経営者となる人にとって会社設立後の課題は、「会社設立後には何をすればいいのか」になります。税務署への届け出などどの会社でも必要となる手続きがある一方、一人会社では雇用続きを進める必要はありません。今回は会社設立後に必要な手続きと、営業活動をスムーズに始める手順・方法、初めて従業員を採用するときの必要書類などをまとめました。ぜひ今記事を参考に、会社設立後の手続きをスムーズに進めてみてください。
1 会社設立後にすることの全体像
会社設立後において重要なのは、会社設立後すべき手続きや行動の全体像を掴むことです。全体の中で、専門家にお願いできることはお願いし、自社でできることは自社で行うという振り分けをすることが大切になります。
会社設立後の手続きは多く、全て自分・自社で行おうとすると会社が本来取り組むべき部分(経営・営業・プロダクトやサービスの開発)に力が回らなくなってしまいます。
それゆえ専門家にできることは積極的に専門家に依頼し、自社にとって本当に重要な部分に力を注ぎましょう。
1-1 会社設立後の大まかな手順
- ①自社の全部事項証明を法務局より取得(専門家に依頼している場合は、専門家が取得してくれている)し、税務署・都道府県・市町村に法人設立の届出を行う。
- ②会社の所在地を正式に決め、賃貸であれば物件を借りる(なお、所在地を決める際は、銀行など金融機関に「この所在地で問題ないか」を確認することが重要。電話番号やネット環境も確保。また銀行などの金融機関に口座開設を事前相談、必要書類を確認しておき、その上で口座開設を行う。
- ③名刺作成手続きやチラシ作成、事業計画作成など事業のアピールツールと、事業計画書など事業方針に関する書類を作る。
- ④資金計画を立てる(できるだけ税理士に相談することをおすすめします。特に日本政策金融公庫などから創業融資を受ける場合は、一度断られると二度目がとても厳しくなるため、専門家の力を借りることが重要です)。
- ⑤厚生年金・健康保険など社会保険への加入手続きを行う(社会保険労務士に依頼するのがお勧め)。
- ⑥必要であれば、事業にかかる許認可の取得を行う(行政書士に依頼するのがお勧め)。
- ⑦従業員を雇用する場合は、まず本当に従業員が必要か(外注や業務委託、クラウドソーシングやニアショアなどで対応できないか)を検討し、必要であれば雇用の検討に入る。
- ⑧従業員の雇用については、極力社会保険労務士に相談し、労働条件通知書作成や適用事業報告の労働基準監督署への提出、36(サブロク)協定書の作成と提出や労働保険(労災・雇用)への加入、社会保険の加入手続きも行う。
- ⑨これまで作った事業計画・人員計画などを踏まえ役員報酬を決める。
- ⑩関係各所への挨拶回りを行う。
- ⑪営業開始時期を決め、関係各所へ報告を行う。
以上の手続きが必要となります。専門家に依頼する必要がある業務が多く、効率化するためには専門家に依頼できるところは依頼することが大切です。
1-2 様々な手続きで必要になる、自社の全部事項証明(いわゆる登記簿謄本)と印鑑+印鑑カードの重要性
今後、様々な手続きで自社の全部事項証明(登記簿謄本)を利用する場面や、法務局に登録した印鑑などを押す局面がでてきます。その際、印鑑(特に法務局に登録した印鑑)と印鑑カードは、経営者にとって通帳と並ぶかそれ以上に大切な存在です。必ず印鑑と印鑑カードは、経営者自身が大切に保管してください。
2 会社の所在地の正式決定と銀行口座開設手続き
会社の所在地(いわゆる本店)をどこにするかは重要事項です。主に業務を行う場所となりますが、必ずしもその場所で仕事をする必要があるわけではありません。ただし、郵便物・荷物の受け取りや、何かあったときの連絡は本店になりますので、できるだけ自分なりスタッフなりが常駐するところを選ぶのが大切です。
2-1 会社の所在地について、4つの注意点
所在地を決定する上での注意点を4つ挙げます。
①立地がこの場所で良いか検討する
立地の重要性は、業種によってかなり別れます。例えば飲食店・物販などの店舗型ビジネスの場合、できるだけ人通りが多く立地の良いところを選んだり、治安に問題のない地域を選ぶなど、場所をよく検討する必要があります。
また、地方の場合、車移動が前提という地域も多いので、駐車場が確保できるかは、店舗型ビジネス・非店舗型ビジネス問わず重要です。
また、自宅外にオフィスを借りる場合、通勤時間の考慮も必要です。立地が良くても通勤に多くの時間を割くようでは仕事場に通うだけでエネルギーを消耗してしまいます。毎日のことになるため通勤の負担というのは念頭に置いたほうがよいでしょう。
②賃料の負担が大きくならないか、また場合によっては自宅を検討する
賃料負担は毎月固定費としてのしかかります。さらに、事務所の改装費・備品費用・水道光熱費・通信費など様々な雑費がかかります。
そのため、店舗型でない業種の場合、自宅開業も一つの選択肢とした方がよいでしょう。ただし、人と会うことや外に出ることが極端に減るため、運動などの健康管理やメンタルの管理は重要になります。
あわせて、賃貸物件に住んでいる場合は、事業用として物件を利用してもよいかという問題が発生します。これも賃貸管理業者や大家さんに事前に確認する必要があります。分譲マンションなどでも、管理組合の規約で事業用利用が禁止されている場合がありますので、規約を確認することをお勧めします。
また、これまでの仕事先や友人・知人が間借りをさせてくれる場合は、負担が少なく、他の人との交流や仕事の紹介などのきっかけも考えられますので、間借りも一つの選択肢といえましょう。
③許認可が必要な業種の場合は、条件を満たすこと
前項目で自宅開業の選択肢も書きましたが、注意すべき点があります。業種によっては、自宅件事務所が認められていない業種もあります。
そのため、自分が行う業態が、「自宅兼事務所だと許認可が下りない業種でないか」ということを自分で確認、許認可を扱う監督官庁や行政書士に相談する必要があります。
