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これだけわかれば仕事にも使える!決算書を使った経営分析のキホン

経営分析とは、決算書を読み解いて会社の経営状態を調べることです。決算書に書いてある数字から、その会社が儲かっているか、成長しているか、逆に借金が増えて経営が危機に瀕していないか、といったことを調べることができます。
プロの公認会計士やコンサルタントが行うような難しい仕事と思われがちですが、会社に勤めているビジネスパーソンや、会社の経営者にとって、無関係なものではありません。それどころか、経営分析ができるようになると、仕事をするうえで大きなプラスになるものです。今回の記事では、決算書と経営分析に関する基本知識を身に付けましょう。

 

 

1 経営分析は何のためにするの?

経営分析とは、簡単に言うと、会社が儲かっているか、これから成長しそうか、逆に借金がたくさんあって倒産の危険はないか、といった分析をすることです。

 

ところでこの場合の「会社」とは、どこの会社のことでしょうか?実際の仕事で考えた場合、こうした情報が必要になるのは、まず取引先です。たとえば、自分の会社が製品を納入している取引先が倒産したら、製品の代金を回収できなくなり、大損してしまうかもしれません。そうならないために、経営の危なそうな会社は事前に調べて、早めに代金を回収しておいたり、取り引きを早めに打ち切る必要があります。

 

逆に、営業担当者が新しい取引先を見つけるときは、伸び盛りの会社を見つけたいと考えます。そういうときも経営分析によって、売上や利益を着実に伸ばして成長している会社を探し出すことができます。

 

伸び盛りの会社を見つけたいという意味では、株式投資をしている人なども同様でしょう。成長株を、まだ株価の安いうちに買って、株価が上がってから売れば、儲けを得ることができます。

 

また、株式投資の場合は、経営が危なそうな会社の株を買わないためにやはり経営分析が必要になります。一見好調そうに見える会社の株式を買ったとしても、実は負債(借金)をたくさん抱えていて、倒産してしまうという可能性もあります。そうなると、大損してしまうことになります。

 

よその会社でなく、自分の会社の経営を分析することもあります。経営者が自社の業績がよくないときに、どこに原因があるのかを知るために経営分析が必須となるのです。

 

社員も自分の会社の経営が知りたくなることがあります。給料の遅配が続いたり、ボーナスが出なくなったりして、自分の会社は大丈夫か?と疑問を持ったときには、経営分析をしてみると、その原因がわかる場合もあります。転職するさいの判断材料にもなるでしょう。

 

もちろん、銀行など金融機関の融資担当者にとっても、融資先の経営分析は不可欠です。しかし、そういう人たちは経営分析のプロですから、ここでの説明は不要でしょう。

 

いずれにしても、経営分析は、多くのビジネスパーソンにとって必要なものでもあるのです。

 

 

2 経営分析はおもに決算書を用いて行う

経営分析に必要となるのは、決算書です。財務諸表、あるいは有価証券報告書とも言います。そこには貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書といった、経営分析に必要な書類・情報が含まれていますが、最初からこういう難しい言葉が出てくると、それだけで嫌になってしまう人も多いでしょう。

 

そこでまずは頭の体操です。会社の数字ではなく、あるパン屋さんの経営に関する数字にたとえて考えてみます。あなた自身がパン屋さんのオーナーだという設定で考えてみてください。パンをたくさん売って儲けるためには、どうしたらいいでしょうか。

 

答えは簡単、「できるだけたくさん売る」ことです。200円のパンが1日100個売れたら、2万円のお金が入ってきます。これが1日の「売上高」です。1カ月に25日間営業したら、月に50万、年間で600万円の売上になります。

 

ただし、600万円のお金が、まるまる自分のものになるわけではありませんよね。まず、パンを作る小麦粉などの「材料費」がかかります。それに、自分1人で店を経営するのは大変ですから、アルバイトも雇います。そのバイトさんの給料も払わないといけません。さらに店舗のスペースを借りていたら、その賃貸料も払わないといけません。それらの経費を差し引いて、残ったお金が「利益」になります。

 

この「利益」から、最終的には税金が引かれたりするわけですが、そうして最終的に残ったお金が、自分の自由にできるお金です。

 

ただ、ここで考えなければいけないのは、パン屋を始めようと思った人が、いきなり明日から開店できるわけではないということです。パンを焼く窯をはじめ、さまざまな道具が必要となりますし、パンを並べる棚、会計用のレジなどもそろえなければいけません。また、最初に店に出すパンを焼くための材料費も払わなければなりません。

