近年、サラリーマンとして1つの業務を行うだけでなく、複数の仕事を行う「複業」が注目されています。サラリーマンが複業を行う上では、サラリーマンに向いた複業を選ぶこと、複業に関する様々な注意点を踏まえて取り組むことが大切です。
今回は、サラリーマンが複業をする上で大切な要素をまとめ、重要点を踏まえた上でおすすめの複業・注意点などを解説していきますので、ご参考ください。
1 サラリーマンに今おすすめの複業と注意点は?
まず、サラリーマン(公務員)が複業を考える上で重要なのは、「職務規程で複業が禁止されていないか?」という点です。
特に公務員は複業に関する規定が厳しいです。兼業での農業従事や、アパートなどの不動産経営、実家の手伝いなど選択肢が限られ(かつ、認められるかどうかはケースバイケースで、勝手に行うと懲戒になる可能性もありうる)ますので、複業を行うことに関しては特に慎重に考えた方がよいでしょう。
なお、公務員が組織外で活動を行う場合、無報酬であればOKというケースもあります。しかし、サラリーマン・公務員を問わず、複業を検討する理由としては、収入アップが目的という方が多いと思われます。
また、サラリーマンの場合も、職務規程で複業が禁止されていないか、事前許可を必要としていないかなどに関して、注意深く確認する必要があります。
近年、働き方改革や大企業での複業解禁の流れもあり、複業が認められる会社も増えてきました。一方で「自社の職務に専念して欲しい」と複業を禁止している会社もあります。
そのため、まず自社が複業を認めているか、届出の必要はあるかなどを確認することに加え、「建前だけでなく、本当に複業をしても大丈夫か」という空気感を図ることをおすすめします。その上で、複業を行っても問題ないとわかって初めて、複業を検討するのがよいでしょう。
1-1 サラリーマンが複業を行う上で、まず意識すべきこと
サラリーマンが複業を行う上で、まず意識すべきことは、「その複業は、時間の切り売りや、本業にマイナスになる仕事、様々な意味で問題のある複業ではないか?」という点です。
具体的には、
- ・コンビニバイト・軽作業・ファストフード・チェーン店などでのいわゆる単純労働のアルバイトで、「ただお金をもらうためだけの仕事」(現在のコンビニのバイトは高度化・重労働化しているといわれますが・・)
- ・会社の職務規程、公序良俗などに触れる、もしくは反する仕事
- ・本業と関連性がなく、学びもない業務
は避けた方がよいと言えます。
つまり、時間や自分の「切り売り」になっていないかという点をまず意識することが重要といえます。
もちろん、オフィスワークばかりで体を動かしたいから軽作業の複業をする、コンビニの流通の仕組みを中から学びたいから、あえてコンビニで働いてみる、というのは否定しません。
ただ、本業や将来やりたいこととリンクしない、替わりはいくらでもいるんだ、といういわゆる「代替可能」な仕事を複業としてしまうと、何年たっても、時間の切り売りが続いてしまいます。
20代の若いうちはいいですが、30代を超えてコンビニや配送のアルバイト、チェーン店のバイトを複業でやるのは、体力面を始め、様々な意味でしんどいといえますし、そもそも複業が原因で本業に支障がでては本末転倒です。
また、お金を稼ぐという面では、「株式(信用取引含む)・FX・暗号資産(仮想通貨)取引・先物取引」などもあります。
余裕がある部分での現物の株式投資であればいいですが、信用取引・FX・暗号資産取引・先物取引など、うまくいけば儲けもあるが、うまくいかないと大きなマイナスを抱えるという投資・投機を行うと、本業の最中にも値動きが気になりますし、万一各種取引で大きなマイナスが出た場合、損失や、レバレッジのかけ方によっては財産を失う恐れもあります。
また、投資の利益に対する税金は翌年(住民税などは翌々年)にかかってきますので、ある年に大きい利益を出しても、翌年に大きな損失を出すと、税金が払えなくなるというおそれもあります。この場合でも、税金の支払い義務は残りますし、大きな延滞税も加わってきます。
また、投資・投機で怖いのが、借金をしてのめり込んでしまうことです。
信用取引・FX・暗号資産取引などで作った負債は、自己破産でも免責されないケースがあります。(ただし、一部免責や、諸事情を考えて免責となるケースもあります)
そして、破産で借金分については免責がおりても、税金の支払いに関しては義務が残ります。
このような意味から、信用取引・FX・暗号資産取引など、投機の側面が高い投資手法を複業として選ぶことはおすすめしにくいです。
それゆえに、サラリーマンが複業を考えるうえでは、
- ①今の本業との親和性が高いか、本業の知識が活かせる複業であること
- ②将来やりたいことに繋がる複業であること
- ③自身が現場に出なくてもできる複業であること
- ④将来自動化・組織化できる可能性のある複業であること
- ⑤信用取引・FX・暗号資産取引など大きなリスクを負わないものであること
という5つの観点を踏まえて、自分はどのような複業をしていくかということを考えるとよいでしょう。
1-2 サラリーマンに今おすすめの複業7選
それでは、複業に関する5つの観点を踏まえて、サラリーマンにできるおすすめの複業を 7つピックアップしていきましょう。
①Webサイト運営代行・SNSアカウント運営代行など、Web業務の代行
Webサイト運営というと、非常に大きなくくりとなりますが、世の中には様々なサイトがあります。それぞれのサイトで求められることが異なります。
例えば、文章を書くことが得意な人・まめな人は、SNSアカウント運営・Webライターなどと含め、非常に向いている仕事といえます。
Webサイト運営といっても、デザインを徹底的に作り込むことが求められる業種でない限り、行うことはキーワードの選定・文章の作成・写真の選択(撮影)など、ある程度の就業経験のある社会人であれば、十分に独学でできます。
Webサイトは、特に作成後の更新が重要になってきます。
しかし、意外と多くの企業・団体が、「WebサイトやSNSアカウントは作ったけれども、更新ができなくて・・・」という問題に悩んでいます。