④シェアオフィス・バーチャルオフィス(特にバーチャルオフィス)を本店にすることはできるだけ避け、もし本店にする場合は、事前に口座開設予定の金融機関に相談する
近年、口座の不正開設や悪用が問題視され、口座開設、特に法人の口座開設は審査が厳しくなりました。特に、バーチャルオフィスの場合は、犯罪に悪用されることもあるため、バーチャルオフィスを本店とする会社の口座開設を断る金融機関も少なくありません。
また、シェアオフィスの場合はバーチャルオフィスほど厳しくありませんが、やはり独立したオフィスより口座開設に対する審査が厳しくなるケースもあることを想定し、必ず事前に金融機関へ相談したほうがよいでしょう。
2-2 金融機関の口座開設手続
まず、直接金融機関に行く前に、電話連絡を行い、事前に相談をしておきましょう(ネット銀行の場合はコールセンター等に)。
その際、必要な書類の確認や会社の所在地、または所在予定地で問題がないかを確認し、担当者の氏名とやりとりをメモに残しておくことをおすすめします。問題なければ、必要に応じて予約し、銀行の窓口へ必要書類を持参したり、ネット銀行の場合は必要書類を郵便で提出しましょう。
3 名刺作成・チラシなど会社をアピールするツール作成・事業計画の作成と資金計画の立案
会社の宣伝・事業計画の立案など「攻め」の部分と資金計画など「守り」の部分を両方しっかりと固めることも重要です。
3-1 名刺作成・会社アピールツール作成及びweb等でのアピール
名刺についても、会社の所在地・電話番号が決まったら早めに調達しましょう。ハンコを作成する業者の多くが名刺作成も取り扱っています。近年は事業をアピールできる名刺をデザインしてくれるデザイナー・コンサルタントなどもいますので、こだわりがあればそのような専門家に依頼するのも一つの手法です。
あわせて、特に店舗の場合は、オープンにあわせてチラシを新聞折り込みやポスティングなどの形で配布できるよう、準備しておくとよいでしょう。
そして、意外と抜け落ちがちなのが、webでのアピール、広告です。
Webを通した宣伝は、Googleアドワーズ、Yahoo!プロモーションなどがあります。管理が難しいと感じる場合は、webの広告代理店などに依頼する方法もあります。
また、Googleマイビジネスという自社の登録を無料でできるサービスがあります。特に顧客がGoogle等で検索した場合、画面の右側に大きく出てきたり、Googleマップ上で表示してくれたりしますので、ぜひ登録しておくことをおすすめします。
あわせて、できるだけ企業のホームページやブログも開設しておくと良いでしょう。ホームページ制作会社に依頼する方法の他、jimdoやペライチのように、必要最小限のページを比較的簡単に作成できるサービスもあります。
もちろんベストなのは、ホームページ制作会社に制作、google検索などへの対応(SEO)、広告運用などを一括して依頼することですが、そこまでの余裕がない場合でも、Google マイビジネスへの登録は必ず行うようにしておきましょう。
3-2 事業計画の立案・ブラッシュアップ
起業検討時から、おおよその事業計画・資金計画は立てている人が多いかと思いますが、改めて本格的に動くに当たり、事業計画・資金計画を再度ブラッシュアップするようにしてください。事業計画においては、ビジネスモデルキャンバスという概念を用いて考えるのも一つの手法です。
ビジネスモデルキャンバスとは、以下の9要素を書き出す手法です。
- ①事業パートナー
- ②主要な活動
- ③価値の提案
- ④顧客との関係
- ⑤顧客層
- ⑥主要リソース
- ⑦コスト構造
- ⑧(顧客との接点などの)チャンネル
- ⑨収益源
他にも事業プラン・ビジョンをしっかりと定める必要がありますが、大切なのは、「事業プランやビジョンは、地に足のついた着実なものであるか」という観点です。
もちろん、企業を設立する上で、大きな志や目標は大切ですが、あまりにも非現実的なものでは周囲の理解が得られません。特に、金融機関などから融資を受けたり、出資を外部から受ける場合はなおさらです。
できるだけ税理士など起業の事例をたくさん見てきている専門家に確認してもらい、アドバイスを受けながら、現実的な事業プラン・ビジョンにブラッシュアップしていくことが重要です。
3-3 資金計画の立案・創業融資の検討
資金計画の立案と創業融資の検討も非常に重要な事項です。
大別すると、設備資金と運転資金に分けられますので、主だったものをピックアップします。
設備資金
- 机・イス等の備品
- パソコン・通信機器・周辺機器
- ソフトウェア
- その他備品
- (以下必要に応じ)
- 車両運搬具
- オフィスや店舗の敷金、保証金
- 内装費・外装費・店舗看板など
- (フランチャイズの場合)加盟金
- 器具・工具など
- その他
運転資金
- 役員報酬
- 社会保険料
- 従業員・パート給与
- 旅費交通費
- 外注費
- 通信費
- (賃貸物件の場合)賃料
- 広告宣伝費
- リース料(途中解約の場合違約金がかかる)
- 交際費・消耗品費・専門家顧問料・運送料・(融資を受ける場合)支払利息など
このように、多くの種類の支出が存在するため、起業当初は特に無駄のないよう、必要な部分に重点を置いて予算を考える必要があります。
ただ、多くの人の場合この費用を全て手元資金だけでまかなうのはとても難しいでしょう。
そこで「創業融資制度」を検討します。
3-4 創業融資を活用する場合の注意点
創業融資制度とは、日本政策金融公庫や自治体の制度融資など、創業者向けの融資制度です。主に、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」、自治体の、金融機関と信用保証協会を経由した制度融資の2ケースがあります。どちらも、数週間から1~2か月の期間がかかる場合がありますので、早めに準備をしておくことが重要です。