 

これらの調理設備や材料をそろえるのも、タダではありません。自分で資金を持っていればいいですが、足りない場合は銀行からお金を借りることもあります。つまり、パン屋を始めるにしても、最初はマイナスからのスタートになるわけです。言い換えれば、借金からのスタートです。

 

借金があっても、最終的に利益がその借金より多ければ、すぐに返済して借金はなくなります。しかし、あまり利益が出なかったり、そもそも利益が出なくて赤字続きだったりしたら、借金は減らないどころか、利息でどんどん増えていきます。

 

たとえば、あなた自身が、このパン屋に小麦を売っている会社の経営者だったら、借金がなかなか減らないパン屋と商売を続けたいと思うでしょうか。数あるパン屋の中で、どうせ取り引きするなら、借金もちゃんと返済して、儲かっているパン屋と取り引きしたいと思うでしょう。

 

儲かっているパン屋と取り引きしていれば、今後の取り引きがもっと増える可能性も広がります。逆に儲かっていないパン屋と取り引きしても、取り引きが広がる可能性は低いですし、もし倒産してしまったら、納品した小麦の代金も回収できなくなってしまうかもしれません。

 

補足ですが、ビジネスでの取り引きは、「後払い」が一般的です。スーパーで買い物をしたときのように、商品を買う代わりに代金をその場で払う、というケースは稀と言っていいでしょう。後払いは、飲み屋のツケのようなものですが、これを会計用語で「掛け」と言います。ある会社が取引先にモノを売ったら、それは「売掛」(うりかけ)となります。逆にモノを買ったら、「買掛」(かいかけ)となります。自社に取っては「買掛」がツケ、すなわち、あとあと支払わなければならない「借金」ということになります。

 

パン屋の場合も、先に小麦を仕入れて、代金は後日支払うことになります。毎月仕入れて、翌月に支払いをするというような形で、継続的に支払いが発生していきますから、銀行の利息と同じようなものです。つまり、必ず払わなければいけないお金なので、これも一種の「借金」ということです。

 

こうしてみると、パン屋を経営していくためには、常に借金が発生しているわけです。その借金を返していくためには、どんどん利益を増やしていかなければなりません。順調に利益が出れば、借金は返せますが、利益が出なかったり、逆に赤字続きになっていったりしたら、借金は減らないどころかどんどん増えていきます。そして、行き着く先は廃業、会社で言えば、「倒産」です。

 

ここではパン屋を会社に見立てて説明しましたが、経営分析とは、簡単に言えば、このように会社の「借金」の状態を見ていくことです。順調に利益を出して、借金をちゃんと返している会社は「安全」ですから、取り引きしても安心します。

 

さらに、借金を返済しても余りある利益を出している会社は、その余ったお金を使って事業を拡大していきます。パン屋で言えば、人気のあるパン屋は、もっとたくさんパンを焼いて売るために、小麦もたくさん仕入れます。そうすれば、小麦の納入業者も喜んで取り引きするでしょう。

 

借金が返せず、どんどん膨らんでいく会社と、借金をきちんと返済して成長していく会社。どちらと商売をしたいかと言えば、当然成長していく会社でしょう。その両者をどうやって見極めるかというときに、決算書が大変役立つのです。

 

 

3 決算書を理解する4つのポイント

決算書を使って経営分析を行うさいに、何を見ていけばいいでしょうか。ポイントは、大きく分けて4つあります。①安全性、②成長性、③収益性、④効率性です。

 

安全性 借金がないか、倒産の心配がないか
成長性 事業が拡大しているか
収益性 収益が伸びているか
効率性 費用対効果はどうか

 

①の「安全性」は、借金がきちんと返せていて、倒産の心配がない会社かどうかということです。借金の額と、それを十分に返せる利益が出ているか、もしくはその資金があるかを見ていきます。

 

②の「成長性」は、事業を順調に拡大しているかということで、基本的には売上高の推移を見ます。売上が順調に伸びていれば、お金は入って来ますから、借金は返していけますし、利益も出ているものと推測できます。

 

③の「収益性」は、借金を返したうえで、さらに利益も順調に伸びているかどうかという点を見ます。収益性が確かであれば、借金も順調に返せますので、安全性も確保されます。また、利益が増えていけば、新たに設備を増やしたり、人を雇って事業を拡大したりすることもできますから、成長も期待できます。

 

④の「効率性」は、どれだけのお金を投入して売上や利益を上げているかを見るものです。たくさん利益を上げていても、そのためにたくさんお金をかけていたら意味がありません。少ないお金でたくさん稼ぐ、いわゆる「コスパ」のいい経営をしているかどうかを見るものです。

 

では、これらの指標は、どんなときに使うものなのでしょうか。

 

たとえば、あなたが製粉会社の営業担当者で、自分の会社で製粉している小麦を売るパン屋を探していたとします。そのとき、次の会社のどちらを選びますか?

