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財務諸表(決算書)と財務分析~貸借対照表の読み方と分析~

会社の1年間の事業活動を数字で示したのが決算書(財務諸表)と呼ばれる計算書類です。財務諸表はよく会社の健康診断書にたとえられます。会社の商業取引を始め、お金の動きは必ず会計帳簿上に記録されますから、財務諸表もとい貸借対照表や損益計算書には、会社が何をしてきたのか、これから何をする予定なのか、その結果どういう状況になったのかということが詳細に記録されています。したがって、貸借対照表や損益計算書を読めるようになれば、全てとは言えませんが、その会社の財務状況を知ることができます。これが財務分析と呼ばれる作業です。

 

とはいえ、そもそも「貸借対照表って何だ?」、「売掛金、未払費用って?」、「よくわからない数字ばかりで眠くなる」という人にとっては中々にハードルが高い内容でもあります。そこで、難しい話はできるだけ避けつつ、財務諸表のどこを見れば、あるいはどの数字を見比べることによってどんな情報を得られるのかということを、財務諸表の概要とひとつひとつの勘定科目についての基本的な話もセットで説明していきます。今回は貸借対照表と財務分析について見ていきましょう。

 

 

1 流動資産から見る財務分析

日本の会計基準においては、「貸借対照表(B/S、バランスシート)」、「損益計算書(P/L)」、「キャッシュフロー計算書(C/F)」、「株主資本等変動計算書(S/S)」の4種類が規定されています。

 

 

1-1 財務諸表の概要

それぞれの財務諸表の役割は次の通りです。

 

  • 貸借対照表・・・会社の資産、負債の状況を表示
  • 損益計算書・・・会社の1年間(もしくは一事業年度)の経営成績を表示
  • キャッシュフロー計算書・・・会社の1年間(もしくは1事業年度)の現預金の変動を表示
  • 株主資本等変動計算書・・・会社の1年間(もしくは1事業年度)の純資産の変動を表示

 

それぞれの財務諸表には、株主や借入先の銀行、あるいは税務署等に会社の状況を詳細に報告するための役割があります。メインは貸借対照表と損益計算書の二つですが、その二つの財務諸表では表示しきれない情報を補完するためにキャッシュフロー計算書と株主資本等変動計算書があります。とは言え、やはり財務分析において重要になるのは貸借対照表と損益計算書なので、今回はこの2つの財務諸表のうち貸借対照表について説明していきます

 

 

1-2 貸借対照表とは

貸借対照表とは、前述の通り会社の資産、負債の状況を表示するものです。分かりやすくサラリーマンに例えると、年収が損益計算書に表示される情報で、通帳の残高が貸借対照表に表示される情報です。たとえば4月1日の通帳残高が100万円だったとすると、年収が500万円のサラリーマンであれば、1年後の3月31日の残高は600万円になっているでしょう。

 

とは言え、実際には額面通りの給与が口座に振り込まれるわけではありませんし、1年間もあれば電気代や電話代、食費、あるいは固定資産税なども払うでしょうから、現実の残高はもっと少ない額になっているはずです。あるいは無駄遣いをしていれば、残高は当初の100万円より少なくなっているなんてこともあるかもしれません。もしも100万円もあったはずの残高が1年後は10万円しかないということにでもなれば、「なぜこれだけしか残ってないのだろう?」と疑問に思い、その原因を調べようとするはずです。大雑把な言い方ですが、それが財務分析というものです。

 

話を戻しますが貸借対照表とは、1年間の事業活動の結果、財産状況がどうなったのかということの報告書であるといえます。したがって、たとえば通帳の残高と同じように、貸借対照表も1年前の数字と比較することによって何があったのかということを把握する基礎になります。前年とほとんど数字が変わらないならおよそ問題は無いと思われますが、たとえば流動資産の現金、預金が大幅に減っていれば、何か異常なことが起きた可能性がありますし、それは企業の安全性を評価する上で重要な情報にもなります。

 

貸借対照表が示すのは資産だけではありません、負債も対象になります。たとえばあなたが銀行から借金をしたり、ローンを組んだりした場合、当然ですが借りた分について返済する義務が生じます。それは企業も同じで、銀行から受けた融資については返済義務があるので、その借入残高が負債の部に計上されます。またそれ以外でも、仕入れのツケをあらわす買掛金や支払手形、あるいは将来支払う予定の賞与なども負債の部に計上されます。要するに負債とは、「会社はこれだけのお金を支払う義務があります」ということを表示しているのです。
そして資産と負債以外にもう一つ、純資産という貸借対照表を構成する要素があります。純資産にも色々と科目がありますが、分かりやすさを優先してここでは株主が出資した資本金で構成されていると考えてください。