企業・団体の社員・職員にとって本業があるかたわら、新しいコンテンツ・SNSを通した顧客とのコミュニケーションを続けるというのは、負担が大きいのです。
また、担当する社員・職員にとっても、必ずしもWebサイトの更新が評価に繋がるわけではなかったり、IT企業などもともとITに造詣が深い組織でない限り、KPI(Key Performance Indicator・重要な業績評価指標)が定まっていない、曖昧であるなどのケースがあり、結局サイトを作成したがそのまま・・・という状況の会社は意外と多く存在します。
このような状況で、サイトのリニューアルや更新などが行えると、非常に強いといえます。
②営業代行・代理店業
元々営業をしている方(もちろん自社の複業に関する規定を踏まえてですが)や独立・会社設立を考えている人にとっては、営業代行という複業も非常によい選択肢でしょう。
営業代行の主な方法としては、「テレアポ・メール・訪問などひたすら数をこなす方法」と、「人の困りごとを分析し、その解決策として商品・サービスをすすめる」という2つの方法があるといえます。
営業という「モノ・サービスを売る行為」は、AIなどでプロセスの最適化はできても、最終的には重要な商品ほど、「人の売る力・営業力・課題解決力」が大切になってきます。
例えば、企業にネットワークシステム・セキュリティシステムを導入することを想定してみましょう。
普通の事業者にとって、「どのネットワークシステムが高速・安定しているか、どのセキュリティシステムが運用しやすいか、安全性が高いか」ということは、はっきりとわからないケースも少なくありません。
インターネットの発達で少なくなったと言われますが、現在でも売り手と買い手の情報に関する知識が異なる「情報の非対称性」が存在する業種、取引相手も少なくありません。
例えば、自分がネットワーク構築やセキュリティにある程度詳しいとします。その「自分では当たり前すぎて、わからない意味がわからない」ということが、別の人・組織にとっては「すごいことを知っている」と映る相手・組織も存在するのです。
これは極端な事例かもしれませんが、実例に少し改変を加えて説明します。
「うちはウイルスソフトを入れているからウイルス対策は大丈夫(この文言自体が、おかしいですよね)」という個人事業主がいて、「パソコンの調子が悪いから見てくれ」と言われました。
フタを開けてみると、ウイルス「対策」ソフトは確かに入っているが、有効期限が切れ、かなり期間が過ぎている。しかもOSは未だにWindows7で、Windows Updateも行われていません。
そしてセキュリティソフトを更新すると、いろいろ問題が見つかり、結局強く説得して、Windows10対応の最新PCに換えてもらい、セキュリティソフトウェアも新規導入してもらうこととなりました。
このように、いくらAIが発達しても、AIでリーチできない層、さらにいうと、「自身の抱えている問題を顕在化できない・気づいていない層」というのは、少なからず存在します。
このような層の人たちは、むしろその人たちの専門分野であれば、驚くほど詳しいケースも多いです。あくまで専門分野でなかったり、興味がないから気づかないだけだったりするのです。
自分の興味・関心のある分野であればともかく、関心のない人にとっては、「問題がある・そもそも問題を抱えている」ということが自分や組織ではわからなかったりするものです。
そこで、「営業代行」の存在価値が出てくるのです。
複業であれば、電話営業などは難しいので、友人・知人の悩み解決(特に経営者)に乗ることで、「現在こういう課題があるのですね」と悩み・課題を明確にし、「その解決策として、この商品・サービスがありますよ」と呈示することで、相手は課題を解決でき、自分も押し売りではなく、喜ばれる売り方ができるわけです。
営業はどの会社でも求められますし、営業代行を行うことで、会社・個人に対し「課題を探り、解決策を提案する」という習慣がつけやすくなり、本業にもよい効果を産むことが想定されます。
ただ、自分の会社の扱う商品と競合する会社の商品の営業代行を行うなど、「常識的に考えて扱うべきでない商材を扱う」のは控えることをおすすめします。
また、ネットワークビジネスや、マルチまがい商法の商品を扱うことはおすすめしません。
そもそも、ネットワークビジネス自体が、様々な意味で問題を含んでいる業種・販売手法・商品であることがいえます。
また、職場内でネットワークビジネスの商品を部下・取引先に売りつけたりなどの問題が起こると、会社全体のイメージの低下・モラルに関わる問題も生じる恐れがありますので、いわゆるネットワークビジネスと呼ばれる形態の商品を扱うことはおすすめしにくいです。
まだ、代理店業を行う場合でも、加入金や法規制、本業と並行して行ってもよいかなど様々な注意点があります。この点は、会社設立の専門家などに確認するのが望ましいでしょう。
③代行業全般
前の2つより大きなくくりとなりますが、「人ができないことを代わりに行う」という「代行業」は、様々なビジネスチャンスの種が隠れています。
例えば、グラント・サバティエ氏の著書「FIRE 最速で経済的自立を実現する方法」では、「犬の散歩の代行業をまずは自分で行い、顧客・ノウハウ・信頼構築ができたら、今度は学生のアルバイトに散歩を代行させる」という複業のエピソードがあります。
この話は非常に示唆に富んでいます。「まずは全体を自分で行い、全体像を体感する→業務を完了させてお金を受け取る一連のプロセスを経験する→やり方を体系化してアルバイト・社員(もしくは業務委託)等で組織化していく」ことで、代行することそのものに需要があるかを小さくテストできます。
実際にテストマーケティングを行い、反応があれば拡大・組織化することで、自分だけが動く必要のない、労働の切り売りというスタイルから脱却できます。
最近では、「レンタルなんもしない人」という、何もしない、いるだけでいいという「存在」という代行業をビジネスにしている人もいるくらいですので、何が代行ビジネスの種になるか、やってみないとわかりません。
いずれにせよ、どの複業も、最終的には、自分の力以外の部分で、レバレッジを効かせ、自身はプレーヤーから経営者の立場にステップアップできるかが重要となってきます。