 

  • A:評判があまり良くなく、借金がたくさんあって経営が苦しそうなパン屋
  • B:評判が良くて、売上も利益もたくさん上げて、事業を拡大してどんどん支店を出して成長しているパン屋

 

ふつうに考えれば、Bのパン屋を選ぶでしょう。なぜなら、Bのほうが安全性、収益性、成長性の面において、Aよりも優れているからです。成長しているパン屋と取り引きを続けていけば、今後も小麦もたくさん買ってもらえますから、自分の会社の売上げが増えます。また、利益がたくさん出ていれば、借金も返せますから、経営的にも安心です。倒産して、小麦の代金が回収できなくなるという危険性も少なくなるわけです。このように、安全な取引先を見つけるときの判断材料になります。

 

これらの指標は、会社の決算書から読み取ります。決算書は、財務諸表ともいいます。上記の4つのポイントの中で、基本的に①は貸借対照表(バランスシート:BS)、②と③は損益計算書(プロフィット・アンド・ロス・ステートメント:PL)、④は貸借対照表と損益計算書の両方を見ます。

 

貸借対照表、損益計算書という言葉が出てきましたので、それぞれの用語の意味と役割について分かりやすく説明していきます。

 

 

4 貸借対照表で見る「借金」の状態

貸借対照表(BS)、損益計算書(PL)は、決算書を構成する計算書類の一部です。あるいは、BS、PLをそれぞれ決算書ということもあります。このほか決算書には、キャッシュフロー計算書(CF)や株主資本等変動計算書といった書類もありますが、これらの説明は「9 キャッシュフロー計算書の役割」以降で行います。

 

貸借対照表は、会社の資産の状態を見る決算書と言われます。左側に、現金や社屋、土地など、会社が持っている資産の内訳が書いてあります。これを「資産の部」と言います。右側は、それらの資産をどのように調達したかという内容が書いてあります。さらに右側は上下に分かれていて、上が銀行などから借りたお金で「負債の部」と言います。また、下が自ら調達したお金になっていて、これを「純資産の部」と言います。

 

借方 貸方
資産の部
(現金や社屋、土地など、会社が持っている資産)
負債の部
(銀行などから借りたお金)
純資産の部
(自ら調達したお金)

 

もしわかりにくければ、「資産の部」は自分の持ち物のリストとして考えるといいでしょう。「負債の部」は借金のリスト、「純資産の部」は、それらを差し引いて最終的に残った自分のものです。

 

右側は「貸方」、左側は「借方」とも言われますが、覚えにくければ「左側(借りる方)は、右側(貸す方)からお金を借りて、お金やモノ、人を調達する」というような感じで、覚えておくといいでしょう。

 

たとえば、パン屋の例で言えば、左側にパンを焼くための窯が「資産」として記入された場合、その窯を購入するために銀行から借りたお金の金額が、右側の「負債の部」に記録されます。この時点で窯の価値と借りたお金の価値は同じですから、金額的には右側と左側が同じになります。左右のバランスが取れていることから、「バランスシート」とも呼ばれています。

 

また、この店を開店するさい、自分の貯金を使って棚やレジなどの備品を購入したとします。備品の金額は左側に記入され、それらの購入に使ったお金は右側の「純資産の部」に記録されます。このときには自分のお金を使っていますから、借金ではありません。

 

この、「(銀行などから)借りたお金」と、「(貯金など)自分のお金」は、貸方の中でも区別しています。貸方を上下に2分割して、借りたお金は上に、自分のお金は下に記入します。上側を「負債の部」、下側を「純資産の部」と言います。簡単に言えば、上が「借金」で、下が「自分のお金」です。

 

借金は少ないに越したことはありませんから、基本的には「負債の部」と「純資産の部」を比べた場合、「負債の部」が少ないほうが望ましいでしょう。借金が多すぎる会社は「危険」ですから、この「負債の部」と「純資産の部」の比率は、会社の「安全性(危険性)」を見るための重要な指標になります。

