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決算資料の有価証券報告書はどう活かす?投資、ビジネス、就活でのその活用方法とは

会社員のなかには有価証券報告書という言葉をときどき耳にする方もおられるでしょう。有価証券報告書は上場企業などが開示する決算情報を含む企業に関する資料です。投資家や金融機関等が主に利用するものと思っている方も多いでしょうが、有価証券報告書はビジネス全般、投資、就活など幅広い分野で活用できます。

 

ここでは有価証券報告書の内容、読み方、活用の仕方などを説明します。ビジネス、投資、就活などの分野でどのように有価証券報告書を有効利用できるか、どの点に着目すると各々の分野で役立つのか、などを紹介していきましょう。

 

 

1 有価証券報告書とは

ここではまず有価証券報告書がどのようなもので、どのように役立つのかを簡単に説明します。

 

 

1-1 有価証券報告書の概要

有価証券報告書とは、上場企業や特定の条件に該当する企業が金融商品取引法に基づいて開示することが義務付けられている事業や業績等に関する開示資料です。ここでは有価証券報告書の概要を紹介しましょう。

 

①有価証券報告書の目的

有価証券報告書は、投資家保護を目的として有価証券を発行している上場企業などにおいて各事業年度に提出が要求されている開示資料です。

 

企業は株式などの有価証券を発行し市場を通じて販売することで幅広い投資家から資金を調達することができます。他方、投資家では有価証券を購入することで、配当や利息、売却による譲渡益が得られるのです。

 

しかし、発行している企業の業績が悪くなれば、配当がなくなることもあります。さらに企業が倒産することになれば、有価証券は価値がなくなり投資家は大きな損失を被ることになるわけです。

 

つまり、有価証券への投資には少なからぬリスクがあり、投資家には適切な投資が判断できる情報が必要になります。その判断に必要な情報として有価証券報告書は、その提出・開示が上場企業等に課せられているのです。

 

②有価証券報告書のおもな内容

有価証券報告書のおもな内容は、企業概況、事業内容、営業状況、設備状況、従業員・関係会社状況、課題・事業等のリスクの状況、コーポレートガバナンスの状況などになります。形式は統一されており、その内容は概ね以下の通りです。

情報の種類 内容のおもな項目
企業の概況 おもな経営指標の推移、沿革、事業内容、関係会社、従業員などの状況
事業の状況 業績の状況、生産・受注および販売の状況、対処すべき課題、事業等のリスク、経営上の重要な契約等、研究開発活動、財政状態、経営成績およびキャッシュフローの状況の分析
設備の状況 設備投資等の概要、主要な設備の状況、設備の新設・除去等の計画
提出会社の状況 役員や大株主の状況、株式等・自己株式の取得等の状況、配当政策、株価の推移、コーポレートガバナンスの状況等
経理の状況 連結財務諸表(連結貸借対照表・連結損益計算書・連結剰余金計算書・連結キャッシュフロー計算書)、財務諸表

 

以上のようにその企業に関わる多様な情報が有価証券報告書には記載されているため、単に投資家や市場関係者のみならず事業上の取引先、資金提供者などにおいても有益な情報源となります。

 

また、就職や転職を考えている学生や会社員においても入社先を検討する上での重要な情報が満載されているため、その判断材料として利用できるはずです。

 

なお、有価証券報告書は提出にあたり独立監査法人等による会計監査を受ける必要があるため、記載されている連結財務諸表は一定の信頼性が担保されています。つまり、信頼性の高い情報がさまざまな分野で利用できるわけです。

 

 

1-2 有価証券報告書の活用分野

それでは有価証券報告書がどの分野でどのように役立つのか、その有効性を確認していきましょう。

 

①投資に役立つ

有価証券報告書は投資判断に必要な情報が提供されているため、投資家には欠かせない情報の一つとして役立っています。

 

たとえば、株式に投資する場合、投資家はその投資によって配当金や売却益が得られる可能性があります。有価証券報告書は、それらの利益が将来どの程度の大きさになるか、儲かるのかを分析するために利用されるのです。

 

配当金や株価の情報は有価証券報告書の【提出会社の状況】の部の「配当政策」や「株価の推移」の箇所で確認できます。その期の配当金額だけでなく今後の配当政策について記されることもあるため、将来の増配や減配を予想する上で重要です。

 

また、過去5年間での最高と最低の株価の推移が示されるケースもあります。株式投資では過去の株価の推移を把握することは不可欠ですが、有価証券報告書でその確認もできるのです。

 

もちろん株価の動向は企業業績に左右されるため、業績分析も必要となりますが、有価証券報告書には損益計算書や貸借対照表などの財務データが記載されているため分析に直接利用できます。

 

