会社は毎年、年度末に1年間の「決算」を行います。そして、その決算に基づいて「決算書」を作成します。決算書には「開示義務」というものがあって、その内容を公表しなければなりません。公表する範囲は、会社の規模や形態によっても異なりますが、「自分の会社は規模が小さいから」「上場してないから」などの理由で、決算書を開示する必要はない、などと考えていたら大間違い。では、決算書は何のために、そして、どこまでの範囲で開示したらいいのか、わかりやすく解説していきます。
1.決算書の種類を知る
決算書の正式名称は「決算報告書」です。決算の内容を報告する書類ですから、わかりやすい名称といえます。一方で、「財務諸表」という言い方をすることもあります。この違いは法律によるものですが、名称によって内容を開示する範囲も異なります。以下にまとめてみました。
1-1 決算報告書の内容
決算報告書(決算書)
- 法律による規定……法人税法などの税法に定められている帳票
- 書類の内容……貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、勘定科目内訳明細書
- 報告や開示の対象……税務署(税金の申告)、金融機関や取引先、債権者など(与信管理)、投資家、株主など
財務諸表
- 法律による規定……金融商品取引法に定められている帳票
- 書類の内容……・貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュフロー計算書、附属明細票
- 報告や開示の対象……取引先、金融機関、投資家、株主、債権者など
計算書類(等)
- 法律による規定……会社法に定められている帳票
- 書類の内容……貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表、事業報告書、計算書類等およびその附属明細書、事業報告およびその附属明細書
- 報告や開示の対象……投資家、株主、債権者など
「財務諸表」と「計算書類等」との違いは、有価証券報告書の提出義務がある会社(上場企業など)が作成するのが財務諸表、それ以外の会社が作成するのが計算書類等です。計算書類等の「等」というのは、事業報告書と附属明細書が付いた場合の名称です。
1-2 決算書の内容
ここで、主な書類の内容を簡単に説明しておきます。
- 貸借対照表……「バランスシート(B/S)」とも呼ばれ、事業年度末における会社の資産、負債、純資産をすべて記載し、会社の財政状態を明らかにするものです。会社の財務の健全性などを見ることができます。
- 損益計算書……「P/L」とも呼ばれ、会社の1年間の売上、利益、損失といった経営成績を明らかにするものです。会社の成長性や収益性がわかるほか、最終利益は配当などの形で還元されるため、株主からも注目される書類です。
- 株主資本等変動計算書……貸借対照表の純資産の部の変動額のうち、主として株主資本にある各項目の変動事由を報告するための開示書類です。合資会社や合同会社等の場合は、「社員資本等変動計算書」という名前で作成されます。
- キャッシュフロー計算書……その名前のとおり「現金の流れ」を示すものです。具体的には、「いま、会社にいくらお金があるのか」「期初にはいくらお金があって、期末にはいくら残っているのか」「期初との期末の差額はいくらで、何にお金を使ったのか」という内容が書かれています。
以上のように、一般的に「決算書」と言われている計算書類も、法律などで名称が異なります。決算書というと、正式には税法で定められている「決算書報告書(決算書)」のことなのですが、一般的に「決算書」という場合は、キャッシュフロー計算書を含めた「財務諸表」を指して言う場合が多いようです。
キャッシュフロー計算書は、有価証券報告書を提出する上場企業などにはその作成が義務付けられていますが、中小零細企業については、作成義務はありません。しかし、貸借対照表や損益計算書からは読み取れないお金の流れがわける重要な書類です。また、近年は会計基準を「国際財務報告基準(IFRS)」に統一する動きが進んでおり、任意にキャッシュフロー計算書を作成する会社も増えているようです。
「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」の3つの計算書は、以下に説明するように、幅広く注目される重要な書類です。そのため、これらを総称して「財務三表」と言います。
2.決算書は誰に(どこに)開示するの?