 

「負債の部」と「純資産の部」の比率から安全性を見る指標を自己資本比率と言います。自己資本比率は、決算書から安全性を調べるうえでよく用いられる指標で、次の式から求めることができます。

 

自己資本比率=(純資産÷総資産)×100

 

ここで言う「総資産」とは、負債の部と純資産の部の合計です。つまり、貸借対照表の右側(貸方)の合計です。

 

ただ、実際には、会社の多くは銀行からの借り入れが多いため、「借金」のほうが「自分のお金」よりも多くなっています。そのため、自己資本比率が50%を下回る(「借金」のほうが「自分のお金」より多い)状態の会社が大半を占めます。

 

自己資本比率が50%以下でも、その中の多くは借金を順調に返済できている会社ですので、それだけでは問題にはなりません。一般的には、自己資本比率は40%くらいまでは安全と言われています。また、自己資本比率が40%くらいでも、売上や利益が順調に増えている会社なら、返済に困る心配も少ないでしょう。場合によっては、その会社がさらに飛躍するために、借り入れを増やして巨額の投資を考えている可能性もあります。

 

一方で、自己資本比率が10%を下回るような会社や、そこに至るまでに自己資本比率が年々減少している会社は、借金が返済できずにどんどん増えている会社で、「危険」という可能性が高まります。

 

このほか、たとえば短期的に返済しなければならない負債(流動負債)が多い場合は注意が必要です。返済や支払いができず、場合によっては手形の不渡りなどで倒産してしまうこともあるからです。そのためには、現金や有価証券など、短期で現金化できる資産(流動資産)が十分にあることが必要です。これを「流動比率」と言います。

 

流動比率=流動資産÷流動負債×100

 

このように、会社の「安全性」、つまり借金の状態は、おもに貸借対照表から見ることができます。経営分析は、会社の「借金」の状態を見ることだと説明しました。借金がどのくらいあるか、借金をちゃんと返せているかということは、貸借対照表に書いてあります。その意味では、経営分析はまず貸借対照表から見ていきます。

 

 

5 損益計算書は売上、収益を記録する決算書

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経営分析でおもに貸借対照表を見るとしたら、損益計算書は必要ないかと言えば、そんなことはありません。

 

損益計算書は、その年の会社に会社がどれだけ儲かったか、そのためにどれだけのお金を使ったか、ということを見ていく計算書類です。ですから、貸借対照表に記録された借金が、どのように発生したかということがわかるようになっています。

 

また、貸借対照表は、「成長性」「収益性」を見るうえでも重要な指標です。貸借対照表には、会社の売上や利益が記録されますが、売上や利益を数年間並べてみると、その会社が成長しているかということが分かります。

 

利益と借金の関係を、パン屋の例を使って、もう少し詳しく見ていきましょう。あくまでも流れを説明するための大ざっぱな例ですので、会計上の細かい項目は無視していきます。

 

まず、年間600円の「売上高」がありました。そこからまず、材料費を引いていきましょう。小麦粉や砂糖など、パンを作るのに必要な材料が1カ月に5万円だとします。年間で60万円ですから、売上高からその材料費を引くと、540万円が残ります。これを「粗利」と言います。決算書では、「売上総利益」という言い方をします。

 

次に、アルバイトの給料が月20万円だとします。年間で240万円。これを540万円の粗利から引くと、300万円です。粗利から給料などを引いて残った利益を「営業利益」と言います。

 

さらにそこから、銀行から借りた借金の利息などを払って、270万円が残ったとします。この270万円は、「経常利益」と言います。そこから税金などを払って、最終的に残った利益がだいたい250万円だとしたら、その250万円は最終利益となります。

 

最終利益は当期純利益と呼ばれます。当期というのは、この売上や利益が発生した直近1年間のことです。この当期純利益は「自分のお金」ですから、貸借対照表の純資産の部に組み入れることができます。これを利益剰余金といいます(その場合、250万円の現金は、借方の「現金・預金」という項目に組み入れ、左右のバランスを取ります)。

 

最終利益が毎年順調に伸びて、利益剰余金が増えていくと、経営的には安定しますが、ただ利益を蓄積しているだけではいけません。次の成長のために新たな投資をしたり、出資してくれた株主に還元して、新たな株主を増やすことも大切です。利益をこのように再利用していくことの繰り返しによって、会社は持続的に成長していくのです。

 

 