売上高の推移だけでなく売上高営業利益率、売上高経常利益率の推移を確認すれば、企業としての成長性が確認でき今後の株価の行方を予想することも可能です。

 

ほかにも投資リスクを判断するための情報も少なくありません。直接的な情報としては、有価証券報告書の「事業の状況」の部の「事業等のリスク」や「経営環境および対処すべき課題」があります。

 

その企業がどのようなビジネス環境にあって、どのようなリスクに晒されているかという点とともにどう対処しいくのか、ということも示されるため、適切な判断がしやすくなるのです。もちろん財務データから企業の安全性や収益性を分析してリスクを計ることもできます。

 

②ビジネス全般に役立つ

有価証券報告書は決算情報を含む企業のさまざまな情報が含まれるため、ビジネス全般に役立ちます。

 

商品やサービスを提供する企業はその販売先となる企業の選定、逆に商品やサービスの供給を求める企業では供給先の選定、資金を提供する金融機関などでは融資先の選定などに有価証券報告書は利用できるのです。

 

販売先の選定においては、自社の商品・サービスを使用する可能性のある候補企業を有価証券報告書から検討できます。【事業の内容】【生産・受注および販売の状況】【主要な設備の状況】の情報を確認すれば、販売先となるかどうかの判断も難しくないでしょう。

 

供給先の選定も販売先の選定で利用する同様の情報を確認すればある程度判断がつくはずです。その企業がどのような生産設備や施設を利用して商品・サービスを提供しているかが有価証券報告書に記されています。

 

そうした内容から設備能力、性能、品質、供給能力を推し量ることができ、候補の選定に役立つこともあるわけです。

 

融資先の選定では金融機関等が企業の安全性や成長性などの評価で有価証券報告書を利用しています。融資金を返済できる能力が十分にあるか、返済を可能にする事業の状況は良好であるか、融資額が拡大していくような成長が見込めるか、などが有価証券報告書の情報をもとに評価されるのです。

 

ほかにも買収先や提携先の候補を選定する際にも有価証券報告書は貴重な判断材料となるでしょう。

 

③就職・転職に役立つ

有価証券報告書にはその企業の事業内容や業績等の情報のほか、従業員数や平均給与などの情報も含まれるので、就職や転職の活動をしている方にも役立ちます。

 

就活をしている方は、どの企業に自分の希望する職業や職務があるのかを調べる必要がありますが、その情報が有価証券報告書にも記載されているのです。

 

また、求職者にとっては就職する企業の安全性や成長性なども選ぶ上で重要になりますが、ビジネスや投資の面で確認したように有価証券報告書の情報を分析すればその評価も難しくなくなるでしょう。

 

求職者としては、借金が多く資金繰りに困っている企業を就職先として選びたくないはずですが、有価証券報告書のキャッシュフロー計算書などの財務情報を分析すればその判断も可能です。

 

従業員情報に関しては、従業員数、年間平均給与、平均年齢、平均勤続年なども有価証券報告書に記載されています。そのため年齢や年収の面から自分に適しているかどうかの評価もできるわけです。「何年後には○○万円の年収になりそうだ!」と感じられることもあるでしょう。

 

 

2 有価証券報告書の内容と閲覧方法

ここでは有価証券報告書についてもう少し詳しい内容や閲覧の仕方などを紹介します。

 

 

 

2-1 有価証券報告書の種類と提出

有価証券報告書の種類や提出義務者について確認しましょう。

 

①有価証券報告書の提出義務のある企業

原則的に以下の内容に該当する有価証券を発行する企業は、事業年度ごとに有価証券報告書を提出する義務があります。
*出典:関東財務局のWEBサイト「有価証券報告書の提出義務者とは」

 

A 金融商品取引所に上場されている有価証券
B 店頭登録されている有価証券
C 募集または売出しにあたり有価証券届出書または発行登録追補書類を提出した有価証券
D 所有者数が1,000人以上の株券(株券を受託有価証券とする有価証券信託受益証券および株券にかかる権利を表示している預託証券を含む。)または優先出資証券(ただし、資本金5億円未満の会社を除く。)、および所有者数が500人以上のみなし有価証券(ただし、総出資金額が1億円未満のものを除く。)

 

イメージ的には東京証券取引所等に上場している企業などが提出義務を有する企業といえます。

 

②有価証券報告書の種類と提出企業

金融商品取引法により有価証券報告書の提出義務を有する企業は(同法24条1項)、半期報告書の提出義務のある企業と四半期報告書の提出義務のある企業とに分かれます。

 

四半期報告書の提出義務のある企業は金融商品取引所の上場会社および店頭登録会社の「上場会社等」となっています。ただし、有価証券報告書の提出会社なら上場会社等以外の企業でも任意に四半期報告書を提出することは可能です。