サラリーマンであればご存じの通り、一人で3億円の契約を獲得できるプレイヤーより、一人で1億円の契約を獲得できる10人の部下をマネジメントできる人材の方が重宝されます。
単純に、1人だけで圧倒的な成果を出したところで、それが個人プレーにとどまっていては意味がありません。その人がいなくなれば、何も残らないからです。
逆にノウハウを体系化、指導・育成を行うことにより、多くの普通の人を、一定の成果を出せる人材に育てることができる人材であれば、本業でも大いに重宝されます。
複業であれば、アウトソーシングやクラウドソーシングの活用など、外部の力を活用し、時にアドバイスを行うことが、本業でのマネジメントの練習にもなり得るわけです。
④講師業・顧問業
講師や顧問(特にベンチャー企業など)というのも、一つの複業の手法といえます。サラリーマンとして会社に勤め、業務を行うことで、実務を通して得た知識が他の個人や組織にとって、非常に有用な価値を持つことがあります。
また、講師に関しては、多くの講演が土日を中心に行われます。顧問についても様々な業種でリモートワーク・ビジネスチャットが普及しているため、平日が仕事であっても、夜間・早朝や土日祝日を利用して複業を行うことができます。
こちらに関しても、講師業であれば、自身の知識・ノウハウや講演動画を販売することで、複業の自動化が見込めます。
⑤アフィリエイト業
近年、アフィリエイト業務は難しくなってきていると様々なところで言われています。
特に、お金や健康、法律など専門的な分野、利益が関わる分野は、規制が厳格になっており、特に健康系は、薬規法(薬・健康食品などの紹介に対する表現規制)を遵守して紹介をする必要があり、ハードルが高いといえます。
また、情報商材など内容・手法がグレーであったり、「ド素人が数ヶ月で何百万稼いだ」など、誇大表現や、物販業で売上は数百万円であるが、仕入れ・広告費など諸経費のことを書かずに、あたかも売上を利益のように誤認させる表現を行うものや、高額な塾やセミナーなどの紹介についても、お勧めはしづらいです。
一方、自身が業務を通して得たノウハウを公開する中で、そのノウハウに関わる商品を紹介することや、ノウハウを公開するWebサイトにGoogleアドセンスというGoogleの広告を貼り付けることに関しては、一定の節度を保って行う分には問題はさほどないといえます(もちろん、自社やクライアントの詳細な情報や守秘義務にかかる事項を書くのは望ましくありません)。
そのため、本業で得た知識を、健全かつ問題ない形で整理・公開し、その過程でアフィリエイトを行う分には問題ないでしょう。
また、自身が詳しい分野、趣味としている分野の知識を公開することでアクセスを集め、広告収入を狙ったり、カメラが趣味であればカメラや周辺機器のアフィリエイトを行うなど、訪問者・自身・広告主・広告代理店にとって「四方よし」のコンテンツ・勧め方であれば、理想的と言えます。
⑥クラウドワークス・ランサーズなどクラウドソーシングを利用して仕事を受ける(特に、Webライター・ディレクターなど)
Webライター、ディレクターも、特定の専門知識を持つ人にとってはうってつけの業種といえます。
特に、専門の資格を持つ人、金融・会計・医学・薬学・法律などの知識を持つ人は重宝されます。概ね1文字1~7円など文字換算の金額になりますが、ある程度ライターとして知名度が高まると、一原稿で3万~6万など、字数単位ではなく、一本の原稿に対しある程度まとまった原稿料が支払われる傾向にあるようです。
逆に芸能・エンターテインメントなど比較的書く人を問わない記事の場合や、専門的知識が要らない記事の場合は、1文字0.2~0.5円など、原稿料が抑えられる傾向にあります。
また、まれに、「原稿の書き方を学べます」という触れ込みで、極端に安い原稿料を提示している記事や、テストライティングと称して非常に低い金額で記事を書かせる事業者がいます。全てがそうとは言えませんが、安い原稿料で書き続け、消耗するばかりになってしまうので注意した方がよいでしょう。
Webライターは、文字数をある程度書く必要があること、ジャンルによって単価が大きく異なること、時間の自由がきく分、報酬の上限が限られることなど、業務の広がりという点では他の複業に比べハンデがありますが、「(ルールに沿ってきちんと従った文を)書いただけ報酬が受け取れる、クラウドソーシングを活用するケースが多いため、報酬のもらい漏れがほぼない(ただし、クラウドソーシングのプラットフォーム側が、一定の手数料を受け取る)」というのはメリットです。
また、Webディレクターについてはさらに幅が広く、Web全体の統括やアクセス解析、運用、ライターへの記事の指示、チェックなど、担当分野にもよりますが、行う業務は多岐に渡ります。非常に高いスキルが要求され、その分報酬も高いケースが多いです。
業務受注においては、Webライター・Webディレクターに限らず、行った業務(もしくは毎月の業務)の報酬を最後にきちんと受け取るということが、多くのビジネスにおいて、不可欠な要素となります。
サラリーマンの場合は、一部の会社を除き、回収までのプロセスを、営業事務・経理・総務などバックオフィスが行ってくれるケースが多いです。これが複業や個人事業、会社設立を行った後の経営になると、仕事を取って、完結させ、報酬を受け取るという一連のプロセスを通して初めてお金が入ってきます。
また、請求書を発行したのに、取引先が支払わないなどのケースがあると、売上があがっているのに、現金が入ってきていない、そのままにしておくと帳簿上の売上は高くなるため税金がかかるというケースもあります。それゆえに、請求書を発行して、回収(+領収書の発行)を行うまでがビジネスがあることを自覚することが大事です。
クラウドソーシングの場合、「エスクロー」といい、クライアントの入金・クラウドソーシングサービスによる入金分の預かりがあってから初めて業務に着手します。
そのため、仕事を完了させたのに、入金がないという事態を避けることができますので、特に最初のうちはクラウドソーシングのプラットフォームに載った方が安全でしょう。