6 損益計算書で会社の成長性を見る

こうした流れを把握したうえで、まず損益計算書から、会社の「成長性」を見てみましょう。

 

成長性は、おもに売上高で見ます。「売上高が高くても、経費がたくさんかかったら、成長しているとは言えないじゃないか」と言われそうですが、まずは売上をどんどん伸ばしていかなければ利益も増えませんし、会社や店も大きくなっていきません。

 

売上高も、1年間だけでなく、数年にわたって売上が伸びているかを見ていくといいでしょう。パン屋の売り上げが年々伸びていたら、客の評判が良く、パンがたくさん売れているということが考えられます。

 

逆に売上が伸びていなかったり、逆に下がっていたりしたら、その原因を考えなければなりません。売っているパンが客から飽きられてしまったのか、近くにもっと人気のあるパン屋ができて、客をそちらに取られてしまったのかなど、いろいろな要因が考えられます。

 

売上低迷の原因がわかれば、対策を立てることができます。たとえば、パンの種類を変えてみたり、宣伝に力を入れたりすることで、またパンが売れるようになり売上が改善することもあるでしょう。このように、売上高という項目一つを分析するだけで、経営の立て直しにつながるのです。

 

売上高だけでなく、売上総利益(粗利)や営業利益、経常利益の成長率をもって「成長性」という場合もあります。これらの利益も順調に成長しているに越したことはありませんが、伸びていない場合、あるいは減少している場合は、その原因を考える必要があります。

 

たとえばパン屋の場合、原材料の小麦の値段が上がってしまったら、粗利(売上総利益)は減ります。その場合は、もっと安く小麦を納入してくれる業者を探すなどの対策も必要でしょう。

 

また、店が繁盛してバイトを増やしたら、その分給料の支払いが増えて、営業利益が減ります。しかし、これは決して悪いことばかりとは言えません。店が繁盛しているということは、売上が伸びているということですから、営業利益の減少は売上の伸びで相殺されるか、場合によってはプラスになることもあります。

 

基本的には、「成長性」を見ていく場合には、損益計算書上の売上高や利益が着実に伸びていることが望ましいと言えるでしょう。

 

 

7 損益計算書で会社の収益性を見る

損益計算書で「収益性」を見るさいには、単に営業利益や経常利益の数字を見ても、経営分析には役立ちません。

 

そこで大事なのは、「比較」をするということです。たとえば同業他社で、同じくらいの規模の会社と比較して、その会社の利益が多いのか、少ないのかを見ます。

 

同じ規模とはいえ、資本金や従業員数など、どうしても違いは出てきますから、利益の数字を比較しやすいように加工します。たとえば、売上高に対してどのくらいの営業利益を出しているかという数字を出す場合は、以下の式から「売上高営業利益率」という指標を出します。

 

売上高営業利益率=営業利益÷売上高×100(%)

 

営業利益は、「本業の儲け」などとも言われますが、たとえばパン屋であれば、純粋に材料を買って、パンを作って売って得た利益です。そこで「売上高営業利益率」を出して他のパン屋と比較すれば、どちらのパン屋の商売が儲かっているか、ということがわかります。

 

同じように、売上総利益(粗利)や、経常利益なども、売上高と比較して「加工」することが可能です。

 

売上高売上総利益率(粗利率)=売上総利益÷売上高×100(%)
売上高経常利益率=経常利益÷売上高×100(%)

 

売上高売上総利益率(粗利率)は、会社が提供する商品やサービスの競争力を示す指標、売上高経常利益率は、会社の本業に加え、金利の返済などを済ませた後の、総合的な収益力を示す指標などと言われています。

 

 

8 損益計算書と貸借対照表で会社の効率性を見る

最後に、「効率性」を見る経営分析の方法です。これは損益計算書と貸借対照表の両方を使って分析します。

 

効率性とは、いかに会社の資産を有効に使って売上や利益を上げているかということを見る指標です。たとえば代表的な指標に、総資産回転率があります。これは、いかに少ない資本で多くの売上を出しているかを見る指標で、以下の式から求めることができます。

 

総資産回転率=売上高÷総資本×100

 

売上高は損益計算書から、総資産は損益計算書から抽出します。

 

「回転」という表現がわかりにくいかもしれませんが、これは資本を調達して、運用したときを「1回転」とします。売上が総資産の何倍かということを見れば、総資本が何回転して売上を生み出したのかがわかります。回転数が多いほうが、少ない資産で多くの売上を上げていることになり、資産を効率的に使っていることになります。100万円の資本で300万円の売上を上げたパン屋と、200万円の売上を上げたパン屋では、300万円の売上を挙げたパン屋のほうが「効率的」だということです。