 

一方、半期報告書の提出義務のある企業は、有価証券報告書の提出義務のある企業のうち「四半期報告書を提出しなければならない会社以外」の企業です。該当するケースとしては、上場していない企業が有価証券届出書を提出して有価証券を発行している場合などになります。

 

非上場企業は四半期報告書を提出する必要はなく、半期報告書のみの提出でかまいません。また、上場企業は四半期報告書の提出義務は有するものの、半期報告書は提出しなくてもよいのです。

 

③有価証券報告書の提出期限

有価証券報告書は、原則的にその企業の決算期日(事業年度の末日)後、3カ月以内(外国会社の場合は6カ月以内)の提出が義務付けられています。ただし、一定の条件に該当する場合、期間を延長することが可能です。また、地震等の災害で提出が困難となる場合は、特別法などにより延長できるケースもあります。

 

・四半期報告書の提出義務と提出期限

事業年度が3月を超える企業においては、当該事業年度の期間を3月単位で区分した各期間に四半期報告書の提出義務があります。その提出先は内閣総理大臣(財務局・金融庁経由)です。

 

なお、事業年度の最後の期間である第4四半期は、四半期報告書の提出は義務付けられていません(通期の有価証券報告書を提出するため)。

 

つまり、上場企業は第1四半期~第3四半期までの四半期報告書と、通期の有価証券報告書の提出が必要となるのです。

 

四半期報告書の提出期限については、各四半期終了後45日以内となっています。ただし、特定事業会社*については、第2四半期報告書に関してのみ第2四半期終了後60日以内です。

 

*特定事業会社とは、銀行法に定める銀行業、保険業法に定める保険業および少額短期保険業、信用金庫法に定める全国を地区とする信用金庫連合会(信金中央金庫)の業務にかかる事業を行う会社などが該当します。

 

・半期報告書の提出期限

半期報告書の提出義務のある企業は、その上半期の期末日後3カ月以内に半期報告書を内閣総理大臣(財務局・金融庁経由)へ提出しなければなりません。

 

④有価証券報告書の提出義務違反に対する罰則

有価証券報告書の提出に関して、不提出や虚偽記載等を行うと以下のような罰則を受けることになります。

 

・有価証券報告書、四半期報告書または半期報告書の提出義務のある企業が提出しない場合(金融商品取引法第172条の3)は以下の課徴金が課されます。

 

A 有価証券報告書:
不提出となった有価証券報告書の事業年度の直前事業年度における監査報酬額に相当する額。ただし、監査証明を受けるべき直前事業年度がない場合等は400万円。

 

B 四半期報告書または半期報告書
不提出となった四半期報告書または半期報告書にかかる期間の事業年度等の直前事業年度等における監査報酬額の2分の1に相当する額。ただし、監査証明を受けるべき直前事業年度等がない場合などは200万円。

 

 

2-2 有価証券報告書の閲覧方法

ここでは有価証券報告書を閲覧する方法を紹介します。方法としては、金融庁が運営する「金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム(EDINET)」や、各企業のWEBサイトのIRページなどが利用できます。

 

①EDINET

金融庁では有価証券報告書等の開示書類を閲覧できるWEBサイト*を運営しており、そのシステムであるEDINETでいつでも有価証券報告書等が閲覧できます。

 

同サイトのトップページにある「書類検索」のボタンをクリックすれば、「書類簡易検索画面」へ移行し必要な有価証券報告書の検索が簡単にできるのです。

 

「書類提出者/有価証券発行者/ファンド情報を指定する」の項目の欄に提出企業社名を、「書類種別」の欄に「有価証券報告書」のチェックを入れ、「決算期/提出期間を指定する」の欄の内容を指定すれば、それで検索できます。

 

たとえば、「シャープ」、「有価証券報告書(チェック)」、「決算期:平成29年3月期、提出期間:過去1年間」で入力すれば、「第123期(平成28年4月1日~平成29年3月31日)の有価証券報告書のデータが表示されるのです。なお、情報はPDFやXBRLのファイルで閲覧入手できます。

 

有価証券報告書は投資家等に広く閲覧できる(公衆縦覧)できるように定められていますが、その公衆縦覧期間は次の通りです。

 

  • 有価証券報告書は受理された日から5年を経過する日まで
  • 四半期報告書および半期報告書は各々受理された日から3年を経過する日まで

 

②企業のIRサイト

上場企業等のWEBサイトにはIR(インベスター・リレーションズ)ページが用意されてあり、そこで有価証券報告書の閲覧ができます。

 