創業融資は、他の企業向けの融資と違い、新規開業者でも比較的受けやすいという傾向があります。その反面、創業融資だからこそチェックされる面もありますので、創業融資特有の注意点を踏まえ、準備をする必要があります。
創業融資で注意すべき点は、3点あります。
①事業計画書をしっかりとまとめる
創業融資の審査は、面談と書面で行われます。ただ、最終的には書面で決裁者の理解を得る必要がありますので、事業計画を、「第三者が読んでも納得できるように」紙に落とし込む必要があります。
・なぜ今回扱う分野で起業するのか、その動機と過去の実績
この点は非常によく問われます。「なぜこの事業で起業するのか?企業勤めなどの経験と実績があるか、ない場合や関わりが薄い場合は、これまでの職務経験などが活かせる部分はあるか」という点は、創業融資の可否にダイレクトに直結します。
例えば、製造業で20年もの作りに携わり、その経験を活かして創業、しかも創業時より元の勤務先から安定した業務委託がある状態で起業するのと、職歴・実績やコネのない人が、「なんとなくかっこよさそう」という理由だけでIT業を創業するのでは、信用度が大きく違います。
前者のほうが「上手くいきそうだ」とイメージできるのは、経験・実績という過去、そして過去との連続性がある上に、元の創業先から退職後も仕事を中できているということから、これまでの仕事に信頼があり、売上の安定性についても期待できるという見込みがあるからです。
一方、いくら面白いビジネスアイデアがあっても、職歴や実績がない状態で創業融資を受けるのは、かなり厳しいといえるでしょう。
ベンチャーキャピタルやクラウドファンディング(不特定多数からの資金を募る方法)など、違った場所や違った形で出資・資金調達を募ることは可能かもしれませんが、確実性を重視する創業融資という面ではかなり厳しいでしょう。
・経営に関するビジョンや目的
会社を設立するからには、今後こうありたいというビジョンや、会社を作って何をするかという目的も問われます。ビジョンは会社の羅針盤であり、目的地を定める一つの規準といえますので、ビジョンや目的はしっかりと定めるべきでしょう。
・簡潔な事業説明
エレベーターピッチのように、会社の事業を30秒程度などの短い時間で完結に語れるくらいにまでシンプルにすることは重要です。
「何をする会社か?」がわかりやすく伝えられないと、融資を出す側も、「この会社は何をするのかわかりにくいけれども、融資を出して良いのだろうか」と思ってしまいます。
・ターゲットは誰か?
誰を顧客とするかということも重要です。一番理想的なパターンは、既に顧客先が開拓できているケースです。前述のケースのように、以前の仕事場から業務委託で業務を受ける契約を書面でしていることや、既に企業などから受注契約を受けた発注書・契約書など具体的な書面などがあると、非常に信頼性が高いです。
企業との契約がない場合でも、誰をターゲットにするかという「ペルソナ設定」は重要です。取引先でも「顧客はこのような人で、このような課題を抱えていて、そこに自社の商品で課題を解決できる」などのストーリーが説明できると、創業融資を審査する側も、融資の継続的な返済が受けられそうなイメージが浮かびやすくなります。
・SWOT分析
Strengths(強み)、Weekneses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の四つの観点から、自社の強い部分や弱い部分(多くの場合、資金力・認知度がない)、チャンス、外部からの脅威要因などを分析する手法です。強みと機会をどう活かすか、弱みと脅威にどう対処するかを説明できるようにしておくと、自社の良いところ、これからの課題双方の分析ができているということで、創業融資の審査側にとっても印象がよいでしょう。
・USP(Unique Selling Propositon)
自社独自の売りを、簡潔な言葉でまとめたものです。「なぜウチの会社なのか」を、シンプルに突き詰めたものが、USPといえます。よく知られた事例として、ドミノピザの「熱々で美味しいピザを30分以内にお届けします。間に合わなければお代はいただきません」というのは非常に有名なUSPです。
あれこれ事業の魅力を長く語るより、短い文章で自社の魅力を端的に伝え、その言葉はシンプルであるが故に、相手の頭にこびりつくというのがUSPの威力といえます。
・資金繰り表・資金計画表
素晴らしいアイデアを立てても、資金がショートしては意味がありません。着実な資金繰りと、必要なところに投資するという姿勢を数字で見せることにより、融資審査担当者も信頼を持って進めやすくなります。
・マーケティング・広告戦略など
前述のUSPと重複する部分もありますが、いかに自社の良さを伝え、売れるものにしていくかという戦略は不可欠です。近年は、Twitter、Facebook、Instagram、LineなどのSNSや伝達ツールを利用した営業・マーケティング活動も多いので、活用するのも一つの手でしょう。ただし、それぞれ注意点があります。
①Twitter・Facebook
業務アカウントであることを心得え、不用意な発言やセンシティブなことに関する発言を控えるのは重要です。特にTwitterの場合、拡散力が大きい(広がりやすい)ため、良い意味で広がるのはいいのですが、悪い意味で広がる、つまり「炎上」の場合、ビジネスにとって大きなマイナスになります。
ネガティブな意見・政治など意見が分かれるような発言、人権問題や宗教などセンシティブな発言や物事の否定は控え、あくまでビジネスのアカウントだと思って注意しながら運用することが必要です。
②Instagram
写真主体のSNSですので、店舗型業種で商品を見せる場合などに便利です。ハッシュタグの使い方や写真の加工方法などコツがありますので、専門の書籍に目を通しておくとよいでしょう。
③Line