また、Webライター・ディレクターとして実績ができてくると、サイト・SNSなどを通した直接の指名依頼が来るケースも多くあります。
もちろん、クラウドソーシングで受託している案件については、必ずクラウドソーシングを通して追加案件も受託するのが、各クラウドソーシングサービスの規約にあるため、この点はしっかりと守る必要があります。
一方、サイト・SNSで直接依頼を受けたり、Webライター・ディレクターのコミュニティ内で、「こういう案件がありますよ」と受ける分に関しては、「きちんとした文章を納品し、請求書発行・代金の回収までをおこなう」ことを自覚し、一定の注意をして受けた方がよいでしょう。
契約を受ける上では、契約内容に関する注意が必要です。理想は「契約書の作成」です。ただ、メールでの約束であっても、「金額」「納期」「分量」「文章に関してどこまで修正に応じるか」「入金期日」など、「いつまでに(納期・入金日)」「いくら(文字数・締め切り日)」という点は明確にして、やりとりをきちんと残しておくことが大切です。
この、「提供する商品・サービスの明記」「できること・できないことの明確化」「納期」「金額」「入金日」などは、他の複業でも重要になります。
自身が請求・回収を行う業務に関しては、きちんと自分でできるようになっておく必要があります。
役務提供から業務完了だけでなく、代金の回収までが仕事であると気を付けておくことが望ましいでしょう。
⑦ココナラなど、特定スキルの提供サービスを行うプラットフォームを利用する
前項で紹介した、クラウドワークス・ランサーズのように、特定の業務を行うという切り口のサイトもある一方、「自分にできる特定のスキル」に値段をつけ、販売できるプラットフォームもあります。
例えば、イラストが得意であれば、イラストを1点いくらで描きます、本業でコンサルティングを行っておりますが、スモールビジネスのコンサルティングを1時間いくらで行います、など、自分のスキルに値段をつけて販売することができます。
プラットフォームの性質上、価格がどうしても低くなりやすいというデメリットはありますが、一方で、自身ができることを一般の人に対し直接販売できる、直接フィードバックを得られるというのは画期的と言えます。
また、ココナラに限らず、クラウドワークス・ランサーズなど、クラウドソーシングプラットフォームで、どのような商品が売れているのか、どのような人・技術が人気を集めているのかを研究することも一つのヒントになります。
特にココナラは、「このようなサービスでも販売できるのだ」という、いい意味での意外性を与えてくれます。
ロゴデザイン、イラスト、楽曲作成、Word・Excel・Power pointの作成代行、翻訳、占い、インテリアプラン、事業プランの相談など、様々なサービスが明確な価格で販売されています。
このような「売れているものを研究する」のも一つのヒントになるでしょう。
1-3 サラリーマンにおすすめできない複業
それでは、サラリーマンにおすすめできない複業はどのようなものがあるでしょうか。
①アルバイト・日雇いなど単純労働
以前も述べましたが、よほど目的を定めないアルバイトや日雇い業務は、時間の切り売りでしかありません。
ただ、例外のパターンが一つあります。自身が会社設立・起業をしようと考えている分野で、経験を積んだり、内部の仕組みを調べるために、あえてアルバイトなどの立場で内部に入る、という目的です。
例えば、インターネットで雑貨や衣料品などの物販を考えている場合、「Web関係で物販を行う会社にアルバイト(や業務委託)として手伝うこと」や、「リアルの雑貨店・衣料店で働き、売れ筋や物販の仕組みを仕事で学ぶこと」は大きなプラスになります。
また、日本政策金融公庫の新規創業融資を受ける場面でも、会社設立をして行う業務の実務経験があるかが大きなポイントとなります。
Web物販で会社設立をすると仮定すると、アルバイトや複業という形であっても、物販に携わった実務経験があることは大きなプラスになります。
雇用形態は何であれ、「実務を経験しているか、全く未経験か」では、事業説明の説得力が大きく異なるからです。
このように、あえて「お金をもらって経験を得る」という意味でのアルバイトなどは例外ですが、基本的には、時間と体力の切り売りにしかならない複業はお勧めしにくいです。
②時間を大きく取る複業・時間単価の低い複業
サラリーマンの複業として行う上で考えたいのは、「自分の可処分時間」です。
サラリーマンの場合、月曜~金曜の8時間(+残業)及び通勤時間を仕事のために費やすこととなります。
準備時間・職場での食事・休憩なども含めると、概ね12時間~14時間は仕事のために費やすことになります。
そこから睡眠・自宅での食事、風呂など様々な用事を含めると、可処分時間は1日4時間程度取れればいい方と言えます。
睡眠を削るということをいう人もいますが、睡眠不足は明らかに仕事のパフォーマンス・健康・寿命その他あらゆる面に影響を及ぼしますので、7~8時間程度は確保することが望ましいといえます。
そうなると、平日はごく細切れの時間、土日を複業にあてることになりますが、結婚し、特に子供がいる場合は、家族の生活・育児に相当の労力・時間を割くことになります。
こう考えると、いかに「時間を大きく取る複業・時間単価の低い複業では意味がないか」ということがおわかりいただけるかと思います。
いかに少ない時間で、いかに大きな報酬を得るかを考えて、複業を選ぶ。また、本業との相乗効果も含めて複業を考える。このことが、時間が限られるサラリーマンにとってとても重要であるということがおわかりいただけるかと思います。
③自分が楽しめない・得意でない複業
サラリーマンは、本業では、好き嫌いを問わず、与えられた仕事に取り組んでいくのは当然です。
一方、複業においては、「会社」という強制力がない(ただし、クライアントができた場合は、クライアントとの約束を守る)という強制力は生じますが・・・)ため、自分が自主的に楽しんでやらないと、複業から足が遠ざかってしまいます。