決算報告書(以下、決算書)を開示する対象は、主として以下の3カ所になります。
1 税務署
税務署への決算報告書の開示は、会社の規模に関係なく、すべての企業に義務付けられています。会社は、決算から2カ月以内に、税務申告書を税務署へ提出すしなければいけません。その際、決算書も一緒に提出します。
税務署は、提出された決算書と税務申告書の内容を見て、その会社の決算内容に不備や虚偽報告がないかをチェックします。
税務申告の際に、税務申告書と一緒に提出する決算書の内容は、以下の通りです。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 株主資本等変動計算書
- 個別注記表(※)
(※)個別注記表とは、固定資産の減価償却の方法、消費税の経理処理方法などや、株主資本等変動計算書の詳細説明などを示した書類です。
2 株主
金融商品取引法の定めにより、上場企業・大会社は、決算報告書を開示しなければなりません。
上場企業が、株主に対して決算内容を報告・開示する義務があることは、よく知られています。決算書を見ることで、株主は、会社の経営が健全な状態にあるかどうかなどを判断し、健全な経営がなされていないときは、経営者に改善を求めます。では、上場していない企業の場合はどうなのでしょうか?
上場していなくても、会社法で定められている「大会社」に該当する企業は、貸借対照表と損益計算書を必ず開示しなければなりません。開示の方法は、官報や新聞に掲載する「公告」です。ここでいう「大会社」とは、最終事業年度の貸借対照表上で、資本金が5億円以上、または負債の部の計上額が200億円以上の株式会社のことです。
また、議決権比率3%以上の株主から請求があった場合も、会社は決算書を開示しなければなりません。議決権とは何でしょうか?
株主は、出資額に応じて会社の株を保有することができ、その保有する株式数に応じた権利が得られます。普通株式の場合、1株もしくは1単元ごとに1つの議決権が設定されています。
議決権比率3%以上の株主は、決算書(もしくは会計帳簿)の閲覧請求権があるほか、株主総会の招集請求権を持っているのです。
これらの開示義務に従わない場合、罰則が適用されますので、決算報告書の開示義務についてはきちんと理解をし、また大株主なども把握しておく必要があるでしょう。
3 債権者
債権者とは、その会社にお金を貸している金融機関や、買掛金の発生している取引先などです。その会社の債権者から決算書の開示を求められた場合は、その要求に従って、開示しなければなりません。
銀行などの金融機関は、決算書からその会社の返済能力を読み取り、どのくらいまでなら融資をしても大丈夫かを判断します。また、すでに融資を行っている場合も、決算書の内容によっては、返済条件を変更することもあります。
同様に取引先の場合は、決算書の内容から、今後取引を行っても大丈夫なのか、すでに取引している場合は、その取引を続けたほうがいいのかどうかといった判断をします。
3.決算書を「見たほうがいい人」「見たい人」とは?
このほか、開示の「義務」はありませんが、必ず「決算書を見たほうがいい人」、また、「決算書を見たい人」がいます、それはどんな人たちでしょうか。
1 経営者
まずは「経営者」もしくは「経営幹部」です。特に上場企業や大企業になると、社長が財務や経理の状況まで細かく把握することはできません。そこで財務や経理の担当部署が作成した貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などを見て、経営方針を決めます。
もし赤字の場合は、赤字の原因を追究し、事業の効率性やコストカットを図って、黒字化するよう努力するでしょう。また、利益が順調に伸びていたら、さらに次の投資を行い、会社をより大きく成長させる方法などを考えるでしょう。決算書は、そうした経営判断を行ううえでも重要な書類です。
2 税理士
税理士は決算書の内容をチェックして、記入漏れや計算間違いがないかなどをチェックしてくれます。また、決算書の作成に必要な日々の帳簿類の作成方法や、会計ソフトの使い方なども指導してくれます。そのため、起業を考えている人などは、会社を立ち上げたら、決算書の作成が必須になりますので、税理士に相談してみるといいでしょう。顧問契約を結んだ顧問税理士の場合は、決算書の作成を代行してくれたり、決算内容に基づいて経営のアドバイスもしてくれたりするでしょう。
3 投資家・ベンチャーキャピタルなど
上場会社の場合は、会社を成長させる資金を調達するうえで、自社の株式をたくさん買ってもらうことも重要です。株式投資は「美人コンテスト」と言われるように、その会社の人気が出て株式がたくさん買われると、株価も上がります。するとその会社の時価総額(株価×発行済み株式数)が上昇し、会社の資金も潤沢になります。