 

資産は計算上、資産=負債+純資産であらすことができます。しかし、これだけだとなぜそうなるのかイメージができないかもしれないので、簡単な例で説明します。たとえば銀行から3年後に返済する契約で100万円を借入れたとしましょう。このとき、会計上では以下のような仕訳を行います。

 

・ 借方

現金預金 1,000,000 (流動資産)

 

・ 貸方

長期借入金 1,000,000 (固定負債)

 

このように銀行からお金を借り入れた場合、資産として現預金が増えると同時に、負債の方に同額の借入金が発生することになります。

 

次に、たとえば株主から100万円の出資を受けたとしましょう。この場合、会計上ではこのような処理になります。

 

・ 借方

現金預金 1,000,000 (流動資産)

 

・ 貸方

資本金 1,000,000 (純資産)

 

100万円の出資を受けたので資産として現金預金が増えますが、同時に純資産として資本金が100万円増えます。これは上述の借入を行ったさいに100万円の借金がありますということを表示しているのと一緒で、この場合は100万円の出資を受けましたということと、株主がいるということを、貸借対照表を読む人に伝えているのです。

 

資産(現金預金200万円)=負債(長期借入金100万円)+純資産(資本金100万円)

 

借入金の100万円と、資本金の100万円を合わせて資産の部では現金預金が200万円ある状態です。そして負債と純資産にそれぞれ100万円ずつあります。よって、資産200万円=負債100万円+純資産100万円という公式が成り立つことになるわけです。ちなみに資産と純資産の違いですが、純資産というのは資本金のように原則として返済をする必要がありません。株主総会で出資の払戻しの決議を行った場合は返済する必要がありますが、少なくとも決議が無い限りは永久に会社の懐に入れたままでも問題はありません。それゆえに、純資産は自己資本、すなわち会社自身のお金として捉えられています。

 

それに対して銀行などからの借り入れによって取得した現金預金は、一定の期日後に銀行に返済をしなければなりません。確かに借り入れたお金は一旦会社の資産になるのですが、必ず返済をしなければならないという義務があるので、完全に会社の所有する資産であるとは言えません。したがって、先ほどの例だと同じように銀行からの借り入れと株主からの出資によって現金預金が100万円ずつ増えましたが、同じ100万円というお金でも、本質的に自分のものかそうでないかという違いがあります。その様な意味で、純粋な自己の資産とそうでないものに分けて、資産と純資産の二つの構成要素が存在しているということになります。俯瞰的な説明ではありますが、財務諸表の概観の説明は以上になります。次はさらに財務諸表について掘り下げつつ、財務分析についても説明していきましょう。

 

 

1-3 流動資産から見る財務分析

流動資産というのは、1年以内に現金預金になる、つまり流動性が高い資産を表示した項目です。具体例としては、以下の図のような形式になっています。

 

単位:円

科目 Ⅹ1年度
( 資産の部 )
流 動 資 産
現金および預金
受取手形
売掛金
商品
前払費用
繰延税金資産
短期貸付金
未収入金
貸倒引当金


4,500,000
500,000
4,000,000
200,000
250,000
340,000
200,000
300,000
△282,000

 

会計に触れたことの無い人にとっては「見たことがない科目が大量に並んでいる」と感じることかと思います。この並び方には流動性配列法というルールがあり、換金性の高い科目から順番に並んでいます。一番上に来るのはやはり現金、それから預金(要求払い預金)になります。次に銀行で割り引くことによってすぐに現預金に変換できる受取手形、得意先へのツケ払いを示す売掛金という具合に、現金化しやすいものから順番に並んでいるのです。それでは次にそれぞれの科目について説明していきましょう。

 

● 現金および預金

これについては説明する必要はあまり無いと思われますが、その名前の通り、会社が持っている現金と預金です。しかし、この現金および預金は貸借対照表における最重要科目と言っても過言ではありません。というのも、簿記というのはこのお金の動きを仕訳という形で記録するものであり、決算もとい財務諸表というのは、全てのお金の流れを一つ一つ仕訳で記録し、その全ての仕訳を集約した結晶ともいうべきものだからです。その年の会社の事業年度の始まりから決算期まで様々な取引が発生し、その度に簿記の仕訳という作業が行われますが、仕訳の9割はこの「現金および預金」という科目が絡んでくると言ってもけして過言ではありません。

 