こちらも店舗業で近年多く見かけるようになりました。Line登録したら割引やおまけというケースは、よく読者の方もお店で見かけると思います。Line For Businessという、ビジネス利用前提のプランがあるため、ビジネスで使う場合はこちらを検討しましょう。
特に店舗型の場合は、キャンペーン告知や、お知らせを送ることにより、店舗の存在を覚え続けてもらうという意味がありますので、ぜひ活用するとよいでしょう。こちらもLineのビジネス活用法を解説した書籍がありますので、ぜひ参考にしてみてください。
④Linkedin
日本での認知はまだこれからですが、ビジネス向けのSNSで、特に採用を行うときやビジネスの話を行うときに適したSNSです。他にもWantedly、eightなど採用・ビジネス向けのSNSもありますので、必要に応じて活用するとよいでしょう。
・事業別・商品別の売上・損益計画
事業・商品は複数にわたるケースも少なくないと思います。例えば、IT企業であれば、受託開発を手がけることにより毎月の売上を安定して立てる一方、自社開発のプロダクトを開発するなど、「安定した分野」と「これから伸ばす分野」のように別れるケースもあるでしょう。
このような場合、当初は赤字でも、これから伸びる、という分野がある場合は、その将来性も含めて積極的に解説していくことが必要です。
・損益予測計算及び今後の利益計画
起業後1年の売上・諸経費などを毎月記載します。また、数年スパンでの計画も記載します。この計画はあくまで現実的かつ堅実な数値であることが重要です。
以上、事業計画書に盛り込む内容について触れました。
注意すべきは、ひな形の創業計画書にそのまま記載するのではなく、「別紙記載」などの形で詳細な創業計画書を作成しておくことです。
②自己資金を事前に貯めておく
日本政策金融公庫や自治体の創業融資制度では、自己資本が2分の1から10分の1が必要とされるケースが多く、また、融資審査の際、代表者個人の預金通帳を提出し、過去6ヶ月~1年におけるお金の動きをチェックされる可能性が高いと考えてください。
また、通帳チェックでは、毎月の公共料金の引き落とし忘れや、自己資本をためたプロセス(急に大きなお金が入っていると、どこから調達したのかかが疑われる)も確認されます。
そして、通常の借り入れのように信用情報機関への確認も行われますので、住宅・自動車ローンは仕方がないですが、銀行・消費者金融のカードローンなどは借りない、事前に完済しておく等の対策をとるようにしてください。
③面談に気を付ける
融資の場合、面接に近い面談を受けることが多いです。税理士など専門家を連れていくと逆に印象が良くないこともあるため、自分一人もしくは事業の共同経営者など「身内」と行くようにしましょう。
また、服装はスーツで行くようにします。どの職種でもラフな服装は厳禁です。また、ウソをつかない、わかりやすく話すなど、仮に何も知識がない相手に自分の事業の良さと強みを伝えるにはどのような伝え方がよいのかという観点で、簡潔かつ明確に伝えるようにしてください。
おすすめなのは、書面作成・面談対応の練習などの形で、税理士など専門家のアドバイスを受けることです。税理士のみならず、創業融資に強い専門家もいますので、できるだけ専門家のアドバイスを受けた上で、事業計画・資金計画を練り上げていきましょう。
もちろん、事業が予想通りに進むとは限りません。しかし、目的地を決めないで旅に出てしまうとどこに辿り着いてしまうのかわからないように、方向性やビジョンを定めておかないと、会社の事業方針がぶれたり、資金計画を立てておかないと、必要以上に資金を使ったことによる資金ショートなども起こりえます。
専門家の客観的なアドバイスを受け、事業計画・資金計画をよく練ることは重要です。できるだけ税理士など専門家の客観的なアドバイスを受け、事業計画書をブラッシュアップすることをお勧めします。
4 税務署等への届け出、社会保険への加入手続き
登記完了後に必要となる手続きには、大別して、「税金」の手続と「社会保険・労務」の関係で必要になるものの2種類があります。
4-1 税務署等への届出
まずは、税金については、税務署・都道府県税事務所・市町村(23区内は不要)の3カ所への法人設立届出書の提出が必要となります。
また青色申告の承認申請書も提出、他にも必要に応じて給与支払事務所等の開設届出書・源泉所得税の納期の特例書・消費税簡易課税制度選択届出書など複数書類があり、税務署・税理士と相談し、提出する必要がある場合は作成・提出する必要があります。
また、税務署提出書類の種類は複数あり、かつ煩雑な手続きです。ぜひ税理士に依頼することをおすすめします。
4-2 社会保険・労務の手続
次に、「社会保険・労務」の関係ですが、これも専門家の社会保険労務士に依頼することをおすすめします。
人の雇用の有無を問わず、年金事務所への健康保険・厚生年金保険新規適用届の提出は必要です。
また、人の雇用(パート含む)を行う場合は、届出先が、年金事務所・労働基準監督署・ハローワーク(公共職業安定所)の3カ所となります。
特に、労働基準監督署の提出書類については、適用事業報告、労働保険関係成立届・労働保険概算保険料申告書に加え、時間外労働を行う場合は時間外・休日労働に関する協定書、いわゆる36(サブロク)協定書を作成し提出する必要があります。特に36協定書に関しては、作成を社会保険労務士に依頼するのが確実です(詳細は後述)。
そして、2019年4月より本格的に開始した「働き方改革」により、労務管理の重要性がより高まっております。働き方改革に対応する労務管理や、ITによる業務の効率化、働き方改革関連の政府施策・補助金・助成金などについても、労務の専門家である社会保険労務士に相談し、必要な対策を考えることが重要です。
税務・社会保険・労務に関し必要な書類、事項を書くと膨大な量になるため、ここでは、書類提出が必要になる先など最小限のことを記入しました。
