2016年に日本を訪れた外国人旅行者数が約2404万人だったことが明らかになりました。2015年と比較すると約330万人の増加で、過去最高を記録。今後もこの増加傾向は続く可能性が高いと予想されています。
外国人旅行者数の増加により最も期待されるのは、日本にもたらす経済効果です。2015年には、中国人の団体ツアー客が家電量販店などで大量にまとめ買いをする「爆買い」が話題となり、インバウンド消費に大きく貢献。
また、政府によるカジノ構想ではさらなる外国人の呼び込みが期待されています。インバウンド産業はどこまで広がりを見せるのでしょうか。
目次
- 1 4年連続で訪日外国人が増加
- 1-1 訪日客増加の背景
- 1-2 日本をパリ並みの観光先進国に
- 2 今後のインバウンド産業の展望
- 2-1 そもそもインバウンド、アウトバウンドとは
- 2-2 インバウンド事業に対する日本の取り組み
- 2-3 爆買い中国人はどこへ行った?
- 2-4 地方を訪問する外国人旅行者増加
- 3 日本型カジノで外国人旅行者はさらに増えるのか
- 3-1 カジノ法案の内容
- 3-2 治安は悪化する?ギャンブル依存症対策は?
- 3-3 カジノ解禁で観光客はさらに増える?
1 5年連続で訪日外国人が増加
観光庁は、2016年の訪日外国人数が約2403万9000人になる見通しだと発表しました。2015年と比較すると21.8%の増加で、過去最高を3年連続で更新。訪日外国人は2012年から5年連続で増え続けています。なかでも中国、台湾、韓国などアジアを中心とした訪日客が大きく増えました。
・訪日外国人数の推移
(参照:時事ドットコムニュース)
さらに、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムなど東南アジア各国からの観光客の増加も顕著でした。
・国別訪日外国人の数
(参照:インバウンドナビ)
1-1 訪日客増加の背景
過去最高を記録した要因について、石井国交相は「ビザの発給要件緩和や消費税の免税拡充など大胆な取り組みを実行してきた結果だ」と見解を語りました。
さらに格安航空会社のLCCなどの利用客の増加や航空路線の拡充などの取り組みも影響したと見られます。
ただ、全体の伸び率は、熊本地震や中国経済の停滞、円高傾向が影響し、2014-15年の伸び率と比較して緩やかでした。
1-2 日本をパリ並みの観光先進国に
観光先進国への新たな国づくりに向けて、政府は2020年までに訪日外国人旅行者を4000万人にすることを目標に掲げています。
石井国交相は「2015年をベースに年間15%ずつ伸ばすことで、目標は達成できる」と語り、訪日外国人旅行者がストレスなく、快適に観光を満喫できる環境整備に向け、政府一丸となって対応を加速化させるとしました。
2 今後のインバウンド産業の展望
2013年に訪日外国人旅行者数が1000万人を突破した時期から「インバウンド」や「インバウンド需要」という言葉が各メディアで見かけるようになりました。
(参照:インバウンドナビ)
2-1 そもそもインバウンド、アウトバウンドとは
インバウンド(=Inbound)とは、自国に外国人が訪れることを指し、観光業界では訪日外国人旅行または訪日旅行という意味で使用されています。 一方、外国へ旅行に出かける場合は、アウトバウンド(=Outbound)と言われています。
2-2 インバウンド事業に対する日本の取り組み
観光庁は現在、官民連携による「ビジット・ジャパン」と呼ばれる事業を展開。海外進出を図る日本の企業の支援や、アニメ・漫画のキャラクターのブランド力を利用したプロモーション活動を行ってきました。
そうした観光業界による活動が功を奏し、訪日外国人旅行者数は2013年にはじめて1000万人を突破。2016年には2400万人を超え、わずか3年で倍増となりました。現在では、訪日外国人旅行者数が日本人海外旅行者数を上回ります。
政府は訪日客のさらなる増加に対応するため、受け入れ体制を整えます。2017年度予算案では、観光庁予算を過去最大の256億円としたほか、他省庁の予算でも観光関連分※を拡充。菅官房長官は2017年に取り組む重点施策の一つに観光分野を挙げており、特に地方経済の活性化につなげたいと述べました。
※例えば、農林水産省は従来の農山漁村の振興交付金に50億円の「農泊」枠を新設。政府は、皇居や御所など全国の皇室関連施設の公開拡大も進める方針で、必要な運営経費を新たに計上する。テロなど治安対策に対しては、国土交通省はボディ・スキャナーなどの高性能な保安検査機器を2019年までに国内のすべての主要空港に整備する予定
2-3 爆買い中国人はどこへ行った?