たとえば、ソニーのWEBサイト場合、そのトップページの上段に「投資家情報」があります。そこにカーソルを移動させると、「IR資料室」のボタンが表示され、クリックするとそのページに移動できます。

 

IR資料室のページのメニュー項目にある「有価証券報告書等」のボタンをクリックすれば、各四半期報告書および有価証券報告書が選択できるようになっているのです。必要とする時期の有価証券報告書等をクリックすると、PDFで閲覧できます。

 

 

2-3 有価証券報告書と決算短信との違い

決算関連資料には有価証券報告書以外にいくつかありますが、「決算短信」もその一つです。

 

決算短信も投資家保護が目的とされ、投資判断材料として利用されるものですが、有価証券報告書と違って法的に強制される開示資料ではありません。証券取引所がその適時開示規則に基づき上場企業に提出・公開を要請している決算資料なのです。ただし、証券取引所から要請されているものなのでほとんどの上場企業は提出しています。

 

有価証券報告書と決算短信との違いはいくつかありますが、特に提出期限での差が小さくありません。前者が3カ月以内で後者が45日以内と大きな差があり、決算短信は決算情報の速報版として認識されており情報自体も速報値で、情報量も有価証券報告書よりも大幅に少ないです。

 

他方、有価証券報告書は決算情報の確定値で情報の内容は網羅的で量も多くなっています。ただし、確定値であっても訂正されることはあり、訂正される際には当然その有価証券報告書(訂正)は提出・公開されなければなりません。

 

なお、決算短信は速報値的な役割を担っていますが、それでも誤りがあると投資家の判断に大きな影響を与えかねないので、財務データ等が後日大幅に訂正されるケースは少ないです。

 

投資や株価等への影響においては、提出期限の早い決算短信のほうが注目は集まりやすく、投資家等はその内容で即応的に投資行動を変えることも少なくありません。他方、有価証券報告書は決算短信の後に提出されるものなので、決算短信ほど注目が集まりにくいといえるでしょう。

 

ただし、有価証券報告書は決算内容や事業内容などが網羅的に記載されているため、一定の時間をかけてじっくり分析する資料として位置付けられます。

 

なお、決算短信も四半期ごとに提出が要請されており、第4四半期は通期の決算短信となります。

 

 

3 有価証券報告書の活用の仕方

ここでは有価証券報告書を投資、ビジネス全般、就活においてどのように活用できるかを説明していきましょう。

 

 

 

3-1 有価証券報告書の投資面での活用

株式投資における銘柄選定の方法や判断基準などはさまざまですが、ここでは有価証券報告書をそれらためにどのように活用できるかを簡単に紹介します。

 

①経営指標の算出のためのデータを得る

株式投資では株価の推移やPER、PBR、ROEなどの指標を利用した分析がよく行われますが、それらの値を求める際の財務データが有価証券報告書から得られます。

 

まず、株価の動向を見てみたい場合は、有価証券報告書の【株価の推移】の箇所を確認すれば、「最近5年間の事業年度別最高・最低株価」や「最近6月間の月別最高・最低株価」が確認できます。

 

PERなどの一部の指標は有価証券報告書にも記載されていますが、ないものは財務データを抽出して計算しなければなりません。

 

・PER(株価収益率)

PERは「株価÷一株当たり利益(EPS)」、または「時価総額÷純利益」で計算されるため、そのデータを投資先候補企業の有価証券報告書から抽出すればよいのです。なお、PERは有価証券報告書にそのデータが掲載されていることもあります。

 

たとえば、ソニーの2016年度の有価証券報告書の場合、【企業の概況】の【主要な経営指標等の推移】(1ページ)の箇所で2012年度~2016年度(13年3月~17年3月)時点のPERが掲載されているのです。具体的には、2012年度(13年3月期)は39.7倍 、2013年度と2014年度はデータなし 、2015年度は 24.2倍、2016年度は 64.9倍となっています(13年度と14年度は当期純損失となったため)。

 

PERは株価が一株当たり利益の何倍になっているかを示す指標であり、値が高いほど株価は割高であると評価される指標です。ソニーのPERの趨勢は増加傾向にあり株価が割高になっていると評価されますが、業界やライバル企業とのデータ比較が重要となるでしょう。

 

なお、最近のPERで評価したい場合、たとえば2018年の4月末や5月末などで評価するなら、「その時点での株価÷一株当たり利益(2017年決算データ)」で計算できます。2017年3月決算日での一株当たり利益は先の【主要な経営指標等の推移】で確認でき、その値は58.07円です。

 

2018年4月27日の終値5,400円でPERを求めるなら、5,400円÷58.07円=92.99倍と計算できます。なお、2018年3月期の決算短信が提出されており、その情報では一株当たり利益は388.32円なので、より直近のPERで評価したい場合はこの値で計算するべきです。