税務・社会保険・労務の手続きは、経営者だけで行おうとすると、どうしても抜け漏れが発生しやすくなってしまいますので、書類仕事に経営者のリソースを割くより、売上や実績につながる部分に力を注ぎ、税務は税理士、社会保険・労務は社会保険労務士に依頼するようにすると良いでしょう。
5 その他会社設立後の手続き
行う業種によっては、官公庁・地方自治体の許認可が必要になる業種があります。また、人を雇うときや立地、業種、その他の要件で、補助金・助成金が申請できる場合もあります。
5-1 許認可の手続きが必要な業種の代表例
手続きの種類は、許可・登録・届出と3種類あり、業種ごとに管轄を行う官庁や機関が異なります。許認可が必要な業種を全て挙げると非常に量が多くなりますので、グループ分けしてピックアップします。
①土地・建設・運輸・産業廃棄物系
建設業・宅建業・トラックなどの運送業、タクシー業、自動車整備業、倉庫業・軽トラック運送業など
②販売業
酒の製造・販売、タバコ販売、中古品販売など
③レジャー業・飲食業
旅行業・旅行代理店業、パチンコ店、マージャン店、ホテル・旅館業、飲食店など
④医療・介護事業
医療法人設立・介護事業設立、介護タクシーなど
⑤理美容・クリーニングなど衛生に関わる業種
理髪店、美容院、クリーニング店など
⑥金融業
貸金業、投資顧問業、暗号資産取引所など
⑦その他
探偵業・警備業など公安委員会の許可や登録、届出が必要な業種
上記はほんの一例ですが、許認可が必要になるケースがあります。税理士(行政書士資格も有している場合が多い)や、行政書士の許認可の専門家に相談し、手続きを依頼することをおすすめします。
5-2 補助金・助成金の活用
業種・業態や各自治体の施策で、補助金や助成金などを受けられるケースがあります。
こちらも、社会保険労務士・税理士・行政書士・会社設立代行会社などの専門家・事業者が詳しいパターンが多いので、専門家に依頼するとよいでしょう。
補助金・助成金の存在については、都道府県のホームページや地域の商工会議所、ミラサポなど、補助金・助成金の情報を網羅したサイトもあります。依頼している税理士などの専門家のネットワークで、「このような補助金・助成金が利用できますよ」と知らせてくれる場合もありますが、「補助金・助成金の活用を考えている」ことを専門家に伝えることは必要でしょう。
補助金・助成金で重要なポイントを4つ挙げます。
①補助金・助成金はそれぞれ募集期間がある
補助金・助成金は、毎年一定の予算枠の中で公募、決定、公布されるため、特に4月以降に、補助金・助成金の情報を意識する必要があります。
②補助金・助成金は必ずしも受けられるとは限らない
補助金・助成金は一定の予算枠や審査がありますので、申し込めば必ず受け取れるとは限りません。そのため、補助金・助成金を当てにした計画を立てるのではなく、補助金・助成金がない場合でも問題のない「プランB」を考えておく必要があります。
③補助金・助成金は全額ではなく必要額の半分や3分の2などのケースが多い
補助金・助成金は、あることに必要な費用の一定割合を補助・助成するという形が多いです。そのため、補助金・助成金活用を前提とするより、必要なこと、したいことがあるから補助金・助成金を検討するというのが、健全な補助金・助成金活用の考え方といえましょう。
④補助金・助成金は後払い
補助金・助成金は購入の領収書や雇用関係の書類など、先にお金を出した後申請、その後支払が行われます。そのため、あくまで補助的なもので、貰えればありがたいくらいに考える必要があります
⑤補助金・助成金を受け取った後報告義務があるケースも多く、不正や報告義務の怠りがあると返還を求められるケースも
補助金・助成金は、税金から出ています。そのため、受給後の報告や、受給後時間が経ってからの報告が必要である補助金・助成金も多いです。また、内容に不正や報告義務の怠りがあると、補助金・助成金の返還を求められることもあります。
そのため、補助金・助成金を受けることは、専門家のアドバイスも含めて慎重に検討し、報告義務がある場合は、専門家と連携して、報告義務の怠りがないように注意してください。
6 役員報酬の決定
役員報酬をどのように決めるかも、起業において重要なポイントです。
6-1 役員報酬決定の注意点
役員報酬は一度決めると、原則一年間変更できません。ですので、極力税理士と相談し、最初は役員報酬をできるだけ控えめ(生活に必要な額+アルファ)に設定することをおすすめします。
なぜなら、以前の起業で必要な資金に関する項目でも述べたように、起業時はともかく、役員報酬以外の部分でも大きなお金がかかるからです。できるだけ税理士のような専門家と相談して、役員報酬を決めることをおすすめします。
7 関係各所へのあいさつ回り
関係各所にあいさつ回りをすることにより、自分の事業を認知してもらうことも不可欠です。
7-1 あいさつ回りやハガキ・メールでの連絡
特に店舗を構える業種であれば、近隣のテナントへのあいさつ回りは必須です。また、これまでお世話になった方、お世話になっている方にもあいさつ回りをしておくとよいでしょう。また、遠方や、直接の連絡が難しい方、つながりがあるが、それほど濃くない方には、ハガキやメールで開業のお知らせを送る(ハガキの方が印象がよい)とよいでしょう。
基本的には会社設立・運営に関することは専門家に依頼するのが確実ですが、あいさつ回りやハガキなどの連絡は、創業者自身が行うのが望ましいです。
また、ハガキで出すときは、印刷であっても本文に一言入れたり、望ましいのは全て手書きで書くことです。
非効率には見えますが、やはり受け取る側としては、印刷された画一的なハガキより、手書きのハガキの方が印象に残り、良いイメージを持ってもらえます。
あわせて、開業を知った友人・知人からアドバイスや顧客紹介などを受けられる可能性もありますので、このような地道な営業活動は、着実に行うことをおすすめします。