● 売掛金と受取手形

専門的な言葉で言うと金銭債権と呼ばれるものですが、要するに売上に対するツケのようなものです。
まずは売掛金についてですが、通常であれば売上があった場合、商品を相手に引き渡した対価として現金を受け取ります。しかし現代の商取引においては商品を渡すと同時に請求書を送付し、あとで代金を払ってもらうというのが一般的になっていると言えます。「代金を受け取っていないのに売上に計上しても良いのか?」という疑問も出てくるかと思われますが、企業会計のルールでは実現主義の原則が採用されています。実現主義とは、簡単にいえば、「商品を渡した時点で売上は実現しているから帳簿に記録しなさい」というルールです。だから代金を受け取っていなくても、取引があった時点で売上を計上しなければなりません。そして、代金はまだ受け取っていないけど、売上は確かにありましたよということ実を報告する科目が売掛金ということになります。

 

次に受取手形ですが、こちらも売掛金と同じで、売上に対する代金を一定期日後に入金してもらうことを約束した証券です(約束手形という言い方もされています)。売掛金と異なる点は、受取手形は証券であるということです。証券という現物資産として存在しているわけですから、売掛金と違って銀行に持っていけばいつでも換金してもらうことができます。また違う人にこの手形を譲渡することも可能です。これを裏書譲渡と言います。

 

● 商品

ここでは商品という名前を付けてありますが、会社によっては棚卸資産という名称を付けているところもあります。むしろ日商簿記検定等では棚卸資産の方が一般的かもしれません。売り物である商品ですが、これも会社にとっては資産の一つです。ちなみにこの流動資産に表示されている数字は、前述の預金通帳の残高と同じで、決算時において会社に残っている在庫の金額です。要するに売れ残りとも言えるでしょう。したがって、たとえば売上原価の合計に対して在庫がやたら多い場合などは、もしかしたら売れない商品を大量に仕入れたり作ったり、あるいは発注ミスなどで大量に在庫を抱えてしまっているなんてこともあるかもしれません。

 

● 前払費用

前払費用とはその名前の通り前払いした費用です。たとえばある会社が駅前のビルの一室を借りて、そこを営業事務所にしたとしましょう。その場合、ビルの所有者に対して賃借料を支払う必要が出てきます。しかし、たとえばビルの所有者が今年と来年を合わせて2年分の賃借料を支払うように要求してきたらどうなるでしょうか。仮に1年間で100万円の賃借料になるとしましょう。そうすると、2年間で200万円ですから、おそらく会社の経理の人はこんな仕訳を帳簿に記帳することでしょう。

 

・ 借方

賃借料 2,000,000 (損益計算書の経費)

 

・ 貸方

 現金預金 2,000,000 (流動資産)

 

家賃(=賃借料)は会社にとっては経費になります。そして会社のこの家賃を支払うわけですから、流動資産の現金預金から200万円が流出します。おそらくこのような仕訳を記帳するのではないでしょうか。言うなれば、これでは材料を切っただけで料理が出来ていないのと一緒です。財務諸表というのは、正しい数字を記載しなければなりません。正しい数字というのは、一般に公正妥当と認められた会計のルールに従ったものになります。そしてその会計のルールでは、経費(費用)というのは、あくまでのその年に対応する部分だけを計上しなければならないとされています。つまりこの例のように今年の来年合わせて2年分の家賃を要求され、要求通り2年分の家賃を支払ったとしても、2年分の家賃を一気に今年の経費として計上してはいけないということになります。

 

少し難しいですが、会計のルールには「費用収益対応の原則」というものがあります。これは会計のルールの中でも最重要とも言える原則なので、簿記や財務、財務分析等に興味のある方や、事業をやっている方で自ら決算をやってみたい人にとっては絶対に覚えて欲しい内容になります。とはいえ、詳しく説明すると難しい話になるので、今回はこれだけを覚えておけばよいでしょう。

 

「今年の決算に計上するのは今年の売上と、その売上に貢献した費用だけ」

 

今年の売上とは、前述で説明した「実現主義」です。つまり、「今年商品を渡したらそれは今年の売上」ということです。そして費用として計上できるのは、その商品を渡すという所にたどり着くまでに要した費用です。たとえばその商品を作った場合、その製造にかかる電気代、水道代、人件費、材料代は当然経費になります。商品を作った後も在庫管理にかかる費用があります。そしていざその商品を渡すという時にも、輸送料、運送料などがかかります。そして多くの経費を支払い、ようやく商品が誰かの元に届いて初めて売上になるのです。このように、売上が実現するまでに貢献してきた様々な支出が費用として認められるというのが「費用収益対応の原則」です。

 

