(計算書類等)
- 各会計年度に係る計算書類
- 計算書類の附属明細書
- 各会計年度に係る事業報告
- 事業報告の附属明細書
- 監査報告書
- 会計監査人設置社会福祉法人の場合、会計監査報告書
(財産目録等)
- 財産目録
- 役員等名簿
- 報酬等の支給の基準を記載した書類
- 事業の概要その他の厚生労働省令で定める事項を記載した書類
社会福祉法人は、各事由の区分に応じ、上記の届出書類を遅滞なくインターネットにより公表しなければならないこととなっています。
11 社会福祉充実残額
平成29年3月期の決算から社会福祉法人は毎期社会福祉充実残額を計算し、計算の結果、社会福祉充実残高が発生する場合には、その残高の使途の計画を各所轄庁に提出しなければならなくなりました。
ぜ社会福祉充実残額を計算しなければならなくなったのでしょうか。
これまで社会福祉法人制度においては、法人が保有する財産の分類や取扱いに係るルールが明確でなく、公益性の高い非営利法人として、これらの財産の使途等について明確な責任責任を果たすことができているとは言えない状況にありました。
このため、全ての法人に共通するルールを設定した上で、その保有する財産から事業継続に必要な財産を控除し、これを上回る財産(これを社会福祉充実残額といいます)がある場合には、社会福祉充実計画を策定することが義務付けられたのです。
12 社会福祉法人の納税義務
最後になりますが、社会福祉法人が納める税金についてお話しします。
そもそも社会福祉法人が営む社会福祉事業については法人税は課税されません。そのため、社会福祉法人は税金がかからない法人と思っていませんか?
12-1 収益事業への課税
実は、社会福祉法人であっても法人税法上の収益事業を営んでいる場合には、この収益事業に対して法人税、法人道府県民税、法人市町村民税又は法人事業税が課税されます。
法人税の課税所得については、法人税法の規定により法人の確定した決算に基づく会計上の利益の額を基礎として計算しますが、会計と課税所得とは目的を異にするため、一般的に収益と法人税法上の益金、費用と法人税法上の損金の認識時点等に相違があります。
もし、社会福祉法人で収益事業を行っている場合には、毎会計年度作成している計算書類に加えて、所轄税務署へ提出する申告書を作成しなければなりません。
12-2 税効果会計
税効果会計とは、会計上の収益又は費用と課税所得計算上の益金又は損金の認識時点の相違等により、会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において、法人税等の額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的にした会計手続きです。
これは、課税所得を基礎とした法人税等等の額が費用として計上され、法人税等を控除する前の会計上の利益と課税所得とに差異があるときは、法人税等の額が法人税等を控除する前の当期純利益と期間的に対応せず、また、将来の法人税等の支払額に対する影響が表示されないことを避けるためです。
社会福祉法人会計基準では、税効果会計の適用に関する規定はありませんが、重要性が乏しい場合を除き、適用する方が望ましいとされています。
なお、この重要性が乏しい場合とは、計算書類の利用者が社会福祉法人の状況等に関する判断を誤らない程度に重要性がないことを意味し、事業活動計算書の法人税等調整額が当期活動増減差額に与える影響、貸借対照表の繰延税金資産が資産合計に与える影響などを考慮して、総合的に判断することになります。