 

・ROE(自己資本利益率)

ROEも【主要な経営指標等の推移】に掲載されています。ROEは自己資本に対する当期純利益の割合を示し、自己資本でどれほどの純利益を稼げたかを表す収益性・効率性を示す指標です。また、純利益の大きさは配当の大きさに結び付くため配当能力を見る指標としても利用されることがあります。

 

2012年3月~2016年3月時点のソニーのROEは、2012年度が2.0%、 13年度が△5.8% 、14年度が△5.5% 、15年度が6.2% 、16年度(17年3月期)が3.0%と掲載されています。なお、2017年度(18年3月期)の決算短信によると17年度のROEは18%です。

 

・PBR(株価純資産倍率)

PBRは【主要な経営指標等の推移】にないため自分で計算しなければなりません。PBRは「株価÷BPS(1株当たりの純資産額)」で求められ、BPSは【主要な経営指標等の推移】にデータがあります。

 

PBRは株価が1株当たり純資産額の何倍になっているかを示す指標です。純資産は会社が解散する場合の株主の持ち分であることから、PBRは1株に対する投資額と1株あたりの解散価値との関係をみることができます。

 

この関係から値が1未満である場合、解散価値のほうが大きくなり解散価値以上の資金が返還され得る状態なので株価は割安と判断さるのです。逆にPBRが1を超える場合は割高と判断されます。

 

なお、PERと同様に評価したい時点の株価を使い、「株価÷1,977.72(2017年3月期のBPS)」でPBRは容易に計算できます(2018年3月期のBPSは2,344.96円)。たとえば、2017年3月31日の株価の終値は3,766円なので、その時点のPBRは「3,766円÷1,977.72円=約1.9倍です。

 

②成長性や安全性を評価するためのデータを得る

株式投資には投資資金の元本割れというリスクがあるため、投資先の安全性を考慮しつつ成長性の高い企業への投資することが重要です。そのため投資先の成長性と安全性の評価が欠かせませんが、そのためのデータが有価証券報告書から得られます。

 

・成長性のデータ

企業が事業を拡大させ収益も伸ばしていけば、自ずと株価も上昇、すなわち成長していくこととなるため、事業や収益の拡大を示す財務データや指標の値は重要になります。

 

具体的には財務データは売上高、売上総利益、営業利益、経常利益などで、指標では売上高総利益率、売上高営業利益率、売上高経常利益率 などです。これらのデータは有価証券報告書から直接データを得たり、抽出したデータをもとに計算したりすることで得られます。

 

売上高、売上総利益、営業利益、経常利益などは有価証券報告書の【主要な経営指標等の推移】や【経理の状況】の【連結財務諸表】などで確認できます。売上高営業利益率等の値は、それらの財務データを用いて計算し求めるのです。

 

たとえば、ソニーの2016年度(連結)の営業利益は288,702百万円で売上高は6,443,328百万円なので、売上高営業利益率は「288,702百万円÷6,443,328百万円×100%=約4.48%」になります。

 

成長性を計るには直近のデータと過去のデータを比べてどう成長しているか、していないかを確認する必要があり、上記の計算を一定期間について行わねばなりません。

 

ソニーの2015年度の売上高営業利益率は「294,197百万円÷6,949,357百万円×100%=約4.23%」で、2014年度は「68,548百万円÷7,035,537百万円×100%=約0.97%」です。したがって、ここ3年間の売上高営業利益率は0.97%⇒4.23%⇒4.48% と上昇しており、成長していると評価できるでしょう(ソニーの場合は回復している)。

 

・安全性のデータ

企業が倒産すれば株式は紙くず同然となり、企業の経営状態が悪くなれば配当金も減配や無配といったことになるため、企業の安全性評価は重要でありそれには有価証券報告書の情報が役立ちます。

 

企業の安全性を計る方法はいくつかありますが、短期の安全性では流動比率(流動資産÷流動負債×100%)や当座比率(当座資産÷流動負債×100%)といった指標での評価が可能です。

 

長期の安全性では固定比率(固定資産÷自己資本×100%)や固定長期適合率〔固定資産÷(自己資本+固定負債)×100%〕、資本調達構造の観点からでは自己資本比率(自己資本÷総資本×100%)や負債比率(負債÷自己資本×100%)などが指標として利用できます。

 

これらに該当するデータを有価証券報告書から抽出して計算すれば各々の指標の値が求められるのです。たとえば、ソニーの2016年度(2017年3月末)の流動比率は「4,355,722÷5,221,739×100%=約83.4%」と計算できます。

 