 

効率性を見る指標としては、ほかにも総資産経常利益率や、棚卸資産回転率などがあります。棚卸資産回転率は、商品の在庫など、棚卸資産をどれだけ有効活用して売上高を計上したかを示す指標です。

 

また、株式投資をやっている人がよく使う「効率性」の指標に、ROE(自己資本利益率)とROA(総資産利益率)があります。これらは「効率性」と同時に、「収益性」を見る指標でもあります。

 

ROE(自己資本純利益率)=当期純利益÷自己資本
ROA(総資本利益率)=当期純利益÷総資産

 

ROEは、自己資本、つまり自分の(会社の)お金を使ってどれだけの利益を上げているかを見る指標です。また、ROAは、自己資本だけでなく他人資本、つまり借金も含めたお金を使って、どれだけの利益を上げているかを見る指標です(総資産=自己資本+他人資本=総資本)。

 

この場合、ROEは自分の会社のお金を使って得た利益です。株式会社で言うと、自分のお金=株主のお金です。一方、ROAは自分のお金に加えて、銀行などから借りた他人のお金も使って得た利益です。

 

たとえば、総資産10億円のA社と、総資産5億円のB社、C社があったとします。この3社が同じ1億円の当期純利益をあげていたら、A社よりB社・C社のほうがROAが高く、効率的な経営をしていると言えます。

 

A社=1÷10=10%
B社・C社=1÷5=20%

 

さらに、B社の5億円の総資産のうち自己資本が4億、他人資本が1億だったとします。一方、C社の場合は、自己資本が2億、他人資本が3億だったとします。そうなると、ROAが同じ2社でも、C社のほうがROEの数値は高くなります。

 

B社=1÷4=25%
C社=1÷2=50%

 

つまり、ROAと当期純利益が同じでも、株主の少ないお金でたくさんの利益を上げているのは、C社ということになります。そのため、株主は、ROEの数値が高い、C社のほうを好みます。

 

もちろん、他人資本は負債、すなわち借金ですから、あまりに他人資本が多い会社は自己資本比率が低くなりますが、借金をしても、それで余りある利益を上げている会社なら、評価できるということです。

 

 

9 キャッシュフロー計算書の役割

決算書には、貸借対照表、損益計算書のほかに、キャッシュフロー計算書というものがあります。これも経営分析には非常に役立つ決算書類の一つです。

 

簡単に言うと、キャッシュフロー計算書には、「いま、金庫の中にいくらお金があるのか」「1年前はいくらあったのか」「何にお金を使ったのか」という内容が書かれています。

 

キャッシュフロー計算書は、「営業活動からのキャッシュフロー」「投資活動からのキャッシュフロー」「財務活動からのキャッシュフロー」の3つのブロックで記録されています。

 

たとえば、「営業活動からのキャッシュフロー」は、パン屋の例で言えば、1年間パンを売って得た最終利益です。上の例で言えば、税引前の270万円がこの項目に入ります。したがって、「営業活動からのキャッシュフロー」が赤字の会社などは、本業から得るお金が少ないということが予想できますので、注意が必要です。

 

また、「財務活動からのキャッシュフロー」が多い会社は、本業の儲けから入ってくるお金が少なくて経営が苦しいため、銀行からお金を借りて、なんとかやりくりをしていると推測できます。ただし、本業が好調でも「財務活動からのキャッシュフロー」が増えている会社の中には、将来に向けて設備投資などに巨額の資金を投入しようとしている可能性もありますから、そのあたりは細かく見ていく必要があります。

 

また、会社が自由に使えるお金がどのくらいあるかを示す「フリー・キャッシュフロー」という指標があります。これは、おおむね「営業活動からのキャッシュフロー」と「投資活動からのキャッシュフロー」を合わせたものになります。会社の最良で自由に使えるお金なので、こうしたお金が潤沢にある会社は、借金の返済にも余裕があるという見方もできます。

 

また、決算書には、このほか「株主資本等変動計算書」というものがあります。会社の純資産がどのように変動したかを示すものですが、ここでは細かい説明は省略します。

 

 

10 経営分析指標のまとめ

財務分析の方法として、決算書を使った①安全性、②成長性、③収益性、④効率性の4つのポイントを挙げてきましたが、最後に、損益計算書と貸借対照表を使った経営分析の基本をおさらいしておきます。