これを先ほどの事務所の賃借料に当てはめて考えてみます。その事務所は営業活動を行う上で必要ですから、当然ながら売上に貢献することでしょう。しかしながら決算は単年度で行うものであり、財務諸表も2年分を一気に作ることはできません。なので、今年の売上に貢献するのは、あくまでも1年分の賃借料に限られることになります。したがって、今年計上できる賃借料は、あくまでも1年分の100万円に限られるのです。とは言っても、2年分の賃借料を支払っているというのは事実なので、例え費用としては計上できなくても、2年分を支払っているということ実も財務諸表に計上しなければなりません。そこで使われる科目が「前払費用」というものです。費用としては計上できないけど、代わりに資産として計上しようということで、正しい仕訳は以下のようになります。

 

・ 借方

賃借料 2,000,000 (営業費用)

 

・ 貸方

現金預金 2,000,000 (流動資産)

 

・ 借方

前払費用 1,000,000 (流動資産)

 

・ 貸方

賃借料 1,000,000 (営業費用)

 

計上した200万円の賃借料のうち、来年度の賃借料である100万円を消し、代わりに前払費用として流動資産に100万円を計上しました。こうすることによって、家賃を先払いしたということ実も貸借対照表に表示することができます。ちなみになぜこれが資産として計上するのかと言うと、この先払いした家賃は、来年度もその場所を事務所として売上を稼ぐために使うことができる権利を示していますから、これもまた資産として計上することになるわけです。ちなみにこの前払費用は来年の事業年度で消去し、代わりに今年消した賃借料を来年の経費として計上します。

 

以上が流動資産の科目の説明になります。ほかにも繰延税金資産や貸倒引当金等がありますが、これらは内容がとても複雑であるため、省略します。

 

それでは、本題の財務分析についてお話させていただきます。以下は株式会社A社の平成X2年度の流動資産で、形式は前期比較貸借対照表になっています。このA社の流動資産を参考に、財務分析をしていきましょう。

 

株式会社A社 平成Ⅹ2年4月1日~平成Ⅹ3年3月31日(Ⅹ2年度)

単位:円

科目 Ⅹ1年度 Ⅹ2年度
( 資産の部 )
流 動 資 産
現金および預金
受取手形
売掛金
商品
前払費用
繰延税金資産
短期貸付金
未収入金
貸倒引当金


4,500,000   
500,000
4,000,000
200,000
250,000
340,000
200,000
300,000
△282,000


9,00,000
200,000
15,000,000
1,000,000
400,000
280,000
100,000
300,000
△918,000

 

財務分析というのは、財務諸表が何をあらわしているのかを明らかにする決算書です。ここに書かれている数字が一体何を語っているのか、それを汲み取って推測することが大切です。

 

まずは「現金および預金」ですが、どうやら前期より360万円ほど減少しているようです。考えられる原因としては単純に売上が減少したか、あるいは資金回収でトラブルが発生した、急に大量の現金を手放すような事が起きたなどが考えられます。しかしこれだけでは分からないので、他の科目も見てみましょう。次に目立つのは売掛金の金額です。前期は400万円だったのが、今期は1500万円と3倍以上の金額に増えています。なぜ売掛金がこんなにも増えたのでしょうか。まずは去年よりも売り上げが増えたというポジティブな要素が考えられます。しかし、そうであるなら「現金および預金」の金額が去年より大幅に減少しているのが不可解にも感じられます。

 

このほか、決算期の直前に大量に受注があったためにこのような事態になったことも考えられます。この場合だと、およそ2ヵ月程度で売掛金の金額は例年並みになると推測されるでしょう。そして懸念されるネガティブな可能性としては、売掛金の回収に何らかの問題が生じているのではないかということです。問題が生じているというのは、すなわち相手が悪質な取引先であるために代金を払ってくれないか、あるいは経営不振によって破綻状態になったために代金を払えなくなったということ情があるかもしれないということです。いわゆる不良債権という言い方もできるでしょう。このような不良債権を1、2件くらい抱えているという程度であれば良くある話ですが、それでも大口の取引先が破綻状態になったり、景気の影響などで取引先の多くが破綻状態になったりなどの状況になれば、資金を回収できなくなるわけですから連座して経営危機の状態に陥る可能性が高くなります。今回の株式会社A社の例では、売掛金の増加に対して現金および預金の金額が大幅に減少していますので、取引先からの資金回収に何らかの問題が発生している可能性があります。

 

● 売掛金の年齢管理

実は売掛金には年齢があります。「売掛金が歳を取るのか?」と思われるかもしれませんが、当たらずとも遠からずと言った感じでしょう。当然ですがツケは早めに払ってもらった方が良いわけですから、いつまでも貸借対照表の中に居座って年齢を重ねてもらっては困ります。そこで、具体的にどうやって売掛金の年齢を調べるかを見てみましょう。