流動比率は短期の支払義務に対して短期の支払手段でどの程度賄えるかを見る指標であるため、100%以上あることが望ましいとされています。その考え方からソニーの約83.4%を評価すれば、安全性は良いとはいえないでしょう。

 

また、キャッシュフロー計算書から資金の状態に関する安全性を評価する方法もあります。これについては有価証券報告書の【連結キャッシュフロー計算書】の箇所を確認することで評価が可能です。

 

キャッシュフロー計算書は、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフローと財務キャッシュフロー(以下「CF」)の3つからなりますが、各々前期と当期の2期間の値を比較して評価します。

 

一般的に営業CFと投資CFの合計がプラスであることが健全とされており、マイナスの金額が大きい場合には安全性が低下しているとみられます。その合計がマイナスであったり、営業CFがマイナスであったりする場合は要注意です。

 

③業績に関わる定性データを得る

財務データや指標の値から株価や企業を評価することは重要ですが、そうした業績の結果に至った内容や背景を確認することも必要であり、その情報が有価証券報告書から得られます。

 

有価証券報告書の【事業の状況】には、【生産、受注および販売の状況】、【経営方針、経営環境および対処すべき課題等】の項目があり、当該年度の業績に至った理由などが説明されているのです。

 

また、中期経営計画の方針や計画の概要なども記載されることがあるので、将来の株価の動向を判断する上で貴重な情報になります。たとえば、ソニーの2016年度の有価証券報告書の該当箇所には次のよう記述があります。

 

「2017年度に、ソニーグループ連結で、ROE10%以上、営業利益5,000億円以上を達成することを目標とし、以下の基本方針のもと、高収益企業への変革を進めています。」

 

こうした記述から今後の株価の成長も期待できるわけです。また、そうした計画が可能かどうかの判断ができるように「中期経営計画(2015年度~2017年度)の進捗」の説明が記載されています。

 

計画の実現可能性や安全性を評価する定性情報としては、【事業等のリスク】の内容も参考になるでしょう。たとえば、ソニーでは以下のような項目をリスクとして挙げ、各々説明しています。

 

・「ソニーはエレクトロニクス事業を中心に一層激化する競争を克服しなければなりません。」

 

・「ソニーは、競争力を維持し消費者の需要を喚起するため、既存の製品、半導体、コンポーネント、およびサービスへの影響を管理しながら、新しい製品、半導体、コンポーネント、およびサービスの頻繁な導入および切り替えを適切に管理しなければなりません。」

 

このように有価証券報告書の定量データと定性データを利用することでより適切な投資判断が可能となるのです。

 

 

 

3-2 有価証券報告書のビジネス面での活用

有価証券報告書が、販売先や取引先の評価・選定にどのように役立つのか、融資を受けるにあたって有価証券報告書をどのようにしておけばよいのか、といった点を紹介しましょう。

 

①販売先や購入先の候補になる事業を有するか

新たな販売先を確保する、ビジネスの相手を探すには、まず自社の商品・サービスを使う企業か、どうかを確認する必要がありますが、有価証券報告書の【企業の概況】の【事業の内容】でそれが確認できます。なお、購入先の候補を探す場合も同様です。

 

【事業の内容】ではおもな事業内容が説明され、各事業セグメントの「事業区分および主要製品」「主要会社(子会社等)」などが記載されているのです。たとえば、ソニーの事業は以下のように記載されています。

 

  • モバイル・コミュニケーション(携帯電話、インターネット関連サービス事業)
  • ゲーム&ネットワークサービス(ゲーム機、ソフトウェア 、ネットワークサービス事業)
  • イメージング・プロダクツ&ソリューション(コンパクトデジタルカメラ、ビデオカメラ、レンズ交換式一眼カメラ、放送用・業務用機器、放送用・業務用機器)
  • ホームエンタテインメント&サウンド
  • 半導体
  • コンポーネント
  • 映画
  • 音楽
  • 金融

 

上記の各事業を担当する子会社も記載されているので、具体的なターゲットを見つけ出すことも可能です。

 

また、設備・機械等を販売する企業などでは有価証券報告書の【設備の状況】の内容なども参考になるでしょう。たとえば、ソニーの場合、「提出会社の状況」の中で、事業所・セグメント・設備の内容・帳簿価格などが記載されています。

 

A 本社(東京都港区)

セグメント:IP&S、その他、全社(共通)
設備の内容:デジタルカメラおよび電子部品等の研究設備、本社設備
帳簿価額:土地、建物・構築物、機械装置・その他の資産で71,002百万円

 

B ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング㈱ 長崎テクノロジーセンターほか (熊本県菊池郡)

セグメント:エレクトロス
設備の内容:半導体等の製造設備
帳簿価額:土地、建物・構築物、機械装置・その他の資産で317,205百万円

 