その投資家が注目しているのが、決算書です。投資家は開示された決算書を見てその会社の株式を買ったり、売ったりする判断をします。決算内容も、1年の決算でなく、四半期の決算で大きく株価が動くこともあります。例えば、第3四半期の時点で今期の営業利益が前年よりも下回るような予測が出た場合、失望売りで株価が下落したりします。
近年は金融庁のEDINET(※)で、上場企業の決算内容なども容易に検索できます。また、各社の四半期決算の内容などは、決算短信などの形で、インターネット上ですぐに配信されますので、投資家はすばやくそれらの情報を把握することができます。
(※)EDINET=金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム
このように、投資家が決算内容に注目し、その結果が株価にも大きく影響するため、経営者は決算内容に常に気を使わなければなりません。これは、会社に資金援助をしてくれるベンチャーキャピタルなどの場合も同様です。
投資家やベンチャーキャピタルは、1年間の決算の結果だけでなく、途中の四半期で利益達成までの進捗状況なども確認していますから、経営にも常に緊張感を持って取り組まなければなりません。
では最後に、上場企業などが株主に対して決算内容を開示する一連の流れを解説しておきましょう。
4.株主に対する決算開示の流れ
「決算書」は、会社の一定期間内の経営内容や、財務状態などを明らかにするために作成される書類だということは、すでに述べました。一定期間というのは、基本的には事業年度と呼ばれる1年間で、上場企業などの多くは4月1日~3月31日までを事業年度とし、3月31日を決算日としています。
3月末決算の上場企業の場合、6月末に開かれる株主総会までに1年間の決算書を作成します。これは、総会の場で、株主に対して経営内容や財務状況を知らせるためです。株式会社は基本的に株主の所有物であり、経営者はその経営を株主から任されていますので、会社の所有者である株主に対して、その報告をしなければならないのです。
上場企業の場合、近年では、株主への報告は1年だけでなく、3カ月(四半期)に一度行うのが一般的です。これが四半期決算です。四半期を「Quarter」という英語に置き換えて、例えば第一四半期の場合は「1Q」などと言うこともあります。
第1四半期決算は、まだ今期末の予測も正確には出しにくいので、まだえっ産所の内容が開示されても、それほど注目は集まりません。
第2四半期決算は、かつて「中間決算」と言われていたもので、事業年度の6カ月目に行う決算です。第2四半期決算になると、そろそろ1年間の経営成績の予測も立ってきますので、利益達成の進捗状況など、その内容開示にも注目が集まります。
さらに、第3四半期決算になってくると、かなり今期の予想も正確に出てくるため、気の早い投資家は1年の決算を待たず、この時点で、その会社の売買を判断することもあります。
このように、決算書の開示は、税務署のためだけでなく、会社を経営していくうえでとても意義が高いものになります。もちろん、開示することだけでなく、開示する決算書の内容がよくなければ、会社を成長させていくことは難しいでしょう。
その意味では、決算書を開示し、経営内容を第三者からチェックしてもらうことは、その会社の経営を強化していくうえでも重要なことと言えるでしょう。
5.自社の決算書を見る方法~上場企業編
「自分の会社の決算書を見たい!」
ビジネスパーソンなら何度かそういう思いに駆られることもあるでしょう。例えば、会社が儲かっていてボーナスがたくさん出るのか、逆に経営状態があまり良くなくてリストラが行われるのか等々。これが株式を公開している上場企業なら、実は決算書を見ることは簡単なのですが、中小企業の場合はどうなのでしょうか? はたして自分の会社の決算書を見ることができるのか、わかりやすく解説していきます。
自分の会社の決算書が見たいという人のために、まずは簡単に決算書が見られる株式会社、その中でも株式を上場している上場企業のケースを見てみます。
この場合、決算書は主に次の5つの方法で閲覧できます。
・ 決算書を閲覧する手段
① | 各社の有価証券報告書や決算短信 |
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② | EDINET |
③ | 雑誌、Web情報 |
④ | 株式情報サイト |
⑤ | 信用情報サービス |
5−1 各社の有価証券報告書や決算短信