7-2 SNSなどでの告知
近年は、前にも述べたtwitter、Facebook、LineなどのSNS、メッセンジャーを利用している方も多いので、これを利用するのも一つのアピール手段です。
注意したいのは、それぞれのタイムラインでは、押しつけがましさのないようにアピールすることと、SNSでつながっている相手に直接メッセージで連絡する場合は、相手の迷惑にならない時間に配信する、全員に同じ文を送るのではなく、できるだけ相手に一言付け加えたり、相手の心に響くような提案をすることです。
せっかく連絡をしても、画一的な営業メールでは、相手の印象に残りにくいことも考えられます。できるだけ、相手にきちんと向けたメッセージを書くことをおすすめします。
7-3 地域の商工会議所にはできるだけ入会しておこう
起業をすると、いろいろな団体へのお誘いがあります。商工会議所、JC(青年会議所)、ロータリークラブなど、様々な団体があります。入会後の活動への関与の必要性や、会費やその他支出などの点も踏まえて、必要であれば入会を検討するのも一つの手です。ただし、無理して全てに関わろうとするのは大変なので、その点は留意した方がいいと思います。
なお、商工会議所は、会費がさほど高くなく、年間1~2万円程度で、経営相談やマル系融資という有利な融資制度なども活用でき、会に対しても、積極的に参画することが義務ではないので、入会しても負担が少ないケースが多いです。(ただし、青年部や各種部会に入ると、それぞれの活動が発生しますので、無理のない程度にするとよいでしょう)
8 営業活動開始時期はいつから
営業活動開始の時期は、業種により異なりますが、飲食業・物販などの店舗型の場合は強く意識、それ以外の場合は、会社設立後すぐスタートが望ましいといえます。
8-1 営業活動開始の時期について
営業活動開始時期については、店舗など店を構える業種と、事務所や自宅など来客をさほど想定しない業種では異なります。
店舗型ビジネスの場合は、店舗の内外装の完成、従業員・アルバイトの採用を経て、準備が整ってから開始するのが一般的ですし、オープンする商業施設にテナントとして入る場合は、そのオープンや先方が提示する日程に合わせる必要があります。
IT、製造業など一般の人ではなく、ビジネス関係の人のみが来るような業種では、こだわりがない限りは、会社設立完了後すぐに、営業活動に向けて動いたほうがよいでしょう。
9 会社設立後の各種手続きでも専門家の力を借りる
会社設立後の各種手続きも、非常に複雑であることがおわかりいただけたかと思います。しかし、ここに記した手続きは、開業後の手続きの主なポイントを述べたに過ぎず、実際には相当な作成書類・検討事項・注意点が存在します。
業界・業種・各種手続きのプロセスなどで、「やってはいけないこと」のような不文律が存在するケースも多いです。例えば、前述の融資の事例のように、「自己資金を貯めずに融資申請をしようとしてしまう」「許認可の要件で、自宅兼事務所は認められない業種なのに、自宅兼事務所で登録してしまう」のように、いざというときになって初めてミスに気づく恐れもあります。
そのため、手続きなどの分野は専門家に依頼することが、このような「やってはいけないこと」を回避するための重要なポイントとなります。
鉄鋼王と呼ばれたアンドリュー・カーネギーの墓には、「己より賢明なる人物を身辺に集める術を修めし者ここに眠る」という言葉が刻まれています。この言葉からアンドリュー・カーネギーがどれだけ周囲に自分より賢い(かつ専門分野に通じた)人を集め、そして彼らの力を活かして大成功を収めたかが読み取れます。
どのように豊富な知識を持つ人であっても、全ての分野に精通することは、極めて難しいです。「餅は餅屋」という言葉が昔からあるように、以前から経験を蓄積した専門家であれば簡単に解決できる問題を、起業家の自分がやろうとすれば、かえって手間もかかりますし、エネルギーも分散し、結局成果につながらない苦労や努力になってしまうおそれもあります。
そのため、手続きなど事務的な部分はぜひ専門家に依頼し、会社設立を行うご自身は、会社を成長させることに注力するのがよいでしょう。
さらに会社設立前や直後は特に気が張っているので、無理が重なりがちになります。会社経営は長期戦ですので、一時的に無理をしすぎて、体を壊すことがあってはいけません。睡眠を十分(6~8時間)とり、食生活に気を配ることや、繰り返し書いているように、専門家に任せられる部分は専門家に委託するなども重要です。
「自分の行っていることは会社の売上・顧客貢献・成長に直結できるか」「利益に関わらない雑務に逃げていないか」「自分の頭をきちんと使っているか」などは常に念頭に置きましょう。
10 初めての従業員を雇用するときの手続き
初めて従業員を雇う場合、会社設立の際と同様に用意すべき書類や手続きがあります。従業員を雇う時期は通常人手が不足していますので、忙しい時にでも抜けもれなく計画的に効率的に実施できるように、概要を押さえておくと良いでしょう。P
10-1 従業員の種類
従業員とは一般的には企業に雇われている人をいい、正社員や契約社員やアルバイト·パート社員が含まれます。会社の役員や業務委託先の社員は含みません。
一般的には正社員は期限を設けることなく長期的に働く社員になるため、賞与や基本給など収入の面が好条件で、雇用保険や健康保険などの福利厚生も充実しています。契約社員やアルバイト·パート社員は契約時の労働条件が正社員より限定的です。その分収入が正社員より低く、福利厚生も異なってくる場合もあります。一方で正社員より自由度が高く、職場も限定されているため、転勤などはありません。
10-2 雇用に係る抑えるべき法律
雇用に係る契約に大きくかかわるのは『労働契約法』と『労働基準法』の二つで、どちらも根本の目的は労働者の環境整備のためにあります。詳細までを知らなくても、大枠を理解する事は従業員とのトラブル回避のために必要です。