 

売掛金の年齢は、以下の計算で調べることができます。

 

売掛金÷平均月売上(年間売上÷12)=売掛金の年齢

 

たとえば年間の売上が6000万円だとすると、平均月売上は6000万円÷12ヵ月で500万円になります。これをA社の売掛金の残高である1500万円と照らし合わせてみましょう。

 

1500万円÷500=3ヵ月

 

売掛金の年齢は3ヵ月になりました。この3ヵ月という数字が長いか短いかは業種によって異なります。しかし、たとえば請求書を発行してから翌月の20日、あるいは翌月末までに支払ってもらうことを慣行としている場合、平均してその会社は20日から1ヵ月、遅くとも2ヵ月以内が売掛金の回収に要する平均期間になります。そう考えると、3ヵ月というのは可能性として不良債権が紛れ込んでいるか、あるいは売掛金の管理が正しく行われていない可能性を疑ったほうがいいでしょう。

 

● 在庫回転率

会社は商品を仕入れ、あるいは製造し、これを原価として販売利益を得る事で成り立つ存在です。つまり、仕入れないし販売までの管理が滞りなく行われている事が重要になってきます。この管理ができていない場合、たとえば売上に対して在庫が少ないために収益獲得のチャンスを逃す、あるいは逆に販売の見込みが無い商品を在庫として抱えすぎるなどの問題が発生する可能性もあります。

 

在庫の回転率は、以下の計算で算出します

 

在庫回転率 = 売上原価 ÷ 商品

 

たとえば売上原価の合計が3000万円、商品在庫の合計が100万円の場合、回転率は3000万円÷100万円=30になります。つまりどういう事かと言うと、在庫100万円の売却処分を1回転とすると、この回転が1年間に30回行われたということになるのです。この回転数が多いほど、効率的に在庫を処理できているということになりますが、逆に在庫が足りなくなって売上の機会を逃すリスクもあります。回転数の多い少ないは業種によって異なるので一概には言えませんが、それでも30回というのは比較的多いと考えて差し支えないでしょう。ちなみに過去の経済産業省の商工業実態基本調査によると、製造業で11回、卸売業で19回、小売業で11回がおよその平均値となっています。

 

流動資産については以上の数字を見れば、ある程度の情報を取得することができるでしょう。さらにプラスαの情報を得るとすれば前払費用もついでに見てみましょう。前払費用は経営分析の指標としてはあまり用いられませんし、情報としてもそれほど重要なものが入っている可能性はあまり高くありません。しかし、たとえば会社の業績が好調で支店を増やすためにテナントを借入れ、その費用を前払いした場合、前払費用が大幅に増えるということがあるかもしれません。もしも前期と比較して大幅な増減があった場合には、何か重要な事があったと見るべきです。

 

 

2 固定資産から見る財務分析

流動資産というのはすでに説明した通りですが、原則としてどれも1年以内に流入と流出を繰り返す資産です。

 

2-1 固定資産と流動資産の違い

たとえば受取手形ないし売掛金にしても、1年以上同じ請求書の売上に対するツケや手形が残っているということは基本的にありません。常に既存の手形やツケを現金および預金で回収し、新たな売上と共に新しい手形や売掛金が発生するという具合に入れ替わりが行われています。それに対して固定資産というのは、基本的に1年という短いサイクルの中で古い資産から新しい資産に入れ替わるということはありません。たとえば会社の社屋である建物や営業用の社用車、あるいは会社の土地など、今年に購入したこれらの建物や車が、1年以内に破棄されて新しい建物や車に入れ替わるということは常識的には考えられないので、これらの資産は固定資産に区分されます。

 

 

2-2 固定資産の具体例

固定資産は、有形固定資産と無形固定資産の二つに分類されます。具体的な勘定科目は以下の例の通りですが、有形固定資産は前述の通り、会社の建物や営業車、土地、それ以外にも製造用の機械やパソコンなどの備品なども対象になります。

 

単位:円

科目 Ⅹ1年度
固 定 資 産  
[ 有形固定資産 ]
建物  
建設仮勘定  
機械および装置  
車両運搬具  
工具器具備品  
土地  
[ 無形固定資産 ]
営業権  
特許権  
ソフトウェア


48,000,000
21,500,000  
900,000  
1,500,000  
250,000
57,000,000   

200,000  
1,000,000
400,000

 

無形固定資産というのはその名の通り、形としては存在しない権利またはソフトウェアなどが該当します。

 