株式会社は事業年度ごとに貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、時別注記表、事業報告および付属明細書を作成しなければなりません。そして、これらの計算書類は、監査役や取締役会の承認を経て定時総会(株主総会)に提出・報告され、株主の承認を受けます。
会社は、総会の承認を得たら、すぐに貸借対照表と損益計算書を公告しなければなりません(大会社でない場合は、貸借対照表だけで大丈夫です。ここでいう「大会社」とは、最終事業年度の貸借対照表上で、資本金が5億円以上、または負債の部の計上額が200億円以上の株式会社のことです)。このように、決算内容を世間に公表するよう、会社法で定められているため、基本的に株式会社の決算書は誰でも、もちろんその会社の社員でも見られるのです。
さらに、上場企業の場合は、有価証券報告書を作成し、公表しています。これらは各社のホームページの「IR」「株主の皆様へ」といったページを開くと、必ず最新のものが、過去のアーカイブとともに載っています。事業年度ごとの決算書だけでなく、四半期の決算も「決算短信」という形で閲覧できるようになっています。
5−2 EDINET
EDINETは、「Electronic Disclosure for Investors’ NETwork」の略称で、「金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム」のことです。もともとは、会社が有価証券報告書などの開示書類をオンライン経由で財務局に提出し、それを局側が受理するシステムでしたが、金融庁は、このEDINETを一般に公開しています。
EDINETで開示されている情報には、「有価証券報告書」のほか、「大量保有報告書」や「公開買付届出書」などがあり、ダウンロードも無料で行えます。
5−3 雑誌、Web情報
株式投資を行う投資家などの間で定番となっている投資情報誌が、東洋経済新報社の発行する『会社四季報』です。年4回、四半期決算の情報を反映して発行されます。
上場企業の基本情報、記者が取材してまとめた経営や財務の内容、貸借対照表、損益計算書のダイジェスト部分が過去数年にわたって掲載されているほか、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)などの株価指標、株価チャートなどの情報がぎっしり詰まっています。
また、『会社四季報』にはオンラインのサイト「四季報オンライン」があって、雑誌版の情報を網羅しているだけでなく、年4回の発売日の間に起こった会社の業績変化など、タイムリーな情報をそこでカバーしています。
さらに、「四季報オンライン」にはスクリーニングといって、例えば「営業利益の伸び率何%以上」「PER何倍以下」「時価総額何億円以下」といった条件を設定し、特定の企業を絞り出す機能もあります。「四季報オンライン」は使用するプランによって無料、有料があり、有料プランも料金によって情報量や、使えるコンテンツが異なります。
【四季報オンライン】
また、『会社四季報』と共に投資家の間で読まれていた雑誌に、日本経済新聞社が発行する『日経会社情報』がありましたが、こちらは現在、電子版に統合されています。
また、日経新聞が調査収集した情報が閲覧できる「日経テレコン」という情報サービスでも、決算内容などの企業情報を見ることができます。こちらは個人というより企業などが多く導入している有料サイトですが、情報量は豊富です。東京商工リサーチ、帝国データバンクをはじめとする38種類の企業情報データベースから、全国140万社以上の企業概要や、主な業績など決算情報を見ることができます。豊富な情報量から、上場企業以外の企業の情報を得ることもできます。
【日経テレコン】
5−4 株式情報サイト
無料で上場企業の情報が得られる無料のサイトが、「Yahoo! ファイナンス」や「株探(株式の銘柄探索)」です。こちらも上場企業の株価やチャート情報のほか、企業の業績など決算情報を見ることができます。また、サイト内の企業ページから、実際のその企業のIRページなどにリンクも貼られており、そこから企業の有価証券報告書や決算短信を見ることもできます。
【株探】
5−5 信用情報サービス
5−3の「日経テレコン」のところでも紹介しましたが、東京商工リサーチや帝国データバンクなどの大手信用調査会社を利用することで、自社も含めた企業の決算内容などを知ることができます。もちろん有料サービスです。
6.株式会社は決算公告の開示が必須
さて、自社の決算書を閲覧する場合、上場企業の場合は、上記のようにいくらでも方法があります。では、上場していない株式会社、あるいは、合同会社も含む中小企業の場合などは、どうすればよいのでしょうか?