2015年の流行語大賞ともなった中国人観光客による家電製品などの「爆買い」。
中国経済の成長が減速するなか、2016年は「爆買い」による消費も落ち込みました。
観光庁によれば中国人1人当たりの消費額は前年比マイナス11.8%と失速。
一方、旅行会社が企画するツアーに頼らない個人旅行者が増加しました。
2-4 地方を訪問する外国人旅行者増加
個人旅行者は、東京・京都・大阪などのいわゆるゴールデンルート以外の地方を訪れる傾向があります。
観光庁が行う訪日外国人消費動向調査では、東京・大阪の2大都市圏のみ訪問した観光客は44%だったのに対し、地方を訪問した割合は56%を占めました。また、地方のみを訪問した割合は28%でした。
・外国人観光客の地方訪問率
(参照:観光庁「訪日外国人消費動向調査」)
2大都市圏と地方を訪問した観光客は中部地方への訪問率が高く、地方のみ訪問した観光客は北海道や九州、沖縄県への訪問率が高いことがわかりました。
こうした状況に合わせて、各都道府県や市区町村は訪日客誘致による観光振興に積極的に取り組んでいます。
・2大都市圏と地方のみ訪問者の比較
地方経済の再生に向けて政府もさまざまな施策を行っていますが、外国人観光客によるインバウンド消費が一番の特効薬になるかもしれません。
3 日本型カジノで外国人旅行者はさらに増えるのか
2016年末、カジノ解禁を含む「IR(統合型リゾート施設)推進法」が衆院本会議を通過し可決されました。日本でカジノが認められることについて、ギャンブル依存症の増加や治安悪化などを心配する声も挙がりますが、それ以上に大きな収益と雇用の創出が期待されています。
3-1 カジノ法案の内容
カジノ法案と呼ばれるIR推進法は、カジノ、ホテル、国際会議場などが一体となった施設の整備を推進する法案です。
政府与党はカジノ法の解禁が経済対策・雇用対策につながるとし、法案の成立を進めていました。かりに横浜、大阪、沖縄の3カ所にカジノなどのリゾート施設を誘致した場合、その経済効果は年間2兆1千億円に及ぶと試算されています(大和総研試算)。(参照:産経ニュース)
3-2 治安は悪化する?ギャンブル依存症対策は?
そもそも日本におけるカジノは、カジノ単独で設営するのではなく、シンガポールやラスベガスのようにIR(大型リゾート施設)の一部として運営されます。
IRは地方自治体の申請に基づきカジノの併設を認める区域を指定されて設置されるため、パチンコ店のように日常生活圏の中に作られることはないとされています。さらに秩序の維持と安全の確保の観点から、内閣府の外局に設置される「カジノ管理委員会」から厳しい規制を受けて運営される予定です。
現在、横浜市がカジノの誘致に名乗りを上げており、臨海部開発に弾みをつけたいとしています。このほか、大阪府や長崎県も誘致を目指しています。
また、政府はギャンブル依存症を対策する法案を検討中で、依存症の蔓延を理由に反対する野党や世間の理解を得るため、2017年の通常国会で審議に入る予定です。
具体案はまだ未定ですが、依存症の疑いがある人にはインターネット経由での購入を制限し、マイナンバー制度を活用して施設への入場を規制することを検討するとしています。(参照:朝日デジタル)
3-3 カジノ解禁で観光客はさらに増える?
カジノは約140カ国で合法化されており、多くの国で外国人観光客を誘致する手段として機能しています。世界一のカジノ大国であるマカオでは、カジノによる収益がGDPの7割を占め、年間4兆5000億円にのぼるほどです。
日本のカジノ法解禁のニュースは、世界のカジノ関連会社の注目を集めました。
香港の大手投資会社であるCLSAは、IR型の日本のカジノ施設は急速にスケールを拡大できるだろうとコメント。会議場からだけでも「一度に数万人の訪問客」が見込めるとしています。
さらに数多くのレストランをカジノへ出店している米企業のハード・ロック・カフェ・インターナショナルは「日本は超大型版シンガポールとなり、マカオを抜く可能性さえある」とコメントしました。
アメリカ・ネバダ州ラスベガスに本社を置くMGMリゾーツ・インターナショナルはすでに東京に開発チームを設置。知名度を上げるために歌舞伎の後援などを行っています。(参照:Bloomberg)
このようにIRは、外国人旅行客の増加や地方活性化の有力な手段として期待されており、誘致に前向きな自治体や外国企業が現れています。
インバウンド消費の落ち込みは、GDPの半分以上を国内消費でまかなう日本経済にとっては死活問題です。人口減少や若者が買い控える傾向のなか、外需に頼らざるを得ない状況です。カジノ解禁は、日本経済にとって新たな起爆剤になるのかもしれません。