労働契約法は従業員が働く条件である労働条件について定めた法律で、労働契約の締結か周知された就業規則によって定められている必要があります。就業規則を下回る条件になっている労働契約があった場合はその労働契約は無効になります。またもし従業員と企業の間で合意があれば労働契約は変更する事もできます。
労働基準法は解雇や労働時間や休日·休憩や賃金支払い·時間外と休日および深夜労働の割増賃金などの労働するうえで確認すべき項目の最低基準を定めた法律になります。
10-3 項目別対応一覧
項目別に対応事項と必要手続きならびに対応時期を入社前後でまとめました。
NO | 大項目 | 対応事項 | 手続き | 対応時期 |
---|---|---|---|---|
1 | 法定三帳簿 | 労働者名簿 | 作成 | 入社前 |
2 | 賃金台帳 | 作成 | 入社前 | |
3 | 出勤簿 | 作成 | 入社前 | |
4 | 従業員必要書類 | 提出必要書類一覧 | 案内 | 入社前 |
5 | 労働契約手続き | 労働契約書 | 締結 | 入社当日 |
6 | 労働条件通知書* | 交付 | 入社当日 | |
7 | 労働保険手続き | 労災保険 | 加入 | 入社後すぐ |
8 | 雇用保険 | 加入 | 入社後すぐ | |
9 | 社会保険手続き | 健康保険 | 加入 | 入社後すぐ |
10 | 厚生年金保険 | 加入 | 入社後すぐ | |
11 | 介護保険** | 加入 | 入社後すぐ | |
12 | 税金関係手続 | 給与支払事務所等の開設 | 届出 | 入社後すぐ |
13 | 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 届出 | 入社後すぐ | |
14 | 住民税給与所得者異動届出書 | 届出 | 入社後すぐ | |
15 | 税金関係手続 | 特別徴収切替届出(依頼)書 | 届出 | 入社後すぐ |
*交付が義務づけられている労働条件通知書は雇用契約書に含める事をお勧めします。
**従業員が40歳以上の場合に必要になります。
11 従業員との受領·交付書類
入社当日に従業員から受領する書類、従業員へ交付する書類があります。初めての従業員が入社する日は慌ただしくなる事が予想されます。前項でも入社前に事前に用意すべき書類として『従業員提出必要書類一覧』を記載しておりますが、あわせて交付書類ならびに事前準備書類一式も作成しておくことを推奨します。
11-1 従業員からの受取書類
本人や経歴などの確認や、業務上必要な身元保証や秘密保持のための書類など、会社で勤務する上での必要書類と、社会保険や労働保険などの手続きで各機関への提出のための必要書類があります。
◆会社で勤務する上で必要書類
- ①履歴書
- ②職務経歴書
- ③住民記載事項証明書
- ④口座振替依頼書
- ⑤通勤手当申請書
- ⑥3か月以内に受診した健康診断書…入社後の健康診断実施でも可能です。
- ⑦卒業証明書…新卒採用のみ提出を行います。
- ⑧身元保証書…入社する本人が社会人に相応しい事や、会社に損失を与えた場合にその賠償責任を本人とともに負う事などを保証する身元保証人が提出する契約書です。
- ⑨秘密保持契約書…自社の情報を外部に漏らさない事を約束するための契約書です。
◆各機関への提出のための必要書類
- ①給与所得者の扶養控除等(異動)申告書…毎月の源泉徴収税額を決めるために必要な扶養親族情報を記載する書類です。
- ②健康保険被扶養者(異動)届…所得税の源泉徴収税額を決めるために必要な扶養家族人数を確認する書類です。
- ③給与所得者の源泉徴収票…入社した年に該当従業員が他社から給与所得がない場合は提出不要です。
- ④雇用保険被保険者証…雇用保険に一度も未加入の場合は提出不要です。
- ⑤年金手帳・基礎年金番号通知書…コピーでの提出も可能です。被扶養配偶者がいる場合、被扶養配偶者分も提出が必要です。
11-2 従業員への交付書類
労働基準法により全ての従業員に労働条件を文章(一部口頭でも可)で明示する必要があります。労働条件を明示する文章形態は定められていないため、書面はもちろんメール等でも問題はありませんが、労働条件通知書兼労働契約書として従業員の署名を得たうえで会社と従業員の両者で保管しておくことが最良です。なお労働条件通知書は労働者厚生労働省のwebサイトにサンプルがあります。参考にしてください。
12 各種保険の手続き
入社後に申請·届出など手続きを行う必要があるのが、各種保険になります。状況により必要なものとそうでないものが分かれるため、抜け漏れが発生しやすくなっています。各種保険の加入は従業員にとっても重要です。手続きの完了はもちろんですが、正しい十分な説明を行う事で従業員からの信頼を得る事につながります。
12-1 社会保険(広義)の分類
ケガや病気、失業、出産、死亡などに対する公的な保険が社会保険(広義)です。社会保険は以下のように自営業者のための「一般国民保険」と従業員のための「被用者保険」に分けられます。さらに被用者保険は「社会保険(狭義)」と「労働保険」に分かれます。
◆社会保険(広義)の分類
大分類 | 中分類 | 保険名称 | 窓口官公庁 |
---|---|---|---|
一般国民保険 | 国民健康保険 | 市区町村 | |
国民年金 | |||
被用者保険 | 社会保険(狭義) | 健康保険 | 健康保険組合 |
介護保険 | 年金事務所 | ||
厚生年金保険 | 年金事務所 | ||
労働保険 | 雇用保険 | 公共職業安定所 | |
労災保険 | 労働基準監督署 |
12-2 社会保険(狭義)
社会保険の雇用者側の加入義務は、「全ての法人」と「個人事業で従業員5人以上が常時勤務」の2つの場合に発生します。