 

2-3 固定資産から見る財務分析

固定比率等については後述します。固定資産で見るべき箇所は、建設仮勘定と建物です。建設仮勘定というのは、新たに会社の建物の建設を依頼し、手付金や前金を払った時に計上する勘定科目です。この建設仮勘定が計上されるということは、企業の業績が好調で今後も受注が増える、売上が伸びるという見通しがあるので、新たに工場を建設して生産量を増やす、あるいは営業所を増やすというポジティブなケースが考えられます。既存の社屋の老朽化に伴って新たな社屋を建設するということもありますが、いずれにせよ新しい建築物を購入するだけの余裕があるということの証明になるとも言えるでしょう。

 

 

2-4 前期と当期で固定資産の数字が大幅に減少している場合は注意 

科目 Ⅹ1年度 Ⅹ2年度
固 定 資 産
(有形固定資産)
建物  
土地
・・・・
50,000,000
80,000,000  
20,000,000
40,000,000

 

もしも上記の表のように、前期と当期で固定資産の数字が大幅に減少している場合は注意が必要です。固定資産の数字が大幅に減少した場合に考えられるケースを列挙すると、売却、機械等の故障や建物の火災による取り壊し、そして減損損失の計上などが考えられます。固定資産を売却した場合、一概には言えませんが設備の買い換えや刷新、事業の転換か、あるいは事業そのものを縮小もしくは一部廃業したという可能性があります。あるいは業績悪化などにより資金繰りが厳しくなった事から、やむを得ず資産を売却することもあります。土地は基本的に売却をしない限りは数字が減少することはありませんから、土地の数字が減少している場合は、そのような事情が背景にある可能性も考慮しておくべきでしょう。

 

またこのように固定資産が大幅に減少している場合、減損損失が計上されている可能性があります。資産というのは、たとえば営業車を使用する事によって取引先の会社に向かい、契約を取ってくることによって売上が計上されるように、使用されることによって売上収益の獲得に貢献するものが対象になっています。投資家や銀行などはこの資産の状況を見て、会社がちゃんと売上収益を獲得できるかを判断し、株式を買ったり融資をしたりするわけです。したがって会計のルールとして、投資家や銀行が判断できるように正しい資産の価値を貸借対照表に表示しなければなりません。しかし、社会の変化や環境の変化によって、貸借対照表に計上されている資産の価値が下がることもあります。

 

たとえば、商業の盛んな地域にある土地であれば、そこを拠点に営業活動をすることによって多くの売上げを獲得できるので価値は高くなるでしょう。しかし時代や環境の変化によってその地域が衰退し、そこで商売をする人が減れば、その土地の価値は以前より低くなります。このような場合に、その土地を以前と同じ価値および金額のまま貸借対照表に計上すると、それを見た投資家や銀行が、この会社は以前と同じような収益を上げられると誤解する可能性があります。したがって、そのような誤解を防ぐために、ある程度価値が下がった資産については減額し、同時に損益計算書の方に減損損失を計上しなければならないのです。なので、もしも固定資産の金額が大幅に減少していて、なおかつ損益計算書の方にも減損失が計上されている場合には、その会社の収益力は低下している可能性があるので注意してください。

 

 

3 負債から見る財務分析

負債と言うと多くの人は借金をイメージするのではないでしょうか。多くの会社は銀行から借金をしながら経営していますが、負債は借金だけではありません。

 

 

3-1 負債とは

負債とは、国際会計基準委員会の定義によれば「負債とは過去の事象から発生した特定の企業の債務であり、これを履行するためには経済的便益を有する資源が当該企業から流出すると予想されるもの」とされています。と言われても訳が分からないと思われますが、要するに①「会社が負った債務」であり、②「会社からお金が出ていく予定」だと理解してもらえれば大丈夫です。それではこの事を踏まえたうえで、負債について詳細に見ていきましょう。

 

 

3-2 負債の具体例

単位:円

科目 Ⅹ1年度
(負債の部)
流 動 負 債
支払手形
買掛金
短期借入金
未払費用
未払消費税等
未払法人税等

固 定 負 債
長期借入金


1,200,000
8,000,000
1,000,000
250,000
2,200,000
200,000


4,000,000

 

● 支払手形と買掛金

支払手形と買掛金は、仕入れに対する債務の金額です。流動資産のほうで受取手形と売掛金について説明しましたが、受取手形と売掛金は売上に対して発生し、売上先からお金を貰えることを証明するもので、支払手形と買掛金はその逆に相手にお金を支払うものです。ある会社にとっての売掛金は、売上先の会社にとっては買掛金になります。ある会社にとっての仕入れに対する支払手形は、仕入れ先の会社にとっては売上に対する受取手形になります。このようにお金が入ってくるのか支払うのかという点が異なるだけであって、受取手形と支払手形、買掛金と売掛金は仕組みとしては同じものになります。