例えば、大きな買い物や借金など、お金による「働かないといけない」という強制力があれば、一つの原動力にはなるかもしれません。しかし、仕事で好きでないことをしている状況で、複業でも好きでないこと・できないことをやることは大きな苦痛・ストレスになります。
そこで、複業を考える上では、自分が楽しめるか、そして、得意(意識していなくても、他人から重宝される、上手と言われる)なスキルはないかを棚卸しする必要があります。
ただし、どんなに自分が好きであっても、好きが顧客の課題解決になっていなければ、誰からも求められません。
ドラえもんの「ジャイアンの歌」などはまさに、「自分は好きだが他者からは絶対求められないもの」の一つと言えます。
ジャイアンは歌が好きですが、あまりにも音痴なので、誰もその曲を、無料であろうが、例えお金をもらってでも聞きたくないのです。
一方で、得意なことというのは、自分がそこまで気が向かない分野でも重宝されるケースがあります。
例えば、パソコンに異常があるときに、どこがおかしいかを特定したり、パソコンが壊れた場合にデータだけでも取り出す技術を持っていると、「パソコンに詳しい人」として重宝されたり、「困ったときは○○に聞け」という評判になり、いろいろなところから声がかかるようになります。(もちろん、ただのボランティアで終わらないように、複業や本業の成果に繋がるように工夫をする必要がありますが)
以前はパソコン自体が非常に高価なものでしたので、部品を買って組み立てるという人が多くいました。
彼らの場合、部品の部分から選定し、組み立てて、システム(OS)を入れているため、パソコンがどのような仕組みで動いているのかを、体感知として知っています。
そのため、一般の人であれば、「パソコンが壊れた!」となるところを、ある程度内部構造に詳しい人であれば、
- ・OSなどソフトウェア面の問題であるか
- ・マザーボードやCPUなど機会の心臓部の問題であるか
- ・SSD・HDDなどのデータ記憶装置は壊れていないか、データは取り出せるか
- ・デスクトップPCの場合、各部品の異常や電源の劣化、内部のほこりなどの要因はないか
など、問題を切り分けて、「ここに問題があるのでは」「そのためにこうしましょう」と、原因の追及と対策の提案ができます。
また、iPhoneに詳しい芸人で、かじがや卓哉さんという方がおられます。
この方は好きと求められる技術が一致した非常に望ましいケースで、売れない時代は家電量販店でアルバイトをしていたものの、先輩芸人のiPhoneに関する相談に乗っているうちに、「iPhoneに関することならかじがやに聞け」という、芸人間での特別な地位を得ました。
現在では家電芸人としてテレビや雑誌などのメディアに露出、書籍を書くなど、「iPhoneに強く、かつ家電量販店で培ったわかりやすい説明のできる家電芸人」というポジションを確立し、Youtuberとしても活躍しています。
このように、「他の人にはできないけどできること」を持っていると非常に強いと言えます。
1-4 サラリーマンが複業を行う上での注意点
サラリーマンが複業を行う上で注意する点は、以下の点です。
①本業に支障・悪影響を出さない
まずこれが大原則です。複業をしているから、本業のパフォーマンスが出ないのだという状態では、本業での昇給・昇格を望めないばかりか、本業のポジションそのものも危うくなるでしょう。
「あいつは複業をやっているから本業がおろそかで困る」と言われないように、まずは本業で結果を出すことを意識するのが望ましいです。
②住民税は普通徴収にする
住民税は、自分で納める「普通徴収」と、会社が計算し、給料から天引きする「特別徴収」という2つの納税方法があります。
給料から天引きする「特別徴収」にしていると、経理担当の社員や上司から、「あれ、こいつだけ税金が異常に高いぞ、複業を結構やっているな」ということがばれてしまう恐れがあります。
一方、普通徴収だと、自分で確定申告を行い、自分で市役所の通知に従い納税する必要はありますが、複業をしていることが会社にはばれにくくなります。
もちろん、会社が複業を歓迎しており、実際に複業をしている社員が多く、複業に関する話がオープンにできる環境であれば、特別徴収のままでもかまいません。
しかし、多くの会社は横並び意識が強く、自分より多くもらっている人がいると、それを引きずり下ろそうとする人もいるかもしれません。
無用な嫉妬を買わないためにも、よほど複業に関してオープンな会社でない限りは、普通徴収にしておくことが無難といえます。
③確定申告をきちんと行う・領収書・レシートを取っておく
複業を行う場合、多くのケースでは確定申告が必要な年間20万円以上の収入があるでしょう。
この際、仕事のために利用したものであれば、経費として扱うことができます。そのためには、領収書が貰えないものを除いて、原則はレシート・領収書が必要です。また、自宅兼事務所であれば、利用時間やスペースの割合に応じて按分することで、課税所得を圧縮し、結果として税金が安くなることが想定されます。
もちろん、申告を行わないと、後で調査が入り、各種延滞税などペナルティを科される可能性があります。確定申告はきちんと行うことが重要です。
また、複業が軌道に乗り、売上が数百万~1千万など大きくなってきた場合は、会社設立代行業者などに、会社設立を依頼し、法人化することも一つの手法といえます。
④派手な生活をしない
急に高級な時計・高級な車など生活スタイルを変えると、周囲から不要な嫉妬、あらぬ疑い(横領などをしているのではないか・・・)などを受ける可能性が、ゼロとはいえません。
複業が、生活のための複業を超えて事業化してくると、お金回りが良くなる一方、周囲に「お金を持っている」と見られることは、プラスに働く側面とマイナスに働く側面があります。
特に複業であれば、こと社内においてはマイナスに見られる危険性も考えておいた方がよいでしょう。
複業のうちは、生活スタイルをあまり変えない、ということも、複業を円滑に行いつつ、本業のトラブルを防ぐためにも重要といえます。
⑤簡単に本業を辞めない
複業が成長、事業として成立するレベルになってくると、「本業を辞めて複業の方に完全にシフトした方がいいのではないか」と考える方も出てくるかもしれません。
しかし、できれば本業を簡単に辞めることは避けた方がよいでしょう。