また加入対象になる従業員は常時雇用される従業員になります。パートやアルバイトなどの雇用の場合も、1か月の所定労働日数が一般社員の4分の3以上で、かつ1日の所定労働時間が一般社員の4分の3以上である場合は加入対象になります。
社会保険手続きについては、管轄する年金事務所に雇用開始から5日以内に以下の書類を提出します。
- ①新規適用届
- ②被保険者資格届出
- ③保険料口座振替納付(変更)申出書…口座振替希望の場合に提出します。
- ④健康保険被扶養者(異動)届…扶養者がいる場合に提出します。
12-3 労働保険
労働保険の雇用者側の加入義務は、全ての法人と個人事業(常時5人未満の農林水産業を除く)にあります。加入対象となる従業員は労災保険と雇用保険で異なります。
- 労災保険…家族以外の全ての従業員が対象です。
- 雇用保険…週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上雇用する予定の従業員が対象です。
労働保険の手続きは一元適用業者*は労災保険と雇用保険の手続きをまとめて行う事ができます。管轄する各届出先に提出します。なお提出期限もそれぞれ異なりますので、間違いがないよう注意が必要です。
◆届出書類別の期限と届出先
届出書類 | 届出期限 | 届出先 |
---|---|---|
保険関係成立届 | 雇用開始から10日以内 | 管轄の労働基準監督署 |
概算保険料申告書 | 雇用開始から50日以内 | |
雇用保険適用事業所設置届 | 設置日より10日以内 | 管轄の公共職業安定所 |
雇用保険被保険者資格取得届 | 雇用開始月翌月10日迄 |
*一元適用業者以外は、農林漁業や建設業等の二元適用業者があります。二元適用業者は保険関係成立届と概算保険料申告書を労災保険と雇用保険に分けて提出する必要があります。
13 その他
従業員に給与を支払う際に、会社は所得税や住民税などの源泉徴収を行う義務があります。そのために事前に各種届出が必要になります。また万が一従業員が退職する場合の必要事項についてもまとめます。
13-1 各種税金関係
源泉徴収とは従業員の所得にかかる所得税や住民税などを従業員の給与から差し引き、従業員に代わって事業者が納税することをいいます。従業員に給与を支払う事業者は必須になります。
税金納税のための手続きは管轄の税務署と市区町村で行います。
必須の届出は、従業員の雇用日から1か月以内に管轄の税務署で行う『給与支払い事務所等の開設届出書』があります。それ以外は納付を年2回に分ける事を希望する場合は『源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書』を税務署で申請します。(但し、個人事業で給与支給者が9人以下の場合に申請が可能です)
また従業員が特別徴収*へ切替えを行う依頼書の『特別徴収切替届出(依頼)書』と、従業員が特別徴収の継続希望を申請する『住民税給与所得者異動届出書』があります。(但し特別徴収の継続は前職退職時期が6月1日~12月31日である事が必要です。)
*特別徴収とは毎月支払う給与から住民税を差し引く方法になります。一方で個人事業者だった場合や働いていないなどの場合で、住民税を住民自ら納付する方法を普通徴収と言います。
13-2 万が一従業員が退職する場合は?
従業員が正社員でもパートやアルバイトでも雇用保険や社会保険に加入している場合は以下の手続きが必要になります。
- ①雇用保険被保険者資格喪失届(退職日翌日から10日以内に管轄の公共職業安定所に届出)
- ②雇用保険被保険者離職証明書(退職者が離職票を希望した場合に上記①と同時に届出)
- ③健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届(退職日翌日から5日以内に管轄の年金事務所に届出)
- ④給与支払報告に係る給与所得異動届(退職月の翌月10日までに市区町村に届出)
その他退職者に受け渡す書類等と受領する書類等は以下になります。
◆退職時に退職者に受け渡す書類
- ①離職票…退職者が次の勤務先が決まっていなくて、かつ希望があった場合に渡します。
- ②雇用保険被保険者証…会社側で保管していた場合に返却します。
- ③年金手帳…会社側で保管していた場合に返却します。
- ④健康保険被保険者資格喪失確認通知書…年金事務所から書類が送付されてきます。到着次第、退職者に渡す必要があります。
- ⑤源泉徴収票…退職した年の給与から天引きされた所得税金額が記載されています。
◆従業員から返却を受ける書類等
- ①健康保険被保険者証
- ②社員証
- ③名刺(本人の名刺と受け取った名刺も返却を受けてください。)
- ④その他貸与物
初めて雇う従業員には一日でも早く即戦力として会社の成長に貢献してほしいと思うものです。そのためにも従業員が安心して働ける環境づくりは重要になります。入社前後のやり取りも安心して働ける環境づくりの一つであり、かつ何事も最初が肝心です。初めて従業員を雇う時期は売上の成長が見込める時期などで、総じて経営も忙しい時期です。ぶっつけ本番になって必要以上の時間をかけないように、十分準備をして臨みましょう。
14 会社設立後に大切なことまとめ
最後に、会社設立後に大切なことをまとめます。
- ①会社設立後も専門家に依頼できる部分は専門家に依頼する
- ②経営者は事業の開発、宣伝、マーケティング、採用活動、事業方針の決定など、経営者がすべき本来の仕事に力を注ぎ、雑務はできるだけ外部に依頼
- ③お金は堅実に、使うべきところ(業務開発・PR・専門家への依頼など)にお金を使い、華美な内装や無駄な人員採用は避ける
- ④資金調達は計画的な事前準備を。また、補助金・助成金は、活用することは大切だが、補助金・助成金ありきの経営になってはいけない
- ⑤努力は必要だが、成果につながる努力を行い、また無理をしすぎず、長期的に活動できるようにする
以上のポイントに留意し、会社設立後の手続きをスムーズに進めてみてください。