購入先を探す場合、上記の内容から自社に供給できる商品・サービスがあるのか、また供給できる能力を有するのか、について一定の評価ができるでしょう。

 

②候補として十分な販売量が期待できるか

取引ができても一定の需要量がなければビジネスとして成り立たないため、自社が期待できる販売量の有無を確認する必要があり、それには有価証券報告書の情報は有効です。

 

前述の販売先候補のところで紹介した【設備の状況】も販売量の見込みを検討する上で参考になります。たとえば、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング㈱の機械装置・その他資産の帳簿価格は249,741百万円です。この会社の設備は半導体等の製造設備であるため、半導体製造装置関連の設備・機械等で相当な需要が今後も期待できるはずです。

 

さらに有価証券報告書の【設備の新設、除却等の計画】の箇所では、各セグメントの次年度の設備投資計画金額が示されることもあります。たとえば、ソニーの2017年度のエレクトロニクス部門は「半導体を中心とした生産設備投資」として、240,000百万円を計画しているのです。

 

半導体装置以外の産業機械のほか、建物や事務機械、IT機器なども含まれている可能性もありますが、半導体装置関連だけでも相当な需要が期待できるのではないでしょうか。もちろんその他の建物や機械も同様です。

 

また、【設備の状況】の箇所には提出会社や子会社の土地の面積や従業員数も記載されているため、それらから需要が予想できる業種もあるでしょう。たとえば、パソコンなら従業員数の分だけ使用台数があると推測できます。ソニー本社の従業員数が2,403人なので2,403台のパソコンがあると想定され、買い替えのサイクルから毎年の需要を予想することもできるはずです。

 

ソフトウェアの販売やサービスを営む業種なら財務諸表の貸借対照表(B/S)のデータも参考になります。B/Sの無形固定資産の勘定にソフトウェアが記載されていれば、その事業者にとっての需要も推測できるはずです。たとえば、ソニーの2016年度のソフトウェア勘定は15,996百万円となっています。どのようなソフトウェアかは判断できませんが、販売・製造・会計など多様な分野の管理システムやセキュリティソフトなどの需要が期待できるでしょう。

 

また、連結財務諸表の注記には「資産計上したソフトウェア」の内容が示されることがあるので、これも参考となるはずです。

 

ただし、前期と比較して減少している場合には新規投資に慎重になっているケースも予想されます。

 

③融資を受ける場合の有価証券報告書の活用

金融機関は融資先の有価証券報告書に基づいた審査を行うことがあるため、融資を受ける企業の有価証券報告書の内容は重要になります。

 

金融機関が企業に融資する際の審査では、特に財務内容について厳しいチェックが入るでしょう。そのため財務状況については丁寧な説明が必要であり、悪化が一時的な場合はその理由、業績が回復できる見込みがついている場合はその点をしっかり記載しておくべきです。

 

また、財務内容以外の経営者、経営方針、事業状況(市場規模とシェア、競争優位性等)、業歴・株主構成・従業員数(構成)、資産状況などの情報も分析されます。特に金融機関において、融資先の事業の安定性や成長性は注視されているというデータもあります(平成28年度版「中小企業白書」第5章 中小企業の成長を支える金融 3 事業性評価の必要性)。

 

そのため有価証券報告書の【事業の状況】の箇所の説明は非常に重要です。【財政状態、経営成績およびキャッシュフローの状況の分析】、【生産、受注および販売の状況】、【経営方針、経営環境および対処すべき課題等】の箇所で丁寧に説明することが求められます。

 

特に中期経営計画などの進捗状況を報告する場合、重要な部分は省略せず自社の安定や成長に関わる点をアピールする形でまとめるのが良いでしょう。

 

また、将来に向けての具体的な計画を示すことも欠かせません。自社の事業を取り巻く環境を分析して、市場全体やライバル企業の動向、顧客ニーズや技術のトレンドなどを的確に捉え、その結果をもとにどのような事業戦略を計画的に進めているのか、などを端的に示すことが重要です。

 

 

 

3-3 有価証券報告書の就活面での活用

有価証券報告書は経営方針、事業概要、業績、従業員数や平均給与などの情報もあり、就職先・転職先を選定する際の重要な判断材料になります。

 

①希望の業種・事業が判断できる

ビジネス面での活用で確認したとおり、有価証券報告書には【企業の概況】の【事業の内容】の箇所でどのよう事業を営んでいるかが示されてあります。そのため有価証券報告書を見ればその企業が希望の業種や事業であるかが判断できるでしょう。

 

ソニーの場合、モバイル・コミュニケーション、ゲーム&ネットワークサービスのほか、半導体、映画、音楽、金融の事業があり、細分化された事業も記載されています。

 