実は規模の大小にかかわらず、株式会社の場合は決算公告を出さなければなりません。したがって、広告が掲載された官報や日刊新聞を見れば、決算書の内容を知ることができます。その際、有価証券報告書を提出している会社は、公告を出す必要はありません。
ちなみに官報とは、独立行政法人 国立印刷局が提供する、法令など政府情報の公的な伝達手段です。最近はインターネット版の官報もあり、直近30日分の官報情報(本紙、号外、政府調達等)に関しては、すべてPDFで、無料で閲覧することができます。
また、決算公告は、大企業の場合は貸借対照表と損益計算書を開示しなければなりませんが、中小企業は貸借対照表の開示だけでいいことになっています。ここで、貸借対照表と損益計算書の違いを見てみましょう。
- 貸借対照表……会社の財政状態を明らかにするもので、「バランスシート(B/S)」とも呼ばれます。1年間の事業年度末における会社の資産、負債、純資産をすべて記載し、会社の財務の健全性などを見ることができます。
- 損益計算書……会社の1年間の売上、利益、損失といった経営成績を明らかにするもので、「P/L」とも呼ばれます。会社の成長性や収益性がわかるほか、最終利益は配当などの形で還元されるため、株主からも注目される書類です。
つまり、中小企業の場合は、公告を見ても貸借対照表だけで、損益計算書の内容はわからないということです。したがって、貸借対照表の内容から、会社の安全性などを見ることはできますが、損益計算書の内容がなければ会社の利益、すなわち、どのくらい儲かっているのか、という情報は掴みにくくなります。
7.中小企業の社員が自社の決算書を閲覧するには?
そこで、公告以外に中小企業の社員が自社の決算書を閲覧する方法ですが、まず、先に述べましたように、東京商工リサーチや帝国データバンクなどの信用調査会社や、また、それらの調査会社の情報を網羅している「日経テレコン」などを利用すれば、有料ですが、情報を得ることは可能です。
しかし、そうした信用調査会社でもカバーしていない会社の場合はどうでしょうか? 実は残念ながら、これらの方法以外に、なかなか方法は見つかりません。また、基本的に社員は、決算書を閲覧する権限もないのです。
たとえば、「会社法」では、決算書などの計算書類を閲覧請求する権限を持つのは、「株主」や「債権者」とうたっています。とくに、議決権比率3%以上の株主から請求があった場合などは、会社は必ず決算書を開示しなければなりません。
議決権とは何でしょうか。株主は、出資額に応じて会社の株を保有することができ、その保有する株式数に応じた権利が得られます。普通株式の場合、1株もしくは1単元ごとに1つの議決権が設定されています。議決権比率3%以上の株主は、決算書(もしくは会計帳簿)の閲覧請求権があるほか、株主総会の招集請求権を持っています。
中小企業の場合は、経営者や役員が会社の株式を保有しているケースが多いでしょう。株主であり、議決権比率3%以上であれば、もちろん決算書を閲覧できますが、一社員が持株で議決権比率3%以上を保有することは極めてまれでしょう。
最後の手段として、経営者に決算書を閲覧させてほしいと頼むという方法もありますが、経営者はもちろんそれを断ることもできます。そもそも、よほど好決算の会社ならともかく、決算書を社員に見せたときには、メリットよりデメリットのほうが多いものですから、経営者もなかなか社員に決算書は見せたがらないでしょう。
8.決算書が見られなくても会社の経営状況が知りたい場合は
それでも会社の経営状態が知りたいという人は、決算書のような定量的な情報からでなく、定性的な情報から会社の経営状態を図る方法もあります。
例えば、分かりやすいのが、賞与(ボーナス)が減額されたり、出なくなったりした場合です。これは、賞与の原資となる利益剰余金が減少している、つまり、毎年の当期純利益が減少しているということですので、損益計算書を見るまでもなく、会社の収益が落ちているということが推測できます。
あるいは、メインバンク以外のいろいろな銀行担当者が出入りするようになった場合、貸借対照表上の流動負債が膨らんでメインバンクからの融資が受けられなくなり、他行から融資を受けようとしている、という状況も想定できます。
あるいは、会社の固定資産が売却された場合、その年の損益計算書には特別利益が計上されて一時的に黒字になっているかもしれませんが、会社の資産自体は減少しているので、将来的にじり貧になっていく可能性もあります。
このような客観的状況から、会社の経営状況を推し測ることはできますが、これらはあくまでも「予想」でしかありません。決算書が閲覧できる環境にある会社の社員は、実際に決算数値を見て判断するのがいいでしょう。
間違っても、仲のいい経理担当者から情報を聞き出したりしないことです。情報を聞き出した側も、漏らした経理の側も、会社規則によって罰せられることもあるでしょうし、それぞれの責務として、そうした情報漏えいは道義的に許されるものではありません。