理由は下記の通りです。
- ・本業があることで、本業で得たノウハウ・人脈などを複業に投入できるが、会社を辞めるとそれがなくなる
- ・会社に所属していればある程度の社会的信用が得られるが、フリーランス・一人社長などだと、最初はどうしても信用に欠けてしまうため、ローン・クレジットカードなどの作成が難しくなってしまう(逆にいうと、フリーランス・会社設立を検討している人は、会社在職中にローン締結・クレジットカード作成を行うことをおすすめします)
- ・本業があると、出勤・仕事・帰宅・複業と生活リズムができるが、複業がメインになると、人によっては出勤などの生活における決まったサイクルがなくなるため、自堕落になってしまう可能性がある
- ・在職していると意外と意識しないが、会社員の福利厚生は充実しているため、見かけの所得以上に福利厚生の恩恵にあずかっているケースがある
このように、本業と副業で良いサイクルが回っていたのが、複業一本になると一気に不安定になります。
また、現代において、ビジネスの寿命は短命化しているといわれています。10年~15年ともいわれており、自分の複業が軌道に乗ったとしても、5年・10年・15年というサイクルで継続して稼ぎ続けられるかはわかりません。
また、会社員として業務に従事していれば、会社の業態変化や他社への転職などで、新しいビジネスへのシフトが比較的容易ですが、複業で、かつ自分でビジネスを回している状態だと、過去の成功体験への固執などが発生する可能性もあり、複業ごと自分も沈んでいってしまうおそれもあります。
この点、会社員でいることのメリット・自社の将来性と、複業の現状・将来性をしっかりと把握した上で、ベストな選択をする必要があるといえます。
2 複業が軌道に乗ったら会社設立を考えよう
あくまで会社員として軸足を置きつつも、複業が軌道に乗れば、会社設立を検討する価値はあると言えます。現在でも、会社員というポジションでありながら、自身の会社を設立しているサラリーマンも出始めています。
転職アンテナを運営するmotoさんは、サラリーマンとして営業を担当しつつ、自身の株式会社も設立し、本業の給与は1,500万円、複業として運営する法人の売上は1.2億円近くと、本業と副業を見事にリンクさせ、複業で大きな収益を得ています。
また、日本マイクロソフトの澤円さんも、会社員として業務執行役員を務める傍ら、個人として法人を設立し、本業と複業の相乗効果を活かして活動されています。
このように、所属する会社自体に柔軟性があれば、会社員として働きつつ自分の複業のための会社を設立し、2つ(もしくはそれ以上)の入り口から収入を得ることができます。
会社の理解さえ得られれば、会社員をしつつ会社設立を行うのも一つの手法といえます。
会社設立時に決めておくべき要素が「経営理念」や「企業理念」です。インターネットの発達やSNSの普及により、企業と消費者の関係性に変化が起きています。消費生活について見ると、消費者が商品やサービスを発注する際、その背景にある、その企業のもつ価値観や発信力を前提とした「企業ブランド」を意識し、その上で意思決定するという傾向が強まっています。
そこで、この企業ブランドの価値向上に大きな影響を与えると言われる「企業(経営)理念」を決める上でのポイントについて見ていきましょう。
2-1 経営(企業)理念とは
企業と消費者の関係性の変化は、近年の世界経済の動きを反映したものです。経済環境の変化(注1)はこれまで何度も起こっていますが、現在は、「エクスペリエンス・エコノミー(注1)」から「ソーシャル・エコノミー(注2)」へ移行しつつある時期だと言われています。この経済環境の変化の中で、企業は「企業ブランド」とともに、その価値を高めるための大きな要素となる「経営(企業)理念」を重視するようになってきました。
(注1)経済環境の変化
世界の経済環境は、「農業エコノミー」⇒「産業エコノミー」⇒「サービス・エコノミー」⇒「エクスペリエンス・エコノミー(経験経済)」と変遷し、近年は、「ソーシャル・エコノミー」への移行が始まったというのが専門家の見方です。各経済環境については、20世紀末に、アメリカの実業家であるBJ・パインとJH・ギルモアが次のように論じています。
(表1)経済環境の変遷とエクスペリエンス・エコノミー
BJ・パインとJH・ギルモアは、コーヒーを例にとり、「農業エコノミー」ではコーヒー豆そのものが提供されたのに対し、「産業エコノミー」ではパッケージ化による差別化に変化し、「サービス・エコノミー」においては、喫茶店などでその場で飲める状態にして提供されたという具合に、経済の成熟とともに質的に異なる価値が付加されたことを指摘しています。その上で、コーヒーを単に飲める状態で提供することにとどまらず、香りやくつろげる雰囲気とそれに付随するサービスすべてをコーディネートして提供する「スターバックス」を、エクスペリエンス・エコノミーの典型例として紹介し、「上質な経験」を価値として提供する環境に変化したことを説明したのです。
(注2)ソーシャル・エコノミー
日本の経営学者である阿久津聡氏が、エクスペリエンス・エコノミーから移行する経済環境を「ソーシャル・エコノミー」と称しています。従来の「企業に完璧にお膳立てされた舞台で最高の経験を味わう」ことではなく、「他の消費者と経験を共有して楽しむ」ことや「企業や他の消費者と一緒に価値を創り上げていくプロセスを楽しむ」ことに消費者の意識があるという特徴を表したものです。
英語で「mission statement」と呼ばれる企業理念は、日本では「経営理念」のほか「ミッション」と称されることもあります。企業(経営)理念は、企業によって使用する言葉は異なっても、その表すところは同一の概念であり、一般的には、「企業が事業を営む上での基本的な価値観、考え方を明文化したもの」と定義付けされています(この記事では、これ以降は、説明の都合上、経営理念という表現で統一しますのでご留意ください)。
また、経営理念は、創業時に定めた、その企業の普遍的な価値観である場合が多く、これをビジネスの現場に反映させるためには、さらに具体化する必要があり、それが、「経営方針」、「ビジョン」、「行動基準」等となって示されることになるのです。