 

【損益計算書】

①売上高・・・・・・売上が年々増えていることが基本。

 

②売上総利益(粗利)・・・・・・①が高いのにこの利益が少ない場合は、原材料費など仕入の値段が高すぎるということ。原価の見直しなどを考える必要がある。売上総利益が赤字という会社はめったにないが、もし赤字の場合は、事業そのものを見直した方がいい。

 

③営業利益・・・・・・②が高いのにこの利益が少ない場合は、人件費などの固定費が大きいということ。赤字が続く場合は、リストラなどを検討する必要がある。

 

④経常利益・・・・・・③が高いのにこの利益が少ない場合は、支払い利息などの金利が負担になっている場合などが考えられる。

 

⑤当期純利益・・・・・・当期純利益は、④の経常利益が赤字でも黒字になっていることがある。これは、たとえば不動産などを販売して得た利益がその年に計上された場合など。特殊要因となるので、単年度だけでなく、数年間の推移を見比べる必要がある。基本的に、粗利益も赤字が続いている場合は、手元の資金がどんどん減っていくということなので、注意が必要。

 

【貸借対照表】

①資産の部、負債の部、純資産の部のバランスを見る。自己資本は「純資産の部」にあるが、その自己資本を総資産と比べたときの比率(自己資本比率)が低すぎないことがポイント。

 

②負債の部の中身を見て、流動比率などを分析し、「安全性」をチェック。また、経常利益が少ない、もしくは赤字の場合は、有利子負債(短期・長期借入金など)の内容なども確認する。

 

【キャッシュフロー計算書】

①「営業活動からのキャッシュフロー」がマイナスの会社は要注意。

 

②「営業活動からのキャッシュフロー」がマイナスで、「財務活動からのキャッシュフロー」がプラスの会社は、本業が儲からず、借り入れでまかなっている可能性がある。

 

③フリー・キャッシュフローが潤沢な会社は、返済余力があることを意味する。

 

【経営分析に使う指標の例】

●自己資本比率、流動比率/「安全性」を見る指標

自己資本比率=(純資産÷総資産)×100
流動比率=流動資産÷流動負債×100

 

●売上高伸び率/「成長性」を見る指標

(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100

 

●売上高営業利益率/「収益性」を見る指標

営業利益÷売上高×100(%)

 

●総資産回転率/「効率性」を見る指標

売上高÷総資本×100

 

●ROE、ROA/「効率性」「収益性」を見る指標

ROE(自己資本利益率)=当期純利益÷自己資本
ROA(総資産利益率)=当期純利益÷総資産

 

ここに紹介した指標は一部です。このほかにも、「安全性」「成長性」「収益性」「効率性」を調べる指標はたくさんあります。

 

また、指標はあくまでも目安であるということを覚えておきましょう。たとえば、「成長性」を見る場合、会社も人間と同じように、大きく成長する時期があり、そのときは売上高や利益が大きく伸びます。独自技術を持つベンチャー企業などが急成長するのは、そのためです。

 

しかし、年を経て成熟してある程度規模が大きくなってくると、成長が緩やかになり売上高や利益も急激には伸び悩みます。だからといって、成熟期に入った企業が優良ではないかと言えば、むしろ逆です。トヨタ自動車やソニー、新日本製鐵などの大企業を見ればわかるように、売上高の伸びは緩やかになっても、着実に成長は続けています。

 

したがって経営分析の指標も、そのまま鵜呑みにするのではなく、さまざまな要素を踏まえて活用していくのがいいでしょう。そのために必要な「定性分析」の方法を、最後に紹介していきます。

 

 

11 定量分析と定性分析

ここまで紹介してきたのは、経営分析の「定量的分析」というものです。経営分析には、このほかに「定性的な分析」というものもあります。

 

たとえば、またパン屋の例を上げますが、そのパン屋が繁盛しているかどうかということは、決算書の数字を見るより、実際にそのパン屋に行ってみて、場合によっては自分でそのパンを食べてみたほうが、よくわかることもあります。

 

客がたくさん入っていて、パンの味も良く、店はきれいで、店員の接客も気持ちいい、という店であれば、今後も伸びていく可能性は大いにあります。製粉会社の経営者も、そういうパン屋であれば、ぜひ取り引きしたいという気持ちになるでしょう。

 