また、【事業の状況】の箇所では各事業の状況が説明されているため、具体的な内容のほか業界での立ち位置や競争優位性などを把握できることもあるでしょう。

 

さらに【事業等のリスク】や【経営環境および対処すべき課題等】では事業の状況が把握できるとともに、その企業が課題やリスクをどのように把握しそれに対してどのような対策をとろうとしているのかという経営能力をみることも可能です。

 

有価証券報告書には単に事業の内容を示す情報だけでなく、どういった能力をもっているのか、どういう考え方で事業に取り組んでいるかが示されているのです。そうした情報を読み取ることで自分に適した企業かどうかの判断もできるでしょう。

 

②給与などの報酬面の情報が得られる

有価証券報告書から給与などの報酬面の情報を読み取ることができます。

 

有価証券報告書の【企業の概況】の【従業員の状況】には「提出会社の状況」として、従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与が記載されています。ソニーの2106年度の有価証券報告書には、従業員数6,185人、平均年齢43.1歳、平均勤続年数18.0年、平均年間給与9,106,527円(賞与および基準外賃金を含む)が確認できるのです(提出会社としての状況)。なお、従業員数については連結会社における各セグメント別のデータも提供されています。

 

平均年齢を見ることで比較的若者中心、中堅層主体など、どのような年齢構成や雰囲気の企業であるかが見えることもあるはずです。また、平均勤続年数では短ければ離職率の高さなどが評価できることもあるでしょう。こうしたデータを業界平均やライバル企業と比較すれば、候補企業の状況が掴めるようになるのです。

 

また、【提出会社の状況】の中で【ストックオプション制度の内容】が示されていることがあります。ストックオプションが制度化されている場合、その従業員はそれが付与されると大きな利益を手にするチャンスを得ることになります。そのためストックオプションは特別な報酬的な価値があり、就活者として【ストックオプション制度の内容】の確認は重要です。

 

なお、ストックオプションとは、事前に設定された価格で自社株を購入できる権利のことです。それを得た者はその設定された価格以上に自社株が上昇した際に権利を発動して株式を購入し、それを市場で売却することで差額の利益が得られます。

 

③成長性や安全性が判断できる

就職・転職の活動をする者にとって希望の企業の成長性や安全性の評価も重要になりますが、それに有価証券報告書が役立ちます。

 

企業の成長性や安全性の評価については、投資面の活用での「成長性や安全性を評価するためのデータを得る」で示した方法を使えばよいでしょう。

 

たとえば、成長性については売上高、売上総利益、営業利益、経常利益の数値の期間比較のほか、売上高総利益率、売上高営業利益率、売上高経常利益率などの趨勢を確認することが有効です。特に本業の儲けである売上高営業利益率がどのような伸び(率)を示すのかを確認することは欠かせません。

 

安全性については、流動比率、当座比率、固定比率、固定長期適合率、自己資本比率などの指標による分析が重要になります。また、キャッシュフロー計算書の分析(3年ほどの期間分析)による資金状態の評価も行うとよいでしょう。

 

 

4 有価証券報告書を活用する際の注意点

有価証券報告書は利用価値の高い情報が満載されていますが、それでも万能ではなく注意すべき点も少なからずあります。ここではその注意点の一部を紹介しましょう。

 

 

 

4-1 発行者は上場企業等だけ

有価証券報告書の内容を確認してビジネスに活用したいと考えた場合、その対象企業は有価証券を発行する上場企業等に限られてしまいます。つまり、それら以外の企業では有価証券報告書は発行されないため、その企業の事業内容、事業の状況や業績・財政の状態を知りたくても把握できないのです。

 

たとえば、上場していない一般の企業は決算公告を除けば詳しい財務データや営業成績などを公開するケースは多くないです。一部の企業では自社のWEBサイトに簡単なB/SやP/Lを掲載するケースあるでしょうが、有価証券報告書のように信頼性が高く、詳細な情報は期待できません。

 

 

4-2 評価・分析には一定の知識やスキルが必要

企業の成長性・安定性、株式の評価などにおいて有価証券報告書は貴重な情報源となりますが、実際に評価・分析する上では一定の知識やスキルが必要となります。

 

これまでに評価等の方法については簡単に説明してきましたが、そうした内容を理解し駆使することで有価証券報告書の有効利用ができるわけです。そのため経営分析の手法の理解と練習は欠かすことができません。また、有価証券報告書を利用の目的に合わせて、どの部分をどのように読みこなすかという訓練も重要になります。

 

有価証券報告書は100ページ以上に上る膨大な情報量を有しているため、どの項目にどういった情報があるのか、を早めに把握しておくことが効率的な活用に繋がるでしょう。

 

 


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