その当時の社会環境や自社の持つポテンシャルなどを考慮して、理念を具体的な目標に置きかえたものが「経営方針」や「ビジョン」であり、それを実行に移すために従業員がとるべき行動を定めたものが「行動基準」です。これらを一つの体系として整理し、企業は自社の経営理念体系を形成していると言えます。
2-2 従業員への経営理念の浸透
自社の理念を、消費者をはじめとしたステークホルダーに知ってもらうためには、接点となる従業員に、ビジネスにおけるコミュニケーションの中で、会社の価値観を正確に伝えてもらわなくてはなりません。このため、体系化された経営理念をどのようにして従業員に浸透させ、ステークホルダーへのメッセージ性を高めるかも重要課題の一つとして位置づけられます。
従業員への浸透にあたっては、スローガンや社是、社訓といった言葉を定めて、研修やその他の機会に唱和する機会を設けるなど、企業によって様々な取り組みがなされますが、形骸化することのないよう実効性の高い取り組みが望まれます。
2-3 用語の整理
前項で、「社是」や「社訓」、「スローガン」といったワードが登場しましたが、経営理念や経営方針などが説明されたビジネス誌やサイトでは、同じような意味合いで使用されているにもかかわらず、異なるワードがいくつも使われており、混乱することがあります。後述する経営理念の作り方にも影響がありますので、ここで、よく使用されている用語の意味について整理しておきます。
(表2-1)経営理念体系でよく使用される用語
用語 | 主な意味(用法) |
---|---|
モットー | 方針、信条、スローガン(イタリア語) |
スローガン | 理念や目的を簡潔かつ端的に表現し、覚えやすくした言葉(英語) |
社是 | その会社が「是」とするもの(そうすることが正しい) |
社訓 | その会社において守るべき教え(教訓であり戒めである) |
信条 | 正しいと信じる行動(もとは宗教用語) |
行動指針(基準) | どのように行動するかという基準(方針) |
ミッション | 会社の使命、重要な任務(企業によっては、全社で共有すべき価値観として、「経営理念」にかえて記載していることが多い)。 |
ビジョン | 将来構想、目指す姿(ミッション遂行のための具体策を示すことが多い) |
バリュー | 価値観、価値基準 |
クレド | 「信条」や「約束」(ラテン語) |
ウェイ | 「道」、「やり方」、「方向性」など(英語) |
このように、同じ意味の言葉がたくさんありますので、経営理念体系を形成するに際しては、一般的に聞き慣れた用語を使うのが賢明です。この中で、「社是」や「社訓」は、創業者が事業に対する姿勢や創業の初心を後代に伝えるために表したものが多く、老舗企業に多く見られますが、経営理念の根幹を為すものでもあります。
「社是」、「社訓」といった単独の形で定めるか、企業理念に反映させるかは起業家の考え方次第です。参考までに、著名企業の「社是」、「社訓」を紹介しておきます。
(表2-2)著名企業の社是又は社訓(両社の公式サイトより)
区分 | 企業名 | 内容 |
---|---|---|
社是 | 三菱重工業 | 一.顧客第一の信念に徹し、社業を通じて社会の進歩に貢献する。 一.誠実を旨とし、和を重んじて公私の別を明らかにする。 一.世界的視野に立ち、経営の革新と技術の開発に努める。 |
社訓 | ヤマトホールディングス | 一.ヤマトは我なり。 一.運送行為は委託者の意志の延長と知るべし。 一.思想を堅実に、礼節を重んずべし。 |
3 経営理念、企業理念を決める4つのポイント
ここからは、経営理念の作り方・ポイントについて解説します。著名企業の経営理念を真似るのも一つですが、基本的に、「経営の目的」が相通ずるものでなければ、仏作って魂入れずとなることは明らかです。したがって、まずは、自身が会社を作って事業を営む(企業を経営する)ことの目的を明確にする必要があります。
3-1 企業経営の目的の明確化
一昔前なら、企業の目的は「利益を追求すること」と言い切る経営者が大半でしたが、現在の企業を取り巻く環境の下で、果たしてこの言葉を正解だと言える経営者が何人いるでしょうか。この、「企業経営の目的を何に求めるべきか」という問いに、学者や経営実務に長けた著名人は次のように語っています。
著名な経営学者であるピーター・ドラッカー氏は、「事業体とは、利益を得るための組織と答える経営者や経済学者がいるが、これは間違いであるばかりでなく、的外れである」と断じ、利益の役割を、1)業績悪化への備えであり、2)将来投資の費用であり、3)業績を見る指標であると論じています。これは、日本の最も著名な実業家の一人である稲森和夫氏の言葉にも裏打ちされます。
稲盛氏は、その著作「心を高める、経営を伸ばす(PHP文庫)」の中で、次のように語っています。「企業の目的は、全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること以外にない」。京セラ、KDDIといった1兆円企業の創設者であり、経営破綻した日本航空を立て直して1兆円企業に再生した超一流経営者の言葉には真実が宿ります。
3-2 企業の存在意義を認識する
また、ドラッカー氏は、「企業は顧客に貢献することで、社会にその存在意義が生まれる」と述べるとともに、事業の目的については、「顧客を創造することである」と定義付けています。著名な学者と経営者の言葉をあわせると、「事業の目的は顧客の創造であり、企業経営の目的は、社員を幸福にするとともに、社会に貢献することである」となります。
「社会に貢献する」という意味では、稲盛氏と同じく世界的に著名な経営者である松下幸之助氏が、「企業は社会の公器である」と述べ、企業とは、顧客、取引先、地域があってはじめて存在することができるのだと語っています。言葉を換えれば、自社の利益だけを追求するのではなく、社会に対して貢献する責任があるいうことであり、これが、今日のCSR経営の考え方につながっているのです。
3-3 社会とステークホルダーへの関わりを明確に