このように、実際の会社の業務内容を、実際に脚を運び、自分の目で見ることも大切です。パン屋に限らず、たとえば東京ディズニーリゾートに行ってみて、自分でその楽しさを体験してみてはいかがでしょう。東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドの売上高は、2016年度が約4654億円、2017年度が約4777億円であり、好調であることがわかります。しかし、数字と合わせて実際の自分の体験を経営分析に加えると、より正確な分析も可能になります。

 

このように、定性的に見る分析は、時に決算書の数字よりも信憑性がある場合があります。銀行の融資担当者なども、実際は融資先の会社の社長に会ったり、向上を見学したりして、融資の可否を決めると言います。そのときは、おもに以下のようなことを注意します。

 

●市場の動向

  • その会社がある業界のそのものの市場規模や市場動向。成長市場にある業界ならいいが、衰退市場にある業界では、検討が必要である。
  • 競合との競争が過当競争になっていないか。過当競争になっている場合は、その競争に勝てる特殊要因や技術があるかを見る。

 

●会社の状況

  • おもな取引先を見る。有力な取引先とビジネスをしている会社なら信用できる
  • 業界内でのシェアを見る。業界そのものが成長しており、シェアトップであれば問題はない。
  • その会社ならではの強みがあるか。優れた技術、オンリーワンの技術や、販売力などがあるかどうかを見る。
  • 会社の創業年を見る。歴史の長い会社は、伝統がある半面、進化に対応できていない場合もあるので、そのあたりに注目する。
  • 経営者の理念やカリスマ性を見る。理念が社内に浸透している会社は、経営の方向性にブレがないので強い。ただし、あまり高齢の経営者の場合は、後継者がいるかどうか、その後継者の資質はどうかなどもチェックする。
  • 従業員の平均年齢を見る。平均年齢が高い会社は、固定費がかかるだけでなく、新陳代謝が行われず保守的だったり、新しい市場の変化に対応しにくいという場合がある。
  • 社内のモラルを見る。成長している会社は、社員のモチベーションも高く、伸び盛りであることが多い。

 

これらの条件は、同業他社の数社と比べてみると、より正確に実態が把握できるでしょう。たとえば、同じ業界の中で、1社だけ突出して社員の平均年齢が高い会社などは、社員の経験を重視しているのか、単に世代交代が行われていないだけなのか、見極める必要があります。

 

これらの条件の中で、たとえば新技術や新製品の開発などの情報は、ニュースや新聞などから収集することができます。また、会社の有価証券報告書(決算書)にもそういう情報は掲載されています。しかし、そういう情報は、いわば誰でも入手できる情報です。それらの二次情報を見て、営業担当者が新規の取引を申し込みに行っても、すでにその時点で出遅れていて、他社に先を越されてしまった、というケースも少なくありません。

 

これは、株式投資にたとえてみれば、わかりやすいと思います。ある会社が新技術を開発したなどというニュースを聞き、その会社の株式を買おうとしても、すでに株価は手の届かない金額まで値上がりしてしまうということもよくあります。投資家は、常にこれから成長する銘柄を探していますから、ニュースで報道される二次情報などは、すでに遅いのです。

 

まだ公表されていない会社の情報を入手するのは難しいことですし、へたに内部の人脈から聞き出した情報を元に投資を行ったりしたら、インサイダー取引に問われる場合もあります。

 

そこで、たとえば新技術、新製品の情報を知りたい場合は、決算書の貸借対照表にある「研究開発費」や、キャッシュフロー計算書の「投資キャッシュフロー」という項目から推測することはできます。研究開発や投資の目的までは分からなくても、その会社が何かをやろうとしていることは読み取れます。このように、決算書は「過去」のデータの集積ですが、それを細かく読み解くことで、会社の「将来」を想像することもできるのです。

 

また、定性分析だけでは分からないこともあります。たとえば、風評被害で一時期売上が大きく減少したマクドナルド(日本マクドナルドホールディングス)の場合、2015年度に約1895億円まで落ち込んだ売上(前年度は約2223億円)も、2017年度には約2536億円まで回復しています。ニュースの報道などでは、当面経営の立て直しは難しいかと思われましたが、その後経営を立て直し、根強い「マックファン」にも支えられて、業績を回復したのです。

 

したがって、経営分析を行うさいには、定量・定性、どちらかのデータに偏らないことが大切です。分析は、基本的に決算書ベースで行いますが、定性的な分析も組み合わせることで、より精度の高い分析ができるということも覚えておきましょう。

 

 


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