 

● 短期借入金と長期借入金

借金と言えばあまり良くない印象がある、あるいは借金のある会社って危ないんじゃないかなという先入観を持つ人も少なくありません。しかし、自己資金だけで経営していくことのほうが実は危険です。流動資産の説明を思い返していただきたいのですが、会社にとって最も重要な科目は現金および預金であり、会社にとってお金とはまさに生命線になります。たとえば先ほど説明した支払手形や買掛金は、支払期日が到来した時に代金を支払う義務があります。あるいは負債とは若干ニュアンスが異なりますが、従業員への給与も債務の一種なので、毎月きちんと払わないと労働基準法に違反することになります。

 

借金もそうですが債務というのは必ず履行しなければ法律違反になりますし、履行できなければどんなに黒字で儲かっていても倒産せざるをえない状況にもなりかねません。支払手形に至っては6ヵ月以内に2回、代金を支払わずに不渡りを起こしてしまえば以後2年間は銀行取引停止処分になりますので事実上の破綻状態になります。だから、いざという時にきちんと債務を履行するためにもお金を調達できる環境というのは会社にとって重要なのです。

 

そのため、自己資金だけで経営をしていたせいで、肝心な時にお金を用意できなかったということが無いように、どの会社も銀行から借金をしているのです。ちなみに借入金には短期借入金と長期借入金があります。両者の違いは、返済終了日が1年以内に到来するか否かという違いだけです。

 

● 未払費用

流動資産のところで前払費用について詳細に説明しましたが、未払費用もそれと同じです。たとえば3月が事業年度末の法人の場合、3月に使った水道代や電気代は4月に支払うことになります。そこで、3月に使用したけれど支払をしていない費用については未払費用という科目を負債に計上し、「次の事業年度にこれを支払います」ということを示しています。

 

● 未払消費税等と未払法人税等

その名の通り、未払いの消費税と法人税の金額です。消費税と法人税の納付期限は決算月から2ヵ月以内になります。たとえば3月が事業年度終了月の法人の場合、消費税と法人税の納付期限は5月末になります。したがって、決算書である貸借対照表の作成日と税金の支払い期限には2ヵ月のタイムラグがあるため、未払の税金があって2ヵ月後に支払う予定であることを負債に表示するのです。

 

 

3-3 負債から見る財務分析

流動資産と負債の説明が終わったので、ここで流動比率と借入金依存度について説明したいと思います。まず流動比率というのは会社の短期的な債務履行能力について、以下の計算式によって算出したものです。

 

流動比率=流動資産÷流動負債×100(%)

 

たとえば流動資産の合計が1億円で流動負債の合計が8000万円の場合、

 

(100,000,000÷80,000,000)×100%=125%になります。

 

流動負債というのは1年以内の短期に支払う債務を示していますので、流動比率が100%を超えていれば債務を履行するだけの十分な資産を有しているということになります。ただし債務の履行は原則として現金および預金で行うので、100%を超えているから安全であるとは断言できないので注意してください。
次に借入金依存度についてです。借入金依存度とは、総資産のうちどれだけ有利子負債(借入金、社債等)があるかという指標で、以下の計算式で算定します。

 

借入金依存度=有利子負債(借入金等)÷総資産×100(%)

 

たとえば総資産が2億円に対し、借入金の合計が2000万円であれば、借入金依存度は10%になります。目安としては50%~60%が許容範囲、70%を超えた場合には要注意となります。今回は借入金だけで計算していますが、社債や手形借入金等があればそれらも対象になります。

 

 

4 純資産から見る財務分析

前述で説明したとおり、純資産とは原則として返済する義務のない資産です。

 

 

4-1 純資産とは

たとえば銀行から借りた現金および預金は、支払期日までに返済をしなければなりません。それに対して純資産というのは株主からの出資によって構成されるので、株主総会により払戻しの決議がない限り、株主から出資された現金および預金は半永久的に株主に返す必要はありません。それゆえに、銀行から借入れた現預金は「他人資本」、そして株主から出資を受けた現預金は「自己資本」と言われています。

 

 

4-2 純資産の具体例

純資産の具体例

単位:円

科目 Ⅹ1年度
( 純資産の部 )
株 主 資 本
 資本金
資本剰余金  
 資本準備金
 その他資本剰余金
利益剰余金  
   利益準備金
その他利益剰余金  
 繰越利益剰余金