経営目的の項で示した内容から、現代的な企業経営を行うための経営理念を構成するのは、「経営に対する考え方」、「人との関わり方」、「社会との関わり方」の三つの要素であることがわかります。特に、近年は、企業の「社会的責任」が重要視されており、人との関わり方では「働き方」や「ハラスメントへの対応」といった働く環境への配慮が、社会との関わりという点では、「社会の中でどのような役割を担うのか」というメッセージを明確に発信することが求められます。
3-4 著名企業の経営理念からヒントを得る
これらの要素を押さえた上で、経営理念体系を構想してみます。(表2-1)で整理した項目を使って体系づけることになりますが、実際に経営理念を書いてみるとイメージがつかみやすくなります。このとき、「自分自身の思い」を表すことが最も重要ですが、作成の糸口を求めて、10社程度の著名企業の経営理念を参考にする、又は、そのまま書き写して自社の将来像や実態にあわせてカスタマイズするというのも一つの方法です。
具体的なイメージをつかむために、「ヤマトホールディングス」の経営理念体系を見てみましょう。同社は、「経営理念」、「企業姿勢」、「社員行動指針」、そして、この原点ともいうべき「社訓」で経営理念体系が構成されています。
(表3-2)経営理念体系(同社の公式サイトにおける情報から作成)
体系項目 | 主な内容 |
---|---|
社訓 | (表2-2)参照 |
経営理念 | ヤマトグループは、社会的インフラとしての宅急便ネットワークの高度化、より便利で快適な生活関連サービスの創造、革新的な物流システムの開発を通じて、豊かな社会の実現に貢献します。 |
企業姿勢(ビジョンに相当) | (前文) 企業姿勢は、経営理念を達成し実現していく上で、私たちヤマトグループが社会に約束し、常に実行していく基本となる考えです。ヤマトグループは、公平、公正な競争を通じて利潤を追求するとともに、法令、国際ルール、社会規範とその精神を遵守し、常に高い倫理観をもって行動することで、持続可能な社会の発展に貢献していきます。 (具体項目) 10項目掲げられていますが、省略します。 |
社員行動指針 | (前文) 社員行動指針は、ヤマトグループの社員が企業理念に基づいて日々の行動の中でとるべき、社員としての考え方やあるべき姿を現しています。 (具体項目)・・・項目のみで内容は省略します。 1)お客様満足の追求 2)お客様に対する誠実な対応 3)人命の尊重と安全の確保 4)働く喜びの実現 5)法の遵守と公正な行動 6)地域社会から信頼される企業 7)事業を通じた社会への貢献と環境保全の推進 8)パートナー・取引先との公正な関係 9)会社資産管理と情報開示 10)個人情報の保護 11)適正な記録作成と情報の管理 12)ステークホルダーとの共存共栄 |
ヤマトホールディングスでは、社員の行動指針の中に、「社会に対するコミットメント」、顧客、従業員、取引先など「全てのステークホルダーへの関わり方」を網羅し、現代の企業経営で必要とされるすべての項目が反映されています。
経営理念の定義、体系、そして経営理念を作るためのポイントについて解説してきましたが、具体的なイメージはつかめたでしょうか。近年、「業績を上げるために経営理念を作りたい」という経営者が現れるほど、経営理念に対する注目度は高まっています。
しかし、この考えは本末転倒と言わざるを得ません。実際に、経営理念が策定され、それが従業員に浸透して実践されている企業は業績が好調であるとの調査結果もありますので、誤解が生じてもおかしくはないのですが、経営理念を作ることが業績を担保するわけではないということを留意しておきましょう。
4 まとめ
以上、ここまでサラリーマンに今おすすめの複業や、本業と副業のバランスなどについてご説明しました。
最後に、サラリーマンの副業について、要点をおさらいしてみましょう。
①本業あっての複業。複業が負担になるくらいなら本業に集中する
複業(特に時間の切り売り系)で時間と労力を使い、本業がおろそかになってしまっては、元も子もありません。
まず、複業と本業ときちんと同時に進めていけるか、という観点は大切と言えます。
②よほど会社が複業に理解があるか、突き抜けない限りは、複業は目立たずに行う
旧来の価値観を持つ会社で、複業バレをすることがまずい環境であれば、不要な嫉妬や疑いを避けるためにも、水面下で複業を行う方が望ましいでしょう。
③会社員でいるときは、会社員の信用を最大限に活用する
会社員(特に大手)と、個人事業主・一人社長の信用力は、雲泥の差があります。そのため、ローンやクレジットカードの作成など、社会的信用がものをいう局面では、積極的に会社員のメリットを享受するとよいでしょう。
④生活を大きく変えない
あくまで会社員として複業を行う場合は、生活レベルや、わかりやすい変化を見せない方がベターかと思います。会社が「複業ウェルカム」という空気であれば別ですが、一般的な日本の会社では、あくまで「会社ファースト」が求められますので、会社の空気から下手にはみ出さない大人の配慮も大切といえます。
⑤申告・納税などお金の面はクリアにし、正直な申告・正々堂々とした節税を行う
複業の申告をきちんと行うためにも、帳簿作成や領収書の保管、適正な税務申告を行うとともに、会社バレが不安な場合は、自分で住民税を行う普通徴収を選択することをおすすめします。
⑥複業はトライ&エラー。小さく試して、当たったものを大きく育てる
事業そのものもですが、何がヒットして世間に受け入れられるかは、商品・サービスを提供してみないとわかりません。
幸い、会社員であれば基本的な収入はありますし、事業に関しても、様々なことをトライできる環境がここ10年で大きく整備されましたが、どの事業が当たるかというのは誰にも予想できません。
顧客が求めるものに自身が提供するサービスが一致すればすばらしいですが、もし思うとおりに行かなくても、やり方やターゲットを変えるなど、トライ&エラーの精神は重要でしょう。
複業に取り組むということは、時間・体力面でも大きな負担になる場合があります。工夫・努力は不可欠ですが、一方で、過度な無理をせず、本業に負担の内容、複業に取り組んでいきましょう。