自己株式
評価・換算差額等
純資産の部 
合計

20,000,000

4,000,000
1,000,000

1,000,000

4,000,000

△2,200,000
×××
×××

 

純資産の部は上記の表のような構成になっています。先ほどは株主からの出資が純資産だと説明しましたが、これだけ見るとどれが株主の出資なのかと言う以前に、科目が多いためわかりにくいですが、まずは純資産の部では、資本金の額と繰越利益剰余金の金額だけに注目してみましょう。

 

純資産は株主からの出資と、実はもう一つ大事な構成要素があります。それは会社の利益の額です。会社の売上から様々な費用や損失を差し引いて残った最後の利益を当期純利益と言い、この当期純利益の金額の累積が繰越利益剰余金になります。この繰越利益剰余金は株主資本と同じように、銀行や他の債権者に返済する必要が無いため、これもまた自己資本という取り扱いになります。

 

 

4-3 純資産から見る経営分析

流動資産から純資産まで説明を終えたので、ここで固定資産や総資産と比較した財務分析を紹介していきましょう。

 

● 総資産自己資本比率

総資産自己資本比率(総資本自己資本比率とも言う)とは、総資産のうち、銀行などの他人の手がおよばない自己資本の割合がどのくらいあるのかという意味の比率です。要するに最初の方で説明した資産=負債+純資産という構図のなかで、純資産の割合がどの程度あるのかを示しています。総資産自己資本比率は以下の計算式で求めます。

 

総資産自己資本比率=純資産÷総資産×100(%)

 

一般的に50%以上あれば優良と言われていますが、それ以下だから問題があるとも言えません。特に中小企業の場合、資金調達の方法として株主資本ではなく、社長や親族の役員が「役員借入金」という形で会社にお金を入れているケースが非常に多いです。役員借入金は形の上では返済義務のある負債ですが、社長や親族の経営している会社ですから、実質的に返済する義務は無いとも言えるので、性質としては資本金と変わりません。したがって単純に純資産の比率が低いから危険だとは言えない点に注意してください。

 

● 固定比率

固定比率というのは、建物や車などの固定資産を、どれだけ自己資本で購入しているかということを示す比率で、以下の計算式により計算します。

 

固定比率=固定資産÷純資産×100(%)

 

固定比率の目安は100%を超えるか否かで、一般的に固定比率は低いほど良いとされています。固定比率が100%を超えるということは、自己資本の金額を超えた固定資産への投資が行われているということになります。つまり、銀行からの借入金によって建物や車、生産機械が購入されているわけです。その場合、その固定資産に投資した金額よりも多くの金額を売上によって回収し、銀行に返済しなければならないということを意味しているのです。とはいえ、先ほどの説明のとおり、役員借入金の例もありますから、100%を超えているからといって必ずしも危険というわけではありません。

 

 

4-3 純資産が多いから安全というわけではない

「純資産の比率が高いから安心だ」というのは、安全性の分析においてよく言われるフレーズのひとつです。借金が多いよりも自前のお金が沢山ある方が安心であるというイメージになります。確かに間違いではありませんが、それは純資産=現金および預金、つまりお金そのものであるということが前提になります。しかしながら、純資産と現預金は全く別物です。資産=負債+純資産という図式の説明をもう一度思い出してみましょう。現金および預金というのはあくまでも流動資産のたった一科目に過ぎないわけで、純資産をバックグラウンドとした資産科目は他にも沢山あったはずです(直近ですが固定比率の話を思い出してください)。企業の内部留保という言葉でよく言われている繰越利益剰余金ですが、これが沢山あるということは、確かに黒字続きで業績が好調な会社であるということは間違いではありません。しかし繰越利益剰余金=現金および預金ではありませんから、いざ債務を履行する時にお金が手元に無ければ債務不履行を起こして倒産するということもあります。業績が好調で黒字なのに倒産してしまうという奇妙な話ですが、これは「黒字倒産」と言って現実にこのような状況で倒産する会社は決して少なくありません。だからこそ、現金および預金が最も重要な科目であるといえます。

 

今回説明した、決算書の一部である貸借対照表の内容はほとんど表面的なものではありますが、少なくとも経理のプロを目指さない限りはこの説明の内容を覚えておくだけで十分足ります。実際の会社の財務諸表は「EDINET」という金融庁運営のサイトから、有価証券報告書という書類で閲覧することができます。上場企業の財務諸表に限られていますが、有名企業の財務諸表はほぼ全て載っているので、気になる会社があれば是非読んでみてください。

 

 


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